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特開2017-4638電解質塩、該電解質塩を含む非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-4638(P2017-4638A)
(43)【公開日】2017年1月5日
(54)【発明の名称】電解質塩、該電解質塩を含む非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20161209BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20161209BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20161209BHJP
   H01M 6/16 20060101ALI20161209BHJP
   H01G 11/62 20130101ALI20161209BHJP
   H01G 11/60 20130101ALI20161209BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20161209BHJP
【FI】
   H01M10/0568
   H01M10/0569
   H01M10/052
   H01M6/16 A
   H01G11/62
   H01G11/60
   H01G11/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-114580(P2015-114580)
(22)【出願日】2015年6月5日
(71)【出願人】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】永倉 直人
【テーマコード(参考)】
5E078
5H024
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AA09
5E078AB06
5E078DA03
5E078DA06
5E078DA19
5H024AA03
5H024AA06
5H024AA12
5H024CC02
5H024CC03
5H024CC04
5H024FF14
5H024FF20
5H029AJ02
5H029AJ04
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK03
5H029AK18
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL18
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ03
5H029BJ04
5H029BJ12
5H029DJ09
5H029EJ07
(57)【要約】
【課題】高温での安定性と低温での高伝導性を兼ね備えた電解質塩、非水電解液、および前記非水電解液を含む蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート・リチウム塩
Li・BF(CN)4−X (I) (ただし、Xは、1〜3の整数である。)、
及び前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩を含む電解質塩であって、
前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩1モルに対して、前記シアノフルオロボレート・リチウム塩を0.05モル以上1モル未満含むことを特徴とする電解質塩である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート・リチウム塩
Li・BF(CN)4−X (I) (ただし、Xは、1〜3の整数である。)、
及び前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩を含む電解質塩であって、
前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩1モルに対して、前記シアノフルオロボレート・リチウム塩を0.05モル以上1モル未満含むことを特徴とする電解質塩。
【請求項2】
前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩が、LiPF、又はLiBFであることを特徴とする請求項1に記載の電解質塩。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電解質塩が非水溶媒中に溶解してなる非水電解液であって、
非電解質液に含まれる全リチウム塩の合計濃度が0.3〜4mol/Lであることを特徴とする非水電解液。
【請求項4】
前記非水溶媒が、鎖状カーボネート、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトンおよびエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解液。
【請求項5】
蓄電デバイスに用いられることを特徴とする請求項3又は4に記載の非水電解液。
【請求項6】
リチウム電池、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタに用いられることを特徴とする請求項3又は4に記載の非水電解液。
【請求項7】
正極、負極、および請求項3又は4に記載の非水電解液を有することを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項8】
リチウム電池、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタであることを特徴とする請求項7に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な電解質塩、該電解質塩を含む新規な非水電解液、及び該非水電解液を用いた新規な蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器、携帯電話およびビデオカメラなどが急激に普及し、それらに用いられる軽量で高性能の二次電池の需要が大幅に増大した。また、二次電池は、車載用途または自然エネルギーの貯蔵用途などに向けての開発が進められている。車載用途では使用環境温度は−30℃から60℃が想定されており、従来使用されている温度領域より厳しい使用環境が想定され、高温側では電解質の耐久性が求められ、低温側では従来以上のイオン伝導率が求められている。特に高温環境については、セルが大型化されるため、使用環境のみならず、自己発熱によって定常的に比較的高い温度にさらされることになり、従来リチウムイオン電池が使用される上限温度の45℃よりも高い60℃、あるいはそれ以上の高い温度における耐久性の向上が重要な開発課題になってきている。
【0003】
また、車載用または自然エネルギー貯蔵用の電池の場合、使用条件として−30℃での作動が想定され、低温でのイオン伝導性も要求される。低温でのイオン伝導度低下を避けるために通常は低粘度の有機溶媒(炭酸エチレンと炭酸エチルメチルとの混合溶媒など)を用いる事が行われているが、ほとんどの低粘度の有機溶媒は蒸気圧が高く、デンドライト析出などにより電池にショートが発生した場合、容易に火災が発生するなど安全性が低下する問題点がある。
【0004】
前記二次電池等の蓄電デバイスに用いられている電解液として、多くの場合、非水溶媒にリチウム塩を溶解した電解液が使用されている。さらに、非水溶媒としては、例えば炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジエチル等の混合溶媒が一般的に使用されている。リチウム塩としてはLiPF、LiBFなどが用いられている。
【0005】
また、リチウムイオン二次電池の負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる炭素質材料、ならびに、高容量化を目指してシリコンまたはスズ等を用いた金属または合金系の材料などが知られ、現在は炭素質材料である天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質炭素等が主に用いられている。正極活物質としてはリチウムイオンを吸蔵および放出することができる遷移金属複合酸化物が用いられている。遷移金属の代表例としてはコバルト、ニッケル、マンガン、鉄等である。
【0006】
このようなリチウムイオン二次電池は、活性の高い正極と負極とを使用しているため、電極と電解液との副反応により、充放電容量が低下することが知られており、電池特性を改良するために、電解液の成分である非水溶媒、電解質や添加剤について種々の検討がなされている。
【0007】
電解質として用いられている化合物(電解質塩)は、上記の通り、LiPFおよびLiBFである。その他に、リチウムビストリフルオロメチルスルフォニルイミド(LITFSI)、リチウムビスフルオロスルフォニルイミド(LiFSI)、LiClO、リチウムビス[ペンタフルオロエタンスルホニル]イミド、リチウム[トリフルオロメタンスルホニル][ノナフルオロブタンスルホニル]イミド、リチウムシクロヘキサフルオロプロパン−1,3−ビス[スルホニル]イミド、リチウムビス[オキサレート(2−)]ボレート、リチウムトリフルオロメチルトリフルオロボレート、リチウムペンタフルオロエチルトリフルオロボレート、リチウムヘプタフルオロプロピルトリフルオロボレート、リチウムトリス[ペンタフルオロエチル]トリフルオロホスフェート、リチウムジシアノジフルオロボレート、リチウムトリシアノフルオロボレート、リチウムテトラシアノボレートなどのリチウム塩も検討されている。中でも、主に使用されているのがLiPF、及びLiBFであり、そして、有機溶媒への溶解性、伝導度のことを考慮すると、LiPFが好適に使用されている。
【0008】
そして、リチウムイオン電池の性能を改良するために、上記電解質塩同士の組み合わせ、及びその他の添加剤を電解質塩と組み合わせたりする開発が多数なされている。例えば、LiPFを主たる電解質塩として使用し、それにLiTFSI、又はLiFSIを組み合わせた電解質塩組成物の開発がされている(例えば、特許文献1〜3参照)。より具体的には、特許文献1には、充電保存後の残存・復帰容量の向上を目的として、電解質塩としてLiPFとLiFSIとを組み合わせたものを使用し、非水溶媒としてγ-ブチロラクトン系溶媒を使用した例が示されている。特許文献2には、高温サイクル特性の向上を目的として、電解質塩としてLiPFとLiTFSIとを組み合わせたものを使用し、フッ素化環状エステルを配合した例が示されている。さらに、特許文献3には、高温後の充電残存量の向上、高電圧下での使用を目的として、電解質塩としてLiPFとLiFSIとを組み合わせたものを使用し、フッ化環状炭酸カーボネートを配合した例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-165151号公報
【特許文献2】特開2006-294375号公報
【特許文献3】特開2010-129449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の特許文献1〜3に記載の方法に従えば、性能の優れたリチウムイオン電池を製造することができる。
【0011】
しかしながら、上記方法等においては、高温での使用特性が向上するとは言っても、実際に示されているのは、60℃までの特性であり、60℃を超える温度においての特性は示されていない。近年、リチウムイオン電池用途は広がっており、その使用状況においては60℃での繰り返し動作が想定されている。また、車載用途などでは車内温度は炎天下で70℃を超える場合があり、より高温での特性維持が望まれている。その要件を十分に満足できるものが開発されていないのが現状である。
【0012】
例えば、LiPF等は、極めて加水分解を受けやすく、また、熱安定性が悪い化合物であり60℃以上で分解することが知られており、60℃を超える温度下においてLiPF単独での使用は難しい。さらに、LiPFは、微量の水分と反応し、フッ化水素(HF)が発生する。具体的には、高温保管時にはLiPF6が熱分解(LiPF→LiF+PF)し、生じたPFが水と反応してHFを生成する。また、HFやPF5は有機溶媒と反応して水を発生しこの水がさらにPFの分解を引き起こすことも考えられる。HFは電池容器や集電体の金属材料を溶解、腐食させ、また、正極活物質を溶解して遷移金属を溶出させ電池劣化の原因となることが知られている。この様な電池特性の劣化は、電解質中でLiPFの熱分解が僅かに生じた場合でも起こり、また、電池の長期保存、連続充放電時において顕著に起こり、二次電池の致命的欠陥となる。
【0013】
したがって、本発明の目的は、広い範囲で電気化学的に安定であり、高温での安定性、特に60℃を超える温度での安定性を改善できる電解質塩、該電改質塩を含む非水電解液、及びそれを用いた蓄電デバイスを提供するにある。さらには、より高性能な蓄電ダバイスとするために、より広い温度領域で使用可能な蓄電デバイスを提供することにあり、特に0℃未満の温度においても、優れた特性を示す蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。そして、従来のリチウム塩(電解質塩)の分解の機構について検討し、その分解を抑制する方法について検討した。具体的には、リチウム塩が分解を抑制しつつ、その性能を低下させないためには、それ自身が優れた電解質塩として働くと共に、主となるリチウム塩の分解物をトラップできる添加剤が有用ではないかと考え、検討を行った。その結果、シアノ基を有するリチウム塩を添加剤として使用することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、例えば以下の[1]〜[8]に関する。
[1] 下記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート・リチウム塩
Li・BF(CN)4−X (I)(ただし、Xは、1〜3の整数である。)、
及び前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩を含む電解質塩であって、
前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩1モルに対して、前記シアノフルオロボレート・リチウム塩を0.05モル以上1モル未満含むことを特徴とする電解質塩。
[2] 前記シアノフルオロボレート・リチウム塩以外のリチウム塩が、LiPF、又はLiBFであることを特徴とする[1]に記載の電解質塩。
[3] [1]又は[2]に記載の電解質塩が非水溶媒中に溶解してなる非水電解液であって、非電解質液に含まれる全リチウム塩の合計濃度が0.3〜4mol/Lであることを特徴とする非水電解液。
[4] 前記非水溶媒が、鎖状カーボネート、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトンおよびエーテルよりなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[3]に記載の非水電解液。
[5] 蓄電デバイスに用いられることを特徴とする[3]又は[4]に記載の非水電解液。
[6] リチウム電池、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタに用いられることを特徴とする[3]又は[4]に記載の非水電解液。
[7] 正極、負極、および[3]又は[4]に記載の非水電解液を有することを特徴とする蓄電デバイス。
[8] リチウム電池、リチウムイオン電池またはリチウムイオンキャパシタであることを特徴とする[7]に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低温での伝導度と特に高温での安定性などとを向上できる電解質塩、該電解質塩を含む非水電解液及びそれを用いた蓄電デバイスを提供することができる。具体的には、LiPFなどのリチウム塩と、前記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート塩とを組み合わせた電解質塩が溶解した電解液を用いることにより、従来の電解液に比べて、室温で同等の電気伝導度を有し、低温では伝導度が高く、充電後高温保存した後にも充放電特性の劣化しにくい、作動温度領域が広い電解液が得られる。特に、車載用蓄電デバイス用の非水電解液または自然エネルギー貯蔵用の大型電池の非水電解液として好適に使用され、高温での電気化学特性が低下しにくく、低温環境でも動作するリチウム電池、リチウムイオン電池、またはリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1の初期充放電特性の測定結果を示した図である。
図2】比較例1の初期充放電特性の測定結果を示した図である。
図3】比較例2の初期充放電特性の測定結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[電解質塩]
本発明の電解質塩は、少なくとも2種類のリチウム塩を電解質塩として含有する。そして、その一方のリチウム塩は、下記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート・リチウム塩(以下、リチウム塩(I)ともいう。)である。
Li・BF(CN)4−X (I) (ただし、Xは、1〜3の整数である。)。
【0019】
そして、本発明の電解質塩は、上記リチウム塩(I)以外のリチウム塩(以下、その他のリチウム塩ともいう。)を主成分として、その他のリチウム塩と前記リチウム塩(I)とを組み合わせたものである。先ず、リチウム塩(I)について説明する。
【0020】
<リチウム塩(I)>
本発明の電解質塩は、下記一般式(I)で表されるシアノフルオロボレート・リチウム塩を電解質塩として含有する。
Li・BF(CN)4−X (I)
上記式においてXは1から3の整数である。
【0021】
即ち、Li・BF(CN)、Li・BF(CN)及びLi・BF(CN)が本発明におけるリチウム塩(I)として使用される。Xが0の場合、即ち、Li・B(CN)は電気化学安定性が十分でないことと低温での電気伝導度が低くなるという問題があるため、その他のリチウム塩と組み合わせた場合、性能を向上することができない。一方、Xが4の場合、即ち、LiBFは電気伝導度が低いため、その他のリチウム塩と組み合わせた場合、性能を向上することができない。また、フッ素原子(F)に代えて他の基で置換された化合物では、それ自体の電気化学安定性の低さと電気伝導度の低さという問題があり、その他のリチウム塩と組み合わせた場合、性能を向上することができない。それに対しリチウム塩(I)は、ホウ素原子がフッ素原子およびシアノ基の双方で置換されていることと、PFやBFに比べて対称性が低くなっていることにより、リチウム塩(I)自体で十分な電気化学安定性と特に低温での高電気伝導度という効果を有するため、本発明の電解質塩として使用できると考える。
【0022】
また、Li・BF(CN)およびLi・BF(CN)は、比較的水に対しても安定である。したがって、水分が多少混入していても、分解し難く、電池性能を劣化させるHFなどは発生しにくい。
【0023】
加えて、推定ではあるが、リチウム塩(I)は、その他リチウム塩の分解物、例えば、HF等をトラップし易いものと考えられ、HFの発生により引き起こされる電解液のさらなる分解や電極の腐食などを抑制できるものと考えられる。さらに、アニオンのイオン半径、及び分子量が小さく、アニオンの対称性が低いため、非水溶媒中に析出し難いこと、及び、アニオンの極性が小さく化合物間の相互作用が小さいことから、その他のリチウム塩と組み合わせた場合、低温での非水電解液の性能を向上できるものと考えられる。
次に、このリチウム塩(I)の製造方法について説明する。
【0024】
<リチウム塩(I)の製造方法>
前記リチウム塩(I)は、公知の方法で合成することが可能であり、例えば、アセトニトリルおよびアセトンなどの有機溶媒にリチウム金属のシアン化合物を溶解させBFガスを吹き込む方法、または、リチウム金属のシアン化合物を、アセトニトリル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等の非プロトン性溶媒の存在下で、三フッ化ホウ素エーテルBF・OEt等のBF付加化合物と反応させる方法で合成することができる。
【0025】
また、上記方法の他には、カリウム、ナトリウム、マグネシウムおよびカルシウム等の、リチウム以外のアルカリ金属またはアルカリ土類金属のシアン化合物を、有機溶媒に溶解させ得られた溶液に上述のBFガスを吹き込み、または、非プロトン性溶媒の存在下で三フッ化ホウ素エーテルBF・OEt等のBF付加化合物を作用させ、シアノフルオロボレートの対応するアルカリ金属またはアルカリ土類金属塩を合成し、これに、水酸化リチウム、炭酸リチウム、ハロゲン化リチウムなどの無機リチウム塩を作用させることで塩交換を行い、前記リチウム塩(I)を合成する方法などがある。
【0026】
また、合成されたリチウム塩(I)を本発明の非水電解液に用いる際には、例えば、水洗、乾燥などを十分に行い、不純物を十分除去することが好ましい。具体的には、水分濃度は1000ppm以下、Li以外の金属濃度はNaが20ppm以下、Kが10ppm以下、Caが10ppm以下、Feが3ppm以下、Pbが10ppm以下となるよう精製して用いることが好ましい(いずれもリチウム塩(I)を100質量%とする)。
【0027】
本発明の電解質塩は、上記リチウム塩(I)以外のその他のリチウム塩を主成分とする。次に、その他のリチウム塩について説明する。
【0028】
<その他のリチウム塩>
本発明の電解質塩は、上記のリチウム塩(I)以外のその他のリチウム塩を主成分とする。その他のリチウム塩としては、前記リチウム塩(I)以外の既存のリチウム塩を特に制限無く用いることができる。その他のリチウム塩としては、具体的には、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO)2、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C)3等の有機リチウム塩、およびLiPF、LiBF、LiClOなどの無機リチウム塩などが挙げられる。この中でも、リチウム塩(I)の作用機構を考えると、分子内にフッ素(F)原子を有するリチウム塩であることが好ましく、さらにLiPF、又はLiBFの無機リチウム塩が好ましい。特に60℃で分解するLiPFである場合に、本発明は顕著な効果を発揮する。前記その他のリチウム塩は1種単独で用いても、あるいは、2種以上を併用してもよい。
【0029】
[電解質塩の配合割合]
本発明の電解質塩は、その他のリチウム塩1モルに対して、リチウム塩(I)を0.05モル以上1モル未満含むものである。リチウム塩(I)の使用量が1モル以上、0.05モル未満になると、その他のリチウム塩の性能向上させる効果が低減するため好ましくない。リチウム塩(I)の配合効果をより高くするためには、その他のリチウム塩1モルに対して、リチウム塩(I)を0.05モル以上0.5モル以下とすることが好ましく、0.05モル以上0.3モル以下とすることがより好ましい。
【0030】
以上に説明した電解質塩は、非水溶媒中に溶解させて非水電解液として使用することができる。次に、非水溶媒について説明する。
【0031】
<非水電解液>
<非水溶媒>
本発明の非水電解液に用いられる有機溶媒(非水溶媒)は、特に限定されず用いることができる。Liイオン電池やLiイオンキャパシターに用いる場合、電池用電解液には、1)使用範囲の電気化学安定性と、2)電解質塩への高い溶解性と、3)低粘性などによる高い電気伝導性が要求される。特にリチウムイオン電池は充放電の電位が0〜4.5V vs Li+/Li程度と他の電池に比して非常に広く、用いることができる溶媒は限定され、鎖状カーボネート、環状カーボネート、鎖状エステル、ラクトンおよびエーテルよりなる群から選ばれる溶媒が好ましい。本発明において好ましい有機溶媒としては以下の有機溶媒(非水溶媒)が例示される。
【0032】
鎖状カーボネートとしては、炭素数3〜6の鎖状カーボネートが好ましい。具体的な鎖状カーボネートとしては、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルが挙げられる。
【0033】
環状カーボネートとしては、炭素数3〜6の環状カーボネートが好ましい。具体的な環状カーボネートとしては、炭酸エチレン、炭酸プロピレンが挙げられる。
【0034】
鎖状エステルとしては、炭素数3〜6の鎖状エステルが好ましい。具体的な鎖状エステルとしては、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸メチルが挙げられる。
【0035】
ラクトンとしては、炭素数3〜6のラクトンが挙げられる。具体的なラクトンとしては、γ−ブチロラクトンが挙げられる。
【0036】
エーテルとしては、炭素数3〜8のエーテルが好ましい。具体的なエーテルとしては、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンおよびトリエチレングリコールジメチルエーテルが挙げられる。
【0037】
以上の例示の有機溶媒(非水溶媒)において、電解液の調製時、または電解液の使用時に固体であるものについては、液状である上記他の有機溶媒(非水溶媒)と混合して液状の混合溶媒として使用することができる。
【0038】
上記以外の有機溶媒は通常、電気化学安定性が不十分であったり、電解質塩の溶解度が小さい、粘度が高く電気伝導度が小さいなどの理由で電解液としては適さない。
【0039】
上記溶媒は1種単独で用いても、あるいは、2種以上を併用してもよい。例えば、環状カーボネート類のような高誘電率の溶媒と鎖状カーボネートおよび鎖状エステル類のような低粘度の溶媒とを組み合わせることで良好な溶解性と高い電気伝導性が得られることが知られていて、これらを好適に用いることができる。
【0040】
その中でも、リチウム塩(I)の溶解性と得られる電解液の性能(優れた電気伝導度および電気化学安定性等)とを考慮すると、非水溶媒として鎖状カーボネートまたは環状カーボネートを使用することが好ましく、特に、鎖状カーボネートと環状カーボネートとの混合溶媒を使用することが好ましい。
【0041】
前記混合溶媒を使用する場合、混合溶媒中の鎖状カーボネート含有割合が体積%(23℃)として15%以上であると電解液の粘度を調整し易く、かつ電気伝導度を高くすることができるために好適である。また、鎖状カーボネート含有割合が体積%(23℃)として90%以下であると、溶媒の誘電率の低下による電気伝導度の低下を少なくすることができる。そのため、混合溶媒とする場合には、鎖状カーボネート含有割合が15%以上90%以下、環状カーボネート含有割合が10%以上85%以下であることが好ましく、鎖状カーボネート含有割合が20%以上85%以下、環状カーボネート含有割合が15%以上80%以下であることがより好ましく、鎖状カーボネート含有割合が25%以上80%以下、環状カーボネート含有割合が20%以上75%以下であることがさらに好ましい(ただし、23℃における鎖状カーボネートと環状カーボネートとの合計体積%は100%とする。)。上記の混合溶媒の中でも、環状カーボネートとして炭酸エチレンを使用した場合には、体積%(23℃)として、鎖状カーボネートが40%以上85%以下、炭酸エチレンが15%以上60%以下であることが好ましく、鎖状カーボネートが45%以上80%以下、炭酸エチレンが20%以上55%以下であることがより好ましい。
【0042】
また、高い電気伝導度を得ることができるため、非水溶媒としてラクトンを使用することも好ましい。
【0043】
この非水溶媒を含む非水電解液を電池に適用することで、高温での安定性と低温での高伝導率の両立した電池を提供することができる。
【0044】
<リチウム塩以外の添加物>
本発明の非水電解液はまた、既存の電池用または電気二重層キャパシタの電解液に用いられる添加物を含んでいても良い。リチウムイオン電池用電解液は、難燃化およびサイクル特性向上等の目的で様々な添加剤を含んでいるが、当該非水電解液は既存の添加剤がそのまま使える。添加剤の例としては二重結合を含む不飽和カーボネート、フッ化カーボネートなどが挙げられる。
【0045】
二重結合を含む不飽和カーボネートの具体的な例としては、炭酸ビニレン、炭酸ビニルエチレン等が挙げられ、フッ化カーボネートの具体的な例としては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0046】
<非水電解液の特性>
本発明の非水電解液において、非水電解液に含有される全リチウム塩(その他のリチウム塩、及びリチウム塩の合計)の含有量は、特に制限されるものではないが、非水電解液中に、好ましくは0.3〜4mol/L、より好ましくは0.5〜3mol/L、さらに好ましくは0.7〜1.5mol/Lである。非水電解液中に全リチウム塩の含有量が0.3〜4mol/Lであれば、電流の媒体であるリチウムイオンの濃度が少なすぎず、電解液の粘度の範囲が適切であり、適切な電気伝導度を得ることができる。
【0047】
本発明の非水電解液(その他のリチウム塩とリチウム塩(I)とを組み合わせた電解質塩が非水溶媒に溶解した非電解液)が、高温下、具体的には60℃を超える高温下での貯蔵特性を大幅に改善できる理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0048】
例えば、その他のリチウム塩である六フッ化フォスフェート・リチウム塩(LiPF)は、60℃付近から分解を始めると共に、水に対して不安定であり、水分と反応して分解しHFを発生させる鋭敏な化合物である。リチウムイオン電池などは充電時に電極で溶媒などが反応し、その反応で水分が容易に生じうる。そのため、LiPFが高温で分解(LiPF→LiF+PF)し、生成したPFが電解液成分である有機溶媒と反応し水を発生させさらに分解が進行するものと考えられる(PF水とが反応し、さらにHFを生成するものと考えられる)。この分解機構に対して、配合するリチウム塩(I)は、上記分解時に生じるHF、特にフッ素イオン(Fイオン)をトラップして無害な形に変化させているのではないかと推定される。すなわち、分解時に発生したFイオンが、リチウム塩(I)のCN基と入れ替わり、CNイオンは電極表面でSEI(Solid Electrolyte Interface)皮膜を形成することにより、その他のリチウム塩の分解を抑制し、高温下でのサイクル特性を大幅に改善できると考えられる。そのため、その他のリチウム塩が分子内にフッ素(F)原子を有するものである場合に、本発明は、特に優れた効果を発揮するものと考えられる。
【0049】
また、本発明の非水電解液は、下記の実施例で詳細に説明するが、低温での特性も向上することができる。この理由も明らかではないが、以下の通り推定している。リチウム塩(I)のアニオンのイオン径、及び分子量は、その他のリチウム塩のアニオンのイオン径、及び分子量よりも比較的小さく、対称性が低い。特に、六フッ化フォスフェートアニオンの分子量が小さく、対称性が低い。そのため、リチウム塩(I)が配合された本発明の非電解液では、低温になっても電解質塩が析出し難く、低温での特性を維持できるものと考えられる。加えて、リチウム塩(I)のアニオンの極性が小さく、化合物間の相互作用が小さくなるため、本発明の非電解液は、低温での特性を維持できるものと考えられる。
【0050】
<蓄電デバイス>
前記非水電解液は、リチウム電池(リチウム一次電池)、リチウムイオン電池(リチウム二次電池)およびリチウムイオンキャパシタ等の蓄電デバイスに使用することができる。その中でも、リチウム電池およびリチウムイオン電池として用いることが更に好ましく、リチウムイオン電池として用いることが最も好ましい。また、非水電解液は、液体状のものだけでなくゲル化して使用してもよい。更に本発明の非水電解液は固体高分子電解質用としても使用できる。
【0051】
本発明の蓄電デバイスは、非水電解液に、その他のリチウム塩、及びリチウム塩(I)を用いることで、60℃以上の高温で保存しても劣化が少なく、常温から低温まで既存の電解液以上の電気伝導度を持ち、電気化学的にも安定な電解液とする事ができる。この効果は、その他のリチウム塩単独、またはリチウム塩(I)単独で使用した場合よりも高くなる。
【0052】
<リチウム電池>
リチウム電池は、負極と、正極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、前記の本発明の非水電解液とを備えるものである。
【0053】
リチウム電池は、非水電解液以外の構成については公知のリチウム電池と同様であり、通常は、前記非水電解液が含浸されている多孔膜を介し正極と負極とが積層され、これらがケースに収納された形態を有する。従って、リチウム電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0054】
負極には、活物質として、リチウムおよびリチウム合金からなる群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0055】
正極は、正極活物質を含有し、好ましくは、さらに導電材および結着剤を含む。正極活物質としては、リチウム電池の分野で常用される材料をそのまま使用でき、その中でも、二酸化マンガンなどの金属酸化物、フッ化黒鉛、塩化チオニルなどが好適に使用できる。二酸化マンガンは、放電特性が良好であり、特に好ましい。
【0056】
リチウム塩(I)、及びその他のリチウム塩を用いた本発明の非水電解液は、60℃以上の高温で保存しても劣化が少なく、常温から低温まで既存のリチウム電池以上の電流で放電可能な電池とする事ができる。
【0057】
<リチウムイオン電池>
リチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出し得る、負極および正極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、前記の本発明の非水電解液とを備えるものである。
【0058】
リチウムイオン電池は、非水電解液以外の構成については、公知のリチウムイオン電池と同様であり、通常は、前記非水電解液が含浸されている多孔膜を介し正極と負極とが積層され、これらがケースに収納された形態を有する。従って、リチウムイオン電池の形状は特に制限されるものではなく、円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等の何れであってもよい。
【0059】
リチウムイオン電池に使用する負極は、集電体上に負極活物質層を有する。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能なものであれば、特に制限はない。その具体例としては、炭素質材料、合金系材料、リチウム含有金属複合酸化物材料等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0060】
正極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵および放出可能なものであれば特に制限されず用いることができる。正極活物質としてはリチウムと少なくとも1種の遷移金属とを含有する物質が好ましい。具体例としては、リチウム遷移金属複合酸化物、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が挙げられる。これらの正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を任意に組み合わせて併用してもよい。
【0061】
リチウムイオン電池は、充電終止電圧が4.2V以上、特に4.3V以上の場合にも高温での電気化学特性に優れている。また、本発明におけるリチウムイオン電池は、−40〜100℃で充放電することができる。
【0062】
リチウム塩(I)、及びその他のリチウム塩を用いた本発明の非水電解液は、60℃以上の高温で保存しても劣化が少なく、常温から低温まで既存のリチウムイオン電池以上の電流で充放電可能な二次電池とする事ができる。
【0063】
<リチウムイオンキャパシタ>
リチウムイオンキャパシタ(LIC)とは、負極にグラファイト等の炭素材料を用い、それへのリチウムイオンのインターカレーションを利用してエネルギーを貯蔵する蓄電デバイスである。正極は、例えば活性炭電極と電解液との間の電気二重層を利用したもの、π共役高分子電極のドープ/脱ドープ反応を利用したもの等が挙げられる。
【0064】
電解液として前述の電解液が使用されるため、LICは、高温での電気化学安定性と低温での高伝導率の両立することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(1)電池の作製
正極は、活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3O293部、導電材としてアセチレンブラック4部、および、バインダーとしてポリビニリデンフルオライド3部をスラリー状にし、集電箔にアプリケーターで塗工し、120℃で10分乾燥後プレスして作製した。
【0067】
負極は、活物質として黒鉛93部、導電材としてアセチレンブラック2部、および、バインダーとしてポリビニリデンフルオライド5部を用い、正極と同じ工程で作製した。
【0068】
セパレータは、ポリエチレン製微多孔膜(厚さ20μm、気孔率40%)を用いた。
【0069】
上記で作製した正極と負極とを30×50mmに打ち抜き、170℃にて10時間それぞれ乾燥した後、セパレータを介して対向させアルミニウム製のラミネート内に挿入し、実施例・比較例で作製した電解液を注液、減圧含浸後、真空シールして電池性能評価用単層ラミネートセル(電池)を作製した。
【0070】
(2) 充電容量および放電容量
初期充放電特性の評価で測定した充電容量および放電容量、ならびに、低温動作性の評価で測定した放電容量は、充放電試験装置(北斗電工製HJ0501SD8)で測定した。充放電試験の条件は、室温23℃で0.2Cに相当する電流で4.2VまでCCCV充電(0.05Cカット)した後に0.2Cに相当する電流で2.7Vまで放電を行った。この条件で繰り返し充放電を行い、3回目の結果を初期充放電特性とした。
【0071】
(3)高温保存性能の評価、および低温動作性の評価
以下の高温保存性能の評価、および低温動作性の評価で測定した抵抗は、東陽テクニカ製VersaSTAT4で測定した。
【0072】
<高温保存性能>
実施例・比較例で作製した電池の初期充放電試験を行った後、抵抗を測定した(初期抵抗値)。その後、85℃にて10日保存し、再度、抵抗を測定した(高温保存後の抵抗)。
【0073】
<低温動作性>
実施例・比較例で作製した電池の初期充放電試験を行った後、−30℃にて、放電容量および抵抗を測定した(抵抗)。
【0074】
実施例1
キシダ化学株式会社より購入した1mol/L LiPFの炭酸エチレン(EC)−炭酸ジエチル(DEC)の混合溶液(1:1 23℃体積比)98gに2gのLi・BF(CN)を溶解(1mol/L LiPF 0.24mol/lLi・BF(CN)添加溶液)し、非水電解液を作製した。その後に前記(1)電池の作製で説明した方法で電池性能評価用単層ラミネートセルを作製した。その後、前記(2)充電容量および放電容量、(3)高温保存性能の評価、および低温動作性の評価に従い電池特性を評価した。評価結果、使用した成分、その使用量を表1にまとめた。また、初期充放電特性の測定結果を図1に示した。
【0075】
比較例1
キシダ化学株式会社より購入した1mol/L LiPFの炭酸エチレン(EC)−炭酸ジエチル(DEC)の混合溶液(1:1)を用いた以外は実施例1と同様に電池性能評価用単層ラミネートセルを作製し、同様の評価を行った。結果を表1にまとめ、初期充放電特性の測定結果を図2に示した。
【0076】
比較例2
炭酸エチレン(EC)33gに炭酸ジエチル(DEC)25mlを加え溶解させ、さらに、Li・BF(CN)5.39gを加え攪拌し、完全に溶解させ、炭酸エチレン(EC)−炭酸ジエチル(DEC)の1:1(23℃体積比)混合溶媒にLi・BF(CN)が1mol/Lの濃度で溶解した非水電解液を作製した。この作製した電解液を用いた以外は実施例1と同様に電池性能評価用単層ラミネートセルを作製し、同様の評価を行った。結果を表1にまとめ、初期充放電特性の測定結果を図3に示した。
【0077】
【表1】
【0078】
表1に示した通り、初期充放電特性の評価結果より、実施例1で作製した電池は、常温において、比較例2で作製した電池と同等の初期充放電特性を示すこと分かった。
【0079】
また、高温保存性能の評価結果より、実施例1で作製した電池は、高温保存後(85℃、10日)において、比較例1で作製した電池と比べて抵抗の上昇が小さく、高温でより安定であることが分かった。
【0080】
さらに低温動作性の評価結果から、実施例1で作製した電池は比較例2で作製した電池と比較して、低温において放電容量が大きく、また、抵抗が小さいため、低温での電池性能に優れることが分かった。
【0081】
驚くべきことに、0.24mol/LのLiBFCN、及び1mol/LのLiPFがEC:DEC1:1の溶液に溶解した非水電解液(実施例1)は、熱分解しやすいLiPFの入っていない1mol/LのLiBFCNの非水電解液(比較例2)よりも、高温保存後の抵抗上昇、及び低温時の抵抗上昇が抑えられており、高温保存後において特性が維持され、低温での性能が向上することが分かった。
図1
図2
図3