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特開2017-226576リチウムニッケル含有複合酸化物および非水系電解質二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226576(P2017-226576A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】リチウムニッケル含有複合酸化物および非水系電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20171201BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20171201BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20171201BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/525
   H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-124001(P2016-124001)
(22)【出願日】2016年6月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 理史
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AC06
4G048AD04
4G048AD06
4G048AE05
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB12
5H050EA10
5H050EA24
5H050FA02
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA02
5H050HA05
5H050HA13
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】充放電容量を損ねることなく、サイクル特性を改善可能な正極活物質を提供する。
【解決手段】
フラックスとしてリチウム以外のアルカリ金属の化合物を用いて、前駆体とリチウム化合物との混合物を650℃〜800℃の範囲の温度で焼成することにより、遷移金属として主としてニッケルを含有するリチウムニッケル含有複合酸化物からなり、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上である、正極活物質を得る。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属として主としてニッケルを含有し、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上であることを特徴とする、リチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項2】
前記全一次粒子の平均粒径が0.8μm〜15μmの範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項3】
リートベルト解析法によって求められる、前記層状岩塩型の結晶構造の3aサイトにおけるLi席占有率が96.0%以上である、請求項1または2に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項4】
前記遷移金属としてコバルトをさらに含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項5】
添加元素をさらに含み、該添加元素がアルミニウムである、請求項1〜4のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項6】
Li1+uNiCoAl(ただし、−0.03≦u≦0.10、x+y+z+t=1、0.65≦x≦1.00、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0≦t≦0.15、ただし、Mは、Mn、Fe、Ti、V、Mg、Zr、Sr、Si、W、Mo、Cr、およびNbの群から選択される1種以上の元素)で表される組成を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物。
【請求項7】
層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケルを含有する、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物と、リチウム化合物と、リチウム以外のアルカリ金属の化合物とを混合して、混合粉末を得る、混合工程と、
前記混合粉末を、650℃〜800℃の範囲の温度で焼成して、焼結粒子を得る、焼成工程と、
前記焼結粒子を洗浄し、前記リチウム化合物に由来し、フラックスとして作用したリチウム成分、および、フラックスとして作用した前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物に由来する成分を除去する、洗浄工程と、
を備え、
遷移金属として主としてニッケルを含有し、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上であるリチウムニッケル含有酸化物を得る、
ことを特徴とする、リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程において、前記ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素の原子の物質量に対する、前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物中のリチウム以外のアルカリ金属元素の原子の物質量の比率が、0.04〜1.0の範囲となるように、前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物を混合する、請求項7に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法
【請求項9】
前記混合工程において、前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物として、ナトリウム、およびカリウムから選ばれる1種以上のアルカリ金属を含有する、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、または、これらの混合物を用いる、請求項7または8に記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記混合工程において、前記ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素の原子の物質量に対する、前記リチウム化合物中のLi原子の物質量の比率が、0.98〜2.00の範囲となるように、前記リチウム化合物を混合する、請求項7〜9のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法。
【請求項11】
正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、請求項1〜6のいずれかに記載のリチウムニッケル含有複合酸化物が用いられている、非水系電解質二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられるリチウムニッケル含有複合酸化物、並びに、このリチウムニッケル含有複合酸化物を正極材料として用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、モータ駆動用電源、特に輸送機器用電源の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池がある。非水系電解質二次電池は、負極、正極、電解液などにより構成され、その負極および正極の材料としては、リチウムイオンを脱離および挿入することが可能な活物質が用いられている。
【0004】
このような非水系電解質二次電池の正極活物質として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム遷移金属含有複合酸化物が提案されている。
【0005】
これらのリチウム遷移金属含有複合酸化物においては、その一次粒子の粒子形状が種々の電池特性に与える影響は大きい。たとえば、リチウム遷移金属含有複合酸化物の一次粒子が、特定の結晶面が粒子表面に現れているような粒子形状を有すると、そのような粒子形状および高い結晶性に起因して、正極活物質として良好な電池特性が得られることが知られている。
【0006】
たとえば、特開2001−210324号公報には、粒子形状が八面体形状であり、かつ、スピネル型の結晶構造を備えるリチウムマンガン複合酸化物を正極活物質として用いた場合に、そのサイクル特性が改善されることが開示されている。これは、一次粒子の粒子形状を八面体形状とすることにより、充放電に伴う結晶格子の膨張および収縮が粒子間で吸収されやすくなるため、正極の構成要素の1つである導電材との接触不良に伴う、正極活物質の導電性の低下が抑制されるためと考えられている。
【0007】
一方、層状岩塩型の結晶構造を備えるリチウムニッケル含有複合酸化物においても、その一次粒子を自形の粒子形状、すなわち、固有の結晶面が発達している粒子形状として、その結晶性を高めることは、そのサイクル特性を向上させることに寄与するものと考えられる。
【0008】
実際、層状岩塩型の結晶構造を有する正極活物質において、一次粒子の粒子形状を自形のものとすることは可能である。たとえば、「Denis Kramer and Gerbrand Ceder,“Tailoringthe Morphology of LiCoO2: A First Principles Study”, Chemistry of Materials, 2009, 21(16), pp3799-3809」には、第一原理計算により、層状岩塩型の結晶構造を備えるリチウムコバルト複合酸化物において、六角平板形状から八面体形状に近い粒子形状を有する一次粒子が生成する可能性が開示されている。
【0009】
層状岩塩型の結晶構造を備える正極活物質の場合、その結晶構造から、充放電時にLiイオンが移動できる面はc面に平行な平面のみであり、c軸方向へのLiイオンの移動は実質的に困難である。すなわち、粒子形状が六角平板形状である正極活物質では、電解液に接する一次粒子の表面積全体に対する割合として、Liイオンの挿入脱離が不可能な(003)面の比率が大きくなり、(003)面以外のLiイオンの挿入脱離が可能な面の比率が小さくなるため、全体としてLiイオンの挿入脱離が難しくなり、その出力特性や充放電特性を向上させ難くなると考えられる。
【0010】
一方、粒子形状が八面体形状である正極活物質では、粒子形状が六角平板形状である正極活物質と比較して、一次粒子の表面積全体に占める(003)面の割合が小さくなるために、Liイオンを挿入脱離できる面の表面積が増加し、その出力特性、充放電特性、およびサイクル特性に対してその形状が有利に作用すると考えられる。
【0011】
一次粒子の粒子形状が八面体形状である層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物の例として、WO2012/164141号公報(特表2014−523383号公報)には、コバルト溶液、アンモニアを含む物質、および水酸化アルカリを同時に反応させる晶析工程において、コバルト濃度とpHの制御により、八面体形状の一次粒子を含む水酸化コバルト粒子を得て、該水酸化コバルト粒子を焼成して酸化コバルト粒子を得て、さらに、該酸化コバルト粒子とリチウム化合物とを混合して焼成することにより、層状岩塩型の結晶構造を備え、八面体形状の一次粒子を含むリチウムコバルト酸化物からなる正極活物質が開示されている。
【0012】
しかしながら、リチウムコバルト酸化物はリチウムニッケル酸化物と比較して充放電容量が低く、電池の高容量化という観点から十分な充放電容量を有しているとはいえない。また、後述のカチオンミキシングのために、同様のプロセスで層状岩塩型構造を有するリチウムニッケル酸化物を合成することは困難である。
【0013】
また、「Yongseon Kim, “Lithium Nickel CobaltManganese Oxide Synthesized Using Alkali Chloride Flux: Morphology andPerformance As a Cathode Material for Lithium Ion Batteries”, ACS Applied Materials & Interfaces, 2012, 4(5), pp 2329-2333」には、フラックスとしてNaClを用いたフラックス法により合成された、八面体形状の一次粒子を含む、LiNi0.8Co0.1Mn0.1(NCM811)が開示されている。
【0014】
しかしながら、その一次粒子の粒子形状が八面体形状であることはSEMで確認できるものの、その粉末X線回折パターンからは、(003)面と(104)面に帰属するX線回折強度の比「(003)/(104)」が、約0.9程度と小さい。このため、カチオンミキシング、すなわち、Ni2+とLiのイオン半径が近似していることに起因する、層状岩塩型の結晶構造(α−NaFeO型)の3bサイトに入るべきNiが、Liが入るべき3aサイトに混入してしまう現象が生じていることが示唆され、これに起因して、このようなリチウムニッケル含有複合酸化物を用いた二次電池において、その充放電容量が本来想定される値と比べて低くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2001−210324号公報
【特許文献2】WO2012/164141号公報(特表2014−523383号公報)
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Denis Kramer and Gerbrand Ceder, “Tailoringthe Morphology of LiCoO2: A First Principles Study”, Chemistry of Materials, 2009, 21(16), pp3799-3809
【非特許文献2】Yongseon Kim, “Lithium Nickel CobaltManganese Oxide Synthesized Using Alkali Chloride Flux: Morphology andPerformance As a Cathode Material for Lithium Ion Batteries”, ACS Applied Materials & Interfaces, 2012, 4(5), pp 2329-2333
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、充放電特性とサイクル特性のいずれにも優れた正極活物質、より具体的には、リチウムニッケル含有複合酸化物が有する優れた充放電容量を損ねることなく、そのサイクル特性を改善しうる、八面体形状の一次粒子を有し、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一態様は、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に係り、該リチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、前記全一次粒子の平均粒径が0.8μm〜15μmの範囲にあることが好ましい。
【0020】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、リートベルト解析法によって求められる、層状岩塩型の結晶構造の3aサイトにおけるLi席占有率が96.0%以上であることが好ましい。
【0021】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、コバルト(Co)、あるいは、アルミニウム(Al)を添加元素として含むことが好ましい。さらに、該リチウムニッケル含有複合酸化物は、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、−0.03≦u≦0.10、x+y+z+t=1、0.65≦x≦1.00、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0≦t≦0.15、ただし、Mは、Mn、Fe、Ti、V、Mg、Zr、Sr、Si、W、Mo、Cr、およびNbの群から選択される1種以上の元素)で表される組成を有することが好ましい。
【0022】
本発明の別の一態様は、リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法に係り、該製造方法は、層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有する、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物と、リチウム化合物と、リチウム以外のアルカリ金属の化合物とを混合して、混合粉末を得る、混合工程と、
前記混合粉末を、650℃〜800℃の範囲の温度で焼成して、焼結粒子を得る、焼成工程と、
前記焼結粒子を洗浄し、前記リチウム化合物に由来し、フラックスとして作用したリチウム成分、および、フラックスとして作用した前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物に由来する成分を除去する、洗浄工程と、
を備え、
遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有し、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上である、リチウムニッケル含有酸化物を得る、
ことを特徴とする。
【0023】
前記混合工程において、前記ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素、すなわち、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、および添加元素Mの原子の合計の物質量に対する、前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物中の、リチウム以外のアルカリ金属元素の原子の物質量の比率が、0.04〜1.0の範囲となるように、前記アルカリ金属の化合物を混合することが好ましい。
【0024】
この場合、前記混合工程において、前記リチウム以外のアルカリ金属の化合物として、ナトリウム(Na)、およびカリウム(K)から選ばれる1種以上のアルカリ金属を含有する、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、または、これらの混合物を用いることが好ましい。
【0025】
また、前記混合工程において、前記ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素の原子の物質量に対する、前記リチウム化合物中のLi原子の物質量の比率が、0.98〜2.00の範囲となるように、前記リチウム化合物を混合することが好ましい。
【0026】
前記焼成工程における焼成時間は、1時間〜72時間の範囲とすることが好ましい。
【0027】
本発明のさらに別の一態様は、非水系電解質二次電池に係り、該二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、非水系電解質とを備え、前記正極の正極材料として、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物が用いられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物において、該リチウムニッケル含有複合酸化物が有する優れた充放電容量を損ねることなく、その一次粒子の一部の形状を八面体形状とすることにより、優れた充放電容量を維持しつつ、そのサイクル特性が改善された正極活物質を提供することができる。
【0029】
また、本発明によれば、このようなリチウムニッケル含有複合酸化物を工業規模の生産においても、効率的に製造可能な方法を提供することができる。
【0030】
このため、本発明の工業的意義はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の実施例1で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の八面体形状の一次粒子を示すSEM写真(10000倍)である。
図2図2は、本発明の実施例1で得られたリチウムニッケル含有複合酸化物のSEM写真(1000倍)である。
図3図3は、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造工程を示すフローチャートである。
図4図4は、従来の粒子形状を備えた、リチウムニッケル含有複合酸化物の二次粒子を示すSEM写真(5000倍)である。
図5図5は、電池評価に使用した2032型コイン電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
上述したように、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物においても、スピネル型の結晶構造を備えたリチウムマンガン含有複合酸化物と同様に、一次粒子の形状を八面体形状とすることにより、そのサイクル特性を向上させることができることが示唆される。しかしながら、これまで得られた八面体形状の一次粒子を含む、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物においては、これを正極材料として用いた非水系電解質二次電池において、その充放電容量が低くなってしまうという問題を解消することができていない。
【0033】
本発明者らは、フラックス法におけるフラックスと、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の形状、結晶性、充放電容量、およびサイクル特性との関係を鋭意検討した。その結果、前駆体であるニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物に、リチウム化合物とともに、特定のフラックスを添加して、焼成することにより、八面体形状の一次粒子を含み、結晶構造の乱れが小さく、結晶性が高く、かつ、一次粒径が大きい、層状岩塩型の結晶構造を備えたリチウムニッケル含有複合酸化物を得ることができるとの知見を得た。
【0034】
本発明は、この知見に基づき完成したものである。以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0035】
(1)リチウムニッケル含有複合酸化物
本発明は、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に係る。特に、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を備え、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、前記(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比が1.15以上であり、かつ、八面体形状の一次粒子を含み、該八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率が1.0%以上であることを特徴とする。
【0036】
[組成]
本発明は、層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有するリチウムニッケル含有複合酸化物に広く適用される。なお、ニッケルを主として含むとは、リチウムを除く、遷移金属および添加金属元素の総量に対して、原子数比でニッケルが0.5以上の割合で含まれることを意味する。特に、本発明は、コバルト(Co)、あるいは、アルミニウム(Al)を添加元素として含むリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質に好適に適用される。
【0037】
より具体的には、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、一般式:Li1+uNiCoAl(ただし、−0.03≦u≦0.10、x+y+z+t=1、0.65≦x≦1.00、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0≦t≦0.15、ただし、Mは、Mn、Fe、Ti、V、Mg、Zr、Sr、Si、W、Mo、Cr、およびNbの群から選択される1種以上の元素)で表される組成を有することが好ましい。
【0038】
本発明において、リチウム(Li)量を示すuの値は、−0.03以上0.10以下、好ましくは−0.02以上0.05以下、より好ましくは0以上0.04以下の範囲に調整される。これにより、このリチウムニッケル含有複合酸化物を正極材料として用いた二次電池において、十分な充放電容量および出力特性を確保することができる。これに対して、uの値が−0.03未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなり、出力特性が低下することとなる。一方、uの値が0.10を超えると、二次電池の充放電容量および出力特性が低下することとなる。
【0039】
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、その含有量を示すxの値は、0.65以上1.00以下、好ましくは0.75以上0.90以下、より好ましくは0.80以上0.85以下の範囲に調整される。本発明において、xの値が0.65未満では、この正極活物質を用いた二次電池の充放電容量を十分に向上させることができない。
【0040】
コバルト(Co)は、二次電池の充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、0.35以下、好ましくは0.10以上0.30以下、より好ましくは0.10以上0.20以下の範囲に調整される。本発明において、yの値が0.35を超えると、この正極活物質を用いた二次電池において、サイクル特性を向上させつつ、充放電容量を十分に向上させることができない。
【0041】
アルミニウム(Al)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、0.10以下、好ましくは0.01以上0.08以下、より好ましくは0.01以上0.05以下の範囲に調整される。zの値が0.10を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、充放電容量が低下することとなる。
【0042】
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物においても、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、ニッケル、コバルト、およびアルミニウムに加えて、追加的な添加元素を含有させることも可能である。このような添加元素としては、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、チタン(Ti)、バナジウム(V)マグネシウム(Mg)、ジルコニウム(Zr)、ストロンチウム(Sr)、ケイ素(Si)、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Cr(クロム)、およびNb(ニオブ)の群から選択される1種以上を用いることができる。
【0043】
これらを含有させる場合には、添加元素の含有量を、遷移金属および添加元素の総量に対する原子比で、0.15以下、好ましくは0.10以下の範囲に調整することが好ましい。
【0044】
なお、アルミニウムおよび追加的な添加元素は、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子および/または二次粒子の粒子内部に均一に分散させてもよく、その粒子表面に被覆させてもよい。さらには、粒子内部に均一に分散させた上で、その粒子表面に被覆させてもよい。
【0045】
また、リチウム、ニッケル、コバルト、アルミニウム、および追加的な添加元素の含有量は、ICP発光分光分析法により測定することができる。
【0046】
[結晶構造およびリチウム席占有率]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、層状岩塩型の結晶構造を有し、高い結晶性を備えている。具体的には、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物を構成する粒子における3a、3b、6cの各サイトを[Li1+u3a[NiCoAl3b[O6cで表示した場合、粉末X線回折のリートベルト解析から得られる3aサイトのリチウム席占有率が96.0%以上、好ましくは96.5%以上、より好ましくは97.0%以上、さらに好ましくは98.0%以上である。このような高いリチウム席占有率を有することにより、このリチウムニッケル含有複合酸化物を正極材料として用いた二次電池において、高い充放電容量を実現することが可能となる。
【0047】
[ピーク高さの比]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の層状岩塩型の結晶構造において、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる、(003)面と(104)面に帰属するピークの高さ(ピークの最大値からバックグラウンドを差し引いた値)の比「(003)/(104)」が、1.20以上であることを特徴とする。このピークの高さの比が大きいほど、結晶子の大きさが(003)方向(c軸方向)に大きくなっていると考えられ、結果としてLiが挿入および脱離が困難な(003)面の比率が少ない自形の結晶が得られるため、電池特性の向上に寄与するものと考えられる。
【0048】
このピークの高さの比は、好ましくは1.50以上であり、より好ましくは2.00以上である。
【0049】
[ピーク強度の比]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の層状岩塩型の結晶構造において、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる、(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比「(003)/(104)」が、1.15以上であることを特徴とする。このピーク強度の比から、結晶構造の乱れを判断することができる。たとえば、カチオンミキシングが生じている場合、すなわち、結晶構造が層状岩塩型から岩塩型へ近づく場合、(003)面に帰属するX線回折強度が小さくなる。このとき、このピーク強度の比の値が小さくなる。したがって、このピーク強度の比が大きいほど、乱れの少ない層状岩塩型構造であることを意味する。
【0050】
本発明においては、このピーク強度の比は、1.20以上であることが好ましく、1.25以上であることがより好ましい。
【0051】
[粒子性状]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物は、八面体形状の一次粒子を含むことを特徴とする。ここで、八面体形状には、完全な八面体により構成される場合のみならず、実質的に八面体形状であることが確認できれば、その頂点や辺の一部が欠けた形状も含まれる。たとえば、平滑な結晶面が互いに交差して明瞭な稜線が形成された八面体に近い形状、八面体の4面が交差して形成される頂点が完全には形成されずに面または稜の形で形成された形状、八面体の2面が交差して形成される稜の部分に他の結晶面が現れている形状、およびこれらの形状の一部が欠けた形状も、本発明の八面体形状に含まれる。
【0052】
一次粒子が、層状岩塩型構造に由来する自形の形状を有することは、粒子の結晶性が高いことを示していると考えられ、充放電に伴うリチウムイオンの挿入および脱離による一次粒子の結晶構造の変化が生じにくくなるため、充放電サイクル特性の向上に寄与するものと考えられる。八面体形状以外の自形の粒子形状としては、前述の通り、六角平板形状が考えられる。八面体形状とこの六角平板形状と比較すると、c面に平行な平面以外のLiイオンの挿入脱離が可能な面の表面積が増加するため、八面体形状とすることにより、その出力特性、充放電特性、およびサイクル特性に対してその形状が有利に作用すると考えられる。
【0053】
八面体形状は、走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いた顕微鏡観察およびその他の公知の手段によって、確認および判断をすることができる。
【0054】
なお、本発明においては、前記形状の一次粒子同士が結晶面を共有し、または一次粒子の表面の一部から他の一次粒子結晶が成長している場合、および一次粒子同士が複雑に結晶面を共有して八面体を構成単位とする多面体からなる二次粒子を形成している場合も、一次粒子が八面体形状を有しているものとする。
【0055】
また、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物中の粒子性状については、主として粒界がなく比較的大きな一次粒子により構成されていることが好ましいが、二次粒子を含む場合も本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物に含まれる。
【0056】
[八面体形状の一次粒子の割合]
さらに、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物においては、すべての一次粒子が八面体形状を有していなければならないわけではない。すなわち、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物を構成する一次粒子において、八面体形状を有する一次粒子の存在比率は高いほど好ましいが、八面体形状の一次粒子がたとえ少量であっても、出力特性および充放電特性の向上とともに、その高い結晶性に起因して、八面体形状の一次粒子を含むリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質全体のサイクル特性を向上させる効果を生ずる。このような特性面から鑑みて、本発明における八面体形状の一次粒子の存在比率は、一次粒子全体の1.0%以上(1.0%〜100%の範囲)であることが必要である。その存在比率は、2.0%以上であることが好ましく、2.5%以上であることがより好ましい。その上限は限定されないが、その存在比率が、1.0%〜5.0%の範囲にあれば、正極活物質のサイクル特性の向上の効果が十分に得られる。
【0057】
なお、八面体形状の一次粒子の存在比率についても、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。具体的には、1視野以上のSEM写真を撮影した後、単位面積当たりの全一次粒子と八面体形状の一次粒子の個数をカウントして、八面体形状の一次粒子の数の全一次粒子の数に対する比率を求める。
【0058】
[平均粒径]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物において、八面体形状の一次粒子を含む全一次粒子の平均粒径は、好ましくは0.8μm〜15μmの範囲であり、より好ましくは1.2μm〜15μmの範囲であり、さらに好ましくは、2.0μm〜15μmの範囲である。一次粒子の平均粒径を0.8μm以上とすることで、正極活物質を、粒界がなく比較的大きな一次粒子により構成することができ、もって、そのサイクル特性をより向上させるとともに、その保存特性も向上させることが可能となる。ただし、一次粒子の平均粒径が15μmを超えると、比表面積が小さくなりすぎるため、出力特性が著しく悪化することとなる。
【0059】
なお、一次粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により測定することができる。具体的には、1視野以上のSEM写真を撮影した後、合計200個以上の一次粒子について、その最大径を測定し、これらの測定値の平均値(相加平均)を算出することにより求めることができる。
【0060】
(2)リチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法は、a)層状岩塩型の結晶構造を備え、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有する、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物と、リチウム化合物と、リチウム以外のアルカリ金属(以下、「アルカリ金属D」と略す場合がある)の化合物とを混合して、混合粉末を得る、混合工程と、b)前記混合粉末を、酸素雰囲気下で650℃〜800℃の範囲の温度で焼成して、焼結粒子を得る、焼成工程と、c)前記焼結粒子を洗浄し、アルカリ金属元素Dを除去する、洗浄工程と、を備えることを特徴とする。
【0061】
このような工程を経ることにより、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有し、層状岩塩型の結晶構造を備え、八面体形状の一次粒子を含み、X線源としてCu−Kα線を用いた粉末X線回折から得られる(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比が1.20以上であり、好ましくはこのピークの積分強度比が1.15以上であるリチウムニッケル含有酸化物を得ることができる。
【0062】
適正なピーク高さの比、さらには適正なピーク強度の比や、高いLi席占有率を維持するためには、650℃以上800℃以下の温度で焼成することが必要である。800℃を超える温度で焼成を行った場合、前述のようにカチオンミキシングが進行し、適正なピーク高さの比、さらには適正なピーク強度の比や、高いLi席占有率を維持することができない。その一方で、650℃より低い温度で焼成を行った場合は、結晶成長が十分に進まないため、本発明に示すような、自形の結晶を得ることはできない。
【0063】
本発明では、従来のNaClに代替して、アルカリ金属Dの化合物をフラックスとして用いることにより、800℃以下の焼成温度であっても、結晶(溶質)とフラックス(溶媒)との間で、溶解および再析出が生じるために、結晶成長が促進され、特定の結晶面が表面に露出した、自形の八面体形状を有する一次粒子を得ることができる。
【0064】
なお、最終的に得られるリチウムニッケル含有複合酸化物が、Li1+uNiCoAl(ただし、−0.03≦u≦0.10、x+y+z+t=1、0.65≦x≦1.00、0≦y≦0.35、0≦z≦0.10、0≦t≦0.15、ただし、Mは、Mn、Fe、Ti、V、Mg、Zr、Sr、Si、W、Mo、Cr、およびNbの群から選択される1種以上の元素)で表される組成を有するように、混合工程において混合される、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有酸化物、およびリチウム化合物のそれぞれの投入量を調整することが好ましい。
【0065】
[前駆体]
本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の前駆体としては、遷移金属として主としてニッケル(Ni)を含有する、ニッケル含有複合水酸化物が用いられる。
【0066】
共沈法によるニッケル含有水酸化物の晶析を行う装置、工程、手段、条件などについては、公知のいずれの方法を採ることも可能である。
【0067】
典型的には、ニッケル塩、さらには、コバルト塩、その他の金属塩を含む混合水溶液からなる原料水溶液に、pH調整剤としての水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液と、アンモニウムイオン供給体としてのアンモニア水などを添加して、反応溶液の温度を40℃〜60℃に、pHを液温25℃基準で11.1〜13.0に、アンモニア濃度を3g/L〜25g/Lにそれぞれ維持しつつ、ニッケル含有複合水酸化物を共沈させる。
【0068】
混合工程前に、ニッケル含有複合水酸化物を、好ましくは、105℃〜800℃の温度範囲で、より好ましくは300℃〜600℃の温度範囲で熱処理する。このような熱処理によって、ニッケル含有複合水酸化物中に焼成工程まで残留している水分を減少させることができる。言い換えれば、ニッケル含有複合水酸化物をニッケル含有複合酸化物に転換することができるので、製造される正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合がばらつくことを防ぐことができる。ただし、正極活物質中の金属の原子数やリチウムの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしも全てのニッケル含有複合水酸化物をニッケル含有複合酸化物に転換する必要はない。
【0069】
[混合工程]
混合工程における、混合方法は、これらを均一に混合することができる限り、特に制限されることはなく、たとえば、乳鉢を用いて混合したり、シェーカーミキサ、レディーゲミキサ、ジュリアンミキサ、Vブレンダなどの混合機を用いて混合したりすることができる。
【0070】
(a)混合工程におけるアルカリ金属Dの化合物の混合比
混合工程における、アルカリ金属Dの化合物の混合比は、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素、すなわち、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、および添加元素Mの原子の合計の物質量(あるいは原子数)に対する、アルカリ金属Dの化合物中のアルカリ金属Dの原子の物質量(あるいは原子数)の比率が、0.04〜1.0の範囲となるように設定される。
【0071】
アルカリ金属Dの化合物は、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物と、リチウム化合物との混合物、もしくはこれらの合成により得られたリチウムニッケル含有複合酸化物を溶質とした場合の融剤(フラックス)として用いられ、かつ、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子を八面体形状とする要因となる。
【0072】
フラックスとして、従来のNaClを用いた場合、カチオンミキシングに起因する、正極活物質におけるリチウム席占有率の低下を招く。これに対して、本発明は、フラックスとして、アルカリ金属Dの化合物を用いることにより、前述したとおり、焼成工程におけるカチオンミキシングが防止され、結晶成長の促進による自形の八面体形状を有する一次粒子を得ることができる。
【0073】
アルカリ金属Dの化合物の混合率は、リチウムニッケル含有複合酸化物の一次粒子の八面体形状化、一次粒子全体における八面体形状の一次粒子の存在比率、さらには、溶質の結晶成長の促進など、フラックス法の制御因子などを考慮して、上記範囲で適宜設定される。この混合比は、好ましくは0.04〜1.0の範囲、より好ましくは0.10〜0.50の範囲となるように設定される。
【0074】
(b)混合工程で用いるフラックスの物質種
アルカリ金属Dの化合物としては、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)などの化合物を広く適用することが可能であるが、入手の容易さや取り扱いやすさなどの観点から、ナトリウムおよびカリウムから選ばれる1種以上のアルカリ金属を含有する、水酸化物、塩化物、炭酸塩、硫酸塩、または、これらの混合物を用いることが好ましい。ナトリウムやカリウムは、リチウムに比して層状岩塩型構造の結晶構造中に入り込みにくいため、目的のリチウムニッケル含有複合酸化物中のフラックスによる不純物量を抑えることができる。
【0075】
これらの化合物のうち、水への溶解度が高く、洗浄工程における洗浄除去が容易であること、融点が比較的低いこと、アルカリ金属以外の不純物(たとえば、化合物を構成する塩素や硫黄など)の混入がないことから、アルカリ金属水酸化物を用いることが好ましい。
【0076】
(c)混合工程におけるリチウム化合物の混合比
混合工程における、リチウム化合物の混合比は、アルカリ金属Dの化合物の混合比に応じて、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物中の金属元素、すなわち、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、アルミニウム(Al)、および添加元素Mの原子の合計の物質量(あるいは原子数)に対する、リチウム化合物中のリチウム(Li)原子の物質量(あるいは原子数)の比率が、0.98〜2.00の範囲、好ましくは1.00〜1.50の範囲となるように設定されることが好ましい。リチウム化合物の一部は、アルカリ金属Dの化合物とともにフラックスとして作用すると考えられる。したがって、最終的なリチウムの含有量が、リチウムニッケル含有複合酸化物中のニッケル、コバルト、アルミニウム、および添加元素Mの合計の含有量に対して、好ましくは0.97〜1.10の範囲、より好ましくは0.98〜1.05の範囲、さらに好ましくは、1.00〜1.04の範囲となるようにするとともに、焼成工程において揮発するリチウムの成分を考慮して、好ましくは予備試験を実施した上で、リチウム化合物の混合比は適宜決定される。リチウム源となるリチウム化合物としては、取り扱いやすさや入手の容易さなどの観点から、水酸化物、塩化物、酸化物、その他の無機塩、または任意の有機塩から選択される。
【0077】
[焼成工程]
焼成工程は、混合工程で得られた、ニッケル含有複合水酸化物あるいはニッケル含有複合酸化物と、リチウム化合物と、アルカリ金属Dの化合物との混合粉末を、650℃〜800℃の範囲の温度で焼成し、焼結粒子(リチウムニッケル含有複合酸化物の焼結体)を得る工程である。
【0078】
なお、焼成工程で用いる炉は、大気ないしは酸素気流中において、混合工程で得られた混合粉末を焼成することができる限り、特に制限されることはなく、バッチ式または連続式の炉のいずれも用いることができる。
【0079】
(a)焼成雰囲気
焼成工程における雰囲気は、カチオンミキシングの生じにくさから、大気雰囲気を含む酸化性雰囲気とすることが好ましい。より具体的には、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気、すなわち、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気(大気雰囲気を含む)を採用することが可能である。通常、焼成は、大気気流中ないしは酸素気流中で行われるが、電池特性を考慮すると、焼成を酸素気流中で行うことが特に好ましい。
【0080】
(b)焼成温度
第一の焼成工程における焼成温度は、650℃〜800℃の範囲、好ましくは700℃〜800℃の範囲とする。焼成温度が650℃未満では、アルカリ金属Dの化合物からなるフラックスの溶融が不十分であり、ひいては、溶質となるリチウムニッケル複合酸化物の結晶成長が促進されないおそれがある。一方、焼成温度が800℃を超えると、一次粒子を大きくすることはできるものの、カチオンミキシングが生じ、その結晶性が低下することとなる。また、リチウムニッケル複合酸化物からリチウム成分の過剰揮発が生じ、所定の組成からのずれが大きくなり特性面に悪影響を与えるおそれがある。
【0081】
(c)焼成時間
焼成工程において、焼成温度で保持する時間(焼成時間)は、好ましくは1時間〜72時間の範囲、より好ましくは5時間〜48時間の範囲である。72時間を超えて焼成した場合、粒子サイズは増大するが、リチウムニッケル複合酸化物からのリチウム成分の揮発が過度に進行し、結晶性の低下を招くおそれがある。一方、焼成時間が1時間未満の場合は、結晶成長が十分に進行しないため、自形の八面体形状の一次粒子を得ることが難しくなると考えられる。
【0082】
[洗浄工程]
洗浄工程は、焼成工程で得られた焼結粒子を洗浄し、混合工程において添加したリチウム化合物に由来するが、リチウムニッケル含有複合酸化物を構成するのではなく、フラックスとして作用したリチウム成分、および、混合工程においてフラックスとして添加されたアルカリ金属Dの化合物に由来する成分、すなわち元素状態で存在するアルカリ金属Dを除去する工程である。
【0083】
洗浄方法としては、特に制限されることなく、公知の方法を利用することができる。たとえば、フラックスとして作用しているリチウム成分およびアルカリ金属D成分を溶解可能な液体、具体的には、水やアルコール中に焼結粒子を投入するとともに撹拌し、アルカリ金属D成分の残渣を溶解した後、焼結粒子を公知の方法により濾別および乾燥する方法を採用することができる。ただし、どのような方法を用いる場合であっても、洗浄工程後の焼結粒子に含まれるアルカリ金属Dの含有量が0.5質量%以下となるように、焼結粒子を洗浄することが必要となる。
【0084】
なお、洗浄工程後の焼結粒子に含まれるアルカリ金属Dの含有量を上記範囲に制御するための条件は、洗浄する焼結粒子の量やその性状などに応じて異なり、一義的に定めることはできない。このため、予備試験を実施した上で、洗浄条件を適宜選択することが好ましい。
【0085】
また、アルカリ金属Dと同様に、リチウムも水やアルコールに対する溶解度が高いため、洗浄工程中に、焼結粒子の表面に存在するリチウムが溶出し、溶媒中の水素イオン(H)に置換される、プロトン交換反応が生じる場合がある。このようなプロトン交換反応を防止するため、溶媒として、水酸化リチウムや炭酸リチウムなどのリチウム化合物を溶解した、リチウムイオンを含有する水溶液を用いることが好ましい。
【0086】
なお、従来のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法においては、洗浄工程の後にリチウム化合物と再混合し、再焼成することが行われる場合がある。これは、洗浄工程中にプロトン交換反応が生じて、焼結粒子中のリチウム量が不足する場合があるからである。しかしながら、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物の製造方法においては、このような再混合および再焼成の工程は設けられない。このような工程により一次粒子の一部が有する八面体形状の構造が破壊されてしまうことを防止するためである。
【0087】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、正極、負極、セパレータ、非水系電解液などの、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素を備える。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明の非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基づいて、種々の変更、改良を施した形態に適用することも可能である。
【0088】
[構成部材]
a)正極
本発明により得られた非水系電解質二次電池用正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにして非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0089】
まず、本発明により得られた粉末状の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部とし、導電材の含有量を1質量部〜20質量部とし、結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
【0090】
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧してもよい。このようにして、シート状の正極を作製することができる。この正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断して、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることはなく、他の方法を利用してもよい。
【0091】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0092】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0093】
また、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0094】
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金など、あるいは、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
【0095】
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0096】
c)セパレータ
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に制限されることはない。
【0097】
d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0098】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0099】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびこれらの複合塩などを用いることができる。
【0100】
さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0101】
[非水系電解質二次電池]
以上の正極、負極、セパレータおよび非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。
【0102】
いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層することにより電極体とし、これを非水系電解液に含浸し、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通じる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続した後、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0103】
[非水系電解質二次電池の特性]
本発明の非水系電解質二次電池は、上述したように、本発明の正極活物質を正極材料として用いているため、充放電容量およびサイクル特性のいずれにも優れている。
【0104】
たとえば、本発明の正極活物質を用いて、図5に示すような2032型コイン電池を構成した場合には、180mAh/g以上、好ましくは185mAh/g以上の初期放電容量と、85%以上、好ましくは90%以上の500サイクル放電容量維持率を同時に達成することができる。
【0105】
[用途]
本発明の非水系電解質二次電池は、上述のように、充放電容量およびサイクル特性の両方に優れるため、小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源、および、モータ駆動用の電源のいずれにも好適である。
【実施例】
【0106】
以下、本発明について、実施例および比較例を用いて、さらに詳細に説明する。なお、本実施例は本発明の例示の一つであり、本発明の要旨を逸脱しない限り、これらに限定されることはない。
【0107】
(実施例1)
(1)前駆体(ニッケル含有複合水酸化物)の作製
まず、硫酸ニッケル六水和物と硫酸コバルト七水和物とを、Ni:Co=82:15となる原子比で水に溶解し、1.9mol/Lの原料水溶液を調製した。この原料水溶液に、pH調整剤としての水酸化ナトリウム水溶液と、アンモニウムイオン供給体としてのアンモニア水を滴下しながら、液温を50℃、pH値(液温25℃基準)を12.0に調整し、ニッケルコバルト複合水酸化物を共沈させた。
【0108】
次に、得られたニッケルコバルト複合水酸化物に水を加えてスラリー化した。このスラリーを撹拌しながら、1.7mol/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液とpH調整剤としての64質量%の硫酸を、Ni:Co:Al=82:15:3となる原子比で加えるとともに、pH値(液温25℃基準)を9.5に調整し、さらに1時間ほど撹拌を続けることで、ニッケルコバルト複合水酸化物の粒子表面をアルミニウムで被覆した。
【0109】
その後、スラリーを水洗、ろ過、および乾燥して、粉末状のアルミニウム被覆ニッケルコバルト複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」という)を得た。ICP発光分光分析法によるNi、Co、Al成分の分析の結果、この複合水酸化物は、一般式:Ni0.82Co0.15Al0.03(OH)で表されることが確認された。
【0110】
(2)リチウムニッケル含有複合酸化物の作製
この複合水酸化物と、リチウム化合物としての水酸化リチウム一水和物(和光純薬工業株式会社製、純度98.0%〜102.0%)と、アルカリ金属Dの化合物としての水酸化カリウム(関東化学株式会社製、純度86%)とを、原子数比で(Me=Ni+Co+Al):Li:K=1.00:1.33:0.348となるように、それぞれ秤量し、乳鉢を用いて混合し、混合粉末を得た(混合工程)。
【0111】
次に、得られた混合粉末を、酸素雰囲気にて、温度730℃で24時間焼成することにより、焼結粒子を得た(焼成工程)。
【0112】
続いて、得られた焼結粒子をビーカーに入れ、水に水酸化リチウムを0.47mol/Lの濃度で溶解させた水溶液を加えて、洗浄およびろ過を行った(洗浄工程)。
【0113】
その後、温度200℃にて、10時間真空乾燥させ、正極活物質としてのリチウムニッケル含有複合酸化物(リチウムニッケルコバルトアルミニウム複合酸化物)を得た。この正極活物質の元素分率(原子比)を、ICP発光分光分析法により測定した結果、この正極活物質は、一般式:Li1.056Ni0.815Co0.145Al0.037で表されるリチウムニッケル含有複合酸化物からなることが確認された。なお、この正極活物質において、有意量のカリウムは測定されなかった。
【0114】
また、粉末X線回折測定(使用機器:スペクトリス株式会社社製 X’pert Pro MPD、測定条件:Cu−Kα線、加速電圧:45kV)よる分析の結果、この正極活物質は、層状岩塩型構造(α−NaFeO構造)を有すること、および、(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比は、2.16であり、また、(003)面と(104)面に帰属するピークの積分強度の比は、1.30であることが確認された。また、リートベルト解析によって算出されたLi席占有率は99.4%であった。
【0115】
さらに、SEM(使用機器:日本電子株式会社製 JSM−7001F)を用いて、3視野のSEM写真を撮影し、撮像から合計1154個の一次粒子について観察を行ったところ、最終的に得られた正極活物質の粉末中においては、八面体形状の一次粒子が過度に凝集しない状態で存在していることが確認された。八面体形状の一次粒子の存在比率は、3.93%であった。また、八面体形状の一次粒子を含む一次粒子全体の平均粒径は、2.94μmであった。実施例1により得られた八面体形状の一次粒子を示すSEM写真(10000倍)を図1に示す。また、実施例1により得られたリチウムニッケル含有複合酸化物を示すSEM写真(1000倍)を図2に示す。
【0116】
実施例1について、フラックス種、混合比、焼成条件、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物の組成について、表1に示す。また、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物における、八面体の一次粒子の存在比率、(003)面と(104)面に帰属するピークの高さの比、ピークの積分強度の比、Li席占有率について、表2に示す。
【0117】
(3)二次電池の作製および評価
得られたリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質を、二次電池の正極材料として用い、その電池特性の評価、具体的には充放電特性(放電容量)およびサイクル特性(放電容量維持率)を測定し、得られた正極活物質の特性として評価した。
【0118】
具体的には、得られた正極活物質を正極材料として用いて、図5に示すような2032型コイン電池1を作製した。この2032型コイン電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。
【0119】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0120】
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0121】
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密かつ液密に遮断する機能も有している。
【0122】
この2032型コイン電池1を、以下のようにして作製した。はじめに、上述の正極活物質を85質量%、アセチレンブラックを10質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n−メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の正極化活物質の面密度が7mg/cmとなるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、直径が13mmの円板状に打ち抜くことで、正極3aを作製した。なお、負極3bにはリチウム金属を、電解液には、1MのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液を使用し、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で、2032型コイン電池1を組み立てた。
【0123】
[充放電特性]
2032型コイン電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、25℃で、正極に対する電流密度を正極活物質重量に対して9mA/gとして、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行い、初期放電容量を求めることにより、充放電特性を評価した。この際、放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0124】
[サイクル特性]
サイクル特性は、上述の正極活物質を85質量%、アセチレンブラックを10質量%、PVDFを5質量%ずつ秤量し、これらを混合した後、これにNMP(n−メチルピロリドン)を適量加えてペースト状にした。この正極合材ペーストを、アルミニウム箔上に、乾燥後の正極化活物質の面密度が7mg/cmとなるように塗布し、120℃で真空乾燥した後、30mm×50mmに切り抜くことで、正極膜を作製した。負極にはカーボンを用い、電解液には、1MのLiPF6を支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を3:7の体積比で混合した混合液を用いて、ラミネートセルを作製した。温度60℃、正極に対する電流密度を正極活物質の重量に対して360mA/gとして、4.1Vまで充電して3.0Vまで放電するサイクルを500回繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して、放電容量維持率(500サイクル容量維持率)を求めることにより、サイクル特性を評価した。
【0125】
実施例1で得られた正極活物質の放電容量および放電容量維持率を表2に示す。
【0126】
以下、実施例2、実施例3、および比較例1においても、得られたリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質およびこの正極活物質を正極材料として用いた二次電池について、同様の評価を行った。同様に測定結果および評価結果を表1および表2に示す。
【0127】
(実施例2)
混合工程において、複合水酸化物と、水酸化リチウム一水和物と、水酸化カリウムとを、原子数比で(Ni+Co+Al):Li:K=1.00:1.15:0.174となるように、混合したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。ICP発光分光分析法により測定した結果、この正極活物質は、一般式:Li1.010Ni0.818Co0.146Al0.036で表されるリチウムニッケル含有複合酸化物からなることが確認された。また、この正極活物質において、有意量のカリウムは測定されなかった。なお、2視野のSEM写真から合計517個の一次粒子について観察を行ったところ、八面体形状の一次粒子の存在比率は、2.95%であった。また、八面体形状の一次粒子を含む一次粒子全体の平均粒径は、2.10μmであった。
【0128】
(実施例3)
混合工程において、複合水酸化物と、水酸化リチウム一水和物と、水酸化カリウムとを、原子数比で(Me=Ni+Co+Al):Li:K=1.00:1.09:0.087となるように、混合したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。この正極活物質は、一般式:Li1.000Ni0.818Co0.146Al0.036で表されるリチウムニッケル含有複合酸化物からなることが確認された。また、この正極活物質において、有意量のカリウムは測定されなかった。なお、2視野のSEM写真から合計879個の一次粒子について観察を行ったところ、八面体形状の一次粒子の存在比率は、2.19%であった。また、八面体形状の一次粒子を含む一次粒子全体の平均粒径は、1.43μmであった。
【0129】
(比較例1)
混合工程において、水酸化カリウムを添加せず、複合水酸化物と水酸化リチウム一水和物のみを、原子数比で(Me=Ni+Co+Al):Li:K=1.00:1.03:0となるように混合し、かつ、その後の洗浄および濾過の工程を実施しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を作製した。この正極活物質は、一般式:Li1.019Ni0.815Co0.149Al0.036で表されるリチウムニッケル含有複合酸化物からなることが確認された。図4に示すように、SEM観察からは、八面体形状の一次粒子は確認できず、粒子は一次粒子が凝集した二次粒子により形成されていた。なお、1視野のSEM写真から合計205個の一次粒子について観察を行った。その結果、比較例1における一次粒子の平均粒径は、0.48μmであった。
【0130】
【表1】
【0131】
【表2】
【0132】
以上の評価の結果、実施例1〜3の八面体形状の一次粒子を有するリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質は、比較例1の八面体形状の一次粒子を有さないリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質と比較して、放電容量を同程度に保持しつつ、優れたサイクル特性を示し、その放電容量維持率を十分に向上させていることが理解される。
【0133】
また、非特許文献2に記載のNaClフラックスを用いて900℃で合成された、八面体形状の粒子を含み、層状岩塩型化合物のLiNi0.8Co0.1Mn0.1粉末([(003)/(104)]からなる正極活物質の放電容量が176mAh/g(4.5V−3.0V))であることと比較しても、本発明の正極活物質は、高い放電容量を示しており、これは、本発明のリチウムニッケル含有複合酸化物においては、X線回折による(003)面の(104)面に対するピークの高さの比や強度の比が高いことや、リチウム席占有率が十分に高いことに起因しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0134】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ

図1
図2
図3
図4
図5