【0009】
本発明における乳酸菌としては、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌を用いることができる。特に、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445として寄託)、SBT-2161株(NITE BP-01707として寄託)、SBT2195株(FERM P-11538として寄託)、SBT2196株(FERM P-11676として寄託)、SBT0064株(FERM P-21079として寄託)、SBT0402株(FERM P-21559として寄託)等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
ラクトバチルス・ヘルベティカスは、乳酸菌培養の常法に従って培養することができる。培養培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明の有効成分として用いることができる。濃縮、乾燥、凍結乾燥などした菌体を用いることもできるし、加熱乾燥などにより死菌体にしてもよい。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。
培養物などの形態としては、合成培地であるMRS培地(DIFCO社製)、還元脱脂乳培地など一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
さらに、得られた培養物から遠心分離、濾過操作などの方法を用いて、乳タンパク質沈殿や菌体成分を除去することによって調製した培養上清なども用いることができる。固形分が少ない上清であるため、飲食品などへの適用範囲が広くなる。例えば、還元脱脂乳培養物を5,000 rpm、10分間遠心分離することにより培養上清を調製することができる。
【実施例】
【0015】
[試験例1]
Balb/cマウスへの生菌ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus) SBT2171株菌体の経口投与試験(IgA抗体量評価)
1−1.試験方法
24匹のBalb/cマウス(7週齢、雄性)を、コントロール(contorol)群とSBT2171群の2群に分けた(n=12)。コントロール群には標準飼料(AIN-93G)を、SBT2171群には標準飼料(AIN-93G)にラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末を0.5%添加した飼料を自由に摂取させた。摂取開始から5週間後に解剖して小腸を摘出した。小腸から腸間膜脂肪を除去した後、生理食塩水で内容物を洗浄した。小腸の胃と接する側の1cmを除去し、除去部位から小腸を5 cm切り出して、液体窒素で凍結した後に-80℃で保存した。
小腸組織に40倍量の抽出バッファー(1×PBS、50 mM Tris-HCl(pH 6.8)、Protease inhibitor cocktail(Roche cOmplete))を加え、ホモジェナイザーを用いて氷中で破砕し組織破砕液を得た。組織破砕液を10,000×gで10分間遠心した後、上清を組織抽出液として回収し、-80℃で保存した。
組織抽出液中のIgA抗体量を、ELISAキット(Bethyl Laboratories)を用いて測定した。同時に、組織抽出液中のタンパク質濃度を、BCAキット(Thermo Scientific)を用いて測定した。IgA抗体量をタンパク質濃度で割った値を
図1に示した。
【0016】
1−2.試験結果
図1より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもタンパク質量当たりのIgA産生量が高いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の摂取によって、IgA抗体の産生が促進されることが示された。
【0017】
[試験例2]
人為的に自己抗体の産生を誘導して関節炎を発症させるコラーゲン誘発関節炎モデルマウスへの生菌ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株菌体の経口投与試験(IgG抗体量評価)
2−1.試験方法
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株をMRS培地で16時間培養した後、遠心分離により菌体を得た。菌体は滅菌生理食塩水で2回、超純水で1回洗浄した後、凍結乾燥した。凍結乾燥後の菌体は100 mg/mLとなるように0.35M NaHCO
3/PBS に懸濁した後、使用するまで-20℃で保存した。
24匹のDBA/1Jマウス(8週齢、雄)を、コントロール(contorol)群とSBT2171群の2群に分けた(n=12)。ウシII型コラーゲン(CII)(2mg/ml in 0.05M acetic acid, Chondrex)とComplete Freund’s Adjuvant(CFA, Chondrex)を等量で合わせて免疫用のコラーゲンとして1mg/mlのエマルジョンを作製した。これを全てのマウスの尾根部に50 μLずつ2か所(合計100 μg/マウス1匹)に皮内投与した。1回目のコラーゲン投与日から21日後に2回目のコラーゲン投与を1回目と同様に行った。2回目のコラーゲン投与日から3週間飼育して解剖した。
SBT2171群には、1回目のコラーゲン投与日から解剖の前日まで毎日、100 mg/mLとなるように0.35M NaHCO
3/PBSに懸濁したSBT217の菌体を、300 μL/マウス1匹(菌体量として30 mg/マウス1匹)となるように経口投与した。コントロール群には、0.35M NaHCO
3/PBSを300 μL/マウス1匹となるように経口投与した。NaHCO
3は、胃酸を中和する目的で添加した。
解剖時に採取した血液を遠心して血清を分離し、-80℃で保存した。血清中のCII特異的IgG抗体量を、ELISAキット(Chondrex)を用いて測定した。IgG抗体量を
図2に示した。
【0018】
2−2.試験結果
図2より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を摂取した群の方が、添加しない食餌を摂取した群よりもCII特異的IgG抗体産生量が低いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の摂取によって、自己抗体であるIgG抗体の産生が抑制されることが示された。
【0019】
上記の試験例1、2により、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helvetivcus)を摂取することにより、IgA抗体産生の促進と自己抗体であるIgG抗体産生の抑制が可能となる事がわかった。
【0020】
[実施例1]ラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物の製造
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販乳酸菌スターター(LDスターター、クリスチャン・ハンセン社)0.7%及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)1%を添加し、さらにレンネット0.003%を添加して、乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出して、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で熟成させ、ゴーダチーズタイプの硬質ナチュラルチーズを調製した。この硬質ナチュラルチーズ(6ヶ月熟成)をミンチ器(GM-DX、日本キャリア社製)を用いてミンチし、凍結乾燥を行った。その後、コーヒーミルにより微細化し、ラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物であるチーズ粉を得た。該チーズ粉はそのまま本発明の抗体産生調節剤として使用できる。
【0021】
[試験例3]
マウスへのラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株培養物の経口投与試験(IgA抗体量)
1.試験方法
実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171の培養物を用いて経口投与試験を行った。試験方法は試験例1に準じて行った。解剖後のIgA抗体量とタンパク質濃度を測定し、IgA抗体量をタンパク質濃度で割った値を
図3に示した。
2.試験結果
図3より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の培養物を添加した食餌を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもタンパク質量当たりのIgA産生量が高いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物の摂取によって、IgA抗体の産生が促進されることが示された。
【0022】
[試験例4]
マウスへのラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株培養物の経口投与試験(IgG抗体量)
1.試験方法
実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171の培養物を用いて経口投与試験を行った。試験方法は試験例2に準じて行った。解剖後の血清中のCII特異的IgG抗体量を測定し、その結果を
図4に示した。
2.試験結果
図4より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の培養物を添加した食餌を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもCII特異的IgG抗体産生量が低いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物の摂取によって、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制することが示された。
【0023】
[実施例2] 抗体産生調節剤(顆粒)の製造
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を食用可能な合成培地(0.5%酵母エキス、0.1%トリプチケースペプトン添加)に5重量%接種し、38℃で15時間培養後、遠心分離で菌体を回収した。回収した菌体を凍結乾燥し、前記菌体の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末1 gを乳糖5 gと混合し、顆粒状に成形して本発明の抗体産生調節剤を得た。
【0024】
[実施例3] 抗体産生調節剤(顆粒)の製造
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM-1120株を食用可能な合成培地(0.5%酵母エキス、0.1%トリプチケースペプトン添加)に5重量%接種し、38℃で15時間培養後、遠心分離で菌体を回収した。回収した菌体を凍結乾燥し、前記菌体の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末1 gを乳糖5 gと混合し、顆粒状に成形して本発明の抗体産生調節剤を得た。
【0025】
[実施例4]抗体産生調節剤(散剤)の製造
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末10 gに乳糖(日局)40 g、バレイショデンプン(日局)600 gを加えて均一に混合し、本発明の抗体産生調節剤を製造した。
【0026】
[実施例5]抗体産生調節剤(散剤)の製造
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記実施例3で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM-1120株の凍結乾燥粉末10 gに乳糖(日局)400 g、バレイショデンプン(日局)600 gを加えて均一に混合し、本発明の抗体産生調節剤を製造した。
【0027】
[実施例6]スティック状栄養健康食品の製造
ビタミンC40 gまたはビタミンCとクエン酸の等量混合物40 g、グラニュー糖100 g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60 gに、上記実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末40 gを加えて混合した。混合物を袋に詰め、本発明のスティック状栄養健康食品を150袋製造した。
【0028】
[実施例7]飼料の製造
大豆粕12 kg、脱脂粉乳14 kg、大豆油4 kg、コーン油2 kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14 kg、小麦粉9 kg、ふすま2 kg、ビタミン混合物5 kg、セルロース2.8 kg、ミネラル混合物2 kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株10 kgを配合して、飼料を製造した。