特開2017-88576(P2017-88576A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-88576(P2017-88576A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】アリルシラン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/16 20060101AFI20170421BHJP
   C07F 7/08 20060101ALI20170421BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170421BHJP
【FI】
   C07F7/16
   C07F7/08 C
   C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-223892(P2015-223892)
(22)【出願日】2015年11月16日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100183601
【弁理士】
【氏名又は名称】石丸 竜平
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】島田 茂
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一彦
【テーマコード(参考)】
4H039
4H049
【Fターム(参考)】
4H039CA92
4H039CD20
4H039CD90
4H049VN01
4H049VP01
4H049VQ03
4H049VR24
4H049VS76
4H049VT17
4H049VT30
4H049VU06
4H049VV12
4H049VV17
4H049VW02
(57)【要約】
【課題】アリルシラン化合物を効率良く製造することができるアリルシラン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の存在下、ハロゲン化アリル化合物とジシラン化合物とを反応させることにより、アリルシラン化合物を効率良く製造することができる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の存在下、ハロゲン化アリル化合物とジシラン化合物とを反応させてアリルシラン化合物を生成する反応工程を含むことを特徴とするアリルシラン化合物の製造方法。
【請求項2】
下記式(A)で表されるアリルシラン化合物を製造する、請求項1に記載のアリルシラン化合物の製造方法。
【化1】

(式(A)中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シロキシ基、ケイ素数1〜50のポリシロキシ基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を、R〜R6はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
【請求項3】
前記溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMA)、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN−メチルピロリドン(NMP)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むものである、請求項1又は2に記載のアリルシラン化合物の製造方法。
【請求項4】
前記パラジウム元素含有ナノ粒子の累積中位径(Median径)が、0.5〜100nmである、請求項1〜3の何れか1項に記載のアリルシラン化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アリルシラン化合物の製造方法に関し、より詳しくはパラジウム元素含有ナノ粒子を利用したアリルシラン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アリルシランは、細見・櫻井反応、檜山クロスカップリング反応、アリルフルオライド合成等における原料化合物であり、有機合成上の有用なビルディングブロックである。アリルシランの合成法としては、グリニャール試薬を用いる方法(非特許文献1参照)、有機−銅試薬を利用する方法(非特許文献2参照)、アリルエステルを利用する方法(非特許文献3参照)等の様々な方法が報告されている。
【0003】
一方、金属塩化物等をジメチルホルムアミド(DMF)中で還元することにより、粒子径が約2nm以下の金、白金、パラジウム等のナノ粒子を簡便かつ大量に合成することができることが報告されている。このようなナノ粒子は、分散剤等による表面処理を施すことなく各種媒体に均一に分散することができる優れた特性を有しており、これらのナノ粒子を有機合成反応の触媒として利用する検討が進められている。例えば、白金やパラジウムのナノ粒子を触媒として利用したクロスカップリング反応が報告されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−000593号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H. Gilman, et al., J. Am. Chem. Soc., 1959, 81, 5925.
【非特許文献2】J. G. Smith, et al., J. Org. Chem., 1984, 49, 4112.
【非特許文献3】H. URATA, et al., Bull. Chem. Soc. Jpn., 57, 607, 1984.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アリルシランを合成するための従来法では、使用する試薬が不安定であったり、工程が煩雑になってしまったり、利用できる基質に制限があったりする問題があった。
本発明は、アリルシラン化合物を効率良く製造することができるアリルシラン化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の存在下でハロゲン化アリル化合物とジシラン化合物が反応し、アリルシラン化合物が効率良く生成することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> 表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の存在下、ハロゲン化アリル化合物とジシラン化合物とを反応させてアリルシラン化合物を生成する反応工程を含むことを特徴とするアリルシラン化合物の製造方法。
<2> 下記式(A)で表されるアリルシラン化合物を製造する、<1>に記載のアリルシラン化合物の製造方法。
【化1】

(式(A)中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シロキシ基、ケイ素数1〜50のポリシロキシ基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を、R〜R6はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
<3> 前記溶媒が、ジメチルアセトアミド(DMA)、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、及びN−メチルピロリドン(NMP)からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を含むものである、<1>又は<2>に記載のアリルシラン化合物の製造方法。
<4> 前記パラジウム元素含有ナノ粒子の累積中位径(Median径)が、0.5〜100nmである、<1>〜<3>の何れかに記載のアリルシラン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アリルシラン化合物を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】合成例1で得られた分散液の動的光散乱法(DLS)による粒度分布の測定結果である。
図2】合成例1で得られた固形物の高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)の観察結果である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0012】
<アリルシラン化合物の製造方法>
本発明の一態様であるアリルシラン化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、「表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子(以下、「PdNCs」と略す場合がある。)」の存在下、「ハロゲン化アリル化合物」と「ジシラン化合物」とを反応させてアリルシラン化合物を生成する反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。
本発明者らは、アリルシラン化合物を効率良く製造することができる方法を求め鋭意検討を重ねた結果、表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の存在下でハロゲン化アリル化合物とジシラン化合物が反応し、アリルシラン化合物が効率良く生成することを見出したのである。かかる反応のメカニズムは、十分に解明されていないが、例えば塩化アリルとヘキサメチルジシランを利用した場合、下記式で表される触媒サイクルによって反応が進行するものと考えられる。
【化2】

本発明の製造方法において使用するPdNCsは、アリルシラン化合物の製造に使用した後、回収して触媒として再利用することもできる。一般的に錯体触媒は反応終了後に失活してしまったり、分解してしまうため、再利用が困難となるが、PdNCsは、表面が溶媒に保護されているため、劣化しにくく、触媒活性を維持し易いものと考えられる。また、本発明の製造方法は、ジシランを利用してシリル化を行うため、グリニャール試薬等の有機金属試薬の使用量の低減に繋がる優れた技術と言えるのである。
なお、「パラジウム元素含有ナノ粒子」とは、粒子径(累積中位径(Median径))が0.5〜100nmの範囲にあり、パラジウム元素を構成元素として含む粒子を意味するものとする。従って、パラジウム元素を含むものであれば具体的な組成は特に限定されず、金属パラジウム粒子のほか、パラジウムとその他の金属との合金粒子、金属パラジウム粒子に酸素原子や炭素原子等のその他の原子がドープされている粒子、或いは酸化パラジウム等のパラジウム元素を含む無機化合物粒子等も含まれることを意味する。
また、「表面に溶媒が配位した」とは、パラジウム元素含有ナノ粒子の表面に溶媒分子が配位していることを意味する。なお、パラジウム元素含有ナノ粒子に配位する「溶媒」は、具体的な種類は限定されず、置換可能であるため、目的の反応に合わせて適宜選択することができる。また、「溶媒」がパラジウム元素含有ナノ粒子に配位しているか否かについては、分散剤等による表面処理を施すことなく、「溶媒」に安定的に分散するか否かで判断することができる。即ち、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を配位させたパラジウム元素含有ナノ粒子は、DMFと親和性のある「溶媒」に安定的に分散させることができる。
「ハロゲン化アリル化合物」とは、ハロゲン原子のβ、γ位の炭素原子の結合が二重結合となっている化合物を意味するものとする。「ジシラン化合物」とは、ケイ素−ケイ素結合(Si−Si)を少なくとも1つ有する化合物を意味するものとする。「アリルシラ
ン化合物」とは、ケイ素原子のβ、γ位の炭素原子の結合が二重結合となっている化合物を意味するものとする。
従って、「ハロゲン化アリル化合物」と「ジシラン化合物」の反応としては、例えば下記式で示されるような反応が挙げられる(「ハロゲン化アリル化合物」が「塩化シンナミル」であり、「ジシラン化合物」が「ヘキサメチルジシラン」である。)。
【化3】
【0013】
(アリルシラン化合物)
本発明の製造方法によって製造されるアリルシラン化合物は、ケイ素原子のβ、γ位の炭素原子の結合が二重結合となっているものであれば、その他の構造は特に限定されず、幅広いアリルシラン化合物に適用することができる。
具体的には、下記式(A)で表されるアリルシラン化合物が挙げられる。
【化4】

(式(A)中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シロキシ基、ケイ素数1〜50のポリシロキシ基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を、R〜R6はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
、R、及びRは、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シロキシ基、ケイ素数1〜50のポリシロキシ基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を表しているが、「窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい」とは、クロロ基(−Cl)、フルオロ基(−F)、アミノ基(−NH)、ニトロ基(−NO)、エポキシ基、ヒドロキシル基(−OH)、カルボニル基(−C(=O)−)、tert−ブチルジメチルシリル基(−SiBuMe)、アジ基(−N)等の窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はハロゲン原子を含む官能基を含んでいてもよいことを意味するほか、エーテル基(−O−)、チオエーテル基(−S−)等の窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、又はハロゲン原子を含む連結基を炭素骨格の内部又は末端に含んでいてもよいことを意味する。従って、「窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい」炭化水素基としては、例えば−CH−CH−OHのようなヒドロキシル基を含む炭素数2の炭化水素基、−CH−O−CHのようなエーテル基を炭素骨格の内部に含む炭素数2の炭化水素基、及び−O−CH−CHのようなエーテル基を炭素骨格の末端に含む炭素数2の炭化水素基等が含まれる。また、「炭化水素基」とは、直鎖状の飽和炭化水素基に限られず、炭素−炭素不飽和結合、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよいことを意味する。
が炭化水素基である場合の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、好ましくは19以下、より好ましくは17以下、さらに
好ましくは15以下である。
としては、水素原子、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、n−ブチル基(−,−Bu)、t−ブチル基(−,−Bu)、n−ペンチル基(−11)、n−ヘキシル基(−13,−Hex)、シクロヘキシル基(−11,−Cy)、フェニル基(−C,−Ph)等が挙げられる。この中でも、フェニル基、水素原子等が特に好ましい。
が炭化水素基である場合の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、好ましくは19以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは15以下である。
としては、水素原子、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、n−ブチル基(−,−Bu)、t−ブチル基(−,−Bu)、n−ペンチル基(−11)、n−ヘキシル基(−13,−Hex)、シクロヘキシル基(−11,−Cy)、フェニル基(−C,−Ph)等が挙げられる。この中でも、水素原子、フェニル基等が特に好ましい。
が炭化水素基である場合の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、好ましくは19以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは15以下である。
としては、水素原子、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、n−ブチル基(−,−Bu)、t−ブチル基(−,−Bu)、n−ペンチル基(−11)、n−ヘキシル基(−13,−Hex)、シクロヘキシル基(−11,−Cy)、フェニル基(−C,−Ph)等が挙げられる。この中でも、水素原子等が特に好ましい。
【0014】
〜R6は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表しているが、R〜R6が炭化水素基である場合の炭素数は、好ましくは12以下、より好ましくは9以下、さらに好ましくは6以下である。
〜R6としては、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチル基(−CH,−Me)、エチル基(−C,−Et)、n−プロピル基(−,−Pr)、i−プロピル基(−,−Pr)、t−ブチル基(−t,−Bt)、フェニル基(−C,−Ph)等が挙げられる。この中でも、メチル基、t−ブチル基、フェニル基等が特に好ましい。
【0015】
アリルシラン化合物としては、下記式で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0016】
(ハロゲン化アリル化合物)
ハロゲン化アリル化合物の種類は、特に限定されず、製造目的であるアリルシラン化合物に基づいて適宜選択されるべきである。
基本的に製造目的であるアリルシラン化合物と共通する構造を有するハロゲン化アリル化合物を選択すべきであり、例えば下記式(a)で表される化合物が挙げられる。
【化6】

(式(a)中、R、R、及びRはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、シロキシ基、ケイ素数1〜50のポリシロキシ基、又は窒素原子、酸素原子、ケイ素原子、硫黄原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基を、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す。)
Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表しているが、塩素原子が好ましい。
具体的なハロゲン化アリル化合物としては、塩化アリル、塩化シンナミル、1−クロロ−2−ペンテン等が挙げられる。
【0017】
(ジシラン化合物)
ジシラン化合物の種類は、特に限定されず、製造目的であるアリルシラン化合物に基づいて適宜選択されるべきである。
基本的に製造目的であるアリルシラン化合物と共通する構造を有するジシラン化合物を選択すべきであり、例えば下記式(s)で表される化合物が挙げられる。
【化7】

(式(s)中、R〜R6はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜20の炭化水素基を表す。)
具体的なジシラン化合物としては、ヘキサメチルジシラン、ヘキサエチルジシラン、ヘキサフェニルジシラン、ヘキサヒドロジシラン、1,1,2,2−テトラメチル−1,2−ジフェニルジシラン、1,2−ジメチル−1,1,2,2−テトラフェニルジシラン、1,2−ジ(t−ブチル)−1,1,2,2−テトラメチルジシラン等が挙げられる。
【0018】
本発明の製造方法におけるジシラン化合物の使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化アリル化合物の使用量に対して、物質量([mol])で通常0.2倍以上、好ましくは1倍以上、より好ましくは2倍以上であり、通常20倍以下、好ましくは10倍以下、より好ましくは8倍以下である。上記範囲内であると、アリルシラン化合物をより収率良く製造することができる。
【0019】
(表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子)
表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子は、前述したパラジウム元素含有ナノ粒子に該当するものであれば、溶媒の具体的な種類、パラジウム元素含有ナノ粒子の組成、物性等は特に限定されない。
パラジウム元素含有ナノ粒子に配位する溶媒は、前述のように目的の反応に合わせて適宜選択することができるが、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。
なお、パラジウム元素含有ナノ粒子に配位する溶媒は、適宜置換することができる。例えばDMFが配位した金属パラジウムナノ粒子のDMF分散液からロータリーエバポレーター等を用いてDMFを留去し、金属パラジウムナノ粒子を固形物として得る。そして、固形物をTHF等のその他の溶媒に接触させ、撹拌等を行ってなじませることにより、THFが配位した金属パラジウムナノ粒子を得ることができる。また、接触させる溶媒は、1種類に限られず、2種類以上を混合した混合溶媒であってもよい。
パラジウム元素含有ナノ粒子は、前述のようにパラジウム元素を構成元素として含むものであれば具体的な組成は特に限定されないが、パラジウム元素のほかに酸素元素を含むことが好ましく、酸素原子がドープされている金属パラジウム粒子若しくはパラジウム合金粒子、又は酸化パラジウム粒子がより好ましい。
パラジウム元素含有ナノ粒子の粒子径(累積中位径(Median径))は、前述のように0.5〜100nmの範囲であれば特に限定されないが、好ましくは0.8nm以上、さらに好ましくは1nm以上であり、好ましくは50nm以下、より好ましくは10nm以下、さらに好ましくは5nm以下である。なお、累積中位径(Median径)は、透過型電子顕微鏡(TEM)で測定することができる。
【0020】
表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の調製方法は、特に限定されないが、パラジウム元素を含んだ前駆体を極性溶媒中で加熱還流する方法が挙げられる。
以下、パラジウム元素を含んだ前駆体を極性溶媒中で加熱還流する方法における条件等の詳細を説明する。
パラジウム元素を含んだ前駆体の種類は、特に限定されないが、塩化パラジウム(II)(PdCl)、臭化パラジウム(II)(PdBr)、酢酸パラジウム(II)(Pd(CHCO)、トリフルオロ酢酸パラジウム(II)(Pd(CFCO)等が挙げられる。この中でも、塩化パラジウム(II)が特に好ましい。塩化パラジウム(II)を使用することによって、触媒活性に優れるパラジウム元素含有ナノ粒子
を調製し易くなる。
極性溶媒の種類は、特に限定されないが、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。この中でも、N,N−ジメチルホルムアミドが特に好ましい。N,N−ジメチルホルムアミドを使用することによって、触媒活性に優れるパラジウム元素含有ナノ粒子を調製し易くなる。
設定する温度条件は、使用する極性溶媒によって選択されるべきであり、特に限定されない。
還流は、撹拌子等を使用して撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌子の回転数は、通常500rpm以上、好ましくは800rpm以上、より好ましくは1000rpm以上であり、通常2000rpm以下、好ましくは1800rpm以下、より好ましくは1700rpm以下である。上記範囲内であると触媒活性に優れるパラジウム元素含有ナノ粒子を調製し易くなる。
還流時間は、通常1時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常24時間以下、好ましくは12時間以下、より好ましくは10時間以下である。上記範囲内であると触媒活性に優れるパラジウム元素含有ナノ粒子を調製し易くなる。
還流は、窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行っても、或いは空気雰囲気下で行ってもよい。酸素原子がドープされている金属パラジウム粒子又はパラジウム合金粒子、酸化パラジウム粒子等を調製する観点から、空気雰囲気下で行うことが好ましい。
【0021】
本発明の製造方法における表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の使用量は、特に限定されないが、ハロゲン化アリル化合物の使用量に対して、パラジウム元素の物質量([mol])で通常0.5倍以下、好ましくは0.1倍以下、より好ましくは0.05倍以下であり、通常0.0001倍以上、好ましくは0.0005倍以上、より好ましくは0.001倍以上である。上記範囲内であると、アリルシラン化合物をより収率良く製造することができる。
なお、表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子は固形物として反応容器に投入してもよいが、溶媒に分散させた分散液として反応容器に投入してもよい。分散液として保存、使用することによって、パラジウム元素含有ナノ粒子の劣化を抑制したり、操作を簡略化したりすることができる。
【0022】
本発明の製造方法における溶媒の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜することができるが、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のプロトン性極性溶媒、アセトン、ジメチルアセトアミド(DMA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。また、溶媒は、1種類に限られず、2種類以上を混合した混合溶媒であってもよい。この中でも、ジメチルアセトアミド(DMA)、1,4−ジオキサン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−メチルピロリドン(NMP)等が特に好ましい。
【0023】
(反応条件)
反応工程における反応温度、反応時間等の反応条件は特に限定されない。
反応温度は、通常25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは130℃以下である。上記範囲内であれば、アリルシラン化合物をより収率良く製造することができる。
反応時間は、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、より好ましくは6時間以上であり、通常72時間以下、好ましくは48時間以下、より好ましくは24時間以下である。
反応は、通常窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行う。
【実施例】
【0024】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0025】
<表面に溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子の合成>
ジムロート冷却器を連結した100mLの三口フラスコに、空気雰囲気下で15mLの脱水N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を入れ、140℃に加熱したオイルバスに浸漬して、空気雰囲気下、撹拌子を1500rpmで回転させながら還流条件で10分程度予備加熱を行った。その後、空気雰囲気下で0.1モル濃度(0.1M)の塩化パラジウム(II)(PdCl)水溶液150μlを、マイクロシリンジを使って加え、撹拌しながら140℃で10時間加熱還流を行った。10時間経過後、室温まで冷却して、分散液を得た。得られた分散液について、動的光散乱法(DLS)により粒度分布を測定した結果を図1に示す。
【0026】
さらに、分散液からロータリーエバポレーターを用いてDMFを留去し(条件:10hPa、40℃)、十分に乾燥させた後、固形物を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)によって観察した。結果を図2に示す。
これらの結果から、粒子径が数nmで溶媒が配位したパラジウム元素含有ナノ粒子が形成していることが確認できる。
【0027】
<アリルシラン化合物の製造>
(実施例1)
アルゴン置換したシュレンクに、塩化シンナミル0.5mmol、ヘキサメチルジシラン2.0mmol、合成したパラジウム元素含有ナノ粒子(パラジウム元素の物質量:0.001mmol,塩化シンナミルに対するパラジウム元素の物質量:0.2mol%)、ジメチルアセトアミド1mLを投入し、100℃で16時間加熱撹拌して、反応を行った。H NMR、13C NMR、GCの測定結果から、下記式で表される化合物が、表1に示す比率で生成していることを確認した。
【0028】
(比較例1)
パラジウム元素含有ナノ粒子をビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(Pd(dba),0.0075mmol,5mol%)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表1に示す。
【0029】
(比較例2)
パラジウム元素含有ナノ粒子をビス(トリフェニルホスフィン)パラジウムジクロリド(PdCl(PPh,0.0075mmol,5mol%)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表1に示す。
【0030】
(比較例3)
パラジウム元素含有ナノ粒子を加えなかった以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表1に示す。
【0031】
【化8】

【表1】
【0032】
(実施例2)
パラジウム元素含有ナノ粒子の投入量を0.0005mmol(0.1mol%)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表2に示す。
【0033】
(実施例3)
パラジウム元素含有ナノ粒子の投入量を0.005mmol(1.0mol%)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表2に示す。
【0034】
【化9】

【表2】
【0035】
(実施例4)
ヘキサメチルジシランの投入量を0.5mmolに変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表3に示す。
【0036】
(実施例5)
ヘキサメチルジシランの投入量を1.0mmolに変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表3に示す。
【0037】
(実施例6)
ヘキサメチルジシランの投入量を3.0mmolに変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表3に示す。
【0038】
【化10】

【表3】
【0039】
(実施例7)
ジメチルアセトアミドをジオキサンに変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表4に示す。
【0040】
(実施例8)
ジメチルアセトアミドをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表4に示す。
【0041】
(実施例9)
ジメチルアセトアミドをN−メチルピロリドン(NMP)に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表4に示す。
【0042】
【化11】

【表4】
【0043】
(実施例10)
シュレンク内の雰囲気をアルゴンから酸素置換に変更した以外、実施例1と同様の方法により、反応を行った。結果を表5に示す。
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の製造方法によって製造されるアリルシラン化合物は、細見−櫻井反応、檜山クロスカップリング反応等を通じて医薬品等の製造に利用することができる。
図1
図2