特開2017-66047(P2017-66047A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-66047(P2017-66047A)
(43)【公開日】2017年4月6日
(54)【発明の名称】抗体産生調節剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/747 20150101AFI20170317BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20170317BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20170317BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20170317BHJP
   A23L 2/52 20060101ALI20170317BHJP
   A23K 20/00 20160101ALI20170317BHJP
【FI】
   A61K35/747
   A61K35/74 A
   A61K35/74 G
   A61P37/02
   A23L1/30 Z
   A23L2/00 F
   A23K1/16 304B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-189886(P2015-189886)
(22)【出願日】2015年9月28日
(71)【出願人】
【識別番号】711002926
【氏名又は名称】雪印メグミルク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】特許業務法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 知広
(72)【発明者】
【氏名】小川 哲弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 来海
(72)【発明者】
【氏名】酒井 史彦
【テーマコード(参考)】
2B150
4B017
4B018
4C087
【Fターム(参考)】
2B150AC06
2B150DD12
2B150DD26
4B017LC03
4B017LK21
4B018MD86
4B018ME14
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087NA14
4C087ZB07
4C087ZB13
(57)【要約】
【課題】
IgA抗体の産生を促進し、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制することで、感染症の予防と自己免疫疾患の予防の両者の効果をもたらすことができる医薬品、栄養組成物、飲食品および飼料を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明者らは、生体内でIgA抗体の産生を促進し、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する因子を鋭意探索した結果、乳酸菌のLactobacillus helvetivcusを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は以下の構成を有する
(1)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌又はその培養物を有効成分とするIgA抗体の産生を促進し、かつ自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節剤。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌又はその培養物を有効成分とするIgA抗体の産生を促進し、かつ自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節剤。
【請求項2】
前記ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌がラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171(FERM BP-5445)であることを特徴とする、請求項1に記載の IgA抗体の産生を促進し、かつ自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の剤を添加した栄養組成物、飲食品又は飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌を有効成分とする、抗体産生調節剤、飲食品、栄養組成物および飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
免疫系は、体内に侵入しようとする細菌やウイルスなどの病原体や体内で生じた腫瘍細胞を排除する役割を担う高度な生体防御機構である。免疫系では、特定のタンパク質などの分子(抗原)を認識して結合する働きをもつ免疫グロブリン(抗体)が重要な役割を果たしている。免疫グロブリンの一種であるIgA抗体は、体内で最も多量に産生される抗体であり、腸管、気道および口腔などの粘膜に分泌されている。腸内で産生されるIgA抗体は、病原性微生物の腸管上皮細胞への付着および感染を阻止し、細菌由来毒素を中和する機能がある。また、IgA抗体は、腸内においてアレルゲンとなる食品由来の抗原と結合し、腸管壁の通過を阻止することで、食物アレルギーを抑制することも知られている。そのため、腸内でIgA抗体の産生を促進し、感染症と食物アレルギーを予防するような薬剤または食品成分が期待されてきた。
一方、関節リウマチおよび炎症性腸疾患などの自己免疫疾患においては、免疫系の破綻によって自己の体の構成成分を抗原とする自己抗体であるIgG抗体が産生されることが、発症の原因の1つであるとされている。関節リウマチは、免疫系が関節の組織を破壊してしまう自己免疫疾患であり、人口の約1%が罹患する最も頻度の高い自己免疫疾患である。関節リウマチの患者の血液中には、様々な自己抗体が認められるが、IgG抗体が最も多い。そこで、生体内で自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制し、自己免疫疾患を予防、緩和するような薬剤または食品成分が期待されてきた。
IgA抗体の産生を促進する因子および自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する因子はこれまでにも研究されてきた。IgA抗体の産生を促進する因子としては、ビフィドバクテリム属(Bifidobacterium)菌(特許文献1)、ラクトバチルス属(Lactobacillus)菌(特許文献2)、ヒナゲシ抽出物(特許文献3)がある。自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する因子としては、ラクトバチルス属菌(特許文献4)が報告されている。また、非特許文献1によれば、乳酸菌の種類によってIgA抗体の産生を促進する菌種と抑制する菌種があるだけでなく、同一菌種においてもIgA抗体を産生促進する株と抑制する株がある。また、複数の乳酸菌からIgA産生が多い乳酸菌をスクリーニングする際に、ラクトバチルス・ヘルベティカスが選ばれなかったという記載もある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−342533号公報
【特許文献2】特開2010−130954号公報
【特許文献3】WO2011/108275号公報
【特許文献4】特開平10−114667号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Oral Administration of Lactobacillus plantarum Strain AYA Enhances IgA Secretion and Provides Survival Protection against Influenza Virus Infection in Mice January 2014 | Volume 9 | Issue 1 | e86416
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜4にはIgA抗体の産生を促進する因子または自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節因子が記載されている。しかし、日常的に継続摂取することで、感染症と自己免疫疾患の両方を予防するためには、単一の因子でIgA抗体産生の促進と自己抗体であるIgG抗体産生の抑制の両方の作用を合わせもつような抗体産生調節因子が望ましい。
そこで、本発明は、IgA抗体の産生を促進し、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制することで、感染症の予防と自己免疫疾患の予防の両者の効果をもたらすことができる医薬品、栄養組成物、飲食品および飼料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、生体内で、IgA抗体の産生を促進し、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する因子を鋭意探索した結果、乳酸菌のラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helvetivcus)に属する乳酸菌、特にラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helvetivcus)SBT2171株を見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち本発明は以下の構成を有する。
(1)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌又はその培養物を有効成分とするIgA抗体の産生を促進し、かつ自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節剤。
(2)前記ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌がラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171(FERM BP-5445)であることを特徴とする、(1)に記載の IgA抗体の産生を促進し、かつ自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制する抗体産生調節剤。
(3)(1)または(2)に記載の剤を添加した栄養組成物、飲食品又は飼料。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ウイルスや細菌などに対する感染予防効果とともに、過剰な自己免疫応答を予防、改善することができる。さらに、該乳酸菌を高含有するチーズまたは乳酸菌飲料を食することで、抗体産生を調節することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】Balb/cマウスにラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の菌体を経口投与し、小腸組織中のIgA抗体量を比較した図である。
図2】コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の菌体を経口投与し、血清中のウシII型コラーゲン(CII)特異的IgG抗体量を比較した図である。
図3】Balb/cマウスにラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の菌体培養物を経口投与し、小腸組織中のIgA抗体量を比較した図である。
図4】コラーゲン誘発関節炎モデルマウスにラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の菌体培養物を経口投与し、血清中のウシII型コラーゲン(CII)特異的IgG抗体量をを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における乳酸菌としては、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)に属する乳酸菌を用いることができる。特に、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445として寄託)、SBT-2161株(NITE BP-01707として寄託)、SBT2195株(FERM P-11538として寄託)、SBT2196株(FERM P-11676として寄託)、SBT0064株(FERM P-21079として寄託)、SBT0402株(FERM P-21559として寄託)等が好ましいが、これらに限定されるものではない。
ラクトバチルス・ヘルベティカスは、乳酸菌培養の常法に従って培養することができる。培養培地には、乳培地又は乳成分を含む培地、これを含まない半合成培地など種々の培地を用いることができる。このような培地としては、還元脱脂乳培地などを例示することができる。
得られた培養物から遠心分離などの集菌手段によって分離された菌体をそのまま本発明の有効成分として用いることができる。濃縮、乾燥、凍結乾燥などした菌体を用いることもできるし、加熱乾燥などにより死菌体にしてもよい。
菌体として純粋に分離されたものだけでなく、培養物、懸濁物、その他の菌体含有物や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。
培養物などの形態としては、合成培地であるMRS培地(DIFCO社製)、還元脱脂乳培地など一般的に乳酸菌の培養に用いられる培地を用いた培養物だけでなく、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料などの乳製品などを例示することができるが特に限定されるものではない。
さらに、得られた培養物から遠心分離、濾過操作などの方法を用いて、乳タンパク質沈殿や菌体成分を除去することによって調製した培養上清なども用いることができる。固形分が少ない上清であるため、飲食品などへの適用範囲が広くなる。例えば、還元脱脂乳培養物を5,000 rpm、10分間遠心分離することにより培養上清を調製することができる。
【0010】
製剤化に際しては製剤上許可されている賦型剤、安定剤、矯味剤などを適宜混合して濃縮、凍結乾燥するほか、加熱乾燥して死菌体にしてもよい。これらの乾燥物、濃縮物、ペースト状物も含有される。また、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の抗体産生調節作用を妨げない範囲で、賦型剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味矯臭剤、懸濁剤、コーティング剤、その他の任意の薬剤を混合して製剤化することもできる。剤形としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、シロップ剤などが可能であり、これらを経口的に投与することが望ましい。
【0011】
本発明の抗体産生調節剤はどのような飲食品に配合しても良く、飲食品の製造工程中に原料に添加しても良い。飲食品の例としては、チーズ、発酵乳、乳製品乳酸菌飲料、乳酸菌飲料、バター、マーガリンなどの乳製品、乳飲料、果汁飲料、清涼飲料などの飲料、ゼリー、キャンディー、プリン、マヨネーズなどの卵加工品、バターケーキなどの菓子・パン類、さらには、各種粉乳の他、乳幼児食品、栄養組成物などを挙げることができるが特に限定されるものではない。
【0012】
さらに、本発明の抗体産生調節剤を飼料に配合することができる。前記飲食品と同様にどのような飼料に配合しても良く、飼料の製造工程中に原料に添加しても良い。
【0013】
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)を配合して、抗体産生調節剤あるいは、抗体産生調節用飲食品、栄養組成物、飼料などの素材又はそれら素材の加工品に配合させて使用する場合、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の配合割合は特に限定されず、製造の容易性や好ましい一日投与量にあわせて適宜調節すればよい。投与対象者の症状、年齢などを考慮してそれぞれ個別に決定されるが、通常成人の場合、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物などを10〜200g、あるいはその菌体自体を0.1〜5,000 mg摂取できるように配合量などを調整すればよい。このようにして摂取することにより所望の効果を発揮することができる。
【0014】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明についてより詳細に説明するが、これらは単に例示するのみであり、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
[試験例1]
Balb/cマウスへの生菌ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus) SBT2171株菌体の経口投与試験(IgA抗体量評価)
1−1.試験方法
24匹のBalb/cマウス(7週齢、雄性)を、コントロール(contorol)群とSBT2171群の2群に分けた(n=12)。コントロール群には標準飼料(AIN-93G)を、SBT2171群には標準飼料(AIN-93G)にラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末を0.5%添加した飼料を自由に摂取させた。摂取開始から5週間後に解剖して小腸を摘出した。小腸から腸間膜脂肪を除去した後、生理食塩水で内容物を洗浄した。小腸の胃と接する側の1cmを除去し、除去部位から小腸を5 cm切り出して、液体窒素で凍結した後に-80℃で保存した。
小腸組織に40倍量の抽出バッファー(1×PBS、50 mM Tris-HCl(pH 6.8)、Protease inhibitor cocktail(Roche cOmplete))を加え、ホモジェナイザーを用いて氷中で破砕し組織破砕液を得た。組織破砕液を10,000×gで10分間遠心した後、上清を組織抽出液として回収し、-80℃で保存した。
組織抽出液中のIgA抗体量を、ELISAキット(Bethyl Laboratories)を用いて測定した。同時に、組織抽出液中のタンパク質濃度を、BCAキット(Thermo Scientific)を用いて測定した。IgA抗体量をタンパク質濃度で割った値を図1に示した。
【0016】
1−2.試験結果
図1より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもタンパク質量当たりのIgA産生量が高いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の摂取によって、IgA抗体の産生が促進されることが示された。
【0017】
[試験例2]
人為的に自己抗体の産生を誘導して関節炎を発症させるコラーゲン誘発関節炎モデルマウスへの生菌ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株菌体の経口投与試験(IgG抗体量評価)
2−1.試験方法
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株をMRS培地で16時間培養した後、遠心分離により菌体を得た。菌体は滅菌生理食塩水で2回、超純水で1回洗浄した後、凍結乾燥した。凍結乾燥後の菌体は100 mg/mLとなるように0.35M NaHCO3/PBS に懸濁した後、使用するまで-20℃で保存した。
24匹のDBA/1Jマウス(8週齢、雄)を、コントロール(contorol)群とSBT2171群の2群に分けた(n=12)。ウシII型コラーゲン(CII)(2mg/ml in 0.05M acetic acid, Chondrex)とComplete Freund’s Adjuvant(CFA, Chondrex)を等量で合わせて免疫用のコラーゲンとして1mg/mlのエマルジョンを作製した。これを全てのマウスの尾根部に50 μLずつ2か所(合計100 μg/マウス1匹)に皮内投与した。1回目のコラーゲン投与日から21日後に2回目のコラーゲン投与を1回目と同様に行った。2回目のコラーゲン投与日から3週間飼育して解剖した。
SBT2171群には、1回目のコラーゲン投与日から解剖の前日まで毎日、100 mg/mLとなるように0.35M NaHCO3/PBSに懸濁したSBT217の菌体を、300 μL/マウス1匹(菌体量として30 mg/マウス1匹)となるように経口投与した。コントロール群には、0.35M NaHCO3/PBSを300 μL/マウス1匹となるように経口投与した。NaHCO3は、胃酸を中和する目的で添加した。
解剖時に採取した血液を遠心して血清を分離し、-80℃で保存した。血清中のCII特異的IgG抗体量を、ELISAキット(Chondrex)を用いて測定した。IgG抗体量を図2に示した。
【0018】
2−2.試験結果
図2より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を摂取した群の方が、添加しない食餌を摂取した群よりもCII特異的IgG抗体産生量が低いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の摂取によって、自己抗体であるIgG抗体の産生が抑制されることが示された。
【0019】
上記の試験例1、2により、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helvetivcus)を摂取することにより、IgA抗体産生の促進と自己抗体であるIgG抗体産生の抑制が可能となる事がわかった。
【0020】
[実施例1]ラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物の製造
原料乳を加熱殺菌(75℃、15秒間)した後、30℃まで冷却し、0.01%塩化カルシウムを添加した。さらに、市販乳酸菌スターター(LDスターター、クリスチャン・ハンセン社)0.7%及びラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株(FERM BP-5445)1%を添加し、さらにレンネット0.003%を添加して、乳を凝固させた。このようにして得られた凝乳をカッティングし、pHが6.2〜6.1となるまで撹拌してホエーを排出して、カード粒を得た。そして、このカード粒を型詰めして圧搾し、さらに加塩して、10℃で熟成させ、ゴーダチーズタイプの硬質ナチュラルチーズを調製した。この硬質ナチュラルチーズ(6ヶ月熟成)をミンチ器(GM-DX、日本キャリア社製)を用いてミンチし、凍結乾燥を行った。その後、コーヒーミルにより微細化し、ラクトバチルス・ヘルベティカスの培養物であるチーズ粉を得た。該チーズ粉はそのまま本発明の抗体産生調節剤として使用できる。
【0021】
[試験例3]
マウスへのラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株培養物の経口投与試験(IgA抗体量)
1.試験方法
実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171の培養物を用いて経口投与試験を行った。試験方法は試験例1に準じて行った。解剖後のIgA抗体量とタンパク質濃度を測定し、IgA抗体量をタンパク質濃度で割った値を図3に示した。
2.試験結果
図3より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の培養物を添加した食餌を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもタンパク質量当たりのIgA産生量が高いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物の摂取によって、IgA抗体の産生が促進されることが示された。
【0022】
[試験例4]
マウスへのラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株培養物の経口投与試験(IgG抗体量)
1.試験方法
実施例1で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171の培養物を用いて経口投与試験を行った。試験方法は試験例2に準じて行った。解剖後の血清中のCII特異的IgG抗体量を測定し、その結果を図4に示した。
2.試験結果
図4より、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の培養物を添加した食餌を摂取した群(SBT2171群)の方が、添加しない食餌を摂取した群(コントロール群)よりもCII特異的IgG抗体産生量が低いことが分かった。すなわち、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)の培養物の摂取によって、自己抗体であるIgG抗体の産生を抑制することが示された。
【0023】
[実施例2] 抗体産生調節剤(顆粒)の製造
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株を食用可能な合成培地(0.5%酵母エキス、0.1%トリプチケースペプトン添加)に5重量%接種し、38℃で15時間培養後、遠心分離で菌体を回収した。回収した菌体を凍結乾燥し、前記菌体の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末1 gを乳糖5 gと混合し、顆粒状に成形して本発明の抗体産生調節剤を得た。
【0024】
[実施例3] 抗体産生調節剤(顆粒)の製造
ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM-1120株を食用可能な合成培地(0.5%酵母エキス、0.1%トリプチケースペプトン添加)に5重量%接種し、38℃で15時間培養後、遠心分離で菌体を回収した。回収した菌体を凍結乾燥し、前記菌体の凍結乾燥粉末を得た。この凍結乾燥粉末1 gを乳糖5 gと混合し、顆粒状に成形して本発明の抗体産生調節剤を得た。
【0025】
[実施例4]抗体産生調節剤(散剤)の製造
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末10 gに乳糖(日局)40 g、バレイショデンプン(日局)600 gを加えて均一に混合し、本発明の抗体産生調節剤を製造した。
【0026】
[実施例5]抗体産生調節剤(散剤)の製造
第13改正日本薬局方解説書製剤総則「散剤」の規定に準拠し、上記実施例3で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)JCM-1120株の凍結乾燥粉末10 gに乳糖(日局)400 g、バレイショデンプン(日局)600 gを加えて均一に混合し、本発明の抗体産生調節剤を製造した。
【0027】
[実施例6]スティック状栄養健康食品の製造
ビタミンC40 gまたはビタミンCとクエン酸の等量混合物40 g、グラニュー糖100 g、コーンスターチと乳糖の等量混合物60 gに、上記実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株の凍結乾燥粉末40 gを加えて混合した。混合物を袋に詰め、本発明のスティック状栄養健康食品を150袋製造した。
【0028】
[実施例7]飼料の製造
大豆粕12 kg、脱脂粉乳14 kg、大豆油4 kg、コーン油2 kg、パーム油23.2kg、トウモロコシ澱粉14 kg、小麦粉9 kg、ふすま2 kg、ビタミン混合物5 kg、セルロース2.8 kg、ミネラル混合物2 kgを配合し、120℃、4分間殺菌して、実施例2で得られたラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171株10 kgを配合して、飼料を製造した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明により、ウイルスや細菌などに対する感染予防効果とともに、過剰な自己免疫応答を予防、改善することができる。さらに、該乳酸菌を抗含有するチーズまたは乳酸菌飲料を食することで、抗体産生を調節することも可能となる
【受託番号】
【0030】
[寄託生物材料への言及]
(1)ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)SBT2171
イ 当該生物材料を寄託した寄託機関の名称及び住所
独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号
ロ イの寄託機関に生物材料を寄託した日付
平成6年6月22日(1994年6月22日)(原寄託日)
平成8年3月6日(1996年3月6日)(原寄託によりブタペスト条約に基づく寄託への移管日)
ハ イの寄託機関が寄託について付した受託番号
FERM BP-5445
図1
図2
図3
図4