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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-226781(P2017-226781A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】ビニルアルコール系重合体水溶液
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20171201BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20171201BHJP
   C08F 16/06 20060101ALI20171201BHJP
   C08F 2/26 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   C08L29/04 D
   C08L71/02
   C08F16/06
   C08F2/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-124787(P2016-124787)
(22)【出願日】2016年6月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】森川 圭介
(72)【発明者】
【氏名】真木 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】蜂谷 恵之
【テーマコード(参考)】
4J002
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4J002BE021
4J002BE031
4J002CH052
4J002EH006
4J002EH156
4J002ES006
4J002EV186
4J002EW046
4J002FD312
4J002FD316
4J002GT00
4J002HA07
4J011AA05
4J011KA04
4J011KA05
4J011KA07
4J011KA16
4J011KA19
4J011KA21
4J011KA23
4J011KA25
4J011KA29
4J100AD02P
4J100AJ02Q
4J100AJ08Q
4J100AJ09Q
4J100AK31Q
4J100AK32Q
4J100AL03Q
4J100AL34Q
4J100AL36Q
4J100AL44Q
4J100CA04
4J100CA31
4J100DA04
4J100DA38
4J100HA09
4J100HB39
4J100JA15
(57)【要約】
【課題】優れた分散安定性を有する共に、高粘度の水性エマルジョンを製造することができるビニルアルコール系重合体水溶液を提供する。
【解決手段】ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含有し、前記ビニルアルコール系重合体(A)が、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体のけん化物であり、前記ビニルアルコール系重合体(A)の数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下であり、前記ビニルアルコール系重合体(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるビニルアルコール系重合体(A’)の数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満であり、ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有する、ビニルアルコール系重合体水溶液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含有し、
前記ビニルアルコール系重合体(A)が、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体のけん化物であり、
前記ビニルアルコール系重合体(A)の数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下であり、前記ビニルアルコール系重合体(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるビニルアルコール系重合体(A’)の数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満であり、
ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有する、ビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項2】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B1)である、請求項1に記載のビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項3】
無機酸が、硫酸、リン酸、硝酸及び炭酸からなる群から選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載のビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項4】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩(b1)である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項5】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)が、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸アンモニウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項6】
ビニルアルコール系重合体(A’)の重量平均分子量(Mw)に対するビニルアルコール系重合体(A)の重量平均分子量(Mw)の割合(Mw(A)/Mw(A’))が、1.4以上3.0以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体水溶液。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のビニルアルコール系重合体水溶液を含む水性エマルジョン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルアルコール系重合体水溶液及びそれを用いるエマルジョンに関する。
【背景技術】
【0002】
ビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある。)は、水溶性の
合成高分子として知られており、様々な用途に用いられている。特に、PVAは疎水性基
及び親水性基を有し、優れた界面活性能を示すため、酢酸ビニル等のビニルエステル系単
量体等の分散安定剤として有用であり、PVAを含む水性エマルジョンは、紙用、木工用、プラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用及び不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工、繊維加工等の分野で広く用いられている。
【0003】
PVAを水性エマルジョンの分散安定剤として用いる場合、エマルジョンの分散安定性を付与することに加え、水性エマルジョンを高粘度化する目的で使用されることがある。例えば、エマルジョンを高粘度化する目的で、高重合度のPVAを用いることが一般的に知られている。しかし、高重合度のPVAを用いて高粘度化を達成しようとするには、入手できるPVAの種類に限界があった。また、高粘度化のために多量のPVAを用いてエマルジョンを作製すると、エマルジョンを用いて作製した皮膜の耐水性が低下するという問題をあった。
【0004】
特許文献1では、水性エマルジョンの粘度、及び水性エマルジョンから形成される皮膜の強度を従来よりも高めることができる技術として、特定の分子量分布を有するビニルアルコール系重合体を用いた水性エマルジョンが開示されている。しかしながら、得られる粘度には限界があり、より高い粘度を有する水性エマルジョンが市場では求められていた。また、特許文献1では、水性エマルジョンの固形分濃度が35%程度であり、低い固形分濃度で、より高い粘度を有する水性エマルジョンは得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2015/037683号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、分散安定性に優れ、かつ、高粘度の水性エマルジョンを製造することができるビニルアルコール系重合体水溶液を提供することを目的とする。さらに、得られた水性エマルジョンが高いチキソトロピー性を有するビニルアルコール系重合体水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体のけん化物であるビニルアルコール系重合体(A)と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含有し、ビニルアルコール系重合体(A)の数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下であり、上記ビニルアルコール系重合体(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるビニルアルコール系重合体(A’)の数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満であり、ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有するビニルアルコール系重合体水溶液を用いて、水性エマルジョンを作製することによって、分散安定性に優れ、かつ、従来よりも一層高粘度の水性エマルジョンが得られることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
ビニルアルコール系重合体(A)と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含有し、
前記ビニルアルコール系重合体(A)が、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体のけん化物であり、
前記ビニルアルコール系重合体(A)の数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下であり、前記ビニルアルコール系重合体(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるビニルアルコール系重合体(A’)の数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満であり、
ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有する、ビニルアルコール系重合体水溶液を提供する。
【0009】
また、本発明は、前記ビニルアルコール系重合体水溶液を含む水性エマルジョンを提供する。
【0010】
上記ビニルアルコール系重合体(A)は、不飽和カルボン酸系単量体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)の共重合体を重合後、けん化及び加熱処理することにより得られるものである。ビニルアルコール系重合体(A)の加熱処理により、カルボキシル基とヒドロキシル基とがエステル結合し、全体として分岐構造を形成することができるため、エマルジョン重合時にさらに優れた分散性を発揮することができ、得られる水性エマルジョンの粘度がより向上する。
【0011】
上記ビニルアルコール系重合体(A)のカルボキシル基と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)のアルキルエーテル基の無機酸塩の構造との組み合わせにより、固形分濃度が25質量%未満であってもエマルジョンの粘度が一層向上するとともに、エマルジョン重合時における分散性も向上する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のビニルアルコール系重合体の水溶液を用いることで、例えば、優れた分散安定性を有する共に、高粘度の水性エマルジョンを提供することができる。また、本発明のビニルアルコール系重合体水溶液を用いて得られた水性エマルジョンは高いチキソトロピー性を有する。さらに、本発明の水性エマルジョンは、固形分濃度が25質量%未満であっても高粘度とすることができる。従って、本発明の水性エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<ビニルアルコール系重合体水溶液>
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液は、ビニルアルコール系重合体(A)(以下、「PVA(A)」と略記することがある。)と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含有し、
前記ビニルアルコール系重合体(A)が、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位(以下、不飽和カルボン酸系単量体(a1)を「単量体(a1)」と略記することがある。)とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体のけん化物であり、
前記ビニルアルコール系重合体(A)の数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下であり、前記ビニルアルコール系重合体(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるビニルアルコール系重合体(A’)の数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満であり、
ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有する。
【0014】
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各特性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0015】
[PVA(A)]
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液におけるPVA(A)としては、不飽和カルボン酸系単量体(a1)単位とビニルエステル系単量体(a2)単位を有する共重合体を重合によって得た後、該共重合体をけん化することにより得られるものである。
【0016】
上記不飽和カルボン酸系単量体(a1)としては、カルボン酸もしくはその塩又はその酸無水物を有する単量体であれば、特に限定されず、例えば、マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、無水マレイン酸、シトラコン酸、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、無水シトラコン酸、フマル酸、フマル酸モノメチル、フマル酸ジメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、イタコン酸、イタコン酸モノメチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、無水イタコン酸、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。
【0017】
これらの単量体の中でも、マレイン酸モノメチル、シトラコン酸モノメチル、イタコン酸モノメチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルが好ましく、マレイン酸モノメチル、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチルがより好ましい。
【0018】
ビニルエステル系単量体(a2)としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられる。これらの中で、経済的観点から酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
PVA(A)における単量体(a1)単位の含有率の下限としては、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づき、0.02モル%が好ましく、0.05モル%がより好ましく、0.1モル%がさらに好ましい。一方、PVA(A)における上記単量体(a1)単位の含有率の上限としては、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づき、5.0モル%が好ましく、2.0モル%がより好ましく、1.0モル%がさらに好ましい。この含有率が上記下限以上であることにより、得られる水性エマルジョンの粘度及び水性エマルジョンから形成される皮膜の耐水性がより向上する。一方、この含有率が上記上限以下であることにより、当該エマルジョン重合時における分散性がより向上する。
【0020】
単量体(a1)単位の含有率は、PVA(A)の前駆体であるビニルエステル系重合体の1H−NMRから求めることができる。例えば、単量体(a1)としてマレイン酸モノメチルを用いた場合、上記含有率は以下の手順により求められる。すなわち、n−ヘキサン/アセトンでビニルエステル系重合体の再沈精製を3回以上十分に行った後、50℃の減圧下で乾燥を2日間行い、分析用のサンプルを作製する。このサンプルをCDCl3に溶解させ、500MHzの1H−NMR(日本電子社の「GX−500」)を用い室温で測定する。ビニルエステル系重合体における、ビニルエステル単位のメチン構造に由来するピークα(4.7〜5.2ppm)と、単量体(a1)単位のメチルエステル部分のメチル基に由来するピークβ(3.6〜3.8ppm)とから、下記式を用いて、単量体(a1)単位の含有率Sを算出することができる。
S(モル%)={(βのプロトン数/3)/(αのプロトン数+(βのプロトン数/3))}×100
【0021】
PVA(A)は、数平均分子量(Mn(A))に対する重量平均分子量(Mw(A))の割合(Mw(A)/Mn(A))が3.0以上8.0以下である。当該割合の下限としては、得られる水性エマルジョンの粘度がより向上する点から、3.2が好ましく、3.4がより好ましく、3.6がさらに好ましく、また、当該割合の上限としては、6.0が好ましく、5.0がより好ましい。
【0022】
PVA(A’)は、上記PVA(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られる。この処理としては、JIS K 6726(1994年)における平均重合度の欄に記載された完全けん化の方法を採用することができ、具体的には、以下のようにして得られる。すなわち、PVA(A)約10gを共通すり合わせ三角フラスコに量り採り、メタノール200mLを加えた後、12.5モル/L水酸化ナトリウム溶液を、PVA(A)のけん化度が97モル%以上の場合は3mL、PVA(A)のけん化度が97モル%未満の場合は10mL加えて、かき混ぜ、40℃の水浴中で1時間加熱し、次に、フェノールフタレインを指示薬として加え、アルカリ性反応を認めなくなるまでメタノールで洗浄して水酸化ナトリウムを除去し、最後に、時計皿に移しメタノールがなくなるまで105℃で1時間乾燥させる方法によって得ることができる。
【0023】
上記PVA(A’)は、数平均分子量(Mn(A’))に対する重量平均分子量(Mw(A’))の割合(Mw(A’)/Mn(A’))が2.0以上3.0未満である。上記割合の下限としては、2.1が好ましく、2.2がより好ましく、また、上記割合の上限としては、2.9が好ましく、2.8がより好ましい。
【0024】
本発明のPVA(A)は、(Mw(A)/Mn(A))及び(Mw(A’)/Mn(A’))が上記範囲であることで、PVA(A)はビニルアルコール単位に由来するヒドロキシル基と単量体(a1)単位に由来するカルボキシル基とがエステル化反応することにより、PVA鎖が互いに結合して分岐構造を形成していると考えられる。そして、この分岐構造により、エマルジョンの分散性に優れたものとなると考えられる。
【0025】
なお、上記のPVA(A)及びPVA(A’)における数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用い、示差屈折率検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリメタクリル酸メチル換算値として求めることができ、より具体的な方法としては、以下を採用することができる。
GPCカラム:東ソー社の「GMHHR(S)」2本
移動相:ヘキサフルオロイソプロパノール
流速:0.2mL/分
試料濃度:0.100wt/vol%
試料注入量:10μL
検出器:示差屈折率検出器
標準物質:ポリメタクリル酸(例えば、Agilent Technologies社の「EasiVial PMMA 4mL tri−pack」)
【0026】
移動相として使用されるヘキサフルオロイソプロパノールには、GPCカラム充填剤への試料の吸着を抑制するために、トリフルオロ酢酸ナトリウム等の塩を添加するのが好ましい。塩の濃度としては、通常、1mmol/L〜100mmol/L、好ましくは5mmol/L〜50mmol/Lである。
【0027】
PVA(A’)の重量平均分子量(Mw)に対するPVA(A)の重量平均分子量(Mw)の割合(Mw(A)/Mw(A’))は特に制限されないが、その下限としては、1.4が好ましく、1.5がより好ましい。一方、上記割合(Mw(A)/Mw(A’))の上限としては、3.0が好ましく、2.5がより好ましい。上記割合(Mw(A)/Mw(A’))が上記下限以上であることにより、得られる水性エマルジョンの粘度がより向上する。一方、上記割合(Mw(A)/Mw(A’))が上記上限以下であることにより、エマルジョンの分散安定性がより向上する。
【0028】
また、PVA(A)は本発明の趣旨を損なわない範囲で、ビニルアルコール単位、単量体(a1)単位及びビニルエステル系単量体(a2)単位以外の他の単量体(a3)単位を含んでいてもよい。上記他の単量体(a3)としては、例えば、エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブチレン等のα−オレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、2,3−ジアセトキシ−1−ビニルオキシプロパン等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル類;塩化ビニル、フッ化ビニル等のハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、2,3−ジアセトキシ−1−アリルオキシプロパン、塩化アリル等のアリル化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニル等が挙げられる。PVA(A)における上記他の単量体(a3)単位の含有率は、PVA(A)を構成する全単量体単位のモル数に基づいて、例えば、15モル%以下とすることができる。
【0029】
PVA(A)におけるビニルアルコール単位、単量体(a1)単位、ビニルエステル系単量体(a2)単位及び上記他の単量体(a3)単位の配列順序に特に制限はなく、ランダム、ブロック、交互のいずれであってもよい。
【0030】
PVA(A)の一次構造は、1H−NMRにより定量することができる。1H−NMR測定時の溶媒としては、CDCl3を用いればよい。
【0031】
PVA(A)のけん化度(PVA(A)におけるヒドロキシル基とエステル結合との合計に対するヒドロキシル基のモル分率)は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定される。けん化度の下限としては、20モル%が好ましく、60モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましく、80モル%が特に好ましく、87モル%が最も好ましい。PVA(A)のけん化度が上記下限以上であることにより、当該乳化重合用安定剤の乳化重合時における分散性、得られる水性エマルジョンの粘度及び水性エマルジョンから形成される皮膜の強度がより向上する。
【0032】
PVA(A)の粘度平均重合度の上限としては、6,000が好ましく、5,000がより好ましい。一方、PVA(A)の粘度平均重合度の下限としては、100が好ましく、500がより好ましく、1,000がさらに好ましい。PVA(A)の粘度平均重合度が上記下限以上であることにより、得られる水性エマルジョンの粘度及び水性エマルジョンから形成される皮膜の強度がより向上する。一方、PVA(A)の粘度平均重合度が上記上限以下であることにより、PVA(A)の生産性が向上し、より低コストでPVA(A)を製造することが可能となる。
【0033】
PVA(A)の粘度平均重合度(P)は、JIS K 6726(1994年)に準じて測定される。すなわち、PVA(A)を完全にけん化し、精製した後、単量体(a1)単位を含むPVA(A)については30℃の塩化ナトリウム水溶液(0.5モル/L)中で極限粘度[η](単位:リットル/g)を測定し、単量体(a1)単位を含まないPVA(A)については30℃の水溶液中で極限粘度[η](単位:リットル/g)を測定する。この極限粘度[η]から次式によりPVA(A)の粘度平均重合度(P)が求められる。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0034】
また、PVA(A’)はPVA(A)を水酸化ナトリウム溶液中において40℃で1時間処理して得られるものであるため、PVA(A’)の粘度平均重合度は、PVA(A)の粘度平均重合度と実質的に同じ値となる。
【0035】
<PVA(A)の製造方法>
PVA(A)の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、単量体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)とを重合する工程(以下、「重合工程」ともいう)、この重合工程により得られたビニルエステル系重合体をけん化する工程(以下、「けん化工程」ともいう)とを備える。また、ビニルエステル系重合体又はけん化後のPVAを加熱する工程(以下、「加熱工程」ともいう)をさらに備えることが好ましい。
【0036】
[重合工程]
本工程では、単量体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)との重合を行い、ビニルエステル系重合体を合成する。重合方式としては、回分重合、半回分重合、連続重合、半連続重合のいずれでもよい。重合方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等公知の任意の方法を採用することができる。これらの中で、無溶媒又はアルコール等の溶媒中で重合を進行させる塊状重合法又は溶液重合法が、通常採用される。高重合度のビニルエステル系重合体を得る場合には、乳化重合法の採用が選択肢の一つとなる。溶液重合法の溶媒は特に限定されないが、例えばアルコール等が挙げられる。溶液重合法の溶媒に使用されるアルコールは、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール等の低級アルコールである。溶媒は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。重合系における溶媒の使用量は、目的とするPVA(A)の重合度等に応じて溶媒の連鎖移動を考慮して選択すればよく、例えば溶媒がメタノールの場合、溶媒と重合系に含まれる全単量体との質量比{=(溶媒)/(全単量体)}にして0.01〜10の範囲が好ましく、0.05〜3の範囲がより好ましい。
【0037】
かかる重合に使用される重合開始剤としては、公知の重合開始剤、例えば、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、レドックス系開始剤等から重合方法に応じて適宜選択すればよい。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。過酸化物系開始剤としては、例えば、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t−ブチルパーオキシネオデカネート、α−クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシデカネート等のパーエステル化合物;過酸化アセチル;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド;2,4,4−トリメチルペンチル−2−パーオキシフェノキシアセテート等が挙げられる。上記開始剤に過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素等を組み合わせて開始剤としてもよい。レドックス系開始剤としては、例えば、上記の過酸化物系開始剤と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、L−アスコルビン酸、ロンガリット等の還元剤とを組み合わせたものが挙げられる。
【0038】
重合開始剤の使用量は、重合触媒等により異なるために一概には決められないが、重合速度に応じて適宜選択すればよい。例えば重合開始剤に2,2’−アゾビスイソブチロニトリル又は過酸化アセチルを用いる場合、ビニルエステル系単量体(a2)に対して0.01〜0.2モル%が好ましく、0.02〜0.15モル%がより好ましい。
【0039】
重合工程における温度の下限としては、0℃が好ましく、30℃がより好ましい。重合温度の上限としては、200℃が好ましく、140℃がより好ましい。重合温度が上記下限以上であることにより、重合速度が向上する。一方、重合温度が上記上限以下であることにより、PVA(A)中の単量体(a1)単位の含有率を適切な割合に保つことが容易になる。重合温度を上記範囲内に制御する方法としては、例えば、重合速度を制御することで、重合により生成する熱と反応器の表面からの放熱とのバランスをとる方法や、適当な熱媒を用いた外部ジャケットにより制御する方法等が挙げられるが、安全性の観点から後者の方法が好ましい。
【0040】
上記重合は、本発明の趣旨を損なわない範囲で連鎖移動剤の存在下で行ってもよい。連鎖移動剤としては、例えばアセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等のアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;2−ヒドロキシエタンチオール等のメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類;ホスフィン酸ナトリウム1水和物等のホスフィン酸塩類等が挙げられる。これらのうち、アルデヒド類及びケトン類が好ましい。重合系への連鎖移動剤の添加量としては、添加する連鎖移動剤の連鎖移動係数及び目的とするPVA(A)の重合度等に応じて決定することができ、一般にビニルエステル系単量体(a2)100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましい。
【0041】
なお、高温下で上記重合を行った場合、ビニルエステル系単量体(a2)の分解に起因するPVA(A)の着色等が見られることがある。この場合には、着色防止の目的で重合系に酒石酸のような酸化防止剤をビニルエステル系単量体(a2)に対して1〜100ppm程度添加する方法が挙げられる。
【0042】
[けん化工程]
本工程では、前記重合工程で得られたビニルエステル系重合体をけん化する。この重合体をけん化することにより、重合体中のビニルエステル単位はビニルアルコール単位に変換される。
【0043】
ビニルエステル系重合体のけん化に用いる反応としては、特に制限されないが、溶媒中に上記重合体が溶解した状態で行われる公知の加アルコール分解反応又は加水分解反応を採用することができる。
【0044】
けん化に使用する溶媒としては、例えばメタノール、エタノール等の低級アルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中で、メタノール、メタノールと酢酸メチルとの混合溶液が好ましい。
【0045】
けん化に使用する触媒としては、例えばアルカリ金属の水酸化物(水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等)、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド等)等のアルカリ触媒;p−トルエンスルホン酸、鉱酸等の酸触媒等が挙げられる。これらの中で、水酸化ナトリウムを使用すると簡便であるため好ましい。
【0046】
けん化を行う温度としては、特に限定されないが、20℃〜60℃が好ましい。けん化の進行に従ってゲル状の生成物が析出してくる場合には、生成物を粉砕し、さらにけん化を進行させるのがよい。その後、得られた溶液を中和することで、けん化を終了させ、洗浄、乾燥して、ビニルアルコール系重合体を得ることができる。けん化方法としては、上述した方法に限らず、公知の方法を採用できる。
【0047】
[加熱工程]
本工程では、ビニルエステル系重合体又はけん化後のPVAを加熱する。具体的には、けん化工程と同時に加熱することによりビニルエステル系重合体を加熱するか、けん化工程終了後に得られたPVAを加熱する。この加熱により分岐構造が形成されたPVA(A)を容易に得ることができ、当該乳化重合用安定剤の乳化重合時における分散性、得られる水性エマルジョンの粘度がより向上する。加熱処理は、空気又は窒素雰囲気下で行うことが好ましい。また、加熱工程はけん化後のPVAに対して行われることが好ましい。
【0048】
加熱工程における加熱温度の下限としては、90℃がより好ましく、100℃がより好ましく、110℃がさらに好ましい。上記加熱温度の上限としては、150℃が好ましく、130℃がより好ましい。加熱工程における加熱時間の下限としては、30分が好ましく、1時間がより好ましく、2時間がさらに好ましい。上記加熱時間の上限としては、10時間が好ましく、7時間がより好ましく、5時間がさらに好ましい。加熱温度及び加熱時間を上記範囲内とすることで、本発明の規定を満たすPVA(A)を容易に得ることができ、当該乳化重合用安定剤の乳化重合時における分散性、得られる水性エマルジョンの粘度がより向上する。
【0049】
[ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)]
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液及びそれを用いた水性エマルジョンは、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を含む。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を水に溶解した水溶液を作製し、エマルジョン重合に用いることにより、より高粘度で、かつ、安定性に優れる水性エマルジョンを得ることができる。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)は、陰イオン界面活性剤である。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)のアルキル基は、炭素数8〜22が好ましく、9〜20がより好ましく、10〜18がさらに好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(以下、POEアルキルエーテルという)無機酸エステル塩(B1)が好ましい。ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとエステルを形成する無機酸としては、硫酸、リン酸、硝酸、炭酸等が挙げられ、硫酸が好ましい。無機酸は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
POEアルキルエーテル無機酸エステル塩(B1)としては、POEアルキルエーテル硫酸エステル塩(b1)が好ましい。塩としては、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0052】
POEアルキルエーテル硫酸エステル塩(b1)は、以下の式(1)
1−O−(EO)n−SO3M (1)
(式中、R1は炭素数8〜22のアルキル基を表し、EOはポリオキシエチレン基(CH2CH2O)を表し、nはポリオキシエチレン基の平均付加モル数を表し、nは1〜30であり、Mはアルカリ金属又はアンモニウムを表す。)
で表される化合物である。
【0053】
1の炭素数8〜22のアルキル基としては、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基(ラウリル基)、ミリスチル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基等が挙げられる。
【0054】
1の炭素数としては、9〜20が好ましく、10〜18がより好ましく、10〜16がさらに好ましい。
【0055】
式(1)のnは、2〜8が好ましく、2〜5がより好ましく、2〜4がさらに好ましい。Mのアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムが挙げられ、ナトリウムが好ましい。
【0056】
POEアルキルエーテル硫酸エステル塩(b1)としては、式(1)において、R1が10〜18のアルキル基を表し、nが2〜5であり、かつMがアルカリ金属又はアンモニウムである化合物が好ましく、式(1)において、R1が10〜16のアルキル基を表し、nが2〜4であり、かつMがナトリウム又はアンモニウムである化合物がより好ましい。
【0057】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンペンタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム等が挙げられる。中でも、エマルジョン製造時の重合安定性、高い粘度発現の観点から、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウムが好ましい。
【0058】
ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、アルスコープDA−330 S(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(アルキル基の炭素数12,13、EO基の平均付加モル数:3)、東邦化学工業株式会社製);プライサーフA208F等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩(第一工業製薬株式会社製);ネオハイテノールECL−45等のポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸ナトリウム(第一工業製薬株式会社製);ハイテノール LA−10、LA−12、LA−16等のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸アンモニウム(第一工業製薬株式会社製);ハイテノール 227L、325L等のポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(第一工業製薬株式会社製);エマール170J(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EO基の平均付加モル数:1))、エマール270J(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EO基の平均付加モル数:2))、エマール20C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EO基の平均付加モル数:3)、エマールE−27C(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EO基の平均付加モル数:2)、エマール327(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム(EO基の平均付加モル数:3)等のエマールシリーズ(花王株式会社製)等が挙げられる。
【0059】
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液におけるポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)の含有量は、ビニルアルコール系重合体(A)と水の合計100質量部に対して、0.005〜1.0質量部が好ましく、0.010〜0.90質量部がより好ましく、0.10〜0.80質量部がさらに好ましい。ビニルアルコール系重合体(A)とポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)の配合比は、エマルジョンの重合安定性と目的粘度により決定されるが、例えば、ビニルアルコール系重合体(A)100質量部に対して、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を1〜50質量部含有することが必須であり、3〜40質量部が好ましく、5〜30質量部がより好ましい。1質量部未満の場合、重合安定性や粘度向上の効果が不十分となる。50質量部よりも多い場合、耐水性が不十分となる。
【0060】
上記ビニルアルコール系重合体(A)、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)及び水を含有するビニルアルコール系重合体水溶液の濃度としては、エマルジョン重合に支障が出ない範囲で制御すればよいが、例えば、0.1〜40質量%が好ましく、0.2〜30質量%がより好ましく、0.5〜20質量%がさらに好ましい。当該水溶液の濃度が上記範囲にあることにより、高粘度の水性エマルジョンを容易に得ることができる。
【0061】
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液の溶媒としては、主成分は水であるが、必要に応じて、メタノール、エタノール等の低級アルコール;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;ジメチルエーテル等のエーテル類等を加えてもよい。また、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等の一般的に水に混合することが知られる溶媒を添加しても構わない。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
本発明は、効果を損なわない範囲で、ビニルアルコール系重合体(A)以外の他のビニルアルコール系重合体、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルの無機酸塩(B)以外の他の各種界面活性剤を添加しても構わない。
【0063】
上記他の界面活性剤としては、例えばアルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;アルキルベタイン、アミンオキシド等の両性界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース等の高分子界面活性剤等が挙げられる。
【0064】
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液は、乳化重合用安定剤分散剤として使用できる。すなわち、本発明のビニルアルコール系重合体水溶液は水中で分散又は溶解した形態でエマルジョン重合に供することができる。その結果、ビニルエステル系単量体のエマルジョン重合をより容易かつ確実に行うことができる。ビニルアルコール系重合体水溶液の水の含有量の上限としては、99.5質量%が好ましく、99質量%がより好ましい。一方、上記水の含有量の下限としては、70質量%が好ましく、75質量%がより好ましい。水の含有量が上記上限を超えると、エマルジョン重合反応が十分に起こらなくなるおそれがある。逆に、水の含有量が上記下限未満の場合、PVA(A)の分散又は溶解が不十分となるおそれがある。
【0065】
<水性エマルジョン>
水性エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。上記水性エマルジョンの製造方法としては、乳化重合用安定剤である本発明のビニルアルコール系重合体水溶液中で、重合開始剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を一時又は連続的に添加し乳化重合する方法が挙げられる。また、当該乳化重合用安定剤を用いて乳化したエチレン性不飽和単量体を重合反応系に連続的に添加する方法も採用できる。当該乳化重合用安定剤分散剤の使用量は特に限定されないが、エチレン性不飽和単量体100質量部に対し1〜30質量部が好ましく、2〜20質量部がより好ましい。
【0066】
さらに、当該乳化重合用安定剤を乳化重合に用いる場合は、他のビニルアルコール系重合体(C)(以下、「PVA(C)」と略記することがある)を含有する乳化重合用安定剤を併用することができる。このPVA(C)としては、けん化度が70モル%以上であり、かつ重合度が300〜4500であるPVAが好ましく、けん化度が80〜99モル%であり、かつ重合度が500〜3500であるPVAがさらに好ましい。けん化度、及び重合度の測定方法は、PVA(A)で説明したものと同じ方法である。
【0067】
また、PVA(C)は、エチレン基やアセトアセチル基等を導入することにより、耐水性が付与されたものであってもよい。PVA(C)を含有する乳化重合用安定剤を併用する場合の当該乳化重合用安定剤におけるPVA(A)の添加量とPVA(C)の添加量との重量比(当該PVA(A)/PVA(C))は、用いる乳化重合用安定剤の種類等によって変化するのでこれを一律に規定することはできないが、95/5〜5/95の範囲が好ましく、特に90/10〜10/90が好ましい。これらの乳化重合用安定剤は、乳化重合の初期に一括して仕込んでもよいし、あるいは乳化重合の途中で分割して仕込んでもよい。
【0068】
上記エチレン性不飽和単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、フッ化ビニル、ビニリデンクロリド、ビニリデンフルオリド等のハロゲン化オレフィン系単量体;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等のビニルエステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル等のアクリル酸エステル系単量体;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル等のメタクリル酸エステル系単量体;アクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアクリルアミド系単量体;スチレン、α−メチルスチレン、p−スチレンスルホン酸等のスチレン系単量体;N−ビニルピロリドン、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン等のジエン系単量体等が挙げられる。
【0069】
エチレン性不飽和単量体としては、これらの中でビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、スチレン系単量体が好ましく、ビニルエステル系単量体がより好ましく、酢酸ビニルがさらに好ましい。エチレン系不飽和単量体は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0070】
上記水性エマルジョンには、酸化チタン等の充填材、トルエン等の有機溶剤、フタル酸ジブチル等の可塑剤、グリコールエーテル等の造膜助剤等の従来公知の添加剤を添加してもよい。また、水性エマルジョンを噴霧乾燥等により粉末化した、いわゆる粉末エマルジョンとしてもよい。このような水性エマルジョン及び粉末エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等の広範な用途に好適に利用される。
【0071】
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液を用いて、得られた水性エマルジョンとしては、粘度比(η2rpm/η20rpm)が、4.5以上のものが好ましく、4.7以上のものがより好ましく、4.9以上のものがさらに好ましく、5.0以上が特に好ましい。η2rpm及びη20rpmの測定方法は、後述する実施例に記載のとおりである。
【実施例】
【0072】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。なお、以下の実施例及び比較例において「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量を基準とする。
【0073】
下記実施例及び比較例のPVAの物性値について、以下の方法に従って測定した。
【0074】
[重合度]
各実施例又は比較例において、PVA(A)の粘度平均重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0075】
[けん化度]
各PVA(A)のけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法により求めた。
【0076】
[変性率]
各PVAの変性率(PVA(A)における単量体(a1)単位の含有率)は、PVA(A)の前駆体であるビニルエステル系重合体を用いて、上述の1H−NMRを用いた方法により求めた。
【0077】
[PVA(A’)の調製]
PVA(A)約10gを共通すり合わせ三角フラスコに量り採り、メタノール200mLを加えた後、12.5モル/L水酸化ナトリウム溶液を10mL加えて、かき混ぜ、40℃の水浴中で1時間加熱し、次に、フェノールフタレインを指示薬として加え、アルカリ性反応を認めなくなるまでメタノールで洗浄して水酸化ナトリウムを除去し、最後に、時計皿に移しメタノールがなくなるまで105℃で1時間乾燥させてPVA(A’)を調製した。
【0078】
[PVA(A)及びPVA(A’)の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)]
ヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用い、示差屈折率検出器を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリメタクリル酸メチル換算値として求めた。具体的には、以下の条件を採用した。
GPCカラム:東ソー社の「GMHHR(S)」2本
移動相:ヘキサフルオロイソプロパノール(トリフルオロ酢酸ナトリウムを20mmol/Lの濃度で含有)
流速:0.2mL/分
試料濃度:0.100wt/vol%
試料注入量:10μL
検出器:示差屈折率検出器
標準物質:ポリメタクリル酸(例えば、Agilent Technologies社の「EasiVial PMMA 4mL tri−pack」)
【0079】
[合成例1](PVA−1の製造)
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、コモノマー滴下口及び重合開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル100部及びメタノール5.26部を仕込み、窒素バブリングをしながら30分間系内を窒素置換した。また、マレイン酸モノメチルのメタノール溶液(濃度2%)を窒素ガスのバブリングにより窒素置換した。反応器の昇温を開始し、内温が60℃となったところで、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.00395部を添加し重合を開始した。上記反応器に、上記マレイン酸モノメチルのメタノール溶液を滴下して重合溶液中の単量体組成比を一定に保ちながら、60℃で3時間重合した後、冷却して重合を停止した。重合停止までに加えたマレイン酸モノメチルの総量は0.106部であり、重合停止時の固形分濃度は22%であった。続いて、30℃、減圧下でメタノールを時々添加しながら未反応の単量体の除去を行い、ビニルエステル系重合体のメタノール溶液(濃度20%)を得た。次に、このメタノール溶液にさらにメタノールを加えて調製したビニルエステル系重合体のメタノール溶液100部(溶液中の上記重合体200.0部)に、水酸化ナトリウムの10%メタノール溶液5.1部を添加して、40℃でけん化を行った(けん化溶液の上記重合体濃度25%、上記重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比0.011)。水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加、しばらくするとゲル状物が生成したため、これを粉砕器にて粉砕し、さらに40℃で放置して1時間けん化を行った後、酢酸メチル500部を加え、残存するアルカリを中和した。フェノールフタレイン指示薬を用いて中和が終了したことを確認した後、濾別して白色固体を得た。さらに、得られた固体をメタノール500部で3回洗浄した。遠心脱液して得られた白色固体を乾燥機にて110℃で3時間加熱処理してPVA(A)(PVA−1)を得た。PVA−1の物性を表2に示す。
【0080】
[合成例2〜5](PVA−2〜PVA−5の製造)
酢酸ビニル及びメタノールの仕込み量、重合時に使用するマレイン酸モノメチルの添加量等の重合条件;けん化時におけるビニルエステル系重合体の濃度、酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比等のけん化条件;並びに加熱処理条件を表1に示すように変更したこと以外は、合成例1と同様の方法により各種のPVA(A)を製造した。各PVA(A)及びそれから得られるPVA(A’)の物性を表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
[実施例1]
(ポリ酢酸ビニルの乳化重合)
還流冷却器、滴下ロート,温度計及び窒素吹込口を備えた1Lガラス製重合容器に、419.3質量部のイオン交換水、12質量部のPVA−1及び0.5質量部の界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルエーエル硫酸ナトリウム:花王製 エマール20C 有効成分25%)を仕込み95℃で完全に溶解して、PVA水溶液を得た。次にこのPVA水溶液を冷却、窒素置換後200rpmで撹拌しながら、80℃に昇温した。その後、1%過硫酸アンモニウム14.2質量部、1%炭酸水素ナトリウム4.0質量部を添加した後、酢酸ビニル128.6質量部を3時間かけて連続的に滴下した。乳化重合の進行をみながら1%過硫酸アンモニウム15.9質量部を3回に分割し添加し重合を終了させ、固形分23質量%のポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【0084】
[実施例2〜6及び比較例1〜5]
上記で用いたビニルアルコール系重合体(A)およびポリオキシアルキレンアルキルエーテル無機酸エステル塩(B)を表3に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、ポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。
【0085】
[乳化重合時の分散性]
上記のようにして得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンをシステム顕微鏡(オリンパス社の「BX−53」)で観察し、凝集又はゲル化がなく、ろ過残分が見られないものを「A」、凝集又はゲル化がないが、ろ過残分が僅かに見られるものを「B」、凝集又はゲル化があり、濾過残分が多いものを「C」と評価した。この評価結果を表3に併せて示す。なお、凝集又はゲルが少なく、ろ過残分が少ないものほど乳化重合時の分散性に優れる。
【0086】
[ポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度]
実施例及び比較例のポリ酢酸ビニルエマルジョンの固形分100質量部に対して、可塑剤としてジブチルフタレート5質量部を添加混合した。この混合物について、BH型粘度計(東機産業社の「BII型粘度計」)を用い、30℃、2rpmの条件下における粘度(η2rpm)及び30℃、20rpmの条件下における粘度(η20rpm)を測定した。この評価結果を表3に併せて示す。
【0087】
【表3】
【0088】
表3に示されるように、実施例1〜6の水性エマルジョンはエマルジョン重合時の分散性に優れることが分かる。また、実施例1〜6で得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンは、非常に高粘度であり、2rpmの条件下における粘度と20rpmの条件下における粘度比(2rpm/20rpm)が高いことから、得られたエマルジョンはチキソトロピー性に優れることが分かる。さらに、実施例1〜6で得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンは、固形分濃度が25質量%未満であっても高粘度であることも分かる。
【0089】
一方、比較例1〜5の水性エマルジョンは、エマルジョン重合時の分散性が不十分であり、比較例4及び5は特に不十分であった。比較例1〜3では、水性エマルジョンは得られているが、エマルジョンの粘度およびチキソトロピー性は不十分であった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のビニルアルコール系重合体水溶液は、乳化重合時に優れた分散性を発揮すると共に、高粘度の水性エマルジョンを得ることができる。従って、当該水溶液を用いて得られる水性エマルジョンは、各種接着剤、塗料、繊維加工剤、紙加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。