特開2017-227461(P2017-227461A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特開2017-227461液体クロマトグラフィーカラムの吸着防止法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-227461(P2017-227461A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】液体クロマトグラフィーカラムの吸着防止法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/56 20060101AFI20171201BHJP
   G01N 30/60 20060101ALI20171201BHJP
【FI】
   G01N30/56 E
   G01N30/60 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-121817(P2016-121817)
(22)【出願日】2016年6月20日
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】村中 和昭
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高圧に耐える機械的強度を有し、さらに分析対象試料であるタンパク質や核酸が非特異的吸着し難い、液体クロマトグラフィーカラム用のフィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質金属フィルターを使用した液体クロマトグラフィー用カラムに、分子量100、000以上のポリリジンを注入してコンディショニングを行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質金属フィルターを使用した液体クロマトグラフィー用カラムをポリリジンでコンディショニングすることを特徴とする液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【請求項2】
多孔質金属フィルターがステンレス焼結またはチタンであることを特徴とする請求項
1記載の液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【請求項3】
ポリリジンの分子量が100、000以上である請求項1記載の液体クロマトグラフィ
ー用カラムの製造方法。
【請求項4】
ポリリジンの使用量がカラム断面積当たり、0.5 mg / cm2以上であること
を特徴とする請求項1記載の液体クロマトグラフィー用カラムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生化学、医化学等の分野で分析手段として用いられる液体クロマトグラフィーカラムの吸着防止法に関する。
【背景技術】
【0002】
生化学、医化学等の分野では、タンパク質や核酸等を分析対象試料とする分析法として、液体クロマトグラフィーが利用されている。液体クロマトグラフィーには、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等、種々の手法があり、各手法を実施するのに好適な充填材を充填したカラムを使用して分析を実施する。
【0003】
液体クロマトグラフィーに使用するカラムは、その内部に充填材を充填したカラムハウジングの両端を、フィルターを具備するカラムエンドで密閉したものであり、かかる液体クロマトグラフィーカラム用フィルターとしては、従来、多孔質金属(ステンレス焼結体、チタン)製のもの、ガラス製のもの、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のもの、四フッ化ポリエチレン(テフロン:登録商標)製のもの、ポリエチレン製のもの等が知られている(例えば特許文献1から8参照)。
【0004】
また、特許文献9には種々のシラン化合物で修飾した多孔質ガラスフィルターが示されており、さらに特許文献10及び11にはシリコーン被膜をフィルターに導入する手法がしめされている。また非特許文献4及び5にはステンレスへのタンパク質吸着防止として、シラン処理剤である3−Glycidoxypropyltrimethoxysilaneを金属表面に導入し、導入されたエポキシ基に種々の官能基を導入する手法が開示されている。
【0005】
一方金属、樹脂等へのタンパク質等の非特異的吸着防止法として、非特許文献1にはアルブミン、カゼイン等のタンパク質や、デキストラン等の多糖類を用いて予めコンディショニングする方法が記載されている。また非特許文献2には水溶性合成高分子を用いる方法が記載されている。さらに近年では非特許文献3に記載されているベタイン構造を有する手法が使用されている。
【0006】
液体クロマトグラフィーカラム用のフィルターは、カラム内部に充填材を密封、つまり充填した充填剤が流失しないようにしつつも、目詰まりを起こし難い、試料や溶離液中の固形分等がカラムに流入することを防止して充填材を保護する目的で使用される多孔質体である。近年では、2ミクロン以下の粒子径を有する充填剤が実用化され、充填剤をカラムに充填する際の圧力や、分析の際の操作圧(分析対象となる液体を送液する圧力)が100MPaに近くまで達している。このためカラム用フィルターには高い耐圧性が求められ、使用されるフィルター部材にも耐圧性の面で制限が生じており、ガラス製のもの、四フッ化ポリエチレン製のもの、ポリエチレン製のもの等は100MPaに耐えうる耐圧性を有するものがない。ポリエーテルエーテルケトン製のフィルターでは100MPaに耐えうる商品も実用化されているが、疎水性が高いという欠点を有している。
【0007】
ステンレス焼結体や多孔質チタンを用いたカラムフィルターは金属が融着されたフィルターであるため、高い耐圧性を有している。しかしこれらのフィルターは金属であるために、塩基性のタンパク質や金属配位性のタンパク質が吸着することが知られており、さらに抗体の凝集体等の高分子量タンパク質が注入初期にカラムに吸着する現象(以下「初期吸着」と記載する)が知られている。初期吸着は大量の試料をカラムに注入することにより改善(以下この手法を「コンディショニング」と記載する)することは可能であるものの、カラムを保管すると初期吸着が再度発生する場合があるなど、試料の分析前に初期吸着の有無を確認する必要が生じている。
【0008】
これらの要求を満足するため、液体クロマトグラフィーカラム用のフィルターには、高圧に耐える機械的強度を有していることが求められ、さらに分析対象試料であるタンパク質や核酸が吸着し難くい性質が求められていた。
【0009】
上記の様に、特に生体高分子であるタンパク質や核酸等の分析に用いる液体クロマトグラフィーカラムに用いられるフィルターとしては1)高い耐圧性、2)低い非特異的吸着が求められている。
【0010】
液体クロマトグラフィーカラム用のフィルターの非特異的吸着防止に、タンパク質等の生体高分子を用いるとカラムの保管条件によっては菌体などの発生が懸念される。また分画された試料中にフィルター吸着防止に用いたタンパク質等の生体高分子が混入する懸念があり、分画された試料をさらに検討に用いるには懸念が生じる。合成高分子を用いた場合、生体高分子の様な懸念は生じないが、合成高分子はポリマー主鎖に疎水性部を有している場合が多いため、測定試料との相互作用の懸念が生じる。さらに分画された試料中に合成高分子が溶出した場合には、その毒性の影響が懸念される。
【0011】
フィルターをシリコーン被膜で被覆する方法はそのベースポリマーが疎水性であるために、タンパク質等が疎水的に吸着するため適さない。また非特許文献4及び5に示されているシラン処理剤により金属表面修飾する方法では事前に金属表面の処理が必要であること、シラン処理剤導入がトルエンなどの非水溶性有機溶剤中で行う必要があること、導入されたエポキシ基にさらに官能基を導入する必要があることなどから煩雑な手順が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−081424号公報
【特許文献2】特開2000−131302号公報
【特許文献3】特開2001−249120号公報
【特許文献4】特表2005−508398号公報
【特許文献5】特開2006−138724号公報
【特許文献6】特開2006−227022号公報
【特許文献7】特開平06−242094号公報
【特許文献8】特開平07−260763号公報
【特許文献9】特開1998−282078号公報
【特許文献10】特許3990503号公報
【特許文献11】特許3857439号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Immunodiagnostics Oxford University Press, Oxford, UK 1999
【非特許文献2】Surface Modification of Polymeric Biomaterials ,Plenum, New York, N. Y.(1997)
【非特許文献3】Biointerface, bioconjugation, and biomatrix based on bioinspired phospholipid polymers, Handbook of Nanostructured Biomaterials
【非特許文献4】Kang CK1, Lee YS., J Mater Sci Mater Med.2007 Jul;18(7):1389−98 The surface modification of stainless steel and the correlation between the surface properties and protein adsorption
【非特許文献5】Hairen Wang, Anti−Corrosion Methods and Materials Vol. 61 Iss: 5, pp.307 − 313 2014, Corrosion protection of stainless steel by a self−assembled organosilane bilayer
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、液体クロマトグラフィーカラム用のフィルターは、高圧に耐える機械的強度を有し、さらに分析対象試料であるタンパク質や核酸が非特異的吸着し難いフィルターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、従来から使用されている1)高い耐圧性を有する多孔質金属フィルターを使用した液体クロマトグラフィーカラムの2)非特異的吸着に関する課題を解決すべく、鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。即ち本発明は、液体クロマトグラフィー用カラムを事前にポリリジンを用いてコンディショニングすることにより、多孔質金属フィルターの欠点であった、塩基性タンパク質や金属配位性タンパク質の吸着を低減し、高分子量タンパク質の初期吸着も低減する、多孔質金属フィルターを使用した液体クロマトグラフィー用カラムの吸着防止法である。以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、多孔質金属フィルターを使用した液体クロマトグラフィーカラムの塩基性タンパク質、金属配位性タンパク質吸着および、特に高分子タンパク質の初期吸着の低減法に関するものであり、ポリリジンを使用したコンディショニングを行う方法である。本発明のポリリジンを使用してコンディショニングした液体クロマトグラフィー用カラムは、塩基性タンパク質や金属配位性タンパク質の溶出ピーク形状が改善し、タンパク質の初期吸着が低減することから、試料大量注入などの必要が無く、分析開始直後から使用できるため、タンパク質や核酸などの生体高分子分析に特に好適である。
【0017】
コンディショニングに使用するポリリジンとしては、種々の分子量のものが使用可能であるが、分子量が低いと使用中に効果が低下する場合があるため、分子量が大きいことが好ましく、分子量100,000以上が好ましい。
【0018】
コンディショニング方法としては、液体クロマトグラフィー分析と同様な手法、装置で、液体クロマトグラフィー用カラムに溶媒を通液しながら、所定量のポリリジンをカラムに注入することで容易にコンディショニング可能である。用いる溶媒としては、多孔質金属フィルターとポリリジンの結合を阻害せず、かつカチオン交換体充填剤等の様に、ポリリジンの相互作用が予想される場合は、充填剤に吸着しない溶媒を使用する。多孔質金属フィルターとポリリジンの結合を阻害する溶媒例としては、イミダゾール、エチレンジアミン4酢酸等の金属配位性低分子化合物を含む溶媒である。また充填剤にポリリジンが吸着する例としては、充填剤としてシリカ充填剤を使用する場合には、例えば100 mmol / L 濃度以上のリン酸ナトリウム緩衝液を使用することにより、充填剤へのポリリジンの吸着が抑制できる。またカルボン酸、スルホン酸等のイオン交換基を有する充填剤を使用する場合には、例えば0.5 mol/L 以上の塩化ナトリウムを含む溶媒を使用する。
【0019】
ポリリジンの使用量としては、カラム断面積当たり、0.5 mg / cm2以上が好ましく1.0 mg / cm2以上であれば特に好ましい。使用量は一定以上であれば効果に差が無い。
【発明の効果】
【0020】
本発明の液体クロマトグラフィーカラムの吸着防止法は1)高い耐圧性を有する多孔質金属製のフィルターを用いた液体クロマトグラフィーカラムに用い、さらに、ポリリジンを用いてコンディショニングすることにより、高分子生体試料であるタンパク質、核酸等の2) 非特異的吸着を低減する手法である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0021】
以下、実施例により液体クロマトグラフィーカラムの吸着防止法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0022】
実施例1
東ソー株式会社製TSKgel UP−SW3000から充てん剤を抜出し、市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムに充填した。充てんしたカラムを液体クロマトグラフィー装置に接続し、下記に記載した条件でポリ−L−リシン溶液(シグマ社 P4832 mol wt 150,000−300,000 0.01% )を注入することによりカラムのゴンディショニングを行った。
【0023】
〈コンディショニング条件〉
溶離液:100 mmol/L 硫酸ナトリウム in 100 mmol/L リン酸緩衝液 (pH 6.7)
流速:0.35 mL/min
温度:25℃
注入量:150 uL
コンディショニングしたカラムに下記の条件で試料を順に注入し、ピーク形状を計測し吸着程度を観察した。
【0024】
〈測定条件〉
溶離液:100 mmol/L 硫酸ナトリウム in 100 mmol/L リン酸緩衝液 (pH 6.7)
流速:0.35 mL/min
温度:25℃
試料:1. 0.01 g/L 4−Aminobenzoic acid
2. 1.5 g/L Lysozyme (和光純薬 120−02674)
3. 1.5 g/L Cytochrome C (和光純薬 033−22414)
4. 1.5 g/L Trypsin inhibitor from soybean (和光純薬 208−09223)
5. 1.5 g/L Albumin from chicken egg (和光純薬 016−17073)
6. 1.5 g/L mouse monoclonal IgG1各 5uL
表1に各試料の溶出時間、ピーク段数および非対称係数を記載した。塩基性であり疎水性の強いLysozyme(pI 11.2)、塩基性であり金属に配位するCytochrome C(pI10.2)、酸性タンパク質であるTrypsin inhibitor(pI 4.6) 及びAlbumin(pI4.7)のいずれの溶出ピークもテーリングすることなく溶出されており吸着現象は見られなかった。また20%程度の凝集体を含むマウス抗体の凝集体成分も吸着されることが無く溶出された。
【0025】
比較例1
実施例1と同様に市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムを調整した。コンディショニングをせずに実施例1と同様にピーク形状を計測し吸着程度を観察した。結果を表1に記載した。酸性タンパク質は吸着なく溶出されたが、塩基性タンパク質はテーリングが見られ、非対称係数が実施例1と比較し大きな値となった。また抗体の凝集体はまったく溶出されなかった。
【0026】
比較例2
実施例1と同様に市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムを調整した。コンディショニングとして0.1%濃度のAlbumin from Bovine Serum (広島和光 016−15091)を150uL注入した。続いて実施例1と同様にピーク形状を計測し吸着程度を観察した。結果を表1に記載した。酸性タンパク質は吸着なく溶出されたが、塩基性タンパク質は若干のテーリングが見られ非対称係数が実施例1と比較し大きな値となった。抗体凝集体は溶出されるものの、ピーク面積は実施例1と比較し小さい値となった。
【0027】
比較例3
実施例1と同様に市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムを調整した。コンディショニングとして0.1%濃度Casein (Sigma C7078)を150uL注入した。続いて実施例1と同様にピーク形状を計測し吸着程度を観察した。結果を表1に記載した。酸性タンパク質は吸着なく溶出されたが、塩基性タンパク質は若干のテーリングが見られ非対称係数が実施例1と比較し大きな値となった。抗体凝集体はほとんど溶出されなかった。
【0028】
比較例4
実施例1と同様に市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムを調整した。コンディショニングとして0.1%濃度Dextran70 (Sigma 31290)を150uL注入した。続いて実施例1と同様にピーク形状を計測し吸着程度を観察した。結果を表1に記載した。酸性タンパク質は吸着なく溶出されたが、塩基性タンパク質は若干のテーリングが見られ非対称係数が実施例1と比較し大きな値となった。抗体凝集体はほとんど溶出されなかった。
【0029】
比較例5
実施例1と同様に市販の焼結ステンレス製フィルターを使用した4.6mm内径 X 15cm長さの液体クロマトグラフィーカラムを調整した。コンディショニングとして0.1%濃度Polyacrylamide (Sigma 43494−9)を150uL注入した。続いて実施例1と同様にピーク形状を計測し吸着程度を観察した。結果を表1に記載した。酸性タンパク質は吸着なく溶出されたが、塩基性タンパク質は若干のテーリングが見られ非対称係数が実施例1と比較し大きな値となった。抗体凝集体は全く溶出されなかった。
【0030】
【表1】