【課題】水中の難分解性有機化合物を促進酸化法によって分解することに用いる多孔質炭素電極として、優れた貫流性及び電気特性を備え、長期の使用や水圧のかかる処理に耐えられる機械強度を有した多孔質炭素電極を提供する。
【解決手段】電解促進酸化法を用いた通水型水処理に使われる多孔質炭素電極であって、連通細孔を有し、水銀圧入法で測定される気孔径(メジアン径)が2〜90μmであり、通気率が0.0055〜0.1000cm
電解促進酸化法を用いた通水型水処理に使われる多孔質炭素電極であって、連通細孔を有し、水銀圧入法で測定される気孔径(メジアン径)が2〜90μmであり、通気率が0.0055〜0.1000cm2/sec・Paであり、曲げ強度が10〜100MPaであることを特徴とする多孔質炭素電極。
請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質炭素電極の製造方法であって、易黒鉛化性炭素粒子100重量部に対し、バインダーピッチ10〜80重量部を配合した炭素質材料を、混練、成形した後、焼成・黒鉛化させることを特徴とする多孔質炭素電極の製造方法。
有機化合物を含む排水を陰極および陽極が配置された反応槽に流通させて、電解フェントン反応を利用した促進酸化分解法により排水を処理する方法において、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質炭素電極を少なくとも陰極として使用し、多孔質炭素電極の連通細孔をマイクロ流路として排水を通水しながら、両極に電圧を印加することにより、連通細孔内において排水中の溶存酸素から過酸化水素を生成するとともに、フェントン反応に伴い生成するFe3+を電気化学的にFe2+に還元しつつ、排水中の有機化合物を連続的に電解フェントン処理して酸化分解する反応を生じさせることを特徴とする排水処理方法。
【背景技術】
【0002】
鉱工業の排水には、芳香族化合物等の難分解性有機化合物が含まれており、生物処理や活性炭処理では分解除去できないという課題がある。特に、原油やシェールオイル等の鉱物燃料に含まれる油分は生分解性に劣ることが知られている。
【0003】
現在急速に世界各地で開発が進められているシェールオイルやシェールガスの掘削現場では、掘削した石油又はガスの量に対し3倍から10倍の油濁水が発生している。この油濁水には環境に有害であり、且つ難分解性である有機化合物が含まれているため、生産現場では油濁水を浄化処理して廃棄しなければならないが、油濁水に含まれる鉱物系油は生分解性に劣ることが問題となっている。また、海水等を使用する掘削で排出される油濁水は、塩分濃度が高いことからも生物処理による処理はさらに困難である。たとえ吸着等の物理的手法によって浄化処理しても、油濁水に含まれる難分解性有機化合物は除去は困難であり、効率が悪い。このため、油濁水は充分な浄化処理が行えないまま再び地中に埋蔵されるか、管理された貯水池に保管されるなどされているものの、不慮の事態等による環境汚染が強く懸念されている。
【0004】
近年、難分解性有機化合物を含む大量の水を効率良く、低コストで処理する手段として促進酸化法による水処理方法が開発されている。促進酸化処理は、処理装置内でOHラジカル(ヒドロキシラジカル:・OH)を生成させ、OHラジカルの強い酸化力によって、有機化合物を例えばCO
2、蟻酸、アルデヒド等の低分子まで分解するものである。
【0005】
従来の促進酸化法としては、オゾン(O
3)、過酸化水素(H
2O
2)、UV照射を組み合わせる方式が一般的であり、ダイオキシンの分解処理等に実用化されている。しかし、この方式は、オゾン発生器、排ガス処理装置、UV照射装置等の特殊な設備に要するコストが大きい。一方、特殊な設備を必要とせず初期投資が少ない簡便な方式として、以下の式で示すような二価鉄イオン(Fe
2+)と過酸化水素からOHラジカルを生成する反応(フェントン反応)を利用するフェントン法が知られている。
Fe
2++H
2O
2→Fe
3++OH
−+・OH
【0006】
また、フェントン法で必要な二価鉄イオンと過酸化水素の両方又は一方を促進酸化処理と同じ装置内で生成供給するような電解フェントン法が知られており、このような電解フェントン法では、二価鉄イオン源の投入量を大幅に低減することができるほか、負荷量などによっては初期に投入すれば反応源としての二価鉄イオン等を外部から投入しなくても済ませることも可能である。また、酸素を電解還元して過酸化水素を供給する方式では、過酸化水素の供給コストの削減が期待できる。
【0007】
例えば、特許文献1では、Fe
3+を電気化学的に還元しつつフェントン処理を行う排水処理方法が提案されている。しかし、排水処理装置のフェントン反応槽に、陰極材料としてFeよりも貴な材料である銅、銅合金、陽極材料として白金、ダイヤモンドなどからなる電極を用いる必要があり、このような電極材料は高価なため、大型の電極の製造がコスト的に困難であることから、大量の排水を効率的に処理することは難しい。また、特許文献1のような平板状ないし棒状の電極を使った水処理は、陰極表面へのFe
3+の供給速度が小さく、処理速度を上げるために高い電圧をかけると、競合反応である水素生成反応が有利になってしまう。そのため、電極近傍で非常に強く撹拌しながらフェントン処理を行わないと、排水中の有機化合物の処理率が著しく低下する課題があった。
【0008】
特許文献2は、ガラス状カーボンで被覆された炭素電極を開示し、特許文献3は、この炭素電極を使用して電気化学的に酸化処理する方法を開示している。これは、多孔質炭素電極に印加した後、微生物を含む被処理水を多孔質炭素電極内部の微細気孔中を流通する過程で分極した正極および負極における電気化学反応により微生物と電極間で電子の移動が起こり、酸化還元反応によって微生物が死滅するというものである。
【0009】
特許文献2、3で開示された多孔質炭素電極は、コークス粒子とピッチを原料とした粒子結合型の多孔質炭素材の気孔を形成する炭素基材の骨格表面に、多孔質炭素材の材質強度を補強するために、緻密で硬質なガラス状カーボンが被覆された複合組織構造となっている。しかし、細孔径を大きくして、通水性を高めるために、原料として粒度の大きいコークス粒子を使用しているため、強度が低くなることは避けられず、通水量を確保するために比較的高い水圧を必要とする水処理装置での長期使用に耐えられるものではない。また、電極表面が難黒鉛化性炭素であるガラス状カーボンで被覆されていることから、電極の固有抵抗が高くなってしまい、電極の大型化ができないといった問題がある。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の多孔質炭素電極は、被処理水が電極内部を貫流する通水型の多孔質炭素電極であって、通水性の目安となる通気率は、SI単位では0.0055〜0.1000cm
2/sec・Pa(慣用単位では0.55〜10cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O)であり、好ましくは0.0080〜0.0500cm
2/sec・Pa(0.8〜5.0cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O)である。通気率が0.0055cm
2/sec・Pa(0.55cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O)未満であると、被処理水の通液性が悪くなるため、水処理に時間がかかってしまい、適さない。一方、通気率が0.1000cm
2/sec・Pa(10cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O)を超えると被処理水が処理しきれないまま電極から流出してしまうため、適さない。
【0021】
本発明の多孔質炭素電極の気孔径(メジアン径)は、2〜90μmであるが、好ましくは3〜50μmであり、より好ましくは3〜25μmである。気孔径が2μm未満だと、被処理水の電極貫流時の圧力損失が高くなるため、通液性が低下し、電極にかかる負荷の増大と処理水量の低下をまねくほか、目詰まりが起こりやすくなる等の問題が発生する。また、気孔径が90μmを超えると、被処理水と電極の接触面積が低下するため、処理が不十分のまま電極より流出してしまうほか、電極の機械強度低下の懸念がある。
【0022】
本発明の多孔質炭素電極は、電極の連通孔をマイクロ流路として被処理水を通水させて水処理を行うので、連通した気孔の数は多いことが望ましく、また、処理水と電極の接触面積が大きいことが処理効率の面で望ましい。このため、電極の比表面積は1.0m
2/g以上であることが良く、好ましくは4.0m
2/g以上である。また、気孔率は10〜40%が適しており、15〜30%が好ましい。気孔率が40%以上となると電極の機械強度が低下するほか、10%未満であると通液性が低下するため、処理効率が低下する。
【0023】
本発明の多孔質炭素電極は、かさ密度が1.10〜2.0g/cm
3であることが好ましく、1.25〜1.90g/cm
3のものがより好ましく、最も好ましくは、1.30〜1.80g/cm
3の範囲にあるものである。かさ密度が低いと、機械強度が著しく低下し、かさ密度が高すぎると通気率が低下して通水型水処理に使われる多孔質炭素電極として適さない。
【0024】
本発明の多孔質炭素電極は、10〜100MPaの曲げ強さを持つ。曲げ強さが10MPa未満であると、高い寸法精度で形状加工を行うことができなかったり、水圧や外部からの振動や衝撃により破損してしまうことがある。他方、曲げ強さが100MPaを超えると、靱性が低下して脆くなり、精密加工ができなくなる問題がある。
【0025】
本発明の多孔質炭素電極の固有抵抗は、好ましくは0.1〜20μΩmであるが、より好ましくは0.1〜15μΩmである。固有抵抗値は、低いほどよく、20μΩmを超えて抵抗が高くなると、電極を大型化すればするほど内部まで効率的に通電できず、水処理の効率が低下する。多孔質炭素電極を用いて大量の水処理を行うためには、電極をできるだけ大きくする必要があるため、固有抵抗の低い電極が好ましい。
【0026】
上記の特性を有する本発明の多孔質炭素電極は、公知の方法で製造することができる。例えば、ピッチコークスや石油コークス等の微粉状の原料コークス粒子に、タールやピッチ等のバインダーピッチを配合して炭素質材料とし、これを混練機に投入し、バインダーピッチの溶融温度以上で混練し、所定の形状の押出口を有するダイから押し出し成形を行った後、焼成、黒鉛化処理することで製造することができる。また、上記押し出し成形に変えて、コークス粉末とバインダーピッチの混練物を冷却して2次粉砕した粒子を所望の形状の成形型に入れて上部から加圧成形する形込め成形であっても良く、更には、2次粉砕した粒子を水中でのラバープレスで圧縮成型後、焼成し、黒鉛化処理する冷間静水圧プレス(CIP)成形で製造することもできる。
【0027】
本発明の多孔質炭素電極の製造には、真密度が1.8g/cm
3以上の易黒鉛化性炭素を原料コークス粒子として使用する。原料コークス粒子は好ましくは真密度1.95g/cm
3以上の易黒鉛化炭素粒子が良い。易黒鉛化性炭素の真密度が1.8g/cm
3未満であると電気抵抗が高くなり、水処理効率が低下する。
【0028】
本発明の多孔質炭素電極の製造に用いられるバインダーには、タールやピッチが挙げられる。ピッチは石油系重質油から得られる石油ピッチ、石炭系重質油から得られる石炭ピッチのいずれを使用することができるが、原料コークス粒子として使用する易黒鉛化炭素粒子と同系の原料から得られたバインダーピッチを使用することが混練時の馴染みが良く好ましい。
【0029】
易黒鉛化性炭素粒子とバインダーピッチの配合割合は、混練条件や成形方法によって配合量が調整されるが、易黒鉛化性炭素粒子100重量部に対し、バインダーピッチ10〜80重量部の範囲とする。例えば、押出し成形によって多孔質炭素電極を製造する場合は、易黒鉛化性炭素粒子が100重量部に対し、バインダーピッチが10部〜80部、好ましくは20部〜50部にする。バインダーピッチが10重量部未満であると、機械強度が低下するため電極が脆くなる。またバインダーピッチが80重量部を超えると電気特性が低下する。配合割合は上記の範囲で、適宜調整される。
【0030】
易黒鉛化性炭素粒子とバインダーピッチとの混練物は、所望の形状に成形し、非酸化性雰囲気下800℃以上の温度で熱処理(焼成)することにより多孔質炭素成形体とする。この多孔質炭素成形体をさらに非酸化性雰囲気中1500℃以上の温度、好ましくは2000〜3000℃の温度で黒鉛化することにより、本発明の水処理用多孔質炭素電極が製造される。このとき、多孔質炭素電極の表面活性を高めて所定の黒鉛化度、結晶性状とするためには、黒鉛化は2000〜2800℃の温度で行うことがより好ましい。なお、黒鉛化を行う際の雰囲気は窒素やアルゴンガス等による不活性雰囲気下又は真空下であることが好ましい。
【0031】
多孔質炭素電極の気孔径(メジアン径)と通気率は、使用する易黒鉛化性炭素粒子の粒径やバインダーピッチ又は含浸ピッチの使用量や焼成温度等によって制御できる。例えば、易黒鉛化性炭素粒子の粒径を大きくすることにより、これらの数字は大きくなる。また、焼成を複数回行い、この際に含浸ピッチを含浸させれば、これらの数字は小さくなるが、通気率が低下する。焼成温度を高くし、時間を長くすると、固有抵抗を低下させる。その他の特性の制御も公知の手法により可能であるので、所望の特性となるように上記のような条件を変化させる。具体的に、易黒鉛化性炭素粒子(コークス粒子)の粒径について言えば、その全ての粒子の粒径が、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下であり、そのうち0.1mm以下の細粒が、好ましくは10%(重量基準)以上、より好ましくは20%以上存在するとよい。また、中間的な粒径をもつ粒子、例えば0.5〜1.0mm程度のものを除外することによって、気孔径や通気率と機械強度(曲げ強さ)のバランスが良好にすることも好ましい。所定の粒径に調整された易黒鉛化性炭素粒子(コークス粒子)をバインダーピッチと混練した後、その混練物や押出成形品を粉砕し、再度粒度調整してもよい。
【0032】
本発明の多孔質炭素電極は、その酸素含有量が0.1重量%〜10重量%であることが好ましい。0.1重量%未満だと表面が撥水するため、通液性が悪化し、10重量%を超えると電気特性が低下するためである。また、多孔質炭素電極の純水による接触角は、110°以下であることが望ましく、更に好ましくは、100°以下が好ましい。接触角が110°を超えると、表面の濡れ性が低下するため撥水性が増し、通液性が悪化する。また、有機物との馴染みが良くなり、有機物が堆積して目詰まりの原因になる本発明の多孔質炭素電極を用いた水処理は、処理水が電極内部を通水しながら促進酸化反応により処理が行われることから、電極が処理水に良く濡れる必要がある。このため、水に対する濡れ性の一層の向上を目的に電極の表面処理を行ってもよい。
【0033】
親水化処理による表面改質は、多孔質炭素電極の気孔径や機械特性に影響を及ぼさない程度であれば、硝酸および硫酸などの酸化力の強い薬剤やフッ素ガス等の反応性ガスによる処理、高温空気酸化等、特に手法は限定されないが、反応が温和で制御が可能な過酸化水素や次亜塩素酸等による親水化処理が好ましい。
【0034】
本発明の多孔質炭素電極は、固有抵抗が低く、電極内部までの通電効率がよい電極である。大型化しても集電体から電極内部においての電流損失が少ないため、集電体から離れていてもフェントン処理することが可能である。また、この材料は機械強度が高いため、材料の脱落などなく、水の圧力損失や逆洗に耐えうる材料である。電極としての特性があるだけではなく、水処理装置の大型化といった設計上の自由度が持てる。さらに、非多孔質電極材料のような電極表面での電気分解反応ではなく、多孔質炭素電極の連通した細孔により形成された多数のマイクロ流路での水処理であるため、水の流れが適度に掻き乱されることとなるので別途撹拌操作を必要としない。
【0035】
本発明の多孔質炭素電極は、表面をガラス状カーボン等で被覆しないものであることがよい。全体が一体であることにより、細孔が均一に分布するため、電極内部での水流の偏りが無く、安定して良好な水処理を行うことができる。
【0036】
本発明の多孔質炭素電極は、曲げ強度が高いため、必要に応じて電極に後加工を行うことができる。後加工としては水流の調整を目的とした電極表面の凹凸や溝形状の加工や、穴あけ加工等が挙げられる。なお、穴あけ加工については、本発明の多孔質炭素電極の性能を維持できる範囲内であれば特に問題は無いが、孔径を500〜1000μmであれば水処理性能の低下を招きにくく好ましい。
【0037】
本発明の多孔質炭素電極を使用した水処理装置で水処理をする場合、多孔質炭素電極からなる陽極と陰極とを水処理装置内に配置し、この多孔質炭素電極の連通した気孔をマイクロ流路として有機物を含む排水等の水を通過させ、且つ電圧を付与することにより行う。電解フェントン処理の場合、両極に電圧をかけて、陰極となる多孔質炭素電極のマイクロ流路に有機物、鉄イオン及び溶存酸素を含む排水を流すと、排水中の溶存酸素を由来とするH
2O
2と処理水に添加したFe
2+により、フェントン反応が生じて、OHラジカルが生じ、有機物を酸化分解する。フェントン反応で生じたFe
3+は、陰極との界面でFe
2+に還元され、再度フェントン反応によるOHラジカルの生成に使用されるが、このとき陰極のマイクロ流路を通過する水の滞留時間が全体的に均一となるような厚みとすることによって連続的にフェントン反応を起こし、一度の通液で有機物の処理を完結させることもできる。なお、陽極の材質は任意であるが耐腐食性に優れる黒鉛電極や貴金属類電極が適する。
このように、本発明の多孔質炭素電極は、電圧の印加と被処理水のマイクロ流路への貫流を行うことにより電解フェントン反応を起こし、排水の浄化処理を行うとともに、その水処理フェントン反応によって発生したFe
3+のFe
2+への還元と、過酸化水素水の生成反応を行っている。
さらに、本発明の多孔質炭素電極は、固有抵抗が低く、微細な気孔が連結して複雑なマイクロ流路を形成しているため、通水時に処理水が適度に掻き乱されることとなるので非多孔質電極よりも還元能力が高い。よって、電解フェントン反応に不可欠な原料である鉄(Fe)をリサイクル使用でき、過酸化水素(H
2O
2)の使用量も低減できる。
【0038】
本発明の多孔質炭素電極を使用した排水処理方法について、以下に具体例を挙げて詳細に説明する。
図1は、本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法の実施形態を示す工程図である。先ず、有機化合物を含有する有機性排水は、電解フェントン反応のためのFe
2+化合物および過酸化水素と、pH調整のための酸を添加されたのち、反応槽に移送される。次に、反応槽に移送された排水は、反応槽内に設置された陰極としての多孔質炭素電極を貫流する際、両極に電圧を印加すると、多孔質炭素電極の連通細孔をマイクロ流路として、排水中の有機化合物が連続的に電解フェントン反応により酸化分解され無害化される。反応槽内で無害化された排水はアルカリ等による中和が行われて鉄イオンを規制値以下となるように除去したのち、処理水として最終的には環境中に排出される。
【0039】
本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法において、反応槽の陰極として多孔質炭素電極を使用した場合、陰極で起こると推定される主要な反応は、以下のとおりである。
Fe
3++e
− → Fe
2+
O
2+2H
++2e
− → H
2O
2
O
2+4H
++4e
− → 2H
2O
H
2O
2+Fe
2+ → OH・+OH
−+Fe
3+
【0040】
上記反応式から明らかなように、電解フェントン反応では、OHラジカルを生じさせるために過酸化水素と2価鉄イオンが必要であるが、過酸化水素は溶存酸素(O
2)を含む排水から陰極側の反応で生成させることができ、2価鉄イオンは3価鉄イオンを含む排水から陰極の反応で生成させることができる。
【0041】
鉄イオンは、pHにもよるが、最終的には3価鉄イオン(Fe
3+)又は水酸化鉄となって処理水と共に反応槽から排出される。よって、処理水のpHを上げれば、鉄分は3価の水酸化鉄の沈殿となって、分離することができる。
【0042】
陽極側では過酸化水素(H
2O
2)の分解が起こるため、過酸化水素の供給は、陰極の直前で行うことが過酸化水素の使用量抑制の面から好ましい。また、2価鉄イオンや水酸化鉄又は3価鉄イオンの供給は、反応槽の陰極より上流側であれば特に制限はなく、排水槽へ、又は排水層への流入側配管から加えてもよい。
【0043】
上記反応式に示すように、ヒドロキシラジカル(OH・)を生成するフェントン反応は、主に陰極側で生じる。後述する
図2に示すような構造であれば、排水は陰極側から陽極側へと一方向に連続的に流れていくため、陽極での過酸化水素の分解を抑制することができる。なお、陽極に使用される電極は公知の電極であってもよいが、電解フェントン反応は液性が酸性側で反応効率が良く、排水中に塩素イオンを含む場合は金属電極が侵されてしまう可能性があるため、陰極だけでなく陽極についても本発明の多孔質炭素電極にすることが電極の耐久性などの面から好ましい。
【0044】
多孔質炭素電極からなる陰極を反応槽の断面形状に合わせた板状とし、これを反応槽の流路を塞ぐように設置すれば、反応槽を流れる排水の殆どは、多孔質炭素電極の連通細孔がマイクロ流路となり、この流路内を通過することになる。そして、陰極側では上記反応式に示した各種反応が起こり、この反応で生じたOHラジカルによるフェントン反応によって排水中に含まれる有機化合物の酸化反応が生じるが、多孔質炭素電極はマイクロ流路を有していることから、陰極表面へのFe
3+の供給速度が大きくなるため、電極表面又は細孔表面付近での還元反応が優勢となり、マイクロ流路内での反応が効率的に生じることになる。結果として、連通細孔を有しない電極を使用した場合に比べ、反応効率が非常に高いものとなる。
【0045】
電解フェントン反応による排水処理は、Fe
2+と過酸化水素からOHラジカルを生成し、有機化合物を酸化分解する方法である。本発明に用いられる鉄化合物の量は、水中有機物の種類、濃度、処理水のpH、反応時間などによって異なるが、加えるFe
2+化合物の量は、1〜200mg/lであることがよく、好ましくは5〜100mg/lであることがよい。鉄の濃度は高い方が電解フェントン処理は進行しやすくなるが、鉄は濃度が高いと沈殿しやすくなるため、この濃度が好ましい。なお、2価鉄イオンの供給源となるFe
2+化合物は、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硝酸第一鉄などが挙げられるが、活性度、価格などを考慮すると硫酸第一鉄が最も好ましく選ばれる。
【0046】
本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法において、電解フェントン反応に必要な2価鉄イオン(Fe
2+)は、外部から添加してフェントン反応に用いられるが、本発明の排水処理方法では、電解フェントン反応によって酸化したFe
3+は反応槽内に設置した多孔質炭素電極の連通細孔からなるマイクロ流路内で電気化学的な還元が行われ、繰り返しフェントン反応に使用されるので、外部からの添加量を低減することができる。
【0047】
本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法に必要な過酸化水素は、陰極において排水中の溶存酸素からも生成させることができるが、このとき排水中の溶存酸素量が10mg/l以上であることが好ましい。なお、排水中の溶存酸素量は、排水を撹拌や曝気することにより増やすことができる。本発明の排水処理方法における電解フェントン反応に必要な過酸化水素は、排水の負荷量に応じて外部より供給されるが、水中の溶存酸素から電解生成することによって供給量を低減することができるので好ましい。
排水処理の負荷量に応じて過酸化水素を外部より添加する場合は、排水中の有機物濃度に応じて、Fe
2+濃度の1〜20モル倍、好ましくは5〜10モル倍の濃度の過酸化水素を加えることが好ましい。
【0048】
本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法においては、反応槽ではフェントン法による有機物の分解と電気化学的方法によるFe
3+のFe
2+への還元とを同時に行わせる。従って、被処理水は上記二つの反応が適切に進行する状態に維持することが必要であり、具体的には、常温でpH を1.5〜5.0、好ましくは2.0〜4.0にすることが好ましい。pH調製には、塩酸、硫酸など任意の酸が加えられる。上記のpH条件は汚泥が発生した場合に、再度汚泥中の鉄化合物を溶解させるにも都合のよい条件である。
【0049】
このようにして、有機性排水中の有機物がフェントン反応により酸化分解され、同時にフェントン反応により生成したFe
3+が反応槽内で再度Fe
2+へ還元されてフェントン反応に再利用されるので、外部から添加するFe
2+の量を少なくしても目的が達せられる。一方、電気化学的に還元する能力が充分大きければ、反応槽にはFe
2+化合物に代えてFe
3+化合物を加えてもよい。
【0050】
本発明の多孔質炭素電極が適用される排水処理方法は、電気化学的な反応を用いて排水に含まれる有機化合物を酸化分解する方法である。このため、排水中に電解質となる化合物を添加することで導電率を上げ、処理効率を向上させる必要がある。電解質となる化合物は、硫酸ナトリウムや塩化カリウム、塩化ナトリウム、硫酸カリウム、または2種以上の化合物を組み合わせる等の水に可溶性のイオン性の化合物であれば特に限定はされないが、食塩の生成等の問題から硫酸ナトリウムが好ましい。なお、電解質の添加量は炭素電極に通電できる濃度であればよく、排水の負荷量に応じて濃度は調整されるが、0.01〜3%が好ましい。
【0051】
本発明の多孔質炭素電極が設置された排水処理装置の実施形態の一例を、
図2に示す。
図2において、電解フェントン反応槽1は、その排水供給側に多孔質炭素電極からなる陰極2が、また排水出口側に白金電極からなる陽極3が、それぞれ、反応槽内の水の流れに対して直交するように設けられている。そして、陰極2には集電体4が密着されており、導線5によって陽極3とともに直流電源6に接続されている。また、排水の流れを均一にするために、反応槽1の排水供給側へ必要に応じて底板やプラスチック充填物(例えばテラレット)を設置してもよい。
【0052】
有機化合物を含む排水11は、排水槽8で電解質が混合されたのち、電解フェントン反応槽1に供給される。このとき、排水のpHに応じてさらにpH調整が行われることが好ましく、電解フェントン反応槽内での水酸化鉄化合物生成による閉塞の予防のため、pHを酸性側に調製することがより好ましい。
【0053】
電解フェントン反応槽1の排水供給側は、送水ポンプ9を介して配管7によって排水槽8に接続されており、排出側は配管7によって処理水槽10に接続されている。送水ポンプ9を稼働すると排水槽8内の排水11は電解フェントン反応槽1に供給される。
【0054】
電解フェントン反応槽1で、有機化合物を含む排水は、過酸化水素および2価鉄イオンが必要量添加されるとともに、通電された多孔質炭素電極からなる陰極2を貫流させることによって、電解フェントン反応により排水中に含まれる有機化合物を分解する。このとき、多孔質炭素電極からなる陰極2の連通細孔がマイクロ流路となり、マイクロ流路を排水が流れていく際に、電解フェントン反応により生じたOHラジカルによって排水中の有機化合物が酸化分解される。
【0055】
その後、電解フェントン処理後の排水は、処理水12として反応槽1の排出側の配管7から処理水槽10に移送されるが、処理水12には鉄イオン又は過酸化水素を含むため、環境への排出時は法規制等による基準値を下回るように処理水のpH調整および鉄イオンの除去が行われる。鉄イオンの除去は、例えばキレート樹脂等による鉄イオンの捕集分離や水酸化物として析出させる沈降分離法などの方法が挙げられるが、キレート樹脂等による鉄イオンの捕集分離が汚泥の発生がなく好ましい。
【0056】
本発明の多孔質炭素電極を使用する排水処理は、電解フェントン反応槽1内に設置された連通細孔を有する多孔質炭素電極によって、多孔質炭素電極のマイクロ流路内で電解フェントン反応が起こり、その結果生じたOHラジカルで排水中の有機化合物の酸化分解を行うと同時に、排水中の溶存酸素からも過酸化水素を生じさせ、さらに電解フェントン反応で消費されたFe
2+をFe
3+から電気化学的に還元することで、排水の効率的かつ連続的な処理を可能としている。
このため、電解フェントン反応槽1は、槽内に供給された排水の全量が槽内に設置された多孔質炭素電極を貫流するような構造となっていることが好ましく、反応槽内の排水の流れ方向に直交するように多孔質炭素電極が設けられていることがより好ましい。
【0057】
有機化合物を含む排水11は、多孔質炭素電極の連通細孔を流れる際に、フェントン反応により生じたOHラジカルによって、有機化合物が酸化分解される。多孔質炭素電極の連通細孔は微細で複雑なマイクロ流路であるため、排水が適度に掻き乱されるため撹拌操作が必須ではなく、排水と電極の接触面積が大きく、平板状ないし棒状の電極を用いた反応槽よりも処理効率が高い。
【0058】
さらに、多孔質炭素電極に電圧を印加すると、電解フェントン反応による排水中の有機化合物の酸化分解と同時に、多孔質炭素電極のマイクロ流路内で水中の溶存酸素からも過酸化水素が生成されるほか、フェントン反応で生じたFe
3+のFe
2+への還元も行われる。このため、排水11は多孔質炭素電極からなる陽極2および陰極3を貫流する間、連続的に電解フェントン反応を起こすことが可能であり、鉄イオンおよび過酸化水素を効率的に使用して排水を連続的に電解フェントン反応により処理を行うことが可能である。
【実施例】
【0059】
以下、実施例に基づいて本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
真密度1.82g/cm
3のピッチコークスを粉砕し、1.000〜2.380mm:40%、0.074〜0.297mm:35%、0.074mm以下:25%の粒度配合になるように調整したピッチコークス粒子100重量部に、石炭系重質油から得られたバインダーピッチ(軟化点97℃)40重量部を添加し、200℃で20分間加熱混練した。この混練物を20mmφ×100mmの大きさに押出し成型した。成型後1000℃で焼成を行い、その後2800℃で黒鉛化し、多孔質炭素電極Aを得た。
【0061】
実施例2
成型方法をモールド(型枠)成型に置き換え、バインダーピッチを30重量部とした以外は、実施例1と同様の方法で作成し、多孔質炭素電極Bを得た。
【0062】
実施例3
粉砕したピッチコークスを0.250〜1.000mm:20%、0.074〜0.250mm:45%、0.074mm以下:35%の粒度配合に置き換えた以外は、実施例1と同様の条件で作成し多孔質炭素電極Cを得た。
【0063】
実施例4
バインダーピッチの添加量を35重量部とした以外は、実施例3と同様の工程で作成し多孔質炭素電極Dを得た。
【0064】
比較例1
実施例1と同様の方法で1000℃で焼成を終えたものを230℃に加温した含浸ピッチ(軟化点78℃)に浸漬し、減圧含浸させたのち、再び1000℃で焼成を行い、その後2800℃で黒鉛化し、多孔質炭素電極Eを得た。
【0065】
比較例2
粉砕したピッチコークスを0.250〜1.000mm:60%、0.074〜0.250mm:40%(0.074mm以下:0%)の粒度配合に置き換え、成型方法をモールド成型で0.2MPa程度の弱い荷重で成型した以外は、実施例1と同様の条件で作成し、多孔質炭素電極Fを得た。
【0066】
比較例3
多孔質炭素電極Fをフェノール樹脂を溶解させたエタノール溶液に減圧下に10分間浸漬した。その後、余剰の樹脂溶液の液切りを行い、24時間風乾させた後、180℃で熱処理して樹脂を加熱硬化し、非酸化性雰囲気下で最高温度2800℃の熱処理をすることによりガラス状炭素で被覆された多孔質炭素電極Gを得た。
【0067】
これらの多孔質炭素電極A〜Gを使用して、通水試験を行った。多孔質炭素電極A〜Gの特性及び通水試験の結果を表1に示す。
[通水試験]
流路の途中で、流路に直交し、流路の全面を遮断するように、22mm×22mm×15mmに加工した多孔質炭素電極を配置し、ペリスタルティックポンプを用いて、流速2ml/minで水温20℃の純水を流すことにより通水試験を行った。なお、通水性は、ポンプの出力を一定としたまま12hrの連続運転を行っても純水の流速が2ml/min以上を維持できれば合格(○)とし、電極を貫流した純水を5Bのろ紙でろ過することにより、脱落粒子の有無を確認した。
【0068】
【表1】
表1において、通気率の括弧内の数値は、SI単位に換算する前の慣用単位[cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O]での値を示す。
【0069】
実施例5〜7、比較例4
多孔質炭素電極について、鉄の還元実験および難分解性有機化合物の分解試験を実施した。
これらの試験においては、電極として、多孔質炭素電極A、G、および多孔質炭素電極Aを表面処理した電極A1及び電極A2を使用した。
電極A1は、多孔質炭素電極Aを、50℃の30%過酸化水素水に24時間浸漬して表面処理したものであり、電極A2は、多孔質炭素電極Aを、50℃の30%次亜塩素酸ナトリウム水に8時間浸漬して表面処理したものである。
【0070】
[鉄の還元試験]
多孔質炭素電極によって、Fe
3+を還元し、Fe
2+を生成することができるか否かを検証する試験である。装置は陰極に22mm×22mm×15mmに加工した多孔質炭素電極を、陽極には白金電極を用い、両極間における電位差が1.5Vとなるように電圧を印加しながら、電解質は50mMのNa
2SO
4を、Fe
3+にはFe
2(SO
4)
3を0.5mMになるように調整した試験水を装置中に1.54ml/minの割合(電極部における液空間速度が12.7h
−1)で250ml供給した。評価は通電時の電流値を測定したほか、試験後の試料水中のFe
2+の濃度をバソフェナントロリン法による吸光光度測定法を用いて測定することにより行った。
【0071】
[分解試験]
多孔質炭素電極によって、難分解性有機化合物が実際に分解できるか否かを検証する試験である。装置は陰極に22mm×22mm×15mmに加工した多孔質炭素電極を、陽極には白金電極を用い、両極間の電位差が1.5Vとなるように電圧を印加しながら、電解質として50mMのNa
2SO
4を用い、難分解性有機化合物としてのジメチルスルホキシド(DMSO)を100mg/L、過酸化水素1mM、Fe
3+としてFe
2(SO
4)
3を0.5mMになるように調整した模擬排水を装置内に1.54ml/minの割合(電極部における液空間速度12.7h
−1)で250ml供給した。評価は試験後の試料水中のDMSO量を高速液体クロマトクロマトグラフィー(HPLC)法を用いて測定し、DMSO分解量を算出して行った。
それらの試験結果について、表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
なお、各物性の測定方法は、以下のとおりである。
【0074】
[気孔径(メジアン径)の測定]
水銀圧入法により測定した。測定装置は(株)島津製作所製 micromeritics Auto PoreIIIを用い、水銀の圧力を1.9〜14400psiとなる条件で測定した。
【0075】
[通気率の測定]
円柱形(底面積A(cm
2),高さL(cm))の試料に対して、軸心方向に圧力P(cmH
2O)の窒素を常温で供給し、このときの流量Q(cm
3/sec)を測定することによって下式から慣用単位での通気率を算出するとともに、SI単位にも換算した。
慣用単位での通気率(cc・cm/cm
2・sec・cmH
2O)
=Q(cc/sec)×L(cm)/[A(cm
2)×P(cmH
2O)]
SI単位での通気率(cm
2/sec・Pa)
=Q(cm
3/sec)×L(cm)/[A(cm
2)×98.0665P(Pa)]
【0076】
[真密度、かさ密度、固有抵抗、曲げ強さの測定]
材料の各物性について、JIS R7222「黒鉛素材の物理特性測定方法」に従い、測定した。
【0077】
実施例の水処理用多孔質炭素電極は、優れた貫流性及び電気特性を備え、長期の使用や水圧のかかる処理に耐えられる機械強度を有した電解促進酸化法による難分解性の有機化合物を含む排水処理の電極に適した材料である。また、通水実験および還元実験によれば、優れた通電性、通液性および鉄の還元反応を確認し、実際に難分解性有機化合物であるDMSOを効率よく分解できたことから、促進酸化法による水処理、特に電気化学的なフェントン反応法を行うのに良好な材料である。