【課題】耐熱性、熱分解安定性、及び機械強度保持性に優れた硬化物を得ることができると共に、成形の際の流動性にも優れて、パワーデバイス封止材用に好適なエポキシ樹脂組成物、及びエポキシ樹脂硬化物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表されるエポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、硬化触媒、及び無機充填剤を含有して、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定したときの発熱ピークトップが150℃以上のエポキシ樹脂組成物であり、また、このエポキシ樹脂組成物を100℃〜200℃で成形後、200℃〜300℃でポストキュアするエポキシ樹脂硬化物の製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂組成物の必須成分である、上記一般式(1)で表されるエポキシ樹脂は、下記一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂とエピクロロヒドリンとを反応させることにより製造することができる。そして、この多価ヒドロキシ樹脂は、ビフェノール類と下記一般式(b)で表されるフェニル系縮合剤とを反応させることにより製造することができる。
【化5】
(但し、nは平均値として0.2〜4.0を示す。)
【化6】
(但し、Xは水酸基、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。)
【0014】
多価ヒドロキシ樹脂の合成原料のビフェノール類としては、例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−ジヒドロキシビフェニル等のジヒドロキシビフェニル類が挙げられる。これらの二官能フェノール性化合物は炭素数1〜6の炭化水素基で置換されていてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、アリル基、ターシャリーブチル基、アミル基、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。また、これらのジヒドロキシビフェニル類は単独でもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0015】
一般式(b)において、Xは水酸基、ハロゲン原子又は炭素数1〜6のアルコキシ基を示す。一般式(b)のフェニル系縮合剤としては、o−体、m−体、p−体のいずれでもよいが、好ましくは、m−体、p−体である。具体的には、p−キシリレングリコール、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン、α,α’−ジエトキシ−p−キシレン、α,α’−ジイソプロピル−p−キシレン、α,α’−ジブトキシ−p−キシレン、m−キシリレングリコール、α,α’−ジメトキシ−m−キシレン、α,α’−ジエトキシ−m−キシレン、α,α’−ジイソプロポキシ−m−キシレン、α,α’−ジブトキシ−m−キシレン等が挙げられる。
【0016】
反応させる際のモル比は、例えば4,4’−ジヒドロキシビフェニル1モルに対して、フェニル系縮合剤が1モル以下でなければならず、一般的には0.1〜0.7モルの範囲であり、より好ましくは0.2〜0.5モルの範囲である。これより少ないと結晶性が強くなり、エポキシ樹脂を合成する際のエピクロロヒドリンへの溶解性が低下するとともに、得られたエポキシ樹脂の融点が高くなり、取扱い性が低下する。また、これより多いと樹脂の結晶性が低下するとともに軟化点および溶融粘度が高くなり、取扱い作業性、成形性に支障をきたす。
【0017】
また、縮合剤としてp−キシリレングリコールを用いる際には、無触媒下で反応させることもできるが、通常は、本縮合反応は酸性触媒の存在下に行う。この酸性触媒としては、周知の無機酸、有機酸より適宜選択することができ、例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸や、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタスルホン酸、トリフルオロメタスルホン酸等の有機酸や、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、三フッ化ホウ素等のルイス酸、あるいは固体酸等が挙げられる。
【0018】
この反応は10〜250℃で1〜20時間行われる。また、反応の際にメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のアルコール類や、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物等を溶媒として使用することができる。反応終了後、必要に応じて溶媒、又は縮合反応により生成する水、アルコール類は除去される。
【0019】
一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンとの反応による本発明のエポキシ樹脂の製造方法について説明する。この反応は周知のエポキシ化反応と同様に行うことができる。
【0020】
例えば、一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に50〜150℃、好ましくは60〜120℃の範囲で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この際のエピクロルヒドリンの使用量は、多価ヒドロキシ樹脂中の水酸基1モルに対して0.8〜2モル、好ましくは0.9〜1.2モルの範囲である。反応終了後過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶媒に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶媒を留去することにより前記一般式(1)で表される目的のエポキシ樹脂を得ることができる。エポキシ化反応を行う際に、四級アンモニウム塩等の触媒を用いてもよい。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂の純度、特に加水分解性塩素量は、適用する電子部品の信頼性向上の観点より少ない方がよい。特に限定するものではないが、好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは500ppm以下である。なお、本発明でいう加水分解性塩素とは、以下の方法により測定された値をいう。すなわち、試料0.5gをジオキサン30mlに溶解後、1N−KOH、10mlを加え30分間煮沸還流した後、室温まで冷却し、さらに80%アセトン水100mlを加え、0.002N−AgNO
3水溶液で電位差滴定を行い得られる値である。
【0022】
次に、本発明のエポキシ樹脂組成物について説明する。本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記一般式(1)のエポキシ樹脂、フェノール系硬化剤、硬化触媒及び無機充填剤を含む。
【0023】
このエポキシ樹脂組成物に配合する硬化触媒としては、硬化を促進させると共に、成形時の流動性を向上させる目的で、エポキシ樹脂組成物中に高温領域に活性点を持つ硬化触媒(高温活性触媒)を用いることが好ましい。
【0024】
硬化触媒の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2〜5重量部の範囲であるのがよい。好ましくは0.5〜3重量部であり、より好ましくは0.5〜2.5重量部である。これより小さいと硬化性が低下し、また反対にこれより大きくなると、成形時の流動性向上効果が十分に発現されなくなる。
【0025】
高温活性触媒を使用したエポキシ樹脂組成物のDSC発熱ピーク温度としては、150℃以上であり、好ましくは155℃以上、より好ましくは165℃以上である。発熱ピーク温度が150℃より低いと成形時に硬化反応が進行してしまい流動性向上効果が十分に発現されない。このDSC発熱ピーク温度は、硬化触媒としての高温活性触媒を配合したエポキシ樹脂組成物を、昇温速度10℃/分の条件で示差走査熱量測定(DSC測定)したときの、最大発熱ピーク(発熱ピークトップ)を示す温度である。なお、DSC発熱ピーク温度の上限については、ポストキュアによる硬化温度の範囲が200℃〜300℃であるのが好ましいことなどを考慮すると、実質的には300℃である。
【0026】
硬化触媒(高温活性触媒)としては、例を挙げれば、イミダゾール類、有機ホスフィン類、アミン類等が挙げられる。イミダゾール類としては、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−〔2‘−ジメチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2‘−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−〔2‘−ウンデシルイミダゾリル−(1’)〕−エチル−s−トリアジン等、有機ホスフィン類としては、トリス−(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリ−p−トリルホスフィン、トリス(p−クロロフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン等、アミン類としては、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7のフェノールノボラック塩等がそれぞれ挙げられる。これらの1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本発明では、硬化触媒として特定の活性温度領域をもつ高温活性触媒を使用することで、流動性の低下を抑制でき、さらに、硬化条件に関して、特に本発明のエポキシ樹脂を使用した場合に特異的に高温での硬化条件がガラス転移温度に大きく影響を与えることが見出された。
【0028】
また、硬化剤としては、フェノール系硬化剤を使用する。半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。以下に、硬化剤の具体例を示す。
【0029】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビフェノール類、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類、更にはトリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等に代表される3価以上のフェノール類等がある。更にはフェノール類、ナフトール類又は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4' −ビフェノール、2,2' −ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−キシリレングリコール、p−キシリレングリコールジメチルエーテル、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジメトキシメチルビフェニル類、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル類等の架橋剤との反応により合成される多価フェノール性化合物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から得られるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂等がある。更には、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類等が挙げられる。
【0030】
このうち、好ましいフェノール系硬化剤としては、下記一般式(2)又は(3)で表されるアラルキル型フェノール樹脂であるのがよい。
【化7】
ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を示し、lは0〜2の数を示す。
【化8】
ここで、Aはベンゼン環、ナフタレン環、又はビフェニル環を示し、mおよびpは独立に1または2の数を示す。ここで、ベンゼン環、ナフタレン環、又はビフェニル環は、置換基を有するものであってもよく、好ましい置換基は炭素数が1〜3のアルキル基である。kは繰り返し数であり1〜15の数であるが、その平均は1〜2の範囲であることが好ましい。
【0031】
一般式(2)で表される硬化剤を使用することで、パワーデバイス封止剤に求められる250℃以上の高Tg性が見出され、長期耐熱試験時にガラス状態を保つことで高い熱分解安定性が発現される。また、一般式(3)で表される硬化剤を使用することで、熱安定性に優れるビフェニル構造の導入により特に優れた重量保持率及び曲げ強度保持率が発現される。
【0032】
一般式(2)で表される多価ヒドロキシ化合物(フェノール系硬化剤)は、サリチルアルデヒド又はp−ヒドロキシアルデヒドとフェノール性水酸基含有化合物とを反応させることにより製造できる。
【0033】
ここで、フェノール性水酸基含有化合物としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2−エチルフェノール、4−エチルフェノール、2−プロピルフェノール、4−プロピルフェノール、4−tert−ブチルフェノール、4−ペンチルフェノール、4−tert−ペンチルフェノール、4−ネオペンチルフェノール、2−シクロペンチルフェノール、2−ヘキシルフェノール、4−ヘキシルフェノール等が挙げられる。
【0034】
一方、一般式(3)で表される多価ヒドロキシ化合物(フェノール系硬化剤)は、ベンゼン環又はナフタレン環を有するフェノール性水酸基含有化合物と芳香族架橋剤とを反応させることにより製造できる。
【0035】
ここで、フェノール性水酸基含有化合物としては、フェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ピロガロール、フロログルシノール、1−ナフトール、2−ナフトール、1,5−ナフタレンジオール、1,6−ナフタレンジオール、1,7−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオール、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等が挙げられる。
【0036】
芳香族架橋剤としては、ベンゼン骨格を有するものとビフェニル骨格を有するものがある。ベンゼン骨格を有するものとしては、o−体、m−体、p−体のいずれでもよいが、好ましくは、m−体、p−体である。具体的には、p−キシリレングリコール、α,α’−ジメトキシ−p−キシレン、α,α’−ジエトキシ−p−キシレン、α,α’−ジイソプロピル−p−キシレン、α,α’−ジブトキシ−p−キシレン、m−キシリレングリコール、α,α’−ジメトキシ−m−キシレン、α,α’−ジエトキシ−m−キシレン、α,α’−ジイソプロポキシ−m−キシレン、α,α’−ジブトキシ−m−キシレン等が挙げられる。また、ビフェニル骨格を有するものとしては、4,4’−ジヒドロキシメチルビフェニル、2,4’−ジヒドロキシメチルビフェニル、2,2’−ジヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−ジメトキシメチルビフェニル、2,4’−ジメトキシメチルビフェニル、2,2’−ジメトキシメチルビフェニル、4,4’−ジイソプロポキシメチルビフェニル、2,4’−ジイソプロポキシメチルビフェニル、2,2’−ジイソプロポキシメチルビフェニル、4,4’−ジブトキシメチルビフェニル、2,4’−ジブトキシメチルビフェニル、2,2’−ジブトキシメチルビフェニル等が挙げられる。メチロール基等の官能基のビフェニルに対する置換位置は、4,4’−位、2,4’−位、2,2’−位のいずれでもよいが、縮合剤として望ましい化合物は4,4’−体であり、全架橋剤中に4,4’−体が50wt%以上含まれたものが特に好ましい。これより少ないとエポキシ樹脂硬化剤としての硬化速度が低下したり、得られた硬化物が脆くなりやすい。
【0037】
上記一般式(3)において、kは1から15の数である。kの値は、上記フェノール性水酸基含有化合物と上記架橋剤を反応させる際の両者のモル比を変えることにより容易に調製できる。すなわち、フェノール性水酸基含有化合物を架橋剤に対して、過剰に用いるほどkの値は小さくコントロールできる。kの値が大きいほど得られた樹脂の軟化点及び粘度が高くなる。また、kの値が小さいほど粘度が低下するが、合成時の未反応フェノール性水酸基含有化合物が多くなり、樹脂の生産効率が低下する。両者のモル比は、実用上、フェノール性水酸基含有化合物1モルに対して架橋剤が1モル以下でなければならず、好ましくは、0.1〜0.9モルの範囲である。0.1モルより少ないと未反応のフェノール性水酸基含有化合物量が多くなり、工業上好ましくない。
【0038】
エポキシ樹脂組成物中におけるフェノール系硬化剤の配合量は、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂中のエポキシ基とフェノール系硬化剤の水酸基との当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、上記一般式(2)又は(3)のフェノール系硬化剤ともに、通常、0.2から5.0の範囲であり、好ましくは0.5から2.0の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜1.5の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0039】
また、このエポキシ樹脂組成物中には、硬化剤成分として、フェノール系硬化剤に加えて他の硬化剤を配合してもよい。この場合の硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等があり、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。しかし、上記一般式(2)又は(3)のフェノール系硬化剤以外の硬化剤の使用量は全硬化剤の50wt%以下とすることが好ましい。
【0040】
エポキシ樹脂組成物中における一般式(1)で表されるエポキシ樹脂の配合量は、0.1wt%〜28wt%であるのがよく、好ましくは3wt%〜16wt%である。一般式(1)のエポキシ樹脂の配合量が0.1wt%より少ないと硬化物の耐熱性及び熱分解安定性が十分に改善されず、反対に28wt%より多くなるとエポキシ基と水酸基の当量バランスが悪くなり、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0041】
また、このエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂に加えて他のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4' −ビフェノール、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、レゾルシン、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類のエポキシ化物、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類のエポキシ化物、ジシクロペンタジエンとフェノール類から得られる共縮合樹脂のエポキシ化物、クレゾール類とホルムアルデヒドとアルコキシ基置換ナフタレン類から得られる共縮合樹脂のエポキシ化物、フェノール類とパラキシリレンジクロライド等から得られるフェノールアラルキル樹脂のエポキシ化物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から得られるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類のエポキシ化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。ただし、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂の配合量は、エポキシ樹脂全体中、5〜100wt%、好ましくは60〜100wt%の範囲であるのがよい。
【0042】
無機充填剤としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、酸化マグネシウム等が挙げられる。エポキシ樹脂組成物中における無機充填剤の配合量として、特に、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%〜95重量%であり、更に好ましくは80重量%〜90重量%である。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、更に必要に応じて、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、4−アミノプロピルエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を配合してもよい。
【0044】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を改質剤等として適宜配合してもよい。その場合の添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0045】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤、酸化防止剤等の添加剤を配合することもできる。
【0046】
このうち、顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0047】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤を溶解させたワニス状態とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー等のポリエステル不織布、等の繊維状物に含浸させた後に溶剤除去を行い、プリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に塗布することにより積層物とすることができる。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物の調製方法は、各種原材料を均一に分散混合できるのであればいかなる手法を用いてもよいが、一般的な方法として、所定の配合量の原材料をミキサー等によって十分混合した後、ミキシングロール、押出し機等によって溶融混練し、冷却、粉砕する方法が挙げられる。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物およびその硬化物は、特にパワー半導体装置の封止用として適する。
【0050】
本発明の硬化物は、上記エポキシ樹脂組成物を熱硬化させることにより得られる。本発明のエポキシ樹脂組成物を用いて硬化物を得るためには、例えば、トランスファー成形、プレス成形、注型成形、射出成形、押出成形等の方法が適用されるが、量産性の観点からは、トランスファー成形が好ましい。
【0051】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化方法としては100℃〜200℃、好ましくは120℃〜190℃、より好ましくは150〜180℃で成形後、200℃〜300℃、好ましくは220℃〜280℃、より好ましくは230〜270℃でポストキュアすることにより製造され、Tg、高温長期での重量保持性、機械強度保持性等の点で優れた硬化物を得ることができる。硬化物のTgは200℃以上が好ましく、更に250℃以上が好ましい。パワー半導体はその動作温度が200℃を超えて動作するため、Tgが200℃未満の封止材料では十分に封止することができず耐久性がない。
【0052】
成形時間としては1〜60分が好ましく、更に1分から10分が好ましい。成形時間が長くなると生産性が悪くなり、短すぎると離型が困難となる。ポストキュア時間としては10分〜10時間が好ましく、30分〜8時間、特に2時間〜6時間が好ましい。ポストキュア時間が短いと硬化が十分に進行せず、耐熱性や機械物性等十分な特性が得られない。また、10時間を越えると生産性が低下する。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物では、一般的なエポキシ樹脂組成物が反応し得ない高いポストキュア温度領域においても硬化反応が進行し、非常に高いTg、高温長期での重量保持性、機械強度保持性等を有する硬化物を得ることができる。
【実施例】
【0054】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。
【0055】
合成例1
2Lの4口フラスコに、4,4’−ジヒドロキシビフェニル186g(1.0モル)、p−キシリレングリコール69g(0.5モル)、ジエチレングリコールジメチルエーテル743g、酸触媒としてp−トルエンスルホン酸2.55gを仕込み160℃に昇温した。次に、160℃にて攪拌しながら3時間反応させた。次に、減圧下にてジエチレングリコールジメチルエーテルを一部留去した後、エピクロルヒドリン740gを仕込み溶解させた。続いて、減圧下75℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液155.0gを4時間かけて滴下し、この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離しエピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂279gを得た(エポキシ樹脂C)。得られた樹脂のエポキシ当量は190g/eq.、DSC測定におけるピーク温度(融点)は125℃、150℃における溶融粘度は0.48Pa・sであった。
【0056】
実施例1
エポキシ樹脂成分として、合成例1で得られたエポキシ樹脂A 101g、硬化剤成分として、トリフェニルメタン型多価ヒドロキシ樹脂(群栄化学工業株式会社製、OH当量97.5、軟化点105℃)51gを用いた。また、硬化触媒A;2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(製品名;2PHZ−PW、四国化成株式会社製)1.6gを用い、無機充填剤として球状シリカ(製品名;FB−8S、電気化学工業株式会社製)747gを用いた。更に、離型剤としてカルナバワックス(製品名;TOWAX171、東亜化成株式会社製)0.8g、着色剤としてカーボンブラック(製品名;MA−100、三菱化学株式会社製)0.8gを加え、これらを混練してエポキシ樹脂組成物を得た。このエポキシ樹脂組成物を用いて、成形温度175℃、3分。ポストキュア温度250℃、5時間の条件(成形条件A)にて硬化物試験片を得た。
【0057】
実施例2、比較例1〜4
エポキシ樹脂、硬化剤、無機充填剤及び硬化触媒とその他の添加剤を表1に示す配合割合で混練してエポキシ樹脂組成物を調製した。そして、成形条件をA又はBとして硬化物試験片を得た。なお、表中の数値は配合における重量部を示す。
【0058】
表中の略号の説明は以下のとおりである。
(主剤)
エポキシ樹脂A;合成例1で得たエポキシ樹脂
エポキシ樹脂B;o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量200、軟化点65℃、新日鉄住金化学株式会社製)
(硬化剤)
硬化剤A;トリフェノールメタン型多価ヒドロキシ樹脂(TPM−100(群栄化学工業株式会社製)、OH当量 97.5、軟化点 105℃)
硬化剤B;フェノールノボラック型多価ヒドロキシ樹脂(PSM−4261(群栄化学工業株式会社製)、OH当量 103、軟化点 82℃)
(硬化触媒)
硬化触媒A;2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール(製品名;2PHZ−PW、四国化成株式会社製)
硬化触媒B;トリフェニルホスフィン(製品名;TPP、北興化学工業株式会社製)
(無機充填剤)
球状シリカ(製品名;FB−8S、電気化学工業株式会社製)
(離型剤)
カルナバワックス(製品名;TOWAX171、東亜化成株式会社製)
(着色剤)
カーボンブラック(製品名;MA−100、三菱化学株式会社製)
【0059】
また、上記実施例1〜2、及び比較例1〜4に係るエポキシ樹脂組成物を用いて、次に示す成形条件にて成形を行った。そして、硬化物試験片(エポキシ樹脂硬化物)を得た後、下記に記した各種物性測定に供した。結果を表1に示す。
成形条件A;成形温度175℃、3分。ポストキュア温度250℃、5時間。
成形条件B;成形温度175℃、3分。ポストキュア温度175℃、5時間。
【0060】
1)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶媒としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いて測定した。
【0061】
2)溶融粘度
東亜工業株式会社製、CV−1S型コーンプレート粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0062】
3)DSC発熱ピーク温度
セイコーインスツル製DSC6200型熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件でエポキシ樹脂組成物の発熱ピーク温度を求めた。
【0063】
4)スパイラルフロー
規格(EMMI−1−66)に準拠したスパイラルフロー測定用金型でエポキシ樹脂組成物をスパイラルフローの注入圧力(150Kgf/cm
2)、硬化時間3分の条件で成形して流動長を調べた。
【0064】
5)ガラス転移点(Tg)
セイコーインスツル製TMA6100型熱機械測定装置により、昇温速度10℃/分の条件で、得られた硬化物試験片のTgを求めた。
【0065】
6)曲げ強度
得られた硬化物試験片をJISK 6911に従い、3点曲げ試験法で250℃にて測定した。
【0066】
7)長期熱分解安定性評価
(A)重量保持率
回転枠つき恒温器(タバイエスペック株式会社製、GPHH−201)を用いて、250℃における1000時間後の試験片重量と加熱前の試験片重量との差から重量保持率(wt%)を求めた。(B)曲げ強度保持率
回転枠つき恒温器(タバイエスペック株式会社製、GPHH−201)を用いて、250℃における1000時間後の試験片の曲げ強度と加熱前の試験片の曲げ強度との差から曲げ強度保持率(%)を求めた。曲げ強度の測定は上記試験法にて、常温で測定した。
【0067】
【表1】