【課題】ポリイミド基板フィルムへの異物の混入を防ぐことができると共に、キャリアフィルムからの剥離性が良好であって、このポリイミド基板フィルム上に機能層を備えた機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】連続供給される搬送体上に第1の溶液を塗工して第1の熱処理を行い、次いで、第2の溶液を塗工して第2の熱処理を行うことで、第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層とを備えた長尺のポリイミド積層体を得た後、ポリイミド硬化層の一方をポリイミド基板フィルムとし、他方をキャリアフィルムとして、ポリイミド基板フィルム上に機能層を形成してキャリアフィルムを分離することで、機能層を備えたポリイミド基板フィルムを得るようにする機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法である。
連続供給される搬送体上にポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、第1の熱処理を行い、少なくとも該第1の溶液の表面にタックフリー面を形成し、次いで、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を塗工して、第2の熱処理を行うことで、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層と第2の溶液からなる第2ポリイミド硬化層とを備えると共に、搬送体の進行方向を長手方向として該搬送体から分離された長尺のポリイミド積層体を得た後、
前記長尺のポリイミド積層体における第1及び第2のポリイミド硬化層のうち一方をポリイミド基板フィルムとし、他方をキャリアフィルムとして、ポリイミド基板フィルム上に機能層を形成した上で、キャリアフィルムを分離して、機能層を備えたポリイミド基板フィルムを得ることを特徴とする機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記長尺のポリイミド積層体を巻取りロールに一旦巻き取った上で、該ポリイミド積層体を巻き出しながらポリイミド基板フィルム上に機能層を連続的に形成するか、又は、該ポリイミド積層体を巻き出しながら所定の長さでシート状に切り出して、シート状のポリイミド積層体ごとにポリイミド基板フィルム上に機能層を形成する請求項1に記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記長尺のポリイミド積層体を得るにあたり、前記搬送体は第2の熱処理を行う前に分離されるか、又は、第2の熱処理を行った後に分離される請求項1又は2に記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記搬送体が、金属ドラム、エンドレスベルト、又はロール状に巻かれた長尺基材である請求項1〜3のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記キャリアフィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、前記ポリイミド基板フィルムが第2ポリイミド硬化層からなる請求項1〜4のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記ポリイミド基板フィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、前記キャリアフィルムが第2ポリイミド硬化層からなる請求項1〜4のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記搬送体上にポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、60℃〜300℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、該第1の溶液の表面にタックフリー面を形成する請求項1〜6のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記搬送体上にポリイミド前駆体からなる第1の溶液を塗工して、100℃〜450℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層を形成する請求項1〜6のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層との層間接着強度が1〜20N/mであり、ポリイミド基板フィルムとする第1又は第2のポリイミド硬化層の厚さが1〜50μmである請求項1〜9のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記ポリイミド基板フィルムとする第1又は第2のポリイミド硬化層は、全光透過率が80%以上である請求項1〜10のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記搬送体がロール状に巻かれた長尺基材からなり、該長尺基材がポリイミドフィルム、SUS箔、銅箔、又はこれらの2以上が積層された複合体である請求項1〜11のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を2種以上用いてこれらを重ね塗りして塗工し、第1ポリイミド硬化層を形成する請求項1〜12のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
前記ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を2種以上用いてこれらを重ね塗りして塗工し、第2ポリイミド硬化層を形成する請求項1〜12のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の一方を硬化させたポリイミド硬化層からなるキャリアフィルムと、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の他方を硬化させたポリイミド硬化層からなるポリイミド基板フィルムとが積層された長尺のポリイミド積層体の長手方向に対して、ポリイミド基板フィルム上に機能層が連続して形成されており、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、全光透過率が80%以上であり、かつ、キャリアフィルムとの界面は算術平均粗さRaが0〜5nmの表面粗さを有して、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの層間接着強度が1〜20N/mであることを特徴とする機能層付き長尺ポリイミド積層体。
前記機能層が、透明導電層、配線層、導電層、ガスバリア層、薄膜トランジスタ、電極層、発光層、接着層、粘着剤層、透明樹脂層、カラーフィルターレジスト、及びハードコード層からなる群から選択されたいずれか1種又は2種以上の組み合わせを含む層である請求項15に記載の機能層付き長尺ポリイミド積層体。
ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の一方を硬化させたポリイミド硬化層からなるキャリアフィルムと、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の他方を硬化させたポリイミド硬化層からなるポリイミド基板フィルムとが積層された長尺のポリイミド積層体であって、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの層間接着強度が1〜20N/mであり、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、全光透過率が80%以上であることを特徴とする長尺ポリイミド積層体。
ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる溶液を硬化させたポリイミド硬化層からなる長尺のポリイミド基板フィルムの長手方向に対して機能層が連続して形成されており、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、20μmの厚さにおける全光透過率が80%以上であり、かつ、機能層と反対側の表面は算術平均粗さRaが0〜5nmの表面粗さを有することを特徴とする機能層付き長尺ポリイミド基板フィルム。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置は、テレビのような大型ディスプレイから、携帯電話、パソコン、スマートフォンなどの小型ディスプレイに至るまで、各種のディスプレイ用途に使用されている。表示装置の代表的なものとして有機EL表示装置があるが、例えば、この有機EL表示装置では、支持基材であるガラス基板上に薄膜トランジスタ(以下、TFT)を形成し、電極、発光層、電極を順次形成し、最後に別途ガラス基板や多層薄膜等で気密封止して作られる。
【0003】
ここで、支持基材であるガラス基板を樹脂基板へと置き換えることにより、薄型・軽量・フレキシブル化が実現でき、表示装置の用途を更に広げることができる。
【0004】
例えば、特許文献1は、フレキシブルディスプレイ用プラスチック基板として有用なポリイミド、及びその前駆体に係る発明に関し、シクロへキシルフェニルテトラカルボン酸等のような脂環式構造を含んだテトラカルボン酸類を用いて、各種ジアミンと反応させたポリイミドが透明性に優れることを報告している。この他にも、支持基材にフレキシブルな樹脂を用いて軽量化を図る試みがなされており、例えば、下記の非特許文献1及び2では、透明性の高いポリイミドを支持基材に適用した有機EL表示装置が提案されている。
【0005】
このように、ポリイミド等の樹脂基板がフレキシブルディスプレイ用フレキシブル基板に有用であることは知られている。しかし、樹脂基板は、一般にガラスと比較して寸法安定性、透明性、耐熱性、耐湿性、ガスバリア性等に劣るため、現時点では研究段階にあり種々の検討がなされている。
【0006】
例えば、非特許文献3では、ガラス上に塗布して固着した樹脂基板に対し、所定の機能層を形成した後、EPLaR(Electronicson Plastic by Laser Release)プロセスと呼ばれる方法によりガラス側からレーザーを照射して、機能層を備えた樹脂基板をガラスから強制分離する方法が提案されている。
【0007】
また、非特許文献4には、ガラス上に剥離層を介してポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液を塗布し、硬化させて得られたポリイミド基板に対して所定の機能層を設けた後、ガラスからポリイミド基板を剥離する方法が提案されている。この方法の場合、剥離層よりも広い面積でポリアミド酸溶液を塗布して、硬化後のポリイミド基板の周辺部がガラスに直接固着するようにしておき、この周辺部をガラス上に残すようにして機能層が形成された部分に切り込みを入れて、剥離層を介して形成されたポリイミド基板をガラスから分離する。
【0008】
非特許文献3及び4において開示された技術は、いずれもガラス上に樹脂基板を形成し、前記樹脂基板に機能層を形成することで、樹脂基板の取り扱い性や寸法安定性を担保するものである。しかしながら、これらの方法では、ガラスから樹脂基板を分離する上で特殊な手段を採用するため生産性が低いなどの問題がある。すなわち、非特許文献3に記載されたEPLaRプロセスを利用する方法では、樹脂基板をガラスから分離するのに時間が掛かるばかりか、樹脂基板の表面性状に悪影響を及ぼすおそれがある。また、非特許文献4に記載された方法では工程数が嵩むほか、樹脂基板として利用できない領域が発生して無駄を生じてしまう。そのため、樹脂基板の長所を活かしつつ、工業的に資する手段で使用することができる技術の開発が強く望まれている。
【0009】
このような問題を解決する方法として、ポリイミド基板の背面側にガラスの代わりにポリイミドフィルムを備えたポリイミド積層体であって、ポリイミド基板とポリイミドフィルムとの界面が特定の性能を有しており、ポリイミド基板の表面側に所定の機能層を形成した後、ポリイミドフィルムを分離可能にしたことを特徴とするポリイミド積層体が開示されている(特許文献2参照)。このポリイミド積層体は、上記非特許文献3や非特許文献4におけるガラスの代わりにポリイミドフィルムを支持基材として用いたものであり、ポリイミドフィルムの表面にポリアミド酸溶液を塗布して加熱処理することで、支持基材上にポリイミド基板を形成する。そして、このようにして得られたポリイミド積層体によれば、取り扱い性や寸法安定性等を確保することができ、また、支持基材からポリイミド基板を容易に分離してポリイミドフィルムとすることができることから、タッチパネルや表示装置等の製造に好適に用いることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記特許文献2に記載された方法によれば、取り扱い性や寸法安定性等を確保しながら、支持基材からポリイミド基板を容易に分離してポリイミドフィルムにできることから、従来のガラス基板に代わる樹脂基板の適用が促進されると考えられる。ところが、特許文献2に記載の方法のように、ポリイミドフィルムを支持基材として、その上にポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液やポリイミド樹脂溶液を塗布し、加熱処理してポリイミド基板フィルムを得る際に、支持基材とするポリイミドフィルムにパーティクル等の異物が付着していると、それがポリイミド基板フィルムにそのまま混入してしまうおそれがある。
【0013】
例えば、液晶表示装置、有機ELディスプレイ、有機EL照明、電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池、カラーフィルター等のようなフレキシブルデバイスの製造工程においては高度なクリーン環境が要求されており、仮に微小な塵等であってもその混入によってフレキシブルデバイスの特性を著しく低下させてしまいかねない。また、フレキシブルデバイスの高性能化、小型化、薄型化に伴い、ポリイミド基板フィルム自体を薄くすることが求められるが、ポリイミド基板フィルムが薄くなると支持基材からの剥離においてポリイミド基板フィルムが破損してしまうおそれがあり、剥離性について更に改良検討の余地がある。
【0014】
そこで、本発明者らは、上記のような問題について鋭意検討を重ねた結果、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1及び第2の溶液を用いて、搬送体上にこれらをそれぞれ塗工し、第1及び第2の熱処理を行い、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとが積層された長尺のポリイミド積層体を得るようにすることで、異物の混入を可及的に防ぐことができると共に、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの剥離性が良好であり、フレキシブルデバイスの製造に好適に用いることができることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
したがって、本発明の目的は、ポリイミド基板フィルムへの異物の混入を防ぐことができると共に、キャリアフィルムからの剥離性が良好であって、このポリイミド基板フィルム上に機能層を備えた機能層付きポリイミド基板フィルムを製造する方法、及び、それによって得られた機能層付きポリイミド基板フィルムを提供することにある。
【0016】
また、本発明の別の目的は、このような機能層付きポリイミド基板フィルムを得るためのポリイミド積層体、及び機能層付きポリイミド積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)連続供給される搬送体上にポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、第1の熱処理を行い、少なくとも該第1の溶液の表面にタックフリー面を形成し、次いで、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を塗工して、第2の熱処理を行うことで、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層と第2の溶液からなる第2ポリイミド硬化層とを備えると共に、搬送体の進行方向を長手方向として該搬送体から分離された長尺のポリイミド積層体を得た後、
前記長尺のポリイミド積層体における第1及び第2のポリイミド硬化層のうち一方をポリイミド基板フィルムとし、他方をキャリアフィルムとして、ポリイミド基板フィルム上に機能層を形成した上で、キャリアフィルムを分離して、機能層を備えたポリイミド基板フィルムを得ることを特徴とする機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(2)前記長尺のポリイミド積層体を巻取りロールに一旦巻き取った上で、該ポリイミド積層体を巻き出しながらポリイミド基板フィルム上に機能層を連続的に形成するか、又は、該ポリイミド積層体を巻き出しながら所定の長さでシート状に切り出して、シート状のポリイミド積層体ごとにポリイミド基板フィルム上に機能層を形成する(1)に記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(3)前記長尺のポリイミド積層体を得るにあたり、前記搬送体は第2の熱処理を行う前に分離されるか、又は、第2の熱処理を行った後に分離される(1)又は(2)に記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(4)前記搬送体が、金属ドラム、エンドレスベルト、又はロール状に巻かれた長尺基材である(1)〜(3)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(5)前記キャリアフィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、前記ポリイミド基板フィルムが第2ポリイミド硬化層からなる(1)〜(4)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(6)前記ポリイミド基板フィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、前記キャリアフィルムが第2ポリイミド硬化層からなる(1)〜(4)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(7)前記搬送体上にポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、60℃〜300℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、該第1の溶液の表面にタックフリー面を形成する(1)〜(6)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(8)前記搬送体上にポリイミド前駆体からなる第1の溶液を塗工して、100℃〜450℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層を形成する(1)〜(6)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(9)前記第2の熱処理における熱処理の最高温度が100℃〜450℃である(1)〜(8)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(10)前記第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層との層間接着強度が1〜20N/mであり、ポリイミド基板フィルムとする第1又は第2のポリイミド硬化層の厚さが1〜50μmである(1)〜(9)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(11)前記ポリイミド基板フィルムとする第1又は第2のポリイミド硬化層は、全光透過率が80%以上である(1)〜(10)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(12)前記搬送体がロール状に巻かれた長尺基材からなり、該長尺基材がポリイミドフィルム、SUS箔、銅箔、又はこれらの2以上が積層された複合体である(1)〜(11)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(13)前記ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を2種以上用いてこれらを重ね塗りして塗工し、第1ポリイミド硬化層を形成する(1)〜(12)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
(14)前記ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を2種以上用いてこれらを重ね塗りして塗工し、第2ポリイミド硬化層を形成する(1)〜(12)のいずれかに記載の機能層付きポリイミド基板フィルムの製造方法。
【0018】
(15)ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の一方を硬化させたポリイミド硬化層からなるキャリアフィルムと、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の他方を硬化させたポリイミド硬化層からなるポリイミド基板フィルムとが積層された長尺のポリイミド積層体の長手方向に対して、ポリイミド基板フィルム上に機能層が連続して形成されており、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、全光透過率が80%以上であり、かつ、キャリアフィルムとの界面は算術平均粗さRaが0〜5nmの表面粗さを有して、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの層間接着強度が1〜20N/mであることを特徴とする機能層付き長尺ポリイミド積層体。
(16)前記機能層がITO膜である(15)に記載の機能層付きの長尺ポリイミド積層体。
(17)前記機能層がTFTである(15)に記載の機能層付きの長尺ポリイミド積層体。
(18)前記機能層が、透明導電層、配線層、導電層、ガスバリア層、薄膜トランジスタ、電極層、発光層、接着層、粘着剤層、透明樹脂層、カラーフィルターレジスト、及びハードコード層からなる群から選択されたいずれか1種又は2種以上の組み合わせを含む層である(15)に記載の機能層付きの長尺ポリイミド積層体。
(19)ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の一方を硬化させたポリイミド硬化層からなるキャリアフィルムと、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1又は第2の溶液の他方を硬化させたポリイミド硬化層からなるポリイミド基板フィルムとが積層された長尺のポリイミド積層体であって、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの層間接着強度が1〜20N/mであり、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、全光透過率が80%以上であることを特徴とする長尺ポリイミド積層体。
(20)ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる溶液を硬化させたポリイミド硬化層からなる長尺のポリイミド基板フィルムの長手方向に対して機能層が連続して形成されており、ポリイミド基板フィルムは、厚さが1〜50μmであると共に、全光透過率が80%以上であり、かつ、機能層と反対側の表面は算術平均粗さRaが0〜5nmの表面粗さを有することを特徴とする機能層付きの長尺ポリイミド基板フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ポリイミド基板フィルムへの異物の混入を防ぐことができると共に、キャリアフィルムからの剥離性が良好であって、このポリイミド基板フィルム上に機能層を備えた機能層付きポリイミド基板フィルムを得ることができる。このうち、ポリイミド基板フィルムは耐熱性に優れて、高温での熱処理プロセスに適用可能であることから、機能層を用いた各種フレキシブルデバイスの製造に供することができる。
【0020】
また、このような機能層付きポリイミド基板フィルムを得るにあたり、本発明では、長尺のポリイミド積層体を得た上で、このポリイミド積層体を構成するポリイミド基板フィルムに機能層を形成することから、取り扱い性(ハンドリング性)や寸法安定性等が確保される。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明においては、先ず、連続供給される搬送体上にポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、第1の熱処理を行い、少なくとも該第1の溶液の表面にタックフリー面を形成し、次いで、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を塗工して、第2の熱処理を行うことで、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層と第2の溶液からなる第2ポリイミド硬化層とを備えるようにして、しかも、搬送体の進行方向を長手方向として該搬送体から分離された長尺のポリイミド積層体を得るようにする。
【0023】
本発明において、連続供給される搬送体を使用するのは、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1及び第2の溶液を用いて、いわゆるキャスト法により第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層とを積層させるためであり、詳しくは、これらのポリイミド硬化層が積層された長尺のポリイミド積層体を得るためである。
【0024】
すなわち、連続供給される搬送体上に第1の溶液を塗工し、第1の熱処理を行って少なくともタックフリー面を形成し、その上に第2の溶液を塗工して、第2の熱処理を行うことで、得られるポリイミド積層体は、TD(Transverse Direction)側に対してMD(Machine Direction)側が長い長尺状の積層フィルムとなる。このような長尺のポリイミド積層体であれば、後の工程においてロール・トゥ・ロールプロセスで搬送させることが可能となり、例えば、巻取りロールに一旦巻き取った上で、そのポリイミド積層体を巻き出しながら機能層を連続的に形成することができる。そのため、例えば、断続的に供給される搬送体を用いてシート状のポリイミド積層体を得て、バッチ処理により機能層を形成する場合に比べて、工程数が少なくなることから、異物の混入のおそれをできるだけ排除することができ、また、機能層を利用したフレキシブルデバイスについても効率良く製造することができるようになる。
【0025】
このような連続供給される搬送体としては特に制限はないが、例えば、金属ドラム、エンドレスベルト、ロール状に巻かれた長尺基材等を挙げることができる。なかでも、生産性の観点からエンドレスベルト又はロール状に巻かれた長尺基材を用いるのがよく、より好ましくは、ロール状に巻かれた長尺基材である。このうち、ロール状に巻かれた長尺基材の場合、MD側に長いほど、より長尺のポリイミド積層体が得られるため望ましいが、生産性等の観点から、好ましくは、(MD側の長さ)/(TD側の長さ)が50以上であるのがよく、より好ましくは、2000以上であるのがよい。また、エンドレスベルトの場合、MD側に長いほど、生産性に優れるが、一方で装置が高価になり、装置の大きさや重量が増す。これらのバランスから、エンドレスベルトの長さは10〜50m程度であるのが好ましい。
【0026】
ここで、搬送体を形成する材質としては、少なくとも第1の溶液を塗工してタックフリー面を形成する第1の熱処理の温度に耐え得るものであればよい。具体的には、ロール状に巻かれた長尺基材の場合、強度や耐熱性に加えて、柔軟性に優れたポリイミドフィルム、SUS箔、銅箔等を挙げることができ、これらの複合体であってもよい。なかでも好ましくはポリイミドフィルムである。また、エンドレスベルトの場合には、好ましくは、SUSで作られたものであるのがよい。
【0027】
そして、連続供給される搬送体上にポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第1の溶液を塗工して、第1の熱処理を行い、少なくとも該溶液の表面にタックフリーな状態であるタックフリー面を形成する。ここで、タックフリーとは、対象物の表面に接触した際に、その接触した接触物に対象物が付着しない状態を言い、例えば、第1の溶液を塗工して第1の熱処理を行った後に指で触れたときに、指先に第1の溶液の構成物が付着しない状態である。
【0028】
また、搬送体上に塗工した第1の溶液を少なくともタックフリー状態にするためには、第1の熱処理により、塗工された第1の溶液中の溶剤の少なくとも一部が揮発するように乾燥させる。その際、第1の溶液がポリイミド樹脂溶液であれば、少なくとも一部をイミド化させるようにしてもよい。このような第1の熱処理が不十分であると、タックフリー面が形成されずに第2の溶液と混ざってしまい、後にポリイミド積層体内にフクレ(swelling)が生じたり、ポリイミド基板フィルムとキャリアフィルムとを分離することができなくなってしまうおそれがある。また、場合によっては、後に搬送体を分離することができなくなってしまう。
【0029】
この第1の熱処理については、使用する第1の溶液の種類によっても異なるが、第1の溶液がポリイミド樹脂溶液からなる場合、イミド化反応をする必要がなく、溶媒を揮発させればよいことから、好ましくは60℃〜300℃、より好ましくは150℃〜250℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、搬送体に塗工した第1の溶液の表面にタックフリー面を形成するのがよい。このとき、第1の熱処理で乾燥によりタックフリー状態となった第1の溶液は、好ましくは固形分濃度が95〜99.5質量%程度となるようにするのがよく、より好ましくは99〜99.5質量%であるのがよい。
【0030】
一方、第1の溶液がポリイミド前駆体からなる場合には、少なくとも、その表面がイミド化されていることが好ましい。その観点から、好ましくは100℃〜450℃、より好ましくは180℃〜360℃を最高温度とする第1の熱処理を行い、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層を形成するようにしてもよい。その際、好ましくは、ポリイミド前駆体を「ほぼ完全にイミド化」して第1ポリイミド硬化層を形成する。ここで「ほぼ完全にイミド化」とは、イミド化率が90%以上の状態をいう。その場合には、前記の乾燥によりタックフリー状態とするよりも高温で熱処理を行う必要がある。ほぼ完全にイミド化することで、ポリイミド基板フィルムとキャリアフィルムとがより分離し易くなる。その場合、300℃〜360℃を最高温度とすることが好ましい。なお、ポリイミド前駆体からなる第1の溶液には、にピリジン、無水酢酸、Nメチルイミダゾール等のいわゆる「イミド化触媒」を加えてイミド化してもよい。イミド化触媒を加えることで、比較的低温でもイミド化が進行し易くなる。
【0031】
「ほぼ完全にイミド化」した場合、第1の溶液の固形分濃度はほぼ100質量%となる。ただし、急速に熱処理を行うと、第1の溶液から急激に溶媒が揮発して、搬送体上に塗工した第1の溶液が発泡するなどの問題が生じるおそれがある。そのため、第1の熱処理においては、最高温度に到達する前に、比較的低温の状態から段階的に昇温するのが望ましい。その場合には、複数の炉から構成されて、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる設定とした連続熱処理装置を用いる方法が好ましく挙げられる。別な方法としては、予め熱処理装置で熱処理の最高温度が90℃〜180℃で乾燥(前熱処理)させた後、別の熱処理装置を通過させて上記の最高温度の範囲で熱処理(後熱処理)する方法が好ましく挙げられる。後者の場合、後熱処理温度は、前熱処理温度よりも高い温度で熱処理するようにする。
【0032】
また、搬送体上に第1の溶液を塗工する際には、公知の塗工方法を用いることができる。具体的には、ナイフコーター、ダイコーター、リップコーター等を挙げることができるが、密閉式であり、対応できる粘度範囲が広いという理由からリップコーターが好ましい。
【0033】
上記のようにして搬送体上に塗工された第1の溶液の表面に少なくともタックフリー面を形成した後、ポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液からなる第2の溶液を塗工して、第2の熱処理を行い、第1の溶液からなる第1ポリイミド硬化層と第2の溶液からなる第2ポリイミド硬化層とを形成する。この第2の熱処理では、塗工した第2の溶液の溶剤を乾燥させて一旦タックフリー状態にした上で、第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層とが形成されるようにしてもよい(第1の熱処理で第1ポリイミド硬化層が形成されている場合には、この第2の熱処理で第2ポリイミド硬化層が形成される)。このように一旦タックフリー状態にしてから第2のポリイミド硬化層(又は、第1及び第2のポリイミド硬化層)を形成することで、これらポリイミド硬化層の界面での剥離性をより高めることができる。
【0034】
この第2の熱処理について、第2の溶液をタックフリー状態にするための熱処理条件は、先の第1の熱処理において第1の溶液をタックフリー状態とする熱処理条件と同様である。また、第2のポリイミド硬化層(又は、第1及び第2のポリイミド硬化層)を形成する上で、第2の溶液がポリイミド前駆体からなる場合には、先の第1の熱処理において述べた「ほぼ完全にイミド化」する熱処理条件と同様であり、好ましくは、第2の熱処理における熱処理の最高温度が100℃〜450℃となるようにするのがよい。より好ましくは、180℃〜360℃であり、さらに好ましくは300℃〜360℃である。一方、第2の溶液がポリイミド樹脂溶液からなる場合には、好ましくは、熱処理の最高温度が150℃〜250℃となるようにするのがよい。
【0035】
このような第2の熱処理により、第1ポリイミド硬化層と第2ポリイミド硬化層とを備えると共に、搬送体の進行方向を長手方向として該搬送体から分離された長尺のポリイミド積層体を得ることができる。ここで、長尺のポリイミド積層体を得るにあたり、搬送体は第2の熱処理を行う前に分離されてもよく、或いは、第2の熱処理を行った後に分離されるようにしてもよい。
図1〜3には、長尺のポリイミド積層体を得るまでの様子が模式的に示されている。
図1は、ロール状に巻かれた長尺基材2を搬送体とする場合の一例であり、ここでは第2モーノポンプ6を用いて塗布した第2の溶液をリップコーター(図示外)により塗工し、第2の熱処理装置7により第2の熱処理を行った後に長尺基材2が分離される。また、
図2はエンドレスベルト11を搬送体とする場合の一例であり、
図3は金属ドラム12を搬送体とする場合の一例であり、いずれも第1モーノポンプ4を用いて塗布した第1の溶液をリップコーター(図示外)より塗工し、第1の熱処理装置5により第1の熱処理を行った後に搬送体(エンドレスベルト11、金属ドラム12)は分離される。このように第2の熱処理を行う前に搬送体を分離するためには、第1の熱処理により第1ポリイミド硬化層を形成しておくのが望ましく、第2の熱処理を行った後に搬送体が分離される場合を含めて、搬送体と第1ポリイミド硬化層との間の接着強度は1〜100N/mであるのがよく、好ましくは10〜50N/mであるのがよい。なお、第1の熱処理とは、第1の溶液を塗工して行うものを指し、第2の熱処理とは、第2の溶液を塗工してから行うものであり、これらはそれぞれ複数の熱処理を含むようにしてもよい。また、図中の矢印は搬送体等の進行方向を表す。
【0036】
長尺のポリイミド積層体を得るにあたっての好ましい形態としては、
図1に示したような、巻出しロール(巻出し部)1、リップコーター(図示外)、連続乾燥炉及び連続炉を備えた熱処理装置(第1熱処理装置5、第2熱処理装置7)、並びに、搬送体用及びポリイミド積層体用の巻取りロール(巻取り部)9,10を備えたロール・トゥ・ロール(RTR)方式の塗工乾燥硬化装置を使用するのがよい。すなわち、ロール状に巻かれた長尺基材2を巻出しロール(巻出し部)1に取り付け、それを巻き出しながら、モーノポンプ4及び6で塗布した第1及び第2の溶液をリップコーターで塗工し、それぞれ熱処理を行って長尺基材2上にポリイミド積層体8を形成する。そして、長尺基材2−ポリイミド積層体8の間を分離すると共に、長尺基材2及びポリイミド積層体8をそれぞれの巻取りロール(巻取り部)9及び10でロール状に巻き取るようにする。また、連続乾燥炉とは、2個以上の複数の乾燥炉が連結しているものであり、それぞれの乾燥炉の温度を個別に調整することができる。好ましい乾燥炉の設定温度は、巻出し部側の炉から巻取り部側の炉にかけて、段階的に高くなるように設定するのがよい。例えば、巻出し部側の炉を130℃とし、巻取り部側の炉を400℃として、巻出し部側の炉及び巻取り部側の炉を130℃乃至400℃のいずれかの温度とする。また、連続炉とは、2個以上の複数の炉が連結しているものであり、それぞれの炉の温度を個別に調整できる。好ましい炉の設定温度は、巻出し部側の炉から巻取り部側の炉にかけて、段階的に高くなるように設定するのがよい。例えば、巻出し部側の炉を130℃とし、巻取り部側の炉を400℃として、巻出し部側の炉及び巻取り部側の炉を130℃乃至400℃のいずれかの温度とする。
【0037】
また、搬送体上にポリイミド積層体を形成した後、塗工乾燥硬化装置内で、搬送体−ポリイミド積層体間を剥離し、長尺基材用の巻取り部において長尺基材がロール状に巻き取られ、ポリイミド積層体用の巻取り部においてポリイミド積層体がロール状に巻き取られる。このような方式であれば、巻き取ったポリイミド積層体を搬送して、機能層を形成する後工程での作業効率を高めることができる。また、巻き取った搬送体を処分又は再利用する際の作業効率もよい。或いは、長尺基材上にポリイミド積層体を形成した後、一旦、これらが積層された状態のまま長尺基材及びポリイミド積層体を別途巻取り部でロール状に巻き取り、巻出し部、並びに長尺基材用及びポリイミド積層体用の巻取り部を備えたRTR方式の剥離装置を使用してこれらを巻き出し、長尺基材−ポリイミド積層体間を剥離した後、長尺基材用の巻取り部において長尺基材をロール状に巻き取り、ポリイミド積層体用の巻取り部においてポリイミド積層体をロール状に巻き取るようにしてもよい。
【0038】
上記のようにして得られたポリイミド積層体は、第1及び第2のポリイミド硬化層のうち一方をポリイミド基板フィルムとし、他方をキャリアフィルムとして、後の工程においてポリイミド基板フィルム上に機能層を形成し、キャリアフィルムを分離して、機能層を備えたポリイミド基板フィルムとする。すなわち、キャリアフィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、ポリイミド基板フィルムが第2ポリイミド硬化層からなるようにしてもよく、ポリイミド基板フィルムが第1ポリイミド硬化層からなり、キャリアフィルムが第2ポリイミド硬化層からなるようにしてもよい。好ましくは、ポリイミド基板フィルムの表面平滑性が搬送体の表面平滑性に影響されないようにする観点から、前者の場合(キャリアフィルムが第1ポリイミド硬化層、ポリイミド基板フィルムが第2ポリイミド硬化層)であるのがよい。
【0039】
ポリイミド基板フィルムの厚さについては、ポリイミド基板としての強度を保ち、かつ、薄型のフレキシブルデバイスが作製可能になる点から1〜50μmであるのがよく、好ましくは1〜20μmであり、より好ましくは1〜15μmであるのがよい。ポリイミド基板フィルムの厚さが50μmを超えると、薄型のフレキシブルデバイスを作製する場合にその目的から外れてしまうこともあり、反対に1μm未満であると、フレキシブルデバイスの強度が不十分になる傾向にある。また、キャリアフィルムの厚さについては、機能層を形成する際の加工性担保等の観点から、好ましくは30〜200μmであるのがよい。厚さが200μmを超えると巻取りが困難になる傾向にあり、反対に30μm未満であると加工が困難になるおそれがある。これらの厚みになるように、塗工する第1及び第2の溶液を調整すればよい。
【0040】
また、キャリアフィルムとポリイミド基板フィルムとの層間の接着強度については、機能層の形成時にこれらの層間が剥離せず、かつ、機能層を形成した後にキャリアフィルムを分離する際に、これらの層間の剥離が可能であればよく、好ましくは、これらの層間の接着強度が1〜20N/mであるのがよく、より好ましくは1.5〜15N/mであるのがよい。
【0041】
本発明においては、キャリアフィルムを形成するための第1の溶液を搬送体に塗工して、少なくともタックフリー面を形成した後に、ポリイミド基板フィルムを形成する第2の溶液の塗工を2回以上行って、複数のポリイミド層を有するポリイミド基板フィルムを形成するようにしてもよい。その際、第2の溶液を塗工するたびに60℃〜300℃で熱処理を行うようにして第2の熱処理を複数回に分けて、最後にこれらをイミド化させるようにしてもよく、或いは、第2の溶液の塗工を複数回に分けて行い、60℃〜300℃で熱処理を行って塗工表面をタックフリー状態にしてから最後にイミド化させるようにしてもよい。前者の場合には、ポリイミド基板フィルムをそれぞれのポリイミド層で個別に分離することが可能になり、後者の場合には、特性の異なる複数のポリイミド層を有したポリイミド基板フィルムとすることができる。
【0042】
また、キャリアフィルムを形成するための第1の溶液を搬送体に塗工する際に、第1の溶液の塗工を2回以上行って、複数のポリイミド層を有するキャリアフィルムを形成するようにしてもよい。その場合、第1の溶液を塗工するたびに第1の熱処理を行ってタックフリー状態となるようにしてもよく、或いは、第1の溶液の塗工を複数回に分けて行い、まとめて第1の熱処理を行って最表面にタックフリー面を形成するようにしてもよい。前者の場合には、前記複数のポリイミド層の各特性を層毎に個別に付与しやすく、後者の場合には、前記各特性を各層に一体的に付与しやすい。また、生産効率も高い。
【0043】
ところで、本発明の機能層付きポリイミド基板フィルムを用いてボトムエミッション方式の有機EL表示装置のようなフレキシブルデバイスを製造する場合には、JIS J 7375:2008に定める全光透過率が80%以上であるのがよく、好ましくは85%以上であるのがよい。同様に、フレキシブルデバイスがタッチパネルである場合には、ディスプレイの視認性が必要であることなどを考慮すると、好ましくは、20μm厚におけるポリイミド基板フィルムの全光透過率が90%以上であるのがよい。
【0044】
また、ポリイミド基板フィルムの熱膨張係数(CTE)とキャリアフィルムのCTEとの差(△CTE)については、好ましくは−25ppm/K〜25ppm/Kであるのがよい。より好ましくは−10ppm/K〜10ppm/Kである。CTEの差がこれらの範囲であれば、ポリイミド積層体を得るにあたって、搬送体とポリイミド積層体との間での層間剥離や反りを好適に抑えることができ、また、ポリイミド基板フィルム上に機能層を形成した際にも層間剥離や反りを好適に抑えることができる。
【0045】
また、キャリアフィルムとの界面を形成するポリイミド基板フィルムの表面は、好ましくは算術平均粗さ(Ra)が0nm〜5nmであるのがよく、より好ましくは0.3〜3nm、さらに好ましくは0.3〜2nmであるのがよい。本発明においては、キャリアフィルム及びポリイミド基板フィルムを構成する第1及び第2のポリイミド硬化層が、いずれもキャスト法により形成されることから、これらの界面の平坦性を確保することができる。そして、キャリアフィルムとの界面を形成するポリイミド基板フィルムの表面粗さがこれらの範囲であれば、ポリイミド積層体を得る際や機能層を形成する際にポリイミド基板フィルムが剥離してしまうおそれがなく、また、キャリアフィルムを分離する際にポリイミド基板フィルムや機能層に損傷を与えるようなおそれを確実に排除することができる。
【0046】
同様に、ポリイミド基板フィルムとの界面を形成するキャリアフィルムの表面についても、好ましくは算術平均粗さ(Ra)が0nm〜5nmであるのがよく、より好ましくは0.3〜3nm、さらに好ましくは0.3〜2nmであるのがよい。また、第1の溶液を塗工する搬送体の表面については、好ましくは算術平均粗さ(Ra)が0〜3.5nmであるのがよく、より好ましくは0.3〜3nm、さらに好ましくは0.3〜2nmであるのがよい。第1の溶液を塗工する搬送体の表面粗さがこれらの範囲であれば、ポリイミド積層体を得るにあたって不慮に剥離してしまったり、或いはポリイミド積層体から搬送体を分離する際に損傷を与えたりするおそれを確実に排除することができる。なお、算術平均粗さ(Ra)は、JIS B0601:2013に規定された条件において、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定された測定値から算出されるものである。
【0047】
本発明において、キャリアフィルムを形成するポリイミドについては特に制限されないが、安価であり、入手しやすいという観点から、好ましくは、酸無水物化合物として無水ピロメリット酸(PMDA)、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、又は3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)のいずれか1種以上を用い、ジアミン化合物として4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(4,4'-DAPE)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m-TB)、又は2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)のいずれか1種以上を用いて反応させたポリイミドであるのがよい。なかでも好ましくは、酸無水化合物がPMDAであり、ジアミン化合物が4,4'−DAPEである。
【0048】
本発明において、キャリアフィルムは、ポリイミド基板フィルム側に機能層を形成する際の台座の役割をするものであり、機能層の製造過程でポリイミド基板フィルムの取り扱い性や寸法安定性等を担保することはあっても、フレキシブルデバイスを製造した後には除去されるものである。そのため、仮に透明性に劣るものであっても何ら構わない。本発明のようなポリイミド積層体を利用することにより、所定の機能層をポリイミド基板フィルム上に精度良くかつ確実に形成することができると共に、薄型・軽量・フレキシブル化を実現したフレキシブルデバイスを得ることができる。すなわち、キャリアフィルムを分離して取り除くのは、各種プロセス処理を経て機能層を形成した直後でもよく、ある程度の期間でポリイミド基板フィルムと一体にしておき、他のデバイス用部材と貼り合わせた後に分離して取り除くようにしてもよい。なお、デバイス用部材としては、例えば、ガラス、プラスチック板、フィルム、回路基板、筐体が挙げられる。
【0049】
一方、ポリイミド基板フィルムを形成するポリイミドについては、機能層を設けるポリイミド基板フィルムとして耐熱性や透明性を考慮すれば、好ましくは、酸無水物化合物として4,4'−オキシジフタル酸無水物(ODPA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸2無水物(CBDA)、1,2,3,4−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物(CHDA)、又は2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)のいずれか1種以上を用い、ジアミン化合物として4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(m-TB)、又は4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン(4,46F)のいずれか1種以上を用いて、反応させたポリイミドである。なかでも好ましくは、酸無水物化合物が6FDA、PMDA、又はCBDAのいずれか1種以上であり、また、ジアミン化合物がTFMB、又は4,46Fのいずれか1種以上である。
【0050】
また、第1及び第2の溶液を構成するポリイミド前駆体又はポリイミド樹脂溶液の溶媒としては、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルスルフォキサイド(DMSO)、硫酸ジメチル、スルフォラン、ブチロラクトン、クレゾール、フェノール、ハロゲン化フェノール、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム系、トリグライム系、カーボネート系(ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートほか)などが挙げられる。
【0051】
また、前記ポリイミド前駆体溶液又はポリイミド溶液には、必要に応じて離型剤が含まれていてもよい。また、触媒、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0052】
ポリイミド基板フィルム上に形成する機能層としては、公知のフレキシブルデバイスの機能を担保する素子を適用することができ、例えば、有機EL・TFT、光電変換素子、電子ペーパー駆動素子、カラーフィルター、タッチパネル、光電変換装置等を挙げることができる。一例として、フレキシブルデバイスとして有機ELディスプレイを製造する場合、機能層としては、画像駆動のためのTFTが挙げられる。TFTの材質としては、シリコン半導体又は酸化物半導体である。従来技術であるフレキシブル基板を用いない場合は、板ガラス等の硬質支持体上に無機系成分によるバリア層を設け、その上にTFTを形成する。この形成時に、高温処理(300℃台〜400℃台)が必要となるが、ポリイミドであればこの高温処理に耐えることができる。また、フレキシブルデバイスとしてタッチパネルを製造する場合、機能層としては、透明導電膜、メタルメッシュ等の電極層が挙げられる。透明導電膜の一例としては、ITO(tin-doped indium oxide)、SnO、ZnO、IZOが挙げられる。これらの電極層の形成時に、200℃以上で熱処理を行うことで抵抗値の小さな導電層とすることができるが、ポリイミドであればこの高温処理に耐えることができる。なお、タッチパネルに限らず、機能層として透明導電膜を使用する場合、「透明導電層」ともいう。
【0053】
ポリイミド積層体のポリイミド基板フィルム上に機能層を形成するにあたって好ましい形態としては、前述したように、長尺のポリイミド積層体を巻取りロールに一旦巻き取った上で、このポリイミド積層体を巻き出しながらポリイミド基板フィルム上に機能層を連続的に形成するのがよい。また、巻き取ったポリイミド積層体を巻き出しながら所定の長さでシート状に切り出して、シート状のポリイミド積層体ごとにポリイミド基板フィルム上に機能層を形成するようにしてもよい。
【0054】
ポリイミド基板フィルム上に機能層を形成した後には、ポリイミド積層体のキャリアフィルムを分離して、機能層を備えたポリイミド基板フィルムを得るようにする。ここで、キャリアフィルムを分離する方法としては特に制限はなく、公知の方法を使用することができる。その際、例えば、剥離端緒部を形成するためのピンセット等の端緒摘まみ道具や吸引プレート、剥離端緒部形成後の剥離部にあてがうエア吹付け等の機械的手段によりキャリアフィルムを剥離するようにしてもよい。例えば、キャリアフィルムの端部をピンセットで摘まんでキャリアフィルムを剥離し、この剥離部分を起点にして、他の道具(ピンセット、スティック、ブレード、シート等)を用いて、機能層を備えたポリイミド基板フィルムを完全に分離させるようにする。或いは、上記ピンセットの代わりに、針状、カギヅメ状、昆虫足状の道具を用いて、キャリアフィルム−機能層付ポリイミド基板フィルムの界面にこれらの道具を差し込んで、キャリアフィルムの端部を剥離したり、機能層付ポリイミド基板フィルムを吸引プレートで吸引してキャリアフィルムを剥離するようにしたりしてもよい。このように吸引プレートを用いる方法は、剥離と同時に機能層付きポリイミド基板フィルムを安定的に把持・搬送できる点で、好ましい方法であると言える。この吸引プレートは、平面状であってもよく、半円等のような曲面形状をしていてもよい。更には、上記のようないずれかの方法でキャリアフィルムの端部を剥離した後に、吸引プレート又は圧縮エアを吹き付けてキャリアフィルムを剥離するようにしてもよい。
【0055】
ここで、本発明における長尺のポリイミド積層体を用いて、タッチパネルを製造する場合を例にして説明する。この例では、
図4に示したようなRTR方式の連続製造装置を使用し、この連続製造装置は、ロール状に巻き取られた長尺のポリイミド積層体8を巻き出すための巻出しロール(巻出し部)13、搬送ロール(ガイドロール)14、プロセス処理部15、巻取りロール(巻取り部)17を備えている。巻き出しロール13から巻き出されたポリイミド積層体8は、シワや巻きズレを防止するための搬送ロール14を経て、プロセス処理部15において、ポリイミド積層体のポリイミド基板フィルム側の表面に、機能層としてITOを100℃〜400℃で蒸着して、ポリイミド積層体上に機能層(ITO)を形成する。その後、搬送ロール14を経て、機能層を備えたポリイミド積層体16を巻取りロール17でロール状に巻き取るようにする。
【0056】
プロセス処理部15によりITOを蒸着するかわりに、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の樹脂フィルム支持体上にITOを設けて、このITO面をポリイミド積層体におけるポリイミド基板フィルムの表面に密着させ、その後樹脂フィルム支持体を剥離して、ポリイミド積層体上にITOを形成するようにしてもよい。
【0057】
次に、ロール状に巻き取られた機能層付きのポリイミド積層体16を巻き出しながら、所定の長さでシート状に切り出す。シートの大きさは、製造するタッチパネルの大きさに合わせて任意に決定することができる。切り出されたシート状の機能層付きポリイミド積層体におけるITOをエッチングにより、タッチパネルとして使用する回路の形状に加工する。エッチングは、公知の方法を使用できる。例えば、ITOの表面に液状又はフィルム状のフォトレジスト(ネガ型でもポジ型でもよい)を積層する。液状のフォトレジストの場合、積層後、熱処理により溶剤を揮発させ、乾燥させてもよい。そして、フォトレジスト上に回路状にパターニングされた公知のフォトマスクを積層し、公知の露光機で露光し、公知の現像液で現像する。現像液は、使用するフォトレジストによりアルカリ水溶液、有機溶剤等から適宜選択できる。現像により、ITOの表面にはタッチパネルとして使用する回路の形状に合ったフォトレジストが残る。そして、エッチング液を接触させて、フォトレジストが積層されていない部分のITOを除去する。エッチング液は公知のものを使用することができ、例えば塩化鉄系や塩化銅系のものが挙げられる。そして、残存するフォトレジストを剥離して水洗する。更には、ピンセット等を使用してキャリアフィルムを剥離し、タッチパネルとして使用されるITO付きポリイミド基板フィルムを得るようにする。
【0058】
また、
図4に示したような連続製造装置のプロセス処理部15において、ポリイミド積層体上にITOを形成した後、エッチングによりタッチパネルとして使用する回路の形状に加工してから、機能層付きのポリイミド積層体を巻取りロール17で巻き取るようにし、その後、上記と同様に、製造するタッチパネルの大きさに合わせて任意の大きさでシート状に切り出し、更にキャリアフィルムを剥離して、タッチパネルとして使用するITO付きポリイミド基板フィルムを得るようにしてもよい。
【0059】
また、本発明における長尺のポリイミド積層体を用いて、タッチパネルを製造する別の形態として、ITOのかわりに、銀又は銅のナノワイヤー(以下、「ナノワイヤー」という。)を公知の紫外光硬化型接着剤を用いて積層して、機能層を形成することもできる。その場合、上記RTR方式の連続製造装置のプロセス処理部15において、ポリイミド積層体のポリイミド基板フィルム側の表面に紫外硬化型樹脂を塗布し、乾燥させ、ナノワイヤーを回路の形状に積層する。積層する際、回路の形状に溝を設け、その溝にナノワイヤーを設けるようにしてもよい。そして、紫外光を照射して紫外光硬化型接着剤を硬化させてナノワイヤーをポリイミド積層体に接着して、機能層を備えたポリイミド積層体16を巻取りロール17でロール状に巻き取るようにする。次いで、この機能層付きのポリイミド積層体16を巻き出しながら、先の製造例の場合と同様に任意の長さでシート状に切り出し、キャリアフィルムを剥離して、タッチパネルとして使用されるナノワイヤー付きポリイミド基板フィルムを得るようにする。その際、ナノワイヤーの端面を研磨等で平滑に処理するようにしてもよい。
【0060】
また、本発明においては、長尺のポリイミド積層体について、製造するタッチパネル等のフレキシブルデバイスの大きさに合せて予めシート状に切り出しておき、このシート状のポリイミド積層体上にITOを形成した後、エッチングによりタッチパネルとして使用する回路の形状に加工し、更に、キャリアフィルムを剥離して、タッチパネル等として使用するITO付ポリイミド基板フィルムを得るようにしてもよい。
【0061】
一方、本発明における長尺のポリイミド積層体を用いて、カバーレイフィルムを製造する場合を例として説明すると、以下のとおりである。タッチパネルを製造する場合と同様に、
図4に示したようなRTR方式の連続製造装置を使用して、ポリイミド積層体8を巻き出しロール13から巻き出し、搬送ロール14を経て、プロセス処理部15においてポリイミド積層体のポリイミド基板フィルム側の表面に、機能層として接着層を形成する。接着層の形成方法としては、例えば、リップコーター等の塗工装置を用いて、接着層の原料となる、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、シリコン樹脂等の公知の樹脂材料、又は、溶剤系粘着剤、エマルジョン系粘着剤、ホットメルト系粘着剤、ゴム系粘着剤等の公知の粘着剤(感圧接着剤)を塗布し、乾燥させる。そして、巻取りロール17で接着層付きのポリイミド積層体をロール状に巻き取った後、製造するカバーレイフィルムの大きさに合わせて任意の大きさでシート状に切り出し、キャリアフィルムを剥離して、カバーレイフィルムとして使用する接着層付きのポリイミド基板フィルムを得るようにする。なお、上記の接着層として、前記粘着剤を用いた場合、前記接着剤層を「粘着剤層」ともいう。本発明の機能層として前記粘着剤層を用いた場合は、上述のタッチパネルを製造する場合において、ポリイミド積層体上にITOを形成した後、さらにその上にカバー層を積層する際に、前記カバー層を接着させるためにも使用できる。
【0062】
本発明では、この接着層を備えたポリイミド基板フィルムのような機能層付きポリイミド基板フィルムを得るにあたり、上記のようなRTR方式の連続製造装置において、キャリアフィルムを巻き取るための巻取りロールを別途設けて、長尺の機能層付きポリイミド基板フィルムを巻き取るようにしてもよい。すなわち、プロセス処理部においてポリイミド積層体上に機能層を形成した後、このRTR方式の連続製造装置内でキャリアフィルムを剥離して、キャリアフィルム用の巻取りロール(図示外)で巻き取り、また、巻取りロール17では機能層付きポリイミド基板フィルムを巻き取るようにする。巻き取った機能層付きポリイミド基板フィルムは、必要に応じてフレキシブルデバイスの大きさに合せてシート状に切り出して使用してもよい。
【0063】
更に、本発明における長尺のポリイミド積層体を用いて、有機ELディスプレイを製造するような場合には、例えば、予めポリイミド積層体を製造する有機ELディスプレイの大きさに合わせてシート状に切り出して、このシート状のポリイミド積層体のキャリアフィルム側の面にガラスシートを積層する。そして、ポリイミド基板フィルム側の面に、機能層としてTFT、電極層、発光層、電極層を順次形成し、これらの機能層をガラス基板や多層薄膜等で気密封止し、ガラスシート及びキャリアフィルムを剥離して、有機ELディスプレイとして使用できる機能層付きポリイミド基板フィルムを得るようにする。ちなみに、TFTを形成する際の形成温度は300〜500℃である。
【0064】
また、本発明における長尺のポリイミド積層体を用いて、液晶表示装置を製造する場合は、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂等をベース樹脂とした、公知のカラーフィルター用レジストインキを、カラーフィルターレジスト層として搭載してもよい。
【0065】
また、本発明の長尺ポリイミド積層体を用いて上記の各種フレキシブルデバイスを製造する場合、各特性を向上させるために、以下の機能層を搭載してもよい。すなわち、ポリイミド基板フィルムの耐摩擦性を向上させるために、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、シリコン樹脂、シラン化合物、金属酸化物等の公知の化合物をハードコート層として搭載してもよい。また、ポリイミド基板フィルムの酸素や水蒸気の透過を抑制するために、アルミナ、シリカ等の公知のガスバリア層を搭載してもよい。また、ポリイミド基板フィルムの光学特性、寸法安定性等を制御するために、環状オレフィン樹脂、エステル樹脂等の公知の透明樹脂を透明樹脂層として搭載してもよい。
【0066】
また、上述の各機能層に加え、フレキシブルデバイス間、フレキシブルデバイス−出力装置間又はフレキシブルデバイス−入力装置間における、電子信号の授受等のため、銅、銀、金、チタン、タングステン、ITO等の公知の配線材料を、配線層として搭載してもよい。
【0067】
上記で説明したように、本発明によって得られる機能層付きのポリイミド基板フィルムは、平滑性に優れると共に異物の混入が少ない。そして、厚みが薄く、光透過性にも優れることから、例えば、有機EL等のフレキシブルディスプレイをはじめとして、タッチパネル、電子ペーパー、太陽電池等の各種フレキシブルデバイスのほか、更には蒸着マスク、ファンアウトウェハーレベルパッケージ(FOWLP)用基板等を得る上で極めて好適である。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。
【0069】
<1.各種物性測定および性能試験方法>
〔剥離強度の測定〕
搬送体−キャリアフィルム間の剥離強度、及び、キャリアフィルム−ポリイミド基板フィルム間の剥離強度は、これらの積層体を幅が1mm〜10mm、長さが10mm〜25mmの短冊状に加工し、東洋精機株式会社製引張試験機(ストログラフ−M1)を用いて、キャリアフィルムを180°方向に引き剥がし、剥離強度を測定した。なお、剥離強度が強固であり、剥離が困難であるものは「剥離不可」とした。
【0070】
〔透過率〕
ポリイミド基板フィルムを5cm角に切り出し、これを日本電色工業製のHAZE METER NDH−5000を用いて、全光透過率の測定を行った。
【0071】
〔表面粗さRa〕
搬送体、キャリアフィルム、及びポリイミド基板フィルムの表面粗さRaについては、それぞれを3cm角に切り出し、これをブルカー・エイエックスエス製のAFMを用いて、表面粗さRa(JIS B0601:2013)の測定を行った。
【0072】
〔CTE〕
搬送体、キャリアフィルム、及びポリイミド基板フィルムのCTEは、それぞれを3mm×15mm角に切り出し、これをセイコーインスツルメント製の熱機械分析(TMA)装置にて、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度10℃/min)で30℃から260℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するボリイミドフィルムの伸び量からCTE(×10
−6/K)を測定した。
【0073】
<2.ポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成>
以下の合成例や実施例及び比較例において取扱われるポリアミド酸(ポリイミド前駆体)溶液の合成に用いた原料、芳香族ジアミノ化合物、芳香族テトラカルボン酸の酸無水物及び溶剤を以下に示す。
【0074】
〔芳香族ジアミノ化合物〕
・4,4’−ジアミノ−2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)
・4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(4,4'−DAPE)
〔芳香族テトラカルボン酸の酸無水物〕
・無水ピロメリット酸(PMDA)
・2,2−ビス(3,4−アンヒドロジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(6FDA)
〔溶剤〕
・N,N―ジメチルアセトアミド(DMAc)
【0075】
(合成例1)
窒素気流下で、TFMB(9.4g)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc127.5g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、6FDA(13.09g、)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Aワニスを得た。なお、このポリアミド酸Aワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂A(CTE:70ppm/K)が得られる。
【0076】
(合成例2)
窒素気流下で、4,4'−DAPE(10.753g、)を300mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAc170g中に加え加温し、50℃で溶解させた。次いで、PMDA(11.747g)を加えた。その後、溶液を室温で3時間攪拌を続けて重合反応を行い、200gの淡白色の粘稠なポリアミド酸Bワニスを得た。なお、このポリアミド酸Bワニスを後述の加熱条件で硬化することによりポリイミド樹脂B(CTE:69ppm/K)が得られる。
【0077】
<3.塗工によるPI層の形成>
以下の実施例及び比較例において取扱われる各材料を以下に示す。
・長尺基材(搬送体)
ポリイミドフィルム(宇部興産株式会社製 ユーピレックスS)、厚み0.75mm、CTE:18ppm/K。
ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製 カプトン300H)、厚み75μm、CTE:27ppm/K。
【0078】
(実施例1)
ロール状に巻き取られた清浄な前記ユーピレックスS(幅508mm×長さ1100m×厚さ0.75mm)を長尺基材2として、
図1に示したような巻出し部1と、リップコーター(図示外)と、連続乾燥炉及び連続炉を備えた熱処理装置(第1熱処理装置5、第2熱処理装置7)と、搬送体用及びポリイミド積層体用の巻取り部9、10を備えたロール・トゥ・ロール方式の塗工乾燥硬化装置で8m/minの速度で巻出しながら、モーノポンプ4から塗布したポリアミド酸Bワニスを膜厚が500μmになるように塗工した。これを複数の炉から構成される連続乾燥炉(第1熱処理装置5)を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥し、更に、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉(第1熱処理装置5)を通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計20分間段階的に加熱してポリイミド(ポリイミド硬化層)Bを形成した。
【0079】
次に、ポリアミド酸Aワニスをモーノポンプ6から塗布して、ポリイミドBの上にポリアミド酸Aワニスを膜厚が150μmとなるように塗工し、複数の炉から構成される連続乾燥炉(第2熱処理装置7)を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥して、更に、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉(第2熱処理装置7)を通過させて、130℃から段階的に400℃まで、合計10分間段階的に加熱してポリイミド(ポリイミド硬化層)Aを形成した。そして、長尺基材2であるユーピレックスSを引き剥がしながら、ポリイミドBとポリイミドAとの積層体8を巻取り部10で巻き取り、実施例1に係るロール状のポリイミド積層体を得た。
【0080】
得られたポリイミド積層体8の各層の厚さは、ポリイミドBが50μm、ポリイミドAが15μmであった。また、ユーピレックスS(長尺基材)−ポリイミドBの間の剥離強度は0.12N/mであり、ポリイミドB−ポリイミドAの間の剥離強度は0.10N/mでありいずれも容易に引き剥がすことが可能であった。一方で、それぞれの界面における引き剥がした後のポリイミドAの表面粗さRaは1.0nmであり、ポリイミドBの表面粗さRaは1.0nmであり、ユーピレックスSの表面粗さRaは1.15nmであった。更にまた、ポリイミドAの光透過率は91%であった。
【0081】
次に、上記で得られたロール状のポリイミド積層体8について、
図4に示したような巻出し部13、搬送ロール14、プロセス処理部15、及び巻き取り部17を備えたロール・トゥ・ロール方式の連続製造装置を用いて、以下のようにして機能層を形成した。すなわち、ポリイミド積層体8が5m/minの速度で搬送されるようにして、ポリイミド基板フィルムとなるポリイミドA面が上になるように長手方向に巻き出しながら、搬送ロール14を経由して真空チャンバー内に設置されたプロセス処理部15に導入させ、プロセス処理部15でポリイミドA面にスパッタリング法により厚さ50nmのITOを連続処理により成膜した。そして、ITOを備えた機能層付きのポリイミド積層体16を巻き取り部17でロール状に巻き取った。
【0082】
上記で得られた機能層付きポリイミド積層体16について、これを巻き出しながら370mm×450mmのシート状にカットし、製膜したITOについて、XYの透明回路加工を行った。その際、Y回路とX回路との交点は回路を形成しなかった。
【0083】
次いで、Y回路とX回路との交点にオーバーコートを塗布して250℃で熱処理してオーバーコート層を硬化させ、銀ペーストを用いて、このオーバーコート層をまたいでブリッジ加工を行ってXY回路を完成させ、更に、ITO製膜側の全面に再度オーバーコートを塗布し、270℃でアニール処理を行い、このオーバーコート層の硬化とITOの結晶化を行った。
【0084】
次いで、再度塗布したオーバーコート層の表面にOCA(Optically Clear Adhesive Tape、3M社製8146-2)を貼り付け、更にその上にカバーガラスを貼り付けた。その後、キャリアフィルムとしたポリイミドBを機械的に剥離し、フレキシブル性を有するタッチパネル基板を完成させた。
【0085】
(比較例1)
ロール状に巻き取られた清浄な前記カプトン300H(幅520mm×長さ1100m×厚さ75μm、表面粗さRa=4.0nm)を
図1に示したロール・トゥ・ロール方式の塗工乾燥硬化装置により8m/minの速度で巻き出しながら、モーノポンプ4からポリアミド酸Aワニスを塗布して膜厚が150μmになるように塗工し、複数の炉から構成される連続乾燥炉を通過させて90℃で2分間、130℃で1分間乾燥させ、更に、複数の炉から構成され、試料入口側の炉から出口側の炉にかけて段階的に温度が高くなる連続炉に通過させて、130℃から段階的に400℃まで合計10分間段階的に加熱し、厚みが15μmのポリイミドAを形成した。そして、カプトン300HとポリイミドAとの積層体を巻き取り、比較例1に係るロール状のポリイミド積層体を得た。
【0086】
ここで、得られたロール状のポリイミド積層体は、カプトン300HからポリイミドAを引き剥がすことができなかったため、機能層の形成は実施しなかった。なお、ポリイミドAの露出する面の表面粗さRaは1.0nmであった。