(54)【発明の名称】破骨細胞形成および/または機能抑制剤、破骨細胞形成および/または機能促進剤並びに破骨細胞形成および/または機能を抑制または促進する薬剤のスクリーニング法
【課題】本発明の目的は、破骨細胞形成および/または機能抑制剤、および破骨細胞形成および/または機能促進剤を提供することである。本発明の別の目的は、骨リモデリングを制御する薬剤のスクリーニング法を提供することである。
miR−125bが、基質小胞によって骨芽細胞から破骨細胞前駆細胞または破骨細胞へと運ばれ、破骨細胞の形成および/または機能を抑制することが見出された。本発明により、新たな破骨細胞形成および/または機能抑制剤、および破骨細胞形成および/または機能促進剤が提供される。また、本発明によれば、骨リモデリングを制御する薬剤のスクリーニング法が提供される。
miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体によりトランスフェクトされ、miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体がトランスフェクト前よりも多量に包含している骨芽細胞由来の基質小胞を含む、破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤。
請求項1〜4のいずれか一項に記載の破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤、若しくは破骨細胞形成促進剤および/または破骨細胞機能促進剤を含む、骨疾患の予防および/または治療をするための医薬組成物。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤を含む、骨量の低下によって特徴付けられる障害を予防および/または治療するための医薬組成物。
骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を被験物質の存在下および非存在下にて培養すること、および両条件下における前記細胞のmiR−125b量を測定することを含み、前記miR−125bの量の増加または減少を、前記被験物質の破骨細胞形成を抑制若しくは促進する作用および/または破骨細胞機能を抑制若しくは促進する作用の指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質若しくは促進する物質のスクリーニング方法。
骨芽細胞を被験物質の存在下および非存在下にて培養すること、および両条件下における基質小胞へのmiR−125bの取り込み量を測定することを含み、前記miR−125bの取り込み量の増加または減少を、前記被験物質の破骨細胞形成を抑制若しくは促進する作用および/または破骨細胞機能を抑制若しくは促進する作用の指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質若しくは促進する物質のスクリーニング方法。
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を被験物質の存在下および非存在下にて培養すること、前記破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を基質小胞で処理すること、および両条件下における前記破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量を測定することを含み、前記破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の増加または減少を、前記被験物質の破骨細胞形成を抑制または促進する作用および/または破骨細胞機能を抑制若しくは促進する作用の指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質若しくは促進する物質のスクリーニング方法。
骨芽細胞にmiR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体をトランスフェクトし、前記骨芽細胞から基質小胞を単離することを含む、前記基質小胞を含む破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤の製造方法。
miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体を人工基質小胞内に挿入することを含む、前記人工基質小胞を含む破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤の製造方法。
破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤の製造のための、(i)骨芽細胞由来の基質小胞、または(ii)miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体、の使用。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
1.骨芽細胞由来の基質小胞を含む破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤
本発明の第1の態様は、骨芽細胞由来の基質小胞を含む、破骨細胞形成および/または機能抑制剤である。
本明細書において、破骨細胞形成抑制剤および/または破骨細胞機能抑制剤を、破骨細胞形成および/または機能抑制剤とも記載する。
骨芽細胞「由来」の基質小胞とは、骨芽細胞から分泌または産生される基質小胞を意味する。基質小胞は、骨芽細胞から出芽的に分泌される細胞外小胞で、骨基質石灰化の起点となることを特徴とする。骨芽細胞は哺乳類のものが好ましく、更にヒトまたはマウスのものが好ましい。スクリーニング方法に関して後述する骨芽細胞も使用することができる。
基質小胞を破骨細胞形成および/または機能抑制剤において用いる場合には、特にmiR−125bを含む基質小胞が好ましい。
天然由来の基質小胞は、例えば骨芽細胞の培養物から抽出して得ることができる。
【0010】
2.miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体を含む、破骨細胞形成および/または機能抑制剤
本発明の第2の態様は、miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体を含む、破骨細胞形成および/または機能抑制剤である。
マイクロRNA(miRNAとも記載する)は、miRNA前駆体に転写されるゲノム上に存在する遺伝子から生成される。まず、遺伝子から一次転写産物であるpri−miRNAが転写され、次いで、pri−miRNAが核内でDroshaと呼ばれるRNase IIIによりプロセシングされ、約70塩基程度のヘアピン構造を有するpre−miRNAが生成される。その後、pre−miRNAは細胞質に輸送され、Dicerと呼ばれるRNase IIIによりプロセシングされて、約20−25塩基の成熟型miRNAが生成される。
【0011】
本明細書において、miRNAの「前駆体」は、前記pri−miRNAとpre−miRNAの両方を意味する。したがって、「miR−125bの前駆体」はpri−miR−125bおよびpre−miR−125bの両方を意味し、mir−125bとも記載される。miR−125bの前駆体は、生体に投与されると、上記のとおり生体内でプロセシングされてmiR−125bを生じ、miR−125bと同じ機能を発揮する。
【0012】
miR−125bおよびmiR−125bの前駆体の配列の例を以下に示すが、これらに限定されるものではない。また、pre−miR−125bはmiR−125bを含んだ配列であればよく、pri−miR−125bはpre−miR−125bを含んだ配列であればよい。
【0013】
ヒトおよびマウスmiR−125b−5p:ucccugagacccuaacuuguga(配列番号1)
ヒトmiR−125b−1−3p:acggguuaggcucuugggagcu(配列番号2)
ヒトmiR−125b−2−3p:ucacaagucaggcucuugggac(配列番号3)
マウスmiR−125b−1−3p:acggguuaggcucuugggagcu(配列番号4)
マウスmiR−125b−2−3p:acaagucagguucuugggaccu(配列番号5)
マウスmir−125b−1;ugcgcuccccucagucccugagacccuaacuugugauguuuaccguuuaaauccacggguuaggcucuugggagcug(配列番号:6)
マウスmir−125b−2;gccuagucccugagacccuaacuugugagguauuuuaguaacaucacaagucagguucuugggaccuaggc(配列番号:7)
ヒトmir−125b−1;ugcgcuccucucagucccugagacccuaacuugugauguuuaccguuuaaauccacggguuaggcucuugggagcugcgagucgugcu(配列番号:8)
ヒトmir−125b−2;accagacuuuuccuagucccugagacccuaacuugugagguauuuuaguaacaucacaagucaggcucuugggaccuaggcggagggga(配列番号:9)
【0014】
本明細書において、miR−125bまたはその前駆体の「変異体」には、miR−125bまたはその前駆体の配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらにより好ましくは95%以上の配列同一性を有し、miR−125bの機能を保持するRNA分子が含まれる。また、miR−125bまたはその前駆体を模倣するように合成された、それらの類似物質も含まれる。例えば、前記miR−125b類似物質は、Ambion社などから入手可能である。
「配列同一性」は、比較対象の配列の全領域にわたって、最適な状態にアラインメントされた2つの配列を比較することにより決定される。ここで、比較対象の配列は、2つの配列の最適なアラインメントにおいて、付加または欠失(例えばギャップ等)を有していてもよい。配列同一性は、公共のデータベース(例えば、DDBJ(http://www.ddbj.nig.ac.jp))で提供されるFASTA、BLAST、CLUSTAL W等のプログラムを用いて算出することができる。または、市販の配列解析ソフトウェア(例えば、Vector NTI(登録商標)ソフトウェア、GENETYX(登録商標) ver. 12)を用いて求めることもできる。また、miR−125bまたはその前駆体の「変異体」には、miR−125b、pri−miR−125b、またはpre−miR−125bの配列において、1個から数個、好ましくは1〜3個の塩基が欠失、置換、挿入または付加された配列を有し、miR−125bの機能を保持するRNA分子が含まれる。
【0015】
本明細書において、「miR−125b若しくはその前駆体、またはそれらの変異体」を「本発明のmiRNA」とも記載する。
本発明のmiRNAは、公知の方法を用いて合成することができる。本発明のmiRNAを構成する核酸は、天然の核酸であっても、安定性の向上した核酸誘導体などの非天然の核酸であってもよい。核酸誘導体としては、例えばメチルホスホネート、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホラミデート、ホスホトリエステル、スルホン、シロキサン、カルボネート、カルボキシメチルエステル、アセトアミデート、カルバメート、チオエーテル、架橋型ホスホラミデート、架橋型メチレンホスホネート、架橋型ホスホロチオエート、ジメチレン−スルフィド、ジメチレン−スルホキシド、ジメチレン−スルホン、2’−O−アルキル、または2’−デオキシ−2’−フルオロホスホロチオエートのヌクレオシド間結合を含む核酸、LNA(Locked Nucleic Acid)、ENA(2’−O,4’−C−Ethylene−bridged Nucleic Acid)などが挙げられる。また、核酸誘導体には、2’または3’糖修飾を含む核酸、例えば2’−O−メチル(2’−O−Me)化ヌクレオチドまたは2’−デオキシヌクレオチド、または2’−フルオロ、ジフルオロトルイル、5−Me−2’−ピリミジン、5−アリルアミノ−ピリミジン、2’−O−メトキシエチル(2’−O−MOE)、2’−O−アミノプロピル(2’−O−AP)、2’−O−N−メチルアセタミド(2’−O−NMA)、2’−O−ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’−DMAEOE)、2’−O−ジメチルアミノエチル(2’−O−DMAOE)、2’−O−ジメチルアミノプロピル(2’−O−AP)、2’−ヒドロキシヌクレオチド、ホスホロチオエート、4’−チオヌクレオチド、2’−O−トリフルオロメチルヌクレオチド、2’−O−エチル−トリフルオロメトキシヌクレオチド、2’−O−ジフルオロメトキシ−エトキシヌクレオチド、または2’−アラ−フルオロヌクレオチドなどを含む核酸が含まれる。
【0016】
本発明のmiRNAは、無機塩基、有機塩基、無機酸、有機酸等と塩を形成してもよく、それら塩形態は本発明のmiRNAの好ましい態様の1つである。塩としては、薬理学的に許容される塩が好ましい。上記無機塩基との塩の例としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;並びにアルミニウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。上記有機塩基との塩の例としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、ピリジン、ピコリン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミンとの塩が挙げられる。上記無機酸との塩の例としては、例えば塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸との塩が挙げられる。上記有機酸との塩の例としては、例えばギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、フマル酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。
【0017】
また、上記本発明のmiRNAを発現する発現ベクター(以下では、「本発明の発現ベクター」とも記載する)も、本発明のmiRNAの好ましい態様の1つである。本発明の発現ベクターは、ウイルスベクターであっても、非ウイルスベクターであってもよい。ウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、レトロウイルス、センダイウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ニワトリポックスウイルス、SV40を代表とするパポバウイルス等に由来するベクターが例示される。好ましくは、ベクターはアデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルスに由来するウイルスである。非ウイルスベクターとしては、Pol Iプロモーター、Pol IIプロモーター、Pol IIIプロモーター、バクテリオファージ(T4ファージやT7ファージのRNAポリメラーゼ認識配列)のプロモーター等を有するベクターが挙げられる。Pol IIプロモーターとしては、CMVプロモーターやβ−グロブリンプロモーターなどを、Pol IIIプロモーターとしては、U6プロモーター、H1プロモーター、tRNAプロモーター、7SKプロモーター、7SLプロモーター、Y3プロモーター、5S rRNAプロモーター、Ad2 VAIおよびVAIIプロモーターなどが例示される。これらのプロモーターを有するベクターは市販されており、容易に入手可能である。
【0018】
本発明のmiRNAは、患者にそのまま投与してもよく、リポソーム、アテロコラーゲン、自己組織化ペプチド、ナノパーティクル、カチオンポリマーおよびデンドリマーなどを担体として投与してもよい。また、基質小胞に含有されて投与されてもよい。基質小胞は天然由来でもよいし、合成品でもよい。合成された人工基質小胞は、例えばリポソーム、ブロックコポリマーミセル等から構成される。人工基質小胞のサイズとしては直径100nmから300nmのものが好ましい。リポソームとしては、N−[2,3−(ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)などが例示される。
【0019】
3.miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体によりトランスフェクトされ、miR−125b、若しくはその前駆体、またはそれらの変異体をトランスフェクト前よりも多量に包含している骨芽細胞由来の基質小胞を含む、破骨細胞形成および/または機能抑制剤、並びにその製造方法
本発明の第3の態様は、本発明のmiRNAをトランスフェクトした骨芽細胞由来の基質小胞を含む、破骨細胞形成および/または機能抑制剤である。前記基質小胞は、本発明のmiRNAを、トランスフェクト前よりも多量に包含していることを特徴とする。
また、本発明の第4の態様は、骨芽細胞に本発明のmiRNAをトランスフェクトし、前記骨芽細胞から基質小胞を単離することを含む、前記基質小胞を含む破骨細胞形成および/または機能抑制剤の製造方法を含む。
トランスフェクション方法としては、従来公知の方法、例えばリポフェクション法、リポソーム法、ポリアミン法、エレクトロポレーション法、ビーズ法等を用いることができる。トランスフェクション試薬としては、TransFectin(バイオラッド社)、Lipofectamine RNAiMAX(ライフテクノロジーズ)、HiPerFect Transfection Kit(キアゲン社)、DharmaFECT試薬キット(Thermo Fisher Scientific社)等を用いることができる。本発明のmiRNAをトランスフェクトした骨芽細胞から、基質小胞を単離することにより、本発明のmiRNAをトランスフェクト前よりも多量に包含する基質小胞を得ることができる。この基質小胞を用いて破骨細胞形成および/または機能抑制剤を製造することができる。
【0020】
本発明の第5の態様は、本発明のmiRNAを、人工基質小胞内に挿入することを含む、人工基質小胞を含む破骨細胞形成および/または機能抑制剤の製造方法である。
例えば、リポソーム、ブロックコポリマーミセル等から構成される人工基質小胞内へ、本発明のmiRNAを挿入することにより製造することができる。
【0021】
4.miR−125bアンチセンス阻害剤を含む、破骨細胞形成促進剤および/または破骨細胞機能促進剤
本発明の第6の態様は、miR−125bアンチセンス阻害剤を含む、破骨細胞形成および/または機能促進剤である。
本明細書において、破骨細胞形成促進剤および/または破骨細胞機能促進剤を破骨細胞形成および/または機能促進剤とも記載する。
本発明において、miR−125bアンチセンス阻害剤とは、miR−125bと相補的な配列をもち、miR−125bの活性および/または発現を阻害する作用を有する阻害剤である。例えば、LNA
TM microRNA Inhibitor(タカラバイオ)、Tough Decoy RNA(Lenti miRNA inhibitor(シグマアルドリッチ))などが挙げられる。例えば、miR−125bアンチセンス阻害剤は、前記骨芽細胞でのmiR−125bの機能または発現を減少させることにより、基質小胞に含まれるmiR−125bの減少または機能不全を引き起こし、破骨細胞の形成および/または機能を促進する。
【0022】
5.破骨細胞形成および/または機能抑制剤、若しくは破骨細胞形成および/または機能促進剤を含む、骨疾患の予防および/または治療するための医薬組成物
本発明の第7の態様は、上述した破骨細胞形成および/または機能抑制剤、若しくは破骨細胞形成および/または機能促進剤を含む、骨疾患の予防および/または治療するための医薬組成物(本発明の医薬組成物とも記載する)である。
本発明の医薬組成物は、本発明のmiRNAに加えて、医薬上許容される担体(例えば、滅菌水、生理食塩水など)、安定剤(例えば、ヌクレアーゼ阻害剤など)、キレート剤(例えば、EDTAなど)、およびその他の助剤を含んでもよい。
本発明の医薬組成物の投与方法としては、経口投与および非経口投与が挙げられるが、非経口投与が好ましい。非経口投与としては、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、皮内投与、粘膜投与などが例示される。
【0023】
本発明の医薬組成物の投与量および投与頻度は、使用目的、患者の年齢、体重、性別、既往歴、疾患の重篤度、有効成分の種類などを考慮して、適宜決定することができる。投与量は、例えば、miRNAの場合、成人1回あたり1.0μg/kg〜1.0g/kg、好ましくは10μg/kg〜100mg/kgであり、ウイルスベクターの場合、ウイルスの最終的な力価として10
7〜10
13pfu/mL、好ましくは10
9〜10
12pfu/mLである。投与頻度は、例えば、1日1回〜数ヶ月に1回である。
【0024】
本発明において、骨疾患とは、破骨細胞の分化および/または成熟異常に起因する骨代謝異常であり、骨量の低下によって特徴付けられる障害(例えば、骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、ステロイドや免疫抑制剤等の治療用薬剤の使用による続発性骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨粗鬆症)、関節リウマチに伴う骨破壊、癌性高カルシウム血症、多発性骨髄腫や癌の骨転移に伴う骨破壊、巨細胞腫、骨減少症、歯根膜炎による歯の喪失、人工関節周囲の骨融解、慢性骨髄炎における骨破壊、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、骨形成不全症等)および破骨細胞の機能低下に起因する疾患(例えば、骨大理石病、骨硬化症、異所性骨化、骨化性筋炎等)を含む。
本発明の破骨細胞形成および/または機能抑制剤を含有する医薬は、骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬として用いることができる。すなわち、本発明は、上述の破骨細胞形成および/または機能抑制剤を含む、骨量の低下によって特徴付けられる障害を予防および/または治療するための医薬組成物を提供する。
本発明の破骨細胞形成および/または機能促進剤を含有する医薬は、破骨細胞の機能低下に起因する疾患に対する予防および/または治療薬として用いることができる。すなわち、本発明は、上述の破骨細胞形成および/または機能促進剤を含む、破骨細胞の機能低下に起因する疾患を予防および/または治療するための医薬組成物を提供する。
本発明において、分化と形成は同義である。例えば、破骨細胞分化と破骨細胞形成は同じ意味で用いられる。
【0025】
本発明の破骨細胞形成および/または機能抑制剤若しくは促進剤を含む、骨疾患の予防および/または治療薬は、投与対象となる個体に対して医薬として使用できる。具体的な投与対象となる個体としては、上述した骨疾患を伴う個体、骨疾患を発症する可能性がある個体等が好適な対象となる。また、個体としては哺乳動物(ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)が好ましく、その中でもヒトが好ましく、特に骨疾患を伴う患者(ヒト)が好ましい。
【0026】
本発明の医薬組成物は治療および/または予防に有効な量の少なくとも一つの骨疾患治療薬と併用することができる。例えば、本発明の破骨細胞形成および/または機能抑制剤を含む医薬組成物と併用され得る骨疾患治療薬としては、ビスホスホネート(例えば、alendronate、etidronate、ibandronate、incadronate、pamidronate、risedronate、またはzoledronate)、活性型ビタミンD3、カルシトニンおよびその誘導体、エストラジオール等のホルモン、SERMs(selective estrogen receptor modulators)、イプリフラボン、ビタミンK2(メナテトレノン)、カルシウム製剤、PTH(parathyroid hormone)、非ステロイド性抗炎症剤(例えば、celecoxibまたはrofecoxib)、可溶性TNFレセプター(例えば、etanercept)、抗TNFα抗体または該抗体の抗原結合断片(例えば、infliximab)、抗PTHrP(parathyroid hormone−related protein)抗体または該抗体の抗原結合断片、IL−1レセプターアンタゴニスト(例えばanakinra)、抗IL−6レセプター抗体または該抗体の抗原結合断片(例えば、tocilizumab)、抗RANKL抗体または該抗体の抗原結合断片(例えば、denosumab)、およびOCIF(osteoclastogenesis inhibitory factor)等を挙げることができるがこれらに限定されない。本発明の医薬組成物と他の骨疾患治療薬とは、単一の製剤に含まれていても、別の製剤に含まれていてもよい。
【0027】
6.スクリーニング方法
本発明において、本発明者らは以下(1)〜(3)からなる骨リモデリングの新規制御機構を見出した。
(1)骨芽細胞においてmiR−125bは基質小胞中に選択的に取り込まれる。
(2)miR−125bを含む基質小胞は骨芽細胞から分泌され、選択的に破骨細胞前駆細胞または破骨細胞に取り込まれる。
(3)基質小胞内分子として破骨細胞前駆細胞または破骨細胞内に取り込まれたmiR−125bは分化(破骨細胞形成)および/または機能を抑制する。
本制御機構に基づいて新規のスクリーニング方法が提供される。
【0028】
6−1.第1のスクリーニング方法
本発明の1つの態様として、骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の変化を指標とする、破骨細胞形成および/または機能を調節(抑制または促進)する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法が提供される。
より具体的には、本発明は、骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を被験物質の存在下および非存在下にて培養し、両条件下における細胞中のmiR−125b量を測定、比較することを特徴とする、破骨細胞形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法を提供する。また、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を使用する場合は、好ましくは、上記条件に加え、さらに基質小胞を培地中に添加する。すなわち、本発明は、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を被験物質の存在下または非存在下にて培養した破骨細胞前駆細胞または破骨細胞に基質小胞を処置し、両条件下における細胞中のmiR−125b量を測定、比較することを特徴とする、破骨細胞形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法を提供する。比較した結果、前記骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の増加または減少があった場合には、これを指標として、前記被験物質が、破骨細胞形成および/または機能を抑制、若しくは促進する作用を有すると判断することができる。
【0029】
上記骨芽細胞としては、骨芽細胞に分化可能な細胞であれば、種や細胞株を問わず利用できる。また、骨芽細胞を含む組織(骨組織等)も利用可能である。例えば、個体より調製した初代培養細胞や樹立された細胞株が利用できる。具体的には、初代培養骨芽細胞(好ましくは、ヒト(例えばロンザジャパン、カタログ番号CC−2538、DV Biologics社、カタログ番号AM005−f)、サル、イヌ、ウサギ、ラット、マウス等の組織から調製)、MC3T3−E1細胞、ROS 17/2.8、UMR−106、RCJ3.1、C3H10T1/2、ROB−C26、C2C12、ST−2、SV−HFO、hFOBs、MG−63、Saos−2、U2−OS、HOS TE85、HBDC(Trabecular Human bone derived cell)、hMS(OB)、SaM−1等が挙げられる。また、骨芽細胞様細胞へと形質転換可能な細胞(例えば、血管平滑筋細胞)や基質小胞を分泌する軟骨細胞も利用可能である。
【0030】
上記破骨細胞前駆細胞としては、破骨細胞に分化し得る単球・マクロファージ系細胞を含み、破骨細胞への分化が可能な破骨細胞前駆細胞であれば種や細胞株を問わず利用できる。また、破骨細胞前駆細胞を含む組織(骨組織等)も利用可能である。例えば、個体より調製した初代培養細胞や樹立された細胞株が利用できる。より具体的には、初代培養細胞(好ましくは、ヒト(例えばロンザジャパン、カタログ番号2T−110)、サル、イヌ、ウサギ、ラット、マウス等の組織から調製)、RAW264.7細胞またはRAW264.7細胞より樹立されたマクロファージ様細胞(RAW−D細胞等)、MOCP−5細胞等が挙げられる。
上記破骨細胞としては、上記破骨細胞前駆細胞より分化誘導によって得られた細胞、または組織から単離した破骨細胞等が挙げられる。
被験物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。また、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー等も被験物質として挙げられる。
【0031】
骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞のmiR−125b量の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。
骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を常法に従ってインビトロで培養する際に被験物質を培地中に添加し、一定時間培養後該細胞のmiR−125b量を、公知の方法、例えば、RT−PCR、核酸アレイ、ノーザンブロット解析等の手法を用いて定量、解析する。
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を使用する際は、被験物質に加えて基質小胞を培地中に添加してもよい。被験物質と基質小胞の添加タイミングは同じでも異なっていてもよい。
【0032】
・破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬の選択
骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の測定の結果、被験物質によるmiR−125b量の増加の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する作用、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞においてmiR−125b量を増加させた前記被験物質を、破骨細胞形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の増加を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
【0033】
・破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬の選択
骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の測定の結果、被験物質によるmiR−125b量の減少の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を促進する作用、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患を予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、miR−125b量を減少させた前記被験物質を、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、骨芽細胞、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞中のmiR−125b量の減少を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
【0034】
6−2.第2のスクリーニング方法
本発明の1つの態様として、基質小胞へのmiR−125bの取り込み(輸送)の変化を指標とする、破骨細胞形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法が提供される。
より具体的には、本発明は、骨芽細胞を被験物質の存在下または非存在下にて培養し、両条件下における基質小胞へのmiR−125bの取り込み量を測定、比較することを特徴とする、破骨細胞の形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法を提供する。比較した結果、基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の増加または減少があった場合には、これを指標として、前記被験物質が、破骨細胞形成および/または機能を抑制若しくは促進する作用を有すると判断することができる。
【0035】
上記骨芽細胞としては、骨芽細胞に分化可能な細胞であれば、種や細胞株を問わず利用できる。また、骨芽細胞を含む組織(骨組織等)も利用可能である。例えば、個体より調製した初代培養細胞や樹立された細胞株が利用できる。具体的には、初代培養骨芽細胞(好ましくは、ヒト(例えばロンザジャパン、カタログ番号CC−2538、DV Biologics社、カタログ番号AM005−f)、サル、イヌ、ウサギ、ラット、マウス等の組織から調製)、MC3T3−E1細胞、ROS 17/2.8、UMR−106、RCJ3.1、C3H10T1/2、ROB−C26、C2C12、ST−2、SV−HFO、hFOBs、MG−63、Saos−2、U2−OS、HOS TE85、HBDC(Trabecular Human bone derived cell)、hMS(OB)、SaM−1等が挙げられる。また、骨芽細胞様細胞へと形質転換可能な細胞(例えば、血管平滑筋細胞)や基質小胞を分泌する軟骨細胞も利用可能である。
【0036】
被験物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。また、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー等も被験物質として挙げられる。
基質小胞へのmiR−125bの取り込み(輸送)の測定は、例えば以下のようにして行うことができる。
骨芽細胞を常法に従ってインビトロで培養する際に被験物質を培地中に添加し、一定時間培養後該細胞の基質小胞を公知の方法により単離する(実施例またはMethods Mol Biol、1053巻、115−124頁参照)。単離した基質小胞中のmiR−125b量を、RT−PCR、核酸アレイ、ノーザンブロット解析等の手法を用いて定量、解析する。
【0037】
・破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬の選択
基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の測定の結果、被験物質による基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の増加の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する作用、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、基質小胞へのmiR−125bの取り込み量を増加させた前記被検物質(miR−125bの基質小胞への輸送を促進する作用を有する物質)を、破骨細胞形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の増加を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
【0038】
・破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬の選択
基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の測定の結果、被験物質による基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の減少の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を促進する作用、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患を予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、基質小胞へのmiR−125bの取り込み量を減少させた前記被検物質(miR−125bの基質小胞への輸送を抑制する作用を有する物質)を、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、基質小胞へのmiR−125bの取り込み量の減少を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
【0039】
6−3.第3のスクリーニング方法
本発明の1つの態様として、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞による基質小胞の取り込みの変化を指標とする、破骨細胞形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法が提供される。
より具体的には、本発明は、被験物質の存在下または非存在下にて培養した破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を基質小胞により処置し、両条件下における破骨細胞前駆細胞または破骨細胞による基質小胞の取り込み量を測定、比較することを特徴とする、破骨細胞の形成および/または機能を調節する物質、若しくは骨疾患の予防および/または治療薬のスクリーニング方法を提供する。比較した結果、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の増加または減少があった場合には、これを指標として、前記被験物質が、破骨細胞の形成および/または機能を抑制若しくは促進する作用を有すると判断することができる。
【0040】
上記破骨細胞前駆細胞としては、破骨細胞に分化し得る単球・マクロファージ系細胞を含み、破骨細胞への分化が可能な破骨細胞前駆細胞であれば種や細胞株を問わず利用できる。また、破骨細胞前駆細胞を含む組織(骨組織等)も利用可能である。例えば、個体より調製した初代培養細胞や樹立された細胞株が利用できる。より具体的には、初代培養細胞(好ましくは、ヒト(例えばロンザジャパン、カタログ番号2T−110)、サル、イヌ、ウサギ、ラット、マウス等の組織から調製)、RAW264.7細胞またはRAW264.7細胞より樹立されたマクロファージ様細胞(RAW−D細胞等)、MOCP−5細胞等が挙げられる。
上記破骨細胞としては、上記破骨細胞前駆細胞より分化誘導によって得られた細胞、または組織から単離した破骨細胞等が挙げられる。
【0041】
被験物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。また、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー等も被験物質として挙げられる。
【0042】
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞による基質小胞の取り込みの測定は、例えば、以下のようにして行うことができる。
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞を常法に従ってインビトロで培養する際に被験物質および標識された基質小胞を培地中に添加し、基質小胞の動態(取り込み)をリアルタイムイメージングによる手法を用いて定量、解析する。被験物質と基質小胞の添加タイミングは同じでも異なっていてもよい。
【0043】
・破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬の選択
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の測定の結果、被験物質による破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の増加の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する作用、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量を増加させた前記被検物質を、破骨細胞形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の増加を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を抑制する物質、若しくは骨量の低下によって特徴付けられる障害に対する予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
【0044】
・破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬の選択
破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の測定の結果、被験物質による破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の減少の変化と、破骨細胞の形成および/または機能を促進する作用、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患を予防および/または治療する活性とが相関付けられる。そして、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量を減少させた前記被検物質を、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)として選択することができる。すなわち、本発明の1つの態様として、破骨細胞前駆細胞または破骨細胞への基質小胞の取り込み量の減少を指標とする、破骨細胞の形成および/または機能を促進する物質、若しくは破骨細胞の機能低下に起因する疾患の予防および/または治療薬(またはそれらの候補物質)のスクリーニング方法が提供される。
本発明のスクリーニング方法において、miR−125bのかわりにその前駆体またはmiR−125b若しくはmiR−125bの前駆体の変異体の発現量を測定することでも、miR−125bの発現変化は評価可能である。したがって、miR−125bの発現のかわりにmiR−125bの前駆体またはmiR−125b若しくはmiR−125bの前駆体の変異体の発現を評価するスクリーニング方法も本発明には含まれる。
【0045】
本発明のスクリーニング方法における骨疾患とは、破骨細胞の分化および/または成熟異常に起因する骨代謝異常であり、骨量の低下によって特徴付けられる障害および破骨細胞の機能低下に起因する疾患を含む。
本発明のスクリーニング方法における骨量の低下によって特徴付けられる障害とは、例えば骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症、老人性骨粗鬆症、ステロイドや免疫抑制剤等の治療用薬剤の使用による続発性骨粗鬆症、関節リウマチに伴う骨粗鬆症)、関節リウマチに伴う骨破壊、癌性高カルシウム血症、多発性骨髄腫や癌の骨転移に伴う骨破壊、巨細胞腫、骨減少症、歯根膜炎による歯の喪失、人工関節周囲の骨融解、慢性骨髄炎における骨破壊、骨ページェット病、腎性骨異栄養症、骨形成不全症等である。
本発明のスクリーニング方法における、破骨細胞の機能低下に起因する疾患とは、例えば、骨大理石病、骨硬化症、異所性骨化、骨化性筋炎等である。
本発明のスクリーニング方法により選択された物質は、前記した本発明の医薬組成物と同様にして製剤化することができる。このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、哺乳動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー)に対して投与することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<細胞培養>
マウス骨芽細胞株MC3T3−E1は理研細胞バンクより、ヒト骨芽細胞(海綿骨由来)はDV Biologics社より入手した。マウスマクロファージ細胞株RAW−D(細胞株RAW264.7より樹立)は九州大学久木田教授より提供された。本発明で使用される細胞および組織(ヒト骨芽細胞以外)は、特に本明細書中に限定する主旨の記載がない限り、10%fetal bovine serum(FBS)と抗生物質を添加したα−Minimum Essential Medium(αMEM)を用いて、37℃、5%CO
2加湿インキュベーターで維持された。ヒト骨芽細胞の培養には、骨芽細胞用培地(DV Biologics社)が使用された。
【0047】
<基質小胞の単離>
MC3T3−E1細胞を50μg/mlアスコルビン酸存在下(分化誘導培地とも記載する)で3,000細胞/cm
2の密度で播種した。類骨様結節が形成されたら(2〜3週間)、細胞をPBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗浄し、500units/mlコラゲナーゼ(2型、シグマアルドリッチ)で37℃、1時間処置した。酵素処理後の消化物を回収し、20,000gで20分間遠心分離し、遠心後細胞と細胞破片を除去した。その後、上清を100,000gで60分間超遠心分離した。100mMマンニトール入り10mM HEPES(pH7.5)で沈殿物を再懸濁し、350,000×gで30分間超遠心分離した。基質小胞を含む沈殿物はPBSで再懸濁され、使用に供されるまで−80℃で保存された。
【0048】
実施例1:基質小胞による破骨細胞形成および機能抑制作用
実施例1.1:インビトロ破骨細胞形成アッセイ
破骨細胞前駆細胞として、マウス骨髄由来マクロファージ(BMMs)およびRAW−D細胞を使用した。
BMMsは以下の方法により調製した。4〜6週齢の雄性ddYマウスの脛骨および大腿骨をフラッシュアウトすることにより骨髄を得て、そこから密度勾配遠心分離(Ficoll−Paque
TM PREMIUM、GEヘルスケア)によって単球/マクロファージ画分を回収した。20ng/mlマクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)(組換えマウス、ぺプロテック)の存在下で一晩培養後、浮遊細胞を回収し、BMMsとした。回収したBMMsを125,000細胞/cm
2の密度で播種後、100ng/mlのRANKL(組換えヒト可溶性、ぺプロテック)および40ng/mlのM−CSFの存在下または非存在下で培養した。
RAW−D細胞は、非酵素的細胞ストリッパー溶液(メディアテック)を用いて回収し、2,200細胞/cm
2の密度で播種後、50ng/mlのRANKLの存在下または非存在下で培養した。
各細胞に基質小胞を処置する場合は、上記[基質小胞の単離]で単離した基質小胞を毎日各細胞に添加した。
播種6日後の各細胞を4%パラホルムアルデヒド含有PBSで固定し、酒石酸耐性酸ホスファターゼ(TRAP)染色を行い、5核以上のTRAP陽性多核細胞を破骨細胞として判定した(破骨細胞の判定は、以下の実験においても同様に行った)。
【0049】
基質小胞(0.8μg/mLタンパク質)は、BMMs(
図1)およびRAW−D(
図2)において、RANKLおよびM−CSF(RAW−D細胞はM−CSF不要)依存的破骨細胞分化を抑制した。また、RAW−D細胞を用い、基質小胞(0.4〜1.6μg/mLタンパク質)の濃度依存性を確認した(
図2)。
【0050】
実施例1.2:骨吸収窩(ピット)形成アッセイによる破骨細胞の機能解析
BMMsを象牙片(和光純薬工業)をセットした96ウエルプレートに125,000細胞/cm
2の密度で播種し、100ng/mlのRANKLおよび40ng/mlのM−CSFの存在下または非存在下で20日間培養した。基質小胞を処置する場合は、上記[基質小胞の単離]で単離した基質小胞(0.8μg/mLタンパク質)を毎日細胞に添加した。培養後、骨吸収窩(ピット)形成を評価するため、象牙片をヘマトキシリンで染色し、イメージJ1.48ソフトウェア(アメリカ国立衛生研究所)を用いて、骨吸収窩(ピット)の面積を測定した。その結果、基質小胞は、RANKLおよびM−CSF依存的骨吸収窩(ピット)形成を抑制した(
図3)。
【0051】
実施例1.3:破骨細胞前駆細胞および破骨細胞における基質小胞の取り込みアッセイ
<ラベル化基質小胞の単離>
MC3T3−E1細胞を、Vybrant(登録商標)Dil cell−labeling D−282溶液(最終濃度5μM、ライフテクノロジーズ)を加えた培地で、37℃、30分間培養した。培養後、上記[基質小胞の単離]に従い、ラベル化基質小胞を単離した。
<破骨細胞前駆細胞における基質小胞の取り込みアッセイ>
RAW−D細胞を35mmガラスボトムディッシュに2200細胞/cm
2の密度で播種し、1日培養後、上記で調製したラベル化基質小胞(0.8μg/mLタンパク質)を添加した。添加後24時間、IncuCyte ZOOMシステム(エッセンバイオサイエンス)を用いてタイムラプスイメージングを行い、基質小胞の動態を観察した。
<破骨細胞における基質小胞の取り込みアッセイ>
RAW−D細胞を35mmガラスボトムディッシュに2200細胞/cm
2の密度で播種後、RANKLの存在下で3〜4日間培養し、破骨細胞(多核)を認めた後、上記で調製したラベル化基質小胞(0.8μg/mLタンパク質)を添加した。添加後24時間、IncuCyte ZOOMシステム(エッセンバイオサイエンス)を用いてタイムラプスイメージングを行い、基質小胞の動態を観察した。
【0052】
その結果、基質小胞の時間依存的な蓄積(取り込み)がRAW−D細胞(破骨細胞前駆細胞)およびRAW−D細胞が分化した破骨細胞の両方において観察された。(それぞれの細胞の24時間後のデータを
図4に示す)。一方、MC3T3−E1細胞を用いてRAW−D細胞と同様の基質小胞取り込みアッセイを実施したが、MC3T3−E1細胞では基質小胞の蓄積は観察されなかった(データは示していない)。これらの結果から、基質小胞の取り込みには細胞選択性があり、破骨細胞前駆細胞および破骨細胞が選択的に基質小胞を取り込む可能性が示唆された。
以上、実施例1から、基質小胞は破骨細胞前駆細胞または破骨細胞に取り込まれ、そこで破骨細胞形成抑制作用および破骨細胞機能抑制作用を発揮することが示された。
【0053】
実施例2:基質小胞に含まれるmiRNAの網羅的解析
基質小胞に含まれるmiRNAのプロファイリングを行った。MC3T3−E1細胞由来の基質小胞中のmiRNAは、mirVana miRNA単離キット(アンビオン)を用いてキット添付の指示書に従い抽出された。抽出したmiRNAを、miRNA Complete Labeling and Hyb kit(アジレント・テクノロジー)およびSurePrint G3 Mouse miRNAマイクロアレイキット8×60K Rel.17.0(アジレント・テクノロジー)を用いてラベル化・ハイブリダイゼーションさせた。miRNAプロファイリングは、アジレントG2539Aマイクロアレイスキャナーおよび解析ソフトウェアGeneSpringGXにより解析された。
その結果、1800種のうち174種のmiRNAが基質小胞に存在した。このうち、基質小胞での相対量が高く、ヒトおよびマウスに共通のmiRNAとして、miR−21、miR−199a、miR−125bおよびlet−7cを選択した。
【0054】
実施例3:miR−125bの基質小胞への選択的輸送
選択した4つのmiRNAについて骨芽細胞と基質小胞の相対量を比較した。
分化誘導培地で14日間培養されたMC3T3−E1細胞およびその基質小胞からトータルRNAを抽出した。標的マイクロRNAの定量には、TaqMan(登録商標)miRNAアッセイを用い、内部標準としてU6およびmiR−16−5Pを使用した。ラット骨芽細胞は、胎生21日Wistarラット頭蓋冠より調製し、分化誘導培地で14日間培養したものを使用した。ヒト骨芽細胞は分化誘導培地で21日間培養したものを使用した。その結果、MC3T3−E1細胞において、miR−125bは、基質小胞での量が細胞に比べ高かった(
図5)。ラット骨芽細胞およびヒト骨芽細胞においても同様の結果が得られた。
これらの結果から、骨芽細胞においてmiR−125bは基質小胞に選択的に取り込まれ、基質小胞中に高いレベルで存在することが示された。
【0055】
実施例4:基質小胞処置後の破骨細胞前駆細胞におけるmiR−125bレベル
基質小胞(0.8μg/mLタンパク質)を24時間処置したRAW−D細胞からトータルRNAを単離し、上記と同様の方法でmiR−125bの相対量を算出した。その結果、細胞中のmiR−125bレベルは、処置前に比べ約2.5倍増加した。
【0056】
実施例5:miR−125bによる破骨細胞形成抑制作用
実施例5.1:miR−125bのトランスフェクション
RAW−D細胞および器官培養した頭頂骨にmiR−125bをトランスフェクションし、破骨細胞の形成を確認した。
RAW−D細胞を2,200細胞/cm
2の密度で播種し一晩培養した。その後、細胞に、RNAiマックス試薬(ライフテクノロジーズ)を用いて10nMのmiR−125b mimic(アンビオン)またはコントロールmiRNAをトランスフェクションした。8時間後、RANKL(50ng/ml)を含む培地に交換し、さらに5日間培養した。その後、TRAP染色に供した。
頭頂骨へのトランスフェクションは以下の方法により実施した。5週齢雄性ddYマウスから頭頂骨を採取し、矢状縫合から1mmの位置から2x2mm
2のサイズの骨片を切り出した。ランダムに選択された4骨片をそれぞれ、24ウエルプレートの各ウェルに入れ、500ng/mlのRANKL存在下または非存在下で5日間培養した。miR−125bまたはコントロールRNA(各200pmole)と5μlのAteloGene(登録商標)(高研)との混合液を1日おきに各骨片に添加した。培養後、各骨片を4%パラホルムアルデヒド含有PBSにより4℃で1時間固定し、厚さ8μmの凍結切片を作成し、TRAP染色に供した。
【0057】
その結果、miR−125bをトランスフェクションしたRAW−D細胞において、RANKL依存的破骨細胞形成の抑制が観察された(
図6)。また、同様の結果が、頭頂骨器官培養を用いた実験からも得られた。
【0058】
実施例5.2:miR−125bインヒビター強制発現の影響
MC3T3−E1細胞を48ウエルプレートに2,000細胞/cm
2の密度で播種した。50%コンフリューエントに達したとき、MISSION(登録商標) Lenti miRNA inhibitor(シグマアルドリッチ)を用いて、miR−125b阻害剤(Tough Decoy RNA)またはネガティブコントロール1を感染多重度(MOI)10〜20で一晩感染させた。2.5μg/mlピューロマイシン含有培地に交換し、miR−125bインヒビターまたはコントロールRNAを安定発現するクローンのセレクションを行った。また、定量PCR分析で陽性と判断されたクローンについては、分化誘導培地で維持し、骨様結節の形成後基質小胞を回収した。
【0059】
両安定発現細胞間において、増殖および分化に際立った違いは見られなかった。一方、miR−125bインヒビターの強制発現は、基質小胞のALP、アネキシンVといったマーカータンパク質レベルは変化させずに、リアルタイムRT-PCRによるmiR−125bの検出レベルを約70%減少させた。両細胞由来の基質小胞を用いて、破骨細胞形成アッセイを実施した。miR−125bインヒビター強制発現細胞由来またはコントロール細胞由来の基質小胞をそれぞれRAW−D細胞にRANKL存在下または非存在下で4日間投与し、TRAP染色に供した。その結果、miR−125bインヒビター強制発現細胞由来の基質小胞を投与されたRAW−D細胞ではコントロール細胞由来の基質小胞を投与された細胞に比べて、破骨細胞数の形成が多かった(
図7)。この結果から、miR−125b機能欠損は、基質小胞がもつ破骨細胞形成抑制能力を低下させること、すなわち基質小胞による破骨細胞形成抑制効果は、基質小胞中のmiR−125bを介して発揮されることが示された。
【0060】
実施例5.3:in vivo破骨細胞形成アッセイ
マウスLPS(リポポリサッカライド)惹起骨融解モデルを用いて、in vivoでのmiR−125bの破骨細胞形成に対する抑制効果を検証した。本モデルは、LPSをマウス頭蓋冠に投与し、破骨細胞分化・骨破壊を誘導する動物モデルである。
LPS(5mg/kg体重)を8週齢雄性ddYマウス頭蓋冠上に1日おきに皮下投与した。0日目および3日目に、miR−125bまたはコントロールRNA(各7nmole)と70μlのAteloGene(登録商標)との混合液をLPS投与箇所近傍に皮下注射した。また、1日目と5日目にカルセイン(100μg/kg体重)を腹腔内投与した。LPS投与から1週間後、頭蓋冠は、ホールマウントTRAP染色に供された。
【0061】
その結果を
図8に示す。miR−125bを投与されたマウス頭蓋冠ではコントロールRNAを導入されたマウス頭蓋冠に比べてTRAP陽性破骨細胞数が減少していた。本結果から、in vivoにおいても、miR−125bの破骨細胞形成抑制作用が示された。
実施例5から、miR−125bは破骨細胞形成抑制作用を有すること、およびmiR−125bは基質小胞を介して破骨細胞前駆細胞または破骨細胞に運ばれてその作用を発揮することが示された。