特開2017-226003(P2017-226003A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226003(P2017-226003A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】はんだ材の圧延方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/40 20060101AFI20171201BHJP
   B21B 1/22 20060101ALI20171201BHJP
   B21B 3/00 20060101ALI20171201BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20171201BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20171201BHJP
   C22C 11/06 20060101ALN20171201BHJP
【FI】
   B23K35/40 340H
   B21B1/22 L
   B21B3/00 L
   B23K35/26 310B
   B23K35/26 310A
   C22C13/00
   C22C11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-124742(P2016-124742)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001405
【氏名又は名称】特許業務法人篠原国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100065824
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100104983
【弁理士】
【氏名又は名称】藤中 雅之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 徹志
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【テーマコード(参考)】
4E002
【Fターム(参考)】
4E002BC02
4E002BC08
4E002CA08
(57)【要約】
【課題】圧延加工後の圧延加工用油の除去が不要で生産性を向上させ、且つ、低コストで品質の高い、はんだ材の最終製品を製造可能な、はんだ材の圧延方法の提供。
【解決手段】揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油をはんだ材に塗布し、該圧延加工用油が塗布されたはんだ材を圧延する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油をはんだ材に塗布し、該圧延加工用油が塗布されたはんだ材を圧延することを特徴とするはんだ材の圧延方法。
【請求項2】
前記圧延加工用油の主成分がパラフィン系炭化水素、および/またはオレフィン系炭化水素であることを特徴とする請求項1に記載のはんだ材の圧延方法。
【請求項3】
前記圧延加工用油の主成分の炭素数が8〜11であることを特徴とする請求項1または2に記載のはんだ材の圧延方法。
【請求項4】
前記圧延加工用油の主成分の炭素数が9もしくは10であることを特徴とする請求項3に記載のはんだ材の圧延方法。
【請求項5】
噴霧法により前記圧延加工用油をはんだ材に塗布しながら圧延することを特徴とする請求項1または2に記載のはんだ材の圧延方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、はんだ材の圧延方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品等の接合用として幅広く使用されているPb系やSn系などのはんだ材は、ボール状、ワイヤ状、リボン状、シート状など様々な形状で使われている。ボール状のはんだ材はアトマイズ法で作製され、ワイヤ状のはんだ材は押出加工法や引抜加工法による伸線で作製され、リボン状やシート状のはんだ材は圧延機による圧延で作製されるのが一般的である。
【0003】
圧延加工を行う場合、圧延ロールなどで、はんだ材が潰される際に、変形や摩擦による熱が発生し、その加工熱により、はんだ材の表面が酸化してしまうなどの問題が生じる場合がある。特に融点の低いはんだ材を圧延加工する場合では、表面が酸化するだけでなく、更に温度が高くなることにより、はんだ材が溶け始めるなどの問題が発生する場合がある。このような熱の発生、高温化を抑制するため、はんだ材の表面に圧延加工用油を供給しながら圧延加工をする方法が一般的に用いられている。圧延加工用油を供給することにより、圧延ロールとはんだ材の摩擦を低減し、摩擦による発熱温度を低くすることができる。また、圧延加工用油を介して、はんだ材と圧延ロールとの接触面積を増大させることにより、はんだ材の熱を圧延ロールに伝導させることによる冷却効果を利用することもできる。このような効果により、圧延加工時の変形や摩擦による発熱を抑えて、はんだ材の表面酸化を抑制している。また、圧延加工後の、はんだ材の表面に圧延加工用油の膜を残留させることにより、圧延加工後も酸化の進行を抑制する効果を付与している。この圧延加工用の油がない状態で、はんだ材を圧延加工すると、上記発熱の問題を生じる以外に、圧延カスと呼ばれる加工屑が発生する場合がある。はんだ材は、圧延加工により圧延カスが発生しやすく、圧延加工で発生した圧延カスが、圧延ロールなどの加工治具やはんだ材の表面に付着して傷や異物などの原因になることがある。このような傷や異物などが、はんだ材の表面に存在すると、はんだ接合時に部分的な濡れ性不良が発生したり、はんだ材の表面粗さが粗くなり溶融時にボイドを巻き込みやすくなったりする、などの不具合が発生し、濡れ性や接合性等の品質低下を起こしてしまう場合がある。以上のことから、はんだ材の圧延加工時には圧延加工用油を用いて圧延することが一般的に行われている。
【0004】
ところで近年、電子機器がますます小型化、高密度化されるのに対応して、電子部品の性能や信頼性の向上が求められている。そのため、その電子部品に使用されるはんだ材も、より微細で、かつ、はんだ材の表面状態もより高品質にしたものが求められている。接続や封止用のはんだ材としては、板状もしくは枠状のはんだ材が多く用いられており、その加工には上述したように圧延加工が一般的に用いられている。圧延加工は、被加工材の変形をスムーズに行うための潤滑性と、被加工材を圧延ロールに巻き込むための適度な摩擦性という、相反する特性が必要な加工であり、精度良くより平滑な加工表面を得るための様々な圧延加工用油が用いられている。上記特性を満たすため、従来、この圧延加工用油には、鉱物油や植物油等を主成分とした不揮発性の成分を含有する油を使用し、圧延後、プレス加工など次工程での加工前に脱脂(圧延加工用油を除去)するのが一般的である。また、圧延加工された、はんだ材から圧延加工用油を脱脂するために、一般的には特許文献1に示されるような、有機溶剤による洗浄で圧延加工用油を除去する方法が用いられている。そして、圧延加工用油を除去した後、はんだ材を乾燥させ洗浄剤の有機溶剤を除去する。
【0005】
上述したように、はんだ材の圧延加工時に、この圧延加工用油が不足して、はんだ材が発熱すると、はんだ材の表面に酸化物が発生する場合がある。はんだ材表面に形成された酸化物が脆い場合、圧延加工時に酸化物粉となり、はんだ材表面から剥離する場合がある。このようにして発生した酸化物粉は、剥離しないで、はんだ材の表面にそのまま付着していたり、一旦圧延ロールに付着した後、圧延ロールから、はんだ材の表面に再付着したりする場合がある。酸化物粉は、はんだ材の表面に異物として存在することにより、上述のように、はんだ特性を悪化させる場合がある。特許文献2には、圧延機で圧延する際、圧延機のロールに付着した酸化物粉を取り除くため、酸化物粉が付着した圧延機のロール表面を、押圧装置に取り付けた払拭材で払拭しながら圧延を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭64−048896号公報
【特許文献2】特開2007−075863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、近年、小型化、高密度化された電子機器に用いられる電子部品用に、より微細で酸化や傷の発生が抑えられた高品質の表面状態を有し、かつ低コストのはんだ材が求められている。小型部品の接続、封止などには板状もしくはその打抜き品が多く用いられており、その加工には圧延加工が最も多く使用されている。表面傷の防止には、圧延加工時に上述した鉱物油や植物油等を主成分とした不揮発性の成分を含有する、圧延加工用油を十分供給する必要があるが、過剰な供給は洗浄しきれない圧延加工用油の残留を発生させ、はんだ接合性を悪化させてしまう場合がある。また、圧延加工用油の除去のためには、有機溶剤などを用いた脱脂洗浄工程ではんだ材の表面の脂分を除去する必要があり、この工程が生産性向上や製造コスト低減の足かせとなっている。
【0008】
過剰供給にならないように圧延加工用油を極力少なくすると、加工時の摩擦により圧延加工用油が不足する箇所が発生するなどして、酸化物が生成されたり、熱伝導不足によって放熱が十分に出来ないために酸化が進行したりする場合がある。生成される酸化物は脆いため、圧延加工時に酸化物粉となってはんだ材の表面から剥離するものもあるが、そのまま、はんだ材の表面に残留したり、一旦圧延ロールに転写した酸化物粉がはんだ材の表面に再付着したりして、はんだ材の表面の清浄度を悪化させてしまうものもある。
【0009】
また、特許文献2の方法を用いることにより、圧延加工屑である酸化物粉を払拭材で払拭することで、圧延加工用油無しでも表面傷の少ない、はんだ材の製造が可能となるが、このように圧延装置に払拭材で払拭する機構を取り付けると、そのための改造やその後のメンテナンスが必要となる。また、払拭材を取り付けることにより、圧延の調整等が難しくなって精度の高い圧延が困難になる場合がある他、圧延加工用油を用いていないため、圧延時の摩擦や変形による熱の放熱効果が低く、はんだ材が熱くなり表面酸化が発生・進行することは抑えられない。
【0010】
はんだ材は、他の一般的な金属材料よりも柔らかいものが多く、多少の異物の存在等により容易に変形や傷を生じやすい。対象電子部品が小型化され、はんだ材も小さくなるに従い、微小な異物の存在もはんだ接合性に大きく影響し始めている。更に、本発明の対象であるPbフリーはんだ材は、従来のPb含有はんだ材に比べて接合性に劣る材料が多く、加工用油の残留物を含めた、各種異物の存在は接合性を悪化させる要因となるため、はんだ材の表面状態を清浄にすることが特に強く求められている。
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、圧延加工後の圧延加工用油の除去が不要で生産性を向上させ、且つ、低コストで品質の高い、はんだ材の最終製品を製造可能な、はんだ材の圧延方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本件発明者らは、圧延加工を行うはんだ材において、圧延加工時には十分な潤滑性と摩擦性を有し、かつ圧延加工後の被圧延加工物である最終製品の表面に残留物を残さずに揮発する圧延加工用油を用いて圧延加工することにより、生産性を向上させ、且つ、低コストで品質の高いはんだ材の最終製品を提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明によるはんだ材の圧延方法は、揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油をはんだ材に塗布し、該圧延加工用油が塗布されたはんだ材を圧延することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のはんだ材の圧延方法においては、前記圧延加工用油の主成分がパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素であるのが好ましい。
【0014】
また、本発明のはんだ材の圧延方法においては、前記圧延加工用油の主成分の炭素数が8〜11であるのが好ましい。
【0015】
また、本発明のはんだ材の圧延方法においては、前記圧延加工用油の主成分の炭素数が9もしくは10であるのが好ましい。
【0016】
また、本発明のはんだ材の圧延方法においては、前記圧延加工用油を噴霧法により、はんだ材に塗布するのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のはんだ材の圧延方法によれば、圧延加工時に、揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を噴霧などの方法ではんだ材表面に塗布して圧延するようにしたので、十分な量の圧延加工用油をはんだ材表面に塗布しても、はんだ材表面に塗布された圧延加工用油が残留することなく揮発するため、圧延加工用油の洗浄工程を不要化することができる。即ち、従来の圧延方法では、洗浄性を重視して圧延加工用油を極力少なくした場合、圧延加工用油が不足した箇所で、表面傷や酸化物が発生し、また、発熱や傷発生防止を重視して圧延加工用油を過剰に用いた場合には、残留した圧延加工用油などの異物が発生することがあったが、本発明のはんだ材の圧延方法で用いる圧延加工用油は不揮発性成分を含有しないため、圧延加工用油の残留が無く、十分な量の圧延加工用油を用いることにより、圧延加工時に摩擦や変形から発生する熱を、圧延加工用油を通じて圧延ロールに逃がすことで、はんだ材の昇温を抑え、はんだ材の表面酸化を抑制することができる。このため、本発明のはんだ材の圧延方法によれば、十分な揮発時間を設定することにより傷や酸化物、圧延加工用油の残留による不具合発生のない品質の高い製品を、安定して安価に供給することができる。しかも、本発明の圧延方法によれば、従来と同等以上のはんだ品質を維持しながら、脱脂洗浄工程を不要にすることが可能なため、生産性を著しく向上させ、且つ、低コストで高品質のはんだ材の最終製品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、揮発性の圧延加工用油を用いた本発明のはんだ材の圧延方法の実施形態について詳しく説明する。なお、本発明は実施形態に説明の方法に限定されない。
【0019】
[圧延加工用油]
本件発明者らは、洗浄工程を必要としない、はんだ材の圧延加工用油に関して、鋭意研究探索した結果、揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下である揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を用いることにより、圧延特性を損なうことなく、洗浄不要な、はんだ材の圧延加工が可能であることを見出した。揮発性の成分のみからなる圧延加工用油であっても、引火点が10℃未満である揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を用いると、通常の製造条件下で揮発がどんどん進んでしまい、頻繁に加工用油を供給する必要があり、製品コスト的に好ましくない上、圧延加工時の熱で揮発しすぎると潤滑性が低下し、被圧延加工材である、はんだ材の表面に傷が入るなどの不具合を生じる場合がある。また、引火点が低すぎると、点火源が存在すると燃焼が始まってしまうおそれがあるため、安全対策を十分に施す必要があり、管理面も含めた対応への比重が大きくなるため好ましくない。また、揮発性の成分のみからなる圧延加工用油であっても、引火点が70℃よりも高い揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を用いると、自然揮発では時間がかかり過ぎて生産性が悪くなってしまう。加熱乾燥を行うことにより、揮発時間を短くすることは可能ではあるが、圧延加工用油を揮発させるために必要なエネルギーコストや、処理工数が必要となり、洗浄工程を省略した効果が十分得られなくなるため好ましくない。また、乾燥不十分のままの、はんだ材を使用すると、揮発せずに残留している圧延加工用油が、様々な不具合や品質低下の要因となってしまう場合がある。
【0020】
本発明に用いる圧延加工用油としては、主成分がパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素であることが好ましい。その際、常温で液体状態である炭素数8〜11のパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素であるのが好ましい。炭素数が7以下で液体状のパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素は、引火点が低く揮発しすぎる上、臭気の観点から好ましくない。臭気が強いと作業環境が悪化するため、局所排気設備を設けることが必要となり初期コストがかかる上、メンテナス費用もかかってしまう。炭素数が12以上で液体状のパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素は、揮発性に乏しく、完全除去までに時間がかかってしまうため好ましくない。また、炭素数が多いと潤滑性が増加し過ぎるため、圧延加工に用いると被圧延加工材である、はんだ材と圧延ロールの間で滑りが発生し、効率良く圧延できないおそれも生ずる。なお、本発明に用いる圧延加工用油としては、主成分が炭素数9もしくは10のパラフィン系炭化水素および/またはオレフィン系炭化水素であるのがより好ましい。
【0021】
本件発明者らは、本発明の圧延加工用油は、炭素数を適切に限定することにより、圧延加工時に適した圧延加工用油を提供するだけでなく、直ぐに揮発することなく、その後も、はんだ材の表面に一定時間残留させることが可能であり、短時間であれば酸化防止皮膜としての機能も有することを見出した。
【0022】
また、本件発明者らは、本発明の圧延加工用油は、高い潤滑性を有するものではないが、圧延加工時の変形による摩擦力を軽減させる、適度な潤滑性を有している。そのため、圧延後のリボン状の、はんだ材から四角状や枠状などの簡易な最終製品形状に、プレススタンピング法でプレス加工する際にも潤滑剤として使用することが可能であることを見出した。圧延加工と次工程のプレス加工とに同一の加工用油を用いることにより、圧延加工後に圧延加工用油を除去し、プレス加工用の潤滑剤を塗布する工程や時間を設ける必要がなくなるため、最終製品まで効率良く製造することができる。また、圧延加工とプレス加工とに同一の加工用油を用いた場合は、最終製品の加工まで本発明の圧延加工用油を常にはんだ材の表面に残留させた状態で加工でき、はんだ材の表面が大気に晒される可能性を極力低くすることができ、はんだ材の表面酸化も効果的に抑制することができる。
【0023】
[圧延工程]
本発明に用いるはんだ材に対する機械的な圧延加工の具体的な方法に特に制限はない。例えば、一対のロール(2本ロール)や、二対、三対のロールを用いた圧延機を用いることができる。また、圧延加工用油の投入タイミングとしては、圧延前に、はんだ材に塗布して準備しておいてもよいが、揮発性の成分のみからなり、且つ、引火点が10℃以上70℃以下の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を用いるため、圧延直前に塗布する方法が最も好ましい。圧延直前に塗布する方法としては、はんだ材に圧延加工用油を滴下して塗布する方法など一般的な方法で塗布可能ではあるが、特に、噴霧法により塗布する方法が、薄く均一に、はんだ材の表面に圧延加工用油を塗布することが可能なため、より好ましい。
【0024】
以下、本発明のはんだ材の圧延方法の実施例について最終製品としてのはんだ材の製造までの工程を通して説明する。なお、本発明は実施例に説明の方法に限定されない。
【実施例】
【0025】
<はんだ母合金の作製>
原料として、それぞれ純度99.9重量%以上のPb、Sn、Ag、及びCuを準備した。大きな薄片やバルク状の原料については、溶解時に偏析が起きにくくするため、切断及び粉砕などにより3mm以下の大きさに細かくした。次に、Pb−5.0質量%Sn−2.5質量%Ag、およびSn−3.0質量%Ag−0.5質量%Cuの組成の2種類のはんだ材を得るため、上記の原料を所定量秤量して、高周波溶解炉用のグラファイト製坩堝に入れた。
上記各原料の入った坩堝を高周波溶解炉に入れ、酸化を抑制するために窒素を原料1kg当たり0.7リットル/分以上の流量で流した。この状態で溶解炉の電源を入れ、原料を加熱溶融させた。金属が溶融しはじめたときに混合棒でよく撹拌し、局所的な組成のばらつきが起きないように均一に混ぜた。十分溶融したことを確認した後、高周波電源を切り、速やかに坩堝を取り出し、坩堝内の溶湯をはんだ母合金の鋳型に流し込んだ。鋳型は幅45mm×厚さ5mm×長さ200mmのものを用い、はんだ母合金を圧延機でリボン形状にするため、幅45mm×厚さ5mm×長さ150mmの板状合金を製造した。
このようにして、上記各原料の混合比率を変えることにより、試料1〜18のはんだ母合金を作製した。得られた試料1〜18の組成はICP発光分光分析器を用いて設計通りの組成が得られているか確認した。得られた組成分析結果を下記表1に示す。
【0026】
【表1】
【0027】
次に、上記試料1〜18の各はんだ母合金について、後述のように圧延機でリボン状に圧延した後、打抜き金型を用いたプレススタンピングを行い、その後、乾燥処理を行い、四角形状のペレット品を製造した。そして、このペレット品を用いて、後述の方法により濡れ性の評価、ボイド測定による接合性の評価、及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。
以下に製造方法および評価方法の詳細条件を示す。
【0028】
<リボン状はんだ材の作製>
板状のはんだ母合金をリボン状に圧延する方法としては、冷間圧延方式を採用した。本方法は温間圧延に比較してはんだ材の温度が上がり難いため、加工性に問題ない材料を用いる場合は酸化の進行を抑制できるため好ましい。まず、幅45mm×厚さ5mm×長さ150mmの板状母合金を圧延機にセットし、圧延直前に圧延加工用油を供給しながら、幅45mm×厚さ0.1mmのリボン状になるまで圧延速度1〜5m/分で圧延を行った。圧延速度は、はんだ材の表面に傷などが発生しない範囲で、各試料で出来る限り速い速度で行った。
圧延加工用油には、本発明の実施例にかかる圧延方法においては、パラフィン系炭化水素のデカン(引火点46℃、炭素数10)を主成分とした揮発性の成分のみからなる油と、オレフィン系炭化水素のノネン(引火点26℃、炭素数9)を主成分とした揮発性の成分のみからなる油と、デカンを主成分とした揮発性の成分のみからなる油とノネンを主成分とした揮発性の成分のみからなる油を混合した油と、を用いた。また、比較例にかかる圧延方法においては、従来から圧延に使用されている、なたね油(引火点313℃)と灯油(引火点40〜60℃)を混合した油を用いた。また、その他の比較例にかかる圧延方法として、圧延加工用油を用いずに圧延を行ったものも製造した。圧延加工用油と圧延加工用油の供給方法との組合せを表2に示す。
【0029】
<ペレット品 (10.0mm角×厚さ100μm)の作製>
上記リボン状に圧延加工した試料1〜18を、打抜き金型を用いたプレス機で、10.0m角、厚さが100.0μmのペレット品(以下、10mm角の評価用はんだ試料、と称す)にプレス加工した。プレス工程では、上記圧延工程で用いた圧延加工用油と同じ加工用油を用いた。すなわち、圧延工程後、試料から圧延加工用油を除去することは特に行わずに、試料をそのままプレス工程に投入した。プレス作業前に試料の表面状態を確認し、圧延加工用油が少なくなっている箇所には圧延加工用油と同じ加工用油を噴霧法にて塗布し直した。プレス加工後、加工用油を十分に揮発させ、表面が乾燥した評価用はんだ試料を得た。
圧延加工用油を用いず圧延した試料に関しては、従来使用している、なたね油と灯油を混合した油を潤滑剤として、噴霧法にて試料表面に塗布した後、プレスした。従来の、なたね油と灯油を混合した加工用油を用いて圧延を行った試料についても、プレス加工用の油として、圧延加工用と同じ、なたね油と灯油を混合した加工用油を潤滑剤として用いた。プレス加工に、なたね油と灯油を混合した加工用油を潤滑剤として用いた試料は、プレス加工後にジクロロメタンで洗浄、その後、乾燥を行い評価用はんだ試料を得た。
【0030】
その後、得た10mm角の評価用はんだ試料について、下記の方法により濡れ性の評価を行った。さらに、この10mm角の評価用はんだ試料を用いてSiチップと基板の接合体を作り、ボイド測定による接合性の評価、及びヒートサイクル試験による信頼性の評価を行った。また、圧延加工開始から評価用はんだ試料を得るまでの加工時間を計測し、生産性の評価とした。以下に各評価方法について詳しく説明する。
【0031】
<濡れ性の評価>
上記のように、10mm角の評価用はんだ試料に加工した各はんだ材の濡れ性を、濡れ性試験機を用いて評価した。具体的な評価方法を以下に示す。まず、濡れ性試験機のヒーター部に2重のカバーをして、ヒーター部の周囲4箇所から窒素を12リットル/分の流量で流しながら、ヒーター設定温度を各試料の融点より約30℃高い温度に設定して加熱した。設定したヒーター温度が安定した後、Cu基板(板厚:約0.70mm)をヒーター部にセッティングして25秒間加熱した。
次に、各はんだ試料をCu基板の上に載せ、25秒加熱した。加熱が完了した後、Cu基板をヒーター部から取り上げ、大気中に晒すことなく、その横の窒素雰囲気が保たれている場所に一旦設置して冷却した。十分に冷却した後、大気中に取り出して接合部分を確認した。各はんだ試料とCu基板との接合部分を目視で確認し、接合できていなかった場合を「×」、接合できていたが濡れ広がりが悪い場合(はんだ材が広がらなかった場合)を「△」、接合でき且つ濡れ広がりが良い場合(はんだ材が薄く濡れ広がった状態)を「○」と評価した。濡れ性の評価結果を表2に示す。
【0032】
<接合性の評価(ボイド率の測定)>
はんだ材の接合性を確認するため、各はんだ試料を用いてSiチップとNiめっき(膜厚:3.0μm)したCu基板(板厚:0.3mm)の接合体を作り、ボイド率を測定した。接合体はダイボンダーを用いて行った。まず、装置のヒーター部に窒素ガスを流しながら、各はんだ試料の融点より50℃高い温度になるようにした後、ヒーター部に基板を載置して15秒加熱し、その上に、はんだ試料を載置して20秒加熱し、さらに、溶融した、はんだ試料の上にチップを載置してスクラブを3秒かけた。スクラブ終了後、接合体を速やかに窒素ガスの流れている冷却部に移し、室温まで冷却後、大気中に取り出した。
このようにして得られた接合体(はんだ材によってSiチップが接合されたCu基板)のボイド率を、X線透過装置を用いて測定した。具体的には、はんだ材とSiチップ、基板の接合面を上部から垂直にX線を透過し、下記計算式1を用いてボイド率を算出した。接合体のボイド率の測定結果を表2に示す。
[計算式1]
ボイド率(%)=ボイド面積÷(ボイド面積+はんだ材とCu基板の接合面積)×100
【0033】
<ヒートサイクル試験>
はんだ接合の信頼性を評価するためにヒートサイクル試験を行った。なお、この試験は、上記した接合性の評価において、はんだ材がCu基板に接合できた試料(濡れ性の評価が○又は△の試料)を各々2個ずつ用いて行った。即ち、各はんだ試料が接合されたCu基板2個のうちの1個に対しては、−55℃の冷却と+125℃の加熱を1サイクルとするヒートサイクル試験を途中確認のため500サイクルまで繰り返し、残る1個に対しては同様のヒートサイクル試験を1000サイクルまで繰り返した。
その後、500サイクル及び1000サイクルのヒートサイクル試験を実施した各試料について、はんだ材が接合されたCu基板を樹脂に埋め込み、断面研磨を行い、SEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)により接合面の観察を行った。この観察の結果、接合面に剥がれが生じるか又は、はんだ接合体にクラックが入った場合を「×」、そのような不良がなく、初期状態と同様の接合面を保っていた場合を「○」とした。これらの評価結果を下記の表2に示す。
【0034】
<生産性の評価>
本試験サンプルを作製するにあたり、圧延開始から評価用はんだ試料を得るまでの時間を計測し、生産性の評価を行った。
【0035】
【表2】
【0036】
上記の表2から分かるように、本発明の実施例にかかる圧延加工用油を用いた圧延加工工程を経て製造した試料1〜12の各はんだ材は、全ての評価項目において良好な特性を示している。即ち、濡れ性の評価では良好な濡れ性を示し、接合性の評価であるボイド率の測定ではボイドは全く発生しなかった。さらに信頼性の評価であるヒートサイクル試験では全ての試料について1000回まで不良は発生しなかった。このような良好な結果が得られた理由は、揮発性の成分のみからなり、且つ、適切な引火点、炭素数の揮発性の成分を主成分とする圧延加工用油を使用して圧延し、また圧延加工用油の供給方法も適切であったためと言える。
一方、比較例にかかる従来の圧延加工用油を用いた圧延加工工程、及び圧延加工用油を用いない圧延加工工程、を経て製造した試料12〜18の各はんだ材は、本発明の実施例にかかる圧延加工用油を用いた圧延加工工程を経て製造した試料に比べ、生産性が著しく劣ることが確認された。また、一部の試料では濡れ性や接合性、信頼性に劣る結果となった。具体的には、圧延加工用油を用いなかった試料13と16は、得られたはんだ材の表面の平滑性に劣り、酸化による変色も見られ、濡れ性、接合性に劣る結果となった。また、濡れが悪く初期接合も悪かったため、信頼性試験は500回の段階でクラック等が観察されNGであった。圧延加工用油として灯油+なたね油を用いた試料14、15、17、18は、圧延加工後に洗浄で十分には圧延加工用油が除去できない場合も有り、評価用はんだ試料を得るまでに著しく時間を費やした。しかも、試料14、18では、濡れ性の評価では十分な濡れ性が得られず、接合性の評価ではボイド率が4%であり、やや劣る結果となった。さらに信頼性評価においても500回は持ったものの1000回までに不良が発生した。試料15、17は濡れ性が良く、接合性にも大きな問題は無く、信頼性評価も1000回まで不具合は観察されず、圧延加工後に洗浄で十分に圧延加工用油を除去すれば本発明の実施例にかかる圧延加工用油を用いた圧延加工工程を経て製造した試料と同等の特性であるものの、圧延加工用油の除去に時間がかかるため、生産性が著しく劣る結果となった。
以上のことから、本発明の圧延加工用油を用いた圧延加工工程を経て、はんだ材の最終製品を製造すると、従来の圧延加工工程を経て製造した場合と同等以上の特性を有しながら、生産性を向上させることが可能となることが確認できた。