【解決手段】このIII族窒化物結晶の製造方法は、ベース基板と、該ベース基板の第1主面上に配されたIII族窒化物からなる複数のポイントシードと、第1主面上であって該ポイントシードの間に配される複数の空隙と、ベース基板の第2主面に配され、かつ平面視において複数の空隙と重複しない位置に配された複数の溝と、を有する種結晶基板を準備する(i)工程と、窒素を含む雰囲気下において、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素とアルカリ金属とを含む融液にポイントシードを接触させることによって、III族窒化物結晶を成長させる(ii)工程と、ベース基板と前記III族窒化物結晶とを分離する(iii)工程と、を含む。
前記(i)工程において、前記複数の溝は、ベース基板を貫通し、該ベース基板を複数個に分割している、請求項1から3の何れか一項に記載のIII族窒化物結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
窒化ガリウムなどのIII族窒化物単結晶半導体は、パワー半導体分野などのヘテロ接合高速電子デバイスや、青色や紫外光を発光する半導体素子の材料として注目されている。青色レーザダイオード(LD)は、高密度光ディスクやディスプレイに応用され、また、青色発光ダイオード(LED)は、ディスプレイや照明などに応用される。また、紫外線LDは、バイオテクノロジなどへの応用が期待され、紫外線LEDは、蛍光灯の紫外線源として期待されている。
【0003】
III族窒化物単結晶半導体(例えば、窒化ガリウム)の基板は、通常、気相エピタキシャル成長によって形成されている。例えば、サファイアで構成されるベース基板上にIII族窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させた基板などが用いられている。しかしながら、サファイア基板と窒化ガリウム単結晶とは、格子定数に13.8%の差があり、線膨張係数にも25.8%の差がある。このため、気相エピタキシャル成長によって得られる窒化ガリウム単結晶薄膜では結晶性が十分ではない。この方法で得られる結晶の転位密度は、通常、1×10
8cm
−2〜1×10
9cm
−2であり、転位密度の減少が重要な課題となっている。この課題を解決するために、転位密度を低減する取り組みが行われており、例えば、ELOG(Epitaxial lateral overgrowth)法が開発されている。この方法によれば、転位密度を1×10
5cm
−2〜1×10
6cm
−2程度まで下げることができるが、作製工程が複雑である。
【0004】
一方、気相エピタキシャル成長ではなく、液相で結晶成長を行う方法も検討されてきた。従来、窒化ガリウム単結晶や窒化アルミニウム単結晶などのIII族窒化物単結晶の融点における窒素の平衡蒸気圧は1000MPa以上であるため、窒化ガリウムを液相で成長させるためには1200℃で800MPaの条件が必要とされてきた。これに対し、ナトリウム融液との混合融液を活用して窒素を溶解するナトリウムフラックス法を用いることで、870℃、4MPaという比較的低温低圧で窒化ガリウム単結晶を合成できることが明らかにされた。
【0005】
また、アンモニウムを含む窒素ガス雰囲気下においてガリウムとナトリウムとの混合物を800℃、5MPaで溶融させ、この融液を用いて96時間の育成時間で、最大結晶サイズが1.2mm程度の単結晶が得られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0006】
また、サファイア基板上に有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により窒化ガリウム単結晶層を成膜したのち、液相成長(LPE:Liquid phase epitaxy)法によって単結晶を成長させる方法も報告されている。
【0007】
これらの工法ではサファイアで構成されるベース基板とIII族窒化物単結晶との間に、熱膨張係数の差がある。そのため、サファイアで構成されるベース基板を用いてIII族窒化物単結晶を成長させると、III族窒化物単結晶に歪みや反りが生じる。その結果、III族窒化物単結晶育成中に基板が破損し易く、形成された半導体基板を用いてデバイスを製造することが難しくなる。その中で良質なIII族窒化物単結晶のみからなり反りが小さいIII族窒化物単結晶基板を製造することが可能な方法として、サファイアで構成されるベース基板とIII族窒化物単結晶基板の間に空隙を作成する工程を含む製造方法が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
図2は、III族窒化物結晶の製造装置の構成の要部の一例を示す概略図である。
従来のナトリウムフラックス法によるIII族窒化物単結晶の製造方法では、坩堝容器100内部にIII族金属融液とナトリウム融液の混合融液101が入れられており、その中に種結晶基板102が配置されている。種結晶基板は、通常
図5で表されるような、ベース基板103の上に、III族窒化物結晶をヘテロエピタキシャル成長させた膜104を有する多層構造になっている。この種結晶基板102は、
図6で表されるように、空隙106部分をベース基板103上に形成する場合もある。上記構成の坩堝容器100、混合融液101、種結晶基板102を780℃、窒素ガス4MPa環境に配すことで、混合融液101中に溶けこんだ窒素が種結晶基板102のIII族窒化物単結晶膜104において混合融液101中のガリウムと反応し、窒化ガリウム単結晶107が生成される(
図7)(下記式(I))。
Ga+N→GaN (I)
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、ベース基板と、
該ベース基板の第1主面上に配されたIII族窒化物からなる複数のポイントシードと、
前記第1主面上であって前記該ポイントシードの間に配される複数の空隙と、
前記ベース基板の第2主面に配され、かつ平面視において前記複数の空隙と重複しない位置に配された複数の溝と、を有する種結晶基板を準備する(i)工程と、
窒素を含む雰囲気下において、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素とアルカリ金属とを含む融液に前記ポイントシードを接触させることによって、III族窒化物結晶を成長させる(ii)工程と、
前記ベース基板と前記III族窒化物結晶とを分離する(iii)工程と、
を含む。
【0016】
第2の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第1の態様であって、前記(ii)工程において、
前記III族元素はガリウムであり、前記アルカリ金属はナトリウム、リチウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1つであり、前記III族窒化物結晶はGaN結晶であってもよい。
【0017】
第3の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第1又は第2の態様であって、前記(i)工程において、
前記第1主面側からの放電加工、又は前記第2主面側からのレーザー加工の少なくとも一方によって前記複数のポイントシードが形成されてもよい。
【0018】
第4の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第1から第3のいずれかの態様であって、前記(i)工程において、前記複数の溝は、ベース基板を貫通し、該ベース基板を複数個に分割していてもよい。
【0019】
第5の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第4の態様であって、前記(i)工程において、分割されたベース基板がそれぞれ正三角形状であってもよい。
【0020】
第6の態様に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、上記第5の態様であって、前記(i)工程において、前記溝の幅は、
(1)前記正三角形状の一辺の長さの0.0005%に結晶育成時の温度から配置時の温度を引いた値を積算した値以上であり、かつ
(2)成長させるIII族窒化物結晶の高さの70%以下としてもよい。
【0021】
以下、実施の形態に係るIII族窒化物結晶の製造方法について、添付図面を参照しながら説明する。なお、図面において実質的に同一の部材については同一の符号を付している。また、すべての図において、各構成部材の大きさ、比率等は実際とは異なっている場合がある。
【0022】
(実施の形態1)
図1(a)〜
図1(c)は、実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法の(i)〜(iii)の各工程を示す概略断面図である。
本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法は、
図1(a)に示すように、ベース基板103と、該ベース基板103の第1主面103a上に配されたIII族窒化物からなる複数のポイントシード108と、前記第1主面103a上であって前記ポイントシード108の間に配される複数の空隙106と、前記ベース基板103の第2主面103bに配され、かつ平面視において前記複数の空隙106と重複しない位置に配された複数の溝113と、を有する種結晶基板1000を準備する(i)工程を含む。
【0023】
更に、本製造方法は、窒素を含む雰囲気下において、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素とアルカリ金属とを含む融液(混合融液)に前記ポイントシード108を接触させることによって、III族窒化物結晶107を成長させる(ii)工程を含む。
更に、本方法は、前記ベース基板103と前記III族窒化物結晶107とを分離する(iii)工程とを含む。
【0024】
本実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法において、窒素の供給を促進し反応速度を向上するために前記窒素を含む雰囲気が加圧雰囲気であることが好ましい。前記加圧の範囲は、例えば、0.1MPa以上10MPa以下の範囲である。
【0025】
本実施の形態1に係る製造方法において、前記ベース基板103の線膨張係数と前記III族窒化物単結晶107の線膨張係数との差によって発生する応力を利用して分離を行うことが好ましい。他の方法として、レーザー加工による分離も可能であるが、工程が増えてしまう。
【0026】
前記III族窒化物結晶107は、結晶方位C面が成長面である。
【0027】
前記III族窒化物結晶107の結晶成長は、成長優位方向を持ち、自然と六角柱もしくは六角錐状に成長する。空隙106は、III族窒化物単結晶膜104の一部を切除加工することで形成される。加工後に残されたIII族窒化物単結晶膜104は、前記結晶成長優位方向を考慮して、上面から見て成長面が円形もしくは正六角形の柱状を形成する。この円柱、もしくは正六角柱形状の種結晶をポイントシード108と呼ぶ。前記ポイントシード108の相対的な配置については互いに90度位置など、様々な配置が考えられるが、自然と六角柱もしくは六角錐状に成長する成長優位方向を考慮して、互いに60度の位置に配置されることが好ましい。複数の空隙106は、複数のポイントシード108の間に配される。空隙106、およびポイントシード108の周期は30μm以上であることが好ましい。30μmよりも小さい場合は隣り合うポイントシード108が成長初期で結合されてしまい、転位を多く含み結晶性が悪化してしまう。
【0028】
なお、空隙とは、結晶断面に観測される空間を示し、SEM(Scanning Electron Microscope)で観察可能な空間(例えば、サブμmオーダー)若しくはそれ以上の空間を意味する。また、前記空隙の周期は、複数の空隙が並んだ場合の、相互間の距離であり、ピッチを意味する。これは、例えば、電子顕微鏡で測定できる。なお、前記空隙の周期は、例えば、前記ポイントシード108の表面等のIII族窒化物結晶の成長点の相互の距離(ピッチ)で表すこともできる。また、この成長点の形成の仕方(例えば、大きさ、位置、相互距離)により、空隙106の周期を調整することができる。
図3にポイントシード108の配置をC面方向から見た図を示す。図中の円がそれぞれ円柱形状のポイントシード108である。図中で成長点の相互距離をピッチとして示す。
【0029】
本開示の製造方法において、前記ベース基板103としては、例えばサファイア基板を用いることができる。なお、III族窒化物結晶基板をベース基板103に用いることも可能であるが、製造コストに合う材料を選定することは困難である。
【0030】
本開示の製造方法において、前記混合融液を構成するアルカリ金属が、ナトリウム、リチウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1つである。アルカリ金属以外の材料では、加圧により供給された窒素ガス中の窒素分子を、結晶成長反応のために窒素原子に分けることが難しいためである。
【0031】
本開示の製造方法において、前記混合融液が、アルカリ土類金属をさらに含むこともできる。アルカリ土類金属を含むことで多結晶化を抑制する効果が得られる場合がある。
【0032】
本開示の製造方法において、空隙106は、例えばベース基板103の第2主面103b側からレーザー加工される事により形成することができる。それが出来ない場合に空隙106はIII族窒化物単結晶膜104の育成面側(第1主面103a側)からの放電加工により形成することができる。
【0033】
本開示の基板において、
図3におけるポイントシード108の径は、30μm以上で加工される。ポイントシード108の径が30μmよりも小さい場合にはポイントシード上に初期核を形成することができない。安定して初期核を形成するためには、十分なポイントシード108の成長面積の広さが求められ、ポイントシード108の径を100μm以上とすることがより好ましい。
【0034】
以下、実施の形態1に係るIII族窒化物結晶の製造方法について例をあげて説明する。
【0035】
この方法では、まず、ベース基板103上に、空隙106を備えるIII族窒化物単結晶層104を形成する。ベース基板103には、例えばサファイア基板を用いることができる。空隙を備えるIII族窒化物層104を形成する方法の一例を以下に説明する。
【0036】
まず、基板上に、組成式Al
uGa
vIn
1-u-vN(ただし、0≦u≦1、0≦v≦1である)で表される第1のIII族窒化物単結晶層を形成する。第1のIII族窒化物単結晶層は、例えば、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法やMBE(Moleculer Beam Epitaxy)法またはHVPE(Hydrogen Vapor Phase Epitaxy)法で形成できる。
【0037】
次に、前記III族窒化物単結晶層104の一部を除去して(空隙106を形成して)ポイントシード108を形成する。ポイントシード108は、ベース基板103側もしくはIII族窒化物単結晶膜104の育成面側からレーザー加工、またはIII族窒化物単結晶膜104の育成面側からの放電加工により形成できる。
【0038】
ポイントシード108の上面は、通常、C面となる。ポイントシード108の形状は、以下の工程で生成した種結晶が結合しやすく、基板の分離を行いやすい形状が選択され、ドット状に形成することができる。
【0039】
これにより、前記ベース基板103上の前記III族窒化物単結晶層104において空隙106が形成され、前記III族窒化物単結晶層104は柱状で残る。残されたIII族窒化物単結晶層104のポイントシード108は、前記した加工方法により円柱状または正六角柱状で形成される。複数のポイントシード108及び空隙106の形成されたベース基板を種結晶基板102と呼ぶ。
【0040】
次に、種結晶基板102を更に大判化する工程を行う。
図4(a)及び
図4(b)は、実施の形態1におけるIII族窒化物結晶製造の大判化工程を表した図である。まず、種結晶基板102を複数枚作成し、それぞれの基板において、ポイントシード108の部分を避け、空隙106の部分でベース基板103を選択的に切断(
図4(a))し、種結晶基板102の結晶方位をそろえて大判な種結晶基板110として配置する(
図4(b))。
図4(b)では種結晶基板102を6枚あわせて六角形の大判化基板110を構成する例を示している。
図4(a)において6枚の種結晶基板102の結晶方位は同じ方向に揃えられているものとし、それぞれから、複数パターンのカット面において正三角形基板が切り出される。
図4(b)に示すように、こうして得られた6枚の三角形状に切り出された種結晶基板102を組み合わせて大口径化する。この際に、自然と成長基板が正六角形状を構成する結晶成長優位方向を考慮すると、大口径化された基板110が正六角形状である場合に、最も効率的に結晶を成長することが出来る。そのため、種結晶基板102の切り出し後の形状としては、例えば長方形、正六角形なども可能であるが、組み合わせた際に正六角形を形成することが容易な正三角形状に切り出すのが最も好ましい。
【0041】
正三角形状に加工された6枚の種結晶基板102は、結晶方位が揃う方向で正六角形を構成するように並べられる。例えば、
図4(a)における6枚の種結晶基板102のうち3枚を[1100]方向に正三角形の頂点が位置するように切断加工し、残り3枚を[−1−100]方向に正三角形の頂点が位置するように切断加工する。上記切断加工された基板111及び基板112のそれぞれ3枚ずつを、向きを固定したまま時計回りに交互に配置することにより、結晶方位を揃えた状態で大口径化された種結晶基板110を得ることができる。前記切断加工は、レーザー加工もしくは機械加工で行うことが出来る。
【0042】
正三角形状となった種結晶基板102を配置する際に、隣り合うベース基板103の間に隙間109を設ける。設ける隙間109の幅の下限値は、サファイアの熱膨張係数と、反応温度と室温の差と、種結晶基板102のサイズから計算される。これは、正三角形状となった種結晶基板111または種結晶基板112の一辺の長さの0.0005%に、結晶育成時の温度から配置時の温度を引いた値を積算した値の長さが熱膨張時に基板同士が接触する限界である。また、設ける隙間109の幅の上限値はポイントシード108からa軸方向に成長した結晶同士が結合しうる隙間の幅であり、これは成長膜厚から計算される。c面方向に成長した成長膜107の膜厚と、その際に基板間方向に成長した距離との関係は、結晶構造から2.1:2の比になる。基板間方向への成長した基板同士が結合するためには、上記隙間109の幅が目標とする成長膜107の成長膜厚の70%以下の長さの隙間の幅が上限である。上記上限値及び下限値を考慮し、正三角形状の種結晶基板102を配置する際にベース基板103の間に設ける隙間109が、正三角形状となった種結晶基板102の一辺の長さの0.0005%に、結晶育成時の温度から配置時の温度を引いた値を積算した値の長さ以上であり、かつ成長させるIII族窒化物結晶の高さの70%以下となるように配置する。正三角形状の種結晶基板102を配置する際にベース基板103の間に設ける隙間109が、正三角形状となった種結晶基板102の一辺の長さの0.0005%に、結晶育成時の温度から配置時の温度を引いた値を積算した値の長さよりも小さい場合には、熱膨張によりベース基板103同士が接触してしまい、ベース基板103の位置ずれと結晶方位の乱れが発生してしまい、結晶性の高い基板を得ることが出来ない。また、正三角形状の種結晶基板102を配置する際にベース基板103の間に設ける隙間109が、目標成長膜厚の70%よりも大きい場合にはポイントシード同士が育成中に繋がらず、平坦な基板成長を行うことが出来ない。
【0043】
次に、窒素を含む雰囲気下(好ましくは10MPa以下の加圧雰囲気)において、ガリウム、アルミニウムおよびインジウムから選ばれる少なくとも1つのIII族元素とアルカリ金属を含む混合融液101に、選択したIII族元素の窒化物で構成される前記III族窒化物単結晶層104の育成面側表面を接触させることによって、前記混合融液101中の少なくとも1つのIII族元素と加圧により溶解した窒素とを反応させて前記III族窒化物単結晶層104上にIII族窒化物結晶を成長させる。窒素を含む雰囲気下としては、例えば、窒素ガスや、アンモニウムを含む窒素ガス雰囲気を適用できる。アルカリ金属には、ナトリウム、リチウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1つ、すなわち、それらの1つまたはそれらの混合物が用いられ、これらは通常、フラックスの状態で用いられる。
【0044】
図2は、III族窒化物結晶の製造装置の構成の要部の一例を示す概略図である。
図2の混合融液101は、例えば、材料を坩堝100に投入して加熱することによって調製される。混合を促進するために坩堝100において揺動運動または回転運動、もしくはその両方をあわせた運動を行っても良い。前記混合融液101を作製したのち、前記混合融液101を過飽和の状態とすることによってIII族窒化物単結晶が成長する。材料の溶融および結晶成長は、例えば、温度が700℃〜1100℃程度で、圧力が0.1Pa〜5MPa程度で行われる。なお、混合融液101は、アルカリ土類金属をさらに含んでもよい。アルカリ土類金属としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ベリリウムなどを用いることができる。これらアルカリ土類金属を用いることで多結晶の生成を抑制する効果がある。
【0045】
この方法によれば、組成式Al
sGa
tIn
1-s-tN(ただし0≦s≦1、0≦t≦1)で表されるIII族窒化物結晶が得られる。例えば、材料となるIII族元素としてガリウムのみを用いることによって窒化ガリウム結晶が得られ、材料となるIII族元素としてガリウムおよびアルミニウムを用いることによって組成式Al
sGa
1-sN(ただし0≦s≦1)で表される結晶が得られる。
【0046】
次に、前記ベース基板103を含む部分と前記III族窒化物単結晶107を含む部分とを、前記空隙106の近傍において分離する。
【0047】
空隙106を有する基板を種結晶基板102として用いることにより、ベース基板103をIII族窒化物単結晶基板107と分離することができる。この分離工程は、機械的に行ってもよいし、前記基板の線膨張係数と前記III族窒化物単結晶の線膨張係数との差によって発生する応力を利用して行ってもよい。線膨張係数の差を利用する場合には、例えば、結晶育成工程のちの冷却工程(自然冷却を含む)で分離を行うことができる。
【0048】
(実施例1)
本開示における種結晶基板は、
図1に示すとおりである。本実施例においては要素実証実験として4インチ基板をポイントシード108がカット面に含まれないように中心角60度の扇形に6分割した場合の実験を行った。育成GaN基板が結合の、種結晶基板を構成するベース基板103は、直径150mm、厚み1mmのサファイア基板とした。前記ベース基板103上に処理された空隙を含むIII族窒化物膜は育成面側から見て直径130mmの円に内接する正六角形状の領域に配置される。空隙を含むIII族窒化物単結晶膜104における円柱状ポイントシード108は、互いに60度の位置に配置され、円柱状ポイントシード108間のピッチは550μmとした。切断された6枚の各ベース基板103間の隙間の幅は300μmとした。
【0049】
坩堝100はアルミナで構成され、内側直径は168mmとした。III族金属融液とアルカリ金属融液の混合融液101の構成元素はIII族金属としてガリウム、アルカリ金属としてナトリウムを用い、液高さを20mmとした。本結晶基板を890℃、3MPaで保持し窒化ガリウム単結晶基板を膜厚1mmとなるように育成した。育成後、25℃になるまで冷却し、育成基板をサファイアベース基板から剥離した。
【0050】
(実施例2)
切断された6枚の基板の隙間の幅が500μmとなるように加工し、それ以外は実施例1と同じ条件とした。
【0051】
(実施例3)
切断された6枚の基板の隙間の幅が700μmとなるように加工し、それ以外は実施例1と同じ条件とした。
【0052】
(比較例1)
切断された6枚の基板の隙間の幅が1000μmとなるように加工し、それ以外は実施例1と同じ条件とした。
【0053】
(比較例2)
切断された6枚の基板の隙間の幅が100μmとなるように加工し、それ以外は実施例1と同じ条件とした。
【0054】
上記の条件で成長基板107がポイントシード108を接続できるかについて評価を行った。上記実施例及び比較例におけるポイントシード接続の有無の結果を下記の表1に示す。
【0056】
なお、溝113は、ベース基板103を貫通せず、選択的に、第2主面103bに設けられた溝形状ともできる。ポイントシード108がa面結合配置されている場合は、溝形状で冷却中に低応力で分割したサファイアベース基板の剥離面がポイントシード108を傷つけないよう、ポイントシード108のサイズがポイントシード間距離の半分以下であることを要する(
図8、
図9)。
【0057】
上記ポイントシード108を形成した種結晶基板102において、基板を切断する場合も溝形状加工をする場合も、それらにより区分されたベース基板の面積は小さいほど成長後のIII族窒化物結晶にかかる応力が小さくなり、破壊されにくくなる。この際、切断もしくは溝形状加工により区分された領域の重心位置からもっとも遠い点までの長さが10mmよりも小さくなるようにすることでIII族窒化物結晶にかかる応力をIII族窒化物結晶の耐力よりも小さくなり、育成された基板を割らずに剥離することが可能である。(
図10)
【0058】
また、基板の反りにより育成後のIII族窒化物結晶の表面にクラックが発生することを避けるために、基板の反りを抑制することが有効である。そのための方法としては、育成するIII族窒化物結晶の厚みを厚くするか、サファイアベース基板の厚みを厚くする方法がある。この場合厚みに上限はないが、III族窒化物結晶が厚くなるにつれ多くの原料融液を要することや、多結晶及び欠陥の混入が増加する。
【0059】
なお、本開示においては、前述した様々な実施の形態及び/又は実施例のうちの任意の実施の形態及び/又は実施例を適宜組み合わせることを含むものであり、それぞれの実施の形態及び/又は実施例が有する効果を奏することができる。