【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「エネルギー・環境新技術先導プログラム/トリリオンセンサ社会を支える高効率MEMS振動発電デバイスの研究」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】振動発電素子1は、固定電極3aおよび3bと、固定電極3aおよび3bに対して所定の振動方向にそれぞれ可動する可動電極4aおよび4bとを備える。固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの対向面の少なくとも一方がそれぞれ帯電されており、可動電極4a、4bの変位により固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間の静電容量が変化することで発電する。振動発電素子1において、可動電極4a、4bの振動中心を少なくとも含む部分に、可動電極4a、4bが変位しても静電容量が変化しない非作動領域を設けている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
−第1の実施形態−
図1は、本発明の第1の実施形態に係る振動発電素子1の概略構成を示す平面図である。振動発電素子1は、ベース2、固定電極3aおよび3b、可動電極4aおよび4b、可動部5、弾性支持部6、接続パッド部7を備えている。振動発電素子1には、負荷9が接続されている。
【0010】
図1に示すように、固定電極3a、3bおよび可動電極4a、4bはそれぞれ櫛歯構造を有している。固定電極3aには複数の櫛歯30aが形成され、可動電極4aには複数の櫛歯40aが形成されている。固定電極3aと可動電極4aとは、櫛歯30aと櫛歯40aとが互いに歯合するように配置されている。同様に、固定電極3bには複数の櫛歯30bが形成され、可動電極4bには複数の櫛歯40bが形成されている。固定電極3bと可動電極4bは、櫛歯30bと櫛歯40bとが互いに歯合するように配置されている。
【0011】
このように、固定電極3a、3bは固定櫛歯電極を構成し、可動電極4a、4bは可動櫛歯電極を構成している。櫛歯電極とは、
図1の固定電極3a、3bや可動電極4a、4bのように、複数の櫛歯を並列配置したものである。なお、本発明における櫛歯の本数は、
図1に示したものに限定されない。櫛歯の本数が最小である場合の櫛歯電極は、固定櫛歯電極および可動櫛歯電極の一方の電極に2つの櫛歯が形成され、その2つの櫛歯の間に挿入されるように他方の電極に1つの櫛歯が形成されている。このような基本構成を有する櫛歯電極であれば、櫛歯の本数に関わらず、以下に記載のような機能を有する振動発電素子を構成することができる。
【0012】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る振動発電素子1における固定電極3bおよび可動電極4bの部分拡大図であり、
図1の対象部分100を拡大して示している。
図2において、(a)は対象部分100の上面図、(b)は対象部分100の正面図、(c)は対象部分100の斜視図をそれぞれ示している。
図1および
図2に示すように、可動電極4bの櫛歯40bにおいて、固定電極3bの櫛歯30bとの歯合部分を含む範囲(図中のハッチング部分)には、
図2(b)の上下方向(Z方向)に段差が設けられている。なお、
図2では対象部分100に含まれる櫛歯40bの段差構造のみを図示しているが、可動電極4bの他の櫛歯40bや可動電極4aの櫛歯40aも同様の段差構造を有している。
【0013】
弾性支持部6によってベース2に弾性支持された可動部5は、可動電極4a、4bと一体に、Z方向にスライド移動することができる。
図1および
図2では図示を省略したが、歯合している固定電極3aの櫛歯30aと可動電極4aの櫛歯40aの少なくとも一方、および固定電極3bの櫛歯30bと可動電極4bの櫛歯40bの少なくとも一方には、それぞれの対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されている。これにより、固定電極3aと可動電極4aの対向面の少なくとも一方と、固定電極3bと可動電極4bの対向面の少なくとも一方とが、それぞれ帯電されている。そのため、可動電極4a、4bと固定電極3a、3bがそれぞれ歯合すると、すなわち、櫛歯30a、30bの間に櫛歯40a、40bがそれぞれ挿入された状態になると、静電力によって可動電極4a、4bが固定電極3a、3b側にそれぞれ引き込まれる。
【0014】
負荷9は、振動発電素子1から供給される電力を消費して所定の動作を行う。負荷9の正極側は、固定電極3a、3bと電気的に接続されており、負荷9の負極側は、接続パッド部7、弾性支持部6および可動部5を介して、可動電極4a、4bと電気的に接続されている。
【0015】
環境中の振動によって振動発電素子1がZ方向成分を含む方向に揺り動かされると、固定電極3a、3bに対して可動電極4a、4bがZ方向に振動して変位する。このときの可動電極4a、4bの振動方向すなわちZ方向は、固定電極3a、3bの櫛歯30a、30bおよび可動電極4a、4bの櫛歯40a、40bの延伸方向(X方向)および配列方向(Y方向)に対して垂直な方向である。その結果、固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間にZ方向のずれが生じると、これらの間の対向面積が変化することで、固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間の静電容量が変化する。これとエレクトレットの誘導電荷により、固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間の電圧が変化して起電力が発生することで、振動発電素子1の発電が行われる。振動発電素子1の発電によって得られた起電力は、前述の電気的接続を介して負荷9に印加され、負荷9が駆動される。
【0016】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る振動発電素子1における可動電極4a、4bのZ方向の変位量と可動電極4a、4bに作用する力との関係を示す図である。本実施形態では、可動電極4a、4bがZ=0の位置を振動中心としてZ方向にそれぞれ振動したときに可動電極4a、4bに作用するZ方向の力fzは、
図3のグラフ51に示すように変化する。
図3において、横軸はZ方向の変位量を表し、縦軸は力fzの大きさを表している。
【0017】
本実施形態では、グラフ51に示すように、可動電極4a、4bの振動中心であるZ=0の位置を含む0≦Z≦h1の領域(以下、非作動領域と称する)では、可動電極4a、4bと固定電極3a、3bとの間にZ方向の静電力が働かないため、力fzは弾性支持部6のばね定数kに応じた一定の割合で変化する。ここで、h1は
図2(b)に示すように、櫛歯40bの段差部分の高さ(Z方向の長さ)と、櫛歯30bの高さ(Z方向の長さ)との差分である。一方、この非作動領域からZ<0の領域またはh1<Zの領域(以下、作動領域と称する)に遷移する際には、前述のように固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間にZ方向のずれが生じることで、可動電極4a、4bと固定電極3a、3bとの間にZ方向の静電力が働く。そのため、グラフ51に示すように、非作動領域と作動領域との境界(Z=0、Z=h1)において力fzが急激に変化する。このときの力fzの変化量f0は、静電力ギャップと呼ばれる。
【0018】
本実施形態の振動発電素子1では、前述のように可動電極4a、4bの櫛歯40a、40bに段差を設けることで、上記のように可動電極4a、4bと固定電極3a、3bとの間にZ方向の静電力が働かない非作動領域、すなわち静電容量が変化しない領域を設けている。これにより、少なくとも可動電極4a、4bがZ=0の静止状態から正Z方向に動き出す際には、静電力ギャップを乗り越える必要がないため、小さな加速度でも可動電極4a、4bの振動を開始することができる。また、可動電極4a、4bの振動が開始された後は、その運動エネルギーによって静電力ギャップを乗り越え、h1<Zの作動領域に進入することができる。したがって、本実施形態の振動発電素子1を用いることにより、加振の加速度が小さい場合でも発電が可能となる。
【0019】
ここで、本実施形態の振動発電素子1に対する比較例として、上記のような静電容量が変化しない領域を設けない場合の例を説明する。
図4は、比較例に係る振動発電素子1Aの概略構成を示す平面図である。
図4の振動発電素子1Aは、
図1に示した第1の実施形態に係る振動発電素子1と同様に、ベース2、固定電極3aおよび3b、可動電極4aおよび4b、可動部5、弾性支持部6、接続パッド部7を備えている。また、振動発電素子1Aには、負荷9が接続されている。
【0020】
図5は、比較例に係る振動発電素子1Aにおける固定電極3bおよび可動電極4bの部分拡大図であり、
図4の対象部分200を拡大して示している。
図5において、(a)は対象部分200の上面図、(b)は対象部分200の正面図、(c)は対象部分200の斜視図をそれぞれ示している。
図4および
図5に示すように、振動発電素子1Aでは、可動電極4bの櫛歯40bにおいて、振動発電素子1のような段差が設けられていない。なお、
図5では対象部分200に含まれる櫛歯40bのみを図示しているが、可動電極4bの他の櫛歯40bや可動電極4aの櫛歯40aも同様に、段差が設けられていない。
【0021】
図6は、比較例に係る振動発電素子1Aにおける可動電極4a、4bのZ方向の変位量と可動電極4a、4bに作用する力との関係を示す図である。比較例では、可動電極4a、4bがZ方向に振動したときに可動電極4a、4bに作用するZ方向の力fzは、
図6のグラフ52に示すように変化する。
【0022】
比較例では、上記のように可動電極4a、4bの櫛歯40a、40bに段差が設けられていないため、
図3のグラフ51で説明したような非作動領域がグラフ52において存在しない。そのため、可動電極4a、4bがZ=0の静止状態から正Z方向または負Z方向に動き出す際には、以下の式(1)を満たすことで静電力ギャップを乗り越える必要がある。なお、式(1)において、mは振動発電素子1Aの可動部位(可動電極4a、4bおよび可動部5)の質量を表し、aは振動の加速度を表している。また前述のように、f0は静電力ギャップの大きさを表している。
|−m・a|≧f0 ・・・(1)
【0023】
以上説明したように、比較例では振動の加速度が小さいと、可動電極4a、4bがZ=0の静止状態から動き出すことができない。したがって、比較例による振動発電素子1Aを用いると、第1の実施形態による振動発電素子1を用いた場合とは異なり、加振の加速度が小さい場合には発電を行うことができない。
【0024】
次に
図7、8を参照して、本発明の具体的な効果について説明する。
図7、8は、比較例による振動発電素子1Aを用いた場合と、第1の実施形態による振動発電素子1を用いた場合とで、可動電極4a、4bの振幅と出力電力との関係を示す図である。
図7(a)、(b)は、振動発電素子1Aに1600m/s
2の加速度を0.1msのパルス幅で印加したときの可動電極4a、4bの振幅と出力電力のシミュレーション結果をそれぞれ示している。
図7(c)、(d)は、振動発電素子1に1600m/s
2の加速度を0.1msのパルス幅で印加したときの可動電極4a、4bの振幅と出力電力のシミュレーション結果をそれぞれ示している。
図8(a)、(b)は、振動発電素子1Aに800m/s
2の加速度を0.5msのパルス幅で印加したときの可動電極4a、4bの振幅と出力電力のシミュレーション結果をそれぞれ示している。
図8(c)、(d)は、振動発電素子1に800m/s
2の加速度を0.5msのパルス幅で印加したときの可動電極4a、4bの振幅と出力電力のシミュレーション結果をそれぞれ示している。
【0025】
1600m/s
2×0.1msの加速度パルスを印加した場合には、加速度が比較的大きいため、比較例による振動発電素子1Aを用いた場合でも、
図7(a)に示すように、可動電極4a、4bが静止状態から静電力ギャップを乗り越えて振動する。その結果、
図7(b)に示すように、振動発電素子1Aでもある程度の出力電力を得ることができる。一方、第1の実施形態による振動発電素子1を用いた場合には、前述の非作動領域で可動電極4a、4bが加速を開始できるため、
図7(c)に示すように、振動発電素子1Aを用いた場合よりも可動電極4a、4bの振幅が大きい。その結果、
図7(d)に示すように、振動発電素子1Aを用いた場合よりも大きな出力電力を振動発電素子1から得ることができる。
【0026】
800m/s
2×0.5msの加速度パルスを印加した場合には、加速度が比較的小さいため、比較例による振動発電素子1Aを用いると、
図8(a)に示すように、可動電極4a、4bが静止状態から静電力ギャップを乗り越えて振動することができない。その結果、
図8(b)に示すように、振動発電素子1Aでは出力電力が0となってしまう。一方、第1の実施形態による振動発電素子1を用いた場合には、
図8(c)に示すように、小さな加速度でも可動電極4a、4bが振動する。その結果、
図8(d)に示すように、振動発電素子1Aでは得られない出力電力を振動発電素子1から得ることができる。
【0027】
次に、
図9〜18を参照して、振動発電素子1の形成方法について説明する。
図9〜18は、本発明の第1の実施形態に係る振動発電素子1を形成する加工プロセスの一例を説明する図である。なお、
図9〜18では、
図1に示した振動発電素子1のベース2、固定電極3bおよび可動電極4bの一部分が形成される様子を示している。
【0028】
図9(a)は、振動発電素子1の形成に用いるSOI(Silicon On Insulator)基板の平面図であり、
図9(b)は、
図9(a)のA−A断面図である。振動発電素子1は、たとえば
図9(a)のようなSOI基板を用いて、一般的なMEMS加工技術により形成される。SOI基板は、ハンドル層が形成される下部Si層31と、BOX層が形成されるSiO
2層32と、デバイス層が形成される上部Si層33とを重ねて構成されている。なお、Si基板では接続パッド部となる部分の金属への密着性向上や、導電性の改善のために、適宜ドーピングを行ったものが用いられる場合がある。このドーピングは、P型、N型いずれの特性であっても本件の発明においては問題ない。
【0029】
図10(a)は、第1のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図10(b)は、
図10(a)のB−B断面図である。第1のステップでは、上部Si層33の上にレジストを塗布した後、
図10に示すように、フォトマスクを用いたフォトリソ加工によりレジストパターン35a、35bを形成する。その後ハードベーキングを行い、レジストパターン35a、35bを硬化させる。
【0030】
図11(a)は、第2のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図11(b)は、
図11(a)のC−C断面図である。第2のステップでは、第1のステップでレジストパターン35a、35bが形成された上部Si層33の上にアルミを蒸着した後、
図11に示すように、フォトマスクを用いたフォトリソ加工によりアルミパターン36a、36bを形成する。
【0031】
図12(a)は、第3のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図12(b)は、
図12(a)のD−D断面図である。第3のステップでは、第1および第2のステップを経た上部Si層33に対してDRIE(Deep Reactive Ion Etching)加工を行うことで、
図12に示すように、固定電極3bおよび可動電極4bを形成する。
【0032】
図13(a)は、第4のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図13(b)は、
図13(a)のE−E断面図である。第4のステップでは、アルミエッチングを行うことで、第3のステップで形成された固定電極3bおよび可動電極4b上にあるアルミパターン36a、36bを除去する。
【0033】
図14(a)は、第5のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図14(b)は、
図14(a)のF−F断面図である。第5のステップでは、第3のステップで形成された可動電極4bに対してわずかにDRIE加工を行うことで、
図14に示すように、段差構造を有する櫛歯40bを形成する。
【0034】
図15(a)は、第6のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図15(b)は、
図15(a)のG−G断面図である。第6のステップでは、レジストエッチングを行うことで、第3のステップで形成された固定電極3bおよび可動電極4b上にあるレジストパターン35a、35bを除去する。この第6のステップを終えると、SOI基板の表面すなわちデバイス層の加工が完了する。
【0035】
図16(a)は、第7のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図16(b)は、
図16(a)のH−H断面図である。第7のステップでは、下部Si層31に対してフォトリソ加工およびDRIE加工を行うことで、ベース2を形成する。
【0036】
図17(a)は、第8のステップにおけるSOI基板の平面図であり、
図17(b)は、
図17(a)のI−I断面図である。第8のステップでは、SiO
2層32に対してエッチングを行い、不要な部分を除去する。この第8のステップを終えると、SOI基板の加工が完了する。
【0037】
図18は、加工が完了したSOI基板の斜視図である。
図18に示すような形状に加工されたSOI基板に対して、熱酸化処理、窒化膜エッチング、BT処理(帯電処理)等を行うことで、固定電極3bと可動電極4bの少なくとも一方にエレクトレットが形成される。その後パッケージングを経て、振動発電素子1が完成する。
【0038】
以上説明した本発明の第1の実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0039】
(1)振動発電素子1は、固定電極3aおよび3bと、固定電極3aおよび3bに対して所定の振動方向にそれぞれ可動する可動電極4aおよび4bとを備える。固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの対向面の少なくとも一方がそれぞれ帯電されており、可動電極4a、4bの変位により固定電極3a、3bと可動電極4a、4bとの間の静電容量が変化することで発電する。振動発電素子1において、可動電極4a、4bの振動中心を少なくとも含む部分に、可動電極4a、4bが変位しても静電容量が変化しない非作動領域を設けている。このようにしたので、加振の加速度が小さい場合でも発電可能な振動発電素子1を実現することができる。
【0040】
(2)固定電極3a、3bおよび可動電極4a、4bは、櫛歯30a、30bと櫛歯40a、40bとをそれぞれ有する櫛歯電極である。そのため、小型で高い発電能力を有する振動発電素子1を実現することができる。
【0041】
(3)可動電極4a、4bの振動方向は、櫛歯電極の各櫛歯30a、30bおよび40a、40bの延伸方向および配列方向に対して垂直なZ方向である。このようにしたので、X方向およびY方向に対する弾性支持部6のばね定数を大きくして、可動電極4a、4bのプルイン強度を大きくすることができる。そのため、エレクトレットの電荷量を大きく設定して、振動発電素子1の発電能力をより一層向上することができる。
【0042】
(4)振動発電素子1では、櫛歯電極である可動電極4a、4bの各櫛歯40a、40bの少なくとも一部分において振動方向すなわちZ方向に段差部分を設けることで、静電容量が変化しない非作動領域を設けた。このようにしたので、加工が容易な構造により振動発電素子1に非作動領域を設けることができる。
【0043】
−第2の実施形態−
次に本発明の第2の実施形態について説明する。
図19は、本発明の第2の実施形態に係る振動発電素子における電極構造を示す図である。本実施形態の振動発電素子では、
図19に示すように、固定電極21と可動電極22とが対向して設置されている。なお、
図19では、固定電極21と可動電極22以外の振動発電素子の構成については、図示を省略している。
【0044】
可動電極22は、不図示の弾性支持部により、固定電極21に対して図の左右方向(X方向)にスライド移動できるように支持されている。固定電極21と可動電極22には、X方向に沿って凸部21a、22aがそれぞれ所定間隔ごとに対向して設けられている。
図19に示すように、X方向における可動電極22の各凸部22aの幅は、固定電極21の各凸部21aの幅よりも小さく設定されている。
【0045】
固定電極21の各凸部21aと可動電極22の各凸部22aの少なくとも一方には、それぞれの対向面の表面近傍にエレクトレットが形成されている。これにより、固定電極21と可動電極22の対向面の少なくとも一方が帯電されている。
【0046】
環境中の振動によって本実施形態の振動発電素子がX方向成分を含む方向に揺り動かされると、固定電極21に対して可動電極22がX方向に振動して変位する。その結果、固定電極21の凸部21aと可動電極22の凸部22aとの間にX方向のずれが生じると、これらの間の対向面積が変化することで、固定電極21と可動電極22との間の静電容量が変化する。これとエレクトレットの誘導電荷により、固定電極21と可動電極22との間の電圧が変化して起電力が発生することで、本実施形態の振動発電素子の発電が行われる。
【0047】
図20は、本発明の第2の実施形態に係る振動発電素子における可動電極22のX方向の変位量と可動電極22に作用する力との関係を示す図である。本実施形態では、可動電極22がX=0の位置を振動中心としてX方向にそれぞれ振動したときに可動電極22に作用するX方向の力fxは、
図20のグラフ53に示すように変化する。
図20において、横軸はX方向の変位量を表し、縦軸は力fxの大きさを表している。
【0048】
本実施形態では、グラフ53に示すように、可動電極22の振動中心であるX=0の位置を含む−h2≦X≦h2の領域が、第1の実施形態で説明した非作動領域に相当する。この非作動領域では、可動電極22と固定電極21との間にX方向の静電力が働かないため、力fxは弾性支持部のばね定数に応じた一定の割合で変化する。ここで、h2は
図19に示すように、可動電極22の凸部22aの左右端から、固定電極21の凸部21aの左右端までの長さである。一方、この非作動領域からX<−h2の作動領域またはh2<Xの作動領域に遷移する際には、前述のように固定電極21と可動電極22との間にX方向のずれが生じることで、可動電極22と固定電極21との間にX方向の静電力が働く。そのため、グラフ53に示すように、非作動領域と作動領域との境界(X=−h2、X=h2)において静電力ギャップf0が生じ、力fxが急激に変化する。
【0049】
本実施形態の振動発電素子では、前述のように、X方向における可動電極22の各凸部22aの幅を、固定電極21の各凸部21aの幅よりも小さく設定することで、上記のように可動電極22と固定電極21との間にX方向の静電力が働かない非作動領域、すなわち静電容量が変化しない領域を設けている。これにより、第1の実施形態で説明した振動発電素子1と同様に、小さな加速度でも可動電極22の振動を開始することができる。また、可動電極22の振動が開始された後は、その運動エネルギーにより静電力ギャップを乗り越えて作動領域に進入することができる。したがって、本実施形態の振動発電素子においても、第1の実施形態と同様に、加振の加速度が小さい場合でも発電が可能となる。
【0050】
以上説明した本発明の第2の実施形態によれば、固定電極21および可動電極22には、振動方向であるX方向に沿って凸部21a、22aがそれぞれ所定間隔ごとに対向して設けられており、X方向における固定電極21の凸部21aの幅と、可動電極22の凸部22aの幅とを互いに異ならせることで、静電容量が変化しない領域を設けた。このようにしたので、第1の実施形態と同様に、簡単な構造で振動発電素子に非作動領域を設けることができる。
【0051】
なお、以上説明した本発明の第2の実施形態において、
図19とは反対に、X方向における可動電極22の各凸部22aの幅を、固定電極21の各凸部21aの幅よりも大きく設定してもよい。このようにしても、上記の作用効果を得ることができる。
【0052】
また、本発明による振動発電素子の構造は、第1、第2の各実施形態で説明したものに限定されない。たとえば、可動電極と固定電極とが対向して配置され、可動電極がこの対向面に沿って面方向に振動可能な構造の振動発電素子や、可動電極が固定電極に対して回転方向に振動可能な構造の振動発電素子において、本発明を適用してもよい。また、両方の電極を可動電極としてもよい。少なくとも一方が可動する一対の電極が対向して配置されており、その対向面の少なくとも一方が帯電された振動発電素子において、一方の電極の振動中心を少なくとも含む部分に、当該電極が変位しても一対の電極間の静電容量が変化しない領域を設けることで、どのような構造の振動発電素子であっても本発明を適用することができる。
【0053】
上述した各実施形態および変形例は、それぞれ単独で適用してもよいし、あるいは組み合わせて用いてもよい。また、上記の各実施形態はあくまで一例であるため、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記の各実施形態に何ら限定されるものではない。