(メタ)アクリル系樹脂からなるアクリル系樹脂フィルムであって、ヘーズ値が1.0%以下であり、前記アクリル系樹脂フィルムの軟化点より20℃高い温度で10分間熱処理したときの算術平均粗さの変化量が5nm以上であるアクリル系樹脂フィルム。
前記(メタ)アクリル系樹脂が、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を含有するアクリル系ブロック共重合体(B)を含有し、
前記アクリル系樹脂フィルムの押出方向に垂直な方向の断面において、前記アクリル酸エステルブロック(b2)が柱状の相を形成している、請求項1〜3のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
前記アクリル系ブロック共重合体(B)において、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端に其々結合する2つのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の質量比が互いに異なる、請求項6に記載のアクリル系樹脂フィルム。
前記アクリル系ブロック共重合体(B)が、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)20〜80質量%およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)80〜20質量%を含有する、請求項4〜7のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
前記(メタ)アクリル系樹脂が、メタクリル酸メチルに由来する構造単位を80質量%以上含有するメタクリル系重合体(A)を含有する、請求項1〜8のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
前記(メタ)アクリル系樹脂が、前記(メタ)アクリル系樹脂60〜99質量%およびアクリル系ブロック共重合体(B)1〜40質量%を含有する、請求項4〜9のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルム。
前記(メタ)アクリル系樹脂は、ブロック共重合体(B)のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw(b1)に対するメタクリル系重合体(A)の重量平均分子量Mw(A)の比Mw(A)/Mw(b1)の値が4〜10である、請求項9または10に記載のアクリル系樹脂フィルム。
請求項1〜12のいずれかに記載のアクリル系樹脂フィルムを、前記(メタ)アクリル系樹脂の軟化点以上の温度で加熱し、加熱前後の算術平均粗さの変化量を5nm以上とする、加飾フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した実施形態の一例について説明する。なお、本明細書で特定する数値は、後述する実施例に記載した方法により測定したときに得られる値を示す。また、本明細書で特定する数値「A〜B」とは、数値Aおよび数値Aより大きい値であって、且つ数値Bおよび数値Bより小さい値を満たす範囲を示す。また、本発明の「フィルム」とは、厚み等に限定されるものではなく、JISに定義される「シート」も含むものとする。
【0012】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂からなるフィルムである。
【0013】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステルの重合体であれば特に限定されない。(メタ)アクリル系樹脂として、例えばメタクリル酸メチルの単独重合体、メタクリル酸エステルに由来する構造単位およびアクリル酸エステルに由来する構造単位からなる共重合体、メタクリル酸メチルに由来する構造単位および環構造を主鎖に有する構造単位を含有する共重合体等が挙げられる。環構造を主鎖に有する構造単位としては、例えばラクトン環単位、無水マレイン酸単位、無水グルタル酸単位、グルタルイミド単位、N−置換マレイミド単位、テトラヒドロピラン環構造単位等が挙げられる。環構造を主鎖に有する構造単位を含有することで、(メタ)アクリル系樹脂の耐熱性が向上する。(メタ)アクリル系樹脂として、アクリル系樹脂フィルムの表面硬度や外観の観点から、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が80質量%以上であるメタクリル系重合体(A)が好ましい。
【0014】
メタクリル系重合体(A)は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位の割合が好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、さらに好ましくは99質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。すなわち、メタクリル系重合体(A)はメタクリル酸メチル以外の単量体に由来する構造単位の割合が20質量%以下であり、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、特に好ましくは0質量%である。メタクリル酸メチルの単量体に由来する構造単位の割合が10%以上であることで、耐熱性に優れたフィルムとなる。
【0015】
メタクリル酸メチル以外の単量体としては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−へキシル、アクリル酸2−エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルニル、アクリル酸イソボルニルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−へキシル、メタクリル酸2−エチルへキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸シクロへキシル、メタクリル酸ノルボルニル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸メチル以外のメタクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸;エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−オクテンなどのオレフィン;ブタジエン、イソプレン、ミルセンなどの共役ジエン;スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリルアミド、メタクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられる。
【0016】
メタクリル系重合体(A)の立体規則性は、特に制限されず、例えば、イソタクチック、ヘテロタクチック、シンジオタクチックなどの立体規則性を有するものを用いてもよい。
【0017】
メタクリル系重合体(A)の製造方法は、特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用することができる。例えば各重合体ブロックを構成する単量体をラジカル重合する方法が一般に使用される。このようなラジカル重合の手法としては、例えば、アゾ化合物を重合開始剤、メルカプタンを連鎖移動剤として使用し重合させる方法等が挙げられる。
【0018】
メタクリル系重合体(A)は、メタクリル酸メチルを90質量%以上含む1種または複数種の単量体を、重合する際の重合度も考慮して、適した条件で重合することによって得られる。
【0019】
メタクリル系重合体(A)は、市販品を用いてもよく、例えば「パラペットH1000B」(MFR:22g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットGF」(MFR:15g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットEH」(MFR:1.3g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRL」(MFR:2.0g/10分(230℃、37.3N))、「パラペットHRS」(MFR:2.4g/10分(230℃、37.3N))および「パラペットG」(MFR:8.0g/10分(230℃、37.3N))[いずれも商品名、クラレ社製]等が挙げられる。
【0020】
本発明のアクリル系樹脂フィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)およびアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を含有するアクリル系ブロック共重合体(B)を含有することが好ましい。
【0021】
ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)とアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の結合状態は特に制限されず、例えば(b1)−(b2)で表現されるジブロック共重合体;(b1)−(b2)−(b1)、(b2)−(b1)−(b2)で表現されるトリブロック共重合体;(b1)−((b2)−(b1))
n、(b1)−((b2)−(b1))
n−(b2)、(b2)−((b1)−(b2))
nで表現されるマルチブロック共重合体;((b1)−(b2))
n−X、((b2)−(b1))
n−X(Xはカップリング残基)で表現されるスターブロック共重合体;等が挙げられる。これらの中でも、フィルムの成形性およびコストの観点から、(b1)−(b2)−(b1)で表現されるトリブロック共重合体が好ましい。この場合、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端に結合する2つのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、構成する単量体の種類、メタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合、重量平均分子量および立体規則性の其々が独立に、同一でも異なっていてもよい。また、本発明の効果を失わない範囲で他の重合体ブロックが含まれていてもよい。
【0022】
ブロック共重合体(B)が(b1)−(b2)−(b1)で表現されるトリブロック共重合体である場合、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端に結合する2つのメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、質量比が実質的に同一であってもよいが、溶融時の流動性を向上させる観点から、質量比が異なることが好ましい。即ち、ブロック共重合体(B)を100質量%としたときに、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の両末端に其々結合するメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の質量比が互いに異なるものとすることが好ましい。
【0023】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の質量比が互いに異なるとき、質量比が小さい方のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1(L))の質量比(n(L))に対する質量比が大きい方のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1(H))の質量比(n(H))の比(n(H)/n(L))は、その下限が好ましくは1.5以上であり、より好ましくは1.8以上であり、その上限は好ましくは4以下であり、より好ましくは3以下である。溶融時の流動性を向上させることで、高品位なフィルムを得ることができる。
【0024】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、メタクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)におけるメタクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であり、全ての構造単位がメタクリル酸エステルに由来する場合も含む。
【0025】
係るメタクリル酸エステルとしては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸アミル、メタクリル酸イソアミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ペンタデシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−メトキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アリルなどを挙げることができる。これらの中でも、透明性、耐熱性を向上させる観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸tert−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸イソボルニルなどのメタクリル酸アルキルエステルが好ましく、メタクリル酸メチルがより好ましい。これらメタクリル酸エステルを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合することによって、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を形成できる。
【0026】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)は、メタクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、透明性および耐熱性の観点から、その割合は好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。
【0027】
係るメタクリル酸エステル以外の単量体としては、例えばアクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等が挙げられ、これらを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて、前述のメタクリル酸エステルと共重合することができる。
【0028】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)のうち最大の重量平均分子量Mw(b1)は、好ましくは5,000〜100,000、より好ましくは10,000〜80,000、さらに好ましくは15,000〜60,000である。ブロック共重合体(B)がメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を1つのみ有する場合は、該メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量がMw(b1)となる。また、ブロック共重合体(B)中にメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)を複数有する場合であって、該複数のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量が互いに同じである場合は、係る重量平均分子量がMw(b1)となる。
【0029】
メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量は、ブロック共重合体(B)を製造する過程において、重合中および重合後にサンプリングを行なって測定した中間生成物および最終生成物(ブロック共重合体(B))の重量平均分子量から算出される値である。各重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0030】
ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の割合は、アクリル系樹脂フィルムの透明性、表面硬度、外観の観点から、ブロック共重合体(B)100質量%に対して、下限が好ましくは40質量%以上であり、より好ましくは43質量%以上であり、さらに好ましくは47質量%以上であり、上限が好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは65質量%以下であり、さらに好ましくは60質量%以下である。
【0031】
ブロック共重合体(B)を構成するアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸エステルに由来する構造単位を主たる構成単位とするものである。アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)におけるアクリル酸エステルに由来する構造単位の割合は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%の構成も含まれる。
【0032】
係るアクリル酸エステルとしては、例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸イソボルニル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリルなどが挙げられる。これらアクリル酸エステルを1種単独でまたは2種以上を組み合わせて重合することで、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を形成できる。なかでも、コスト等の観点からアクリル酸n−ブチル単独で重合したものが好ましい。
【0033】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)は、アクリル酸エステル以外の単量体に由来する構造単位を含んでもよく、その割合は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは10質量%以下であり、全ての構造単位がアクリル酸エステルに由来する単量体である場合も含む。
【0034】
係るアクリル酸エステル以外の単量体としては、例えばメタクリル酸エステル、不飽和カルボン酸、芳香族ビニル化合物、オレフィン、共役ジエン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどが挙げられ、これらのうち1種単独でまたは2種以上併用して、前述のアクリル酸エステルと共重合することができる。
【0035】
アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)のうち最大の重量平均分子量Mw(b2)は、好ましくは5,000〜100,000、より好ましくは10,000〜80,000、さらに好ましくは20,000〜60,000である。Mw(b2)が小さいと、外観が低下する傾向となる。一方、Mw(b2)が大きいと、フィルムの耐熱性が低下する傾向となる。ブロック共重合体(B)中にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を1つのみ有する場合、該アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量がMw(b2)となる。また、ブロック共重合体(B)中にアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を複数有する場合であって、該複数のアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量が互いに同じである場合、係る重量平均分子量がMw(b2)となる。
【0036】
なお、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量は、ブロック共重合体(B)を製造する過程において、重合中および重合後にサンプリングを行なって測定した中間生成物および最終生成物(ブロック共重合体(B))の重量平均分子量から算出される値である。各重量平均分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)で測定した標準ポリスチレン換算値である。
【0037】
ブロック共重合体(B)におけるメタクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の割合は、透明性、表面硬度、外観の観点から、ブロック共重合体(B)100質量%に対して、上限が好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは43質量%以下であり、さらに好ましくは47質量%以下であり、下限が好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは65質量%以上であり、さらに好ましくは60質量%以上である。
【0038】
ブロック共重合体(B)は、必要に応じて、分子鎖中または分子鎖末端に水酸基、カルボキシル基、酸無水物、アミノ基などの官能基を有していてもよい。
【0039】
ブロック共重合体(B)の製造方法は、特に限定されず、公知の手法に準じた方法を採用することができる。例えば、各重合体ブロックを構成する単量体をリビング重合する方法が一般に使用される。このようなリビング重合の手法としては、例えば、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いてアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩などの鉱酸塩の存在下でアニオン重合する方法、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いて有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法、有機希土類金属錯体を重合開始剤として用いて重合する方法、α−ハロゲン化エステル化合物を開始剤として用いて銅化合物の存在下ラジカル重合する方法などが挙げられる。また、多価ラジカル重合開始剤や多価ラジカル連鎖移動剤を用いて、各ブロックを構成するモノマーを重合させ、本発明に用いられるブロック共重合体(B)を含有する混合物として製造する方法なども挙げられる。これらの方法のうち、特に、ブロック共重合体(B)が高純度で得られ、また分子量や組成比の制御が容易であり、且つ経済的であることから、有機アルカリ金属化合物を重合開始剤として用いて有機アルミニウム化合物の存在下でアニオン重合する方法が好ましい。
【0040】
アクリル系樹脂フィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂において、メタクリル系重合体(A)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量%に対して好ましくは60〜90質量%であり、より好ましくは70〜88質量%である。また、ブロック共重合体(B)の含有量は、(メタ)アクリル系樹脂100質量%に対して好ましくは10〜40質量%であり、より好ましくは12〜30質量%である。係る(メタ)アクリル系樹脂におけるブロック共重合体(B)の含有量が40質量%より多いと、フィルムの表面硬度が低下する傾向となる。一方、ブロック共重合体(B)の含有量が10質量%より少ないと、加熱してもフィルム外観の変化が小さくなる傾向となる。
【0041】
アクリル系樹脂フィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂において、ブロック共重合体(B)のメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw(b1)に対するメタクリル系重合体(A)の重量平均分子量Mw(A)の比、すなわちMw(A)/Mw(b1)の値は、好ましくは4〜10、より好ましくは4.5〜9、さらに好ましくは5〜7である。Mw(A)/Mw(b1)の値が4未満の場合、フィルムを加熱した際にゆらめいた外観が発現しにくくなる傾向となる。一方、Mw(A)/Mw(b1)の値が10より大きいと、フィルムの透明性が低下する傾向となる。
【0042】
アクリル系樹脂フィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂に、必要に応じて各種の添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、加工助剤、帯電防止剤、酸化防止剤、着色剤、耐衝撃助剤などを添加してもよい。なお、フィルムの力学物性および表面硬度の観点から、発泡剤、充填剤、艶消し剤、光拡散剤、軟化剤や可塑剤は多量に添加しないことが好ましい。なお、本発明の(メタ)アクリル系樹脂において着色剤を含有させる場合、本発明の課題である透明性が得られない場合があるが、着色成分を含有させない(メタ)アクリル系樹脂において透明性が確保されていれば本願発明の「透明性」の基準を満たしている。
【0043】
加工助剤は、本発明の(メタ)アクリル系樹脂を成形する際、厚さ精度および薄膜化に効果を発揮する化合物である。加工助剤は、通常、乳化重合法によって製造することができる重合体粒子である。係る重合体粒子は、単一組成比および単一極限粘度の重合体からなる単層粒子であってもよいし、また組成比または極限粘度の異なる2種以上の重合体からなる多層粒子であってもよい。この中でも、内層に低い極限粘度を有する重合体層を有し、外層に5dl/g以上の高い極限粘度を有する重合体層を有する2層構造の粒子が好ましいものとして挙げられる。
【0044】
加工助剤は、極限粘度が3〜6dl/gであることが好ましい。極限粘度が小さすぎると成形性の改善効果が低い。極限粘度が大きすぎると(メタ)アクリル系樹脂の溶融流動性の低下を招きやすい。
【0045】
加工助剤の代表的な商品としては、例えばカネエースPAシリーズ(カネカ社製)、メタブレンPシリーズ(三菱レイヨン社製)、パラロイドKシリーズ(ダウ・ケミカル社製)などが挙げられる。
【0046】
紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物であり、主に光エネルギーを熱エネルギーに変換する機能を有すると言われる化合物である。紫外線吸収剤としては、例えばベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、トリアジン類、ベンゾエート類、サリシレート類、シアノアクリレート類、蓚酸アニリド類、マロン酸エステル類、ホルムアミジン類などが挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、紫外線に照射された場合の樹脂劣化の抑制力が高く、樹脂との相溶性が高いことから、ベンゾトリアゾール類、ヒドロキシフェニルトリアジン類が好ましく、ヒドロキシフェニルトリアジン類が特に好ましい。
【0047】
ベンゾトリアゾール類としては、例えば2,2’−メチレンビス[4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−イル)フェノール](アデカ社製;商品名アデカスタブLA−31)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN329)、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール(BASF社製;商品名TINUVIN234)などが挙げられる。
【0048】
ヒドロキシフェニルトリアジン類としては、例えば2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチルオキシフェニル)−6−(2,4−ブチルオキシフェニル)−1,3,5−トリアジン(BASF社製;商品名チヌビン460)、2−{2−ヒドロキシ−4−[3−(2−エチルヘキシル−1−オキシ)−2−ヒドロキシプロピルオキシ]フェニル}−4, 6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(BASF社製;商品名TINUVIN405)、TINUVIN479およびTINVUVIN1477(いずれもBASF社製)などが挙げられる。
【0049】
アクリル系樹脂フィルムを構成する(メタ)アクリル系樹脂を調製する方法は特に制限されないが、該(メタ)アクリル系樹脂を構成する各成分の分散性を高めるため、例えば溶融混練して混合する方法が好ましい。混練操作は、例えば、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合または混練装置を使用して行うことができる。特に、メタクリル系重合体(A)とブロック共重合体(B)の混練性、相溶性を向上させる観点から、二軸押出機を使用することが好ましい。溶融混練する際のせん断速度は10〜1,000/secであることが好ましい。混合・混練時の温度は、使用する(メタ)アクリル樹脂等の溶融温度などに応じて適宜調節するのがよく、通常110〜300℃の範囲内の温度で混合するとよく、好ましくは180〜300℃の範囲内の温度で混合するとよい。
二軸押出機を使用し溶融混練する場合、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下での溶融混練または窒素気流下での溶融混練を行うことが好ましい。このようにして、本発明の(メタ)アクリル系樹脂を、ペレット、粉末などの任意の形態で得ることができる。ペレット、粉末などの形態の(メタ)アクリル系樹脂は、成形材料として使用するのに好適である。
また、ブロック共重合体(B)を、メタクリル系重合体(A)の単量体単位であるアクリル系モノマーとトルエン等の溶媒の混合溶液に溶解し、該アクリル系モノマーを重合することにより、ブロック共重合体(B)を含む、本発明に用いられる(メタ)アクリル系樹脂を調製することもできる。
【0050】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造は、Tダイ法、インフレーション法、溶融流延法、カレンダー法等の公知の方法を用いて行うことができる。良好な表面平滑性、低ヘーズのアクリル系樹脂フィルムが得られるという観点から、上記溶融混練物をTダイから溶融状態で押し出し、その両面を鏡面ロール表面または鏡面ベルト表面に接触させて成形する工程を含む方法が好ましい。この際に用いるロールまたはベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。このように押し出された溶融混練物の両面を鏡面に接触させて製膜する場合には、アクリル系樹脂フィルムを鏡面ロール若しくは鏡面ベルトで挟み、加圧することが好ましい。鏡面ロール若しくは鏡面ベルトによる挟み込み圧力は高い方が好ましく、線圧として10N/mm以上であることが好ましく、30N/mm以上であることがさらに好ましい。
【0051】
アクリル系樹脂フィルムをTダイ法により製造する場合、単軸あるいは二軸押出スクリューのついたエクストルーダ型溶融押出装置等が使用できる。溶融押出温度は好ましくは200℃以上であり、より好ましくは220℃以上である。また、300℃以下とすることが好ましく、270℃以下とすることがより好ましい。また、着色抑制の観点から、ベントを使用し、減圧下での溶融押出し、あるいは窒素気流下での溶融押出しを行うことが好ましい。
【0052】
また、良好な表面平滑性、良好な表面光沢、低ヘーズのアクリル系樹脂フィルムが得られるという観点から、アクリル系樹脂フィルムを挟み込む鏡面ロール若しくは鏡面ベルトの表面温度は60℃以上とすることが好ましく、70℃以上とすることがより好ましい。また、130℃以下とすることが好ましく、100℃以下とすることがより好ましい。アクリル系樹脂フィルムを挟み込む鏡面ロール若しくは鏡面ベルトの表面温度が60℃未満であると得られるアクリル系樹脂フィルムの表面平滑性が低下し、ヘーズが増大する傾向となる。一方、表面温度が130℃を超えるとアクリル系樹脂フィルムと鏡面ロール若しくは鏡面ベルトとが密着しすぎるため、鏡面ロール若しくは鏡面ベルトからフィルムを引き剥がす際にアクリル系樹脂フィルム表面が荒れやすくなり、横皺が入るなどしてアクリル系樹脂フィルムの外観が損なわれる傾向がある。
【0053】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、一定条件の温度および時間で加熱することにより、寸法変化やフィルム全体の乱れなどが小さいまま、算術平均粗さで示される表面性が変化し、ゆらめいた外観を発現できる。さらに、加熱の温度および/または時間を変化させることで、前記ゆらめいた風合いが発現する程度を所望の量に調節できる。
【0054】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、少なくとも一方の面の算術平均粗さが100nm以下であり、好ましくは50nm以下であり、より好ましくは1〜10nmである。アクリル系樹脂フィルムの表面の算術平均粗さが係る範囲にあることで、透明なフィルムからゆらめきの大きいフィルムまで、加熱後にユーザーが選択できるフィルムのゆらめきの程度の幅が広がるため好ましい。
【0055】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂の軟化点より20℃高い温度で10分間加熱した際の加熱前後の算術平均粗さの変化量が5nm以上であり、好ましくは10nm以上であり、より好ましくは15以上である。すなわち、加熱前のアクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さをRa
1(nm)、アクリル系樹脂フィルムの軟化点より20℃高い温度で10分間加熱した後のアクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さをRa
2(nm)とすると、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、下記式で表されるRa
2とRa
1の差ΔRa(nm)の値が5nm以上であり、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上である。
ΔRa=Ra
2−Ra
1
係る変化量ΔRaが5nm以上であることで、透明なフィルムからゆらめきの大きいフィルムまで、加熱後にユーザーが選択できるフィルムのゆらめきの程度の幅が広がり、またゆらめいた外観を十分に発現できるフィルムが得られるため好ましい。また、アクリル系樹脂フィルムの透明性および寸法を維持する観点から、係る変化量ΔRaは好ましくは100nm以下であり、より好ましくは60nm以下である。なお、アクリル系樹脂フィルムが複数の(メタ)アクリル系樹脂からなる場合、使用される複数の(メタ)アクリル系樹脂の中で最も高い軟化点を有する(メタ)アクリル系樹脂の軟化点を採用し、該軟化点より20℃高い温度で10分間加熱した際の加熱前後の算術平均粗さの変化量を測定する。
【0056】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、押出方向に垂直な方向(TD方向)の断面において、ブロック共重合体(B)のアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)が柱状の相を形成していることが好ましい。押出方向に垂直な方向(TD方向)の断面とは、法線が押出方向と平行である断面を意味する。また、柱状の相は、短径に対する長径の比が好ましくは3以上であり、より好ましくは3〜50であり、さらに好ましくは4〜20であり、よりさらに好ましくは5〜10である。係る柱状の相を有することで、本発明のアクリル系樹脂フィルムは、加熱されるとゆらめいた外観を示す。尚、係る柱状の相は、フィルムの断面をリンタングステン酸で染色し、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することで確認できる。
【0057】
本発明のアクリル系樹脂フィルムのヘーズは、加熱前、加熱後ともに好ましくは0.5%以下であり、より好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。これにより、意匠性を要求される用途に用いられる場合には、表面光沢や本発明のフィルムに印刷された絵柄層の鮮明さに優れる。また、液晶保護フィルムや導光フィルムなどの光学用途においては、光源の利用効率が高まるため好ましい。さらに、表面賦形を行う際の賦形精度に優れるため好ましい。なお、係るヘーズはJIS K7135に準拠してヘーズメーターで測定した値である。
【0058】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、100℃で30分間加熱した際の加熱収縮率が好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.2%以下である。これにより、外観を変化させるために加熱された場合でも係るアクリル系樹脂フィルムの寸法変化が小さくなり、また例えば約100℃の高温で使用される場合でも該アクリル系樹脂フィルムおよびそれを有する積層体の反りや皺などを低減できる。なお、係る加熱収縮率は絶対値で評価する。
【0059】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの厚さは、上限が好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下であり、下限が好ましくは40μm以上であり、より好ましくは50μm以上である。500μmより厚くなると、ラミネート性、ハンドリング性、切断性・打抜き性などの二次加工性が低下し、アクリル系樹脂フィルムとしての使用が困難になるとともに、単位面積あたりの単価も増大し、経済的に不利であるため好ましくない。
【0060】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、延伸処理が施されたものであってもよい。延伸処理によって、機械的強度が高まり、ひび割れし難いフィルムを得ることができる。延伸方法は特に限定されず、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、チュブラー延伸法、圧延法などが挙げられる。延伸時の温度は、均一に延伸でき、高い強度のアクリル系樹脂フィルムが得られるという観点から、下限が(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度より5℃高い温度であり、上限が(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度より40℃高い温度である。延伸温度が低すぎると延伸中に成形体が破断しやすくなる。延伸温度が高すぎると延伸処理の効果が十分に発揮されず成形品の強度が高くなりにくい。延伸は、通常、100〜5,000%/分で行われる。延伸速度が小さいと強度が高くなりにくく、また生産性も低下する。また延伸速度が大きいと成形体が破断したりして均一な延伸が困難になることがある。延伸の後、熱固定を行うことが好ましい。熱固定によって、熱収縮の少ないフィルムを得ることができる。延伸して得られるフィルムの厚さは、10〜200μmであることが好ましい。
【0061】
アクリル系樹脂フィルムは着色されていてもよい。着色法としては、(メタ)アクリル系樹脂に着色剤を含有させる方法;アクリル系樹脂フィルムを染料が分散した液中に浸漬する方法等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0062】
アクリル系樹脂フィルムは、少なくとも一方の面に、印刷が施されていてもよい。印刷によって絵柄、文字、図形などの模様、色彩が付与される。模様は有彩色のものであっても、無彩色のものであってもよい。
【0063】
アクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面の表面は、JIS K 6253のJIS−A法で測定される鉛筆硬度でBまたはそれよりも硬いことが好ましく、HBまたはそれよりも硬いことがより好ましい。表面が硬いアクリル系樹脂フィルムは傷つき難いので、意匠性の要求される成形品の表面の加飾兼保護フィルムとして好適に用いられる。
【0064】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの外観を変化させ、ゆらめいた外観を発現させるためには、該アクリル系樹脂フィルムを加熱すればよい。加熱する際の温度は前記アクリル系樹脂フィルムの軟化点以上であれば良いが、フィルム全体が大きく変形しないよう、前記軟化点+40℃以下、より好ましくは軟化点+30℃以下、更に好ましくは軟化点+20℃以下で、且つΔRaが5nm以上となる温度が好ましい。
また、加熱する時間は、アクリル系樹脂フィルムの外観を十分に変化させ、且つフィルム全体の乱れが生じない時間であれば特に限定されず、10分間より長い時間加熱しても良いが、成形サイクルを短くできるという観点から、好ましくは30分間以内、より好ましくは15分間以内、更に好ましくは10分間以内で、ΔRaが5nm以上となる時間が好ましい。加熱する時間が30分間より長いとアクリル系樹脂フィルムが波打ったり、ヘーズが増大する傾向となる。
また、加熱する方法は特に限定されず、例えば真空成型、熱プレス成型、TOM成形等、いずれの方法で行ってもよい。これらの方法で外観を変化させることで、アクリル系樹脂フィルムを加飾フィルムとすることができる。
【0065】
本発明の積層フィルムは、前述の本発明のアクリル系樹脂フィルムの少なくとも一方の面に、無機層、熱可塑性樹脂層および基材層のうち少なくとも1層が積層されたフィルムである。他の層を積層する方法は特に限定されず、直接または接着層を介して接合することができる。基材層としては、例えば、木製基材、ケナフなどの非木質繊維等を用いてもよい。これらの層は、1層または複数層積層することができる。
【0066】
本発明の積層フィルムの厚さは、用途により変動し得るもので限定されないが、二次加工性の観点からは500μm以下であることが好ましい。
【0067】
前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0068】
熱可塑性樹脂層を積層する方法は、特に制限されない。例えば、(1)アクリル系樹脂フィルムと、他の熱可塑性樹脂フィルムとを別々に用意しておき、加熱ロール間で連続的にラミネートする方法、プレスで熱圧着する方法、圧空または真空成形すると同時に積層する方法、接着層を介在させてラミネートする方法(ウェットラミネーション);(2)アクリル系樹脂フィルムを基材にして、Tダイから溶融押出した他の熱可塑性樹脂をラミネートする方法;(3)(メタ)アクリル系樹脂と、前記熱可塑性樹脂とを共押出する方法などが挙げられる。これらの方法のうち、(1)または(2)の方法では、ラミネート前に、アクリル系樹脂フィルムまたは熱可塑性樹脂フィルムの貼り合せ面側にコロナ処理などの表面処理を施してもよい。
【0069】
無機層は、金属および/または金属酸化物よりなる層である。無機層を設ける場合、金属としては、例えばアルミニウム、珪素、マグネシウム、パラジウム、亜鉛、錫、ニッケル、銀、銅、金、インジウム、ステンレス鋼、クロム、チタンなどを使用することができ、また金属酸化物としては、例えば酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化インジウム、酸化カルシウム、酸化カドミウム、酸化銀、酸化金、酸化クロム、珪素酸化物、酸化コバルト、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化白金、酸化パラジウム、酸化ビスマス、酸化マグネシウム、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化バリウムなどを使用することができる。これらの金属および金属酸化物は、其々単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。これらの中で、インジウムは、優れた意匠性を有し、本発明のアクリル系樹脂フィルムに蒸着などで金属層を設け、他の層を積層したフィルムを深絞り成形する際にも光沢が失われにくいことから好ましい。また、アルミニウムは、優れた意匠性を有し、且つ工業的にも安価に入手できるので、特に深い絞りを必要としない場合には特に好ましい。これらの金属および/または金属酸化物の層を設ける方法としては真空蒸着法が通常用いられるが、イオンプレーティング、スパッタリング、CVD(ChemicalVapor Deposition:化学気相堆積)などの方法を用いてもよい。金属および/または金属酸化物からなる蒸着膜の厚さは、一般的には5〜100nm程度である。層形成後に深絞り成形を行う場合には、5〜250nmが好ましい。
【0070】
本発明の積層フィルムでは、本発明のアクリル系樹脂フィルムを内層またはその一部に用いてもよいし、最外層に用いてもよい。フィルムの積層数に関しては特に制限はない。積層に用いられる他の樹脂は、フィルムの意匠性の観点から、メタクリル系樹脂などの透明な樹脂が好ましい。フィルムに傷がつきにくく、意匠性が長く持続するという観点から、最外層は、表面硬度および耐候性が高いものが好ましく、例えば(メタ)アクリル系樹脂からなるフィルムが好ましい。
【0071】
本発明の積層体は、本発明のアクリル系樹脂フィルムまたは積層フィルムが、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、木質基材または非木質繊維基材等の被着体の表面に設けられてなるものである。
【0072】
該積層体に用いられる他の熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、他の(メタ)アクリル系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合(ABS)樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。他の熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。また、本発明の成形体は、本発明のフィルムまたは積層フィルムが、木製基材やケナフなどの非木質繊維からなる基材の表面に設けられてなるものであってもよい。
【0073】
本発明の積層体の製法は、特に制限されない。例えば本発明のアクリル系樹脂フィルムまたは積層フィルムを、他の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、木製基材または非木質繊維基材の表面に、加熱下で真空成形・圧空成形・圧縮成形することにより、本発明の成形体を得ることができる。本発明の成形体は、本発明のアクリル系(メタ)アクリル系樹脂からなるアクリル系樹脂フィルムまたは積層フィルムが、被着体の最表層に設けられており、それによって、表面平滑性、表面硬度、表面光沢などに優れる。またさらに本発明のフィルムに印刷が施された場合には絵柄等が鮮明に表示される。また、金属層が積層された本発明のフィルムにおいては、金属のような鏡面光沢性が得られる。
【0074】
本発明の積層体の製造方法のうち、好ましい方法は、射出成形同時貼合法と一般に呼ばれている方法である。この射出成形同時貼合法は、本発明の(メタ)アクリル系樹脂からなるアクリル系樹脂フィルムまたは積層フィルムを射出成形用雌雄金型間に挿入し、その金型に該フィルムの片方の面から溶融した熱可塑性樹脂を射出して、被着体を形成すると同時に、その被着体に前記フィルムを貼り合わせる方法である。
【0075】
金型に挿入されるフィルムは、平らなものであってもよいし、真空成形、圧空成形等で予備成形して凹凸形状に賦形されたものであってもよい。
フィルムの予備成形は、別個の成形機で行ってもよいし、射出成形同時貼合法に用いる射出成形機の金型内で予備成形を行ってもよい。後者の方法、即ち、フィルムを予備成形した後その片面に溶融樹脂を射出する方法は、インサート成形法と呼ばれる。
本発明の積層フィルムを用いる場合には、熱可塑性樹脂層が射出成形される樹脂に面するように配置することが好ましい。このようにして、最表層に本発明のアクリル系樹脂フィルムが設けられた成形体を得ることができる。
【0076】
本発明のフィルムは、加熱時の温度および/または時間を制御することで算術平均粗さおよびゆらめいた外観の程度を変化させることができる。さらに、透明性、表面硬度、表面平滑性などに優れ、加熱したときの収縮および白化が小さく、また耐衝撃性に優れる。従って、本発明のフィルムを用いて形成した成形体および物品はゆらめいた外観を有していることに加え、透明性、表面硬度、表面平滑性、耐衝撃性に優れる。本発明によれば、この優れた特徴を活かして、繊細な意匠性が要求される製品や加飾用途、建材用途、光学用途等に好適に用いることができる。
【0077】
本発明のアクリル系樹脂フィルム、積層フィルムまたは成形体は、良好な外観、透明性、取扱い性および表面平滑性並びに高い表面硬度を活かして、意匠性の要求される成形品や高度な光学特性が要求される成形品、即ち、広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、屋上看板等の看板部品;ショーケース、仕切板、店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、シャンデリア等の照明部品;家具、ペンダント、ミラー等のインテリア部品;ドア、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、レジャー用建築物の屋根等の建築用部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、バンパーなどの自動車外装部材等の輸送機関係部品;音響映像用銘板、ステレオカバー、テレビ保護マスク、自動販売機、携帯電話、パソコン等の電子機器部品;保育器、レントゲン部品等の医療機器部品;機械カバー、計器カバー、実験装置、定規、文字盤、観察窓等の機器関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、防音壁等の交通関係部品;その他、温室、大型水槽、箱水槽、浴室部材、時計パネル、バスタブ、サニタリー、デスクマット、遊技部品、玩具、楽器、熔接時の顔面保護用マスク等の表面の加飾フィルム兼保護フィルム、壁紙;マーキングフィルム;偏光子保護フィルム、それを用いた偏光板、およびその偏光板を少なくとも1枚含む液晶表示装置、有機EL表示装置、PDP等の画像表示装置などに用いられる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限されるものではない。また、本発明は、以上までに述べた、特性値、形態、製法、用途などの技術的特徴を表す事項を、任意に組み合わせて成るすべての態様を包含している。なお、実施例および比較例における物性値の測定等は以下の方法によって実施した。
【0079】
[各構成単位の割合]
(メタ)アクリル系樹脂およびブロック共重合体の各構成単位の割合は、各モノマーの仕込み量より算出した。
【0080】
[軟化点]
アクリル系樹脂フィルムを幅5mm×長さ30mmに切り出し、レオスペクトラー(レオロジー社製;DVE RHEOSPECTOLER DVE−V4)を用いて貯蔵弾性率の時間依存性を測定し、低温側でのベースラインと、変曲点での接線との交点を該アクリル系樹脂フィルムの軟化点とした。測定に際し、測定モードは引張り、波形は正弦波、周波数1.0Hz、測定温度範囲は30〜200℃、昇温速度は3℃/minとした。
【0081】
[算術平均粗さRa
1]
アクリル系樹脂フィルムを50mm×50mmに切り出して試験片とし、微細形状測定機(小坂研究所社製;サーフコーダ ET 4000A)を用いて表面の形状を測定した。検出器の仕様は、Z方向測定範囲が100μm以下、Z方向分解能が0.1nm、測定力が0.5μN、触針が先端半径 0.5μmのダイヤモンド製である。
試料の評価長さは1mmとし、カットオフ値は0.25mm、送り速さは0.1mm/sとした。得られた測定データを、装置に付属のデータ処理ソフトウェアにより解析し、算術平均粗さRa
1を求めた。
【0082】
算術平均粗さRaは、基準面から指定面までの偏差の絶対値を平均した値であり、以下の式により定義される。
【0083】
【数1】
ここでF(X,Y)は(X,Y)座標での高さの値を表す。Z
0は以下で定義されるZデータの平均値を表す。
【0084】
【数2】
また、S
0は、測定領域の面積を表す。
【0085】
係る算術平均粗さRaを試験片の両面(便宜上、A面およびB面とする)において異なる10箇所の領域で測定し、A面およびB面の各10箇所の算術平均粗さRaの平均値のうち、小さい方の値をアクリル系樹脂フィルムの算術平均粗さRa
1とした。
【0086】
[TD断面のモルフォロジーおよび長径/短径比]
アクリル系樹脂フィルムについて、ウルトラミクロトーム(日本電子社製;Leica EM UC7rt)を用いて、押出方向に垂直な方向(TD方向)の断面切片を厚さ50nmで作成した。10%リンタングステン酸水溶液により、作成した断面切片を染色し、ショットキー電界放出形走査電子顕微鏡(STEM)(日本電子社製;本体:JSM−7600F、検出器:SM−74240RTED)を用いて染色部の形状(モルフォロジー)を観察した。係るリンタングステン酸水溶液により、断面切片中のアクリル酸エステル部分が染色されると思われる。さらに、係る染色部30個について長径、短径を測定し、短径の平均値に対する長径の平均値の比を長径/短径比とした。観察された短径はいずれも10〜100nmであった。
【0087】
[加熱後のフィルムの算術平均粗さRa
2および加熱前後のフィルムの算術平均粗さの変化量ΔRa]
算術平均粗さRa
1を測定した試験片を、軟化点より20℃高い温度のオーブンの中に、各実験例に記載した時間放置した。試験片をオーブンから取り出し、Ra
1を測定した面と同じ面の算術平均粗さを、Ra
1と同じ方法で測定し、Ra
2とした。また、Ra
2とRa
1の差を算定し、ΔRaとした。
【0088】
[加熱前後のフィルムの表面形状]
加熱前のフィルムおよび上記Ra
2の測定で作成した加熱後のフィルムの表面形状を、倍率216〜1728Xの対物レンズ(MPLFLN10X)を備えたレーザー顕微鏡(OLYMPUS社製;OLS4100)で観察し、以下の通り評価した。
線状凹凸:線状の凹凸が見られた。
点状凹凸:点状の凹凸が見られた。
平滑:凹凸は見られなかった。
【0089】
[加熱前後のフィルムの外観]
加熱前のフィルムおよび上記Ra
2の測定で作成した加熱後のフィルムの外観を肉眼で観察し、以下の通り評価した。
ゆらめき大:透明であり、ゆらめいた風合いが多く見られる。
ゆらめき中:透明であり、ゆらめいた風合いが見られる。
ゆらめき小:透明であり、ゆらめいた風合いが僅かに見られる。
白濁:白濁しており、ゆらめいた風合いは見られない。
透明:透明であり、ゆらめいた風合いは見られない。
【0090】
[加熱前後のフィルムのヘーズ]
アクリル系樹脂フィルムを50mm×50mmに切り出して試験片とし、JIS−K7136に準拠して、23℃にてヘーズを測定した。また、上記Ra
2の測定で作成した加熱後のフィルムについて、同じ方法でヘーズを測定した。
【0091】
[加熱収縮率]
アクリル系樹脂フィルムを12cm×12cmに切り出して試験片とし、該試験片の中心に、フィルム製造時の押出方向(MD方向)に平行な長さ10cmの直線をペンで記入した後、該試験片を100℃のオーブンで30分間加熱した。加熱後の直線の長さL(cm)を測定し、L/(10−L)×100を計算した。3枚の試験片について同じ操作を行い、その平均値を加熱収縮率(%)とした。
【0092】
以下に示す合成例においては、化合物は常法により乾燥精製し、窒素にて脱気したものを使用した。また、化合物の移送および供給は窒素雰囲気下で行なった。
【0093】
合成例1 [メタクリル系重合体(A−1)の合成]
メタクリル酸メチル100質量部からなる単量体に重合開始剤(2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオニトリル)、水素引抜能:1%、1時間半減期温度:83℃)0.1質量部および連鎖移動剤(n−オクチルメルカプタン)0.21質量部を加え溶解させて原料液を得た。
イオン交換水100質量部、硫酸ナトリウム0.03質量部および懸濁分散剤0.45質量部を混ぜ合わせて混合液を得た。耐圧重合槽に、前記混合液420質量部と前記原料液210質量部を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら、温度を70℃にして重合反応を開始させた。重合反応開始後、3時間経過時に、温度を90℃に上げ、撹拌を引き続き1時間行って、ビーズ状重合体が分散した液を得た。
得られた重合体分散液を適量のイオン交換水で洗浄し、バケット式遠心分離機により、ビーズ共重合体を取り出し、80℃の熱風乾燥機で12時間乾燥し、ビーズ状のメタクリル系重合体(A)(以下「メタクリル系重合体(A−1)」と称する)を得た。得られたメタクリル系重合体(A−1)の重量平均分子量Mw(A)は110,000だった。
【0094】
合成例2 [メタクリル系重合体(A−2)の合成]
合成例1において、単量体をメタクリル酸メチル100質量部からメタクリル酸メチル99.3質量部およびアクリル酸メチル0.7質量部に変更し、連鎖移動剤の量を0.21質量部から0.16質量部に変更した以外は合成例1と同様にして、重量平均分子量Mw(A)が130,000であるメタクリル系重合体(A−2)を製造した。
【0095】
合成例3 [メタクリル系重合体(A−3)の合成]
合成例2において、連鎖移動剤の量を0.16質量部から0.24質量部に変更した以外は合成例2と同様にして、重量平均分子量Mw(A)が80,000であるメタクリル系重合体(A−3)を製造した。
【0096】
合成例4 [ブロック共重合体(B−1)の合成]
トルエン溶液中、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、イソブチルビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノキシ)アルミニウムの触媒下で、sec−ブチルリチウムを重合開始剤として重合した。15質量部のメタクリル酸メチルを滴下してメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1−1)を重合した後、50質量部のアクリル酸n−ブチルを滴下してアクリル酸エステル重合体ブロック(b2)を重合、さらに35質量部のメタクリル酸メチルを滴下してメタクリル酸エステル重合体ブロック(b1−2)を重合し、最後にメタノールで停止して、ブロック共重合体(B−1)を得た。得られたブロック共重合体は、(b1−1)−(b2)−(b1−2)のトリブロック構造をしており、(b1−1)−(b2)−(b1−2)の組成比は、15質量%−50質量%−35質量%である。すなわち、n(L)は15質量%、n(H)は35質量%であった。得られたブロック共重合体(B−1)において、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw(b1)は20,000、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量Mw(b2)は30,000であった。
【0097】
合成例5 [ブロック共重合体(B−2)の合成]
合成例4と同様の溶媒、触媒条件下、重合開始剤を調整することで分子量を調整し、重合性単量体の量を調整し、メタクリル酸メチルからなる(b1)−アクリル酸n−ブチル/アクリル酸ベンジル=50/50(質量比)からなる(b2)の構造を有するジブロック共重合体(B−3)を得た。(b1)−(b2)の組成比は、50質量%−50質量%であった。得られたブロック共重合体(B−2)において、メタクリル酸エステル重合体ブロック(b1)の重量平均分子量Mw(b1)は45,000、アクリル酸エステル重合体ブロック(b2)の重量平均分子量Mw(b2)は45,000であった。
【0098】
合成例6 [コア−シェルゴム]
(1)撹拌機、温度計、窒素ガス導入管、単量体導入管および還流冷却器を備えた反応器内に、イオン交換水1,050質量部、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム0.3質量部および炭酸ナトリウム0.7質量部を仕込み、反応器内を窒素ガスで十分に置換した。次いで内温を80℃にした。そこに、過硫酸カリウム0.25質量部を投入し、5分間撹拌した。これにメタクリル酸メチル95.4質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびメタクリル酸アリル0.2質量%からなる単量体混合物245質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
(2)次いで、同反応器内に、過硫酸カリウム0.32質量部を投入して5分間撹拌した。その後、アクリル酸ブチル80.5質量%、スチレン17.5質量%およびメタクリル酸アリル2質量%からなる単量体混合物315質量部を60分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに30分間重合反応を行った。
(3)次に、同反応器内に、過硫酸カリウム0.14質量部を投入して5分間撹拌した。その後、メタクリル酸メチル95.2質量%、アクリル酸メチル4.4質量%およびn−オクチルメルカプタン0.4質量%からなる単量体混合物140質量部を30分間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに60分間重合反応を行った。得られたコア−シェルゴム(B−3)を含むラテックスを凍結して凝固させ、次いで水洗・乾燥してコア−シェルゴム(B−3)を得た。
【0099】
(実施例1)
メタクリル系重合体(A−1)85質量部およびブロック共重合体(B−1)15質量部を、二軸押出機を用いて、250℃で溶融混練し、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットすることで、(メタ)アクリル系樹脂のペレットを製造した。
得られた(メタ)アクリル系樹脂を65mmΦベント式単軸押出機で溶融し、幅900mmのダイより押出温度250℃にて吐出量40kg/hで押出し、表面温度80℃の金属弾性ロールと表面温度80℃の金属剛体ロール間で挟持し、10m/分の速度で引き取り、厚さ75μmで透明なフィルムを製造した。係るフィルムの軟化点は110℃であった。また、
図1に示す通り、係るフィルムのTD方向の断面における染色部のモルフォロジーは柱状であった。得られたアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0100】
得られたアクリル系樹脂フィルムを、130℃に設定したオーブンにより10分間加熱し、オーブンから取り出した。得られた加熱後のフィルムは透明で、ゆらめいた風合いを有していた。また、
図5に示す通り、係る加熱後のフィルムの表面は線状の凹凸を有していた。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0101】
また、得られた加熱前のアクリル系樹脂フィルムを、真空圧空成形機を用いて、加熱温度160℃で、ABS樹脂からなる被着体に貼り合わせて成形体を得た。係る成形体に貼合されたアクリル系樹脂フィルムは線状の凹凸を有しており、該成形体表面はゆらめいた外観を有していた。
【0102】
(参考例1)
実施例1で得られたアクリル系樹脂フィルムを、130℃に設定したオーブンにより3分間加熱し、オーブンから取り出した。得られた加熱後のフィルムは透明で、ゆらめいた風合いを僅かに有していた。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0103】
(参考例2)
実施例1で得られたアクリル系樹脂フィルムを、130℃に設定したオーブンにより20分間加熱し、オーブンから取り出した。得られた加熱後のフィルムは透明で、ゆらめいた風合いを多く有していた。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
(実施例2)
実施例1において、メタクリル系重合体(A−1)をメタクリル系重合体(A−2)に変更した以外は実施例1と同じ方法でフィルムを得た。係るフィルムの軟化点は100℃であった。また、
図2に示す通り、係るフィルムのTD方向の断面における染色部のモルフォロジーは柱状であった。得られたアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0105】
得られたアクリル系樹脂フィルムを、実施例1においてオーブンの温度を130℃から120℃に変更した以外は実施例1と同じ方法で加熱した。得られた加熱後のフィルムは透明で、ゆらめいた風合いを多く有していた。また、
図6に示す通り、係る加熱後のフィルムの表面は線状の凹凸を多数有していた。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0106】
(比較例1)
実施例1において、ブロック共重合体(B−1)をブロック共重合体(B−2)に変更した以外は実施例1と同じ方法でフィルムを得た。係るフィルムの軟化点は110℃であった。また、
図3に示す通り、係るフィルムのTD方向の断面における染色部のモルフォロジーは球状であった。得られたアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
得られたアクリル系樹脂フィルムを、実施例1と同じ方法で加熱した。得られた加熱後のフィルムは透明であったが、ゆらめいた風合いは見られなかった。また、
図7に示す通り、係る加熱後のフィルムの表面は平滑であった。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0108】
(比較例2)
メタクリル系重合体(A−3)80質量部およびコア−シェルゴム20質量部を、二軸押出機を用いて、250℃で溶融混練し、ストランド状に押出し、ペレタイザーでカットすることで、(メタ)アクリル系樹脂のペレットを製造した。
得られた(メタ)アクリル系樹脂のペレットを使用した以外は実施例1と同じ方法でフィルムを得た。係るフィルムの軟化点は110℃であった。また、
図4に示す通り、係るフィルムのTD方向の断面における染色部のモルフォロジーは球状であった。得られたアクリル系樹脂フィルムの評価結果を表1に示す。
【0109】
得られたアクリル系樹脂フィルムを、実施例1と同じ方法で加熱した。得られた加熱後のフィルムは白濁しており、ゆらめいた風合いは見られなかった。また、
図8に示す通り、係る加熱後のフィルムの表面は平滑であった。係る加熱後のフィルムの評価結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
表1から明らかなように、実施例1および2のアクリル系樹脂フィルムは、加熱前は透明な外観且つ平滑な表面形状を有するが、加熱することで表面粗さおよび表面形状が変化し、透明ながらゆらめいた風合いを発現した。一方、比較例1および2のアクリル系樹脂フィルムはΔRaが小さく、また線状の凹凸が発現せず比較例1では加熱によって風合いは変化せず、比較例2では白濁した。いずれの比較例でもゆらめいた風合いは発現しなかった。
また、実施例1並びに参考例1および2より、加熱の程度を変化させることで表面粗さおよびゆらめいた風合いの程度を制御することができ、違った表面外観を表現できることがわかる。