特開2017-88587(P2017-88587A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-88587(P2017-88587A)
(43)【公開日】2017年5月25日
(54)【発明の名称】皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/99 20170101AFI20170421BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170421BHJP
   A61Q 15/00 20060101ALI20170421BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20170421BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170421BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20170421BHJP
【FI】
   A61K8/99
   A61Q19/00
   A61Q15/00
   A61K35/747
   A61P17/00
   A61P17/00 101
   A61P31/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-225045(P2015-225045)
(22)【出願日】2015年11月17日
(71)【出願人】
【識別番号】591210622
【氏名又は名称】ヤヱガキ醗酵技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 伸治
(72)【発明者】
【氏名】平田 徹
(72)【発明者】
【氏名】二川 浩樹
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC02
4C083CC17
4C083EE18
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC56
4C087CA09
4C087CA10
4C087CA11
4C087MA63
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZA90
4C087ZB35
(57)【要約】
【課題】人体に刺激が小さく、殺菌効果が高い微生物由来の皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の菌体、菌体培養物、または、これらの抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤に関する。また、本発明は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)による発酵物、または、前記発酵物の抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の菌体、菌体培養物、または、これらの抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤。
【請求項2】
ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)による発酵物、または、前記発酵物の抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤。
【請求項3】
発酵物が米または米加工品の発酵物である請求項2に記載の皮膚外用剤。
【請求項4】
デオドラント用である請求項1〜3のいずれかに記載の皮膚外用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚外用剤に関し、より詳しくは生物由来の有効成分を有す皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚外用剤の中でも、体臭を抑制するデオドラントが注目されており、様々な製品が上市されている。たとえば、体臭の原因となるイソ吉草酸、イソ酪酸、酢酸、乳酸エチル、ジメチルジオクソラノン等の低級脂肪酸類や、アンモニア、ブチルアミン等の含窒素化合物等そのものを除去する方法や、体臭の原因物質を産生する微生物を殺菌する方法などが知られている。これらの具体的手段として、化学物質を使用する方法が考えられるが、効果の高い化学物質ほど人体にも刺激が大きくなることが懸念される。
【0003】
ところで、口内細菌に対して抗菌力を示す乳酸菌として、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)が知られている(特許文献1)。しかしながら、口腔内の嫌気的条件下で増殖する、う蝕菌、歯周病菌、カンジダ菌などの口内細菌に対しての殺菌効果しか検討されていない。好気的条件下である皮膚上に存在する全く種類の異なる体臭を発生させる常在菌に対して、効果を示唆するものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2011/007584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、人体に刺激が小さく、殺菌効果が高い微生物由来の皮膚外用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、人体に刺激が小さく、殺菌効果が高い様々な微生物由来の培養物または発酵物について検討を進めたところ、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の培養物が皮膚に存在する常在菌に非常に高い殺菌効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の菌体、菌体培養物、またはこれらの抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤に関する。
【0008】
また、本発明は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)による発酵物、または、前記発酵物の抽出物を有効成分として含有する皮膚外用剤に関する。
【0009】
前記皮膚外用剤において、発酵物が米加工品の発酵物であることが好ましい。
【0010】
前記皮膚外用剤は、デオドラント用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の皮膚外用剤は、微生物由来のラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の培養物を含有するため、人体に優しく、高い殺菌効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の皮膚外用剤は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の培養物を含有することを特徴とする。
【0013】
ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)は、WO2011/007584に記載されているように、ヒト唾液中から分離された乳酸菌の一種であって、国際寄託されているものである。16S rRNAの塩基配列がラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)strain IDCC3201の塩基配列と1485/1485の間で100%の相同性を示し、グラム染色後の顕鏡下においてグラム陽性桿菌の様相を呈することから、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)と同定さている。KO3株の主な菌学的性質を以下に示す。
1)グラム陽性乳酸桿菌
2)ホモ型乳酸発酵
3)カタラーゼ陰性
4)芽胞形成能無し
5)好気条件下でも培養可
6)菌体外多糖類を産生。
【0014】
ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の菌体培養物とは、KO3株の菌体を、乳酸菌培養の常法にしたがって培養し、得られた培養物から遠心分離等の集菌手段によって分離されたものをそのまま用いることのみならず、当該培養・発酵液(培養上清)、その濃縮液や、菌体を酵素や物理的手段を用いて処理した細胞質や細胞壁画分も用いることができる。また、生菌体のみならず死菌体であってもよい。
【0015】
培養の方法は特に限定されず、当業者に周知の乳酸菌の培養方法をそのまま適用することができる。乳酸菌を培養する培地には、穀物培地(米、豆類、麦類、トウモロコシ等)、果汁培地、野菜汁培地、牛乳培地、脱脂粉乳培地又は乳成分を含む培地、これらを含まない半合成培地等種々の培地を用いることができる。このような培地としては、脱脂乳を還元して加熱殺菌した還元脱脂乳培地、酵母エキスを添加した脱脂粉乳培地、MRS培地、GAM培地等を例示することができる。培養方法は、静置培養又はpHを一定にした中和培養や、回分培養及び連続培養等、菌体が良好に生育する条件であれば、特に制限はない。豆類としては、大豆、小豆、エンドウ豆、ソラ豆などが挙げられ、麦類としては、小麦、大麦、ライ麦などが挙げられる。
【0016】
培地の中でも、抗菌活性が高いこと、培養物が水に溶解すること、アレルギー成分を含有しないことから、穀物培地で培養することが好ましく、穀物培地の中でも米、豆類が好ましく、米が最も好ましい。
【0017】
菌体または菌体培養物の抽出物とは、菌体または菌体培養物を、溶媒抽出することにより得られる各種溶剤抽出液、その希釈液、その濃縮液又はその乾燥末を意味する。
【0018】
抽出物を得るために用いられる抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類等が挙げられ、このうち、酢酸エチル等のエステル類、エタノール等のアルコール類が好ましい。
【0019】
抽出条件は、使用する溶剤によっても異なるが、例えば、培養液1質量部に対して1〜10質量部の溶剤を用い、0〜50℃、好ましくは25〜37℃の温度で、0.5時間〜3時間抽出するのが好ましい。
【0020】
抽出物をそのまま用いることもできるが、当該抽出物を希釈、濃縮若しくは凍結乾燥した後、必要に応じて粉末又はペースト状に調製して用いることもできる。また、液々分配等の技術により、適宜精製して用いることもできる。
【0021】
ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の菌体、菌体培養物、またはこれらの抽出物の配合量は、特に限定されず、一日投与量等に合わせて適宜調節すれば良い。たとえば該組成物が液体の場合には、乳酸菌体濃度を1×10cells/ml〜1×10cells/mlとすることが好ましく、固体の場合には、1×10cells/g〜1×1010cells/gとすることが好ましい。そのために、組成物中に0.1〜80重量%が好ましく、2〜50重量%がより好ましい。
【0022】
本発明の皮膚外用剤は、前述した菌体等を有していれば、化粧品などの分野で通常使用されている各種成分や添加剤の中から用途に適したものを任意に選択、併用することができる。たとえば賦形剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、担体、希釈剤等が挙げられる。
【0023】
本発明が課題とする体臭を発する細菌としては、皮膚に存在する常在菌であるBrevibacterium epidermidis、Corynebacterium amycolatum、Staphylococcus sp.、Micrococcus luteus、Staphylococcus aureusなどが挙げられる。本発明のデオドラント用組成物は、これらの細菌に対して高い増殖抑制効果を有する。
【0024】
本発明の皮膚外用剤の形態は特に限定されないが、例えば化粧水、乳液、美容液、一般クリーム、クレンジングクリーム等の洗顔料、パック、髭剃り用クリーム、日焼けクリーム、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼けローション、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、パウダー、口紅、リップクリーム、アイライナー、アイクリーム、アイシャドウ、マスカラ、浴用化粧品、シャンプー、リンス、染毛料、頭髪用化粧品等、各種化粧品および医薬部外品として分類される化粧品、いわゆる薬用化粧品などが挙げられる。
【0025】
また、本発明の皮膚外用剤は、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)による発酵物、または、前記発酵物の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0026】
発酵の方法は特に限定されず、当業者に周知の乳酸菌を使用した発酵方法をそのまま適用することができる。たとえば、予め前述した乳酸菌のスターターを用意し、これを発酵用原料物質に接種して発酵させることによって行うことができる。ここでスターターとしては、例えば代表的には予め通常の殺菌処理を行った発酵用原料物質、例えば酵母エキスを添加した10%脱脂粉乳などに、乳酸菌を接種して培養したものを挙げることができる。発酵用原料物質としては、前述した培地と同じものを利用することができる。発酵用原料物質には、必要に応じて発酵促進物質、例えばグルコース、澱粉、蔗糖、乳糖、デキストリン、ソルビトール、フラクトースなどの炭素源、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源、ビタミン類、ミネラル類などを加えることができる。
【0027】
乳酸菌の接種量は、一般には発酵用原料物質含有液1mL中に菌体が約1×10cells以上、好ましくは1×10cells前後含まれるものとなる量から選ばれるのが適当である。培養条件は、一般に、発酵温度20〜42℃程度、好ましくは25〜37℃程度、発酵時間5〜72時間程度から選ばれる。このようにして得られた乳酸発酵物は、カード状形態(ヨーグルト様形態)を有しており、これをそのまま使用することもでき、前述したような菌体培養物の抽出方法と同じような方法で抽出物を使用してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0029】
実施例
米または米タンパク含量の高い米加工品を0.5〜10%含み、必要に応じて炭素源としてブドウ糖またはショ糖を0.1〜10%付加したもの(残部は水)を加熱殺菌した培地にラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)を接種し、30〜45℃で24〜240時間培養後、デキストリン等の賦形剤を液中に加え乾燥、粉砕したものを乳酸菌発酵粉末として得た。
【0030】
<体臭の評価方法>
ヒトの汗の臭いに関連する以下の菌を使用し、檜山らの方法(檜山あや,二川浩樹,牧平清超,三村純代,高本祐子,野宗万喜、口腔由来乳酸菌株によるmutans streptococciの阻止作用.機能性食品と薬理栄養(日本機能性食品医用学会認定誌)6,155−162,2010.)に準じ、乳酸菌発酵末抗菌活性について評価した。
Brevibacterium epidermidis NBRC14811株
Corynebacterium amycolatum NBRC15207株
Staphylococcus sp. NBRC3762株
Micrococcus luteus NBRC1464株
Staphylococcus aureus NBRC13276株
【0031】
(前培養)
被験菌のグリセロールストックから50μlをTSBY培地8mlに摂取し、37℃、24時間静置培養した。
(菌液の調製)
前培養液を、滅菌水を用いて菌体洗浄し、菌液を調製した。
(本培養)
24ウェルマイクロプレートにTSBY培地1mlに分注後、菌液を50μl接種した。さらにフィルター滅菌した実施例で作製した乳酸菌発酵末水溶液の上清を1.5重量%(M.luteusに対しては2.0重量%)になるように1ml添加し、37℃、24時間静置培養した。なお、コントロールとして、等量の滅菌蒸留水を添加したものを用いた。
【0032】
培養後、目視により判断、あるいはTSBY寒天培地を用いてそれぞれの生菌数を測定し、以下の式で抗菌活性を算出した。結果を表1に示す。
抗菌活性(%)=100×(C−S)/C
(C:コントロールでの生菌数、S:培養上清での生菌数)
【0033】
【表1】
【0034】
表1の結果からわかるように、本発明のデオドラント用組成物は、Brevibacterium epidermidis、Corynebacterium amycolatum、Staphylococcus sp.、Micrococcus luteus、 Staphylococcus aureusのいずれに対しても高い増殖抑制効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の皮膚外用剤は、微生物由来のラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus)KO3株(NITE BP−771)の培養物または発酵物を含有するため、人体に優しく、高い殺菌効果を奏し、化粧料などに好適に適用することができる。