B金属間化合物を主相とし、粒界相が、粒界三重点に粒径10nm以上の結晶子が形成された結晶質で存在するA相と、二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点にアモルファス及び/又は粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質で存在し、かつA相とは組成が異なるB相とを含むR−Fe(Co)−M
上記高温時効処理工程において、A相を粒界三重点に形成させ、上記低温時効処理工程において、B相を二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点に形成させることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系焼結磁石(以下、Nd磁石という)は、省エネや高機能化に必要不可欠な機能性材料として、その応用範囲と生産量は年々拡大している。例えば、自動車用途では、高温環境下での使用が想定されることから、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動用モータや電動パワーステアリング用モータなどに組み込まれるNd磁石には高い残留磁束密度と同時に、高い保磁力が求められている。その一方、Nd磁石は、保磁力が高温になると著しく低下し易く、その使用温度での保磁力を確保するため、予め室温での保磁力を十分に高めておく必要がある。
【0003】
Nd磁石の保磁力を高める手法として、主相であるNd
2Fe
14B化合物のNdの一部をDy又はTbに置換することが有効であるが、これらの元素は、資源埋蔵量が少ないだけでなく、商業的に成立する生産地域が限定され、かつその安定供給には地政学的要素が影響するため、価格が不安定で変動が大きいといったリスクがある。このような背景から、高温使用に対応したR−Fe−B系磁石が大きな市場を獲得するためには、DyやTbの添加量を極力抑制した上で、保磁力を増大させる新しい方法又はR−Fe−B磁石組成の開発が必要である。このような点から、従来、種々の手法が提案されている。
【0004】
例えば、特許第3997413号公報(特許文献1)には、原子百分率で12〜17%のR(RはYを含む希土類元素のうち少なくとも2種以上で、かつNd及びPrを必須とする)、0.1〜3%のSi、5〜5.9%のB、10%以下のCo及び残部Fe(但し、Feは3原子%以下の置換量でAl,Ti,V,Cr,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Zr,Nb,Mo,In,Sn,Sb,Hf,Ta,W,Pt,Au,Hg,Pb,Biから選ばれる1種以上の元素で置換されていてもよい)の組成を有し、R
2(Fe,(Co),Si)
14B金属間化合物を主相とする、少なくとも10kOe以上の保磁力を有するR−Fe−B系焼結磁石において、Bリッチ相を含まず、かつ原子百分率で25〜35%のR、2〜8%のSi、8%以下のCo、残部FeからなるR−Fe(Co)−Si粒界相を体積率で少なくとも磁石全体の1%以上有するR−Fe−B系焼結磁石が開示されている。この焼結磁石は、その製造の、焼結時又は焼結後の熱処理時における冷却工程において、少なくとも700〜500℃までの間を0.1〜5℃/分の速度に制御して冷却するか、又は冷却途中で少なくとも30分以上一定温度を保持して多段で冷却することによって、組織中にR−Fe(Co)−Si粒界相を形成させたものである。
【0005】
特表2003−510467号公報(特許文献2)には、硼素分の少ないNd−Fe−B合金、この合金による焼結磁石及びその製造方法が開示されており、この合金から焼結磁石を製造する方法として、原材料を焼結後、300℃以下に冷却する際、800℃までの平均冷却速度をΔT
1/Δt
1<5K/分で冷却することが記載されている。
【0006】
特許第5572673号公報(特許文献3)には、R
2Fe
14B主相と粒界相とを含むR−T−B磁石が記載されている。この粒界相の一部は、主相よりRを多く含むR−リッチ相であり、他の粒界相は、主相よりも希土類元素濃度が低く遷移金属元素濃度が高い遷移金属リッチ相である。そして、このR−T−B希土類焼結磁石は、焼結を800℃〜1,200℃で行った後、400℃〜800℃で熱処理を行うことで製造されることが記載されている。
【0007】
特開2014−132628号公報(特許文献4)には、粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%であって強磁性である遷移金属リッチ相とを含み、粒界相中の遷移金属リッチ相の面積率が40%以上であるR−T−B系希土類焼結磁石が記載され、磁石合金の圧粉成形体を800℃〜1,200℃で焼結する工程と、第1の熱処理工程を650℃〜900℃で行った後、200℃以下まで冷却し、更に、第2の熱処理工程を450℃〜600℃で行う複数の熱処理工程とにより製造することが記載されている。
【0008】
特開2014−146788号公報(特許文献5)には、R
2Fe
14Bからなる主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えたR−T−B希土類焼結磁石として、R
2Fe
14B主相の磁化容易軸がc軸と平行であり、R
2Fe
14B主相の結晶粒子形状がc軸方向と直交する方向に伸長する楕円状であり、粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%である遷移金属リッチ相とを含むR−T−B系希土類焼結磁石が記載されている。また、その製造において、焼結を800℃〜1,200℃で行うこと、焼結後、アルゴン雰囲気中で400℃〜800℃にて熱処理を行うことが記載されている。
【0009】
特開2014−209546号公報(特許文献6)には、R
2T
14B主相と、隣接する二つのR
2T
14B主相の結晶粒子間の二粒子粒界相とを含み、該二粒子粒界相の厚みは5nm以上500nm以下であり、かつ強磁性体とは異なる磁性を有する相からなる希土類磁石が開示されている。この希土類磁石は、二粒子粒界相としてT元素を含みつつも強磁性とはならない化合物から形成されており、そのためこの相は、遷移金属元素を含むものであって、Al、Ge、Si、Sn、GaなどのM元素を含んでいる。更に、希土類磁石にCuを加えることで、二粒子粒界相としてLa
6Co
11Ga
3型結晶構造を有する結晶相を均一に幅広く形成できると共に、La
6Co
11Ga
3型二粒子粒界相とR
2T
14B主相の結晶粒子との界面にR−Cu薄層を形成でき、これによって主相の界面を不動態化し、格子不整合に起因する歪みの発生を抑制し、逆磁区の発生核となるのを抑制することができることが記載されている。そして、その製造において、500℃〜900℃で焼結後熱処理を行い、冷却速度100℃/分以上、特に300℃/分以上で冷却することが記載されている。
【0010】
国際公開第2014/157448号(特許文献7)及び国際公開第2014/157451号(特許文献8)には、Nd
2Fe
14B型化合物を主相とし、二つの主相間に囲まれ、厚みが5〜30nmである二粒子粒界と、三つ以上の主相によって囲まれた粒界三重点とを有するR−T−B系焼結磁石が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述した事情から、Dy、Tb、Hoなどを含有しなくても、又はDy、Tb、Hoの含有量が少なくても、高温でも高い保磁力を発揮するR−Fe−B系焼結磁石が要望される。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、高温でも高保磁力を有する新規なR−Fe−B系焼結磁石及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、12〜17原子%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる2種以上の元素で、かつNd及びPrを必須とする)、0.1〜3原子%のM
1(M
1はSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる2種以上の元素)、0.05〜0.5原子%のM
2(M
2はTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれる1種以上の元素)、(4.5+2×m〜5.9+2×m)原子%(mはM
2で表される元素の含有率(原子%))のB、10原子%以下のCo、0.5原子%以下のC、1.5原子%以下のO、0.5原子%以下のN、及び残部のFeの組成を有し、R
2(Fe,(Co))
14B金属間化合物を主相とし、粒界相が、25〜35原子%のR、2〜8原子%のM
1、8原子%以下のCo、及び残部のFeの組成を有するR−Fe(Co)−M
1相を含み、R−Fe(Co)−M
1相が、粒界三重点に粒径10nm以上の結晶子が形成された結晶質で存在するA相と、二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点にアモルファス及び/又は粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質で存在し、かつA相とは組成が異なるB相とを含むR−Fe−B系焼結磁石が、高温でも高保磁力を有するR−Fe−B系焼結磁石であることを見出した。
【0015】
更に、このようなR−Fe−B系焼結磁石が、
所定の組成を有する合金微粉を調製する工程、
合金微粉を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得る工程、
成形体を900〜1,250℃の範囲の温度で焼結して焼結体を得る工程、
(a)焼結体を400℃以下の温度まで冷却した後、焼結体を700〜1,000℃の範囲の温度、かつA相の包晶温度以下の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、又は(b)焼結体の温度を降温、保持又は昇温して、700〜1,000℃の範囲の温度、かつA相の包晶温度以下の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、及び
高温時効処理後に、400〜600℃の範囲の温度で加熱して、200℃以下まで冷却する低温時効処理工程により製造できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0016】
従って、本発明は、下記のR−Fe−B系焼結磁石及びその製造方法を提供する。
請求項1:
12〜17原子%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる2種以上の元素で、かつNd及びPrを必須とする)、0.1〜3原子%のM
1(M
1はSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる2種以上の元素)、0.05〜0.5原子%のM
2(M
2はTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれる1種以上の元素)、(4.5+2×m〜5.9+2×m)原子%(mはM
2で表される元素の含有率(原子%))のB、10原子%以下のCo、0.5原子%以下のC、1.5原子%以下のO、0.5原子%以下のN、及び残部のFeの組成を有し、R
2(Fe,(Co))
14B金属間化合物を主相とするR−Fe−B系焼結磁石であって、
粒界相が、25〜35原子%のR、2〜8原子%のM
1、8原子%以下のCo、及び残部のFeの組成を有するR−Fe(Co)−M
1相を含み、
上記R−Fe(Co)−M
1相が、粒界三重点に粒径10nm以上の結晶子が形成された結晶質で存在するA相と、二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点にアモルファス及び/又は粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質で存在し、かつ上記A相とは組成が異なるB相とを含むことを特徴とするR−Fe−B系焼結磁石。
請求項2:
Dy,Tb及びHoの合計の含有率が、R全体の5原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載のR−Fe−B系焼結磁石。
請求項3:
上記A相が、M
1として、Si,Ge,In,Sn及びPbから選ばれる1種類以上の元素を20〜80原子%で含有し、かつ残部が、Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Pd,Ag,Cd,Sb,Pt,Au,Hg及びBiから選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする請求項1又は2に記載のR−Fe−B系焼結磁石。
請求項4:
上記B相が、M
1として、Si,Al,Ga,Ag及びCuから選ばれる1種類以上の元素を80原子%超で含有し、残部が、Mn,Ni,Zn,Ge,Pd,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる1種以上の元素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のR−Fe−B系焼結磁石。
請求項5:
上記A相及びB相を含むR−Fe(Co)−M
1相を含む粒界相が、二粒子間粒界及び粒界三重点で、上記主相の結晶粒を個々に取り囲むように分布していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のR−Fe−B系焼結磁石。
請求項6:
近接する2つの上記主相の結晶粒に挟まれた上記粒界相の最狭部の厚みの平均が50nm以上であることを特徴とする請求項5に記載のR−Fe−B系焼結磁石。
請求項7:
請求項1〜6のいずれか1項に記載のR−Fe−B系焼結磁石を製造する方法であって、
所定の組成を有する合金微粉を調製する工程、
該合金微粉を磁場印加中で圧粉成形して成形体を得る工程、
該成形体を900〜1,250℃の範囲の温度で焼結して焼結体を得る工程、
該焼結体を400℃以下の温度まで冷却した後、焼結体を700〜1,000℃の範囲の温度、かつA相の包晶温度以下の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、又は上記焼結体の温度を降温、保持又は昇温して、700〜1,000℃の範囲の温度、かつA相の包晶温度以下の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、及び
上記高温時効処理後に、400〜600℃の範囲の温度で加熱して、200℃以下まで冷却する低温時効処理工程
を含むことを特徴とするR−Fe−B系焼結磁石の製造方法。
請求項8:
上記高温時効処理工程において、A相を粒界三重点に形成させ、上記低温時効処理工程において、B相を二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点に形成させることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石は、高温でも高い保磁力を有しており、高温で使用される機器に用いられる希土類永久磁石として、高い性能を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
まず、本発明のR−Fe−B系焼結磁石は、12〜17原子%のR元素、0.1〜3原子%のM
1元素、0.05〜0.5原子%のM
2元素、(4.5+2×m〜5.9+2×m)原子%(mはM
2元素の含有率(原子%))のB(ホウ素)、10原子%以下のCo、0.5原子%以下のC(炭素)、1.5原子%以下のO(酸素)、0.5原子%以下のN(窒素)、及び残部Feの組成を有し、不可避不純物を含んでいてもよい。
【0020】
RはYを含む希土類元素から選ばれる2種以上の元素で、かつNd及びPrを必須とする。Nd及びPr以外の希土類元素としては、La,Ce,Gd,Tb,Dy,Hoが好ましい。Rの含有率は、磁石の不可避不純物を除く組成の全体に対して、12〜17原子%であり、13原子%以上であることが好ましく、また、16原子%以下であることが好ましい。Rの含有率は、12原子%未満では、磁石の保磁力が極端に低下し、17原子%を超えると残留磁束密度Brが低下する。Rのうち、必須成分であるNd及びPrの比率は、それらの合計がRの全体の80〜100原子%であることが好ましい。Rとして、Dy,Tb及びHoは、含有していても、含有していなくてもよいが、含有している場合、それらの含有率は、Dy、Tb及びHoの合計として、Rの全体の5原子%以下であることが好ましく、より好ましくは4原子%以下、更に好ましくは2原子%以下、特に好ましくは1.5原子%以下である。
【0021】
M
1は、Si,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる2種以上の元素で構成される。M
1は後述するR−Fe(Co)−M
1相の形成に必要な元素であり、M
1を所定の含有率で添加することによって、R−Fe(Co)−M
1相を安定的に形成することができる。また、M
1元素を含有しない場合や、M
1元素が1種単独の場合は、後述するR−Fe(Co)−M
1相が、結晶性の異なる2種以上の相として生成せず、本発明の優れた磁気特性を得ることができない。そのため、M
1は、2種以上の元素で構成することが必要である。M
1の含有率は、磁石の不可避不純物を除く組成の全体に対して、0.1〜3原子%であり、0.5原子%以上であることが好ましく、また、2.5原子%以下であることが好ましい。M
1の含有率は、0.1原子%未満では、粒界相におけるR−Fe(Co)−M
1相の存在比率が低すぎるために、保磁力が十分に向上せず、3原子%を超えると、磁石の角形性が悪化し、更に、残留磁束密度(Br)が低下するため好ましくない。
【0022】
M
2は、Ti,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれる1種以上の元素で構成される。M
2は、焼結時の異常粒成長を抑制することを目的とし、粒界相にホウ化物を安定して形成する元素として添加される。磁石の後述する不可避不純物を除く組成の全体に対するM
2の含有率は、0.05〜0.5原子%である。M
2の添加により、製造時、比較的高温で焼結することが可能となり、角形性の改善と磁気特性の向上につながる。
【0023】
B(ホウ素)の含有率は、磁石の不可避不純物を除く組成の全体に対して、(4.5+2×m)〜(5.9+2×m)原子%(mはM
2で表される元素の含有率(原子%)、以下同じ)であり、(4.6+2×m)原子%以上であることが好ましく、また、(5.7+2×m)原子%以下であることが好ましい。換言すれば、本発明の磁石の組成におけるM
2元素の含有率は0.05〜0.5原子%であるから、上記範囲内で特定されたM
2元素の含有率によってBの含有率の範囲が異なることになるが、Bの含有率は、磁石の不可避不純物を除く組成の全体に対して、4.6〜6.9原子%であり、4.7原子%以上であることが好ましく、また、6.7原子%以下であることが好ましい。Bの含有率の上限値は、重要な要素である。Bの含有率が(5.9+2×m)原子%を超えると、後述するR−Fe(Co)−M
1相が粒界に形成されず、R
1.1Fe
4B
4化合物相、いわゆるBリッチ相が形成される。このBリッチ相が磁石内に存在するときには、磁石の保磁力が十分に増大しない。一方、Bの含有率が(4.5+2×m)原子%未満では、主相の体積率が低下して、磁気特性が低下する。
【0024】
Coは、含有していても、含有していなくてもよいが、キュリー温度及び耐食性の向上を目的として、FeをCoで置換することができ、Coを含有している場合、Coの含有率は、磁石の不可避不純物を除く組成の全体に対して、10原子%以下、特に5原子%以下であることが好ましい。Coの含有率が10原子%を超えると、保磁力の大幅な低下を招くおそれがある。Coの含有率は、FeとCoとの合計に対し、10原子%以下、特に5原子%以下であることがより好ましい。なお、本発明ではCoを含有している場合と、含有しない場合との双方が含まれることを意味する表記として、『Fe,(Co)』又は『Fe(Co)』を用いる。
【0025】
炭素、酸素及び窒素の含有率は、より低い方が好ましく、含有していないことがより好ましいが、製造工程上、混入を完全に避けることができない。これらの元素の含有率は、不可避不純物を除く組成の全体に対して、C(炭素)の含有率は0.5原子%以下、特に0.4原子%以下、O(酸素)の含有率は1.5原子%以下、特に1.2原子%以下、N(窒素)の含有率は0.5原子%以下、特に0.3原子%以下まで許容し得る。Feの含有率は、不可避不純物を除く組成の全体に対して、残部であるが、好ましくは70原子%以上、特に75原子%以上で、80原子%以下である。
【0026】
これらの元素以外、不可避不純物として、H,F,Mg,P,S,Cl,Caなどの元素の含有を、上述した磁石の構成元素と、不可避不純物との合計に対し、不可避不純物の合計として0.1質量%以下まで許容するが、不可避不純物の含有も少ないほうが好ましい。
【0027】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石の結晶粒の平均径は6μm以下、特に5.5μm以下、とりわけ5μm以下であることが好ましく、1.5μm以上、特に2μm以上であることがより好ましい。焼結体の結晶粒の平均径の制御は、微粉砕時の合金微粉末の平均粒径を調整することで可能である。また、R
2Fe
14B粒子の磁化容易軸であるc軸の配向度が98%以上であることが好ましい。98%未満では残留磁束密度(Br)が低下するおそれがある。
【0028】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石の残留磁束密度(Br)は、室温(約23℃)で11kG(1.1T)以上、特に11.5kG(1.15T)以上、とりわけ12kG(1.2T)以上であることが好ましい。
【0029】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石の保磁力は、室温(約23℃)で10kOe(796kA/m)以上、特に14kOe(1,114kA/m)以上、とりわけ16kOe(1,274kA/m)以上であることが好ましい。また、一般に、保磁力の温度係数(β)(%/℃)は、下記式(1)
β=(H
cj_140−H
cj_RT)/ΔT/H
cj_RT×100 (1)
(式中、H
cj_140は140℃での保磁力、H
cj_RTは室温での保磁力、ΔTは室温から140℃までの温度変化量を表わす。)
により算出されるが、本発明によれば、上記式(1)で算出される温度係数(β)の値が、従来のR−Fe−B系焼結磁石の保磁力において、室温での保磁力から温度係数を算出する式である下記式(2)
β=−0.7308+0.0092×(H
cj_RT) (2)
(式中、H
cj_RTは室温での保磁力を表わす。)
で算出される値を超える値、特に、上記式(2)で算出される値より0.005パーセントポイント/℃以上、特に0.01パーセントポイント/℃以上、とりわけ0.02パーセントポイント/℃以上高い値となるR−Fe−B系焼結磁石を得ることが可能である。また、本発明によれば、140℃での保磁力(H
cj_140)が、下記式(3)
H
cj_140=H
cj_RT×(1+ΔT×β/100) (3)
(式中、H
cj_RTは室温での保磁力、ΔTは室温から140℃までの温度変化量、βは上記式(2)から求められる温度係数を表わす。)
で算出される値を超える値、特に、上記式(3)で算出される値より100Oe(7.96kA/m)以上、特に150Oe(11.9kA/m)以上、とりわけ200Oe(15.9kA/m)以上高い値となるR−Fe−B系焼結磁石を得ることが可能である。
【0030】
本発明の磁石の組織には、R
2(Fe,(Co))
14B(R
2(Fe,(Co))
14Bには、Coを含まない場合のR
2Fe
14B、Coを含む場合のR
2(Fe,Co)
14Bが含まれる)金属間化合物の相が主相として含まれる。また、粒界相には、R−Fe(Co)−M
1相(R−Fe(Co)−M
1相には、Coを含まない場合のR−Fe−M
1相、Coを含む場合のR−FeCo−M
1相が含まれる)が含まれる。粒界相には、R−M
1相、好ましくはRが50原子%以上のR−M
1相や、M
2ホウ化物相などが含まれていてもよく、特に、粒界三重点には、M
2ホウ化物相が存在することが好ましい。更に、本発明の磁石の組織は、粒界相に、Rリッチ相が含まれていてもよく、また、R炭化物、R酸化物、R窒化物や、Rハロゲン化物、R酸ハロゲン化物などの製造工程上で混入する不可避不純物の化合物の相が含まれていてもよいが、少なくとも粒界三重点、好ましくは二粒子間粒界及び粒界三重点の全体(粒界相全体)に、R
2(Fe,(Co))
17相、R
1.1(Fe,(Co))
4B
4相が存在しないことが好ましい。
【0031】
R−Fe(Co)−M
1相は、Coを含有しない場合はFeのみを、Coを含有する場合はFe及びCoを含有する化合物の相であり、空間群I4/mcmなる結晶構造をもつ金属間化合物の相であると考えられ、例えば、R
6(Fe,(Co))
13Ga相等のR
6(Fe,(Co))
13(M
1)相などが挙げられる。このR−Fe(Co)−M
1粒界相は、25〜35原子%のR、2〜8原子%のM
1、8原子%以下(即ち、0原子%又は0原子%を超えて8原子%以下)のCo、及び残部のFeの組成を有している。この組成は、電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)などにより定量が可能である。R−Fe(Co)−M
1相は、一般には、R
2Fe
17相のような、Feを含有するR−Fe(Co)金属間化合物と、R
5(M
1)
3相(例えば、R
5Ga
3相、R
5Si
3相など)のようなR−M
1相との包晶反応によって生成すると考えられている。そのため、粒界相には、R−M
1相が含まれていてもよい。本発明においては、主に、主相であるR
2(Fe,(Co))
14B金属間化合物の相と、R
5(M
1)
3相(例えば、R
5Ga
3相、R
5Si
3相など)のようなR−M
1相とから、後述する時効処理によって、R
6(Fe,(Co))
13Ga相、R
6(Fe,(Co))
13Si相などのR−Fe(Co)−M
1相が形成されていると考えられる。このM
1のサイトは、複数種の元素によって相互に置換することができる。
【0032】
R−Fe(Co)−M
1相は、M
1の種類によって、高温安定性が変化し、M
1の種類によって、R−Fe(Co)−M
1相を形成する包晶温度が異なる。包晶温度は、例えば、M
1がCuのときは640℃、M
1がAlのときは750℃、M
1がGaのときは850℃、M
1がSiのときは890℃、M
1がGeのときは960℃、M
1がInのときは890℃、M
1がSnのときは1,080℃である。
【0033】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石において、R−Fe(Co)−M
1相は、2種類以上の相、好ましくは結晶性の異なる2種類以上の相を含み、この2種類以上の相として、少なくとも、粒界三重点に径粒10nm以上の結晶質で存在するA相と、二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点にアモルファス及び/又は粒径10nm未満の微結晶質で存在するB相との2種の相を含むことが好ましい。本発明のR−Fe−B系焼結磁石において、A相は、粒界三重点に偏析した状態となっているのに対して、B相は、粒界三重点には分布せず二粒子間粒界に分布した状態、又は二粒子間粒界及び粒界三重点の双方に分布した状態となっている。
【0034】
A相は、B相より包晶温度が高い相であり、包晶温度が比較的高い相を与える元素として、A相は、M
1として、Si,Ge,In,Sn及びPbから選ばれる1種以上の元素を含有することが好ましい。A相は、高温で安定であり、かつ広い温度領域で安定な相であることから、包晶反応と、R−Fe(Co)−M
1相の結晶化とが進行して、10nm以上の結晶子が形成された結晶質として生成している。また、A相は、上述したように、主相であるR
2(Fe,(Co))
14B金属間化合物の相と、R−M
1相との反応により形成されると考えられ、この反応は、通常、後述する高温の時効処理において、主相と粒界相の界面で進行することになるが、その場合、主相の結晶粒において、表面自由エネルギーの大きい、角部から反応するため、A相の形成が進行すると共に、主相の表面が、表面自由エネルギーの小さい形状に変化し、主相の結晶粒は、全体的に丸みを帯びた形状となる。この丸みを帯びた主相の結晶粒は、逆磁区の発生を抑制するだけでなく、粒界三重点近傍の局所的反磁界が低下するため、高温時における保磁力の低下の抑制に有効である。一方、粒界相中にR−M
1相が存在する場合、例えば、主相と反応していないR−M
1相が存在する場合、R−M
1相は、M
1の種類によって異なるが、粒径10nm以上の結晶子が形成された結晶質、粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質、又はアモルファスのいずれかの状態で存在していることになるが、通常、粒径10nm以上の結晶子が形成された結晶質で存在しているか、又は粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質及びアモルファスの混合状態で存在しているかのいずれかと考えられる。
【0035】
一方、B相は、A相より包晶温度が低い相である。従って、B相は、A相とは組成が異なる。ここで、組成が異なるとは、両相に含まれるM
1の種類が異なる場合(一部が異なる場合、及び全部が異なる場合を含む)、並びに個々の元素の含有率が異なる場合(両相共に同じ元素が含まれていて含有率が異なる場合、及び特定の元素が両相のうちの一方のみに含まれ他方には含まれていない場合を含む)を包含する。B相は、包晶温度が低いが故に、結晶化が不十分なため、二粒子間粒界又は二粒子間粒界及び粒界三重点にアモルファス及び/又は粒径10nm未満の結晶子が形成された微結晶質で存在する。
【0036】
B相より包晶温度が高いA相と、A相より包晶温度が低いB相とを構成する好適な例としては、A相が、M
1として、Si,Ge,In,Sn及びPbから選ばれる1種類以上の元素を20原子%以上、特に25原子%以上で、80原子%以下、特に75原子%以下で含有し、かつ残部が、Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Pd,Ag,Cd,Sb,Pt,Au,Hg及びBiから選ばれる1種以上の元素であることが好ましく、また、B相が、M
1として、Si,Al,Ga,Ag及びCuから選ばれる1種類以上の元素を80原子%超、特に85原子%以上で含有し、残部が、Mn,Ni,Zn,Ge,Pd,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる1種以上の元素であることが好ましい。
【0037】
本発明のR−Fe−B系焼結磁石においては、粒界相が、A相及びB相を含むR−Fe(Co)−M
1相、好ましくは該R−Fe(Co)−M
1相と共にR−M
1相を含有し、これらの相が、二粒子間粒界及び粒界三重点で、主相の結晶粒を個々に取り囲むように分布していることが好ましく、主相の個々の結晶粒が、A相及びB相を含むR−Fe(Co)−M
1相、好ましくは該R−Fe(Co)−M
1相と共にR−M
1相を含有する粒界相によって、近接する他の主相の結晶粒と隔離されていること、例えば、個々の主相の結晶粒に着目した場合、主相の結晶粒をコアとすると、粒界相がシェルとして主相の結晶粒を被覆しているような構造(いわゆるコア/シェル構造に類似した構造)を有していることがより好ましい。これにより、近接する主相の結晶粒が磁気的に分断され、保磁力がより向上する。主相結晶粒の磁気的な分断を確実にするためには、近接する2つの主相の結晶粒に挟まれた粒界相の最狭部の厚みが、10nm以上、特に20nm以上であることが好ましく、また、近接する2つの主相の結晶粒に挟まれた粒界相の最狭部の厚みの平均が50nm以上、特に60nm以上であることが好ましい。
【0038】
また、粒界相が、A相及びB相を含むR−Fe(Co)−M
1相と共にR−M
1相を含有する場合、R−M
1相には、R
5(M
1)
3相(例えば、R
5Ga
3相、R
5Si
3相など)のような、主相であるR
2(Fe,(Co))
14B相と反応してR−Fe(Co)−M
1相を形成するための反応相と、この反応によって生成する副生成物相などが含まれる。R−M
1相は、比較的低融点の化合物相から構成されるため、低温で熱処理することで主相を効果的に被覆し、保磁力の向上に寄与する。
【0039】
次に、本発明のR−Fe−B系焼結磁石を製造する方法について、以下に説明する。
R−Fe−B系焼結磁石の製造における各工程は、基本的には、通常の粉末冶金法と同様であり、所定の組成を有する合金微粉を調製する工程(この工程には、原料を溶解して原料合金を得る溶融工程と、原料合金を粉砕する粉砕工程とが含まれる)、合金微粉を磁場印加中で圧粉成形し成形体を得る工程、成形体を焼結し焼結体を得る焼結工程、及び磁石に特定の組織を形成するための熱処理工程を含む。
【0040】
溶融工程においては、所定の組成、例えば、12〜17原子%のR(RはYを含む希土類元素から選ばれる2種以上の元素で、かつNd及びPrを必須とする)、0.1〜3原子%のM
1(M
1はSi,Al,Mn,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Pd,Ag,Cd,In,Sn,Sb,Pt,Au,Hg,Pb及びBiから選ばれる2種以上の元素)、0.05〜0.5原子%のM
2(M
2はTi,V,Cr,Zr,Nb,Mo,Hf,Ta及びWから選ばれる1種以上の元素)、(4.5+2×m〜5.9+2×m)原子%(mはM
2で表される元素の含有率(原子%))のB、10原子%以下のCo、0.5原子%以下のC、1.5原子%以下のO、0.5原子%以下のN、及び残部のFeの組成、通常は、C,O及びNを含まない組成に合わせて、原料の金属又は合金を秤量し、例えば、真空又は不活性ガス雰囲気、好ましくはArなどの不活性ガス雰囲気で、例えば高周波誘導加熱により原料を溶解し、冷却して、原料合金を製造する。原料合金の鋳造は、通常の溶解鋳造法を用いても、ストリップキャスト法を用いてもよい。
【0041】
粉砕工程は、原料合金を、機械粉砕、水素化粉砕などによる粗粉砕工程を経て、一旦、好ましくは平均粒径0.05mm以上で、3mm以下、特に1.5mm以下に粉砕した後、更にジェットミル粉砕などによる微粉砕工程により、好ましくは平均粒径0.2μm以上、特に0.5μm以上で、30μm以下、特に20μm以下の合金微粉を製造する。なお、原料合金の粗粉砕又は微粉砕の一方又は双方の工程において、必要に応じて潤滑剤等の添加剤を添加してもよい。
【0042】
合金微粉の製造には、二合金法を適用してもよい。この方法は、R
2−T
14−B
1(Tは、通常Fe又はFe及びCoを表す)に近い組成を有する母合金と、希土類リッチな組成の焼結助剤合金とをそれぞれ製造し、粗粉砕し、次いで得られた母合金と焼結助剤の混合粉を上記の手法で粉砕するものである。なお、焼結助剤合金を得るために、上記の鋳造法やメルトスパン法を採用し得る。
【0043】
成形工程においては、微粉砕された合金微粉を、磁界印加中、例えば5kOe(398kA/m)〜20kOe(1,592kA/m)の磁界印加中で、合金粉末の磁化容易軸方向を配向させながら、圧縮成形機で圧粉成形する。成形は、合金微粉の酸化を抑制するため、真空、不活性ガス雰囲気などで行うことが好ましく、特に窒素ガス雰囲気で行うことが好ましい。焼結工程においては、成形工程で得られた成形体を焼結する。焼結温度は、900℃以上、特に1,000℃以上で、1,250℃以下、特に1,150℃以下が好ましく、焼結時間は、通常0.5〜5時間である。
【0044】
次に、熱処理工程においては、磁石に特定の組織が形成されるように、加熱温度が制御される。本発明のR−Fe−B系焼結磁石の製造において、熱処理工程は、(a)焼結体を400℃以下の温度まで冷却した後、焼結体を700〜1,000℃の範囲の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、又は(b)焼結体の温度を降温、保持又は昇温して、700〜1,000℃の範囲の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する高温時効処理工程、及び高温時効処理後に、400〜600℃の範囲の温度で加熱して、200℃以下まで冷却する低温時効処理工程の、2段の時効処理工程を含む。熱処理雰囲気は、真空又は不活性ガス雰囲気、好ましくはArなどの不活性ガス雰囲気であることが好ましい。
【0045】
高温時効処理においては、まず、得られた焼結体を、一旦、400℃以下まで冷却する。この冷却速度は、特に制限されないが、5〜100℃/分、特に5〜50℃/分が好ましい。次に、400℃以下まで冷却した焼結体を、700〜1,000℃の範囲の温度で加熱する。温度が700℃より低いと、A相だけでなく、B相も粒界三重点に析出し、また、結晶化が進行することで、室温での保磁力が著しく悪化する。一方、温度が1,000℃を超えると、主相の粒成長が進行することで、異常成長粒が発生するため好ましくない。また、この加熱温度は、A相の包晶温度以下とすることが有効である。更に、この加熱温度は、B相の包晶温度以上とすることが好ましい。包晶温度は、M
1の種類によって異なり、M
1を構成する元素のうち、最も高い包晶温度を与える元素の包晶温度をA相の包晶温度、最も低い包晶温度を与える元素の包晶温度をB相の包晶温度として設定することができる。高温時効処理の昇温速度は、特に限定されないが、焼結体のヒートショッククラックの発生を軽減するため、1℃/分以上、特に2℃/分以上で、20℃/分以下、特に10℃/分以下が好ましい。
【0046】
また、高温時効処理は、焼結後の冷却及び加熱温度までの昇温のいずれか又は双方を省略することができる。この場合、高温時効処理工程を、焼結体の温度を冷却、保持又は昇温して、700〜1,000℃の範囲の温度で加熱し、400℃以下まで5〜100℃/分の速度で再び冷却する工程とすればよい。ここで、焼結後に冷却する場合は、焼結温度から高温時効処理の加熱温度まで、例えば5〜100℃/分、特に5〜50℃/分で冷却すればよく、焼結後に温度を保持する場合は、焼結後の冷却及び加熱温度までの昇温の双方が省略され、焼結後に加熱する場合は、焼結体のヒートショッククラックの発生を軽減するため、例えば1℃/分以上、特に2℃/分以上で、20℃/分以下、特に10℃/分以下で加熱すればよい。焼結後の冷却及び加熱温度までの昇温のいずれか又は双方を省略するこの方法は、冷却又は昇温におけるヒートショッククラックがより発生しやすい場合、例えば、焼結体のサイズが大きい場合などに、特に有効である。
【0047】
高温時効処理温度での保持時間は、1時間以上が好ましく、通常10時間以下、好ましくは5時間以下である。加熱後は、400℃以下、好ましくは300℃以下まで冷却する。この冷却速度は、5℃/分以上が好ましく、100℃/分以下、特に80℃/分以下、とりわけ50℃/分以下が好ましい。冷却速度が5℃/分未満の場合、A相のみならずB相も粒界三重点に偏析して、磁気特性が著しく悪化する。一方、冷却速度が100℃/分を超える場合、この冷却におけるB相の析出を抑制することはできるが、組織中において、R−Fe(Co)−M
1相の分散性、R−Fe(Co)−M
1相と共にR−M
1相を含有する場合はR−Fe(Co)−M
1相及びR−M
1相の分散性が不十分となって、焼結磁石の角形性が悪化する。このような高温時効処理により、粒界相中、A相が、粒界三重点に偏析した状態で形成される。高温時効処理によりA相が形成されない場合、低温時効処理温度の上昇又は加熱時間の延長により粒界三重点に結晶化したR−Fe(Co)−M
1相を形成することは可能である。しかし、この場合、高温での保磁力は増加する反面、二粒子間粒界の相が不連続化して室温での保磁力が低下するおそれがあるため、室温及び高温の双方における高い保磁力を得るためには、高温時効処理工程において、A相を、粒界三重点に形成することが有効である。
【0048】
高温時効処理に続く低温時効処理においては、400℃以下まで冷却した焼結体を、400℃以上、好ましくは450℃以上で、600℃以下、好ましくは550℃以下の範囲の温度で加熱する。温度が400℃より低いと、B相を形成する反応速度が非常に遅くなる。温度が600℃を超えると、B相の生成速度の増大及び結晶化反応の促進により、B相が粒界三重点に偏析し、磁気特性が大幅に低下する。また、この加熱温度は、B相の包晶温度以下の温度とすることが好ましい。包晶温度は、M
1の種類によって異なり、M
1を構成する元素のうち、最も低い包晶温度与える元素の包晶温度をB相の包晶温度として設定することができる。
【0049】
低温時効処理の昇温速度は、特に限定されないが、焼結体のヒートショッククラックの発生を軽減するため、1℃/分以上、特に2℃/分以上で、20℃/分以下、特に10℃/分以下が好ましい。低温時効処理温度での昇温後の保持時間は、0.5時間以上、特に1時間以上で、50時間以下、特に20時間以下が好ましい。加熱後は、200℃以下の温度、通常は常温まで冷却する。この冷却速度は、5℃/分以上が好ましく、100℃/分以下、特に80℃/分以下、とりわけ50℃/分以下が好ましい。このような低温時効処理により、粒界相中、B相が、粒界三重点には分布せず二粒子間粒界に分布した状態、又は二粒子間粒界及び粒界三重点の双方に分布した状態で形成される。
【0050】
なお、高温時効処理及び低温時効処理における諸条件は、M
1元素の種類及び含有率などの組成や、不純物、特に、製造時の雰囲気ガスに起因する不純物の濃度、焼結条件など、高温時効処理及び低温時効処理以外の製造工程に起因する変動に応じて、上述した範囲内で、適宜調整することができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0052】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
希土類元素Rとして、単体Nd金属及びジジム(NdとPrとの混合物)、電解鉄、Co、M
1元素としてAl、Cu、Si、Ga及びSnから選ばれる2種以上の単体金属、M
2元素としてZr金属、及びFe−B合金(フェロボロン)を使用し、表1に示される所定の組成となるように秤量し、アルゴン雰囲気中、高周波誘導炉で溶解し、水冷銅ロール上で溶融合金をストリップキャストすることによって合金薄帯を製造した。得られた合金薄帯の厚さは約0.2〜0.3mmであった。
【0053】
【表1】
【0054】
次に、作製した合金薄帯に、常温で水素吸蔵処理を行った後、真空中600℃で加熱し、脱水素化を行って合金を粉末化した。得られた粗粉末に潤滑剤としてステアリン酸を0.07質量%加えて混合した。次に、粗粉末と潤滑剤との混合物を、窒素気流中のジェットミルで粉砕して平均粒径2.9μmの微粉末を作製した。
【0055】
次に、作製した微粉末を、窒素ガス雰囲気中で成形装置の金型に充填し、15kOe(1.19MA/m)の磁界中で配向させながら、磁界に対して垂直方向に加圧成形した。次に、得られた圧粉成形体を真空中において1,050〜1,100℃で3時間焼結して、焼結体を作製した。次に、表2に示される条件で、高温時効処理を実施し、表3に示される条件で、低温時効処理を実施した。
【0056】
【表2】
【0057】
【表3】
【0058】
表4に、室温(約23℃)での残留磁束密度(Br)及び保磁力(H
cj)、140℃での保磁力(H
cj)、及び保磁力(H
cj)の温度係数を、表5に、粒界相の近接する2つの主相に挟まれた部分の最小厚みの平均(二粒子間の粒界相の平均厚み)、R−Fe(Co)−M
1相の形態(A相及びB相の有無)、並びにM
2ホウ化物相及びBリッチ相(R
1.1Fe
4B
4相)の有無を、各々示す。更に、
図1に、実施例1〜4及び比較例1〜4における室温及び140℃での保磁力をプロットしたグラフ、
図2に、実施例1の磁石の高温時効処理後の断面組織の電子顕微鏡像(反射電子像)、
図3に、実施例1の磁石の低温時効処理後の断面組織の電子顕微鏡像(反射電子像)、
図4に、比較例1の磁石の高温時効処理後の断面組織の電子顕微鏡像(反射電子像)を、各々示す。
【0059】
【表4】
【0060】
【表5】
【0061】
図1中の破線は、下記式(3−1)
H
cj_140=H
cj_RT×(1+ΔT×β/100) (3−1)
(式中、H
cj_140は140℃での保磁力、H
cj_RTは室温での保磁力、ΔTは室温から140℃までの温度変化量、βは上記式(2)から求められる温度係数を表わす。)
で示される、R−Fe−B系焼結磁石の室温での保磁力と140℃での保磁力との関係を示している。実施例1〜4では、室温及び140℃で高い保磁力が得られ、かつ保磁力の温度係数も良好であったのに対し、比較例1、4では、室温では実施例1〜4と同等の保磁力が得られたが、140℃での保磁力が低かった。また、比較例2、3では、室温及び140℃での保磁力が低く、総じて保磁力の温度係数も低かった。
【0062】
実施例1、2では、包晶温度が最も高いM
1元素がSnであり、その包晶温度以下の900℃の高温時効処理を実施したことで、
図2に示されるように、高温時効処理後、粒界三重点にA相が偏析して生成している。また、
図3に示されるように、低温時効処理後、粒界相には、A相とB相の2相が認められ、二粒子間粒界及び粒界三重点の双方に、B相が生成していた。また、粒界三重点における主相の形状に着目すると、
図2、3では、A相が生成した近傍の主相のエッジが取れ、角が丸くなっている。更に、
図3の断面組織中のA相及びB相の半定量分析の結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
【0064】
この結果から、A相はSnを2.9原子%含有するのに対して、B相はSnを全く含んでいないことがわかる。また、TEMによる回折パターンの結果から、実施例1、2のいずれにおいても、A相は10nm以上の結晶子が形成された結晶質、B相はアモルファス又は10nm未満の結晶子が形成された微結晶質であることが確認された。
【0065】
実施例3、4では、包晶温度が最も高いM
1元素がSiであり、その包晶温度以下の750℃の高温時効処理を実施したことで、実施例1、2と同様に、高温時効処理後、粒界三重点にA相の生成が、低温時効処理後の粒界相には、A相とB相の2相が認められ、二粒子間粒界及び粒界三重点の双方に、B相の生成が確認できた。更に、実施例4の断面組織中のA相及びB相の半定量分析の結果を表7に示す。この結果から、包晶温度の高いSiがA相中に富化していることがわかる。
【0066】
【表7】
【0067】
一方、比較例1では、包晶温度が最も高いM
1元素がGaであり、その包晶温度を超える900℃で高温時効処理を実施したため、
図4に示されるように、高温時効処理後、R−Fe(Co)−M
1相(A相)が生成していない。また、粒界三重点における主相の形状に着目すると、
図4では、主相のエッジが角張っている。また、比較例2では、B量が規定範囲より高いため,粒界相にBリッチ相が析出し,R−Fe(Co)−M
1相(A相及びB相)が生成していない。
【0068】
更に、比較例3では、包晶温度が最も高いM
1元素がSnであり、そのA相の包晶温度以下の900℃で高温時効処理を実施したため、粒界三重点にA相は生成したが、低温時効温度が360℃と低いため、低温時効処理後のR−Fe(Co)−M
1相(B相)の生成が不十分であった。比較例4では、包晶温度が最も高いM
1元素がSiであり、その包晶温度を超える950℃で高温時効処理を実施したため、高温時効処理後、R−Fe(Co)−M
1相(A相)が生成せず、低温時効処理後にR−Fe(Co)−M
1相(B相)のみが生成した。