【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、面で発光するという利点を活かして、薄型のディスプレイや照明用途として期待されている。ステンレス箔等の金属板は可撓性を有することから、電子ペーパー、有機ELディスプレイ、有機EL照明、太陽電池のデバイス用基板などへの応用が期待されている。有機EL素子用基板ではガスバリア性並びに平滑性・絶縁性が重要な特性になる。
【0003】
有機EL素子用基板のガスバリア性については、特にフレキシブル化を狙って樹脂基板を用いた時に問題になっている。樹脂基板の場合はそれを透過する水蒸気などのガス成分が問題になるが金属板をフレキシブル基板として用いる場合は、ステンレスをガスが透過できないため、この場合に要求される重要な特性は平滑性と絶縁性に絞られる。
【0004】
基板として金属板を用いる場合、その上に形成される有機EL素子の各層が途切れることなく成膜できるようにするには、ガラス基板並みの平滑性が求められる。通常、AFM(原子間力顕微鏡、Atomic Force Microscope)を用いて15μm視野で測定した場合、表面粗度Raが5nm以下であることが求められる。また、金属板それ自体の表面に存在する突起又は付着異物による凹凸は、有機EL素子のダークスポットなどの欠陥の原因となるため、これらの凹凸をなくすことが重要となっている。絶縁性については、金属板上に複数の素子を形成したとき、それらを独立に制御できるように短絡箇所がないことが必要である。
【0005】
特許文献1には、平滑性と絶縁性のバランスを兼ね備えた絶縁被膜としてフェニルトリアルコキシシランの部分加水分解・縮合反応物の被膜が記載されている。この絶縁被膜はAFMで測定してミクロレベルでの平滑性には優れている。しかし、金属板上の被膜の平滑性は金属板のマクロな表面状態の影響を受ける。金属板の表面には圧延スジや疵に起因する突起に由来する凹凸、圧延工程で巻きこんだ変質油に起因する付着異物などに由来する凹凸が存在している。これらの凸部の高さが絶縁被膜の膜厚に比べて十分に低い場合は、絶縁被膜表面に影響せず、健全な被膜が形成される。しかし、1.0μm〜3.0μmを超えるような突起や付着異物高さがある場合には、絶縁被膜にクラックが発生したり、成膜時にハジキやピンホールが発生したりして、短絡が生じることが多い。このような高い突起や異物の存在確率は金属板の製造プロセスに依存するが、一般的に、10cm平方内で1個以下にすることは金属板の製造では、非常に困難であり、3cm平方内に10個以上存在しても珍しいことではない。
【0006】
本件出願人の先願である特許文献2には、ステンレス箔上に、フェニル基含有シリカ系被膜とメチル基含有シリカ系被膜の2層構造から成る絶縁被膜を有する、有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔が記載されている。この絶縁被膜付きステンレス箔は、ステンレス箔表面の圧延スジや疵に起因する大きな突起や、付着異物などの影響を緩和するために、第2層の成膜工程中に熱劣化しない耐熱性の高い第1層を設けることにより、その上に位置する第2層の平滑性を担保している。
【0007】
この絶縁被膜付きステンレス箔は、ステンレス箔表面の凹凸が一定の高さ以下であると、その影響が緩和され、第2層の表面平滑性は担保される。しかし、ステンレス箔表面の凹凸が大きくなると、第1層の膜厚を厚くする必要がある。特許文献2に記載の有機EL用絶縁被膜付きステンレス箔では、第1層のメチル基含有シリカ系被膜の膜厚を厚くすると、塗布後の乾燥時の内部応力によって、第1層被膜に大きなクラックが発生して、その上に塗布される第2層の表面平滑性に影響するという新たな問題が生じている。
【0008】
特許文献3には、金属板と、ポリイミドを含む絶縁層とを積層してなる可撓性の薄膜デバイス基材が開示されている。ここで、ポリイミドを含む絶縁層の厚みは、0.1μm以上1mm以下となっている。しかし、特許文献3にでは、ポリイミド絶縁層が厚い場合に、塗布後の乾燥時の内部応力によって、その表面に大きなクラックが発生するという、問題点は、認識されていない。また、ポリイミドを含む絶縁層を塗布等にて形成するとあるのみで、絶縁層表面の平滑性の程度に関しては、記載されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ポリイミド系樹脂膜は一般にガラスと比較して寸法安定性、耐熱性、耐湿性に劣り、特に、ガスバリア性等に劣るため、種々の検討がなされている。また、これらの表面にポリイミド系樹脂膜を有する基板は、基板表面がガラス基板にできるだけ近い平滑性を有することが要求される。
【0011】
次に、表面にポリイミド系樹脂膜を有する基板には耐熱性が求められている。耐熱性が求められる理由は、表面にポリイミド系樹脂膜を有する基板は、熱処理工程、例えば有機ELディスプレイに用いられる場合には、300℃〜350℃の温度の雰囲気の中に曝される機会があるからである。
【0012】
ポリイミド系樹脂膜はそれ自体がガスを生成する場合があるので、表面にポリイミド系樹脂膜を有する基板は、基板表面のガスバリア性を担保すべく、さらに厚いガスバリア層を設けることが求められている。その場合、このガスバリア層上に、電子素子が形成されるので、ガスバリア層の表面はできるだけ平坦であることが求められるが。ガスバリア層の膜厚が大きくなると、一般的に、表面を平坦にすることが困難になる。ガスバリア性を担保するためには、ガスバリア層の膜厚を厚くすることを要するが、同時に表面粗さ(Ra)を小さくすることが求められる。厚膜なガスバリア層と小さい表面粗さ(Ra)の両方の要件を満たすガスバリア層を有する、有機EL素子用金属積層基板が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
表面にポリイミド系樹脂膜を有する金属基板上に形成するガスバリア層はクラックなどの発生が無ければ厚い方が好ましい。一方、ポリイミド系樹脂膜の厚みはフレキシブル性を考慮すると薄い方が好ましい。一般に、ガスバリア性能に優れたガスバリア層としては、酸化珪素や窒化珪素に代表される無機系材料が使用されており、これらの線膨張係数(CTE: coefficient of thermal expansion)は、通常、0〜10ppm/℃である。これに対して、一般にポリイミド系樹脂膜は、0〜60ppm/℃程度のCTEであるため、単に表面にポリイミド系樹脂膜を有する基板上に無機系材料のガスバリア層を有する金属積層基板を、有機EL装置の基板に適用しようとすると、熱応力によってガスバリア層にクラックが生じたり、剥離したりするなどの問題が発生してしまうことがある。
【0014】
また、有機EL素子用金属積層基板上に電子回路を形成するには、300℃程度に達するアニール工程が必要である。従来のガラス基板の場合には特に問題にならなかったものの、有機EL素子用金属積層基板にポリイミドのような樹脂を用いる場合には、熱処理温度における耐熱性と寸法安定性を備えていることが必要になる。一方で、照明用の有機EL装置のように電子回路を必要としない場合があるが、金属積層基板と隣接する透明電極の成膜温度を上げることによって透明電極の抵抗値を下げ、有機EL装置の消費電力を減らすことができるため、照明用途の場合にも金属積層基板に耐熱性が求められることは同様である。
【0015】
ベース金属箔上のポリイミド系樹脂膜の表面の傷は、異物と同様に、ガスバリア層の欠陥や、電極間の断線、ショートなどの不良の原因となる。金属箔と、ポリイミド系樹脂膜と、ガスバリア層とからなる金属積層基板を、有機EL素子の基体に適用する場合、ポリイミド系樹脂膜の現在の主な用途であるフレキシブルプリント配線板では許容されている1μm以下の凹凸が問題となってくる。一般的な黄褐色のポリイミド系樹脂膜、東レ・デュポン株式会社製商品名カプトン、株式会社カネカ製商品名アピカル、宇部興産株式会社製商品名ユーピレックスなどの、現在、市販されているポリイミド系樹脂膜で、デバイス用基板に問題なく適用できる表面状態のものはない。
【0016】
すなわち、表示装置等で従来用いられているガラス基板を、金属箔とポリイミド系樹脂膜とガスバリア膜から成る基板に置き換えるにあたっては、少なくとも基板上に有機EL素子を形成するときの300〜350℃に達する加熱プロセスに晒されてもガスバリア膜にクラックが入らない耐熱性が必要であるが、これを満たす様なガスバリア膜、ポリイミド樹脂膜、金属箔の積層体は存在していなかった。また、樹脂フィルム上に形成されるガスバリア層が一定以上の厚みを有し、十分なガスバリア性を提供することが、重要である。さらには、ガスバリア層の上には、有機ELディスプレイ、有機EL照明等を構成する半導体素子が形成されるので、ガスバリア層表面の平滑性が求められる。そこで、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、所定の繰返し構造を含んだポリイミドを特定の製造条件で作製したポリイミド系樹脂膜を金属箔上に積層し、かつ、当該ポリイミド系樹脂膜上のガスバリア層を有機基含有シリカ膜とすることで、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成した。
【0017】
したがって、本発明の目的は、薄型・軽量・フレキシブル化が可能であって、熱応力によるクラックや剥離の問題がなく、寸法安定性に優れ、且つ十分なガスバリア性を示すことができる有機ELディスプレイ、有機EL照明などのデバイス用基板に用いられる有機EL素子用金属積層基板及びその製造方法を提供することにある。
【0018】
本発明はこれらの発見に基づいて完成されたものであって、その要旨は以下の通りである。
【0019】
(1)金属箔上に順に、少なくとも1層のポリイミド層を含むポリイミド系樹脂膜、有機含有シリカ膜を有する有機EL素子用金属積層基板であって、
前記ポリイミド系樹脂膜が、3〜30μmの厚み、及び20〜300℃で0〜50ppm/℃の線膨張係数を有し、
前記有機基含有シリカ膜が、
式:(SiO
2)
x−(SiO
3/2R)
1−x
(式中Rがメチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、メルカプト基であり、xは0≦X<1である)
で表わすことができ、
前記有機基含有シリカ膜の厚みが、0.5〜5μmであることを特徴とする有機EL素子用金属積層基板。
(2)前記有機基含有シリカ膜と接するポリイミド層のガラス転移温度が300℃〜450℃であることを特徴とする(1)記載の有機EL素子用金属積層基板。
(3)金属箔上に順に、少なくとも1層のポリイミド層を含むポリイミド系樹脂膜、及び
式:(SiO
2)
X−(SiO
3/2R)
1-X
(式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、又はメルカプト基であり、xは、0≦x<1である)
で表される有機基含有シリカ膜を有する有機EL素子用金属積層基板の製造方法であって、前記金属箔上にポリイミド系樹脂膜を積層し、
前記ポリイミド系樹脂膜上に、有機基含有シリカ膜形成用塗布液を塗布し、乾燥し、300℃〜450℃で熱処理して、有機基含有シリカ膜を形成することを特徴とする有機EL素子用金属積層基板の製造方法。
(4)前記、有機基含有シリカ膜形成用塗布液の粘度が10〜50mPa・sの範囲であることを特徴とする(3)記載の有機EL素子用金属積層基板の製造方法。
(5)前記有機基含有シリカ膜形成用塗布液が、SiR(OR’)3で表わすことができるトリアルコキシシランと、Si(OR’)4で表わすことができるテトラアルコキシシラン(式中、Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、又はメルカプト基から選ばれる有機基であり、R’は、炭素数1〜6のアルキル基である)
を、有機溶媒中で、酸触媒を用い、加水分解重縮合させることで得たオルガノアルコキシシランの縮合物であることを特徴とする(3)又は(4)記載の有機EL素子用金属積層基板の製造方法。
(6)前記有機基含有シリカ膜形成用塗布液が、SiR(OR’)3で表わすことができるトリアルコキシシランと、Si(OR’)4で表わすことができるテトラアルコキシシラン(これらの式中、Rは、フェニル基であり、R’は、炭素数1〜6のアルキル基である)を、有機溶媒中で、酸触媒を用い、加水分解重縮合後、前記有機溶媒を留去しつつ150℃〜190℃減圧下にて縮合を進行させることで得たオルガノアルコキシシランの縮合物を溶媒に分散し得た、有機基含有シリカ膜形成用塗布液であることを特徴とする(3)又は(4)記載の有機EL素子用金属積層基板の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機EL素子用金属積層基板は、薄型・軽量・フレキシブル化が可能であって、非常に高い絶縁性を有し、ダークスポットなどの発生原因となる表面クラックない平滑な表面を有し、熱応力によるクラックや剥離の問題がなく、寸法安定性に優れ、且つ十分なガスバリア性を示すことができる有機ELディスプレイ、有機EL照明などのデバイス用基板に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の有機EL素子用金属積層基板を構成する各要素について説明する。
【0023】
本発明で用いることができる金属箔は、ガスバリア性及びフレキシブル性を有する金属箔であればいずれの金属箔でも良く、例えば、ステンレス鋼、普通鋼、亜鉛めっき、Alめっき等めっき鋼板、Al、Cu、NiまたはTiのからなる金属板、金属箔が挙げられる。これらの入手可能な金属箔は圧延して製造されるので、通常、表面に突起や付着異物が存在する。金属箔の厚みは特に限定されないが、有機EL素子用金属積層基板としては、一般的に、10μm〜200μmである。
【0024】
これらの例の中で、耐食性、強度の観点からステンレス鋼、ステンレス箔が好ましい。ステンレス箔としては、オーステナイト系SUS304、SUS316、フェライト系SUS430、SUS444などを用いることができる。Al箔は耐熱性が低いため繰り返昇温降温を繰り返すうちにAl箔が劣化し箔にしわが入り有機基含有シリカ膜へのクラック発生要因となることがあるためあまり好ましくない。
本発明の金属積層基板に用いることができるポリイミド系樹脂膜は、一般的に下記一般式(1)で表され、ジアミン成分と酸二無水物成分とを実質的に等モル使用し、有機極性溶媒中で重合する公知の方法によって製造することができる。
【0026】
一般式(1)において、Ar
1は芳香族環を1個以上有する4価の有機基であり、Ar
2は芳香族環を1個以上有する2価の有機基である。そして、Ar
1は酸二無水物の残基ということができ、Ar
2はジアミンの残基ということができる。
【0027】
酸二無水物としては、例えば、O(CO)
2−Ar
1−(CO)
2Oによって表される芳香族酸二無水物が挙げられる。好ましいAr
1としては、次に示す4価の有機基が例示される。
【0029】
酸二無水物は単独で又は2種以上混合して用いることができる。これらの中でも、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’−オキシジフタル酸二無水物(ODPA)から選ばれるものを使用することが好ましい。
【0030】
ジアミンとしては、例えば、H
2N−Ar
2−NH
2によって表される芳香族ジアミンが挙げられる。好ましいAr
2としては次に示す2価の有機基が例示される。
【0032】
これらのジアミンの中でも、ジアミノジフェニルエーテル(DAPE)、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(以下m−TB)、パラフェニレンジアミン(p−PDA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−Q)、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)が好適なものとして例示される。
【0033】
重合に用いる溶媒については、例えばジメチルアセトアミド、n−メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等を挙げることができ、これらについては1種若しくは2種以上を併用して使用することもできる。また、重合して得られたポリアミド酸(ポリイミド前駆体)の樹脂粘度については、500cps〜35000cpsの範囲とするのが好ましい。
【0034】
本発明の金属積層基板に用いるポリイミド系樹脂膜を製造する方法は、例えば、ポリアミド酸の樹脂溶液を金属箔上にアプリケーターを用いて流延塗布し、予備乾燥した後、更に、溶剤除去、イミド化のために熱処理する方法が好ましい。原料である樹脂溶液をベース基板に流延塗布する際、樹脂溶液の粘度は500cps〜35000cpsの範囲とすることが好ましい。また、樹脂溶液の塗布面となるベース基板の表面に対して適宜表面処理を施した後に、塗工を行ってもよい。ポリイミド樹脂膜は、有機基含有シリカ膜を形成する側の片面のみに形成しても良いし、金属箔の両面に形成してもよい。(上記において、乾燥条件は150℃以下で2〜30分、また、イミド化のための熱処理は130〜360℃程度の温度で2〜30分程度行うことが適当である。
【0035】
樹脂膜付き金属箔の温度の面内ばらつきを小さくするためには、所定の温度に到達後、十分に時間をおき、炉内温度が均一となった強制対流式のオーブンにより、樹脂膜付き金属箔を熱処理するのがよい。また、加熱時にポリイミド樹脂膜付き金属箔が、直接、炉の内面や棚板に接触すると局所的な温度むらが発生することがあるため、極力、接触しないように設置することが好ましい。さらに、熱処理前にポリイミド樹脂膜付き金属箔を予熱してもよい。
【0036】
ここで、アプリケーター等を使用して塗工を行う際の膜厚を均一に制御する観点から、ポリイミド系樹脂膜を形成するために使用するポリアミド酸及びポリイミドの重合度は、ポリアミド酸溶液の粘度範囲で表したとき、溶液粘度が500cps〜35000cpsの範囲の範囲にあることが好ましい。
【0037】
本発明の金属積層基板は、ポリイミド系樹脂膜上にガスバリア層として、有機基含有シリカ膜を有して成っている。有機基含有シリカ膜の膜厚は0.5〜5μmであり、さらに望ましくは3〜4μmである。膜厚が0.5μmより薄い場合は、ガスバリア性を確保できないことがある。膜厚が5μmを超えると有機基含有シリカ膜の製膜時に膜にクラックが入ることがある。有機基含有シリカ膜の膜厚が厚いとガスバリア性が高くなるため好ましいが、有機EL素子形成プロセスの昇降温プロセスにおける有機基含有シリカ膜のクラック発生を低減するには膜厚が薄い方が好ましいため、望ましい膜厚は3〜4μmである。
【0038】
本発明の金属積層基板においては、ガスバリア層表面がガラス基板にできるだけ近い平滑性(Raが5nm以下)を有することが要求される。
【0039】
本発明の金属積層基板では、ガスバリア層である有機基含有シリカ膜は、ポリイミド系樹脂膜上にオルガノアルコキシシランの加水分解・縮合物を塗布し、加熱処理を行って、形成される。
「オルガノアルコキシシラン」なる語は、本明細書中においては、三つのアルコキシ基がケイ素原子に(Si−O結合によって)直接結合したアルコキシ基を有し、一つの有機基が、有機基がケイ素原子に(Si−C)結合によって直接結合しかつSi−O−Si結合を有さない化合物であるトリアルコキシシラン、もしくは、四つのアルコキシ基がケイ素原子に(Si−O結合によって)直接結合したアルコキシ基を有しかつSi−O−Si結合を有さない化合物であるテトラアルコキシシランを意味する。
【0040】
本発明の金属積層基板に用いる有機基含有シリカ膜を形成する方法としては、ゾルゲル法を用いる。液相法であるゾルゲル法は、表面粗さ(Ra)が非常に小さく、厚い膜を生成することができるが、塗布後、300℃〜450℃での焼成が必要である。焼成では、オルガノアルコキシシランの加水分解で生じたSi−OH基同士の脱水縮合が進行しSi−O−Siネットワークが形成する。脱水縮合に伴い有機基含有シリカ膜は収縮するため収縮歪により有機基含有シリカ膜にクラックが発生する場合がある。また、有機EL素子形成プロセスの昇降温プロセスにおいて、残留した収縮歪にポリイミド系樹脂膜と有機基含有シリカ膜の膨脹係数差を起因とした歪が加わり有機基含有シリカ膜にクラックが発生する場合がある。本発明の金属積層基板では、ポリイミド系樹脂膜基材のガラス転移温度をコントロールすることによりこの問題を解決した。
【0041】
有機基含有シリカ膜と接するポリイミド層のガラス転移温度を300〜450℃とし、焼成温度をガラス転移温度より高くすると、有機基含有シリカ膜の焼成時に有機基含有シリカ膜と接しているポリイミド層が軟化した状態となるため有機基含有シリカ膜の収縮歪を開放することができる。収縮歪を開放できるため、有機基含有シリカ膜に発生するクラックを低減することが可能となる。
【0042】
本発明の金属積層基板に用いられる、有機基含有シリカ膜形成用塗布液は、式:SiR(OR’)
3とSi(OR’)
4(式中Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、又はメルカプト基から選ばれる有機基であり、R’は、炭素数1〜6のアルキル基である)との加水分解・縮合物である。
【0043】
加水分解・縮合物塗布液は、以下の式で表すことができる。
SiR(OR’)
3
(Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、又はメルカプト基であり、OR’はメトキシ基、エトキシ基)
【0044】
ガラス基板にできるだけ近い平滑性を得るためには、ポリイミド系樹脂膜基材上に塗布した直後の液面が水平になることが必要であり、この加水分解・縮合物は10〜50mPa・s液体として十分低い粘度を有することが好ましい。
【0045】
有機基Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、フェニル基、ベンジル基、エポキシ基、又はメルカプト基から選ばれる。有機基含有シリカ膜は有機基の含有により無機シリカ膜に比べ柔軟性を有しており耐クラック性が高い。製膜時の収縮歪に耐えられるため、無機シリカ膜に比べ厚膜を形成することができる。さらに、本発明の有機基含有シリカ膜は300℃以上の高温に晒されても前記膜中の有機基の熱分解が起こりにくく、膜の柔軟性の劣化が抑えられるため、有機EL素子作製プロセスにおけるクラックの発生を低減することができる。中でもメチル基、フェニル基熱分解が起こりにくく、有機EL素子作製プロセス中のクラック発生の低減が可能なため好ましい。特に好ましい、有機基は、疎水性が高いため耐水蒸気バリア性が期待できるフェニル基である。
【0046】
有機基含有シリカ系被膜はいわゆるゾルゲル法により作製する。作製方法について説明する。有機基Rを有するトリアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のオルガノアルコキシシランと、有機基Rを有しないテトラアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種以上のオルガノアルコキシシランを有機溶媒中で混合し加水分解する。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、MEK、MIBKなどを、単独、或いは複数種混合して用いることができる。加水分解に使う水は全アルコキシ基に対して0.3モル〜3モル倍であることが望ましい。加水分解時には、シリコン以外の金属アルコキシド触媒、有機酸、無機酸を用いてもよい。さらに加水分解後、還流や濃縮を行いで加水分解・重縮合の進行具合を調整しても良い。作製した塗布液をステンレス箔上に塗布するには、スピンコート、ディップコート、ロールコートなどの方法がある。塗布後、80〜150℃程度で0.5〜5分乾燥後、300〜450℃で窒素中0.1〜10時間熱処理をすることで有機基含有シリカ系被膜を得ることができる。
【0047】
本発明の有機基含有シリカ膜の形成に用いることができる有機基Rを有するトリアルコキシシランは、有機基Rがメチル基のトリアルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシランが挙げられる。有機基Rがエチル基のトリアルコキシシランとしては、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシランが挙げられる。有機基Rがフェニル基のトリアルコキシシランとしては、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシランが挙げられる。
【0048】
有機基Rがベンジル基のトリアルコキシシランとしては、ベンジルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ベンジルトリプロポキシランが挙げられる。有機基Rがエポキシ基のトリアルコキシシランとしては、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。有機機Rがメルカプト基のトリアルコキシシランとしては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランが挙げられる。
この中で有機基Rがフェニル基であるフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシランが、特に好ましい。
【0049】
有機基Rを有しないテトラアルコキシシラン化合物の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシランが挙げられる。
【0050】
特にフェニルトリメトキシシラン、もしくはフェニルトリエトキシシランを有機溶媒中で、酸触媒を用い、加水分解重縮合後、有機溶媒を留去しつつ150℃〜190℃減圧下にて縮合を進行させることで得たオルガノアルコキシシランの縮合物を溶媒に分散し得た、有機基含有シリカ膜形成用塗布液は、ポリイミド系樹脂膜基板に塗布、乾燥し得た膜が、焼成の工程で一旦軟化することで有機基含有シリカ膜の表面平滑性が非常に高くなるため特に好ましい。
【0051】
本発明においてポリイミド系樹脂膜基材は、20〜300℃における線膨張係数が0〜50ppm/℃であり、この範囲で、有機EL素子製造工程中における有機基含有シリカ膜のクラック発生を低減するために、搬送方向と幅方向の膨張係数の差を5ppm以下とする。有機基含有シリカ膜との線膨張係数の差が10ppm/℃以下であることが好ましい。上述した一般式(1)で表される構造単位を有するポリイミドは、弾性率が5GPa〜10GPa程度であって比較的硬い性質を有するので、それよりも弾性率の低いポリイミド層を有機基含有シリカ膜と接するように追加して塗布して、ポリイミド層を複層として、応力緩和の役割を果たすようにしてもよい。
【0052】
有機基含有シリカ膜と接するポリイミド層の厚みは3μm〜30μmにするのがよく、好ましくは5μm〜30μmにするのがよい。ポリイミド層の厚みが3μmより薄いと、金属箔の凹凸をポリイミド層により被覆することができず、貫通した突起部を起因として、有機基含有シリカ膜にクラックが発生し絶縁性信頼性を確保することができないことが有るため好ましくない。ポリイミド層の厚みは30μmを超えて製膜しても特に変化がなく問題も無いが、有機EL素子用金属積層基板のフレキシブル性に影響を与えるおそれがあるため30μm以下が好ましい。
【0053】
有機基含有シリカ膜とポリイミド系樹脂膜基材とのCTEの差が大きいと、その後の例えば、有機EL素子の製造工程中に、寸法安定性が悪化したり、クラックの発生が起こり問題となるが、本発明のポリイミド系樹脂膜であれば、有機基含有シリカ膜とのCTEの差が小さいため、これらのような不具合の問題が解消される。本発明の金属積層基板の有機基含有シリカ膜は、5〜20ppm/℃の範囲のCTEを有するのが好ましい。
【0054】
ガスバリア層を形成する有機基含有シリカ膜のCTEは5〜20ppm/℃に含まれる。そのため、これに隣接するポリイミド系樹脂膜のCTEがこれに近い値でない場合には、有機基含有シリカ膜にクラックが発生してしまう。そこで、本発明のポリイミド系樹脂膜は、線膨張係数が、20〜300℃で0〜50ppm/℃、好ましくは0〜50ppm/℃であり、かつ、有機基含有シリカ膜との線膨張係数の差が10ppm/℃以下、好ましくは0〜5ppm/℃となるようにする。
【0055】
有機基含有シリカ膜へのクラック発生を防止するために、金属箔上に形成したポリイミド系樹脂膜が複数のポリイミド層から成る場合は、ポリイミド系樹脂膜全体での線膨張係数が0〜50ppm/℃であることが必要である。
【0056】
本発明の金属積層基板の有機基含有シリカ膜の表面粗さRaが5nm以下、好ましくは4nm以下であるのがよい。表面粗さRaが5nmを超えると、例えば、この金属積層基板を有機EL素子に用いた場合、有機EL層の厚みが不均一になり、断線や発光ムラや色再現性が低下する原因となる。
【実施例】
【0057】
先ず、実施例中の各種物性の測定方法、および各特性の評価方法について以下に示す。
【0058】
「線膨張係数(CTE)」
3mm×15mmのサイズのポリイミド系樹脂膜付き金属箔を、金属箔をエッチングし得たポリイミド樹脂フィルムを、熱機械分析(TMA)装置にて5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度(20℃/分)で30℃から300℃の温度範囲で引張り試験を行い、温度に対するポリイミド系樹脂膜の伸び量から線膨張係数(ppm/℃)を測定した。
【0059】
「ガラス転移温度」
ポリイミドフィルム(10mm×22.6mm)を動的粘弾性測定装置(DMA)にて20℃から500℃まで5℃/分で昇温させたときの動的粘弾性を測定し、ガラス転移温度Tg(tanδ極大値)を求めた。
【0060】
「有機基含有シリカ膜の厚み」
有機基含有シリカ膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡(JEOL製JSM−6500F)を用いて測定した。有機基含有シリカ膜、ポリイミド層付き金属箔を金属箔カッターで切断し、イオンコータを用い切断面に導電膜としてPtコート層を形成後観察し、測定した。
【0061】
「表面粗さ」
有機基含有シリカ膜表面の表面粗さを原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)、ブルカ―エイエックス社製D5000を用い、タッピングモード、測定視野サイズ5μmで測定し、以下の基準で評価した。
5nm超:「×」、
5.0nm以下、2.0nm超:「△」、
2.0nm以下、1.0超:「○」、
1.0nm以下:「◎」。
【0062】
「昇降温プロセスでの耐クラック性評価」
耐クラック性の評価として、25℃〜300℃まで10℃/分で昇温度後、300℃から25℃まで10℃/分で降温した基板について、クラックの発生状況をヤマト科学社製マイクロスコープKH−7700で観察した。10mm角の視野において、クラックの数が20個以上の場合は評価結果を「×」、10個以上〜20個未満の場合は評価結果を「△」、1個以上10個未満の場合は評価結果を「○」、クラックが無い場合は評価結果を「◎」とし評価し、1サイクル後、3サイクル後、5サイクル後、10サイクル後でのクラック発生状況を評価した。
【0063】
「絶縁性評価」
絶縁性は、ポリイミド系樹脂膜及び有機基含有シリカ膜を形成した金属箔、又はポリイミド系樹脂膜が2層からなっている場合は、第1ポリイミド層、第2ポリイミド層及び有機基含有シリカ膜を形成した金属箔上に、3×3cmの金製上部電極を10箇所形成し100Vを印加してリーク電流にて評価した。
図1に測定装置の例を示すが、1は金属箔、2は絶縁被膜、3は上部電極、4抵抗測定装置(KEITHLEY製 236SOURCE MEASURE UNIT)である。
【0064】
1.0×10
−6A以上のリーク電流が流れた測定点が1点でもある場合は「×」と評価した。評価電極10点中において、1.0×10
−10A以上〜1.0×10
−6A未満のリーク電流が流れた測定点が、3〜10点である場合は結果を「△」、1〜3点である場合は「○」、全ての測定点においてリーク電流値が1.0×10
−10A未満である場合は「◎」と評価した。
【0065】
「ガスバリア性評価」
ガスバリア性は昇温脱ガス分光法(TDS)を用いて評価した。25mm角の有機基含有シリカ膜・ポリイミド層付き金属箔を真空中で5℃/分の速度で20〜300℃まで加熱し発生したガスを、質量分析計(アネルバ社製 M−QA―2000TS)を用いて質量スペクトル強度を測定し、質量スペクトル強度の積算値から検出されたガス成分の概算放出量を算出した。
ガス放出量が、
200×10
−3ml以下である場合:○
200×10
−3ml以上、500×10
−3ml未満である場合:△
500×10
−3ml以上である場合:×
と評価した。
【0066】
「金属箔の種類」
実施例1〜24、26〜27では金属箔として新日鉄住金マテリアルズ株式会社の独自鋼種・仕上げである鋼種としてNSSC190(SUS444相当) ハード材 スーパーブライト(SB)仕上げ、50μm厚×300mm幅×200m長を用いた。実施例25では、SUS430 ハード材、新日鉄住金マテリアルズ株式会社独自仕上げであるスーパーブライト(SB)仕上げ、50μm厚×300mm幅×200m長を用いた。実施例28では、金属箔として電解銅箔、50μm厚×300mm幅×200m長を用いた。実施例29では、金属箔としてアルミ箔、50μm厚×300mm幅×200m長を用いた。実施例30では、金属箔としてSUS304BA仕上げ、50μm厚×300mm幅×200m長を用いた。
【0067】
「ポリイミド系樹脂膜の作製方法」
実施例1〜30、比較例1〜5記載のポリイミド層A〜Iはポリアミド酸樹脂溶液(1)〜(4)(ポリイミド前駆体)をフィルム化することで作製した。
ポリアミド酸樹脂溶液(1)〜(4)は、窒素気流下で、セパラブルフラスコの中で撹拌しながら表1に示すジアミンを溶剤DMAcに溶解させた。次いで、この溶液に表1に示す酸無水物加えた。酸無水物:ジアミンのモル比は0.985にした。その後、溶液を室温で5時間揖梓を続けて重合反応を行った。粘稠なポリアミド酸溶液が得られ、高重合度のポリアミド酸が生成されていることが確認された。
「金属箔上へのポリイミド膜の形成」
実施例1〜30、比較例1〜5記載のポリイミド層A〜Iは表2に示す金属箔上にポリアミド酸溶液を、厚さ0.02mmの銅箔上にアプリケーターを用いて加熱処理後の膜厚が表2に示す厚さとなるように塗布し、90℃〜130℃を5分で乾燥させた後、150℃から表3に示す温度、時間で昇温して硬化させた。2層品を作るときは乾燥までさせた後、有機基含有シリカ膜に接する層を塗工し乾燥させて、単層送品と同様に硬化させた。
【0068】
「ポリイミド系樹脂膜の物性評価」
実施例1〜30、比較例1〜5のポリイミド系樹脂膜の膨脹係数、ガラス転移温度、膜厚の評価結果を表2に示す。
【0069】
<有機基含有シリカ膜用塗布液の合成>
表2に実施例1〜30、比較例1〜4でガスバリア膜として用いた、有機基含有シリカ膜の有機基種類、有機比率Xの有機基含有シリカ膜を示す。有機基含有シリカ膜の有機基種は有機基含有シリカ膜用塗工液の原料である有機基Rを有するトリアルコキシシランSiR(OR’)
3の有機基Rの種類の選定、有機基含有シリカ膜の有機基比率Xは、有機基Rを有するトリアルコキシシランとテトラアルコキシシランの混合比を変更することで調整した。比較例5ではガラスペースト(旭硝子株式会社製ガラスペーストAP5317)を用いた。
【0070】
実施例1〜30、比較例1〜4では有機基含有シリカ膜形成用塗布液として、表4記載の塗布液A〜Iを用いた。
有機基含有シリカ膜形成用塗布液A、B、Iは300mlサイズのなす型フラスコにエタノール溶媒100gと、表4に示すテトラアルコキシシラン、有機基Rを有するトリアルコキシシランの混合液に、表4に示す酸触媒と水の混合液を、シリンジポンプ(型番記入する)を用い2時間かけて滴化することでオルガノアルコキシシランの加水分解液を得た。得たオルガノアルコキシシランの加水分解液から、ロータリーエバポレータ(アズワン製型番NA−2VGS)を用い、オイルバスを60℃に設定し、エタノールを70g留去することで、有機基含有シリカ膜用塗布液を得た。
【0071】
塗布液C、E〜Hはそれぞれ、300mlサイズのなす型フラスコに、エタノール100gと表4に示す、トリアルコキシシラン、テトラアルコキシシランを添加し攪拌後、表4に示す酸触媒と水の混合液を、シリンジポンプを用い、2時間かけて滴化することで得た。
【0072】
塗布液Dは、300mlサイズのなすフラスコに表4に示すトリアルコキシシランとエタノール、触媒としてジブチルジラウレート錫を0.01g添加後、表4に示す酸触媒と水の混合液を、シリンジポンプを用い、2時間かけて滴化することでオルガノアルコキシシランの加水分解液を得た。オルガノアルコキシシランの加水分解液からロータリーエバポレータを用い、オイルバスの温度を190℃℃まで3時間かけて昇温し、溶媒を留去することで固形物を得た。得た固形物をトルエンに溶解することで有機基含有シリカ膜用塗布液を得た。
合成した有機基含有シリカ膜形成用塗布液A〜Iの粘度を表2に示す。
【0073】
<有機基含有シリカ膜の形成>
実施例1〜25、比較例1〜4では120mm角に切り出した、ポリイミド層付き金属箔にスピンコータ(ミカサ製MS−B200)を用い、表5記載の回転数で表4記載の有機基含有シリカ膜形成用塗布液をスピンコート後、大気中で100℃、2分乾燥し、クリーンオーブン(光洋サーモシステム製CLH−21CD(III))を用い、窒素雰囲気中で表2記載の処理温度で、10分熱処理することで、有機基含有シリカ膜を形成した。
【0074】
比較例5では、120mm角に切り出した、ポリイミド層付付き金属箔にバーコータ(第一理科株式会社製、番線No.2)を用い手塗りガラスペーストを塗付後、大気中で100℃、2分乾燥し、クリーンオーブン、窒素雰囲気中で、300℃、10分熱処理することでガラス系被膜を形成した。
【0075】
実施例26〜30はロール-to-ロールプロセスで積層体を形成した実施例である。実施例26は有機基含有シリカ膜形成用塗布液Cを、実施例27〜30は有機基含有シリカ膜形成用塗付液Bを用い、有機基Rがフェニル基、X=0のフェニル基含有シリカ膜を形成した。
【0076】
図2、3に、示す様に有機基含有シリカ膜はロール-to-ロール塗布・乾燥工程とロール-to-ロール熱処理工程とに分けて行った。ロール-to-ロール塗布・乾燥工程では、基材であるポリイミド系樹脂膜付き金属箔を巻きだした後、有機基含有シリカ用塗工液をポリイミド系樹脂膜付き金属箔のポリイミド系樹脂膜側に塗布後、炉長5.0m、設定温度80℃の乾燥炉を通過させ乾燥させた後に、基材を巻きとった。塗布手法としては、康井精機株式会社製のマイクログラビアを選択し、#200のグラビアロールを用い、通板速度10mpmで塗工した。ロール-to-ロール熱処理工程では、基材を巻きだし、炉長5.0m、設定温度400℃、酸素濃度1000ppm以下の窒素雰囲気の熱処理炉を通過させることで熱処理を実施した。通板速度は0.5mpmであった。
【0077】
<ポリイミド系樹脂膜、有機基含有シリカ膜積層体の評価>
表2に、実施例昇降温プロセスでの耐クラック性評価、ガスバリア性評価、絶縁性評価、表面粗さの評価の結果を示す。実施例1〜30は、カール性、昇降温プロセスでの耐クラック性、ガスバリア性、表面粗さが所定の範囲内と良好であり、有機EL素子用金属積層基板として好ましいことが分かった。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
比較例1はTDSで評価した脱ガス量が、20℃〜300℃におけるガス放出量が500ml以上であるため、バリア性に問題があるとして不可と判断した。これは、ガスバリア層である有機基含有シリカ膜の膜厚が薄く、ポリイミド層からの放出ガスをバリアできなかったためであると考えられる。
【0084】
比較例2はリーク電流値が1.0×10
−6A以上であり、絶縁信頼性が不十分であったため不可と判断した。これは、絶縁信頼性を向上させる目的で形成させている、ポリイミド層が2.0μmと薄いため、ポリイミド層を貫通した急峻な突起を起点として有機基含有シリカ膜に微細なクラックが発生したため、十分な絶縁信頼性を確保できなかったと考えられる。
【0085】
比較例3、4は、昇降温プロセスでの耐クラック性評価で昇降温後のクラック個数が20個以上であったため不可と判断した。比較例3はポリイミド層の膨脹係数が大きいため、ポリイミド層と有機基含有シリカ膜の膨脹係数差によりクラックが発生したと考えられる。比較例4は、有機基含有シリカ膜の有機基がアミノプロピル基であるため、昇温中に有機基が分解し無機膜になりクラックが発生したと考えられる。
【0086】
比較例5は表面粗さが5nmを超えており、大きいため不可と判断した。これは、ガスバリア層の原料としてガラスペーストが用いられているため、ガラスペーストの微粒子による凹凸により表面粗さが大きくなったと考えられる。
【0087】
以上、本発明について、実施例を用いて説明してきたが、これまでの各実施例で説明した構成はあくまで一例であり、本発明は、技術思想を逸脱しない範囲内で適宜変更が可能である。