【実施例1】
【0027】
図1に示す爆発溶射装置を使用し、溶射用の粉体として各種窒化アルミニウム粒子を用いて窒化アルミニウム皮膜の形成試験を行い、形成された窒化アルミニウム皮膜中の窒化アルミニウム残存率(AlN残存率)、気孔率、表面抵抗率、密着力を測定した。また、形成された窒化アルミニウム皮膜の組織観察を行った。AlN残存率は、酸化アルミニウムに変化しなかった窒化アルミニウムの割合を示しており、X線回折装置による組成分析を行った後、(コランダム型酸化アルミニウム(α-Al
2O
3)の(113)面およびスピネル型酸化アルミニウム(γ-Al
2O
3)の(004)面のピーク強度合算値)を(窒化アルミニウムの(100)面のピーク強度)により除して算出した。気孔率は、電子顕微鏡を用いて、1000倍で観察した断面写真を画像処理して2値化後、気孔部分の面積率から算出した。表面抵抗率は、三菱化学アナリテック社製高抵抗率計MCP-HT800により測定した。密着力は、φ20mmの軟鋼ロッドを用いてJISH8300の引張密着強さ試験方法A法に準じて測定した。本窒化アルミニウム皮膜の形成試験において、爆発溶射装置は、燃料ガスとしてエチレンガス、不活性ガスとしてアルゴンガスを使用し、運転周波数は150Hz、エチレンガスの設定圧力は0.6MPa、酸素ガスの設定圧力は0.6MPa、エチレンガスと酸素ガスのガス構成比は1.25エチレン+3酸素とした。爆発溶射装置において、ノズル長さはa=450mm、溶射距離はb=100mm、溶射用の粉体の供給量は10g/minであった。基材はステンレス鋼(SUS304)を使用した。なお、爆発溶射装置のノズル長さ、溶射距離又は溶射用の粉体の供給量が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響、また、基材の材質が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響は、以下に説明する。
【0028】
窒化アルミニウム皮膜の形成試験の結果を
図3に示す。
図3において、横軸は溶射用の粉体の平均粒子径、縦軸はAlN残存率又は気孔率を示す。
図3において、溶射用の粉体は、株式会社高純度化学研究所製窒化アルミニウム粉末(平均粒子径1μm(品名: ALI14PB)(単粒粉))、株式会社トクヤマ製窒化アルミニウム粉末(平均粒子径1(品名:AlN1μmフィラー)、5(品名: AlN 5μmフィラー)μm(単粒粉)、50(品名: AlN 50μmフィラー)、80(品名: AlN 80μmフィラー)μm(造粒粉))、古河電子株式会社製窒化アルミニウム粉末(平均粒子径30(品名:FAN-f30)、50(品名:FAN-f50)、80μm (品名:FAN-f80) (造粒粉))を使用した。
図3によると、AlN残存率曲線は、平均粒子径に対しAlN残存率がほぼ直線的に増加するA部分(1〜30μm部分)、平均粒子径に対しAlN残存率がほぼ直線的に減少するB部分(30〜80μm)からなり、平均粒子径30μmにピークを有する山形をしている。なお、造粒粉とは平均粒子径が1μm〜5μmの窒化アルミニウム単粒粉を公知の方法で所定の平均粒子径を有するように造粒したものである。
【0029】
図3によると、溶射用の粉体が5μm以下の微細な単粒粉ではAlN残存率が25%に達しない。一方、単粒粉を造粒したものはAlN残存率が高く、平均粒子径が20〜60μmにおいてAlN残存率は70%以上、平均粒子径が25〜45μmにおいてAlN残存率は80%以上になることが分かる。そして、AlN残存率曲線がピークを示す平均粒子径30μmにおいて、AlN残存率96%となることが分かる。このAlN残存率96%となる窒化アルミニウム皮膜は、表面抵抗率1011Ω/sq、密着力6〜11MPaであった。なお、
図3に示すAlN残存率曲線を詳しく観察すると、直線状のA部分は平均粒子径5μmにおいて屈曲しており、1〜5μmの単粒粉部分の勾配に対し5〜30μm部分の勾配が大きくなっている。すなわち、AlN残存率曲線のピークは、30μmより小さい平均粒子径側にあり、AlN残存率は96%より高くなる可能性がある。
【0030】
また、
図3によると、気孔率曲線は、概して下に凸の曲線状をしており、気孔率は、平均粒子径が1〜30μmにおいて0.6%以下、平均粒子径が1〜50μmにおいて1.3%以下、平均粒子径が1〜60μmにおいて約2%以下であることが分かる。
【0031】
図4に、溶射用の粉体に平均粒子径が30μmの造粒粉を使用し、膜厚が約50μmの窒化アルミニウム皮膜を形成したものの組織を示す。
図4(b)及び(c)によると、平均粒子径が5μmに近いものが多いが、1〜5μmの大径粒子が島状に点在し、その大径粒子の隙間を埋めるように0.1〜0.5μmの微細粒子が集積した組織をしている。大径粒子の形状は、球形に近いものから扁平なものまであり、微細粒子は球形に近いものが多い。また、造粒粉は観察されない。かかる組織を観察すると、窒化アルミニウム皮膜は、爆発溶射により造粒粉がほとんど単粒粉(素材窒化アルミニウム粒子)まで崩壊したものと、さらにその素材窒化アルミニウム粒子が微細な粒子にまで崩壊したものから形成されている。かかる組織により緻密な窒化アルミニウム皮膜が形成されるものと解される。
【0032】
この窒化アルミニウム皮膜の形成は、基材に直接形成可能であるが、まず基材に下地処理をした後に行うのが好ましい。例えば、ニッケル-アルミニウム合金、ニッケル-クロム合金、アルミニウム合金又は酸化アルミニウムからなる下地処理をすることができる。ステンレス鋼からなる基材において、厚さ10μm〜30μmのニッケル-アルミニウム合金の下地処理をすることができる。かかる下地処理をすることにより、窒化アルミニウム皮膜の密着力を確保することができ、亀裂の発生を防止することができる。また、窒化アルミニウム皮膜を補修・再生する場合に剥離・洗浄が容易になるという効果がある。
【0033】
以下、本爆発溶射装置のノズル長さ、溶射距離又は溶射用の粉体の供給量が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響、また、基材の材質が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響について説明する。
図5は、爆発溶射装置のノズル長さが窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響を示すグラフである。
図5において、横軸はノズル長さ、縦軸はAlN残存率又は気孔率を示す。
図5によると、AlN残存率曲線は概して上に凸の曲線状をしており、AlN残存率はノズル長さが450mmのとき最大で、96%になっている。一方、気孔率曲線は、概して下に凸の曲線状をしており、気孔率はノズル長が450mmのとき最小で、0.6%になっている。また、ノズル長さが150mmの場合は、AlN残存率が86%、気孔率が4%である。ノズル長さが500mmの場合は、AlN残存率がノズル長さ450mmと同等以上、気孔率はノズル長さ450mmと同等以下である。なお、
図5は、爆発溶射装置の溶射距離100mm、粉体供給量10g/min、溶射用の粉体が平均粒子径30μmの造粒粉を使用して溶射を行った結果をまとめたものである。
【0034】
図6は、爆発溶射装置の溶射距離が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響を示すグラフである。
図6において、横軸は溶射距離、縦軸はAlN残存率又は気孔率を示す。
図6によると、概して、AlN残存率曲線は上に凸の曲線状、気孔率曲線は下に凸の曲線状をしており、溶射距離が100mmのときが最も好ましい。溶射距離が100mmにおいて、AlN残存率96%、気孔率0.6%である。また、
図6によると、溶射距離は一定の長さが必要であり、近すぎると好ましくないように解される。なお、
図6は、爆発溶射装置のノズル長さ450mm、粉体供給量10g/min、溶射用の粉体が平均粒子径30μmの造粒粉を使用して溶射を行った結果をまとめたものである。
【0035】
図7は、爆発溶射装置に供給する粉体供給量が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響を示すグラフである。
図7において、横軸は粉体供給量、縦軸はAlN残存率又は気孔率を示す。
図7によると、粉体供給量が10g/minのときが最も好ましく、粉体供給量が10g/minにおいて、AlN残存率96%、気孔率0.6%である。また、
図7によると、粉体供給量は一定量以上が必要であるように解される。なお、
図7は、爆発溶射装置のノズル長さ450mm、溶射距離100mm、溶射用の粉体が平均粒子径30μmの造粒粉を使用して溶射を行った結果をまとめたものである。
【0036】
表1に、基材の材質が窒化アルミニウム皮膜の形成に与える影響を示す。表1は、溶射用の粉体として株式会社トクヤマ製の平均粒子径5μmの窒化アルミニウム単粒粉を使用して、表1の基材材質欄に示す各基材に窒化アルミニウム皮膜を形成する試験を行った結果である。表1によると、概して熱伝導率の高い基材ほど、形成した皮膜のAlN残存率が高くなる傾向があり、純銅においてはAlN残存率が32%で最も高い。しかしながら、ステンレス鋼においては、AlN残存率が23%で、純アルミニウム(27%)や高純度アルミナ焼結体(24%)の場合と比較してやや低い程度であり、また、気孔率は0.6%である。
【0037】
【表1】
【0038】
以上、
図4〜
図6の結果と、ステンレス鋼が耐食性に優れ各種装置の構造部材として広く使用されていることを考慮し、爆発溶射装置においては、ノズル長さは450mm、溶射距離は100mm、溶射用の粉体の供給量は10g/minとし、基材はステンレス鋼(SUS304)を使用することにより、上記窒化アルミニウム皮膜の形成試験(
図3、
図4)を行った。本窒化アルミニウム皮膜の皮膜製造方法によれば、窒化アルミニウム皮膜の窒化アルミニウム残存率を80%〜98%にすることができ、表面抵抗率を10
8Ω/sq〜10
15Ω/sqにすることができる。また、ワンパスの溶射により50〜80μmの窒化アルミニウム皮膜の形成が可能であり、複数パスの溶射を行うことにより100μm〜300μmの窒化アルミニウム皮膜を形成することができる。本窒化アルミニウム皮膜製造方法により、半導体製造装置用耐プラズマ部品の製造も可能であり、また、静電チャックや絶縁基板などを製造することができる。