【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/(高い臨時設営性を持つ有無線両用高速光伝送技術の研究開発)」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
変調電極は、2つの変調導波路部(O11とO12,O13とO14)の間に配置された信号電極(S1,S2)と、前記2つの変調導波路部を挟み込むように配置された2つの接地電極(G1〜G3)から構成され、かつ、該信号電極は、一つの入力用信号電極S0を2つに分岐して形成されており、各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する際の光強度が、互いに異なると共に所定の強度比を有し、各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部では、該変調電極による変調度が所定の比率で大きさが互いに異なるように、該変調導波路部に対する該信号電極及び該接地電極の配置位置が設定されていることを特徴とする光変調器である。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信や光計測の分野において、ニオブ酸リチウム(LN)などの電気光学効果を有する基板上に光導波路を形成すると共に、光導波路内を伝播する光波を変調するための変調電極を形成した光変調器が多用されている。
また、光スペクトルの利用効率を向上させるため、PAM(Pulse Amplitude Modulation)、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)等の多値変調やアナログ変調の検討も行われている。
【0003】
多値光信号を得る方法の1つとして、駆動電圧を逆相で印加するプッシュプル駆動型のマッハツェンダー変調器(MZM)を多値電気信号で駆動する方法がある。
図1には、従来の対称形のMZMの構成例を示してある。入力光信号は、方向性結合器、多モード光干渉素子(MMI)、Y字型の1×2カプラ等の対称分波器B1により、2の光導波路に分岐される。これら光導波路には、その間に配置した信号電極(Signal Electrode)とこれら光導波路を挟み込むように配置した2つの接地電極(Ground Electrode)によって、+θ及び−θの位相変化が与えられる。ここで、2θ=(π/Vπ)・Vであり、Vは駆動電圧、Vπは光導波路中を伝播する光信号の位相を半波長分変化させる印加電圧である。なお、光導波路において、信号電極と接地電極とが形成する電界により光導波路を伝播する光波の位相が変調を受ける部分を、変調導波路部(PM1,PM2)とする。
【0004】
各光導波路で変調を受けた光信号は、バイアス電極(Bias Electrode)によって−π/2及び+π/2の位相調整がされた後に、方向性結合器、MMI、Y字型の1×2カプラ等の対称合成器M1により合成されて、出力光信号として出力される。このとき、出力される光信号の電界Eは、
図2に示すようなsin(θ)であり、光強度出力は駆動電圧Vに対してサイン二乗の曲線となる。なお、光導波路において、バイアス電極で所定の位相調整が行われる部分をバイアス調整部(Bias1〜2)という。
【0005】
図2には、
図1のMZMにおける駆動電圧に対する出力光信号の応答曲線を示してある。同図に示すように、駆動電圧に対する応答曲線がサイン関数の非線形性を有するため、多値電気信号による駆動時に、応答曲線が線形の三角波の場合に得られる理想的な等間隔の出力光信号に対してズレが生じてしまう。
【0006】
特許文献1においては、駆動電圧に対する応答曲線を三角波に近付けるため、各変調導波路部の変調度を異なるように調整するため、複数の変調信号を用いたり、各変調導波路部に対応する変調電極(特に、信号電極)の長さを、変調導波路部毎に異なるように設定することが開示されている。
【0007】
しかしながら、複数の変調信号を用いる場合には、光変調器を駆動する外部回路が複雑化する上、装置全体のコストが増加する。また、変調電極の長さを異なるように設定することは、製品毎の特性にバラツキが生じ易く、製造コストの増加の原因となる。しかも、変調電極は、高周波変調に対応するため、数十μmの高さで形成されているため、基板と変調電極との間に熱膨張差に起因する内部応力が発生し易い。このため、各変調導波路部に対応して変調電極の長さが異なると、基板に加わる内部応力にムラが生じ易く、温度ドリフトや変調特性の劣化が生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、上記のような問題を解決し、製造コストや装置全体のコストの増加、及び変調特性の劣化を抑制すると共に、非線形性が抑制された光出力信号を得ることが可能な光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は以下のような技術的特徴を有する。
(1) 電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を変調するための変調電極とを備えた光変調器において、
該光導波路は、2つの分岐導波路部を有するマッハツェンダー型導波路であり、
各々の分岐導波路部には、該分岐導波路部に入力された光を分岐する分岐部と、該分岐部で分岐された各光の変調が行われる2つの変調導波路部と、前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する合成部とが設けられ、
該変調電極は、前記2つの変調導波路部の間に配置された信号電極と、前記2つの変調導波路部を挟み込むように配置された2つの接地電極から構成され、かつ、該信号電極は、一つの入力用信号電極を2つに分岐して形成されており、
各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する際の光強度が、互いに異なると共に所定の強度比を有し、
各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部では、該変調電極による変調度が所定の比率で大きさが互いに異なるように、該変調導波路部に対する該信号電極及び該接地電極の配置位置が設定されていることを特徴とする。
【0012】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、
前記合成する際の光の強度比は1:α(但し、αは1より大きい数値)であり、
前記変調度の比率は、光強度の大きい光を伝播する変調導波路部の変調度を基準に1:β(但し、βは1より大きい数値)であり、
該数値αが概ね5である場合には該数値βは概ね2であり、該数値αが概ね9である場合には該数値βが概ね3であることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明における「概ね」の表現が意味することは、実際の数値αや数値βが理想の値(例えば、α=5,β=2)から若干ずれた場合であっても、光変調器として使用する際に、実用上問題が無い範囲まで許容できるという意味である。また、仮に数値βが理想の値からずれた場合でもあって、数値αを理想の値から若干ずらすことで、より直線性の向上した変調特性が得られる場合もあり、このような状況を踏まえて数値を「概ね」と表現している。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光変調器では、電気光学効果を有する基板と、該基板に形成された光導波路と、該光導波路を伝播する光を変調するための変調電極とを備えた光変調器において、該光導波路は、2つの分岐導波路部を有するマッハツェンダー型導波路であり、各々の分岐導波路部には、該分岐導波路部に入力された光を分岐する分岐部と、該分岐部で分岐された各光の変調が行われる2つの変調導波路部と、前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する合成部とが設けられ、該変調電極は、前記2つの変調導波路部の間に配置された信号電極と、前記2つの変調導波路部を挟み込むように配置された2つの接地電極から構成され、かつ、該信号電極は、一つの入力用信号電極を2つに分岐して形成されており、各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する際の光強度が、互いに異なると共に所定の強度比を有し、各分岐導波路部における前記2つの変調導波路部では、該変調電極による変調度が所定の比率で大きさが互いに異なるように、該変調導波路部に対する該信号電極及び該接地電極の配置位置が設定されているため、変調電極に印加する変調信号の数を抑制できると共に、変調電極の長さも同じ長さに設定できる。これにより、光変調器の製造コストや装置全体のコストの増加が抑制できる。しかも、温度ドリフトの発生や変調特性の劣化も抑制でき、かつ、非線形性が抑制された光出力信号を得ることが可能な光変調器を提供することができる。
【0015】
なお、本発明では、駆動電圧のレベルに対応した光変調器からの出力光の振幅、あるいは光強度の比例関係からの乖離している状態を「非線形である」と表現している。直線的な周期関数である三角波に近い形状の応答曲線を「直線性」が高い、形状が異なる応答曲線を「非線形」であると呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】従来のマッハツェンダー変調器の構成例を示す図である。
【
図2】
図1のマッハツェンダー変調器における駆動電圧に対する出力光信号の応答曲線を示す図である。
【
図3】本発明を実現する光変調器の基本構成を説明する図である。
【
図4】
図3の光変調器において、強度比1:5及び変調度比1:2に設定した場合の変調状態を説明する図である。
【
図5】
図4の光変調器による駆動電圧に対する応答曲線を示す図である。
【
図6】
図3の光変調器において、強度比1:9及び変調度比1:3に設定した場合の変調状態を説明する図である。
【
図7】
図6の光変調器による駆動電圧に対する応答曲線を示す図である。
【
図8】本発明に係る光変調器に関する電極の配置の一例を説明する概念図である。
【
図9】本発明の光変調器に使用される変調電極の一例を示す斜視図である。
【
図10】
図9の一点鎖線A−A’における断面図を示す図である。
【
図11】本発明に係る光変調器の他の実施例を説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の光変調器について詳細に説明する。
図3は、本発明の光変調器を実現するための光変調器の基本構成を説明する図である。光変調器は、電気光学効果を有する基板1と、該基板に形成された光導波路(O10〜O15)と、該光導波路を伝播する光を変調するための変調電極とを備えている。光導波路は、2つの分岐導波路部を有するマッハツェンダー型導波路であり、各々の分岐導波路部には、該分岐導波路部に入力された光を分岐する分岐部(B22,B23)と、該分岐部で分岐された各光の変調が行われる2つの変調導波路部(PM11とPM12,PM13とPM14)と、前記2つの変調導波路部で変調された各光を合成する合成部(M22,M23)とが設けられている。
【0018】
複数のフーリエ級数成分からなる応答曲線を有する光変調器は、マッハツェンダー変調器を並列集積することで実現される。フーリエ級数の係数は光の強度の比率α、係数の符号はマッハツェンダー干渉計のバイアスの状態、各次数の成分は光の変調度の比率βで調整可能する。つまり、応答曲線のフーリエ級数項の数が2つであれば二並列、三つであれば三並列のマッハツェンダー変調器を、所定の光の強度比率、光の変調度比率をなる構造にすれば良い。三角波の場合、数学的なフーリエ級数展開式は正弦波の奇数次項成分からなり、フーリエ級数項の数が2つによる近似であっても非線形性が大きく改善される。
少ない級数項数で応答曲線の直線性を効率的に高めるには、数学的なフーリエ級数展開にかかわらず、偶数次の級数項を用いてもよい。奇数次の項からなる場合と比べて、光損失の増加が本質的に発生し、頂点(折り返し点)付近の近似が悪化するものの、リップル(行き過ぎ量、不足量)を小さくすることができ、直線性は大きく改善することができる。特に二次の成分を用いることが、少ない級数項数で直線性を改善する上で有効である。
【0019】
図3の光変調器では、入射光Linを2つの分岐導波路部に分けるため分岐部B21が設けられる。分岐部B21では、光の強度比を1:1に均等に分岐する対称分波器である。各変調導波路部には、マッハツェンダー型光導波路が設けられ、各々が、分岐部(B22,B23)や合成部(M22,M23)を備える。分岐部(B22,B23)で分岐され、その後、各変調導波路部で変調された光は、光の強度比が1:α(但し、αは1より大きい数値)となるように合成部で合成される。
【0020】
分岐された光は、各変調導波路部(PM11〜PM14)による光の変調を受ける。各変調導波路部における変調度の比率は、合成時の光強度の大きい光(強度αの光)を伝播する変調導波路部(PM11又はPM14)の変調度を基準に、1:β(但し、βは1より大きい数値)に設定される。具体的には、変調導波路部PM11と変調導波路部PM12とでは、変調度の比は、1:βである。なお、変調導波路部の近傍には、図示していない変調電極が配置されている。具体的には、
図1のように、信号電極と接地電極から構成される変調電極が配置される。ただし、各変調導波路部に対応して、個別の信号電極と独立した変調信号源を用意することは、光変調器全体の製品コストの増加を招くため、好ましくない。変調電極の構成については、後に詳細に説明する。また、合成部(M22,M23)において合波される光の強度比の要件が1:αであるが、ここでは、説明や図中の式等を簡単にするために、分岐部(B22,B23)で分岐される光の強度比を1:αとしている。
図4以降も同様である。
【0021】
また、各々の分岐導波路部では、同じ変調度(1又はβ)の変調導波路部(PM11とPM14,PM12とPM13)とが存在するが、これらは、互いに逆相の変調が行われる。各変調導波路部で変調された光は、不図示のバイアス電極によって形成されるバイアス調整部(Bias11〜23)によって所定の位相に調整される。さらに、合波部(M22,M23及びM21)によって、所定強度比で合波され、出力光Loutが形成される。なお、同じ光強度が伝播している光導波路では、光変調状態を置き換えて動作させても全く同じ出力が得られる。例えば、光導波路O12と光導波路O13について、光変調状態(変調度は同じだが位相方向は逆方向)を両者間で置き換えた場合でも、最終的に同様の変調状態の光が合波されるため、同じ出力光が得られる。後述する
図8では、
図4又は
図6における変調導波路PM12とPM13における変調状態が置き換わった形となる。
【0022】
図4は、各分岐導波路部における2つの変調導波路部に入力される光の強度比(1:α)を1:5に設定し、変調導波路部による変調度の比率(1:β)を1:2に設定した場合について、光変調器の変調状態を説明する図である。各分岐部(B21〜B23)、変調導波路部(PM11〜PM14)、バイアス調整部(Bias11〜23)、及び合波部(M22〜23,M21)を光波が通過するに従い、
図4に示す数式の変調状態となる。
図4の各数式を見ると、変調導波路部(PM11,PM14)では、三角波信号に対応する一次のフーリエ級数成分が形成されている。また、変調導波路部(PM12,PM13)では、同様に三角波信号に対応する二次のフーリエ級数成分が形成されている。これらを所定の位相調整を施して合波することで、非線形性が抑制された光出力信号を得ることができる。その結果を
図5に示す。
【0023】
図6は、各分岐導波路部における2つの変調導波路部に入力される光の強度比(1:α)を1:9に設定し、変調導波路部による変調度の比率(1:β)を1:3に設定した場合について、光変調器の変調状態を説明する図である。各分岐部(B21〜B23)、変調導波路部(PM11〜PM14)、バイアス調整部(Bias11〜23)、及び合波部(M22〜23,M21)を光波が通過するに従い、
図6に示す数式の変調状態となる。
図6の各数式を見ると、変調導波路部(PM11,PM14)では、三角波信号に対応する一次のフーリエ級数成分が形成されている。また、変調導波路部(PM12,PM13)では、同様に三角波信号に対応する三次のフーリエ級数成分が形成されている。これらを所定の位相調整を施して合波することで、非線形性が抑制された光出力信号を得ることができる。その結果を
図7に示す。
【0024】
図4や
図6では、一次のフーリエ級数成分に二次や三次のフーリエ級数成分を加算する方法を例示したが、本発明に係る光変調器では、光強度比や変調度の比率を調整し、更に高次のフーリエ級数成分を追加で加算することも可能である。さらに、
図4や
図6では、4つの変調導波路部を並列に配置して、2つのフーリエ級数成分を加算する方法を示したがで、更に多くの変調導波路部を並列に配置し、3つ以上のフーリエ級数成分を加算するよう構成することも可能である。また、得られる信号波形としては三角波信号だけでなく、鋸波形やデジタル応答に適した矩形信号や多段ステップ関数(multi Step function)に近づけることも可能である。
【0025】
次に、光導波路の変調導波路部に電界を印加する変調電極の構成について説明する。
まず、光変調器に使用する基板1としては、ポッケルス効果、カー効果などの電気光学効果を有する材料、及びこれらの材料を組み合わせた基板を用いることができる。特に、ポッケルス効果の高い材料であることが好ましい。具体的には、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、電気光学ポリマーなどの材料が挙げられる。
また、光導波路は、Tiなどの高屈折率物質を熱拡散法やプロトン交換法などで基板1の表面に熱拡散させることにより形成することができる。
【0026】
基板1には、変調導波路部を伝播する光波を変調するための信号電極及び接地電極、変調前後の光波の位相を調整するためのバイアス電極が形成されている。これらの電極は、基板1の表面に、Ti・Auの電極パターンを形成し、金メッキ方法などにより形成することが可能である。更に、必要に応じて光導波路形成後の基板1の表面に誘電体SiO
2等のバッファ層を設け、バッファ層の上に電極を形成することも可能である。
【0027】
本発明の光変調器では、変調導波路部に電界を印加する変調電極は、
図8に示すように、二つの信号電極S1とS2で構成している。ただし、この2つの信号電極に互いに独立した変調信号を印加する場合には、特許文献1と同様に、光変調器を含む装置全体のコストが増加する。本発明では、
図9〜10に示す改良を施すことで、実質的に一つの信号電極による光変調器を実現している。なお、
図8では、各分岐部で分岐される光の強度比の図示は省略している。また、所望の光強度比を得るためには、分岐部の光の分岐比、変調導波路部を含む光導波路の光損失、そして光を合成する合成部での合成比を総合的に考慮することが必要である。
【0028】
信号電極S1と接地電極G1とにより、変調導波路部PM11に電界を印加する。また、信号電極S1と接地電極G2とにより、別の変調導波路部PM12に電界を印加する。変調導波路部PM11とPM12とでは、信号電極S1と接地電極(G1,G2)との位置関係により、互いに逆相の変調が施される。
【0029】
また、隣接する2つの変調導波路部(PM11とPM12,PM13とPM14)には、互いに異なる変調度(変調度比率1:β)で変調を施すことが必要である。
図9及び10に示すように、変調電極(信号電極S1と接地電極(G1,G2))と光導波路(O11〜O14)との位置関係を調整して、この変調度の調整を実現している。
【0030】
図9は変調導波路部に変調信号を印加する変調電極の例を示したものである。説明を理解し易くするため、ここでは、変調電極(S0〜S2,G1〜G3)の下側に配置される光導波路を変調電極に重ねて表示しており、また、
図8で示したバイアス電極等の図示は省略している。
【0031】
各分岐導波路部に設けられた二つの変調導波路部には、各分岐導波路部毎に、同じ強さの変調信号を用いることができる。このため、
図9に示すように、一つの入力用信号電極S0を2つに分岐して信号電極(S1,S2)を形成し、一つの変調信号を入力するだけで、全ての変調導波路部に必要な変調信号を得ることが可能となる。また、この構造では、変調導波路部(PM11,PM12,PM13,PM14)の全体において、光導波路に対して電極を実質的に対称な形状にすることも可能であるため、基板に加わる内部応力にムラが生じにくく、温度ドリフトや変調特性の劣化が生じにくい。
【0032】
また、一つの信号電極(S1又はS2)に入力した変調信号で、異なる2つの変調度を実現するため、
図10のように、変調導波路部(O11〜O14)に対する信号電極(S1,S2)及び接地電極(G1〜G3)の配置位置が調整されている。
図10は
図9の一点鎖線A−A‘における断面図であり、変調度を変更するため、信号電極と接地電極との間隔(g1,g2)を変調導波路部に対応して変更している。当該間隔(g1,g2)が大きくなるに従い、変調度は小さくなり、間隔比g2/g1(=S)は、2つの変調導波路部O11とO12(O13とO14)における変調度の比を決定するパラメーターとなる。
【0033】
図10では、信号電極と接地電極との間隔を調整することで、両者の間に配置される光導波路(変調導波路部)に印加される電界の強度を調整していた。これに限らず、信号電極と接地電極との間の距離を変更せずに、信号電極からの光導波路(変調導波路部)までの距離を変更することで、変調度を調整することも可能である。
【0034】
図9及び
図10では、基板1の厚みを数十μm以下の薄板で形成する場合には、機械的強度を維持するため、基板1には接着層10を介して補強基板11が接合されている。この構造には電気信号が光に作用する効率が高いため低電圧化に有利であると共に、基板1が比誘電率の高い材料であっても特性インピーダンスが低下しにくいなど、本発明を実施する上での利点が多い。
【0035】
図11は、本発明の光変調器に適用される電極の配置を示す一例である。本発明の光変調器では、各分岐導波路部において変調導波路部(O11とO12,O13とO14)に、所定の強度比で光を分岐する必要がある。分岐部において、光導波路の形状を調整して、所定の分岐比を得る方法もあるが、例えば、
図11に示すように、分岐部(B22,B23)は対称分波器で構成し、各変調導波路部に対応して光強度調整手段を配置する構成(減衰器,Attenuator)を採用することも可能である。DCバイアス電圧(DC10〜DC13)を調整することにより、光強度変調手段の後段に伝播する光波の強度を調整することが可能となる。減衰器を省いて、非特許文献1に示されるアクティブY分岐を、分岐部に採用しても良い。さらにアクティブY分岐を合波部に採用しても良い。
【0036】
光強度比αを可変調整することにより、製造誤差や、分岐回路、電極特性の帯域特性などに起因して変調度比βが理想状態からずれた場合でも、光強度比αを調整して直線性を補うことも可能である。なお、変調度比βが整数値からおおきくずれた場合の影響は、三角波の頂点(折り返し点)近傍で大きく、三角波の直線部分では比較的小さい。三角波の近似がフーリエ級数的なものであるため、変調度比βや光強度比αは所定の整数であることが望ましいことは言うまでもないが、多くの用途においてアナログ変調用途においては、三角波の頂点付近より直線部分の特性が重視される。光強度比αを調整による直線性の補完は、有用な方法である。
【0037】
また、
図11では、
図8に示したバイアス電極に関連する電極構成も例示しており、各バイアス電極に印加するDCバイアス電圧を符号「DC20,DC21,DC30」で示している。
【0038】
一つの入力信号電極S0を2つに分岐して使用する場合には、
図11に示すように、入力信号電極の特性インピーダンスをZ0とすると、分岐した信号電極(S1,S2)では、2倍の特性インピーダンス(2*Z0)を確保することが必要である。このように設定しない場合には、信号電極の分岐部でインピーダンス不整合が発生することとなる。ニオブ酸リチウムのような比誘電率が高い材料を基板とした変調器の広帯域化のためには、分岐した信号電極(S1,S2)と接地電極(G1〜G3)は、
図10に示すように厚いコプレーナ電極として形成する必要がある。信号電極と接地電極との間隔(g1,g2)が非対称な厚いコプレーナ電極のインピーダンス特性の設計は、薄いコプレーナ電極の場合に比べて難しいが、有限要素法により可能である。このインピーダンス整合などマイクロ波特性設計の容易さの観点からは、信号電極(S1,S2)と接地電極(G1〜G3)との間隔は同じにして、変調導波路部と信号電極との距離を調整することで、各変調導波路部の変調度を調整してもよい。また、接地電極(G1〜G3)との間隔の調整と、変調導波路部と信号電極との距離の調整とを併用しても良い。