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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-227490(P2017-227490A)
(43)【公開日】2017年12月28日
(54)【発明の名称】Fc結合性タンパク質の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20171201BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20171201BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20171201BHJP
   G01N 30/34 20060101ALI20171201BHJP
   C07K 1/18 20060101ALN20171201BHJP
   C07K 14/735 20060101ALN20171201BHJP
【FI】
   G01N30/88 J
   G01N30/02 B
   G01N30/26 A
   G01N30/34 E
   C07K1/18ZNA
   C07K14/735
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-122476(P2016-122476)
(22)【出願日】2016年6月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山中 直紀
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大江 正剛
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA50
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA15
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】 陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてFc結合性タンパク質を簡便かつ高精度に定量する方法を提供することにある。
【解決手段】 陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムに平衡化液を添加してカラムを平衡化させ、前記担体にヒトFc結合性タンパク質を含む試料を添加してFc結合性タンパク質を前記担体に吸着させ、前記担体に吸着した不純物を洗浄・除去し、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を、塩を含む溶出液により溶出させる方法であって、前記塩を含む溶出液の塩化ナトリウム濃度が0.1Mであり、その後塩化ナトリウム濃度を0.2Mまでのリニアグラジエントで溶出することを特徴とする定量方法により課題を解決する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムに平衡化液を添加してカラムを平衡化させ、前記担体にヒトFc結合性タンパク質を含む試料を添加してFc結合性タンパク質を前記担体に吸着させ、前記担体に吸着した不純物を洗浄・除去し、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を、塩を含む溶出液により溶出させる方法であって、前記塩を含む溶出液の塩化ナトリウム濃度が0.1Mであり、その後塩化ナトリウム濃度を0.2Mまでのリニアグラジエントで溶出することを特徴とする定量方法。
【請求項2】
前記Fc結合性タンパク質を含む試料が、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで宿主を形質転換して得た形質転換体の抽出物であることを含む、請求項1に記載の定量方法。
【請求項3】
宿主が大腸菌であることを特徴とする、請求項2に記載の定量方法。
【請求項4】
前記Fc結合性タンパク質が、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸を含むタンパク質、または
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
請求項1から請求項3のいずれかに記載の定量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はFc結合性タンパク質の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Fc結合性タンパク質(Fcレセプター)は、免疫グロブリン分子のFc領域に結合する一群の分子である。Fcレセプターはその結合する免疫グロブリンの種類によって分類されており、IgGのFc領域に結合するFcγレセプター、IgEのFc領域に結合するFcεレセプター、IgAのFc領域に結合するFcαレセプター等がある(非特許文献1)。また、各レセプターは、その構造の違いによりさらに細かく分類され、Fcγレセプターの場合、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIの存在が報告されている(非特許文献1)。
【0003】
Fcγレセプターの一つであるFcγRIIIaはナチュラルキラー細胞(NK細胞)やマクロファージなどの細胞表面に存在しており、ヒト免疫機構の中でも重要なADCC(抗体依存性細胞傷害)活性に関与している重要なレセプターである。このFcγRIIIaとヒトIgGとの親和性は結合の強さを示す結合定数(K)が10−1以下であることが報告されている(非特許文献2)。 ヒトFcγRIIIaのアミノ酸配列(配列番号1)はUniProt(Accession number:P08637)などの公的データベースに公表されている。また、FcγRIIIaの構造上の機能ドメイン、細胞膜を貫通するためのシグナルペプチド配列および細胞膜貫通領域の位置についても同様に公表されている。図1にヒトFcγRIIIaの構造略図を示す。尚、図1中の番号はアミノ酸番号を示しており、その番号は配列番号1に記載のアミノ酸番号に対応する。すなわち、配列番号1中の1番目のメチオニン(Met)から16番目のアラニン(Ala)までがシグナル配列(S)、17番目のグリシン(Gly)から208番目のグルタミン(Gln)までが細胞外領域(EC)、209番目のバリン(Val)から229番目のバリン(Val)までが細胞膜貫通領域(TM)および230番目のリジン(Lys)から254番目のリジン(Lys)までが細胞内領域(C)とされている。尚、FcγRIIIaはIgG1からIgG4まであるヒトIgGサブクラスのうち、特にIgG1とIgG3に対し強く結合する一方、IgG2とIgG4に対する結合は弱いことが知られている。
【0004】
近年になり見出されたFc結合性タンパク質の予想外の免疫抑制的な生物学的特性により、自己免疫疾患または自己免疫症候群、移植物の拒絶および悪性リンパ増殖の領域において医薬として注目を浴びつつある(非特許文献3)。このようなFc結合性タンパク質の産業利用への関心が高まっている中、その製造工程において抽出液や粗精製液中に含まれるFc結合性タンパク質は、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)により定量可能であった。ところが、ELISA法は操作が煩雑なことに加え、製造工程管理で要求される感度より過剰に高感度であることから、高倍率に希釈して測定しなければならず、測定誤差が大きいという問題があった。かかる問題の解決方法の一つとしてヒトFcγRIにおいて液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法が考えられ、陽イオン交換クロマトグラフィーによるアルギニンを利用した精製方法および定量方法が報告されている(特許文献1)。しかしながら、Fc結合性タンパク質の分子の中にはこれらの方法でHPLCを行うとその特性(表面電荷)により、HPLCカラムに目的分子が結合しない場合や未結合分子(不純物)を溶出前或いは溶出後に十分に洗い出せないなどの問題があった。また、Fc結合性タンパク質を含む試料の中にはこれらの方法でHPLCを行なうと溶液中の夾雑物の影響によりHPLCカラムへの吸着阻害やFc結合性タンパク質の溶出位置付近に不純物が溶出されるなどの問題もあり、これらの解決が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−125437号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J.V.Ravetch等,Annu.Rev.Immunol.,9,457,1991
【非特許文献2】J.Galon等,Eur.J.Immunol.,27,1928−1932,1997
【非特許文献3】Toshiyuki Takai,Jpn.J.Clin.Immunol.,28,318,2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Fc結合性タンパク質の定量に関しては特許文献1の開示がある。しかしながら、Fc結合性タンパク質の中にはその分子特性から前記方法では高効率に定量することができなかった。
【0008】
そこで本発明の目的は、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてFc結合性タンパク質を簡便かつ高精度に定量する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、陽イオン交換クロマトグラフィーにおいて溶出ピークの分離条件を最適化することで前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
[1] 陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムに平衡化液を添加してカラムを平衡化させ、前記担体にヒトFc結合性タンパク質を含む試料を添加してFc結合性タンパク質を前記担体に吸着させ、前記担体に吸着した不純物を洗浄・除去し、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を、塩を含む溶出液により溶出させる方法であって、前記塩を含む溶出液の塩化ナトリウム濃度が0.1Mであり、その後塩化ナトリウム濃度を0.2Mまでのリニアグラジエントで溶出することを特徴とする定量方法。
[2] 前記Fc結合性タンパク質を含む試料が、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで宿主を形質転換して得た形質転換体の抽出物であることを含む、[1]に記載の定量方法。
[3] 宿主が大腸菌であることを特徴とする、[2]に記載の定量方法。
[4] 前記Fc結合性タンパク質が、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸を含むタンパク質、または
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸を含み、かつ前記アミノ酸のうちの一つ以上が他のアミノ酸に置換、挿入または欠失したタンパク質である、
[1]から[3]のいずれかに記載の定量方法。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明においてヒトFc結合性タンパク質とは、ヒトFcγRIIIaの細胞外領域(具体的には天然型ヒトFcγRIIIaの場合、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち17番目から208番目までの領域)を構成するタンパク質のことをいう。ただし必ずしもヒトFcγRIIIaの細胞外領域の全領域でなくてもよく、ヒトFcγRIIIa細胞外領域を構成するポリペプチドのうち、少なくとも抗体(IgG)のFc領域に結合する本来の機能を発現し得る領域のポリペプチドを含んでいればよい。Fc結合性タンパク質の一例として、
(i)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸を含むタンパク質や、
(ii)配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち少なくとも17番目のグリシンから192番目のグルタミンまでのアミノ酸において特定位置におけるアミノ酸置換が生じたタンパク質、
があげられる。
【0012】
本発明の定量方法において陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に添加する、Fc結合性タンパク質を含むアプライ液を調製するには、ヒト細胞から直接抽出してもよいし、Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドを適切な宿主に導入して得られた形質転換体の抽出物を用いてもよいが、前記タンパク質を安定的にかつ大量に得られる点で後者が好ましい。
【0013】
Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、直接ヒト細胞から抽出して得てもよいが、前記ヒト細胞からの抽出物を核酸増幅することで得る方法や、既知のヌクレオチド配列を基に人工的に直接得た方が好ましい。前記ポリヌクレオチドを人工的に合成するには、前記ポリヌクレオチドの全長をDNA自動合成機などで直接合成してもよいが、化学合成した数十塩基からなるオリゴヌクレオチド群をPCR法によりアッセンブリーさせることによって完全長の遺伝子を作製する、DNAWorks法(Nucleic Acid Res.,30,e43,2002)やSynthetic Gene Designer法(Protein Expr Purif.,47,441−445,2006)を用いると、より効率的な合成が可能である。
【0014】
Fc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を、Fc結合性タンパク質のアミノ酸配列情報から変換して得る場合、アミノ酸配列として変化しない範囲であれば任意のヌクレオチド配列が選択できるが、好ましくは発現させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮の上、変換するのが好ましい。コドンの使用頻度は公的データベース(Codon Usage Database かずさDNA研究所HP参照)を用いることで解析することができる。
【0015】
本発明においてFc結合性タンパク質は、抗体結合活性を損なわない範囲で任意のオリゴペプチドを付加してもよい。前記任意のオリゴペプチドの例として、6残基程度のヒスチジンからなるHisタグ配列やc−myc抗原配列といった分析や精製を容易にするためのタグ配列、微生物での分泌発現を促すためのシグナルペプチドなどが挙げられる。Fc結合性タンパク質に前記タグ配列を付加する場合は、N末端側またはC末端側に付加してもよいし、抗体結合活性を失わない範囲であればタンパク質内に挿入してもよい。Fc結合性タンパク質に前記シグナルペプチドを付加する場合はN末端側に付加すればよく、公知のシグナルペプチドの中から発現に用いる宿主に応じて適宜選択して用いればよい。尚、Fc結合性タンパク質を発現させる宿主として大腸菌を用いる場合は、前記シグナルペプチドとしてpelB、DsbA、MalE、TorTといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを挙げることができる(特開2011−097898号)。また、宿主として枯草菌や麹菌を用いる場合は、プロテアーゼやアミラーゼのシグナルペプチドが挙げられる。
【0016】
本発明においてFc結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、Fc結合性タンパク質のポリヌクレオチドとする)を用いて宿主を形質転換する際、Fc結合性タンパク質のポリヌクレオチドそのものを用いてもよいが、発現ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドやプラスミドなど)の適切な位置にポリヌクレオチドを挿入したものを用いるとより好ましい。尚、前記発現ベクターは形質転換する宿主内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、大腸菌を宿主とする場合はpETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクター、pCDFプラスミドベクター、pBBRプラスミドベクターが例示できる。また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターにポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモーターといった機能性ポリヌクレオチドに連結される状態で挿入すると好ましい。宿主が大腸菌である場合の前記プロモーターの例として、trpプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、recAプロモーター、lppプロモーター、さらにはλファージのλPLプロモーター、λPRプロモーターが挙げられる。
【0017】
前記方法により作製したFc結合性タンパク質のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクターで宿主を形質転換するには当業者が通常用いる方法で行えばよい。例えば、宿主として大腸菌を選択する場合にはコンピテントセル法、ヒートショック法、エレクトロポレーション法などにより形質転換すればよい。
【0018】
形質転換体を培養する方法については特に限定はなく、通常の液体培地やそれを寒天で固めた固体培地を用いればよい。固体培地の形状にも限定はなく、斜面培地であってもよいし平板培地であってもよい。培地の組成としては形質転換体が増殖し、かつFc結合性タンパク質が発現し得るものであればよい。炭素源としては、糖蜜、グルコース、フルクトース、マルトース、ショ糖、デンプン、乳糖、グリセロール、酢酸などが用いられる。窒素原としては酢酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、ペプトン、コーンスティープリカー、酵母エキスなどが用いられる。無機塩としてはリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウムなどのリン酸塩、塩化ナトリウムなどが用いられる。金属イオンとしては塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、クエン酸鉄、硫酸アンモニウム鉄、塩化カルシウム・二水和物、硫酸カルシウム、硫酸亜鉛、塩化亜鉛、硫酸銅、塩化銅、硫酸マンガン、塩化マンガンなどが用いられる。ビタミン類としては酵母エキス、ビオチン、ニコチン酸、チアミン、リボフラビン、イノシトール、ピリドキシンなどが用いられる。尚、固体培地を用いる場合には前記の組成の培地に寒天やジェランガムといった固形化剤を加熱溶解させた後に、培養に用いる試験管やシャーレに分注し、さらに目的の温度まで冷却して固形化することで得られる。
【0019】
形質転換体の培養温度は10℃から40℃が好ましい。培養のpHは用いる宿主の性質に応じて設定され、大腸菌や枯草菌の場合にはpHは6から8が好ましく、酵母や麹菌ではより低いpH4から7が好ましい。また、培養時間は任意に設定できるが、Fc結合性タンパク質が十分に生産される時間であることが好ましく、通常は数時間から200時間の間に設定すればよい。尚、宿主が麹菌の場合は小麦麩麹等の固形培養法を行うことも可能である。この場合は小麦麩等を湿潤状態で加熱滅菌した後、Fc結合性タンパク質を含むプラスミドにて形質転換した菌を植菌し、10℃から40℃で培養する。培養中は培養容器を静置しておけばよいが、より好ましくは1日に1回以上、任意のスピードで任意の時間、容器内の麹を撹拌する。これにより、完全に静置した場合より高い生産性が得られる。撹拌の方法は、雑菌の混入が防げる方法であれば特に限定はされない。
【0020】
Fc結合性タンパク質のポリヌクレオチドを含むベクターに誘導性のプロモーターを含んでいる場合は、目的タンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導すればよい。誘導剤としてはIPTG(Isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside)を例示することができる。宿主が大腸菌の場合、培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、約0.5から1.0となった時に適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、Fc結合性タンパク質の発現を誘導することができる。IPTGの添加濃度は0.005から1.0mMの範囲から適宜選択すればよいが、0.01から0.5mM程度が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行えばよい。
【0021】
得られた形質転換体培養液から抽出物を得るには、遠心分離操作により菌体を集めた後、一般的な細胞抽出方法により抽出物を得ればよい。抽出方法の例として、超音波破砕処理、フレンチプレス処理等の物理的破砕による方法や、リゾチーム等の酵素処理や、界面活性剤による処理方法が挙げられる。
【0022】
本発明の定量方法はFc結合性タンパク質を含む溶液(アプライ液)を、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて定量することを特徴としている。尚、Fc結合性タンパク質を含む溶液が形質転換体の抽出物の場合、脱塩操作を行うことが好ましい。脱塩は透析や希釈等、当業者にとって一般的な方法で行えばよい。脱塩の目安として前記抽出液の電気伝導度が70mS/cm以下、好ましくは10mS/cm以下となるまで行えばよい。前記抽出液のpHに特に限定はないが、pH3からpH8の間が好ましく、さらに好ましくはpH5からpH7の間である。尚、脱塩操作およびpH調整操作において、Fc結合性タンパク質を含む溶液に沈殿物が生じた場合、そのままアプライ液として陽イオン交換クロマトグラフィー用担体に添加してもよいが、遠心分離やろ過などの当業者が通常行う方法により清澄化してから添加した方が好ましい。
【0023】
本発明の精製方法で用いる、陽イオン交換クロマトグラフィー用担体はタンパク質精製に用いる陽イオン交換能を有した担体であれば特に限定はなく、一例として、TOYOPEARL SP−650、TSKgel SP−5PW(何れも東ソー製)といったスルホプロピル基を導入した担体、TOYOPEARL CM−650、TSKgel CM−5PW、TSKgel CM−STAT(何れも東ソー製)といったカルボキシメチル基を導入した担体が挙げられる。尚、前述した例のうち、TSKgel SP−5PW、TSKgel CM−5PW、TSKgel CM−STATは高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用カラムとして販売されており、Fc結合性タンパク質の精製量が少量の場合や、HPLCによるFc結合性タンパク質の定量をする場合に特に有用である。
【0024】
本発明の定量方法を実施する際、陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムは予め緩衝液(平衡化液)で平衡化しておく。緩衝液の種類はpH3からpH8で緩衝能を有する緩衝液であれば特に限定はなく、好ましくはpH5からpH7で緩衝能を有する緩衝液である。一例として、酢酸緩衝液、MES緩衝液、リン酸緩衝液が挙げられる。
【0025】
本発明の定量方法では予め前述した平衡化液で平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムにFc結合性タンパク質を含む溶液(アプライ液)を添加することでFc結合性タンパク質を前記担体に選択的に吸着させた後、平衡化液を添加して前記担体に吸着しない夾雑物を洗浄する。その後、塩化ナトリウム等の水溶性の塩を含む緩衝液(溶出液)を添加し、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を溶出させることでFc結合性タンパク質を簡便に定量することができる。溶出液の塩濃度は緩衝液(溶出液)のpHおよび前記担体の性質により適宜決定すればよい。また、Fc結合性タンパク質を溶出させる際、高濃度の塩を含む緩衝液(溶出液)で一段階に溶出してもよく、任意に塩濃度を段階的に上昇させてもよく(ステップグラジエント)、直線的濃度勾配で塩濃度を上昇させてもよい(リニアグラジエント)が、リニアグラジエントで溶出させると好ましい。例えば緩衝液が20mMの酢酸緩衝液(pH5.0)であり、水溶性の塩として塩化ナトリウムを用いる場合、塩化ナトリウム濃度0Mから1Mまでのリニアグラジエントで溶出させればよい。
【0026】
陽イオン交換クロマトグラフィー用担体にFc結合性タンパク質を含むアプライ液を添加してFc結合性タンパク質を前記担体に吸着させる工程と、前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を、溶出液を用いて溶出させる工程により得られたFc結合性タンパク質を含む溶液はHPLCにより得られる溶出ピーク面積から前記タンパク質を定量することができる。具体的には陽イオン交換クロマトグラフィー用担体を充填したカラムの出口側にオンライン検出器を設けて、溶出液を経時的にモニターやサンプリングをし、得られた溶出液のクロマトグラムのピーク面積から、溶出したFc結合性タンパク質を定量すればよい。前記検出器としてはFc結合性タンパク質を検出できるものであれば限定はなく、例えば示差屈折率計、電気伝導度計、蛍光検出器、紫外検出器、可視検出器が挙げられるが、タンパク質の紫外線吸収を利用して測定する紫外検出器を用いた検出が簡便であり好ましい。紫外検出器を用いて検出する場合、その波長はカルボニル基の吸収に基づく210から230nm、または芳香族アミノ酸の吸収に基づく260から290nmの波長を用いればよい。前者の波長域には高感度で分析できる利点があり、後者の波長域には夾雑物の影響を受けにくいという利点がある。またポストカラム反応でニンヒドリンやフェニルイソチオシアネート等でFc結合性タンパク質を修飾後、可視検出器、紫外検出器、蛍光検出器等を用いて検出してもよい。
【0027】
Fc結合性タンパク質を定量する際は予めELISA法や紫外検出器を用いた方法等で定量した既知濃度のFc結合性タンパク質溶液を用いて検量線を作成し、未知濃度のFc結合性タンパク質を含む溶液を前記作成した検量線に基づき定量すればよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明は陽イオン交換クロマトグラフィー用担体にFc結合性タンパク質を含むアプライ液を添加してFc結合性タンパク質を前記担体に吸着させる工程と前記担体に吸着したFc結合性タンパク質を、塩を含む溶出液を用いて溶出させる工程とを含むFc結合性タンパク質の定量方法である。本発明の定量方法は高速液体クロマトグラフィーにより得られる溶出ピーク面積から前記試料に含まれるFc結合性タンパク質を定量することができる。
前記定量方法はELISA法等、従来のFc結合性タンパク質の定量法と比較し簡便であること、また従来の定量法では定量することが困難であった特性の異なるFc結合性タンパク質の定量が高精度、高効率に可能となるため、Fc結合性タンパク質の工業的生産において生産管理や品質管理が容易となることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】ヒトFcγRIIIaの概略構造図。
図2】実施例1で測定したFc結合性タンパク質の典型的なクロマトグラム。
図3】実施例1で測定した精製Fc結合性タンパク質の検量線(縦軸:溶出ピーク面積、横軸:Fc結合性タンパク質濃度)。
図4】実施例2で測定した試料のクロマトグラム。
図5】実施例3で測定した試料のクロマトグラム(a:実施例2(1)の方法で得たタンパク質抽出液、b:aの試料に精製Fc結合性タンパク質を2μg添加した試料、c:aの試料に精製Fc結合性タンパク質を4μg添加した試料)。
図6】実施例3の結果を示すグラフ(縦軸:溶出ピーク面積から算出した試料濃度、横軸:タンパク質抽出液に添加した精製Fc結合性タンパク質量)。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は当該例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1
(1)以下の方法により、標準Fc結合性タンパク質を調製した。
(1−1)Fc結合性タンパク質を生産する組換え大腸菌(形質転換体)(特開2016−23152)を約60時間培養後、当該培養液より大腸菌菌体を得た。
(1−2)(1−1)で得られた菌体を40mM 塩化ナトリウム、1mM EDTA、2mM MgSO、250U/L Benzonase(メルク社製)、0.05g/L リゾチーム(太陽化学社製)および0.5% Triton X−100(商品名)を含む20mM リン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、撹拌することで菌体内からタンパク質を抽出した。
(1−3)(1−2)で得られた抽出液を遠心分離し、沈殿物を除去することで清澄な溶液を回収した。
(1−4)(1−3)で得られた清澄化液を、予め緩衝液A(20mM リン酸緩衝液(pH6.0))で平衡化したTOYOPEARL CM−650M(東ソー社製)を充填したカラムに通過させ、緩衝液Aで非吸着物質を洗浄した後、1M 塩化ナトリウムを含む緩衝液AでFc結合性タンパク質を溶出した。
【0032】
精製Fc結合性タンパク質は、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で単一バンドを、ゲルろ過クロマトグラフィー(カラム:TSKgel G3000 SWXL(東ソー社製)、溶離液:リン酸緩衝生理食塩水(pH7.4))で単一ピークをそれぞれ確認した。
(2)(1)に記載の方法で調製した標準Fc結合性タンパク質を下記に示すHPLCを用いた方法で測定し、標準Fc結合性タンパク質の検量線を作成した。
(2−1)HPLC用のポンプとしてDP−8020(東ソー社製)を、UV検出器としてUV−8020(東ソー社製)を、カラムとして生体高分子分離用の弱陽イオンカラムTSKgel CM−STAT(3.0mmI.D.×3.5cm)(東ソー製)を用いた。溶離液Aとして20mM リン酸緩衝液(pH6.0)を、溶離液Bとして溶離液Aに1.0M 塩化ナトリウムを添加したものを用いた。
(2−2)(1)に記載の方法で得られたFc結合性タンパク質を含む溶液を溶離液Aで希釈することで、Fc結合性タンパク質濃度0.03から0.12g/Lの溶液を調製した。尚、タンパク質濃度の測定は溶液の280nmの吸光度から算出しており、Fc結合性タンパク質のアミノ酸組成より1mg/mL水溶液の280nmにおける吸光度を1.78として算出している。
(2−3)予め溶離液Aを1mL/minで通液することでカラムを平衡化後、(2−2)の溶液80μLを導入し、溶離液Aを2分間通液した。その後、塩化ナトリウム濃度が0Mから0.5Mまでの直線濃度勾配を10分間で実施し、Fc結合性タンパク質を溶出した。溶出物は280nmの吸光度で検出し、UV検出器にてピーク面積を求めた。
(2−4)Fc結合性タンパク質の濃度に対する溶出ピーク面積をプロットし検量線を作成した。
【0033】
典型的な精製Fc結合性タンパク質のクロマトグラムを図2に、検量線を図3にそれぞれ示す。
【0034】
実施例2
(1)以下の方法により、Fc結合性タンパク質を含むタンパク質抽出液を調製した。
(1−1)Fc結合性タンパク質を生産する組換え大腸菌(形質転換体)を約60時間培養後、当該培養液100μLから遠心分離により菌体を回収した。
(1−2)回収した菌体に1mLのBugBuster溶液を加えて室温で20分間振とうすることでFc結合性タンパク質を抽出し、遠心分離により上清を回収した。尚、BugBuster溶液は市販抽出試薬(メルク社製)をトリス緩衝生理食塩水で10倍に希釈後、更にリゾチーム(太陽化学社製)を終濃度0.3mg/mLに、Benzonase(メルク社製)を終濃度250U/mLになるようそれぞれ添加して調製した。
(1−3)実施例2(1−2)で得られた抽出液を遠心分離し、沈殿物を除去することで溶液を回収した。
(2)HPLC法による定量を行った。
(2−1)実施例1(2−1)に従って分析準備を行い、予め溶離液Aを1mL/minで通液することでカラムを平衡化後、実施例2(1)の方法で得たFc結合性タンパク質を含む抽出液20μLを導入し、溶離液Aを2分間通液した。その後、塩化ナトリウム濃度が0.1Mの溶離液で夾雑不純物を洗浄し、続いて塩化ナトリウム濃度が0.1Mから0.2Mまでの直線濃度勾配を5分間で実施し、Fc結合性タンパク質を溶出した。溶出物は280nmの吸光度で検出し、UV検出器にてピーク面積を求めた。
【0035】
得られたFc結合性タンパク質の溶出ピークの面積、希釈倍率および検量線より試料中のFc結合性タンパク質濃度を計算したところ、2.3mg/mLと計算された。試料のクロマトグラムを図4に示す。
(3)ELISA法による定量を行った。
(3−1)予めヒトIgG溶液(化血研製)を固定化し、1% 牛血清アルブミンでブロッキングした96穴プレート(Nunc社製)にトリス緩衝生理食塩水により適当な濃度に希釈した試料(実施例2(1)の方法で得たタンパク質抽出液)100μLを添加後、30℃で1時間保温した。また、実施例1(1)の方法で得た精製Fc結合性タンパク質を用いて希釈系列(濃度0.06から1mg/L)を作製し、併せて同プレートに100μL添加し保温した。
(3−2)TBST(0.05% Tween 20を含むトリス緩衝生理食塩水)でプレートを洗浄後、トリス緩衝生理食塩水で10,000倍に希釈した抗CD16抗体(R&D SYSTEMS社製、MAB2546)を100μL添加し、30℃で1時間保温した。
(3−3)TBSTでプレートを洗浄後、トリス緩衝生理食塩水で10,000倍に希釈したMouse IgG−heavy and light chain cross−adsorbed抗体(BETHYL社製、A90−216P)を100μL添加し、30℃で1時間保温した。
(3−4)TBSTでプレートを洗浄後、TMB Microwell Peroxidase Substrate System(KPL社製)を50μL添加し、室温で3分間放置することで発色後、1M リン酸を50μL加えることで反応を停止した。
(3−5)マイクロプレートリーダー(テカン社製 インフィニット200)を用いて450nmの吸光度を測定し、精製Fc結合性タンパク質の希釈系列を用いて作成した検量線より試料中のFc結合性タンパク質濃度を求めた。
【0036】
その結果、Fc結合性タンパク質濃度は2.5mg/mLと計算され、HPLC法で求めた濃度とほぼ同じ値となった。
【0037】
実施例3
(1)実施例2(1)の方法で得たタンパク質抽出液200μLに実施例1(1)の方法で得た精製Fc結合性タンパク質溶液(0.2から0.8mg/mLに調整)200μLをそれぞれ混合し、測定試料とした。
【0038】
(2)実施例1(2−1)に従って分析準備を行い、予め溶離液Aを1mL/minで通液することでカラムを平衡化後、実施例3(1)の方法で調製したFc結合性タンパク質を含む抽出液20μLを導入し、溶離液Aを5分間通液した。その後、塩化ナトリウム濃度が0.1Mの溶離液で夾雑不純物を洗浄し、続いて塩化ナトリウム濃度が0.1Mから0.2Mまでの直線濃度勾配を5分間で実施し、Fc結合性タンパク質を溶出した。溶出物は280nmの吸光度で検出し、UV検出器にてピーク面積を求めた。
【0039】
本例で測定した各試料のクロマトグラムを図5に示す。また本例で測定した各試料中に添加したFc結合性タンパク質量に対するFc結合性タンパク質の溶出ピーク面積をプロットしたところ、添加した精製Fc結合性タンパク質量が4μgまで添加量に応じて直線性が得られた。このことから本定量法における試料負荷量は少なくとも5.5μgまで測定可能であることを証明した(図6)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]