【解決手段】長手方向に複数の放射線受光素子11を有する放射線検出プローブ10と、該放射線受光素子11ごとに検出した放射線のカウント数に基づいて解析を行う解析部20とを備え、前記放射線検出プローブ10が土壌に挿入された際、前記複数の放射線受光素子11が、それぞれカウント数を取得し、前記解析部が、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から前記土壌における放射能分布を導出することを特徴とする。
前記不要なカウント数とは、前記各放射線受光素子が取得するべき深さ位置とは異なる深さ位置から取得したカウント数であり、前記解析部は、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数の逆解析を行うことで前記不要なカウント数を除き、前記最尤カウント数を算出することを特徴とする、請求項1又は2に記載の放射能測定装置。
各放射線受光素子は、前記放射線検出プローブの長手方向に10〜50mm程度の間隔で、10個以上配設されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射能測定装置。
既知の汚染濃度の土壌から汚染成分ごとの換算式を算出し、前記導出された放射能分布に該換算式を適用することで、前記導出された放射能分布を汎用的なデータへと変更する、キャリブレーション手段をさらに備えることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の放射能測定装置。
長手方向に複数の放射線受光素子を有する放射線検出プローブを土壌に挿入し、前記複数の放射線受光素子が、それぞれ放射線のカウント数を取得し、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から前記土壌における放射能分布を導出することを特徴とする、放射能測定方法。
既知の汚染濃度の土壌から汚染成分ごとの換算式を算出し、前記導出された放射能分布に該換算式を適用することで、前記導出された放射能分布を汎用的なデータへと変更することを特徴とする、請求項8に記載の放射能測定方法。
【背景技術】
【0002】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震及びそれに伴う津波によって引き起こされた東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、福島県を中心に広範囲の土壌や、ため池、その他の施設が放射性物質によって汚染された。特に、福島県内には3400箇所以上のため池が存在し、農業用水源として利用されていたが、その多くの底質から放射性セシウムが検出された。
【0003】
そのため、農林水産省をはじめとする各機関は、土壌等における放射性物質を除去又は低減するための作業や技術について検討を進めている。ここで、土壌等における放射性物質については、水平方向や、深さ方向に不均一に分布していることから、放射性物質の除去や低減を進めるためには、実際にどのように放射性物質の汚染が広がっているか(放射能の分布)を把握することが非常に重要となる。
【0004】
従来、土壌における放射能濃度の分布を把握するための技術としては、ひも状のシンチレータであるプラスチック・シンチレーション・ファイバー(PSF)を用いる方法(例えば、特許文献1を参照。)が一般的に知られている。ただし、これらのPSFを用いた技術では、地表の放射能分布については有効に把握できるものの、土壌にPSFを埋め込むことが困難であり、土壌の深さ方向の放射能分布については把握することができないという問題があった。
【0005】
そのため、土壌中の放射能分布を把握するための技術として、柱状採泥器を用いて土壌からコア(抜き出した土壌の柱状塊)を採取し、採取したコアについて、複数点の放射能を測定することで、土壌中の放射能分布を把握する方法が挙げられる(例えば、特許文献2を参照。)。
しかしながら、特許文献2に開示されているような柱状採泥については、比較的大きな設備、労力及び費用を必要とし、多くの調査に用いることが難しいという問題があった。また、土壌からコアを複数回採取した後に放射能の測定を行い、分布を調査するため、調査に時間を要するという問題もあった。
さらに、引用文献2に開示されているような、前記土壌に穴を開けて、該穴にPSFを配備する方法についても、土壌中に適切な穴を形成し、PSFを適切な間隔で配備する必要があるため、調査実施のためには大きな労力や時間がかかるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、複雑な設備を用いることなく、短時間且つ正確に、土壌中の放射能分布を把握できる放射能測定装置及び放射能測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、長手方向に複数の放射線受光素子を有する放射線検出プローブを用い、該複数の放射線受光素子が、土壌中で、それぞれ放射線のカウント数を取得することによって、複雑な設備や時間をかけることなく、土壌中の放射能分布を取得できることを見出した。
ただし、それぞれの放射線受光素子で取得したカウント数については、取得する必要のない位置の放射性物質からの放射線(例えば、1つの放射線受光素子が取得するべき深さ位置の放射性物質ではなく、上や下の深さ位置に存在する放射性物質からの放射線)についても取得しているため、そのままでは正確な放射能の分布を把握することができなかった。このため、本発明者らはさらに鋭意研究を行った結果、放射線受光素子ごとに取得したカウント数から不要なカウント数を除く処理を行うことによって、土壌中の放射能分布を正確に把握することが可能となり、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
(1)長手方向に複数の放射線受光素子を有する放射線検出プローブと、該放射線受光素子ごとに検出した放射線のカウント数に基づいて解析を行う解析部とを備え、
前記放射線検出プローブが土壌に挿入された際、前記複数の放射線受光素子が、それぞれ放射線のカウント数を取得し、前記解析部が、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から前記土壌における放射能分布を導出することを特徴とする、放射能測定装置。
【0010】
(2)前記放射線受光素子は、NaI(Tl)、CsI(Tl)、LnBr
3又はCsIからなることを特徴とする、(1)に記載の放射能測定装置。
【0011】
(3)前記不要なカウント数とは、前記各放射線受光素子が取得するべき深さ位置とは異なる深さ位置から取得したカウント数であり、前記解析部は、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数の逆解析を行うことで前記不要なカウント数を除き、前記最尤カウント数を算出することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の放射能測定装置。
【0012】
(4)各放射線受光素子は、前記放射線検出プローブの長手方向に10〜50mm程度の間隔で、10個以上配設されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【0013】
(5)前記放射線検出プローブは、外径が10〜50mmであることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【0014】
(6)前記プローブの外周にガイドロットをさらに備えることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【0015】
(7)既知の汚染濃度の土壌から汚染成分ごとの換算式を算出し、前記導出された放射能分布に該換算式を適用することで、前記導出された放射能分布を汎用的なデータへと変更する、キャリブレーション手段をさらに備えることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれかに記載の放射能測定装置。
【0016】
(8)長手方向に複数の放射線受光素子を有する放射線検出プローブを土壌に挿入し、前記複数の放射線受光素子が、それぞれ放射線のカウント数を取得し、前記放射線受光素子毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から前記土壌における放射能分布を導出することを特徴とする、放射能測定方法。
【0017】
(9)既知の汚染濃度の土壌から汚染成分ごとの換算式を算出し、前記導出された放射能分布に該換算式を適用することで、前記導出された放射能分布を汎用的なデータへと変更することを特徴とする、(8)に記載の放射能測定方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、複雑な設備を用いることなく、短時間且つ正確に、土壌中の放射能分布を把握できる放射能測定装置及び放射能測定方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<放射能測定装置>
本発明に従う放射能測定装置について、必要に応じて図面を用いて説明する。
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、長手方向に複数の放射線受光素子を有する放射線検出プローブ10と、該放射線受光素子ごとに検出した放射線のカウント数に基づいて解析を行う解析部20とを備える。
【0021】
そして、本発明の放射能測定装置は、
図2(a)〜(c)に示すように、に前記放射線検出プローブ10が土壌100に挿入された際(
図2(a))、前記複数の放射線受光素子11が、それぞれ放射線のカウント数を取得し(
図2(b))、前記解析部20が、前記放射線受光素子11毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から前記土壌における放射能分布を導出する(
図2(c))ことを特徴とする。
図2(a)及び(b)に示すように、前記複数の放射線受光素子11が、土壌100で、それぞれ放射線のカウント数を取得することによって、複雑な設備や時間をかけることなく、土壌における深さ方向に沿った放射能の大まかな分布の取得が可能となり、さらに、前記解析部20が、
図2(c)に示すように、放射線受光素子ごとに取得したカウント数(
図2(b))から不要なカウント数を除く処理を行うことによって、土壌100における放射能分布を正確に予測することが可能となる。
【0022】
ここで、前記放射線検出プローブが挿入される「土壌」とは、地面の下や、堆積された、水以外の無機物や有機物からなる物質層のことであり、岩石が風化して生成した粗粒の無機物(一次鉱物)やコロイド状の無機物(粘土鉱物あるいは二次鉱物)、生物の死骸などの粗大有機物、粗大有機物が微生物などの分解者の作用などによって変質して生じる有機物(腐植)を含むものである。
【0023】
なお、本発明での「放射性物質」は、放射能を持った物質であれば特に限定はされず、核燃料物質や、放射性元素、又は、放射性同位体、中性子から生成された放射化物質などが挙げられる。その中でも、本発明では、特に、
137Cs(セシウム)、
134Cs(セシウム)、
40K(カリウム)、
214Bi(ビスマス)、
228Ac(アクチニウム)、
208Tl(タリウム)、
212Pb(鉛)、
235U(ウラン)等の放射性物質から放出される放射線が対象となる。これらの放射性物質は土壌中に含まれることが多く、本発明による効果が発揮されやすい。
また、本発明での「放射線」とは、α線、γ線、β線等の人体に与える影響の強い電離放射線のことであり、「放射能」とは、放射線を発する能力のことである。
【0024】
(放射線検出プローブ)
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、放射線検出プローブ10を備える。該放射線検出プローブ10は、
図2(a)に示すように、その長手方向に複数の放射線受光素子11を有し、
図2(b)に示すように、該放射線受光素子11ごとに放射線のカウント数を検出する。
【0025】
ここで、前記放射線受光素子11とは、放射線を吸収し、吸収量の出力を行う素子のことである。
前記放射線受光素子11については、放射線の有無及び吸収量を検出できるものであれば特に限定はされず、例えば、放射線のカウント数を取得する放射線受光素子が挙げられる。
その中でも、前記放射線受光素子11は、NaI(Tl)、CsI(Tl)、LnBr
3又はCsIからなることが好ましい。前記放射線量の検出精度が高く、正確に放射能分布を把握できるためである。さらに、NaI(Tl)、CsI(Tl)、LnBr
3又はCsIを放射線受光素子として用いた場合、放射性物質の種類ごとにカウント数の検出を行うことができる(つまり、
図2(b)に示すようなカウント数のデータを、放射性物質の種類毎に得ることができる。)。
【0026】
なお、前記放射線受光素子11の設けられる箇所については、前記放射線のカウント数を検出できる位置であれば特に限定はされない。ただし、前記放射線受光素子11の破損を防ぐ観点からは、
図2(a)に示すように、前記放射線検出プローブ10の内部に設けられることが好ましい。
【0027】
また、前記各放射線受光素子11は、前記放射線検出プローブ10の長手方向に10〜50mm程度の間隔で、10個以上配設されることが好ましい。短い間隔で配設されることで、前記放射線のカウント数の検出精度が高くなり、放射能分布のより正確な把握が可能となるからである。また、前記放射線受光素子11の配設間隔については、50mmを超える場合には、間隔が大きくなりすぎるために正確な放射能分布の把握が難しくなるおそれがあり、一方、配設間隔が10mm未満の場合には、配設間隔が近く、前記放射線のカウント数の検出精度についてもそれ以上の向上が望めないことから、経済的に好ましくないためである。
【0028】
さらに、前記放射線受光素子11のサイズについては、特に限定はされず、前記放射線検出プローブ10の大きさに応じて適宜変更することができる。ただし、高い検出精度を実現し、より正確な放射能分布の把握を可能とする点からは、前記放射線受光素子11のサイズが0.5cm
3以上であることが好ましく1.0〜2.0cm
3であることがより好ましい。
【0029】
前記放射線検出プローブ10の本体は、
図3に示すように、土壌100に挿入しやすいような形状を有している。形状については特に限定されず、円筒状、多角柱状等とすることができるものの、土壌100への挿入しやすさ等から考慮すると、
図3に示すように、円筒状で先端がテーパーになった針のような形状であることが好ましい。
また、前記放射線検出プローブ10の本体を構成する材料は、土壌100に挿入するため一定の強度を有しており、内部の前記放射線受光素子11が放射線を検出できるように放射線を完全には遮断しない材料を用いることが好ましい。具体的には、鉄、ステンレス、チタン、アルミニウム及びそれらの合金等から構成されることが好ましい。
【0030】
また、
図3に示すように、前記放射線検出プローブ10の長さLは、挿入する深さに応じて適宜選択することができるが、広い範囲での放射能分布を把握できる点からは、10
cm以上であることが好ましく、50cm以上であることがより好ましい。なお、前記放射線検出プローブ10の長さLとは、前記放射線検出プローブ10の露出した部分の長さであり、プローブの後述するガイドロット12に覆われた部分については長さに含めていない。
さらに、前記放射線検出プローブ10の外径Kについても特に限定はされないが、土壌100への挿入のし易さと、プローブの強度とのバランスを考慮すると、10〜50mmであることが好ましく、20〜30mmであることがより好ましい。
【0031】
また、前記放射線検出プローブ10は、
図3に示すように、外周位置に、ガイドロット12をさらに備えることが好ましい。ガイドロット12を備えることで、前記放射線検出プローブ10の保護を図り、硬い土壌であっても、前記放射線検出プローブ10を挿入することが容易になり、プローブ10の損傷を防ぐことができる。
ここで、前記ガイドロットは、高い強度と軽量性を実現する点から、チタン、ポリ塩化ビニル、アクリル、アルミニウム合金等から構成されることが好ましい。
【0032】
さらに、前記放射線検出プローブ10は、特に限定はされないが、水位を把握するための水位計(図示せず)、放射線検出プローブ10をつなぐケーブル15を固定するためのケーブル固定部13、前記ガイドロット12とともに強度向上に寄与するロットレジューサ14をさらに有することができる。
【0033】
(解析部)
本発明の放射能測定装置は、
図1に示すように、解析部20を備える。該解析部20は、
図2(c)に示すように、前記放射線受光素子11毎に取得したカウント数(
図2(b))から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出することによって、前記土壌100の深さに応じた放射能を導出する。
なお、前記解析部20は、上述した放射線検出プローブ10と、ケーブルを介して、直接又は接続装置50(
図1)を経て接続されている。
【0034】
ここで、前記放射線受光素子11毎に取得したカウント数おける不要なカウント数とは、正確な放射能分布を把握する上で不要なカウント数のことであり、具体的には、前記各放射線受光素子11が取得するべき深さ位置とは異なる深さ位置にある放射性物質の放射線から取得した過剰なカウント数のことである。これらのカウント数を加味すると、深さ位置ごとに通常の放射能よりも多くの放射能があると検出され、得られたカウント数の分布は鈍ったデータとなる結果、正確な放射能分布を得ることができない。
【0035】
そして、前記不要なカウント数を除き、最尤カウント数を算出するための手法としては、逆解析を行うことが好ましい。これによって、前記不要なカウント数を確実に除くことができ、高精度に最尤カウント数を得ることができるためである。
前記逆解析の方法とは、前記不要なカウント数を除くことができれば特に限定はされないが、例えば、前記放射線受光素子11からの距離に応じた放射線の減衰率を元に数値解析を行い、所定の値を前記放射線受光素子11毎に取得したカウント数から除く計算(逆解析)である。なお、放射線受光素子11毎に取得したカウント数については、土壌の種類や、土壌の深さ、温度、検出した放射能等に基づいて、計算によって算出される。
【0036】
また、上述の算出された最尤カウント数から前記土壌における放射能分布(
図2(c))を導出する方法については、特に限定されず、公知の方法を用いて導出することができる。例えば、ガンマ線のエネルギースペクトルから特定の放射性物質の放射能を求める方法や、予め求めたカウント数と放射能の関係式を使った変換(キャリブレーション)によって算出することができる。
【0037】
なお、前記解析部に用いられる機器としては特に限定はされず、通常の電子計算機に特定のソフトを組み込むことで、解析部として用いることが可能である。
【0038】
(キャリブレーション手段)
また、本発明の放射能測定装置は、既知の汚染濃度の土壌から汚染成分ごとの換算係数を算出し、前記導出された放射能分布に該換算係数を適用することで、前記導出された放射能分布を汎用的なデータへと変更する、キャリブレーション手段をさらに備えることが好ましい。前記キャリブレーション手段によるキャリブレーションが行われることによって、本発明の放射能測定装置によって得た最尤カウント数基づく放射能分布を、従来の放射線測定装置によって測定され、使用されているデータと同様に扱うことができ、測定結果の利用範囲を広げることができる。
【0039】
前記キャリブレーション手段によるキャリブレーションは、本発明の測定装置によって導出された放射線濃度分布を汎用的なデータへと変更することができるものであれば特に限定はされない。例えば、
図7(a)に示すように、放射能測定用容器60に、既知の放射能濃度(汎用的な放射能濃度のデータが用いられている)の土を複数充填した後、
図7(a)に示すように、本発明の放射線検出プローブ10によって容器中の土壌の放射能濃度(ここでは、セシウム137のカウント数の分布)を測定し、本発明の放射能測定装置によって得られるセシウム137のカウント数(
図8(a))と、既知の汎用的なセシウム137濃度データ(放射能量(kBq/kg))との関係(
図8(b))から汚染成分(ここではセシウム137)の換算式を導出する方法が挙げられる。本発明の放射能測定装置によって得られる放射線濃度(カウント数)を、汎用的なデータ(放射能量)に変換するための換算式(
図8(b)では、y=0.56x−0.60(R
2=0.97)のことである。)を、発明の放射能測定装置によって測定した放射線濃度分布に適用することによって、汎用的な放射能濃度分布データとして扱うことが可能となり、従来の測定装置による結果との比較等も可能になる。
【0040】
なお、前記放射能測定用容器60は、
図7(a)に示すように、円筒状の複数の容器60a〜60nから構成することができる。複数の容器60a〜60n中に充填される土は、同じものでも良いし、異なるものであってもよい。また、前記容器60nについては、中に土を充填できるものであれば特に限定はされない。例えば、
図7(b)に示すように、側面に充填孔61及び放射線検出プローブ用孔62を設けられたものが挙げられる。
【0041】
(その他)
本発明の放射能測定装置は、上述した放射線検出プローブ10及び解析部20以外にも、例えば
図1に示すように、水位計測部30や、電源40を備えることができる。
前記水位計測部30は、前記放射線検出プローブ10を挿入する地盤の水位を測定するための機器であり、ため池の底質中の放射能分布を把握する場合等に有用である。前記水位計測部30は、例えば
図4に示すように、前記放射線検出プローブ10を、前記水位計測部30の中心に通した状態で、土壌へと挿入する形で用いられる。
【0042】
例えば、ため池等の水底における土壌の放射能濃度分布を取得する場合には、前記放射線検出プローブ10をため池及び土壌の深さ方向へ進め、停止した時点の水深を前記水位計測部30により測定する。具体的には、前記水位計測部を水底まで沈めて水底の水深aを測定する。その後、水位計測部30を引き上げ止まるところで引き上げ時の水深bを測定する。そして、放射線検出プローブ10の長さは決まっているため、土壌への前記放射線検出プローブ10の挿入量は、前記放射線検出プローブ10の長さ−(水底の水深a−引き上げ時の水深b)から算出できる。
【0043】
さらに、本発明の放射能測定装置は、水位計測部30や、電源40の他にも、必要に応じて、接続装置50や、その他必要な機器を適宜備えることができる。
【0044】
<放射能測定方法>
次に、本発明による放射能測定方法について説明する。
本発明の放射能測定方法は、
図2(a)〜(c)に示すように、長手方向に複数の放射線受光素子11を有する放射線検出プローブ10を土壌100に挿入し、前記複数の放射線受光素子11が、それぞれカウント数を取得し、前記放射線受光素子11毎に取得したカウント数から不要なカウント数を除いた最尤カウント数を算出し、該最尤カウント数から、前記土壌100の深さに応じた放射能を導出することを特徴とする。
【0045】
上記構成を具備することで、前記複数の放射線受光素子11が、土壌100で、それぞれ放射線のカウント数を取得することによって、複雑な設備や時間をかけることなく、土壌における深さ方向に沿った放射能の大まかな分布を取得でき、さらに、
図2(c)に示すように、放射線受光素子ごとに取得したカウント数(
図2(b))から不要なカウント数を除く処理を行うことによって、土壌100の放射能分布を正確に予測することが可能となる。
【0046】
本発明の放射能測定方法のその他の条件については、上述した本発明の放射能測定装置の中で記載された内容と同様である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
図1に示すように、放射線検出プローブ10と、解析部20とを備える放射能測定装置を作製した。
なお、放射線検出プローブ10については、
図3に示すように、ガイドロット12、ケーブル固定部13、ロットレジューサ14を備えるものであり、プローブの長さが50cm、外径が24mmである。また、放射線受光素子11はCsI(Tl)からなり、サイズが10mm×10mm×10mmで、前記前記放射線検出プローブ10の内部に設けられ、配設間隔が前記プローブ10の長手方向に25mmであった。
また、解析部20については、市販のノートパソコンに、前記各放射線受光素子11が取得するべき深さ位置とは異なる深さ位置にある放射性物質に起因したカウント数を取り除くための逆解析プログラムを組み込んだものである。
【0049】
(評価)
(1)土壌におけるセシウム137の深さ方向放射能分布
図5に示すように、福島県飯舘村のため池において(
図5(a))、実施例で作製した放射能測定装置を用いて、ため池底部の土壌におけるセシウム137の深さ方向濃度分布を得た(
図5(b)に実測値及び計算(逆解析)結果を示し、計算結果を整理したものを
図5(c)に「実施例」として示す。)。
また、実際の放射能分布を把握するため、ため池底部の土壌について、5cmの深さ毎に土壌を抜き出し、セシウム137の濃度を測定し、深さ方向濃度分布を導出した(
図5(d)に「実測」として示す。)。
実施例の放射能測定装置によって算出された放射能分布(
図5(c))と、実測に基づいて算出した放射能分布(
図5(d))とを比較した結果、同じような分布状態が得られている(棒グラフの形状が近似している)ことがわかった。
【0050】
(2)実施例の放射能測定装置によって算出された放射能と実測した放射能との対比
次に、放射能に汚染された複数のため池底部について、実施例の放射能測定装置によって算出された放射能分布と実測したものとの比較を行った。
具体的には、実施例で作製した放射能測定装置を用いて、ため池底部の土壌におけるセシウム137の深さ方向濃度分布を得た後、プローブを挿入した場所から土壌を抜き出し、5cmの深さ毎に切り分けてサンプルを測定し、各サンプルからゲルマニウム測定器を用いてセシウム137の濃度を測定した。比較結果を
図6に示す。
図6における○プロットは、1つの測定箇所における放射能測定装置の算出値と実測値との関係を示したものであり、4ヶ所のため池で計22箇所について比較を行ったものである。
図6から、実施例の放射能測定装置により得られたセシウム137の深さ方向濃度分布と、実測したセシウム137の深さ方向濃度分布とは、相関関係(近似線:R
2=0.8066)を示すことがわかった。その結果、本発明の構成を備える放射能測定装置は、実測値との相関関係を反映することで、正確に、土壌の放射能分布を把握できることがわかった。
また、実施例の放射能測定装置を用いてセシウム137の深さ方向濃度分布を導出するのに要した時間は、実測の場合に比べて大幅に削減できた。その結果、短時間で土壌中の放射能分布を把握できることがわかった。