【課題】N−メチル−D−グルカミンの有機溶媒への溶解性を高める方法、及び簡便な操作で高い純度でN−メチル−D−グルカミンの重合性誘導体を収率よく取得する方法を提供する。
【解決手段】N−メチル−D−グルカミンと(メタ)アクリル酸無水物を反応させる、下記一般式(1)で示される化合物の製造方法。一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。炭素数1〜4の脂肪酸の存在下で、N−メチル−D−グルカミンを水溶性有機溶媒に溶解させる、N−メチル−D−グルカミンの溶解方法。
【背景技術】
【0002】
N−メチル−D−グルカミン誘導体はバイオミメティックハイドロゲル材料、電気泳動及びクロマトグラフィー用媒体として使用される。これらの用途に使用するためにはN−メチル−D−グルカミンにアクリロイル基やメタクリロイル基等の重合性官能基を付加して、重合反応に供する必要がある。しかし、N−メチル−D−グルカミンは、アルコールを初めとした有機溶媒への溶解性が非常に低く、アクリロイル基やメタクリロイル基等を付加するのは困難であった。
【0003】
特許文献1には、N−メチル−D−グルカミンをメチルアルコールと水との混合溶媒に溶解し、5℃以下の温度で塩化アクリロイルのテトラヒドロフラン溶液を滴下する方法が記載されている。しかしながら、この方法は反応時に水酸化カリウム水溶液を滴下して反応液のpHを8〜9に調整すること、及び、生成物をカラムクロマトフィーで精製を行うこと等の、煩雑な操作を必要としている。
【0004】
特許文献2には、N−メチル−D−グルカミン水溶液、硝酸ナトリウム、塩化アクリロイルもしくは塩化メタクリロイル、及び水酸化カリウム水溶液を使用する方法が記載されている。しかしながら、この場合も、反応液のpHを7.5〜9.5に調整する操作が必要であり、かつ、生成物の精製の際に抽出操作、結晶化等の、煩雑な処理が必要である。
【0005】
またこれらの特許文献に記載の方法は、ハロゲン付加物等が生成するために収率が低いこと、及び、製品中にハロゲン化物が多く含まれることが大きな課題である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書においては、(メタ)アクリルは、メタクリル又はアクリルを意味し、(メタ)アクリロイルオキシは、メタクリロイルオキシ又はアクリロイルオキシを意味する。
【0014】
〔第一の発明〕
第一の発明は、N−メチル−D−グルカミンと(メタ)アクリル酸無水物を反応させることを特徴とする下記一般式(1)で表される化合物(以下、「化合物(1)」という場合がある。)の製造方法である。
【0015】
【化2】
一般式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。
【0016】
前記反応の原料である(メタ)アクリル酸無水物及びN−メチル−D−グルカミンの使用量は特に限定されず、任意の比率で使用できる。N−メチル−D−グルカミン1モルに対する(メタ)アクリル酸無水物の使用量は、反応生成物である化合物(1)の収率の点から0.1モル以上が好ましく0.5モル以上がより好ましく、また化合物(1)の精製の点から4モル以下が好ましく2モル以下がより好ましい。
【0017】
[炭素数1〜4の脂肪酸]
前記反応時に炭素数1〜4の脂肪酸が存在すると、N−メチル−D−グルカミンの溶解性が向上し、(メタ)アクリル酸無水物とN−メチル−D−グルカミンの反応が促進される。そして、反応によって副生する(メタ)アクリル酸によりN−メチル−D−グルカミンの溶解性が更に促進される。反応初期から反応液中に炭素数1〜4の脂肪酸が存在すると、これらの効果がより発揮されるので、反応容器内には、(メタ)アクリル酸無水物と共に炭素数1〜4の脂肪酸を投入することが好ましい。
【0018】
炭素数1〜4の脂肪酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。炭素数1〜4の脂肪酸の使用量は、反応に供されるN−メチル−D−グルカミン1モルに対して、0.01モル以上が好ましく、反応速度の点から0.05モル以上がより好ましく、0.1モル以上が更に好ましい。また炭素数1〜4の脂肪酸の使用量は、化合物(1)の生成量に比して反応容器を過大にしないことや反応後の化合物(1)の精製の点から、反応に供されるN−メチル−D−グルカミン1モルに対して、10モル以下が好ましく、5モル以下がより好ましい。
【0019】
[水溶性有機溶媒]
前記反応は水及び有機溶媒等の溶媒の存在下で行うことできる。その中でも水溶性有機溶媒の存在下で行うことが好ましい。本発明において、水溶性有機溶媒とは、『温度20℃において水100gへの溶解量が5g以上の有機溶媒、又は、水に混和するアミノ基を有しない有機溶媒』を意味する。
【0020】
水溶性有機溶媒としては、例えば以下のものが挙げられる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコ−ル、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、グリセリン、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン。
【0021】
(メタ)アクリル酸無水物との反応速度の点から、温度20℃において水への溶解度が20質量%以上のものが好ましく、水と混和する物がより好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールが更に好ましい。
溶媒としては、反応に支障が無い範囲で、他の溶媒を併用してもよいが、アミノ基を有する化合物等の反応性が高い物質が存在すると副反応が進行するので、反応時には、これらの化合物の量は溶媒全体の10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましい。
【0022】
溶媒の使用量は、N−メチル−D−グルカミン1質量部に対して、0.01〜10質量部が好ましい。即ち、溶媒の使用量は、操作性の点から0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましい。また溶媒の使用量は、化合物(1)の生成量に比して反応容器を過大にしないことや反応後の化合物(1)の精製の点から10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0023】
[反応条件等]
反応容器内へのN−メチル−D−グルカミン、(メタ)アクリル酸無水物、溶媒、及び、必要により使用される炭素数1〜4の脂肪酸等を入れる方法は、特に限定されず、各成分を任意の順で入れることができる。2成分以上を同時に入れてもよく、各成分を連続的に又は分割して入れてもよい。
【0024】
反応温度は、水溶性有機溶媒の融点から沸点の範囲の温度とすることができる。冷却に使用するエネルギー削減の点から、反応温度は0℃以上が好ましく、5℃以上がより好ましく、10℃以上が更に好ましい。冷却に使用するエネルギーの削減及び反応速度の点から、反応温度は0℃以上に維持することが好ましく、10℃以上に維持することがより好ましい。加熱時に使用するエネルギーの削減及び化合物(1)の重合防止の点から、反応温度は60℃以下が好ましく、50℃以下がより好ましく、40℃以下が更に好ましい。
【0025】
反応時間は、0.1〜48時間程度とすることができる。反応は必要により加圧下で又は減圧下で行うことができる。反応方法は、回分式、流通式等の任意の方法が使用できる。
【0026】
[反応生成物の回収]
反応終了後、冷却、濃縮、抽出等の既知の操作によって化合物(1)を回収し、必要に応じて再結晶等によって精製する。反応条件によっては、化合物(1)の水酸基がエステル化されて(メタ)アクリロイルオキシ基に変換された化合物が副生する。その場合は、塩基性化合物の水溶液を用いて、反応液のpHを8〜13として、該化合物を加水分解処理することにより、化合物(1)とすることができる。
【0027】
塩基性化合物としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の炭酸水素塩が挙げられるが、化合物(1)の収率及び化合物(1)の純度の点から、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。塩基性化合物は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。加水分解処理としては公知の方法が使用できる。
【0028】
再結晶溶媒としては、水溶性の溶媒が使用できる。この再結晶溶媒中の水分量を調節することにより、化合物(1)の溶解度を制御できる。化合物(1)は、必要に応じて、水、有機溶媒等による洗浄、溶媒分別法、イオン交換クロマトグラフィー、再結晶法、電気透析法等の公知の方法により精製してもよい。
【0029】
[重合防止剤]
反応時及び生成物の保存時に重合防止剤を使用してもよい。重合防止剤としては、例えば以下のものが挙げられる。ハイドロキノン、p−メトキシフェノール等のフェノール系化合物;N,N’−ジイソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N’−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン等のアミン系化合物;4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル、4−アセトアミノ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル等のN−オキシル化合物。重合防止剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
重合防止剤は、化合物(1)の1質量部に対して、通常0.000001〜0.01質量部が使用でき、0.00001〜0.01質量部が好ましく、0.00005〜0.001質量部がより好ましい。
【0031】
〔第二の発明〕
第二の発明は、炭素数1〜4の脂肪酸の存在下で、N−メチル−D−グルカミンを水溶性有機溶媒に溶解させる、N−メチル−D−グルカミンの溶解方法である。
【0032】
[炭素数1〜4の脂肪酸]
炭素数1〜4の脂肪酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。
【0033】
[水溶性有機溶媒]
水溶性有機溶媒としては、例えば以下のものが挙げられる。メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、i−ブチルアルコール、s−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、エチレングリコ−ル、プロピレングリコール、1,2−プロパンジオ−ル、1,3−プロパンジオ−ル、1,4−ブタンジオ−ル、1,3−ブタンジオ−ル、1,2−ブタンジオ−ル、グリセリン、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルフォキシド、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン。N−メチル−D−グルカミンの溶解性が高いことから、温度20℃の水への溶解度が20質量%以上のものが好ましく、水と混和する物がより好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコールが更に好ましい。
【0034】
N−メチル−D−グルカミンは、メチルアルコールに対しては1質量%程度しか溶けず、エチルアルコールへの溶解度は0.1質量%以下である。しかし、N−メチル−D−グルカミンの水溶性有機溶媒の懸濁液へ炭素数1〜4の脂肪酸を添加すると、溶解度が大幅に増加する。
【0035】
N−メチル−D−グルカミン1モルに対する炭素数1〜4の脂肪酸の使用量は、特に限定されないが、N−メチル−D−グルカミンの溶解性向上の点から0.01モル以上が好ましく、0.05モル以上がより好ましい。
【0036】
[溶解方法]
N−メチル−D−グルカミンと水溶性有機溶媒と炭素数1〜4の脂肪酸とを混在させる方法としては、特に限定されず、容器内にこれらの各成分を任意の順序で入れることができる。2成分以上を同時に入れてもよく、各成分を連続的に又は分割して入れてもよい。
【0037】
溶解温度は、水溶性有機溶媒の融点から沸点の範囲の温度とすることができる。冷却、加熱時に使用するエネルギーの削減の点から、室温程度、または、使用に供する温度X℃に対して「X−30℃」以上、「X+30℃」以下が好ましい。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、測定条件及び主要試薬の性状を以下に示す。
【0039】
1.NMR
1H−NMR(核磁気共鳴)スペクトルは、溶媒として重水を使用し、日本電子社製JNM GSX−270を使用して測定した。定量はt−ブチルアルコールを内部標準物質として内部標準法で実施した。
【0040】
2.ガスクロマトグラフィー
蒸留した試薬の純度はAgilent Technologies製ガスクロマトグラフィー6890Nを使用して分析し、面積百分率で確認した。検出器としては水素炎イオン検出器(FID検出器)を用い、カラムとしてJ&W Scientific DB−5(Length30mm、内径0.32mm、膜厚25μm)を使用した。キャリアガスはヘリウムを使用し、温度条件は、注入口:250℃、検出器:250℃、カラム初期温度:50℃(保持5分)、昇温:10℃/分、カラム最終温度:280℃(保持2分)とした。
【0041】
3.試薬
N−メチル−D−グルカミンは、東京化成工業(株)製のものを使用した。メタクリル酸無水物は、和光純薬工業(株)製のものを蒸留して、純度99.7面積%(ガスクロマトグラフで分析、メタクリル酸は未検出)にしたものを使用した。塩化メタクリロイルは、和光純薬工業(株)製のものを蒸留して、純度99.6面積%(ガスクロマトグラフで分析、メタクリル酸は未検出)にしたものを使用した。
【0042】
〔実施例1〕
容量100mlのフラスコ内において、N−メチル−D−グルカミン19.5g(0.1モル)をメチルアルコール40g(1.24モル)に懸濁分散させた。温度20℃でこの懸濁分散液中にメタクリル酸を6.9g加えたところ、N−メチル−D−グルカミンは全て溶解して、懸濁物は消失した。
【0043】
〔実施例2〕
容量200mlのフラスコ内において、N−メチル−D−グルカミン19.5gをイソプロピルアルコール80g(1.331モル)に懸濁させた。温度20℃でこの懸濁分散液中にメタクリル酸を8.6g加えたところ、N−メチル−D−グルカミンは全て溶解して、懸濁物は消失した。
【0044】
〔実施例3〕
攪拌羽根、温度計をつけた容量100mlの3つ口フラスコ内に、メタクリル酸無水物18.5g(0.12モル)を入れたのち、液を撹拌しながらN−メチル−D−グルカミン9.8g(0.5モル)を30秒毎に0.5gずつ、約10分間かけて入れた。その後、水浴でフラスコ内の液温を15〜25℃に調整しながら高粘度のスラリー状態の液を攪拌した。メタクリル酸無水物の投入から3時間経過後、懸濁物が完全に溶解した反応液が得られた。この反応液を重水に溶解し、NMRにて分析したところ、N−メチル−D−グルカミンは検出されなかった。
【0045】
この反応液中には、副生成物として、化合物(1)の水酸基がエステル化されてメタクリロイルオキシ基に変換された化合物が副生していた。従って、水浴でフラスコ内の液温を15〜25℃に調整しながら、反応液中に10質量%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、反応液のpHを9〜12.5に調整し、メタクリロイルオキシ基の加水分解処理を行った。反応液のpHが変化しなくなるまで水酸化ナトリウム水溶液を滴下した後、反応液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、下記式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」という場合がある。)が反応収率94%で生成していることを確認した。
【0046】
【化3】
【0047】
〔実施例4〕
3つ口フラスコ内へのメタクリル酸無水物の投入時に、メタクリル酸0.5g(0.006モル)を添加した以外は、実施例3と同様の操作を行い反応を進行させた。メタクリル酸無水物の投入から1.5時間経過後、懸濁物が完全に溶解した反応液が得られた。次いで実施例3と同様にして加水分解処理を行った後、反応液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、化合物(2)が反応収率96%で生成していることを確認した。
【0048】
〔実施例5〕
3つ口フラスコ内へのメタクリル酸無水物の投入時に、メタクリル酸1.6g(0.018モル)を添加した以外は、実施例3と同様の操作を行い反応を進行させた。メタクリル酸無水物の投入から0.5時間経過後、懸濁物が完全に溶解した反応液が得られた。次いで実施例3と同様にして加水分解処理を行った後、反応液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、化合物(2)が反応収率97%で生成していることを確認した。
【0049】
〔実施例6〕
攪拌羽根、温度計、滴下ロートをつけた容量100mlの3つ口フラスコ内に、N−メチル−D−グルカミン9.8gを入れたのち、メチルアルコールを20g入れて、懸濁分散液を得た。水浴でフラスコ内の液温を15〜25℃に調整しながら、この懸濁分散液中にメタクリル酸無水物9.2gを1分間かけて滴下した。その後、液温を15〜25℃に調整しながら攪拌した。滴下終了から5分間経過後、懸濁物が完全に溶解した反応液が得られた。更に滴下終了から20分間経過後、反応液が白濁し、その後白色物が析出し始めた。更に2時間攪拌した後、反応液を濾過し、析出物を少量のメチルエチルケトンで洗浄した。析出物を40℃で真空乾燥した後の乾燥析出物の質量は9.4g(取得収率71%)であった。
【0050】
この乾燥析出物を重水に溶解してNMR分析した結果、高純度の化合物(2)であることが確認された。乾燥析出物のNMRスペクトルを
図1に示す。また、濾液を重水に溶解しNMR分析した結果、N−メチル−D−グルカミンは全て化合物(2)に変化していた。乾燥析出物と濾液の分析結果から求めた反応収率は99%であった。
【0051】
〔実施例7〕
3つ口フラスコの容量を200mlとし、メチルアルコールの使用量を120gとした以外は実施例6と同様の操作を行った。滴下終了から5分間経過後、懸濁物が完全に溶解した反応液が得られた。更に2時間撹拌したが、反応液の白濁はなく、析出物は生じなかった。反応液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、N−メチル−D−グルカミンは消失しており、化合物(2)が反応収率99%で生成していることを確認した。
【0052】
〔実施例8〕
攪拌羽根、温度計、滴下ロートをつけた容量100mlの3つ口フラスコ内に、N−メチル−D−グルカミン9.8gを入れたのち、イソプロピルアルコールを40g入れ、懸濁分散液を得た。水浴でフラスコ内の液温を15〜25℃に調整しながら懸濁分散液中にメタクリル酸無水物9.2gを1分間かけて滴下した。その後、液温を15〜25℃に調整しながら攪拌した。滴下終了から5分間経過後、N−メチル−D−グルカミンが溶解したが、わずかに溶け残りが見られた。滴下終了から10分間経過後、反応液が白濁し、白色物が析出し始めた。更に2時間攪拌した後、反応液を濾過し、析出物を少量のメチルエチルケトンで洗浄した。析出物を40℃で真空乾燥した後の乾燥析出物の質量は12.4gであった。
【0053】
乾燥析出物を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、化合物(2)が99質量%、N−メチル−D−グルカミンが1質量%含まれていた(取得収率93%)。また、濾液を重水に溶解しNMR分析した結果、N−メチル−D−グルカミンは検出されなかった。乾燥析出物と濾液の分析結果から求めた反応収率は98%であった。
【0054】
〔実施例9〕
メタクリル酸無水物9.2gとアクリル酸1.0gの混合液を使用した以外は実施例8と同様の操作を行った。滴下終了から5分間経過後、N−メチル−D−グルカミンがすべて溶解した。滴下終了から10分経過後、反応液が白濁し、白色物が析出し始めた。更に2時間攪拌した後、反応液を濾過し、析出物を少量のメチルエチルケトンで洗浄した。析出物を40℃で真空乾燥した後の乾燥析出物の質量は12.5gであった(取得収率95%)。
【0055】
乾燥析出物を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、N−メチル−D−グルカミンは検出されず、高純度の化合物(2)であった。また、濾液を重水に溶解しNMR分析した結果N−メチル−D−グルカミンは検出されなかった。析出物と濾液の分析結果から求めた反応収率は99%であった。
【0056】
〔実施例10〕
攪拌羽根、温度計、滴下ロートをつけた容量100mlの3つ口フラスコ内に、N−メチル−D−グルカミン9.8gを入れたのち、重水を20g入れ、溶解させた。水浴でフラスコ内の液温を15〜25℃に調整し、フラスコ内の液体を激しく攪拌しながらメタクリル酸無水物11.6gを10分間かけて滴下した。その後、水浴で液温を15〜25℃に調整しながら反応液を激しく攪拌し、懸濁させた。2時間攪拌した後、反応液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、N−メチル−D−グルカミンが10質量%残存しており、化合物(2)が反応収率89%で生成していることを確認した。
【0057】
〔比較例1〕
攪拌羽根、温度計、滴下ロート二つ、pH計をつけた容量200mlの5つ口フラスコ内において、N−メチル−D−グルカミン9.8gを30mlの水に溶解させ、次いで、硝酸ナトリウム1.5gを加えた後、5M水酸化カリウムを加えて液のpHを8.4に調整し、冷却した。10質量%水酸化カリウム水溶液、及び、塩化メタクリロイル6.3gを塩化メチレン6.3gに溶解させた溶液を、各々冷却した。氷浴でフラスコ内の液温0〜5℃になるように冷却し、フラスコ内の液体を激しく攪拌しながら、塩化メタクリロイル溶液の全量と10質量%水酸化カリウム溶液を10分間かけて滴下した。このときフラスコ内の液体のpHが7.5〜9.5になるように10質量%水酸化カリウム溶液の滴下量を調節した。塩化メタクリロイル溶液の滴下終了後、更に液温5℃でフラスコ内の液体を2時間攪拌した。このとき液体のpHが7.5〜9.5になるように水酸化カリウム溶液を滴下した。その後、室温で液体を濃縮し、塩化メチレンを留去した。
【0058】
溶液を重水に溶解し、NMRにて分析した結果、N−メチル−D−グルカミンが18質量%残存しており、化合物(2)が反応収率77%で生成していることを確認した。このように従来技術の方法では、反応収率が低いことがわかった。
【0059】
実施例3〜10の反応収率並びに実施例6、8及び9の取得収率を表1に示す。
【0060】
【表1】