【実施例】
【0033】
以下、実験例(実施例及び比較例)に基づいて、本発明の固体高分子形燃料電池用の触媒粉末及びその製造方法、並びに固体高分子形燃料電池について、より具体的に説明する。
【0034】
(1) 諸物性値の測定方法
〔BET比表面積とN
2吸着のT-plot解析で得られる外表面積〕
BET比表面積(m
2/g)の測定は、試料約50mgを測り採り、これを90℃で真空乾燥し、得られた乾燥後の試料について、自動比表面積測定装置(日本ベル製、BELSORP36)を使用し、窒素ガスを用いたガス吸着法にて測定し、BET法に基づく1点法にて比表面積を決定した。
また、N
2吸着のT-plot解析で得られる外表面積については、BET比表面積の測定で得られた吸着等温線を用い、T-plot解析を実施して求めた。
【0035】
〔触媒粉末(CP)とカーボンブラック(CB)の間の質量比率(CB/CP)及び直径比率(CBd/CPd)〕
触媒粉末(CP)とカーボンブラック(CB)の間の質量比率(CB/CP)及び直径比率(CBd/CPd)については、触媒層インクの調製に先駆けて、それぞれ触媒粉末(CP) 及びカーボンブラック(CB)の質量を測定すると共に、電子顕微鏡観察によりカーボンブラック(CB)の平均粒子直径(CBd)及び触媒粉末(CP)の平均粒子直径(CPd)を測定し、これら測定された質量及び平均粒子直径(CBd, CPd)からそれぞれ比をとって質量比率(CB/CP)及び直径比率(CBd/CPd)とした。
【0036】
(2) 活性炭の準備及び調製
以下に示す各実験例では、活性炭としてクラレカミカル社製の活性炭YP50F(試料A:BET比表面積1700m
2/g)、活性炭YP80F(試料B:BET比表面積2000m
2/g)、及び活性炭RP20(試料C:BET比表面積1800m
2/g)、及び関西熱化学社製の活性炭MSP20(試料D:BET比表面積1970m
2/g)を用い、ボールミルを用いて平均粒子径が1μm以下になるまで粉砕し、活性炭として用いた。
活性炭として用意され、あるいは、調製された活性炭の試料名と、BET比表面積、外表面積割合についての測定結果を下記の表1に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
(3) 白金粒子担持活性炭の調製
以上のようにして調製された各実験例の活性炭を蒸留水中に分散させ、この分散液にホルムアルデヒドを加え、40℃に設定したウォーターバスにセットし、分散液の温度がバスと同じ40℃になってから、撹拌下にこの分散液中にジニトロジアミンPt錯体硝酸水溶液をゆっくりと注ぎ入れた。その後、約2時間撹拌を続けた後、濾過し、得られた固形物の洗浄を行った。このようにして得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、乳鉢で粉砕し、触媒金属粒子として白金粒子を担持した各実験例の白金粒子担持活性炭(Pt担持活性炭)を作製した。
なお、各実験例のPt担持活性炭の白金担持量については、活性炭と白金粒子の合計質量に対して白金粒子の質量が40質量%となるように調整し、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES: Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry)により測定して確認した。
【0039】
(4) 各実験例の触媒粉末(CP)の調製
このようにして作製された上記各実験例のPt担持活性炭をエタノール(分散媒)中に分散させ、超音波ホモジナイザー(株式会社エスエムテ―社製UH-50)を用いて分散液中に超音波を5分間照射(パワーコントローラーのボリュームを10とし、振動子の先端から最も気泡が出ている状態で)し、その後、直径1mmの硝子ビーズと撹拌子とを分散溶液中に入れ、また、表2〜表5に示す触媒粉末形成時の電解質樹脂(触媒被覆部の樹脂)としてDupont社製ナフィオン〔登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂DE2020CS(試料イ)〕又は旭硝子社製フレミオン(試料ロ)を、この電解質樹脂(I)とPt担持活性炭中の活性炭(C)との質量比率が表2〜表5に示す割合になるように前記分散溶液中に加え、表2〜表5に示す温度及び時間の条件で撹拌下に保持した。その後、エバポレータ―を用いて80℃に保持しながら分散媒のエタノールを蒸発させ、乾固物を得た。その後、得られ乾固物を90℃に保持して真空(減圧)下に乾燥させ、表面が電解質樹脂で被覆されて触媒被覆部を有する各実験例の固体高分子形燃料電池用の触媒粉末(CP)を得た。
【0040】
(5) 触媒層インクの調製
以上のようにして調製された各実験例の触媒粉末を用い、また、カーボンブラック(CB)として親水性のカーボンブラックであるライオン社製ケッチェンブラックEC600JD(試料a)又はライオン社製ケッチェンブラックEC300(試料b)を用い、更に、触媒層形成時の電解質樹脂としてDupont社製ナフィオン〔登録商標:Nafion;パースルホン酸系イオン交換樹脂DE2020CS(試料イ)〕又は旭硝子社製フレミオン(試料ロ)を用い、Ar雰囲気下でこれら各触媒粉末、カーボンブラック(CB)、及び電解質樹脂を表2〜表5に示す割合で配合し、軽く撹拌した後、得られた固形分を超音波で解砕し、更にエタノールを加えて各実験例の触媒粉末と新たに添加された電解質樹脂とを合わせた合計の固形分濃度が1.1質量%となるように調整し、各実験例の触媒粉末と新たに添加された電解層形成時の電解質樹脂とが混合した触媒層インクAを調製した。
【0041】
また、カーボンブラック(CB)として疎水性カーボンブラックであるアセチレンブラック〔電気化学工業製商品名:デンカブラック粒状品(試料c)〕をエタノール中に分散させ固形分濃度が3質量%である触媒層インクBを調製した。
更に、上記の触媒層インクAと触媒層インクBとを表2〜表5に示す質量混合比(AB混合比)で混合し、表2〜表5に示すカーボンブラック(CB)と触媒粉末(CP)との質量比(CB/CP)を有するように調整し、エタノールを加えて白金濃度が0.5質量%のスプレー塗布用の触媒層インクABを作製した。
【0042】
(6) 触媒層の調製
このようにして調製された各実験例の触媒層インクを用い、白金の触媒層単位面積当りの質量(以下、「白金目付量という。)が0.2mg/cm
2となるようにスプレー条件を調節し、上記スプレー塗布用触媒層インクをテフロン(登録商標)シート上にスプレーした後、アルゴン中120℃で60分間の乾燥処理を行い、各実験例の触媒層を作製した。
【0043】
(7) 膜電極複合体(MEA)の調製
以上のようにして作製した上記各実験例の触媒層を用い、以下の方法でMEA(膜電極複合体)を作製した。
ナフィオン膜(Dupont社製NR211)から一辺6cmの正方形状の電解質膜を切り出した。また、テフロン(登録商標)シート上に塗布されたアノード及びカソードの各触媒層については、それぞれカッターナイフで一辺2.5cmの正方形状に切り出した。
【0044】
このようにして切り出されたアノード及びカソードの各触媒層の間に、各触媒層が電解質膜の中心部を挟んでそれぞれ接すると共に互いにずれが無いように、この電解質膜を挟み込み、120℃、100kg/cm
2で10分間プレスし、次いで室温まで冷却した後、アノード及びカソード共にテフロン(登録商標)シートのみを注意深く剥ぎ取り、アノード及びカソードの各触媒層が電解質膜に定着した触媒層−電解質膜接合体を調製した。
【0045】
次に、ガス拡散層として、カーボンペーパー(SGLカーボン社製35BC)から一辺2.5cmの大きさで一対の正方形状カーボンペーパーを切り出し、これらのカーボンペーパーの間に、アノード及びカソードの各触媒層が一致してずれが無いように、上記触媒層−電解質膜接合体を挟み、120℃、50kg/cm
2で10分間プレスしてMEAを作製した。
【0046】
(8) 燃料電池の性能の評価試験
作製した各実験例のMEAについては、それぞれセルに組み込み、燃料電池測定装置にセットして、次の手順で燃料電池の性能評価を行った。
ガスについては、カソードに空気を、また、アノードに純水素を、それぞれ利用率が35%と70%となるように、0.2メガパスカルに加圧して供給した。また、セル温度は80℃に設定した。供給するガスについては、高加湿条件での評価ではカソード、アノードの相対湿度が100%に、また、低加湿条件での評価ではカソード、アノードの相対湿度が50%になるように、蒸留水を用いた加湿器中でバブリングし、改質水素相当の水蒸気を含ませてセルに供給した。
【0047】
このような設定の下にセルにガスを供給した条件下で、負荷を徐々に増やし、電流密度が200mA/cm
2及び500mA/cm
2におけるセル端子間電圧を出力電圧として燃料電池の性能評価を実施した。
得られた燃料電池の性能評価については、高加湿条件下及び低加湿条件下での測定結果について、それぞれ“200mA/cm
2での出力電圧0.80V以上”及び“500mA/cm
2での出力電圧0.75V以上”を満たす場合を「◎」とし、また、“200mA/cm
2での出力電圧0.75V以上0.80V未満”及び“500mA/cm
2での出力電圧0.70V以上0.75V未満”を満たす場合を「〇」とし、更に、上記以外の場合を不合格の「×」として評価した。
そして、これら高加湿条件下及び低加湿条件下での4つの評価結果を基に、総合評価として、◎が3個以上である場合を「◎」とし、○が2個以上であって×がない場合を「○」とし、×が1つでもある場合を不合格の「×」とした。
【0048】
活性炭としてとして試料A〜Cを用いた場合の結果をそれぞれ表2、表3、及び表4に示す。
また、活性炭として試料D、試料E、及び試料Fを用いた場合の結果を表5に示す。
なお、上記の各表中に記載されている下記の各記号は、以下に示す通りである。
M比:カーボンブラック(CB)と触媒粉末(CP)との質量比(CB/CP)
D比:カーボンブラック(CB)の平均粒子直径(CBd)と触媒粉末(CP)の平均粒子直径(CPd)との直径比率(CBd/CPd)
E2OP:電流密度200mA/cm
2時の出力電圧
E5OP:電流密度500mA/cm
2時の出力電圧
AB組成比(A/B):触媒層インクAB作製時の触媒層インクAの炭素材料と触媒層インクBの炭素材料とのA/B組成比
Ex.:実施例(Example)
CEx.:比較例(Comparative Example)
【0049】
【表2】
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表2〜表5に示す結果から明らかなように、本発明の各実施例においては、各比較例の場合に比べて、カソード、アノードの相対湿度が100%の高加湿条件及び50%の低加湿条件において、いずれも電流密度が200mA/cm
2時のセル電圧及び500mA/cm
2時のセル電圧が共にバランス良く高いことから、触媒金属粒子として用いた白金粒子の利用率が高く、しかも、高加湿条件下及び低加湿条件下で安定した発電性能を発揮していることが判明した。