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特開2017-43595モノクローナル抗AGEs抗体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-43595(P2017-43595A)
(43)【公開日】2017年3月2日
(54)【発明の名称】モノクローナル抗AGEs抗体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20170210BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20170210BHJP
   C12N 5/16 20060101ALI20170210BHJP
   C12N 15/02 20060101ALI20170210BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20170210BHJP
【FI】
   C07K16/18
   C12P21/08
   C12N5/16
   C12N15/00 C
   G01N33/53 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-213954(P2015-213954)
(22)【出願日】2015年10月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-221731(P2014-221731)
(32)【優先日】2014年10月30日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-170289(P2015-170289)
(32)【優先日】2015年8月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000125369
【氏名又は名称】学校法人東海大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(71)【出願人】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】永井 竜児
(72)【発明者】
【氏名】保田 尚孝
(72)【発明者】
【氏名】新里 達也
(72)【発明者】
【氏名】神前 健
【テーマコード(参考)】
4B024
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B024AA11
4B024AA12
4B024BA41
4B024BA43
4B024DA02
4B024GA03
4B024GA18
4B024HA04
4B024HA15
4B064AG27
4B064CA20
4B064CC24
4B064CE11
4B064CE12
4B064CE13
4B064DA13
4B065AA90X
4B065AB02
4B065AB05
4B065BA08
4B065CA25
4B065CA46
4H045AA11
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA23
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】MG-H1に対して高い特異性を有するモノクローナル抗AGEs抗体を提供すること。
【解決手段】本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、最終糖化産物(AGEs)に対するモノクローナル抗体であって、MG-H1に対して特異的に結合する。また、モノクローナル抗AGEs抗体は、タンパク質に結合している非遊離体のMG-H1及びタンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対する結合能を有する。本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、好ましくは、タンパク質に結合していないMG-H1を合成し、それをタンパク質に結合して得た抗原を動物に免疫して得られたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
最終糖化産物(AGEs)に対するモノクローナル抗体であって、
メチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロン(MG-H1)に対して特異的に結合する、モノクローナル抗AGEs抗体。
【請求項2】
タンパク質に結合している非遊離体のMG-H1及びタンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対して結合能を有する、請求項1に記載のモノクローナル抗AGEs抗体。
【請求項3】
タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成し、それをタンパク質に結合して得られた付加体を抗原として動物に免疫して得られたものである、請求項1又は2に記載のモノクローナル抗AGEs抗体。
【請求項4】
既知AGEsである、カルボキシメチルアルギニン及びカルボキシメチルリジンに交叉反応性を有しない、請求項3に記載のモノクローナル抗AGEs抗体。
【請求項5】
NITE P−1898(OYC111)、NITE P−1899(OYC112)又はNITE P−2064(OYC113)として寄託されたハイブリドーマが産生する、請求項1〜4の何れか1項に記載のモノクローナル抗AGEs抗体。
【請求項6】
タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成する工程、
合成したMG-H1を、クロスリンカーを用いてタンパク質に結合する工程、及び、
MG-H1が結合したタンパク質を抗原として動物を免疫する工程を具備する、モノクローナル抗AGEs抗体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗AGEs抗体を使用してAGEsであるMG-H1を、検出又は定量するモノクローナル抗AGEs抗体の使用方法。
【請求項9】
生体試料中のMG-H1を検出又は定量する、請求項8に記載のモノクローナル抗AGEs抗体の使用方法。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか1項に記載のモノクローナル抗AGEs抗体を含む、生体試料中のMG-H1を検出又は定量するためのキット。
【請求項11】
糖尿病又はその合併症の発症又は発症するリスクの判断に用いられる、請求項10に記載のキット。
【請求項12】
癌の発症又は発症するリスクの判断に用いられる、請求項10に記載のキット。
【請求項13】
前記癌が、前立腺癌である、請求項12に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最終糖化産物(AGEs)の1種であるメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロン(MG-H1)に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体及びその製造方法に関し、より詳細には、MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体及びその製造方法、並びにその抗体を産生するハイブリドーマ、並びにその抗体の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質中に存在するアミノ基とグルコース等の還元糖のアルデヒド基とが、非酵素的に反応すると糖化産物が形成される。この反応は、非酵素的糖化反応又はメイラード反応と称される。非酵素的糖化反応は、生体内においても起きている。非酵素的糖化反応は、シッフ塩基を経てアマドリ転位生成物が形成される前期反応と、複雑な開裂や縮合等が起こる後期反応との2段階で起こると考えられ、後期反応では、最終糖化産物(=AGEs:Advanced Glycation End Products)と呼ばれる、単一ではない様々な物質が生成する。
【0003】
AGEsについては、糖尿病や老化に伴う各種の症状や疾患等との関連性が報告されている。例えば、AGEsが、糖尿病における腎障害や網膜症にAGEsの蓄積が関係していることや、加齢で認められる種々の組織障害、例えば、皮膚、血管壁、関節等の結合組織の硬化に関連し、皮膚の肥厚、しわの形成、動脈硬化、関節炎等の原因になり得ることや、アルツハイマー病におけるβ−アミロイドペプチドの脳内蓄積にAGEsが関与していること等が報告されている。また、骨粗鬆症等の骨の強度の低下において、骨中のコラーゲンの糖化(AGEs化)が原因の一つであることが報告されている。さらに、AGEsが癌疾患、例えばその増殖や転移に関与していることも示唆されている。
【0004】
AGEsと各種の疾患との関連性の究明やその予防や治療法の開発には、多様なAGEsのなかから着目した特定のAGEsを検出又は定量する技術が必要である。AGEsを検出又は定量する方法としては、高速液体クロマトグラフィー(HPLC法)やガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)法、液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS/MS)法、AGEsを特異的に認識する抗AGEs抗体を用いる方法が知られている。これらの中でも、抗AGEs抗体を用いる方法は大型で高価な機器を使用しなくてもよい点で優れている。
抗AGEs抗体を用いる方法としては、例えば、特許文献1には、3,4−ジオキシグルコソン-3-エン(DGE)に由来するAGEsに特異的に反応する抗体及びそれを用いたAGEsの検出方法が記載され、特許文献2には、生体サンプル内におけるグアニジノ基由来のAGEsに特異的なモノクローナル抗体及びそれを用いたAGEsの検出方法が記載されている。また、特許文献3には、フルクトース由来のAGEに対する抗体及びそれを用いたフルクトース由来のAGEの測定方法が記載されている。
【0005】
ところで、AGEsの1種としてMG-H1が知られており、このMG-H1についても糖尿病や老化に伴う症状や疾患との関連性が報告されている。例えば、特許文献4には、糖尿病性の腎症、眼疾患、又は心血管合併症を発症するリスク又は割合の指標として、血漿から生成された2つ以上のバイオマーカーのレベルを使用するに当たり、その一つのバイオマーカーとしてMG-H1を使用することが記載されている。また、非特許文献1は、可溶性ヒト水晶体タンパク質中のメチルグリオキサール−ハイドロイミダゾロンに関し、2種の構造異性体(MG-H1,MG-H2)の濃度を測定し、他のAGEsの濃度と比較することによって、MG-H1又はMG-H2と老化や白内障との間に関連性があることを明らかにしている。
【0006】
しかし、このMG-H1については、抗AGEs抗体を用いて検出や定量等を行うことに言及した文献は少なく、上述した特許文献1〜3にも記載されていない。上述した特許文献4においても、個体から得た生体試料を、液体クロマトグラフィー/四重極質量分析法(LC-MS/MS)を使用した分析によりバイオマーカーのレベルを決定することが記載されている一方、抗AGEs抗体を用いて分析することは記載されていない。また、非特許文献1にも、メチルグリオキサール(MG)イミダゾロン(MG-HI,MG-H2)を、それらを特異的に認識する抗体を用いて分析することは記載されていない。
一方、非特許文献2には、メチルグリオキサール(MG)で修飾したタンパク質をマウスに免疫して得られた抗体に、エピトープがイミダゾロンである抗体が含まれることを開示されている。しかし、非特許文献2には、タンパク質に結合していないイミダゾロンを合成した後、それをタンパク質と結合して免疫原として用いることは記載されておらず、MG-H1に対する特異性や遊離体のMG-H1に対する結合能が高いモノクローナル抗体は記載されていない。
【0007】
なお、特許文献5には、糖尿病で特徴的な高血糖状態により形成される糖化タンパク質が、動脈硬化症等の心血管疾患、アルツハイマー、がんの増殖及び転移、炎症反応などの合併症の重要な原因となり得ることが記載されており、また、そのような糖化タンパク質を、ガレクチンと呼ばれるレクチンの糖鎖に対する結合活性を用いて検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−312621号公報
【特許文献2】特表2002−517224号公報
【特許文献3】特開2004−323515号公報
【特許文献4】特開2013−257328号公報
【特許文献5】特開2012−225762号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Naila Abmed et al., "Methylglyoxal-derived hydroimidazolone advanced glycation end-products of human lens proteins.", Invest Ophthalmol Vis Sci, 2003; Vol.44 ,No.12: P.5287-5292
【非特許文献2】B.K.kilhovd et al., "Increased serum levels of the specific AGE-compound methylglyoxal-derived hydroimidazolone in patients with type 2 diabetes.", Metabolism, 2003; Vol.52 ,No2: P.163-167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の課題は、MG-H1に対して高い特異性を有するモノクローナル抗AGEs抗体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、タンパク質に結合していないMG-H1を合成した後、それをタンパク質と結合して抗原として用いることにより、MG-H1に対する特異性や結合能の高いモノクローナル抗体が得られることを知見した。
本発明は、上記の知見に基づきなされたもので、最終糖化産物(AGEs)に対するモノクローナル抗体であって、MG-H1に対して特異的に結合する、モノクローナル抗AGEs抗体を提供するものである。
また、本発明は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成する工程、
合成したMG-H1を、クロスリンカーを用いてタンパク質に結合する工程、及び、
MG-H1が結合したタンパク質を抗原として動物を免疫する工程を具備する、モノクローナル抗AGEs抗体の製造方法を提供するものである。
また、本発明は、前記のモノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマを提供するものである。
また、本発明は、前記のモノクローナル抗AGEs抗体を使用して、AGEsであるMG-H1を検出及び/又は定量するモノクローナル抗AGEs抗体の使用方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、MG-H1に対する高い特異性及び結合能を有しており、MG-H1の検出又は定量に好ましく用いられ、例えばMG-H1に関係して生じる各種の症状や疾患の、研究、予防及び治療等に有用である。また、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、遊離体のMG-H1に対しても高い結合能を示し、例えば血清中の遊離体のMG-H1の検出又は定量への適用の可能性も有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】蛋白質に結合した非遊離体のMG-H1を支持体固定抗原、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体を1次抗体として行ったELISAの結果を示すグラフである。
図2】本発明のモノクローナル抗AGEs抗体の一例である抗体1について、遊離体のMG-H1を競合させて行った競合ELISAの結果を示すグラフである。
図3】本発明のモノクローナル抗AGEs抗体の一例である抗体1、抗体2及び抗体3についてのウェスタンブロッティングの結果を示す図である。
図4】本発明のモノクローナル抗AGEs抗体を用いた競合ELISAにより得られた、糖尿病のラットと正常なラットの各血清中のMG-H1量を示すグラフである。
図5】本発明のモノクローナル抗AGEs抗体を用いた競合ELISAにより得られた、前立腺癌のラットと正常なラットの各血清中のMG-H1量を示すグラフである。
図6】本発明のモノクローナル抗AGES抗体を用いた競合ELISAにより得られた、前立腺癌患者と男性健常者の各血清中のMG-H1量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好ましい実施形態(態様)に基づいて説明する。
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、最終糖化産物(AGEs)に対する抗体であって、MG-H1に対して特異的に結合するものである。本発明における「MG-H1」は、AGEsの前駆体であるメチルグリオキサール(MG)が、タンパク質中のアルギニン残基等の非遊離のアルギニン又は遊離のアルギニンと反応して生じた非遊離体又は遊離体のMG-H1であり、「MG-H1に対して特異的に結合する」とは、少なくとも非遊離体のMG-H1を認識して反応する一方、MG-H1以外のAGEであって既知のAGEs構造である、カルボキシメチルアルギニン(CMA:Nω-(carboxymethyl)arginine)、カルボキシメチルリジン(CML:Nε-(Carboxymethyl)lysine)及びカルボキシエチルリジン(CEL:Nε-(carboxyethyl)lysine)のいずれとも反応しないか、それらに対する反応性がいずれも非遊離体のMG-H1に対する反応性に対して有意に低いことを意味する。
【0015】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1に対する結合能を有する。遊離体のMG-H1に対する結合能を有すると、例えば競合ELISAで使用可能となる。競合的阻害アッセイにおいては、例えばマイクロプレートのウェル(穴)に非遊離体のMG-H1が結合した蛋白を固定しておき、そのMG-H1に対する抗体の結合が遊離体のMG-H1を共存させることにより阻害されるか否かを調べ、阻害される場合には遊離体のMG-H1に対する結合能を有し、阻害されない場合にはMG-H1に対する結合能を有しないと判断する。
【0016】
タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1は、ペプチドを含めてタンパク質に結合していないMG-H1を意味し、ペプチド結合を有しないアルギニンのメチルグリオキサール(MG)修飾物である。即ち、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、好ましくは、タンパク質に結合したMG-H1のみならず、ペプチド及び蛋白の何れにも結合していない遊離体のMG-H1に対する反応性も有している。
【0017】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成した後、その合成したMG-H1をタンパク質に結合して得られる付加体を、免疫原として動物に免疫することにより得られる。本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、斯かる方法で調製することにより、タンパク質をメチルグリオキサールと反応させて得た免疫原で同動物を免疫する場合に比べて、MG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能が高いものとなる。
【0018】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、クラスがIgGである。
また、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体としては、本明細書の実施例に記載した抗体1〜3が挙げられる。抗体1及び2を産生するハイブリドーマは、2014年7月15日付け、抗体3を産生するハイブリドーマは、2015年6月5日付けで、独立行政法人 製品評価技術基盤機構特許生物寄託センターに寄託されており、それぞれの受託番号は下記の通りである。
抗体1を産生するハイブリドーマ(OYC111):受託番号NITE P−1898
抗体2を産生するハイブリドーマ(OYC112):受託番号NITE P−1899
抗体3を産生するハイブリドーマ(OYC113):受託番号NITE P−2064
【0019】
以下、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体の好ましい製造方法について説明する。
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体の好ましい製造方法は、下記工程(1)〜(3)を具備するとともに、モノクローナル抗体の製法において常法である下記工程(4)を具備する。
(1)タンパク質に結合していない遊離体のMG-H1を合成する工程
(2)合成したMG-H1を、クロスリンカーを用いてタンパク質に結合する工程
(3)MG-H1が結合したタンパク質を抗原として動物を免疫する工程
(4)免疫した動物の抗体産生細胞を用いて、モノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマを作製する工程
【0020】
以下、工程(1)〜(4)について説明する。
〔工程(1):遊離体のMG-H1の調製工程〕
前記工程(1)は、遊離体のMG-H1の調製工程であり、好ましくは、メチルグリオキサールとアルギニンとを混合し、非酵素的糖化反応により下記式(1)で表される遊離体のMG-H1を生成させる。
【化1】
【0021】
より具体的には、メチルグリオキサールとアルギニンとを混合し、例えば水酸化ナトリウム等のアルカリでpHを10以上に調整して、37℃の温度で、1時間インキュベートすることにより、上記構成の遊離体のMG-H1を生じさせることができる。
【0022】
メチルグリオキサール(MG)とアルギニンとを反応させて得られる、メチルグリオキサール由来のハイドロイミダゾロンは、以下の3つの構造異性体を有する。MG-H1は、他の構造異性体が混在した状態で用いることもできるが、MG-H1を単独で用いることが、製造効率や遊離体のMG-H1に対する特異性の向上の点から好ましい。MG-H1の構造は、例えば、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS)により確認することができる。
MG-H1:Nδ-(5-ヒドロ-5-メチル-4-イミダゾロン-2-イル)-オルニチン
MG-H2:2-アミノ-5-(2-アミノ-5-ヒドロ-5-メチル-4-イミダゾロン-1-イル)ヘ゜ンタン酸
MG-H3:2-アミノ-5-(2-アミノ-4-ヒドロ-4-メチル-5-イミダゾロン-1-イル)ヘ゜ンタン酸
【0023】
合成した遊離体のMG-H1は、適宜の手段により精製する。
合成した遊離体のMG-H1を高純度のものとすることは、得られるモノクローナル抗体のMG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能を向上させる観点から好ましい。精製の方法は、各種公知の方法を採用することができ、例えば、液体クロマトグラフィーが好ましく用いられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、分配クロマトグラフィー、分子排斥クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられ、これらは1種を単独で行っても良いし同種又は異種の2種以上を順次行っても良い。
合成した遊離体のMG-H1は、純度が99質量%以上、より好ましくは99.9質量%となるまで精製して次工程に用いることが好ましい。なお、本発明において、MG-H1は、ナトリウム塩、塩酸塩等の塩であっても良いし、塩でなくても良い。
【0024】
〔工程(2):抗原の調製工程〕
前記工程(2)は、免疫原の調製工程であり、単独では免疫原性(免疫誘導能)が低い遊離体のMG-H1をタンパク質に結合して充分な免疫原性を有する抗原とする。MG-H1を結合させるタンパク質としては、キャリアタンパク質として公知の各種のものを特に制限なく用いることができ、例えば血清アルブミン等のアルブミンや、ヘモシアニン、ミオグロビン等が挙げられる。また、タンパク質は、ウシ、ウサギ、ヒト等の哺乳動物、スカシ貝等の貝類、鶏等の鳥類等に由来するもの等を用いることができる。これらの中でも、スカシ貝ヘモシアニン(KLH)及びウシ血清アルブミン(BSA)が好ましい。これらのタンパク質は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
MG-H1のキャリア蛋白への結合には、クロスリンカーを用いることが好ましい。クロスリンカーとしては、各種公知のものを用いることができ、例えば、グルタルアルデヒド、EDC(1-ethy-3-(3-dimethylaminopropyl) carbodiimide hydrochloride)、SPDP、DST、DSGなどを用いることができる。これらの中でも、グルタルアルデヒド、又はEDCを用いることが好ましい。クロスリンカーは、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0025】
〔工程(3):動物の免疫工程〕
前記工程(3)は、動物を免疫する工程であり、上述のようにして調製した、MG-H1が結合したタンパク質(付加体)を抗原としてヒト以外の動物を免疫し、その動物体内に抗体産生細胞を産生させる。本工程(3)は、上述のようにして調製した、MG-H1が結合したタンパク質(付加体)を抗原として用いる以外は、モノクローナル抗体の製法の常法に従って行うことができる。
動物の種類は、特に限定されないが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、例えばマウス、ラット、ウサギ等のげっ歯類が挙げられる。マウスは、BALB/C系統のマウスを用いることが、ハイブリドーマの作製に用いる骨髄腫由来の細胞株が確立している点から好ましい。免疫は、各種公知の方法により行うことができ、例えば、哺乳動物の皮下、皮内、静脈、または腹腔内に注射する。免疫は、初回の免疫後に何度か繰り返し行うことが好ましく、免疫のスケジュールは、免疫する動物の種類や系統に応じて適宜に決定することができる。また、免疫応答を増強させるために、MG-H1が結合したタンパク質は、投与前又は投与時にアジュバントと混合して投与することが好ましい。アジュバントとしては、各種公知のものを用いることができる。また、例えば、初回免疫時には完全フロイントアジュバント(CFA:Complete Freund's adjuvant)を用い、2回目以降は不完全フロイントアジュバント(IFA:Incomplete Freund's adjuvant)を用いる等、2種以上のアジュバントを用いることもできる。
【0026】
〔工程(4):モノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマの作製工程〕
前記工程(4)においては、免疫した動物の抗体産生細胞を用いて、モノクローナル抗AGEs抗体の産生能を有するハイブリドーマを作製する。
上記の免疫後の動物は、適宜の間隔で採血し、MG-H1に対する抗体が産生されていることを確認する。抗体産生の確認には、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光免疫測定法等の公知の分析方法を用いることができる。抗体産生の確認後、ブースト(免疫原の追加注射)を行うことも好ましい。最終免疫後、免疫した動物から脾臓細胞を摘出し、骨髄腫由来の細胞と細胞融合させる。細胞融合の方法は、例えば、ポリエチレングリコール法、センダイウイルスを用いる方法、電気刺激を与える方法等の公知の方法を用いることができる。融合細胞は、ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含むHAT培地等で選択可能である。また、得られた融合細胞から、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、蛍光免疫測定法等の公知の分析方法により、MG-H1に対する結合能を有する抗体の産生能が高い融合細胞を選択する。そして、選択した細胞を用いて、限界希釈法、軟寒天法等の公知の方法によりクローニングを行う。このようにして、MG-H1に対する特異性や遊離体のMG-H1に対する結合能の高いモノクローナル抗AGEs抗体を産生するハイブリドーマが得られる。
【0027】
上記のようにして得られたハイブリドーマは、培養して増殖させ、その培養液等からモノクローナル抗AGEs抗体を分離精製することにより、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体が大量に得られる。ハイブリドーマの培養方法としては、哺乳動物の腹腔内に注射し腹水内で増殖させる方法や動物の体外で適切な培地を用いて培養する方法等の各種公知の方法を採用可能である。また、腹水や培養液または培養上清から得た抗体の精製には、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等の公知の方法を特に制限なく使用可能である。
【0028】
なお、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体には、このようにして得られた抗体のほか、MG-H1の識別部位を含む該抗体の断片も含まれる。また、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、MG-H1の識別部位を含むように遺伝子組換え技術を用いて製造したキメラ抗体やヒト化抗体であっても良い。
【0029】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、MG-H1に対する特異性及び/又は遊離体のMG-H1に対する結合能に優れているため、各種の試料(特に生体試料)中のMG-H1を高感度あるいは高精度に検出及び/又は定量可能である。本発明のモノクローナル抗AGEs抗体を用いてMG-H1を検出及び/又は定量する方法としては、モノクローナル抗体を用いた各種公知の検出及び/又は定量方法を特に制限なく採用でき、例えば、酵素免疫測定法(ELISA)、放射免疫アッセイ法(RIA)、発光免疫測定法、沈降法、凝集法、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー等が挙げられる。酵素免疫測定法としては、競合阻害アッセイや競合結合アッセイを行うこともできる。
【0030】
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体を用いたMG-H1の検出や定量方法は、AGEsと各種の疾患との関連性の究明や、AGEsと関連のある疾患の診断、予防や治療法の開発等に利用することができ、例えば、検出又は定量したMG-H1を、糖尿病に伴う腎症、眼疾患、心血管合併症、前立腺癌やその他のAGEsが関連する癌疾患、又は骨粗鬆症等の骨疾患等の、発症や発症するリスクの判断の指標としたり、老化に伴い進行する各種の症状や疾患の発症や発症するリスクの判断の指標としたりすることができる。また、AGEsと関連のある各種の症状や疾患の発症や発症するリスクの判定・診断、及びそのための情報の提供、それらの症状や疾患の予防や治療法の開発にも利用可能である。
【0031】
また、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体は、公知の抗体アッセイ法を行うための材料等と組合せて、生体試料中のMG-H1を検出・定量するためのキットとすることができる。このキットは、前述の各種の症状や疾患の発症やそのリスクの判断のために利用することができ、例えば前述の各種の症状や疾患の発症やそのリスクの指標・診断のために利用することができる。
本発明のモノクローナル抗AGEs抗体やそれを含むキットで検出及び/又は定量するMG-H1は、遊離体でも非遊離体でも良く、その両者であっても良い。
キットは、少なくとも本発明のモノクローナル抗AGEs抗体と、MG-H1と結合した抗体を検出する試薬を含むことが好ましい。
生体試料としては、生体から採取されたあらゆる細胞、組織、及び体液等が挙げられ、例えば、皮膚、筋肉、骨、脂肪組織、脳神経系、心臓及び血管等の循環器系、肺、肝臓、脾臓、膵臓、腎臓、消化器系、胸腺、リンパ、血液、全血、血清、血漿、リンパ液、唾液、尿、腹水、喀痰等、並びにそれらの培養液物が挙げられる。生体試料は、必要に応じて、生理食塩水や水等の液体による希釈、濾過処理、ホモジネート処理等の任意の処理を行ったものを用いる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0033】
〔遊離体のMG-H1の調製〕
(1)遊離体のMG-H1を下記方法により合成した。
1N NaOH 49mLと40%Methyl glyoxal(5.8M)862μlとを混合し、次いで、それに871mgのL-Arginine(MW=174.2)を混合して、100mM(final)L-Argineと100mM(final)Methylglyoxalの混合液50mLを調製した。その混合液を振盪させながら、37℃で1時間インキュベートした後、HClで中性にした。その後、即エバポレーターで濃縮後、水に再溶解して凍結乾燥した。
(2)合成したMG-H1の精製
合成した遊離体のMG-H1について、下記方法による2段階の精製を行った。
精製1(Dowex50カラムによる精製)
陽イオン交換樹脂を充填したカラムを用いたイオン交換クロマトグラフィーにより、合成したMG-H1サンプルの1回目の精製を行った。カラムは、樹脂を充填したカラム(内径20mm、樹脂充填部の高さ20cm)を、カラムの約5倍量の10%ピリジン(超純水で調製)で洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄し、次いでカラム5倍量の10%HClで洗浄した後、カラム5倍量のイオン交換水で洗浄して用いた。
このカラムに、合成したMG-H1サンプルを少量の超純水に溶かしてアプライし、カラムの3倍量の超純水を流した。次いで、10%ピリジンで溶出し、約3mlずつ分取した。ろ紙に各フラクションを10回ずつキャピラリーでスポットし0.5%ニンヒドリン溶液で検出した。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットして、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。発色した部分を集めエバポレーターでピリジンをとばした後-80℃で凍らせ、凍結乾燥した。
イオン交換樹脂としては、DowexTM50(ダウ・ケミカル社)を用い、超純水としてはmilliQ水を用いた。milliQ水は、ミリポア社の超純水製造装置MilliQで製造した超純水である。
【0034】
精製2(シリカゲルオープンカラムによる精製)
精製1による精製後のMG-H1サンプルについて、シリカゲルカラムを用いた液体クロマトグラフィーにより2回目の精製を行った。
シリカゲルカラムは、内径20mm、長さ50cmのガラス製カラムの底部に脱脂綿をほぐして詰め、次いで、シリカゲル(関東化学社製「シリカゲル60」)を上端からロートを用いて注入し床に軽く数回当てて空気を抜いて調製した。シリカゲル充填部の高さは44cmであった。
このシリカゲルカラムに、凍結乾燥後(1回目の精製後)のMG-H1サンプルを少量(約1mL)の超純水に溶かしてロードし、更に超純水0.5mlで容器を洗浄し、その洗浄水もロードした。そして、クロロホルム:MeOH:水=2:3:1を注入して溶出を開始し、溶出液を分取した。各フラクションの液を、紙にスポットし、0.5%ニンヒドリンで発色させた。ニンヒドリンで発色したフラクションでのMG-H1の存在をTLCで確認した。また、TLCは、シリカゲルプレートにスポットし純品もスポットし、展開溶媒(クロロホルム:MeOH:水=2:3:1)で展開し、ドライヤーで乾燥後、ニンヒドリン試薬で発色させた。MG-H1が確認されたフラクションを集め、エバポレーターで濃縮後に-80℃で凍らせ凍結乾燥した。精製2においても超純水としては、milliQ水を用いた。
【0035】
(3)構造の確認
精製1及び精製2により精製したMG-H1サンプルについて、液体クロマトグラフィー/四重極質量分析(LC-MS/MS)により分析した。条件は下記の通りである。
試料インジェクション量:1μg/mlを10 μl
LC部:Accela Pump + Thermo PAL (Thermo Scientific)
カラム:ZIC(R)-HILIC 150 x 2.1 mm, 5 μm (Merck Millipore)
移動相:0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸アセトニトリルによるグラジュエント
流速: 200 μl/min
MS部:高感度定量分析用トリプル四重極質量分析計 TSQ Vantage (Thermo Scientific)
イオン化法 : Positive ESI
スプレー電圧 : 3500 V
ベポライザー温度: 200 ℃
イオントランスファーチューブ温度 : 300 ℃
コリジョンガス、圧力 : Argon、1.2 mTorr
上記分析の結果、単離された化合物は、MG-H1であることが確認された。
【0036】
〔抗原の調製〕
抗原(免疫原)を調製するために、上記のようにして調製した高純度のMG-H1を、キャリアタンパク質として利用するスカシ貝ヘモシアニン(KLH)と結合させて、MG-H1結合KLHを作製した。結合方法としては、クロスリンカーとして前述したEDCを用いたEDC法を用いた。具体的方法は下記の通りである。
(MG-H1結合KLHの調製)
下記成分を下記の量ずつ上の成分から順に混和して合計1000μLの混合液に調製した。
KLH(10mg/mL) 300μL
PBS 445μL
MG-H1(1mg/100μL) 150μL (1.5mg/150μL)
NHS (5.4mg/50μL) 5μL
EDC (100mg/100μL) 100μL
各成分の詳細を以下に示す。
KLH: SIGMA社製KLH
PBS: リン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)
MG-H1:合成した遊離体のMG-H1(純度99%以上)
NHS: N-ヒドロキシコハク酸イミド(縮合剤)
EDC: 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド「PIERCE」
上記のようにして調製した混合液を、1時間、振盪しながらインキュベートした後、3μLの2-Mercaptoethanolを加え未反応のNHSを不活化した。そして、2LのPBSで一晩透析した。
透析後、蛋白濃度をBCA蛋白定量キット(PIERCE(登録商標)サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)で測定した。
【0037】
(MG-H1結合BSA、MG-H1結合HSAの調製)
KLH(10mg/mL)に代えてウシ血清アルブミン(BSA)(10mg/mL)又はヒト血清アルブミン(HSA)(10mg/mL)を用いる以外は、MG-H1結合KLHの調製と同様にして、MG-H1結合BSA(MG-BSA)及びMG-H1結合HSA(MG-HSA)を調製した。
【0038】
〔皮下免疫法による免疫及びハイブリドーマの作製〕
上述のようにして調製したMG-H1結合KLHを、アジュバントとそれぞれ混合したエマルジョンを用意し6〜8週齢メスのBALB/cマウス(日本チャールス・リバー)の背部皮下に50〜100μg/匹/回で免疫した。免疫間隔は2週間に1回で合計5回実施した。アジュバントとして初回は完全フロイントアジュバント(CFA)、2回目以降は不完全フロイントアジュバント(IFA)を使用した。3回目・4回目免疫の翌週に採血し、タイターチェックを実施した。タイターチェックはMG-H1結合BSAを固相にして行った。最終免疫としてリン酸緩衝生理食塩水(PBS, Phosphate buffered saline )(-)で希釈した抗原を腹腔内に投与した。
最終免疫3〜4日後にマウスより摘出した脾臓細胞をミエローマと混合してPEG法により
細胞融合を実施した。脾臓細胞数として0.5〜1.0×105 cells/wellで96 well plateに播
種し、RPMI 1640 +10% FBS + hypoxanthine-aminopterin-thymidine (HAT) + hybridoma
cloning supplement (HCS)で培養した。
細胞融合後約2週間HAT培地により選択培養を行った。融合細胞を選択後、各ウェルから一部の培養上清をサンプリングし、MG-H1結合BSAを1μg/wellで固相したELISAによりスクリーニングを行った。二次スクリーニングとしてメチルグリオキサール修飾BSAを固相したELISAを行い、免疫抗原、メチルグリオキサール修飾BSAそれぞれで陽性のウェルを確認した。
ELISAの結果を元に選択された10ウェルの細胞を用いて限界希釈法にてクローニングを行った。陽性のシングルコロニーを形成した10個のウェルを選択し、増殖能を加味して最終的に3クローンに絞った。樹立過程において使用した各種添加剤含有培養から馴化培地(RPMI1640 + 10% FBS)で増殖するよう馴化培養を行った。
【0039】
〔マウス腹腔法によるモノクローナル抗AGEs抗体の生産〕
クローニング、馴化したハイブリドーマを馴化培地で培養し、生細胞率が上昇するように10cmディッシュで2〜3継代の培養を行った。生細胞の状態を確認しながら培養スケールをあげ、移植当日に対数増殖期のハイブリドーマを必要量(2x107cells)確保した。ハイブリドーマ懸濁液から遠心操作(1000rpm, 5min)によりハイブリドーマを回収した。PBS(-)で細胞を洗浄後、細胞数を測定し、4x106cells/mlにRPMI 1640(FBS free)にて調製した。0.5ml/匹(2x106cells/匹)で10匹のBALB/c雄マウス腹腔内に移植した。腹水の貯留具合を確認し、18Gの注射針を用いて腹水を採取した。採取腹水を遠心分離(3000rpm, 5min)し、腹水上清を回収した。
腹水を平衡化・吸着バッファー(PBS(-), pH 7.4)で3倍希釈した。次にプロテインAカラムを5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄し、希釈した腹水をアプライした。その後、プロテインAカラムを再度5〜10bed volの平衡化・吸着バッファーで洗浄した。次に3〜5bed volの溶出バッファー(100mM クエン酸バッファー, pH3.0)で吸着蛋白質を溶出させ、A280=0.1以上を集め、中和液(2M Tris-HCl, pH9.0)を1/10〜1/20倍添加し、溶出画分を素早くpH7.0〜7.5にした。中和した溶出画分を最終バッファー(50mM Tris-HCl, pH8.0, 0.15M NaCl)にて透析し、その後0.22μmフィルターで濾過滅菌した。
このようにして、MG-H1に特異的に結合するモノクローナル抗AGEs抗体を得た。
【0040】
〔MG修飾蛋白に対する結合能の確認試験〕
前述した3クローンを用いて上記の方法により作製した抗MG-H1抗体である抗体1、抗体2及び抗体3について、ELISAを行いMG修飾蛋白に対する結合能を評価した。即ち、マイクロプレートのウェル(穴)に、MG修飾蛋白としてMG-BSA又はMG-HSAを固定しておき、これに1次抗体として試験対象の抗体(抗体1、2又は3)及び酵素標識抗体である2次抗体を順次作用させた後、発色剤を注入して発色させ、マイクロプレートリーダーによる吸光度の測定を行った。図1は、その結果を示すグラフである。
具体的には、ELISAプレート上に、MG-BSA又はMG-HSAのPBSによる希釈液(0.3μg/mL)を100μL/well加え2時間室温においてコーティングした後、ELISAプレート内の溶液を捨て、200μL/wellの洗浄液による洗浄を3回行った。そして、各ウェルに1次抗体を100μLずつ分注し、室温で1時間静置し、次いで、各ウェルを洗浄液で3回洗浄後、各ウェルに、洗浄液で10,000倍希釈した2次抗体を100μLずつ分注し、室温で1時間静置した。その後、各ウェルを洗浄液で3回洗浄後、各ウェルに発色剤を100μLずつ分注し、室温で発色させた。所定の時間ごとに、ウェルに反応停止液を100μLずつ分注して反応停止させ、発色剤としてOPDを用いた場合は492nm、TMBを用いた場合は450nm/Reference630nmの吸光度を測定した。
なお、上記試験は、1次抗体の濃度を代えて複数群について行った。また、MG-BSA又はMG-HSAに代えて、MG修飾していないBSA及びHSAを用いた場合についても同様の試験を同様に行った。図1の縦軸の吸光度は、発色開始3分後のサンプルの吸光度であり、横軸の抗体(1次抗体)の濃度は、ELISAプレートに加えた際の最終濃度である。
【0041】
上記試験において、使用した試薬等の詳細は次の通り。
・MG-BSA(MG修飾BSA):40% Methylglyoxal solution (SIGMA)を2mMに希釈したものとBSA(2mg/mL)を等量混ぜ、12時間インキュベートを行い、MG-BSAを作製した。作製後PBSで透析したものを、タンパク質濃度を調製して用いた。
・MG-HSA(MG修飾HSA):40% Methylglyoxal solution (SIGMA)を2mMに希釈したものとHSA(ヒト血清アルブミン,2mg/mL)を等量混ぜ、12時間インキュベートを行い、MG-HSAを作製した。作製後PBSで透析したものを、タンパク質濃度を調製して用いた。
・一次抗体:抗MG-H1抗体を洗浄液(PBS+0.05% tween 20)で最終濃度0.3μg/mLに希釈して使用。
・二次抗体:Peroxidase-Labeled Antibody to Mouse IgG(H+L)(KPL 074-1806)。バイアル(1mg)に水500μlを添加して廻しながら溶解させた後、更にグリセロール500μLを添加してピペッティングで混合し、濃度1mg/mLとしたものを使用。
・発色剤:次の手順で調製したものを使用。100mMクエン酸100ml及び100mMリン酸水素二ナトリウム200mlをそれぞれ別途調製し、前者に後者を添加しながらpHを5.0に調製し、クエン酸緩衝液を得る。室温下、このクエン酸緩衝液10mlとOPDタブレット(和光純薬158-02151)1粒とを混合し、更に、発色試験の直前に、32%過酸化水素水6μL(関東化学18084-00)を添加し、目的とする発色剤を調製し、使用。
・反応停止液:36N H2SO4(和光純薬 199-15995)をイオン交換水で2N H2SO4に調製して使用。
・洗浄液:PBS(ダルベッコの組成:日水製薬 08190)+0.5%Tween 20 (ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、東京化成工業 9005-64-5)を使用。
・ELISAプレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)を使用。
【0042】
図1から明らかなように、抗体1〜抗体3は、何れも、MG-BSA及びMG-HSAに結合する一方、MG修飾していないBSA及びHSAに対して結合しておらず、MG修飾蛋白(換言すれば非遊離体のMG-H1)に対する高い特異的結合能を有することが判る。
【0043】
〔MG-H1に対する特異的結合能の評価試験〕
上記の抗体1について、競合的阻害アッセイとしての競合ELISAにより、MG-H1に対する特異的結合能の評価を行った。具体的な方法は下記の通りである。
(方法)
(1) 上記の試験におけるのと同様にして調製したMG-BSAの希釈液(0.3μg/mL)を、ELISAプレート上に100μL/well加え、2時間室温に置いてコーティングを行った。
(2) コーティングを行ったELISAプレート内の溶液を捨て、洗浄液を200μL/well加え、すぐに液を捨てた。
(3) 上記(2)の操作を3回繰り返し、3回目には中の液を出した。
(4) 0.5% Gelatin PBS(PBSにGelatinを加え0.5%にした溶液)を200μL/well加え、1時間室温に置き、ブロッキングを行った。
(5) 上記(2)及び(3)の操作を行った。
(6) 洗浄液にて2mMに希釈した各競合物を所定のウェルに50μL/well加えた。
(7) 洗浄液にて2μg/mlに希釈した抗MG-H1抗体を、上記(6)のウェルに50μL加えた。
(8) ELISAプレートにラップをかけ、ウェル内の液がこぼれないように5分混和した後、室温に1時間置いた。
(9) 上記(2)及び(3)の操作を行った。
(10) 二次抗体(抗マウスIgGγ抗体)を洗浄液で5000倍希釈したものを100μL/well加え、1時間室温に置いた。
(11) 上記(2)及び(3)の操作を行った。
(12) OPDで発色を行い、2N硫酸で発色を止めた。
【0044】
使用した洗浄液、一次抗体、二次抗体、OPD、ELISAプレート等は、上述の〔MG修飾蛋白に対する結合能の確認試験〕と同様のものを用いた。
また、競合物としてのMG-H1としては、前述の方法により合成し精製したタンパク質に未結合のMG-H1(遊離体)を用いた。
【0045】
(結果)
図2は、抗体1についての、競合ELISAの結果を示すグラフである。図2(a)に示すように、競合物として遊離体のMG-H1が存在すると、その量に応じてMG-BSAに対する抗体の結合量が減少する一方、カルボキシエチルリジン(CML)、遊離のアミノ酸であるArg又はLysを存在させた場合には、MG-BSAに対する抗体の結合量に変化は生じていない。図2(b)に示すように、競合物としてカルボキシメチルアルギニン(CMA)を存在させた場合にも、MG-BSAに対する抗体の結合量に変化は生じていない。
このことから、本発明の実施形態である抗体は、遊離体のMG-H1に対して高い特異的結合能を有していることが判る。
また、図2に示すように、競合物であるMG-H1の濃度が0.001から0.3mMという低い濃度でも競合がかかっていることから、従来困難であった、腎症患者、糖尿病患者、健常者等のヒトの血清中のMG-H1の検出が可能であることが判る。また、同一のELISAプレート上で、濃度等が既知のMG-H1とともにヒトの血清サンプルについて、競合ELISAを行うことで、ヒトの血清中のMG-H1の定量も可能となる。
【0046】
このように、本発明によれば、競合ELISA又は他の競合阻害アッセイを用いた生体試料中のMG-H1の検出又は定量方法も提供される。生体試料としては、血清のほか、尿、髄液などの体液、組織から抽出したサンプル等が挙げられる。
【0047】
〔ウェスタンブロッティングによる抗MG-H1抗体の評価試験〕
上記の抗体1〜3について、ウェスタンブロッティングにより、遊離体のMG-H1に対する特異的結合能の評価を行った。具体的な方法は下記の通りである。
1.以下の要領でゲルを作製し、電気泳動を行った。
(方法)
1.電気泳動
(1) 分離ゲル(10%)H2O 4.0ml , 30% acrylamide 3.3ml , 1.5M Tris(pH8.8) 2.5ml , 10%SDS 100μl , 過硫酸アンモニウム 100μl , TEMED 4μl
アッパーゲル H2O 1.4ml , 30% acrylamide 330μl , 1.0M Tris(pH6.8) 250μl , 10%SDS 20μl , aps 20μl , TEMED 2μl
メルカプトエタノール入りSDS化剤(SDS化剤95μl+メルカプトエタノール5μl)を作製し、サンプル:メルカプトエタノール入りSDS化剤=4:1の比率で混和する。
(2) ウェルにサンプルを10μl加え、電気泳動を行う。
2.転写
(1) アッパーゲルを切り取り、分離ゲルのみとし、転写機を用意し、ろ紙二枚を1×Towbin’s bufferに浸して置き、PVDF膜はメタノールに浸したのちに1×Towbin’s bufferに浸す。
(2) 転写機上に下からろ紙、PVDF膜、ゲル、ろ紙の順で重ね、試験管などで内部の空気を抜く。
(3) 100V、PVDF膜の面積×0.8mA、10.0W , 60min を設定し、通電する。転写後、分子量マーカーを流した場合には、分子量マーカーの線をボールペンでなぞる。
3.ブロッキング
(1) 転写後のPVDF膜をブロッキング液(5%スキムミルクTBS)が入った容器に入れ、1
時間シェイカー上で軽く振盪。(2) .ブロッキング液をしっかりとTBST(0.05%Tween TBS
)で洗い流し、シェイカー上で5分振盪。
(3) 上記(2)の操作を再度行う。
(4) 一次抗体希釈(1%Gelatin Hydrolysate TBST)を作製し、一次抗体希釈液で抗MG-H1抗体を5μg/mlに希釈する。
(5) (4)を容器に入れ、PVDF膜を浸す。一時間室温に置く。
(6) (3)及び(4)の操作を行う。
(7) 二次抗体希釈液(1%スキムミルクTBST)でHRP標識抗マウスIgGγ抗体を5000倍希釈する。
(8) (7)を容器に入れ6で洗ったPVDF膜を入れ、一時間室温に置く。
(9) (3)及び(4)の操作を再度行う。
(10) 最後にPVDF膜をTBSに浸し、5分シェイカー上に置く。
(11) (10)の操作を再度行う。
(12) 発色液(ECL Prime, GEヘルスケア)をPVDF膜にまんべんなくかけ、発色の具合を化学発光検出器で検出する。
【0048】
(結果)
図3は、抗体1〜抗体3についてのウェスタンブロッティングの結果を示す図である。いずれの抗体も、MG-BSAのみに反応し、BSAには反応しなかった。これらの結果から本発明の抗体はMG-H1に対する特異性が高いことが確認された。
【0049】
〔競合ELISA法による動物血清中MG-H1の測定〕
上記の抗体3を用いて、糖尿病誘発ラット又は前立腺癌モデルラットの血清(生体試料)中のMG-H1の量と、正常なラットの血清中のMG-H1の量を測定し、それらの量の対比を行った。
1.使用したラット
糖尿病誘発ラット及び前立腺癌モデルラットは、下記を用いた。
糖尿病誘発ラット(DM):ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラット。
前立腺癌ラット(TG):SV40ラット(バックグラウンドSD,オリエンタルバイオサービス株式会社 )
【0050】
2.方法
(1) -20℃保存していた、12時間インキュベートした1mM MG-BSA溶液を室温で解凍した。
(2) 1μg/mL MG-BSAをPBSで調製した後、96穴ELISAプレートに100μL/well加え、ラップでふたをして2時間室温で静置した。
(3) ELISAプレート内の液を除去し、洗浄液(PBS+0.5%Tween20)を200μL/well加え、そのまま液を除去する工程を3回実施した。
(4) 0.5%Gelatin(PBSにGelatinを加え0.5%にした溶液)を200μL/well加え、1時間室温に置き、ブロッキングを行った。
(5) 上記(3)の操作を行った。
(6) 検量線作成のため、まず2mM MG-H1を洗浄液にて作製後、1mMに希釈し、その後3倍ずつ順に希釈し、12段階調製した。
(7) 血清を洗浄液で2倍希釈して十分撹拌した後、上記(6)で調製したMG-H1とともに所定のウェルに50μL/wellで加えた。
(8) 洗浄液にて2μg/mLに希釈した抗MG-H1抗体を、ウェルに50μLずつ加えた後、1時間室温で反応させた。
(9) 上記(3)の操作を行った。
(10) 洗浄液にて0.1 μg/mLに調製したGoat anti-Mouse IgG (γ)-HRP抗体 (KPL, 214-1802) を100 μL/well加えた後、1 時間室温で反応させた。
(11) 上記(3)の操作を行った。
(12) TMB試薬(株式会社ビークル,BCL-TMB-01)をプレート1列ごとに5秒間隔で100 μL/well加え、発色確認後0.6 Nの硫酸を5 秒間隔で100 μL/well加えて反応を止めた。
(13) マイクロプレートリーダーTECAN RAINBOW THERMO RC (sunrise)で450nm、レファレンス630 nmの吸光度で測定した。
【0051】
3.使用した試薬・備品は以下の通り
・96穴ELISAプレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)
・PBS:市販の試薬にて10×PBS作製後、超純水で希釈した
・Tween 20:和光純薬工業(株), Polyoxyethylene (20) sorbitan Monolaurate
・Gelatin:Sigma, G-0262
・MG-H1:前述した方法により、合成した後、2段階の精製を行った前記の遊離体のMG-H1
・一次抗体(抗MG-H1抗体):抗体3(プロテインGカラムで精製したもの)592.8 μg/mL
・二次抗体:KPL, 214-1802 Goat Anti-Mouse IgG (gamma) Antibody, F(ab')2 fragment, Human Serum Adsorbed and Peroxidase labeled
・H2SO4:和光純薬工業(株)
・血清試料:上記の各ラットの血清
【0052】
4.結果
図4に、糖尿病のラットと正常なラットの各血清中のMG-H1量を示すグラフ、図5に、前立腺癌のラットと正常なラットの各血清中のMG-H1量を示すグラフを示した。
図4及び図5に示す結果から、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体やそれを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、血清中のMG-H1量を測定することができ、糖尿病や前立腺癌については、疾患の有無がMG-H1量に影響することが確認された。
【0053】
〔競合ELISA法による前立腺癌患者血清中MG-H1の測定〕
上記の抗体3を用いて、前立腺癌患者及び男性健常者の血清中のMG-H1の量を測定し、それらの量の対比を行った。
1.使用したヒト血清
前立腺癌患者及び男性健常者の血清は、PROMEDDX社から各10検体(平均年齢:前立腺癌患者67.3歳、男性健常者65.7歳)入手した。
【0054】
2.方法
(1) -20℃保存していた、12時間インキュベートした1mM MG-BSA溶液を室温で解凍した。
(2) 0.5 μg/mL MG-BSAをPBSで調製した後、96穴ELISAプレートに100μL/well加え、ラップでふたをして2時間室温で静置した。
(3) ELISAプレート内の液を除去し、洗浄液(PBS+0.5%Tween20)を200μL/well加え、そのまま液を除去する工程を3回実施した。
(4) 0.5%Gelatin(PBSにGelatinを加え0.5%にした溶液)を200μL/well加え、1時間室温に置き、ブロッキングを行った。
(5) 上記(3)の操作を行った。
(6) 検量線作成のため、まず2mM MG-H1を洗浄液にて作製後、1mMに希釈し、その後3倍ずつ順に希釈し、12段階調製した。
(7) 血清を洗浄液で2倍希釈して十分撹拌した後、上記(6)で調製したMG-H1とともに所定のウェルに50μL/wellで加えた。
(8) 洗浄液にて2μg/mLに希釈した抗MG-H1抗体を、ウェルに50μLずつ加えた後、1時間室温で反応させた。
(9) 上記(3)の操作を行った。
(10) 洗浄液にて0.1 μg/mLに調製したGoat anti-Mouse IgG (γ)-HRP抗体 (KPL, 214-1802) を100 μL/well加えた後、1 時間室温で反応させた。
(11) 上記(3)の操作を行った。
(12) TMB試薬をプレート1列ごとに5秒間隔で100 μL/well加え、発色確認後2 Nの硫酸を5 秒間隔で100 μL/well加えて反応を止めた。
(13) マイクロプレートリーダーFLUO star OPTIMA (BMG LABTECH)で450nm、レファレンス595 nmの吸光度で測定した。
【0055】
3.使用した試薬・備品は以下の通り
・96穴ELISAプレート:NUNC MAXISORP(NUNC 439454)
・PBS:市販の試薬にて10×PBS作製後、超純水で希釈した
・Tween 20:和光純薬工業(株), Polyoxyethylene (20) sorbitan Monolaurate
・Gelatin:ナカライテスク(株),Gelatin精製粉末 16631-92
・MG-H1:前述した方法により、合成した後、2段階の精製を行った前記の遊離体のMG-H1
・一次抗体(抗MG-H1抗体):抗体3(5.2 mg/mL)
・二次抗体:KPL, 214-1802 Goat Anti-Mouse IgG (gamma) Antibody, F(ab')2 fragment, Human Serum Adsorbed and Peroxidase labeled
・硫酸:ナカライテスク(株), Cat. 16631-92
・TMB試薬:BD, BD OptEIA TMB Substrate Reagent Set, 555214
【0056】
4.結果
図6に、前立腺癌患者及び男性健常者血清中のMG-H1量を示すグラフを示した。
この結果から、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体やそれを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、病態モデル動物と同様、血清中のMG-H1量を測定することができ、疾患の有無がMG-H1量に影響することが確認された。このことは、本発明のモノクローナル抗AGEs抗体や、それを用いた競合ELISA等の免疫学的測定法によれば、糖尿病や前立腺癌等の疾患や特定の症状と、血清等の生体試料中のMG-H1量との間の相関関係の有無を調べることができることを意味し、また、その相関関係に基づき、疾患や特定の症状の有無、疾患や症状が生じるリスクの判定にも応用可能であることを示している。
特にMG-H1の濃度が非常に低く、例えば図4から図6に示すようにMG-H1の濃度が0.1mM以下(好ましくは0.001〜0.01mM)であるにも拘わらずに、MG-H1の検出や定量、量の対比を行うことができることは、血清等の生体試料を、そのまま、あるいは簡単な処理のみで測定試料とすることができることにもなり、MG-H1と関係する各種の疾患や症状、又はそれらのリスク等の短時間での診断も可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6