【解決手段】(A)ポリアリーレンサルファイドサルファイド樹脂と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上の、算術平均粒子径が10〜15nmの(C)カーボンブラックと、を含む、樹脂組成物。
前記(C)カーボンブラックの含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2〜6質量部である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
さらに、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して3〜35質量部の(D)エラストマーを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、(C)カーボンブラックと、を含有する樹脂組成物において、前記(C)カーボンブラックとして算術平均粒子径が10〜15nmのカーボンブラックを、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上用いることにより、前記樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制する方法。
前記(C)カーボンブラックの含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2〜6質量部である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
前記樹脂組成物が、さらに、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して3〜35質量部の(D)エラストマーを含む、請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PAS樹脂に限ることではないが、射出成形により成形品を作製する場合、成形品にウェルド部(流動する樹脂の合流部に発生する溝)が生じると、その部分の機械的強度がそれ以外の部分(非ウェルド部)よりも劣り、割れ等が発生しやすいことが知られている。特に、ウェルド部は、高温と低温とに交互に晒される場合の耐久性、いわゆる耐ヒートショック性(耐高低温衝撃性)に劣る。また、金属を樹脂にインサートするインサート成形においては、形状にもよるが、金型内においてインサートする金属を回避するように樹脂が流れる場合、樹脂同士の合流部が存在する場合が多くウェルド部が生じやすい。
このため、温度変化のある環境下においても割れにくい性質(優れた耐ヒートショック性)を有する材料が求められている。
【0007】
一方、充填材を高濃度で含むPAS樹脂含有組成物にカーボンブラックを添加すると、耐ヒートショック性の指標となると考えられる曲げ破断ひずみ特性などの性能が低下する場合があることが新たに判明した。
【0008】
そこで、本発明の実施形態は、PAS樹脂、PAS樹脂100質量部に対して65〜300重量%という高い濃度の充填剤、及びカーボンブラックを含む樹脂組成物であって、黒色色調を有し、かつ、曲げ破断ひずみ特性などの性能の低下が抑制された樹脂組成物を提供すること、及び、樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態は、下記の樹脂組成物に関する。
【0010】
(1)(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、
前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、
前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上の、算術平均粒子径が10〜15nmの(C)カーボンブラックと、を含む、
樹脂組成物。
【0011】
(2)前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む、(1)に記載の樹脂組成物。
【0012】
(3)前記(C)カーボンブラックの算術平均粒子径が13〜15nmである、(1)又は(2)に記載の樹脂組成物。
【0013】
(4)前記(C)カーボンブラックの含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2〜6質量部である、(1)〜(3)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0014】
(5)前記(B)充填剤が(B−1)ガラス繊維を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0015】
(6)前記(B−1)ガラス繊維の含有量が、前記(B)充填剤全量に対して50質量%以上である、(5)に記載の樹脂組成物。
【0016】
(7)前記(C)カーボンブラックの揮発成分が7質量%以下である、(1)〜(6)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0017】
(8)さらに、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して3〜35質量部の(D)エラストマーを含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の樹脂組成物。
【0018】
本発明の別の実施形態は、下記の方法に関する。
(9)(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、(C)カーボンブラックと、を含有する樹脂組成物において、前記(C)カーボンブラックとして算術平均粒子径が10〜15nmのカーボンブラックを、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上用いることにより、前記樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制する方法。
【0019】
(10)前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂が、ポリフェニレンサルファイド樹脂を含む、(9)に記載の方法。
【0020】
(11)前記(C)カーボンブラックの算術平均粒子径が10〜13nmである、(9)又は(10)に記載の方法。
【0021】
(12)前記(C)カーボンブラックの含有量が、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2〜6質量部である、(9)〜(11)のいずれかに記載の方法。
【0022】
(13)前記(B)充填剤が(B−1)ガラス繊維を含む、(9)〜(12)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(14)前記(B−1)ガラス繊維の含有量が、前記(B)充填剤全量%に対して50質量%以上である、(13)に記載の方法。
【0024】
(15)前記(C)カーボンブラックの揮発成分が7質量%以下である、(9)〜(14)のいずれかに記載の方法。
【0025】
(16)前記樹脂組成物が、さらに、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して3〜35質量部の(D)エラストマーを含む、(9)〜(15)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の実施形態によれば、PAS樹脂、PAS樹脂100質量部に対して65〜300重量%という高い濃度の充填剤、及びカーボンブラックを含む樹脂組成物において、特定のカーボンブラックを選択したことにより、曲げ破断ひずみ特性などの性能の低下が抑制され、かつ、黒色色調を与えることができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
本明細書において、組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する複数の物質の合計量を意味する。
【0028】
≪樹脂組成物≫
本発明の実施形態の樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上の、算術平均粒子径が10〜15nmの(C)カーボンブラックと、を含む。
上記の樹脂組成物を用いることによって、曲げ破断ひずみ(Fγ)などの特性の低下が抑制され、かつ、黒色色調を有する成形体を得ることができる。
また、上記の樹脂組成物を用いて得られた成形体は、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料、水回り機器部品等に用いることができ、とくに、パワーモジュールや自動車・車両関連のエンジン周りの部品等に好ましく用いることができる。また、上記樹脂組成物は、インサート成形にも好ましく用いることができる。
【0029】
<(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂>
本発明に用いられるポリアリーレンサルファイド樹脂は、繰り返し単位−(Ar−S)−(なお、「Ar」はアリーレン基を示す)を主な構成成分とする。本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
【0030】
アリーレン基としては、特に限定されないが、例えば、p−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。
PAS樹脂は、一種の繰返し単位のみからなるホモポリマーでもよいし、複数種の繰返し単位を含んだコポリマーであってもよい。
【0031】
ホモポリマーとしては、例えば、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましく用いられる。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらには高い寸法安定性を示す。
【0032】
コポリマーとしては、上述したアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で、アリーレン基が相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせを使用することができる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的等の物性上の点から好ましい。また、p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上の割合で含むポリマーがより好ましく、80mol%以上の割合で含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂は、PPS樹脂である。
【0033】
PAS樹脂は、従来公知の重合方法により製造することができる。一般的な重合方法により製造されたPAS樹脂は、通常、副生不純物等を除去するために、水あるいはアセトンを用いて数回洗浄した後、酢酸、塩化アンモニウム等で洗浄する。その結果として、PAS樹脂末端には、カルボキシル末端基を所定量の割合で含む。
【0034】
本発明に用いるPAS樹脂の重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、15000以上40000以下であることが好ましく、20000以上38000以下であることがさらに好ましい。このような範囲であることにより、機械的物性と流動性とをより優れたバランスで有する樹脂組成物となる。なお、この重量平均分子量(Mw)は、高温ゲル浸透クロマトグラフ法(測定装置;センシュー科学「SSC−7000」、UV検出器(検出波長:360nm))を行い、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した値である。
【0035】
<(B)充填剤>
本発明の実施形態における樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の充填剤を含む。
【0036】
充填剤は、無機又は有機充填剤のいずれでもよく、これらの組み合わせでもよい。また、繊維状、粉粒状、板状のいずれも形状であってもよく、これらを目的に応じて選択できる。
繊維状充填剤としては、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウム繊維、さらにステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等金属の繊維状物等の無機質繊維状物質が挙げられる。尚、ポリアミド、フッ素樹脂、アクリル樹脂等の高融点有機質繊維物質も使用することができる。
粉粒状充填剤としては、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、タルク、クレー、珪藻土、ウォラストナイトのごとき珪酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛のごとき金属の酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムのごとき金属の炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムのごとき金属の硫酸塩、その他炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素、各種金属粉末が挙げられる。
また、板状充填剤としてはマイカ、ガラスフレークが挙げられる。
充填剤は1種を単独で用いてもよく、又は2種以上を併用してもよい。
【0037】
充填剤としては、ガラス繊維、炭酸カルシウム、またはこれらの組み合わせが好ましく用いられる。特に、充填剤はガラス繊維を含むことが好ましい。
【0038】
ガラス繊維の繊維径は、特に限定されないが、例えば、9μm以上13μm以下であってもよい。ここで、ガラス繊維の繊維径とは、ガラス繊維の繊維断面の長径をいう。
【0039】
ガラス繊維の断面形状は、例えば、真円状、楕円状等であってもよい。また、ガラス繊維の種類についても特に限定されず、例えば、Aガラス、Cガラス、Eガラス等を用いることができるが、その中でもEガラス(無アルカリガラス)を用いることが好ましい。また、そのガラス繊維は、表面処理が施されたものであっても、施されていないものであってもよい。なお、ガラス繊維に対する表面処理としては、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系等の被覆剤或いは集束剤による処理や、アミノシランやエポキシシラン等のシランカップリング剤等による処理が挙げられる。
【0040】
また、ガラス繊維は、通常、これらの繊維を多数本集束したものを所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維)として用いることが好ましい。なお、チョップドガラス繊維のカット長については特に限定されず、例えば1〜10mm程度とすることができる。
【0041】
炭酸カルシウムはとくに限定されない。その平均粒径は、例えば、10μm以上50μm以下であってもよい。
【0042】
炭酸カルシウムとしては、特に限定されないが、例えば、重質炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、コロイダル炭酸カルシウム)等を用いることができる。また、これらの炭酸カルシウムを、例えば、脂肪酸、脂肪酸エステル、樹脂酸、高級アルコール付加イソシアネート化合物等により表面処理した炭酸カルシウム(表面処理炭酸カルシウム)を用いてもよい。
【0043】
本発明の実施形態の樹脂組成物において、充填剤は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部含まれることが好ましいが、より好ましくは、65〜200質量部、さらに好ましくは68〜160質量部含まれる。
また、ガラス繊維の量は特に限定されないが、例えば、機械的特性等の物性上の観点から、充填剤全量に対して50質量%以上含まれることが好ましい。
【0044】
<(C)カーボンブラック>
本発明の実施形態の樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上の、算術平均粒子径が10〜15nmのカーボンブラックを含む。
カーボンブラックとしては、製法別ではファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等が挙げられ、また、原料別ではガスブラック、オイルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。これらのカーボンブラックは一種のみを使用してもよいし、複数のカーボンブラックを組み合わせて使用してもよい。
【0045】
カーボンブラックの算術平均粒子径は、10〜15nmであることが好ましい。カーボンブラックの算術平均粒子径は、カーボンブラック粒子1000個を電子顕微鏡で観察して求めた算術平均径である。
【0046】
カーボンブラックの算術平均粒子径が10nm以上である場合には、黒色色調に優れ、15nm以下である場合には、曲げ破断ひずみ特性などの性能の低下抑制に優れる。カーボンブラックの算術平均粒子径は、黒色色調と曲げ破断ひずみ特性などの性能の低下抑制効果のバランスの観点から、13〜15nmであることがより好ましい。
【0047】
カーボンブラックは、樹脂組成物において、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上含まれることが好ましく、0.2〜6質量部含まれることがより好ましい。
カーボンブラックが、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上である場合には、得られる組成物は黒色色調に優れる。カーボンブラックが、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、6質量部以下である場合には、曲げ破断ひずみ特性などの機械的物性に優れる。カーボンブラック含有量は、黒色色調と曲げ破断ひずみ特性などの性能のバランスの観点から、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して、より好ましくは、0.2〜4質量部、更に好ましくは0.3〜2.5質量部、特に好ましくは0.3〜2.0質量部含まれる。
【0048】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(NSA)は、特に限定されないが、160〜600m
2/gであることが好ましい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積は、JISK6217における、窒素吸着量からS−BET式で求めた比表面積である。一般に粒子径が小さいほど、比表面積は大きくなる。
カーボンブラックのDBP(ジブチルフタレート) 吸収量は、特に限定されないが、45〜200cm
2/100gが好ましい。カーボンブラックのDBP吸収量は、カーボンブラック100g が吸収するDBP(ジブチルフタレート)量であり、JIS K6221に記載される方法に準じて測定された値である。一般にストラクチャーが発達しているほど、DBP吸収量が大きくなる。
カーボンブラックの揮発分は、特に限定されないが、7%以下であることが好ましい。カーボンブラックの揮発分は、カーボンブラックを950℃で7分間加熱した際の揮発(減量)分(もとの重量に対する揮発分の重量の割合)である。一般に表面官能基が多いほど、揮発する成分は多くなる。
【0049】
<(D)エラストマー>
本発明の実施形態の樹脂組成物は、靱性及び耐ヒートショック性を更に向上させるために、エラストマーを含有することが好ましい。
エラストマーとしては、例えば、エポキシ基含有オレフィン系共重合体が挙げられる。エラストマーは、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0050】
エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、α−オレフィン由来の構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位と、を含むオレフィン系共重合体が好ましい。
【0051】
また、成形性、機械的特性、及びインサート部材との密着性に優れるポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を得やすいことから、エポキシ基含有オレフィン系共重合体は、α−オレフィン由来の構成単位、及びα,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位に加えて、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むのも好ましい。なお、以下、(メタ)アクリル酸エステルを(メタ)アクリレートともいう。例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステルをグリシジル(メタ)アクリレートともいう。また、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸とメタクリル酸との両方を意味し、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートとメタクリレートとの両方を意味する。
【0052】
α−オレフィンとしては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等が挙げられ、特にエチレンが好ましい。α−オレフィンは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα−オレフィン由来の構成単位を含むことで、ポリアリーレンサルファイド樹脂組成物を用いて形成される成形品に可撓性を付与しやすい。成形品が可撓性を有する場合、インサート成形品を製造する際に、インサート部材、特に金属インサート部材と樹脂部材との接合強度を高めやすい。
【0053】
α,β−不飽和酸のグリシジルエステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸グリシジルエステル、メタクリル酸グリシジルエステル、エタクリル酸グリシジルエステル等が挙げられ、特にメタクリル酸グリシジルエステルが好ましい。α,β−不飽和酸のグリシジルエステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。エポキシ基含有オレフィン系共重合体がα,β−不飽和酸のグリシジルエステルを含むことで、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0054】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されず、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸−n−ヘキシル、アクリル酸−n−オクチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−アミル、メタクリル酸−n−オクチル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。中でも、特にアクリル酸メチルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルは、1種単独で使用することも、2種以上を併用することもできる。エポキシ基含有オレフィン系共重合体が(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むことによって、インサート成形品を製造する際に、インサート部材と樹脂部材との間の接合強度を高めやすい。
【0055】
α−オレフィン由来の構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むエポキシ基含有オレフィン系共重合体、及び、更に(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を含むエポキシ基含有オレフィン系共重合体は、従来公知の方法で共重合を行うことにより製造することができる。
例えば、通常よく知られたラジカル重合反応により共重合を行うことによって、上記共重合体を得ることができる。共重合体の種類は、特に問われず、例えば、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。また、上記オレフィン系共重合体に、例えば、ポリメタアクリル酸メチル、ポリメタアクリル酸エチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸−2エチルヘキシル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリル酸ブチル・スチレン共重合体等が、分岐状に又は架橋構造的に化学結合したオレフィン系グラフト共重合体であってもよい。
【0056】
α−オレフィン由来の構成単位と、α,β−不飽和酸のグリシジルエステル由来の構成単位とを含むエポキシ基含有オレフィン系共重合体は、必要に応じて、他の共重合成分由来の構成単位を含有することができる。
【0057】
より具体的には、エポキシ基含有オレフィン系共重合体としては、例えば、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体、グリシジルエーテル変性エチレン共重合体等が挙げられ、中でも、グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体が好ましい。
グリシジルメタクリレート変性エチレン系共重合体としては、グリシジルメタクリレートグラフト変性エチレン重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体を挙げることができる。中でも、特に優れた金属樹脂複合成形体が得られることから、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が好ましく、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体が特に好ましい。エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体及びエチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体の具体例としては、「ボンドファースト」(住友化学(株)製)等が挙げられる。
グリシジルエーテル変性エチレン共重合体としては、例えば、グリシジルエーテルグラフト変性エチレン共重合体、グリシジルエーテル−エチレン共重合体を挙げることができる。
【0058】
本発明の実施形態の樹脂組成物は、靱性を向上させる観点から、ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対してエラストマーを3〜35質量部含有することが好ましく、7〜25質量部含有することがより好ましい。
【0059】
<その他の成分>
なお、本発明の実施形態の樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲で他の樹脂を含んでもよい。また、成形品に所望とする特性を付与するために、例えば、核剤、カーボンブラック以外の顔料(例えば、無機焼成顔料等)、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤、及び難燃剤等の添加剤を添加してもよい。このように所望の特性を付与した樹脂組成物も、本発明で用いるPAS系樹脂組成物に含まれる。
【0060】
<樹脂組成物の調製>
本発明の実施形態の樹脂組成物は、従来公知の方法により調製することができる。具体的には、例えば、上述した各成分を混合した後、押出機により練り込み押出してペレットを調製する方法、一旦組成の異なるペレットを調製し、そのペレットを所定量混合して成形に供し、成形後に目的組成の成形品を得る方法、成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法等、何れの方法であっても好適に用いることができる。
【0061】
≪樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制する方法≫
本発明の実施形態の、曲げ破断ひずみの低下を抑制する方法は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂と、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して65〜300質量部の(B)充填剤と、(C)カーボンブラックと、を含有する樹脂組成物において、前記(C)カーボンブラックとして算術平均粒子径が10〜15nmのカーボンブラックを、前記(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対して0.2質量部以上用いることにより、前記樹脂組成物の曲げ破断ひずみ(%)の低下を抑制する方法である。
(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂、(B)充填剤、(C)カーボンブラック、及び樹脂組成物に含まれてもよいその他の成分は、前述の樹脂組成物におけるものと同義であり、それらの好ましい範囲、添加量及びその好ましい範囲も、前述の樹脂組成物におけるものと同様である。
【0062】
曲げ破断ひずみ(Fγ)は、耐ヒートショック性の指標となると考えられる特性である。本実施形態の方法において、「樹脂組成物の曲げ破断ひずみの低下を抑制する」とは、樹脂組成物の曲げ破断ひずみをAとし、カーボンブラックを加えない樹脂組成物の曲げ破断ひずみをBとしたとき、下記式で表されるように、Bに対するAの比率(Fγ比率)((A/B)×100)が96.0%以上となることをいう。
(A/B)×100(%)≧96.0%
なお、Bに対するAの比率(Fγ比率)は、97.0%以上であることがより好ましい。
【0063】
曲げ破断ひずみは、樹脂組成物を用いて、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製し、これを用いて、ISO178に準じて測定した値である。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0065】
[実施例1〜9、比較例1〜5、参考例1〜4]
≪材料≫
[(A)PAS樹脂]
PAS樹脂:PPS樹脂(重合平均分子量Mw:20000)、(株)クレハ製「フォートロンKPS」
【0066】
(PAS樹脂の合成方法)
上述のPAS樹脂の合成方法を以下に示す。すなわち、先ず、20LのオートクレーブにNMP(N−メチル−2−ピロリドン)5700gを仕込み、オートクレーブ内の空気を窒素ガスで置換後、約1時間かけて撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、100℃まで昇温した。100℃に到達後、濃度74.7質量%のNaOH水溶液1170g、硫黄源水溶液1990g(NaSH=21.8モル及びNa2S=0.50モルを含む)、及びNMP1000gを加え、約2時間かけて徐々に200℃まで昇温し、水945g、NMP1590g、及び0.31モルの硫化水素を系外に排出した。
【0067】
次に、上述した脱水工程の後、170℃まで冷却し、p−DCB(p−ジクロロベンゼン)3524g、NMP2800g、水133g、及び濃度97重量%のNaOHを23g加えたところ、缶内温度は130℃になった。引き続き、撹拌機の回転数250rpmで撹拌しながら、180℃まで30分間かけて昇温し、さらに、180℃から220℃までの間は60分間かけて昇温した。その温度で60分間反応させた後、230℃まで30分間かけて昇温し、230℃で90分間反応を行い、前段重合を行った。
【0068】
次に、前段重合終了後、直ちに撹拌機の回転数を400rpmに上げ、水340gを圧入した。水圧入後、260℃まで1時間で昇温し、その温度で5時間反応させ後段重合を行った。後段重合終了後、反応混合物を室温付近まで冷却してから、内容物を100メッシュのスクリーンを用いて粒状ポリマーを篩別し、次いで、アセトン洗いを3回、水洗いを3回、0.3%酢酸洗いを行い、その後、水洗いを4回行い、洗浄した粒状ポリマーを得た。粒伏ポリマーは、105℃で13時間乾操させた。この操作を5回繰返し、必要量のポリマー(PPS樹脂)を得た。
【0069】
(PAS樹脂の重量平均分子量の測定)
PAS樹脂の重量平均分子量の測定を行った。具体的には、溶媒として1−クロロナフタレンを使用し、オイルバスで230℃/10分間加熱溶解させて、必要に応じて高温濾過により精製し、0.05質量%濃度溶液を調製した。高温ゲル浸透クロマトグラフ法(測定装置;センシュー科学「SSC−7000」、UV検出器(検出波長:360nm))を行い、標準ポリスチレン換算で重量平均分子量を算出した。その算出の結果、上述したように、PAS樹脂の重量平均分子量はMw:20000であった。
【0070】
[(B)充填剤]
(B−1)ガラス繊維:日本電気硝子(株)製「チョップドストランド ECS03T−747H」(繊維径:10.5μm)
(B−2)炭酸カルシウム:旭鉱末(株)製「ミクロンカル MC−35W」、平均粒子径(50%d)21μm
【0071】
[(C)カーボンブラック]
(C−1)ウィルバー・エリス(株)製「Raven 2500 Ultra」、算術平均粒子径:13nm、比表面積(NSA):270m
2/g、DBP吸収量:65cm
3/100g
(C−2)ウィルバー・エリス(株)製「Raven 3500」、算術平均粒子径:13nm、比表面積(NSA):375m
2/g、DBP吸収量:105cm
3/100g、揮発分:5質量%
(C−3)三菱化学(株)製「#2600」、算術平均粒子径:13nm、比表面積(NSA):370m
2/g、DBP吸収量:77cm
3/100g、揮発分:1.8質量%
(C−4)三菱化学(株)製「#2300B」、算術平均粒子径:15nm、比表面積(NSA):320m
2/g、DBP吸収量:48cm
3/100g、揮発分:2質量%
(C−5)ウィルバー・エリス(株)製「Raven 2350 Ultra」、算術平均粒子径:15nm、比表面積(NSA):195m
2/g、DBP吸収量:60cm
3/100g
(C−6)三菱化学(株)製「#980」、算術平均粒子径:16nm、比表面積(NSA):260m
2/g、DBP吸収量:66cm
3/100g、揮発分:1.5質量%
(C−7)三菱化学(株)製「#960B」、算術平均粒子径:16nm、比表面積(NSA):260m
2/g、DBP吸収量:64cm
3/100g、揮発分:1.5質量%
(C−8)三菱化学(株)製「#750B」、算術平均粒子径:22nm、比表面積(NSA):124m
2/g、DBP吸収量:116cm
3/100g、揮発分:1質量%
(C−9)ウィルバー・エリス(株)製「#Raven 5000 Ultra」、算術平均粒子径:8nm、比表面積(NSA):583m
2/g、DBP吸収量:95cm
3/100g、揮発分:10.5質量%
なお、上記のカーボンブラックの算術平均粒子径、比表面積(NSA)、DBP吸収量、及び揮発分は、カーボンブラックの項で述べた方法で測定された値である。
【0072】
[(D)エラストマー]
オレフィン系共重合体:住友化学(株)製「ボンドファースト(登録商標)7M」(グリシジルメタクリレート(GMA)含有量:6質量%)
【0073】
[(E)離型剤]
ペンタエリスリトールステアリン酸エステル:日油(株)製「ユニスター(登録商標)H476」
【0074】
≪樹脂組成物≫
各実施例及び比較例において、表1に示す各原料成分をドライブレンドした後、シリンダー温度320℃の二軸押出機で溶融混練させ、ペレット化した。なお、ガラス繊維及び炭酸カルシウム(いずれも充填剤)については、サイドフィーダーを用いて押出機に導入して溶融混練させた。表1中、各成分の配合量は質量部である。
得られた樹脂組成物について、下記の評価を行った。結果を表2に示す。また、表2中、CBはカーボンブラックを意味する。
【0075】
≪評価≫
(1)曲げ破断ひずみ
実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO178に準じて曲げ破断ひずみ(Fγ)を測定した。
また、各実施例及び比較例について、カーボンブラックを加えていない参照の樹脂組成物ペレットを作成し、上記の方法で曲げ破断ひずみ(Fγ)を測定して、これをBとして、各実施例及び比較例の組成物についての曲げ破断ひずみをAとした場合の、Bに対するAのFγ比率(%)((A)/(B)×100)を求めた。尚、カーボンブラックを加えていない参照の樹脂組成物については、参考例として表1及び表2に示す。以下の評価項目についても、同様に、参考例として示す。
【0076】
(2)引張強さ(TS)及び引張伸び(TE)
実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO3167に準じた厚み4mmtのダンベル試験片を作製した。この試験片を用い、ISO527−1,2に準じて引張強さ(MPa)と引張伸び(%)を測定した。
【0077】
(3)曲げ強さ(FS)及び曲げ弾性率(GPa)
実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用い、ISO178に準じて曲げ強さ(MPa)と曲げ弾性率(GPa)を測定した。
【0078】
(4)シャルピー衝撃強さ
実施例及び比較例の樹脂組成物ペレットを140℃で3時間乾燥後、射出成形により、成形シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、ISO316に準じた試験片(幅10mm、厚み4mmt)を作製した。この試験片を用いて、ISO179/1eAに準じてシャルピー衝撃強さ(ノッチ付き)(kJ/m
2)を測定した。
【0079】
(5)漆黒度(L値)
引張試験と同様に作製したダンベル試験片に対し、日本電色工業(株)製Spectrophotometer SE6000を使用し、L値を測定した。L値が小さいほど漆黒度は高く、黒色色調が良好であることを示す。
【0080】
【表1】
【0081】
【表2】
【0082】
表2より、実施例1〜9においては、カーボンブラック含有量が0の場合の曲げ破断ひずみに対する曲げ破断ひずみの割合(Fγ比率(%))が96%以上であり、カーボンブラックを添加しても、曲げ破断ひずみの低下が抑制されていることがわかる。また、引張強さ、引張伸び、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さについても、カーボンブラック含有量が0の場合と比較して、ほぼ同等の物性値を維持していることが分かる。また、実施例1〜9の樹脂組成物はいずれも良好な黒色色調(漆黒度(L値))を示すことがわかる。