【課題】低加湿低負荷条件及び高加湿高負荷条件のいずれの条件下であっても、高い性能を発揮でき、かつ、高い耐久性を有する燃料電池用触媒層、及びこれを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明のある観点によれば、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体炭素材料と、電解質材料とが主成分として凝集した触媒凝集相と、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料が主成分として凝集したガス拡散凝集相と、を含む燃料電池用触媒層が提供される。ここで、ガス拡散凝集相は、触媒凝集相内に分散している。また、触媒担体炭素材料は、Gバンドの半値幅、BET比表面積S
【背景技術】
【0002】
燃料電池の一種である固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に配置される一対の触媒層と、各触媒層の外側に配置されるガス拡散層と、各ガス拡散層の外側に配置されるセパレータとを備える。一対の触媒層のうち、一方の触媒層は固体高分子形燃料電池のアノードとなり、他方の触媒層は固体高分子形燃料電池のカソードとなる。なお、通常の固体高分子形燃料電池では、所望の出力を得るために、上記構成要素を有する単位セルが複数個スタックされている。
【0003】
アノード側のセパレータには、水素等の還元性ガスを導入される。アノード側のガス拡散層は、還元性ガスを拡散させた後、アノードに導入する。アノードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質樹脂とを含む。触媒成分上では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H
2→2H
++2e
− (E
0=0V)
【0004】
この酸化反応で生じたプロトンは、アノード内の電解質樹脂、及び固体高分子電解質膜を通ってカソードに導入される。また、電子は、触媒担体、ガス拡散層、及びセパレータを通って外部回路に導入される。この電子は、外部回路で仕事をした後、カソード側のセパレータに導入される。そして、この電子は、カソード側のセパレータ、カソード側のガス拡散層を通ってカソードに導入される。
【0005】
固体高分子形電解質膜は、プロトン伝導性を有する電解質樹脂で構成されている。固体高分子電解質膜は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードに導入する。
【0006】
カソード側のセパレータには、酸素ガスあるいは空気等の酸化性ガスが導入される。カソード側のガス拡散層は、還元性ガスを拡散させた後、カソードに導入する。カソードは、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体と、プロトン伝導性を有する電解質樹脂とを含む。触媒成分上では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。
O
2+4H
++4e
−→2H
2O (E
0=1.23V)
【0007】
還元反応で生じた水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池の外部に排出される。このように、固体高分子形燃料電池では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0008】
従って、固体高分子形燃料電池では、各セパレータのガス流路からアノードあるいはカソード内部の触媒成分まで還元性ガスあるいは酸化性ガスが移動できるガス拡散経路が分断されることなく形成されていることが重要である。さらに、アノードの触媒成分上で発生したプロトンが固体高分子電解質膜を通ってカソードの触媒成分まで移動できるプロトン伝導経路も分断されることなく形成されていることも重要である。さらに、アノードの触媒成分上で発生した電子が外部回路を通ってカソードの触媒成分まで移動できる電子伝導経路も分断されることなく形成されていることも重要である。これらの経路が分断されていると、固体高分子形燃料電池から効率よく電流を取り出すことができない。
【0009】
このため、触媒層では、ガス拡散経路を構成する気孔、プロトン伝導経路を構成する電解質樹脂、及び電子伝導経路を構成する触媒担体がそれぞれ連続したネットワークを形成していることが重要となる。
【0010】
また、従来の固体高分子形燃料電池では、固体高分子電解質膜及び各触媒層に含まれる電解質樹脂として、パーフルオロスルホン酸ポリマーに代表されるイオン交換樹脂が用いられている。これらのイオン交換樹脂は、十分な湿潤環境下で初めて高いプロトン伝導性を発現し、乾燥環境下ではプロトン導電性が低下してしまう。したがって、効率良く固体高分子形燃料電池を作動させるためには、電解質樹脂が十分な湿潤状態(言い換えれば、加湿状態)になっていることが必須である。
【0011】
したがって、上記の事項を考慮して固体高分子形燃料電池を設計する必要がある。ここで、電解質樹脂の加湿状態を維持する方法として、還元性ガス及び酸化性ガスを予め加湿した後にセパレータに供給する方法が知られている。この方法では、還元性ガス及び酸化性ガスを所定温度に保温された水中に通すことで加湿する。また、他の方法としては、予め所定温度に保温された水を直接セルに供給する方法が知られている。いずれの方法においても、水を所定温度に保温するための加湿器を固体高分子形燃料電池とは別に用意する必要がある。
【0012】
上記の方法によれば、例えば還元性ガス及び酸化性ガスの湿度を飽和水蒸気圧に近い高湿度状態に維持することで、電解質樹脂を高い(すなわち、十分な)加湿状態に維持することができる。すなわち、電解質樹脂のプロトン導電性を良好な状態に保つことができる。しかし、大電流密度を発電するような高負荷運転時には、カソードで大量の水蒸気が発生する。そして、カソード内で発生した大量の水蒸気は、カソード内で凝集し、ガス拡散経路を閉塞してしまう。この結果、燃料電池の性能が大幅に低下してしまう。このような現象は、フラッディングと呼ばれる。すなわち、高加湿高負荷条件下では、フラッディングが発生する可能性がある。
【0013】
その一方で、固体高分子形燃料電池が適用されるシステム(以下、「固体高分子形燃料電池システム」とも称する)のエネルギー効率を高くするという観点、あるいは固体高分子形燃料電池システムの小型軽量化の観点からは、当該固体高分子形燃料電池システムに加湿器を搭載しないか、あるいは、必要最低限の加湿性能だけを有する加湿器を当該固体高分子形燃料電池システムに設置することが望まれている。固体高分子形燃料電池システムに加湿器を搭載しない場合、及び必要最低限の加湿性能だけを有する加湿器を搭載した場合、電解質樹脂の加湿状態が恒常的に低下する。
【0014】
さらに、固体高分子形燃料電池システムに十分な加湿性能を有する加湿器を搭載した場合であっても、固体高分子形燃料電池の起動時においては、加湿器が十分に暖まっていない場合がありうる。また、負荷条件の変動時には、加湿器が負荷条件の変動に追従しきれない場合がある。いずれの場合にも、電解質樹脂の加湿状態が一時的に低くなってしまう。
【0015】
そして、電解質樹脂の加湿状態が低くなった場合、プロトン伝導抵抗が大きく上昇する。特に、カソードで水の発生が少ない低負荷運転時には、この傾向が顕著に現れる。したがって、低加湿低負荷条件下では、プロトン伝導性が大きく上昇する。
【0016】
このように、固体高分子形燃料電池は、常に好適な環境(すなわち、電解質樹脂の加湿状態が良好で、かつ、負荷が中程度となる環境)で使用できるとは限らない。そして、特に、固体高分子形燃料電池にとって過酷な条件である高加湿高負荷条件や低加湿低負荷条件下では、固体高分子形燃料電池の出力が大幅に低下する可能性がある。
【0017】
このため、高加湿高負荷条件や低加湿低負荷条件下であっても高い性能を発揮でき、ひいては、制御や運転が容易な固体高分子形燃料電池が望まれている。
【0018】
そこで、従来では、低加湿条件下での触媒層及び固体高分子電解質膜の乾燥を防止するために、ガス拡散層や触媒層に親水性を付与する技術、あるいはガス拡散層と触媒層の間に親水性の中間層を配置する技術が提案されている。
【0019】
例えば、特許文献1に開示された技術では、触媒層に親水性を付与する技術が開示されている。具体的には、特許文献1では、電解質樹脂の加湿状態が低下した場合であっても高い電池性能を維持するために、アノードの触媒担体としてゼオライト及びチタニアを使用することが開示されている。
【0020】
また、特許文献2には、低温雰囲気下での始動性を改善させるために、アノードに水分保湿剤を含有させる技術が開示されている。また、特許文献2には、水分保湿剤として、親水化処理されたカーボンブラック等が開示されている。さらに、特許文献3には、広範囲な加湿条件に対応可能な固体高分子形燃料電池を提供するために、触媒層中に疎水性粒子を担持した親水性粒子を含有させることが開示されている。また、特許文献4〜7には、上記フラッディングを防止し、ガス拡散性を向上するために、触媒成分を担持していない疎水性炭素材料を凝集させて触媒層中に分散させる技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、特許文献1及び特許文献3では、親水性であるが導電性を持たない材料を触媒層中に含有するため、これらの材料が電子伝導経路を分断してしまう。したがって、これらの文献に開示された技術では、固体高分子形燃料電池の内部抵抗が増大するという問題があった。
【0023】
また、特許文献2では、親水化処理されたカーボンブラックを触媒担体として使用しているが、親水性の程度(親水化処理の程度)については記載も示唆もされていない。発明者らの検討によれば、親水化処理されたカーボンブラックを触媒層に含ませた場合、確かに低加湿条件で優れた保水能力を示す。しかし、高加湿条件下(特に、高加湿高負荷条件下)では、やはりフラッディングの問題が生じてしまうことが明らかになった。すなわち、単に触媒層に親水性の材料を含めただけでは、触媒層の保水能力が足りないという問題、あるいは触媒層の保水能力が高すぎてフラッディングが生じるという問題があった。
【0024】
特許文献4〜7では、触媒成分を担持していない疎水性炭素材料を凝集させて触媒層中に分散させる。これにより、触媒層中におけるガスの拡散性を向上させている。しかしながら、特許文献4、5では、高加湿条件下での性能は高いものの、低加湿条件下(特に、低加湿低負荷条件下)では、電解質樹脂が乾燥しやすく、プロトン伝導性が低下するという問題があった。
【0025】
特許文献6、7には、高加湿高負荷条件でも低加湿低負荷条件でも高い性能を有する固体高分子形燃料電池が開示されている。具体的には、特許文献6、7には、触媒成分を担持する触媒担体として1000m
2/g以上の比表面積を有する炭素材料を使用することが開示されている。このような炭素材料は、低加湿条件下で炭素材料近傍の電解質樹脂を保水するには好都合である。しかし、固体高分子形燃料電池を長期にわたって使用した場合、当該炭素材料が酸化消耗しやすいという問題があった。このため、特許文献6、7に開示された固体高分子形燃料電池は、耐久性が低くなるという問題があった。さらに、特許文献6には、比表面積が1000m
2/g未満の炭素材料を触媒担体として使用する例も開示されている。しかし、このような触媒担体に疎水性炭素材料を組み合わせた場合、触媒層の保水力が低くなってしまうという問題があった。したがって、特許文献6に開示された固体高分子形燃料電池では、低加湿条件下で満足な性能を得ることができなかった。
【0026】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、低加湿低負荷条件及び高加湿高負荷条件のいずれの条件下であっても、高い性能を発揮でき、かつ、高い耐久性を有する燃料電池用触媒層、及びこれを用いた燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者らは、以上の課題を解決するための手段について種々検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
1.触媒層のフラッディングを抑制し、かつ、ガス拡散性を高めるために、触媒成分を担持する触媒担体炭素材料と、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料とを用いて触媒層を構成する。さらに、ガス拡散炭素材料の凝集相を触媒層内に分散させる。
2.燃料電池の耐久性を高めるために、触媒担体炭素材料には、高い耐酸化消耗性を有する炭素材料、すなわち高い黒鉛化度を有する炭素材料を用いる。
3.高い耐酸化消耗性を有する炭素材料を触媒担体炭素材料として用いると、触媒層の保湿性能が低下する傾向がある。このため、保水機能を有するガス拡散炭素材料を使用する。すなわちガス拡散炭素材料は、ガス拡散機能と保水機能を併せ持つ。
4.具体的には、ガス拡散炭素材料は、一定量のミクロ孔を有し、かつ表面がある程度の親水性を有する。このような構造を有するガス拡散炭素材料は、ミクロ孔内で水を保持することができる。その一方で、ガス拡散炭素材料の粒子間隙は水で閉塞されづらい。
【0028】
本発明者は、上記知見を得るための過程において、炭素材料の親水性は、炭素材料表面における水の吸着点の密度によって決定されると考えた。また、本発明者は、水の吸着点は、炭素材料を構成する縮合多環芳香族骨格(以降、「グラフェン」とも称する。)の端部の炭素(以降、「エッジ炭素」と称する。)に導入された官能基であると推定した。炭素材料粒子間に形成されるメソ孔及びマクロ孔は、ガス拡散経路となりうるが、エッジ炭素に導入された官能基の数が多すぎると、ガス拡散経路となるメソ孔及びマクロ孔が水で閉塞しやすくなる。その一方で、官能基の数が少なすぎると、ミクロ孔自体に水が蓄えられない傾向にある。
【0029】
したがって、炭素材料の粒子間に形成されるメソ孔やマクロ孔が水で閉塞されず、かつ、ミクロ孔には水が蓄えられるように、炭素材料の表面状態(具体的には、炭素材料のミクロ孔の数及び官能基の数)を調整する必要がある。本発明者は、炭素材料の表面性状を調整する方法として、不活性雰囲気かつ1600℃以上のような高温環境に炭素材料を保持することを見出した。この処理方法(以下、「黒鉛化処理」とも称する)によれば、炭素材料を構成するグラフェンを大きく成長させる(すなわち、黒鉛化度を高める)ことができる。なお、炭素材料の黒鉛化度を高めることは、炭素材料の結晶性を高めることを意味する。すなわち、官能基が導入される可能性のあるエッジ炭素の量を限定することができる。ただし、この方法だけでは、炭素材料の黒鉛化が進みすぎる場合がある。この場合、官能基の数が少なすぎて、ミクロ孔自体に水が蓄えられない可能性がある。そこで、このような加熱処理の後に親水化処理を行っても良い。親水化処理によってエッジ炭素の数、すなわち官能基の数が増えすぎた場合、黒鉛化処理を再度行えばよい。なお、2回目以降の黒鉛化処理の温度は1回目の黒鉛化処理の温度よりも低くても良い。
【0030】
ただし、上記のような高温環境に炭素材料を曝すとグラフェンの成長とともにミクロ孔がつぶれる傾向にある。このため、従来のミクロ孔解析手法では、黒鉛化処理後の炭素材料のミクロ孔を判別できない可能性がある。そこで、本発明者は、このような炭素材料のミクロ孔を判別できる方法を鋭意検討し、この結果、炭素材料を2600℃以上で熱処理することで得た炭素材料を標準物質として使用することに想到した。この方法によれば、炭素材料のミクロ孔を解析することができる。この結果、最適なミクロ孔の量と官能基量とを調整することができる。本発明者は、これらの知見により本発明に想到するに至った。
【0031】
本発明のある観点によれば、触媒成分と、触媒成分を担持する触媒担体炭素材料と、電解質材料とが主成分として凝集した触媒凝集相と、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料が主成分として凝集したガス拡散凝集相と、を含み、触媒凝集相が連続体であって、ガス拡散凝集相が前記触媒凝集相内に分散しており、触媒担体炭素材料は、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅が30cm
−1超65cm
−1未満であり、BET比表面積S
BET(m
2/g)が300m
2/g超1000m
2/g未満であり、DBP吸油量X(mL/100g)とBET比表面積S
BET(m
2/g)との比X/S
BETが0.1超であり、ガス拡散炭素材料は、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅が30cm
−1超65cm
−1未満であり、DBP吸油量X(mL/100g)とBET比表面積S
BET(m
2/g)との比X/S
BETが0.2超であり、25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量Yml/gとBET比表面積S
BETとの比Y/S
BETが0.0002超0.005未満であり、tプロット解析で評価されるミクロ孔表面積が50m
2/g超800m
2/g未満であり、tプロット解析は、2600℃以上で熱処理された炭素材料を標準物質として使用して行われることを特徴とする、燃料電池用触媒層が提供される。
【0032】
ここで、触媒担体炭素材料及びガス拡散炭素材料のうち、少なくとも一方のY/S
BETは、0.0002超0.001未満であってもよい。
【0033】
また、tプロット解析で評価される外部表面積が70m
2/g超250m
2/g未満であってもよい。
【0034】
本発明の他の観点によれば、上記の触媒層を含むことを特徴とする、燃料電池が提供される。
【0035】
ここで、燃料電池は、上記の触媒層をカソード側の触媒層として含んでいてもよい。
【0036】
また、燃料電池は、固体高分子形燃料電池であってもよい。
【0037】
以上により、本発明では、触媒層の炭素材料として、触媒担体炭素材料と、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料とを使用する。そして、本発明では、触媒成分、触媒担体炭素材料、及び電解質材料を主成分として含む触媒凝集相と、ガス拡散炭素材料を含むガス拡散凝集相とを触媒層内に形成する。ここで、電解質材料は、電解質樹脂を含む概念である。そして、本発明では、ガス拡散凝集相を触媒凝集相内に分散させる。したがって、触媒凝集相は触媒層内で連続体を形成する。したがって、触媒凝集相内の気孔に、ガス拡散凝集相内の気孔で形成された連続した太いガス拡散経路を接続できる。さらに、触媒担体炭素材料及びガス拡散炭素材料によって連続した電子伝導経路が形成される。さらに、電解質材料によって連続したプロトン伝導経路が形成される。さらに、ガス伝導経路を構成するガス拡散凝集相では、ガス拡散炭素材料が触媒成分を担持していない。したがって、燃料電池を高加湿高負荷条件下で駆動した場合であっても、ガス拡散凝集相内で還元反応が起こらない。したがって、ガス拡散凝集相内でフラッディングが生じにくい。
【0038】
さらに、本発明では、ガス拡散炭素材料がある程度の親水性を有し、かつ、多くのミクロ孔を有する。ここで、ガス拡散炭素材料の親水性を決めるパラメータは、主に、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅、及びY/S
BETである。本発明では、これらのパラメータが所定範囲内の値となっているので、ガス拡散炭素材料がある程度の親水性を有する。
【0039】
したがって、ガス拡散炭素材料は、ミクロ孔内に水を保持することができる。すなわち、ガス拡散炭素材料は、低加湿低負荷条件下で燃料電池を駆動した場合に、ミクロ孔内に水を保持することができる。したがって、本発明では、低加湿低負荷条件下で燃料電池を駆動した場合であっても、電解質材料の湿潤状態を維持することができる。さらに、ガス拡散炭素材料は、ミクロ孔内に水を保持できる程度の親水性を有しているので、燃料電池を高加湿高負荷条件下で駆動した場合であっても、ガス拡散炭素材料の粒子間の隙間(マクロ孔、メソ孔等)は水で閉塞されにくい。すなわち、この点でもフラッディングは生じにくい。
【0040】
さらに、触媒担体炭素材料は、高い耐酸化消耗性を有する。触媒担体炭素材料の耐酸化消耗性を決めるパラメータは、主に、ラマン分光法により測定されるGバンドの半値幅と、BET比表面積S
BET(m
2/g)である。本発明では、これらのパラメータが所定範囲内の値となっているので、触媒担体炭素材料の耐酸化消耗性が高い。
【0041】
したがって、本発明では、低加湿低負荷条件下で燃料電池を駆動した場合であっても電解質材料の湿潤状態を維持することができる。すなわち、低加湿低負荷条件下で燃料電池を駆動した場合であっても、電解質材料の乾燥を抑制することができ、ひいては、プロトン伝導抵抗増大を抑制することができる。さらに、高加湿高負荷条件下で燃料電池を駆動した場合であってもフラッディングの発生を抑制することができる。さらに、燃料電池を長期にわたって使用した場合であっても、触媒担体炭素材料が酸化消耗しにくい。
【発明の効果】
【0042】
以上説明したように本発明による燃料電池用触媒層は、低加湿低負荷条件及び高加湿高負荷条件のいずれの条件下であっても、高い性能を発揮でき、かつ、高い耐久性を有する。したがって、本発明による燃料電池用触媒層を使用した燃料電池は、加湿条件及び負荷条件(すなわち、発電条件)によらず高い性能を発揮し、高い耐久性を有する。したがって、燃料電池システムの水分(湿度)管理が容易となるため、システム制御や運転が簡便となる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0045】
<1.燃料電池の全体構成>
まず、
図1に基づいて、本実施形態に係る燃料電池1の全体構成について説明する。燃料電池1は、例えば固体高分子形燃料電池であり、セパレータ10、20、ガス拡散層30、40、触媒層50、60、及び電解質膜70を備える。
【0046】
セパレータ10は、アノード側のセパレータであり、水素等の還元性ガスをガス拡散層30に導入する。セパレータ20は、カソード側のセパレータであり、酸素ガス、空気等の酸化性ガスをガス拡散凝集相に導入する。セパレータ10、20の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用されるセパレータであればよい。
【0047】
ガス拡散層30は、アノード側のガス拡散層であり、セパレータ10から供給された還元性ガスを拡散させた後、触媒層50に供給する。ガス拡散層40は、カソード側のガス拡散層であり、セパレータ20から供給された酸化性ガスを拡散させた後、触媒層60に供給する。ガス拡散層30、40の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用されるガス拡散層であればよい。ガス拡散層30、40の例としては、カーボンクロスやカーボンペーパー等の多孔質炭素材料、金属メッシュや金属ウール等の多孔質金属材料等が挙げられる。なお、ガス拡散層30、40の好ましい例としては、ガス拡散層のセパレータ側の層が繊維状炭素材料を主成分とするガス拡散繊維層となり、触媒層側の層がカーボンブラックを主成分とするマイクロポア層となる2層構造のガス拡散層が挙げられる。
【0048】
触媒層50は、いわゆるアノードである。触媒層50内では、還元性ガスの酸化反応が起こり、プロトンと電子が生成される。例えば、還元性ガスが水素ガスとなる場合、以下の酸化反応が起こる。
H
2→2H
++2e
− (E
0=0V)
【0049】
酸化反応によって生じたプロトンは、触媒層50、及び電解質膜70を通って触媒層60に到達する。酸化反応によって生じた電子は、触媒層50、ガス拡散層30、及びセパレータ10を通って外部回路に到達する。電子は、外部回路内で仕事をした後、セパレータ20に導入される。その後、電子は、セパレータ20、ガス拡散層40を通って触媒層60に到達する。触媒層50の詳細な構成は後述する。
【0050】
触媒層60は、いわゆるカソードである。触媒層60内では、酸化性ガスの還元反応が起こり、水が生成される。例えば、酸化性ガスが酸素ガスあるいは空気となる場合、以下の還元反応が起こる。酸化反応で発生した水は、未反応の酸化性ガスとともに燃料電池1の外部に排出される。触媒層60の詳細な構成は後述する。
O
2+4H
++4e
−→2H
2O (E
0=1.23V)
【0051】
このように、燃料電池1では、酸化反応と還元反応とのエネルギー差(電位差)を利用して発電する。言い換えれば、酸化反応で生じた電子が外部回路で仕事を行う。
【0052】
電解質膜70は、プロトン伝導性を有する電解質材料で構成されている。電解質膜70は、上記酸化反応で生成したプロトンをカソードである触媒層60に導入する。ここで、電解質材料の種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料であればよい。好適な例は固体高分子形燃料電池で使用される電解質材料、すなわち、電解質樹脂である。電解質樹脂としては、例えば、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等が挙げられる。本実施形態によれば、低加湿低負荷条件下で燃料電池1を駆動した場合であっても、電解質材料の湿潤状態を維持することができる。もちろん、本実施形態に係る電解質材料は他の種類の電解質材料であってもよい。このような電解質材料としては、例えば、無機系、無機−有機ハイブリッド系等の電解質材料等が挙げられる。なお、燃料電池1は、常温〜150℃の範囲内で作動する燃料電池であってもよい。
【0053】
<2.カソードの構成>
(2−1.全体構成)
次に、
図2に基づいて、カソード、すなわち触媒層60の全体構成について説明する。触媒層60は、触媒凝集相61と、ガス拡散凝集相62とを備える。触媒凝集相61は、触媒成分61aと、触媒成分61aを担持する触媒担体炭素材料61bと、電解質材料61cとが主成分として凝集した凝集相である。なお、以下の説明において、触媒成分61a及び触媒担体炭素材料61bを含む粒子を「触媒担持粒子」とも称する。
【0054】
ここで、触媒凝集相61は、連続体を構成している。すなわち、触媒凝集相61を構成する各成分は、互いに連結している。例えば、触媒担体炭素材料61bは触媒層60内で互いに隣接し、電子伝導経路を構成している。また、電解質材料61cは、触媒層60内で連続体となっており、プロトン伝導経路を構成している。また、触媒凝集相61内には、多数の気孔61dが形成されており、これらの気孔61dも連結している。なお、気孔61dは、触媒担体炭素材料61b間に形成される隙間などであり、多くはマクロ孔、メソ孔等である。なお、本実施形態におけるマクロ孔、メソ孔、及びミクロ孔の分類は、IUPACの分類に従うものとする。したがって、気孔61dは、ガス拡散経路として機能する。また、「主成分」とは、触媒成分61a、触媒担体炭素材料61b、及び電解質材料61cの総質量が触媒凝集相61の総質量に対して50質量%以上占めることを意味する。また、各成分は、ファンデルワールス力や電解質材料の融着等によって互いに凝集している。また、主成分以外の例としては、触媒担体炭素材料及びガス拡散炭素材料以外の炭素材料、触媒成分以外の金属材料または金属酸化物、電解質材料以外の高分子材料、有機化合物などが挙げられる。
【0055】
触媒成分61aは、酸化性ガスの還元反応の触媒となるものである。すなわち、触媒成分61a上で上述した還元反応が起こる。触媒成分61aの種類は特に問われず、従来の燃料電池、例えば固体高分子形燃料電池に使用される触媒成分であればよい。触媒成分61aの例としては、白金、パラジウム、ルテニウム、金、ロジウム、オスミウム、イリジウム等の貴金属、これらの貴金属を2種類以上複合化した貴金属の複合体及び合金、貴金属と有機化合物または無機化合物との錯体、遷移金属、遷移金属同士あるいは遷移金属と貴金属との複合体や合金、貴金属や遷移金属と有機化合物や無機化合物との錯体、金属酸化物等が挙げられる。触媒成分61aは、これらの2種類以上を複合したもの等であってもよい。
【0056】
触媒担体炭素材料61bは、導電性を有する他、後述するように、高い耐酸化消耗性を有する。これにより、燃料電池1が長時間使用された場合であっても、触媒担体炭素材料61bは酸化消耗しにくい。触媒担体炭素材料61bが満たすパラメータについては後述する。
【0057】
触媒層60の総質量に対する触媒担体炭素材料61bの質量%の範囲は、特に制限されないが、5〜80質量%程度の範囲であれば、少なくとも燃料電池1が機能し、本実施形態の効果を得ることができる。触媒担体炭素材料61bの質量%は、10〜60質量%程度であることが好ましい。触媒担体炭素材料61bの質量%がこの範囲外の値となる場合、他の成分とのバランスが悪くなり、燃料電池1の効率が十分に改善されない場合がある。例えば触媒担体炭素材料61bの質量%が5質量%未満となる場合、触媒担体炭素材料61bに担持される触媒成分61aの量が少なくなり過ぎて、燃料電池1が十分な性能を発揮しない場合がある。また、触媒担体炭素材料61bの質量%が80質量%超となる場合、電解質材料61cの質量が少なくなりすぎて、プロトン伝達経路が貧弱になる可能性がある。したがって、燃料電池1の効率が低下する可能性がある。
【0058】
電解質材料61cは、プロトン伝導性を有する材料である。電解質材料61cは、触媒担体炭素材料61bの少なくとも一部を覆う。触媒担体炭素材料61bと電解質材料61cとの質量比は特に制限されないが、1/10〜5/1であることが好ましい。触媒担体炭素材料61bと電解質材料61cとの質量比が1/10より小さいと、触媒担体炭素材料61bの表面が電解質材料61cで過度に覆われてしまい、酸化性ガスが触媒成分61aと接触できる面積が小さくなる場合がある。一方、触媒担体炭素材料61bと電解質材料61cとの質量比が5/1より大きいと、電解質材料61cによるプロトン伝導経路が貧弱になり、プロトン伝導性が低くなる場合がある。
【0059】
ガス拡散凝集相62は、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料62aが主成分として凝集した凝集相である。
図2中の領域Aは、ガス拡散凝集相62を示す。「主成分」とは、ガス拡散炭素材料62aの総質量がガス拡散凝集相62の総質量に対して50質量%以上占めることを意味する。また、ガス拡散炭素材料62aは、ファンデルワールス力等によって互いに凝集している。また、ガス拡散凝集相62内には、触媒凝集相61内の気孔61dよりも太い気孔62bが形成されている。また、主成分以外の例としては、触媒担体炭素材料及びガス拡散炭素材料以外の炭素材料、電解質材料以外の高分子材料、有機化合物などが含まれる場合がある。
【0060】
ガス拡散凝集相62は、触媒凝集相61内に分散している。また、ガス拡散炭素材料62aは、触媒凝集相61、特に触媒担体炭素材料61bに隣接している。したがって、ガス拡散凝集相62は、触媒凝集相61内の気孔61dとともにガス拡散経路を構成する。したがって、触媒凝集相61内の気孔61dにガス拡散凝集相62内の気孔62bが形成する連続した太いガス拡散経路を接続できる。
【0061】
触媒層60の総質量に対するガス拡散炭素材料62bの質量%は、3〜30質量%程度であることが好ましい。ガス拡散炭素材料62bの質量%が3質量%未満となる場合、ガス拡散経路を十分に確保することができない場合がある。ガス拡散炭素材料62bの質量%が30質量%超となる場合、プロトン伝導経路がガス拡散凝集相62によって分断され貧弱になる可能性がある。このため、燃料電池1の性能が低下する可能性がある。ガス拡散炭素材料62bの質量%が3〜30質量%の範囲内にあれば、ガス拡散凝集相62及び触媒凝集相61中の気孔61dが太いガス拡散経路を構成するので、触媒層60中の触媒成分61aを有効に利用することができる。ガス拡散炭素材料62bの質量%の好ましい範囲は、ガス拡散炭素材料62bの種類等によって変動するが、10〜25質量%程度であることが好ましい。ガス拡散炭素材料62bの質量%がこの範囲内の値となる場合、プロトン伝導経路と電子伝導経路を損なうことなく、最適なガス拡散経路を構成することができるため、燃料電池1の性能を大きく向上させることができる。
【0062】
したがって、本実施形態では、触媒層60の炭素材料として、触媒担体炭素材料61bと、触媒成分を担持しないガス拡散炭素材料41bとを使用する。そして、本実施形態では、触媒成分61a、触媒担体炭素材料61b、及び電解質材料61cを主成分として含む触媒凝集相61と、ガス拡散炭素材料62bを主成分として含むガス拡散凝集相62とを触媒層60内に形成する。そして、本実施形態では、ガス拡散凝集相62を触媒凝集相61内に分散させる。したがって、触媒凝集相61は触媒層内で連続体を形成する。したがって、触媒凝集相61内の気孔61dにガス拡散凝集相62内の気孔62bが形成する連続した太いガス拡散経路を接続できる。さらに、触媒担体炭素材料61b及びガス拡散炭素材料62bによって連続した電子伝導経路が形成される。さらに、電解質材料61cによって連続したプロトン伝導経路が形成される。さらに、ガス伝導経路を構成するガス拡散凝集相62では、ガス拡散炭素材料62aが触媒成分を担持していない。したがって、燃料電池1を高加湿高負荷条件下で駆動した場合であっても、ガス拡散凝集相内で還元反応が起こらない。したがって、ガス拡散凝集相内でフラッディングが生じにくい。
【0063】
(2−2.触媒担体炭素材料の詳細構成)
(2−2−1.炭素材料の種類)
触媒担体炭素材料61bの種類は、電子伝導性を有する炭素材料であれば特に限定するものではない。ただし、触媒担体炭素材料61bは、本来求められる反応以外の化学反応を起こさないものであることが好ましい。また、触媒担体炭素材料61bは、酸化性ガスの還元反応によって生成した水に接触した場合に、成分が溶出しない炭素材料であることが好ましい。すなわち、触媒担体炭素材料61bは、化学的に安定な炭素材料であることが好ましい。
【0064】
また、触媒担体炭素材料61bの一次粒子径は5nm〜1μmであることが好ましい。なお、この範囲より大きな炭素材料は、粉砕することで触媒担体炭素材料61bとして使用可能である。なお、触媒担体炭素材料61bの一次粒子径が1μm超となる場合、触媒担体炭素材料61bがガス拡散経路またはプロトン伝導経路を分断する恐れが高くなる。さらに、触媒担体炭素材料61bの分布が不均一になる可能性もある。また、触媒担体炭素材料61bの一次粒子径が5nm未満となる場合、触媒担体炭素材料61bの電子伝導性が低くなる可能性がある。触媒担体炭素材料61bの好ましい例としては、カーボンブラックが挙げられる。触媒担体炭素材料61bは、他の種類の炭素材料、例えば、黒鉛、炭素繊維、活性炭等、これらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等であってもよい。また、触媒担体炭素材料61bは、これらの2種類以上の混合物であってもよい。
【0065】
(2−2−2.ラマン)
ラマン分光法により触媒担体炭素材料61bのGバンドを測定した場合、Gバンドの半値幅(△G)は30cm
−1超65m
−1未満となる。ここで、Gバンドは、ラマン分光スペクトルの1550〜1650cm
−1の範囲で検出されるバンドである。Gバンドの半値幅の好ましい範囲は、35cm
−1超65cm
−1未満である。
【0066】
Gバンドの半値幅が30cm
−1より小さい場合、触媒担体炭素材料61bの結晶性(すなわち黒鉛化度)が高くなり過ぎてミクロ孔がつぶれてしまう可能性がある。この結果、触媒担体炭素材料61bに触媒成分が担持されにくく、触媒成分の粒子径が大きくなる傾向が強くなる。これらの結果、燃料電池1の性能(特に、発電効率)が低下する可能性がある。
【0067】
一方、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えた場合、官能基が導入されやすいエッジ炭素が多くなる。特にカソードでは、燃料電池1の停止中に触媒担体炭素材料61bが高電位の酸化雰囲気に曝されるため、触媒担体炭素材料61bが酸化されやすい。したがって、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えた場合、触媒担体炭素材料41が大きく酸化消耗する可能性がある。この結果、燃料電池1の性能が低下する可能性がある。
【0068】
なお、触媒担体炭素材料61bのGバンドの半値幅を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、触媒担体炭素材料61bの原料となる炭素材料を黒鉛化処理する(すなわち、1600℃以上の高温環境に曝す)処理が挙げられる。炭素材料を黒鉛化処理することで、炭素材料を構成するグラフェンが大きく成長する。この結果、炭素材料のGバンドの半値幅が上述した範囲内の値となりうる。黒鉛化処理の加熱処理は、好ましくは、1800〜2400℃である。加熱温度が1600℃以下となる場合、グラフェンの成長が少なく、エッジ炭素が多くなる。この結果、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えることが多くなる。一方、Gバンドの半値幅が2400℃を超える場合、グラフェンが過剰に成長し、エッジ炭素が少なくなりすぎる可能性がある。この場合、必要な官能基量が確保できず、必要な親水性を得ることが難しくなる。すなわち、触媒担体炭素材料61bには、電解質材料61cが接触する。したがって、電解質材料61cの湿潤状態を維持するためには、触媒担体炭素材料61bはある程度の親水性が必要である。したがって、触媒担体炭素材料61bのGバンドの半値幅は、触媒担体炭素材料61bの耐酸化消耗性を決定するためのパラメータの1つとなる。すなわち、本実施形態では、Gバンドの半値幅を上述した範囲内の値とすることで、触媒担体炭素材料61bの耐酸化消耗性を高くしている。なお、触媒担体炭素材料61bのGバンドの半値幅は、触媒担体炭素材料61bの親水性を決定するためのパラメータとしての側面もある。
【0069】
なお、黒鉛化処理の時間は特に制限されない。すなわち、黒鉛化処理の時間が長いほどGバンドの半値幅が小さくなる傾向があるので、所望の半値幅となるように黒鉛化処理の時間を調整すればよい。また、黒鉛化処理によって、親水性が低下した場合、親水化処理を行えば良い。親水化処理の種類は特に制限されず、炭素材料の親水性を高める処理であればどのような処理であってもよい。親水化処理の例としては、炭素材料を加熱した硝酸水溶液内に浸漬させる処理等が挙げられる。なお、親水化処理によって親水性が過剰となった場合、黒鉛化処理を再度行えば良い。すなわち、黒鉛化処理及び親水化処理を交互に行うことで、Gバンドの半値幅と親水性の両方を所望の範囲にすることができる。なお、2回目以降の黒鉛化処理では、加熱温度を1600℃以下としてもよい。また、黒鉛化処理によって、Gバンドの半値幅が小さくなりすぎた場合、賦活処理を行えば良い。賦活処理の種類は特に制限されず、炭素材料の分子構造に欠陥を与える処理であればどのような処理であってもよい。賦活処理の例としては、炭素材料を酸素、空気、水蒸気、二酸化炭素などのガス、もしくはこれらのガスを含んだ不活性ガスを流通させた環境下で加熱する処理等が挙げられる。なお、賦活処理によってGバンドの半値幅が大きくなりすぎた場合、黒鉛化処理を再度行えば良い。すなわち、黒鉛化処理及び賦活処理を交互に行うことで、Gバンドの半値幅を所望の値とすることができる。なお、2回目以降の黒鉛化処理では、加熱温度を1600℃以下としてもよい。
【0070】
(2−2−3.BET比表面積)
触媒担体炭素材料61bのBET比表面積(S
BET)(m
2/g)は、300m
2/g超1000m
2/g未満である。触媒担体炭素材料61bのBET比表面積は、好ましくは300m
2/g超900m
2/g未満である。触媒担体炭素材料61bのBET比表面積が300m
2/g以下となる場合、触媒担体炭素材料61bの粒子内で触媒成分が担持できるスペースが足りなくなる。この結果、燃料電池1の運転中に触媒成分が凝集しやすくなる。したがって、燃料電池1の耐久性が低下する可能性がある。一方、触媒担体炭素材料61bのBET比表面積が1000m
2以上となる場合、エッジ炭素の量が多くなりやすい。この結果、触媒成分を起点とした炭素の酸化消耗が大きくなる。すなわち、触媒担体炭素材料61bの耐酸化消耗性が低下し、燃料電池1の耐久性が低下する。したがって、触媒担体炭素材料61bのBET比表面積は、触媒担体炭素材料61bの耐酸化消耗性を決定するためのパラメータの1つとなる。すなわち、本実施形態では、触媒担体炭素材料61bのBET比表面積を上述した範囲内の値とすることで、触媒担体炭素材料61bの耐久性を高くしている。
【0071】
(2−2−3.立体構造)
さらに、触媒担体炭素材料61bは、発達した立体構造を持つと、その構造内に空気が拡散することができるので好ましい。このような立体構造を有する炭素材料の例として、カーボンブラックが挙げられる。カーボンブラックは、一次粒子が複数個融着し、ストラクチャーと呼ばれる立体構造を形成している。カーボンブラックの種類によっては、このストラクチャーが大きく発達しており、一次粒子のつながり、すなわちストラクチャーが空間を抱え込んだ構造になっている。このような構造を有しているカーボンブラックを触媒担体炭素材料61bとして用いると、ストラクチャーによって抱え込まれた空間がガス拡散経路を構成する。したがって、触媒担体炭素材料61bは、発達した立体構造を有することが好ましい。
【0072】
ここで、触媒担体炭素材料61bの立体構造の発達の程度は、触媒担体炭素材料61bを電子顕微鏡で観察することで評価可能であるが、DBP吸油量とBET比表面積との比に基づいて評価することもできる。
【0073】
ここで、DBP吸油量とは、単位質量(ここでは100g)の炭素材料にフタル酸ジブチル(DBP)を接触させたときに、炭素材料に吸収されるフタル酸ジブチルの量のことである。フタル酸ジブチルは、主に一次粒子の間隙に吸収されるので、炭素材料の立体構造が発達しているとDBP吸油量は大きくなる傾向にある。一方、炭素材料の立体構造があまり発達していないとDBP吸油量は小さくなる傾向にある。なお、DBP吸油量は、例えば、アブソープトメーター(Brabender社製)等を用いて測定される。具体的には、最大トルクの70%の時のDBP添加量を試料100gあたりのDBP吸油量に換算すればよい。
【0074】
ただし、DBPは、一次粒子の間隙以外に一次粒子内部に形成された微細孔にも吸収されるので、DBP吸油量がそのまま立体構造の発達の程度をあらわすとは限らない。窒素吸着量で測定されるような比表面積、すなわちBET比表面積が大きくなると、炭素材料の微細孔に吸収されるDBPが多くなり全体のDBP吸油量も大きくなる傾向にあるためである。従って、高い立体構造を持つ炭素材料では、窒素吸着量の割にはDBP吸油量が大きくなる。すなわち、窒素吸着量が小さくてもDBP吸油量が大きくなる。逆に立体構造が発達していない炭素材料では、窒素吸着量の割にDBP吸油量が小さくなる。すなわち、窒素吸着量が大きくてもDPB吸油量が小さくなる。したがって、DBP吸油量とBET比表面積との比によって立体構造の発達の程度を評価することができる。
【0075】
具体的には、触媒担体炭素材料61bとして、DBP吸油量X(ml/100g)とBET比表面積S
BET(m
2/g)との比X/S
BETが0.1超である炭素材料を用いると、ガス拡散経路が確保しやすくなり、高性能な触媒層60を得ることができる。触媒担体炭素材料61bのX/S
BETが0.1未満となる場合、触媒凝集相61中で触媒担体炭素材料61bと共存する電解質樹脂がガス拡散経路を埋めてしまうことがある。この場合、安定して触媒層60の性能を引き出すことが難しい場合がある。なお、X/S
BETは、3.0以下であることが好ましい。X/S
BETが3.0超となる場合、燃料電池1を低加湿運転した際に、触媒凝集相61中の電解質樹脂が乾燥しやすくなることがある。この場合、期待した電池性能が得られない場合がある。
【0076】
(2−3.ガス拡散炭素材料の詳細構成)
(2−3−1.炭素材料の種類)
ガス拡散炭素材料62aの種類は、触媒担体炭素材料61bと同様に化学的に安定な炭素材料であることが好ましい。ガス拡散炭素材料62aの好ましい例としては、カーボンブラックが挙げられる。ガス拡散炭素材料62aは、他の種類の炭素材料、例えば、黒鉛、炭素繊維、活性炭等、これらの粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等であってもよい。また、ガス拡散炭素材料62aは、これらの2種類以上の混合物であってもよい。
【0077】
(2−3−2.ラマン)
ラマン分光法によりガス拡散炭素材料62aのGバンドを測定した場合、Gバンドの半値幅(△G)は30cm
−1超65m
−1未満となる。Gバンドの定義は上述した通りである。Gバンドの半値幅の好ましい範囲は、35cm
−1超65cm
−1未満である。
【0078】
Gバンドの半値幅が30cm
−1より小さい場合、ガス拡散炭素材料62aの結晶性(すなわち、黒鉛化度)が高くなり過ぎてミクロ孔がつぶれてしまう可能性がある。この場合、ガス拡散炭素材料62aの親水性(具体的には、ミクロ孔内に水を保持する能力)が低下する可能性が高い。一方、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えた場合、官能基が導入されやすいエッジ炭素が多くなる。特にカソードでは、燃料電池1の停止中にガス拡散炭素材料62aが高電位の酸化雰囲気に曝される。ガス拡散炭素材料62aは、触媒成分を担持していないため、触媒担体炭素材料61bより酸化消耗しにくいとは言える。しかし、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えた場合、エッジ炭素が多くなる。したがって、燃料電池1の起動と停止と長期にわたって繰り返し行うと、ガス拡散炭素材料62aの酸化されやすい部分がわずかに進行する。この結果、ガス拡散炭素材料62aの親水性が増大し、ガス拡散経路を構成するガス拡散炭素材料62bの粒子間隙に水が滞留する可能性がある。この場合、燃料電池1の性能が低下する可能性がある。
【0079】
したがって、ガス拡散炭素材料62aのGバンドの半値幅は、ガス拡散炭素材料62aの親水性を決定するパラメータとなる。もちろん、ガス拡散炭素材料62aのGバンドの半値幅は、ガス拡散炭素材料62aの耐酸化消耗性を決定するためのパラメータという側面もある。すなわち、本実施形態では、Gバンドの半値幅を上述した範囲内の値とすることで、ガス拡散炭素材料41bの親水性及び耐酸化消耗性を高くしている。
【0080】
なお、ガス拡散炭素材料62aのGバンドの半値幅を上記範囲内に調整する方法としては、例えば、ガス拡散炭素材料62aの原料となる炭素材料を黒鉛化処理する(すなわち、1600℃以上の高温環境に曝す)処理が挙げられる。炭素材料を黒鉛化処理することで、炭素材料を構成するグラフェンが大きく成長する。この結果、炭素材料のGバンドの半値幅が上述した範囲内の値となりうる。黒鉛化処理の加熱処理は、好ましくは、1800〜2400℃である。加熱温度が1600℃以下となる場合、グラフェンの成長が少なく、エッジ炭素が多くなる。この結果、Gバンドの半値幅が65cm
−1を超えることが多くなる。一方、Gバンドの半値幅が2400℃を超える場合、グラフェンが過剰に成長し、エッジ炭素が少なくなりすぎる可能性がある。この場合、必要な官能基量が確保できず、必要な親水性を得ることが難しくなる。なお、黒鉛化処理によって、親水性が低下した場合、親水化処理を行えば良い。親水化処理の種類は特に制限されず、炭素材料の親水性を高める処理であればどのような処理であってもよい。親水化処理の例としては、炭素材料を加熱した硝酸水溶液内に浸漬させる処理等が挙げられる。なお、親水化処理によって親水性が過剰となった場合、黒鉛化処理を再度行えば良い。すなわち、黒鉛化処理及び親水化処理を交互に行うことで、Gバンドの半値幅と親水性の両方を所望の範囲にすることができる。なお、2回目以降の黒鉛化処理では、加熱温度を1600℃以下としてもよい。また、黒鉛化処理によって、Gバンドの半値幅が小さくなりすぎた場合、賦活処理を行えば良い。賦活処理の種類は特に制限されず、炭素材料の分子構造に欠陥を与える処理であればどのような処理であってもよい。賦活処理の例としては、炭素材料を酸素、空気、水蒸気、二酸化炭素などのガス、もしくはこれらのガスを含んだ不活性ガスを流通させた環境下で加熱する処理等が挙げられる。なお、賦活処理によってGバンドの半値幅が大きくなりすぎた場合、黒鉛化処理を再度行えば良い。すなわち、黒鉛化処理及び賦活処理を交互に行うことで、Gバンドの半値幅を所望の値とすることができる。なお、2回目以降の黒鉛化処理では、加熱温度を1600℃以下としてもよい。
【0081】
(2−3−3.立体構造)
ガス拡散炭素材料62aとして、DBP吸油量X(ml/100g)とBET比表面積S
BET(m
2/g)との比X/S
BETが0.2超である炭素材料を用いると、ガス拡散経路が確保しやすくなり、高性能な触媒層60を得ることができる。ガス拡散炭素材料62aのX/S
BETが0.2未満となる場合、ガス拡散経路としての空間が貧弱になり、安定して触媒層60の性能を引き出すことが難しくなる場合がある。ガス拡散炭素材料62aのX/S
BETが3.0超となる場合、ガス拡散凝集相62の機械的強度が低下する場合がある。この場合、ガス拡散凝集相62を電池に組み込んで使用した場合にガス拡散炭素材料62aの立体構造が壊れ、期待した電池性能が得られない場合がある。
【0082】
(2−3−4.親水性)
さらに、ガス拡散炭素材料62aは、ある程度の親水性を有する。具体的には、ガス拡散炭素材料62aの25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量(Y)は、5ml/g未満であることが好ましい。水蒸気吸着量は、好ましくは2ml/g未満、より好ましくは1.5ml/g未満である。25℃、相対圧0.1での水分子は、優先的に吸着しやすい官能基などへ吸着すると推測される。したがって、25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量は、吸着しやすい官能基の数、すなわち、エッジ炭素に形成される官能基の数を反映した値になると推定される。ガス拡散炭素材料62aの25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量が5ml/g以上となる場合、特に高加湿高負荷条件下(あるいは、低加湿高負荷条件下)でフラッディングが発生しやすくなる可能性がある。
【0083】
25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量は、25℃の環境に置かれた炭素材料1g当りに吸着した水蒸気量を標準状態の水蒸気体積に換算することで得られる。25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量の測定は、市販の水蒸気吸着量測定装置を用いて測定することができる。
【0084】
さらに、ガス拡散炭素材料62aのBET比表面積は、100m
2/g超1200m
2/g未満、好ましくは200m
2/g超1000m
2/g未満である。ガス拡散炭素材料62aのBET比表面積が100m
2/g以下となる場合、ガス拡散炭素材料62aのミクロ孔が少なくなる傾向があり、所望の親水性が得られない可能性がある。この場合、低加湿条件下で燃料電池1の性能(特に、セル電圧)が低下する可能性がある。ガス拡散炭素材料62aのBET比表面積が1200m
2/g以上となる場合、エッジ炭素の量が多くなる傾向にあり、燃料電池1の発電中に親水性が増加する問題が無視できなくなる。
【0085】
本発明のポイントの一つは、ガス拡散炭素材料42がある程度の親水性、すなわち、ガス拡散炭素材料42が有するミクロ孔内に水を蓄えることができることである。その一方で、ガス拡散炭素材料62aの粒子間の隙間(メソ孔、マクロ孔等)には水が溜まりにくい。
【0086】
したがって、ガス拡散炭素材料62aは、ミクロ孔内に水を保持することができる。すなわち、ガス拡散炭素材料62aは、低加湿低負荷条件下で燃料電池1を駆動した場合に、ミクロ孔内に水を保持することができる。したがって、本実施形態では、低加湿低負荷条件下で燃料電池1を駆動した場合であっても、電解質材料42cの湿潤状態を維持することができる。さらに、ガス拡散炭素材料62aは、ミクロ孔内に水を保持できる程度の親水性を有しているので、燃料電池1を高加湿高負荷条件下で駆動した場合であっても、ガス拡散炭素材料62aの粒子間の隙間は水で閉塞されにくい。すなわち、この点でもフラッディングは生じにくい。
【0087】
本発明者は、ガス拡散炭素材料62aの25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量(Y)とBET比表面積S
BETとの比Y/S
BETが0.0002超0.005未満となり、かつ、窒素吸着等温線のtプロット解析で評価されるミクロ孔表面積が50m
2/g超800m
2/g未満となる場合に、上記の要件が満たされることを見出した。Y/S
BETの好ましい範囲は、0.0002超0.001未満である。さらに好ましい範囲は、0.0002超0.0005未満である。
【0088】
上述したように、25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量は、エッジ炭素に形成される官能基の数を反映した値になると推定される。したがって、したがって、比Y/S
BETは、ガス拡散炭素材料62aの単位表面積当たりの当該官能基の数(官能基密度)に相当する値であると推定される。
【0089】
Y/S
BETが0.0002以下となる場合、低加湿条件下(特に、低加湿低負荷条件下)での燃料電池1の性能(特にセル電圧)が低下する可能性がある。Y/S
BETが0.0002以下となる場合、官能基密度が少なくなりすぎてガス拡散炭素材料62aの表面が撥水性の高い表面になる。このため、ガス拡散炭素材料62aのミクロ孔自体に水を蓄えられなくなると推定される。
【0090】
Y/S
BETが0.005以上となる場合、高加湿条件下(特に、高加湿高負荷条件下)、あるいは低加湿高負荷条件下での燃料電池1の性能(特に、セル電圧)が低下する可能性がある。Y/S
BETが0.005以上となる場合、ガス拡散炭素材料62aの官能基密度が多くなりすぎて、ガス拡散炭素材料62aの粒子間隙にも水が蓄えられる。このため、これらの水がガス拡散を阻害していると推定される。
【0091】
したがって、Y/S
BETが0.0002超0.005未満となる場合、加湿条件及び負荷条件(すなわち、発電条件)にかかわらず、燃料電池1の性能(特に、セル電圧)の低下を抑制することができる。すなわち、Y/S
BETがこの範囲内の値となる場合、燃料電池1の駆動中にガス拡散炭素材料62aのミクロ孔内に水を保持することができる。このため、低加湿条件下(特に、低加湿低負荷条件下)で燃料電池1を駆動する際に、触媒層60の乾燥を防ぐことができる。その一方、ガス拡散炭素材料62aの粒子間隙には水が蓄えられないので、ガス拡散経路を確保することができる。
【0092】
なお、Y/S
BETを調整する方法は特に制限されないが、一例として上述した黒鉛化処理が挙げられる。上述したように、黒鉛化処理によってエッジ炭素の数を制限することができる。そして、25℃、相対圧0.1の水蒸気吸着量は、エッジ炭素に形成される官能基の数を反映した値となる。したがって、黒鉛化処理によって、Y/S
BETを調整することができる。なお、黒鉛化処理を進めすぎてY/S
BETの値が小さくなりすぎた場合、親水化処理を行えば良い。親水化処理の種類は特に制限されず、炭素材料の親水性を高める処理であればどのような処理であってもよい。親水化処理の例としては、炭素材料を加熱した硝酸水溶液内に浸漬させる処理等が挙げられる。なお、親水化処理によってY/S
BETの値が大きくなりすぎた場合、黒鉛化処理を再度行えば良い。すなわち、黒鉛化処理及び親水化処理を交互に行うことで、Y/S
BETの値を所望の値とすることができる。なお、2回目以降の黒鉛化処理では、加熱温度を1600℃以下としてもよい。
【0093】
上述したように、ガス拡散炭素材料62a内で水を保持する主体はミクロ孔である。したがって、ガス拡散炭素材料62aに適切にミクロ孔が形成されている必要がある。すなわち、Y/S
BETが、0.0002超0.005未満であっても、窒素吸着等温線のtプロット解析によって得られるミクロ孔表面積が50m
2/g超800m
2/g未満の範囲から外れると本発明の目的を達成する燃料電池を得ることはできない。
【0094】
ミクロ孔表面積が50m
2/g以下となる場合、水を蓄えられるミクロ孔の容積が少なくなりすぎて、低加湿条件下(特に、低加湿低負荷条件下)で燃料電池1の性能が低下する可能性がある。一方、ミクロ孔表面積が800m
2/g以上となる場合、ガス拡散炭素材料62aの粒子間隙に水がたまりやすくなると推定され、高加湿条件下(特に、高加湿高負荷条件下)で燃料電池1の性能(特に、セル電圧)が低下する可能性がある。
【0095】
ここでtプロット解析は、窒素ガスの液体窒素温度での窒素吸着測定によって得られる窒素吸着等温線の解析評価法の一種である。すなわち、tプロット解析は、測定試料と同種の材料であって、ミクロ孔が存在しない標準物質の窒素吸着等温線を基準にして、測定試料の窒素吸着等温線の直線性からのずれを解析する比較プロットの一種である(日本化学会編 コロイド化学I(株)東京化学同人1995年発行)。
【0096】
本実施形態では、ミクロ孔とは、直径2nm以下の孔(IUPACの分類に従う)として定義される。そして、ミクロ孔表面積は、tプロット解析では、測定試料の全表面積と外部表面積の差として得られる。ミクロ孔を有する測定試料のtプロット解析では、以下の傾向が見られる。すなわち、ごく低圧では、窒素ガスは、ミクロ孔の表面を含んだ測定試料の全表面(すなわち、ミクロ孔の表面、及びミクロ孔以外の外部表面)に吸着する。このため、t(すなわち、吸着厚み)の小さい領域では吸着量がミクロ孔を持たない標準物質に対して上方にずれる。すなわち、tプロットの傾きが標準物質に対して大きくなる。この傾きから、測定試料の全表面積が算出される。
【0097】
そして、ミクロ孔のポアフィリングが終了すると、窒素ガスの吸着はミクロ孔以外の外部表面に対してのみ進行する。したがって、吸着厚みの大きな領域ではtプロットの傾きが小さくなる。この傾きから、測定試料の外部表面積(測定試料のミクロ孔を除いた外部表面の表面積)が算出される。そのため、ミクロ孔を有する測定試料のtプロットは、上に凸の形状となる。一方、測定試料にミクロ孔が無い場合は、tプロットは、原点を通る一本の直線となる。
図3に一例を示す。
図3の横軸は窒素ガスの吸着厚み(nm)を示し、縦軸は窒素ガスの吸着量(molg
−1やcm
3(STP)g
−1など)を示す。tプロットLは上に凸の形状となっており、傾きの大きなtプロットL1と、傾きの小さいtプロットL2とに区分される。tプロットL1は、ミクロ孔への吸着を反映したグラフとなっている。一方、tプロットL2は、窒素ガスのミクロ孔以外の外部表面への吸着を反映したグラフとなっている。したがって、tプロットL2の傾きから、測定試料の外部表面積が求まり、窒素吸着等温線L1の傾きから、測定試料の全表面積が求まる。そして、これらの差からミクロ孔の表面積が求まる。なお、tプロットL2の切片(Y)から、ミクロ孔の容積も求まる。
【0098】
ところで、本発明者らが本発明の検討を進める過程で、上述した黒鉛化処理を行った測定試料を準備した。そして、本発明者は、一般的に公開されている標準物質の窒素吸着等温線を用いて測定試料のtプロット解析を試みた。この結果、測定試料の窒素吸着等温線が下に凸の形状になる場合があるという問題が生じた。この場合、測定試料が本実施形態のガス拡散炭素材料62aの条件を満たすかどうかを判定できない。
【0099】
本発明者は、この原因は、一般に公開されている炭素材料の標準物質には、本実施形態で使用されるガス拡散炭素材料62aよりも多くの微細なミクロ孔が存在することであると推定した。そして、本発明者は、測定試料(あるいは測定試料と同種の試料)を不活性雰囲気下、2600℃以上の温度で熱処理することによってミクロ孔を極力少なくした炭素材料を作製し、これを標準物質とした。ここで、同種の試料とは、測定試料と同様の物性を示す材料を意味する。同様の試料は、例えば炭素材料であれば、炭素材料であり、より好ましくは、炭素材料の種類を同一にすることである。すなわち、カーボンブラックであればカーボンブラック、活性炭であれば活性炭である。さらに好ましくは、銘柄、ロットまで同一にすることである。これにより、本発明者は、上記の問題を解決した。すなわち、この標準物質を用いて上述した測定試料のtプロット解析を行ったところ、上に凸の窒素吸着等温線を得ることに成功した。従って、ガス拡散炭素材料62aとして使用可能な炭素材料を判別するためのtプロット解析では、まず、測定試料を不活性雰囲気下、2600℃以上の温度で熱処理することで標準物質を作製する。そして、この標準物質を用いて、tプロット解析を行えば良い。このような標準物質では、ミクロ孔は、無視できる程度に少なくなる。このため、tプロット解析を正しく行うことができる。なお、熱処理の時間は特に制限されない。熱処理の時間が長いほどミクロ孔の数が少なくなるので、所望の窒素吸着等温線が得られるようになるまで、熱処理を行えば良い。
【0100】
なお、ガス拡散炭素材料62aのtプロット解析で得られる外部表面積は、50m
2/g超400m
2/g未満であることが好ましい。外部表面積が50m
2/g以下となる場合、ガス拡散炭素材料62aにミクロ孔があったとしても、ガス拡散炭素材料62aは非常に少ない量の水しか保持できなくなる。このため、低加湿条件下(特に、低加湿低負荷条件下)で燃料電池1の性能が低下する可能性がある。外部表面積が400m
2/g以上となる場合、ガス拡散炭素材料62a自体の機械的強度が不足する場合が多くなる。このため、燃料電池1のセルを組みつけた際にガス拡散炭素材料62aが粉砕される可能性がある。この結果、十分なガス拡散経路が得られない可能性、あるいは、長期の使用でガスの拡散性が悪くなる可能性がある。
【0101】
<3.アノードの構成>
アノードとなる触媒層50の構成は特に制限されない。すなわち、触媒層50の構成は、従来のアノードと同様の構成であってもよいし、触媒層60と同様の構成であってもよいし、触媒層60よりもさらに親水性が高い構成であってもよい。
【0102】
<4.燃料電池の製造方法>
(4−1.触媒担体炭素材料及びガス拡散炭素材料の製造方法)
次に、燃料電池1の製造方法の一例について説明する。まず、触媒担体炭素材料61b及びガス拡散炭素材料62aの製造方法について説明する。まず、出発物質となる炭素材料を準備する。そして、炭素材料に黒鉛化処理を行う。そして、黒鉛化処理後の炭素材料について、上記の各パラメータを測定する。すなわち、触媒担体炭素材料61bを作製する場合であれば、炭素材料のGバンドの半値幅、X/S
BETを測定する。そして、これらの値が上述した範囲内の値となる炭素材料を触媒担体炭素材料61bとして使用する。なお、黒鉛化処理によって、Gバンドの半値幅及びBET比表面積は低下する傾向にある。したがって、黒鉛化処理及び賦活処理を交互に行うことで、炭素材料のGバンドの半値幅、BET比表面積、X/S
BETを上述した範囲内の値に調整してもよい。ついで、触媒担体炭素材料61bに触媒成分61aを担持させることで、触媒担持粒子を作製する。この方法は特に制限されず、炭素材料に触媒成分を担持される方法であればどのような方法であっても良い。
【0103】
また、ガス拡散炭素材料62aを作製する場合であれば、炭素材料のGバンドの半値幅、X/S
BET、Y/S
BET、ミクロ孔表面積を測定する。ミクロ孔表面積は、tプロット解析により評価する。また、tプロット解析を行うに際しては、出発物質を不活性雰囲気下、2600℃以上の温度で加熱することで標準物質を作製する。そして、この標準物質を用いてtプロット解析を行う。そして、これらの値が上述した範囲内の値となる炭素材料をガス拡散炭素材料42bとして使用する。なお、黒鉛化処理によって、Gバンドの半値幅、BET比表面積、水蒸気吸着量、ミクロ孔表面積は低下する傾向にある。したがって、黒鉛化処理、賦活処理及び親水化処理を交互に行うことで、炭素材料のGバンドの半値幅、X/S
BET、Y/S
BET、ミクロ孔表面積を上述した範囲内の値に調整してもよい。
【0104】
(4−2.触媒層の作製方法)
ついで、触媒層50、60をガス拡散層30、40上に形成する。なお、ここでは、触媒層60は触媒層50と同じ構成を有するものとする。触媒層の作製方法としては、例えば以下の2つの方法が挙げられる。第1の方法では、まず、触媒担持粒子と、電解質材料61cとを、電解質材料61cに対する良溶媒中で粉砕混合する。ついで、粉砕後の溶液に電解質材料61cに対する貧溶媒を加える。これにより、A液を得る。A液内では、触媒凝集相61の元となる凝集体が形成し、A液内で分散されている。一方、ガス拡散炭素材料62aを、電解質材料に対する貧溶媒中で粉砕する。これにより、B液を得る。B液内では、ガス拡散凝集相62の元となる凝集体が形成し、B液内で分散されている。ついで、A液とB液を混合することで、塗工液となるC液を得る。ついで、塗工液をガス拡散層30,40上に塗工し、乾燥することで、触媒層50、60をガス拡散層30、40上に形成する。
【0105】
触媒担持粒子及び電解質材料61cを、電解質材料61cに対する良溶媒中で粉砕混合すると、触媒担持粒子が微細な凝集体に粉砕され、その表面近傍に電解質材料61cが溶解して存在している状態になる。これに電解質材料61cに対する貧溶媒を加えると、電解質材料61cが析出する。そして、触媒担持粒子及び電解質材料61cが凝集を起こし、電解質材料61cが触媒担持粒子に固定される。更に、この溶液に微細なガス拡散炭素材料62aが添加される。電解質材料61cは触媒担持粒子に固定されているため、ガス拡散炭素材料62aの表面は、電解質材料61cによって覆われ難い。したがって、ガス拡散炭素材料62aの表面が本来持ち合わせている表面性状を活かすことができる。すなわち、上記の製造方法によれば、塗工液中に触媒凝集相61とガス拡散凝集相62との2つの凝集相が形成される。そして、触媒凝集相61が連続体で、ガス拡散凝集相62が触媒凝集相61中に分散する。特に、表面の水和性を制御したガス拡散炭素材料62aを使用する場合、この方法は有効である。
【0106】
第2の方法では、まず、触媒担持粒子と、微量の電解質材料61cとを、電解質材料61cに対する良溶媒中で粉砕混合する。その後、溶液を乾燥することで固化物を得る。ついで、固化物を電解質材料61cに対する貧溶媒中で粉砕した後、懸濁液に電解質材料61cの溶液(電解質材料61cを良溶媒に溶解したもの)を滴下することで、A液を得る。A液内では、触媒凝集相61の元となる凝集体が形成し、A液内で分散されている。一方、ガス拡散炭素材料62aを、電解質材料に対する貧溶媒中で粉砕する。これにより、B液を得る。B液内では、ガス拡散凝集相62の元となる凝集体が形成し、B液内で分散されている。ついで、A液とB液を混合することで、塗工液となるC液を得る。ついで、塗工液をガス拡散層30,40上に塗工し、乾燥することで、触媒層50、60をガス拡散層30、40上に形成する。
【0107】
触媒担持粒子を微量の電解質材料61cと共に電解質材料の良溶媒中で粉砕混合した後に乾燥すると、微量の電解質材料61cが触媒担持粒子の表面に膜状に固定される。そして、固化物(微量の電解質材料61cが固定された触媒担持粒子の凝集体)を、電解質材料61cに対する貧溶媒中で粉砕すると、電解質材料61cは、触媒担持粒子に固定されたまま微粒化する。更に、触媒担持粒子の懸濁液に、必要十分な電解質溶液を滴下すると、電解質材料61cが析出する。そして、電解質材料61cが僅かに固定された触媒担持粒子と、析出した電解質材料61cとが凝集した分散液、すなわち、A液が生成される。そして、A液にガス拡散炭素材料62aが添加される。第2の方法では、第1の方法と同様に、電解質材料61cが触媒担持粒子の表面に固定又は凝集しているため、ガス拡散炭素材料62aの表面が電解質材料61cによって覆われ難い。したがって、ガス拡散炭素材料62aの表面が本来持ち合わせている表面性状を活かすことができる。すなわち、上記の製造方法によれば、塗工液中に触媒凝集相61とガス拡散凝集相62との2つの凝集相が形成される。そして、触媒凝集相61が連続体で、ガス拡散凝集相62が触媒凝集相61中に分散する。特に、表面の水和性を制御したガス拡散炭素材料62aを使用する場合、この方法は有効である。
【0108】
ここで、電解質材料61cに対する良溶媒とは、電解質材料61cを実質的に溶解可能な溶媒を意味する。良溶媒は電解質材料61cの種類や分子量等によって決定される。例えば、電解質材料61cがパーフルオロスルホン酸ポリマーとなる場合、良溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。
【0109】
また、電解質材料61cに対する貧溶媒とは、電解質材料61cを実質的に溶解しない溶媒を意味する。貧溶媒は電解質材料61cの種類や分子量等によって決定される。例えば、電解質材料61cがパーフルオロスルホン酸ポリマーとなる場合、貧溶媒としては、ヘキサン、トルエン、ベンゼン、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0110】
また、触媒担持粒子を貧溶媒中で粉砕する方法としては、上記の目的を達成できるのであれば特に制限されない。このような方法としては、例えば、超音波を利用する方法、ボールミルやガラスビーズ等を用いて機械的に粉砕する方法等が挙げられる。
【0111】
また、塗工液をガス拡散層30、40上に塗工する方法は特に問われない。この方法としては、例えば、刷毛塗り、スプレー、ロールコーター、インクジェット、スクリーンプリント等の方法が挙げられる。なお、塗工液を何らかの基材(例えば、ポリテトラフルオロエチレン基材)等に塗工、乾燥することで基材上に触媒層50、60を形成してもよい。この場合、触媒層50、60にガス拡散層30、40をホットプレス等で圧着すればよい。
【0112】
(4−3.セルの作製方法)
その後は、従来と同様の工程により、セルを作製し、所望の数のセルをスタックすることで、燃料電池1を作製する。概略的には以下の通りである。すなわち、ガス拡散層30、40と触媒層50、60との複合体を電解質膜70に圧着することで、MEA(膜電極複合体)を作製する。ついで、MEAの両側にセパレータ10、20を配置することで、セルを作製する。ついで、所望の数のセルをスタックすることで、燃料電池1を作製する。
【0113】
なお、ガス拡散層30、40と触媒層50、60との複合体を作製する方法と同様の要領で、電解質膜70と触媒層50、60との複合体を作製し、これとガス拡散層30、40とを圧着してもよい。
【0114】
<5.燃料電池の駆動方法>
燃料電池1の駆動方法は従来の燃料電池の駆動方法と同様であればよい。ただし、加湿器の性能は、従来よりも低くてもよい。上述したように、本実施形態では、低加湿条件下であっても、少なくとも触媒層60内のガス拡散炭素材料62aは、ミクロ孔内に水を保持することができる。したがって、本実施形態では、触媒層60内の電解質材料の湿潤状態を維持することができる。したがって、加湿器の性能は、従来よりも低くてもよい。燃料電池が適用されるシステムによっては、加湿器を省略できる場合もありうる。
【実施例】
【0115】
<1.炭素材料の物性測定>
まず、本実施例及び比較例で使用する炭素材料として10種の炭素材料A〜Nを準備した。表1(炭素材料の種類とその物性)に、各種炭素材料の各種物性を示した。なお、これらの炭素材料は、市販の炭素材料をそのまま使用するか、あるいは、市販の炭素材料に黒鉛化処理(または黒鉛化処理と親水化処理と賦活処理とを繰り返す処理)を行うことで得られる。
【0116】
なお、ラマンスペクトルの測定は、NRS−7100型(日本分光(株)製)を用いた。測定条件は、励起レーザー波長:532nm、レーザーパワー:100mW(試料照射パワー:0.1mW)、顕微配置:Backscattering、スリット寸法:100μm×100μm、対物レンズ:×100、スポット径:1μm、露光時間:30sec、観測波数:3200〜750cm
−1、積算回数:2回とした。そして、Gバンドと呼ばれる1550〜1650cm
−1の範囲のピーク強度の半値幅(△G)を算出した。
【0117】
BET比表面積は、自動比表面積測定装置(日本ベル製、BELSORP36)を用いて行った。具体的には、自動比表面積測定装置に120℃で真空乾燥した測定試料を設置し、窒素ガスを用いて吸着等温線を作製した。そして、BET法に基づきBET比表面積(S
BET)を測定した。
【0118】
また、tプロット解析は、以下の工程で測定した。すなわち、標準物質として、アルゴン気流中2600℃で2時間熱処理したケッチェンブラックEC600JD(ライオン製)を用意した。そして、この標準物質を使用して窒素吸着等温線を作製し、この窒素吸着等温線に基づいて、tプロット解析用のグラフを作製した。そして、このグラフに基づいて、測定試料の全表面積、外部表面積を算出し、全表面積から外部表面積を差し引くことにより、ミクロ孔表面積を算出した。
【0119】
また、DBP吸油量は、単位質量(ここでは100g)の炭素材料にフタル酸ジブチル(DBP)を接触させたときに、炭素材料に吸収されるフタル酸ジブチルの量のことである。DBP吸油量は、アブソープトメーター(Brabender社製)を用いて測定した。具体的には、最大トルクの70%の時のDBP添加量を試料100gあたりのDBP吸油量に換算した値とした。
【0120】
また、水蒸気吸着量は、定容量式水蒸気吸着装置(日本ベル製、BELSORP18)を用いて測定した。具体的には、120℃、1Pa以下で2時間脱気前処理を行った測定試料を25℃の恒温中に保持した。ついで、真空状態から、25℃における水蒸気の飽和蒸気圧までの間、徐々に水蒸気を測定試料に供給することで段階的に相対湿度を変化させた。そして、当該処理後の水蒸気吸着量を測定した。得られた測定結果から吸着等温線を描き、吸着等温線に基づいて、相対圧0.1のときの水蒸気吸着量を読み取った。表1では、読み取った水蒸気量を試料1gあたりに吸着した標準状態の水蒸気体積に換算して示した。
【0121】
【表1】
【0122】
<2.触媒担持粒子の調製>
塩化白金酸水溶液中に、触媒担体炭素材料として表1の炭素材料の一種を分散した。ついで、分散液を50℃に保温し、撹拌しながら分散液に過酸化水素水を加えた。ついで、分散液にNa
2S
2O
4水溶液を添加することで、触媒前駆体を得た。この触媒前駆体を濾過、水洗、乾燥した後に100%H
2気流中、300℃で3時間、還元処理を行った。これにより、触媒担体炭素材料に触媒成分であるPtが触媒担持粒子の総質量に対して50質量%担持された触媒担持粒子を調製した。
【0123】
<3.塗工液(触媒インク)の調製>
調製した触媒担持粒子を容器に取り、これに5質量%ナフィオン溶液(デュポン製DE521)を加えた。ついで、分散液を軽く撹拌した後、超音波を分散液に照射することで、触媒担持粒子を粉砕した。さらに分散液を撹拌しながら分散液に酢酸ブチルを加えた。酢酸ブチルの添加量は、Pt触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が分散液の総質量に対して2質量%となるように設定した。これにより、上述したA液、すなわち、触媒担持粒子とナフィオン(電解質樹脂)とが凝集した触媒インクを調製した。各種材料は特に記述がない限り、触媒担体炭素材料の質量1に対して、ナフィオンが質量2.0の比率で混合した。
【0124】
<4.ガス拡散炭素材料インクの調製>
容器にガス拡散炭素材料として表1の炭素材料の中から選択した1種をそれぞれ取り、炭素材料の濃度が分散液の総質量に対して2質量%になるように酢酸ブチルを加えた。そして、超音波を分散液に照射することで、ガス拡散炭素材料を粉砕し、ガス拡散炭素材料が凝集した複数種類のガス拡散炭素材料インク(すなわち、上述したB液)を調製した。
【0125】
<5.塗布インクの作成>
触媒インクとガス拡散炭素材料インクのいずれかとを混合することで、固形分濃度が塗工液の総質量に対して2質量%となる塗布インク(塗工液)を作成した。
【0126】
<6.触媒層の作製>
塗布インクをテフロン(登録商標)シートにそれぞれスプレーした後、アルゴン中80℃で10分間、続いてアルゴン中120℃で60分間乾燥し、触媒層を作製した。ここで、触媒層の白金目付け量が0.20mg/cm
2となるように、スプレー量を調整した。なお、白金目付け量は、以下の工程で確認した。すなわち、作製したテフロンシート上の触媒層を3cm角の正方形に切り取って、触媒層及びテフロンシートの総質量を測定した。ついで、触媒層をスクレーパーで剥ぎ取った後のテフロンシート質量を測定した。ついで、先の質量との差分から触媒層質量を算出した。ついで、触媒インク中の固形分中の白金が占める割合から白金目付け量を算出した。
【0127】
<7.MEAの作製>
作製した触媒層を用いてMEA(膜電極複合体)を作製した。具体的には、ナフィオン膜(デュポン社製N112)をカッターナイフで6cm角の正方形に切り取り、テフロンシート上に塗布された触媒層を、カッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。ついで、これらの触媒層をアノードおよびカソードとして、ナフィオン膜の中心部にずれが無いようにはさむことで積層体を作製した。ついで、積層体を120℃、100kg/cm
2で10分間プレスした。プレス後の積層体を室温まで冷却した後、アノード、カソード共にテフロンシートのみを注意深くはがした。これにより、アノードおよびカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。ここで、プレス前の触媒層付テフロンシートの重量とプレス後に積層体からはがしたテフロンシートの重量との差から定着した触媒層の重量を求め、触媒層の組成の質量比より白金目付け量を算出した。この結果、白金目付け量が0.2mg/cm
2であることを確認した。
【0128】
次にガス拡散層として市販のカーボンクロス(E−TEK社製LT1200W)をカッターナイフで2.5cm角の正方形に切り取った。ついで、切り取ったカーボンクロスを、アノード及びカソード上にずれが無いように積層することで積層体を作製した。ついで、積層体を120℃、50kg/cm
2で10分間プレスすることで、MEAを作成した。
【0129】
<8.燃料電池性能評価条件>
作製したMEAをそれぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置を用いてセルの性能、すなわち、燃料電池の性能を評価した。具体的には、性能評価を以下の工程で行った。
【0130】
まず、「高加湿高負荷」条件下での性能評価を行った。すなわち、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ30%と60%となるように供給した。それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、0.1MPaに設定した。また、セル温度は80℃に設定した。また、燃料電池に供給する空気と純水素を80℃に保温された蒸留水に通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、加湿した。そして、加湿した後のガスをセルに供給した。このような条件でセルにガスを供給した後、1000mA/cm
2まで負荷を徐々に増加して1000mA/cm
2で負荷を固定した。そして、「高加湿高負荷」条件下での性能として120分経過後のセル端子間電圧を評価した。セル端子間電圧が0.60V以上であれば評点◎、0.55V以上であれば○、0.55V未満のときは評点×とした。
【0131】
次に、「低加湿低負荷」条件下での性能評価を行った。すなわち、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ30%と60%となるように供給した。それぞれのガス圧は、セル下流に設けられた背圧弁で圧力調整し、0.1MPaに設定した。また、セル温度は80℃に設定した。また、燃料電池に供給する空気と純水素を50℃に保温された蒸留水に通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、加湿した。そして、加湿した後のガスをセルに供給した。このような条件でセルにガスを供給した後、200mA/cm
2まで負荷を徐々に増加して200mA/cm
2で負荷を固定した。そして、「低加湿低負荷」条件下での性能として120分経過後のセル端子間電圧を評価した。セル端子間電圧が0.80V以上であれば評点◎、0.75V以上であれば○、0.75V未満のときは評点×とした。
【0132】
次に、「耐久性」の評価を行った。すなわち、カソードにアルゴン、アノードに純水素を常圧で供給した。セル温度は80℃に設定した。また、燃料電池に供給する空気と純水素を80℃に保温された蒸留水に通す(すなわち、バブリングを行う)ことで、加湿した。そして、加湿した後のガスをセルに供給した。このような条件でセルにガスを供給した後、セルに接続したポテンショスタットでアノードを基準にカソードの電位を0.6Vで10秒保持、1.2Vで10秒保持を100回繰り返した。その後、「高加湿高負荷」性能評価と同様の評価基準で「耐久性」を評価した。すなわち、「耐久性」性能として120分経過後のセル端子間電圧が、0.50V以上であれば○、0.50V未満のときは評点×とした。
【0133】
<9.性能評価1>
触媒担体炭素材料としてB、D、またはHを用い、ガス拡散炭素材料としてA、E、またはAとDの混合物を用いた。そして、触媒層中のガス拡散炭素材料含有率(ガス拡散炭素材料)/(触媒担体炭素材料+導電助剤炭素材料+電解質樹脂+ガス拡散炭素材料)を0.05または0.2となるように調整した触媒層をカソードに用いたときの性能評価を行った。なお、触媒担体炭素材料Bを用いるときは導電助剤炭素材料として炭素材料Dを触媒担体炭素材料B1.0質量部に対して0.2質量部加えて、触媒インクを調製した。また、ガス拡散炭素材料にAとDの混合物を用いる場合は、ガス拡散炭素材料A1.0質量部に対して、ガス拡散炭素材料Bを0.2質量部混合した。
【0134】
結果を表2に示す。触媒担体炭素材料に炭素材料D、ガス拡散炭素材料にミクロ孔を持たない炭素材料Aを用いた比較例1は、低加湿低負荷性能と耐久性が低い結果となった。比較例1の触媒担体炭素材料を親水性の高い炭素材料Bに変更した比較例2は、低加湿低負荷性能は改善されたが、耐久性は低いままであった。また、ガス拡散炭素材料に炭素材料Aと炭素材料Dを混合した比較例3と比較例4においても耐久性は低いままであった。また、触媒担体炭素材料に親水性の高い炭素材料B、ガス拡散炭素材料に炭素材料Eを用いた比較例5、6では、触媒層の親水性が高くなりすぎて高加湿高負荷性能が低くなった。
【0135】
触媒担体炭素材料に炭素材料Hを用い、ガス拡散炭素材料にミクロ孔を持たない炭素材料Aを用いた比較例7および8は、触媒層の保水性が足りず低加湿低負荷性能が低い結果となった。
【0136】
これらに対し、本発明の実施例である実施例1および実施例2は、高加湿高負荷性能、低加湿低負荷性能、耐久性能において、高い性能となった。
【0137】
【表2】
【0138】
<10.性能評価2>
触媒担体炭素材料を炭素材料Kに固定し、ガス拡散炭素材料を炭素材料AからNまで変化させたときの性能評価を行った。本発明の実施例である実施例3〜9は、比較例9〜15と比較して優れた性能を発揮した。すなわち、Gバンドの半値幅、BET比表面積、X/S
BET、Y/S
BET、ミクロ孔表面積が本発明の範囲内の値となっている場合、セルの特性が向上することが明らかになった。特に、より好ましい範囲であるY/S
BETが0.0002〜0.001、外部表面積が70〜250m
2/g、を満足する実施例3、5、6、8は特に優れた性能を発揮した。
【0139】
【表3】
【0140】
<11.性能評価3>
触媒担体炭素材料を炭素材料AからNまで変化し、ガス拡散炭素材料を炭素材料Kに固定させたときの性能評価を行った。本発明の実施例である実施例10〜16は、比較例16〜22と比較して優れた性能を発揮した。すなわち、Gバンドの半値幅、BET比表面積、X/S
BETが本発明の範囲内の値となっている場合、セルの特性が向上することが明らかになった。
【表4】
【0141】
<12.性能評価4>
触媒担体炭素材料を炭素材料E、ガス拡散炭素材料を炭素材料Hに固定し、触媒層中の含有率を変化させたときの性能評価を行った。結果を表4に示した。本発明の実施例17〜22はすべて優れた性能を発揮した。その中でもガス拡散炭素材料の含有率が0.1から0.25の実施例18〜21は特に優れた性能を発揮した。
【表5】
【0142】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。