【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、表面に耐熱性ポリイミド面を有する支持材を用いて、耐熱性ポリイミド面に対してポリアミド酸溶液を塗布してイミド化させて、透明性に優れたポリイミド層を備えた基材フィルムを製造することで、支持材とポリイミド層との界面を利用して支持材を分離して薄肉化し、ポリイミド層を樹脂基材として用いることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は、支持材上にポリイミド層を備えて、該ポリイミド層に機能層を形成するための長尺状の基材フィルムを製造する方法であって、支持材は、表面にガラス転移温度が300℃以上の耐熱性ポリイミド面を有し、該耐熱性ポリイミド面上に、ポリアミド酸の樹脂溶液を塗布し、熱処理してポリアミド酸をイミド化させて、耐熱性ポリイミド面上に440nmから780nmの波長領域での透過率が70%以上のポリイミド層を形成することを特徴とする基材フィルムの製造方法である。
【0012】
以下、本発明の基材フィルムの製造方法について説明する。なお、以下では、本発明に係る基材フィルムを積層部材における基材フィルムとして適用する例に基づき、説明する。
本発明では、ロール状に巻き取られた長尺状の基材フィルムを長手方向に繰り出して成膜処理し、必要に応じてその成膜をパターニング処理するなどして、基材フィルム上に機能層を形成した後、基材フィルムの一部を分離して取り除き、薄肉化して、薄い樹脂フィルム(ポリイミド層)上に機能層を備えた積層部材を得るようにする。
【0013】
一般に、ロール・ツー・ロール方式を採用する場合には、送り出し側のロール巻機構に巻き取られた長尺の樹脂フィルムは、送出機構によって長手方向に繰り出されながらロール搬送されて、成膜等のプロセス処理がなされ、巻取機構を介して、巻き取り側のロール巻機構で巻き取られていく。
【0014】
ここで、上記特許文献2では、長尺の樹脂フィルムとして、ポリカーボネートのほかに、ポリスルホン系樹脂、オレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂等のような透明なプラスチックフィルムが使用できるとし、その厚みは50〜200μm程度であるとする(段落0083参照)。ところが、少なくとも、樹脂フィルムが巻き取り側のロール巻機構で巻き取られていく際には引張応力が掛かる状態になることから、樹脂フィルムの厚みが薄くなると当然に伸びや縮みが問題となる。そのため、少なくとも100μm程度の厚みを有していないと、実際には、ロール巻機構で巻き取る際に皺が発生したり、フィルムが破けてしまうような不具合が発生してしまう。また、機能層を形成するために複数層の成膜を行ったり、成膜後に一旦巻き取られた樹脂フィルムを再度ロール・ツー・ロール方式により繰り出しながら、成膜した金属をパターニング処理するなどして複数の工程を経るような場合には、フィルムの伸縮があると寸法精度が維持されず、得られる機能層の品質に影響を与えてしまうこともある。
【0015】
そこで、本発明においては、支持材上にポリアミド酸溶液を塗布してイミド化させたポリイミド層を備えた基材フィルムを用いるようにし、ロール・ツー・ロール方式等によって少なくとも機能層を形成する間は、基材フィルムの厚みによって機械的強度を確保するようにし、機能層を形成した後には、ポリイミド層と支持材との界面を利用して支持材を分離して取り除くことで、ポリイミド層からなる薄い樹脂フィルム上に機能層を備えた積層部材を得るようにする。なお、本発明における積層部材の製造方法は、送り出し側のロール巻機構と巻き取り側のロール巻機構とを備えたロール・ツー・ロール方式に適用できることは勿論、例えば、巻き取り側のロール巻機構の手前の巻取機構によってロール搬送された基材フィルムをシート状に裁断するような不完全なロール・ツー・ロール方式にも適用することができ、いずれかの場面でフィルムに張力が掛かるような場合に特に有効である。
【0016】
本発明において、ポリイミド層と支持材との界面を利用して支持材を分離して取り除き、基材フィルムを薄肉化できるようにするためには、ポリイミド層と支持材との界面を剥離し易い状態にする必要がある。その手段として、好適には、ポリイミド層と支持材との界面において、特定の化学構造を有するポリイミドを利用するのがよい。
【0017】
一般に、ポリイミドは、原料である酸無水物とジアミンとを重合して得られ、下記一般式(1)で表すことができる。
【化1】
式中、Ar
1は酸無水物残基である4価の有機基を表し、Ar
2はジアミン残基である2価の有機基であり、耐熱性の観点から、Ar
1、Ar
2の少なくとも一方は、芳香族残基であるのが望ましい。
【0018】
本発明において好適に用いられるポリイミド(ポリイミド樹脂)は、その第1の例として、下記繰り返し構造単位(a)を有するポリイミドが挙げられる。より好ましくは、下記繰り返し単位を80モル%以上の割合で含有するものであるのがよい。
【化2】
このような繰返し構造単位のうち、更に好ましくは、下記繰り返し構造単位(b)を有するポリイミドである。
【化3】
【0019】
この第1の例のような繰返し構造単位(a)又は(b)を有するポリイミドであれば、ガラス転移温度(Tg)が300℃以上の耐熱性ポリイミド面を形成することができるため、ポリイミド層がこのようなポリイミドにより形成されるようにするか、或いは、支持材の表面がこのようなポリイミドからなる耐熱性ポリイミド面を有するようにすることで、ポリイミド層と支持材との界面での分離を容易にすることができる。
【0020】
ここで、上記第1の例として示したポリイミドを利用する場合、そのポリイミド以外に最大20モル%未満の割合で添加されてもよいその他のポリイミドについては、特に制限されるものではなく、後述するような一般的な酸無水物とジアミンを使用することができる。
【0021】
また、好適に用いられるポリイミド(ポリイミド樹脂)の第2の例としては、含フッ素ポリイミドが挙げられる。すなわち、ポリイミド層がこのようなポリイミドにより形成されるようにするか、或いは、支持材の表面がこのようなポリイミドからなる耐熱性ポリイミド面を有するようにすることで、ポリイミド層と支持材との界面での分離を容易にすることができる。ここで、含フッ素ポリイミドとは、ポリイミド構造中にフッ素原子を有するものを指し、ポリイミド原料である酸無水物、及びジアミンの少なくとも一方の成分において、フッ素含有基を有するものである。このような含フッ素ポリイミドとしては、例えば、上記一般式(1)で表されるもののうち、式中のAr
1が4価の有機基であり、Ar
2が下記一般式(2)又は(3)で表される2価の有機基で表されるものが例示される。
【化4】
【0022】
上記一般式(2)又は一般式(3)におけるR
1〜R
8は、互いに独立に水素原子、フッ素原子、炭素数1〜5までのアルキル基若しくはアルコキシ基、又はフッ素置換炭化水素基であり、一般式(2)にあっては、R
1〜R
4のうち少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基であり、また、一般式(3)にあっては、R
1〜R
8のうち少なくとも一つはフッ素原子又はフッ素置換炭化水素基である。このうち、R
1〜R
8の好適な具体的としては、−H、−CH
3、−OCH
3、−F、−CF
3などが挙げられるが、式(2)又は式(3)において少なくとも一つの置換基が、−F又は−CF
3の何れかであるのが好ましい。
【0023】
含フッ素ポリイミドを形成する際の一般式(1)中のAr
1の具体例としては、例えば、以下のような4価の酸無水物残基が挙げられる。
【化5】
【0024】
上記のような含フッ素ポリイミドには透明性に優れたものが含まれ、例えば液晶表示装置や有機EL表示装置等の表示装置をはじめ、それらで使用されて透明性が要求される積層部材を得る場合には、ポリイミド層を形成するものとして好適であるが、その透明性をより優れたものとしたり、ポリイミド層と支持材との界面での剥離性をより向上させることなどを考慮すれば、一般式(1)におけるAr
2を与える具体的なジアミン残基として、好ましくは、以下のものを使用するのがよい。
【化6】
【0025】
また、このような含フッ素ポリイミドにおいて、次に挙げる一般式(4)又は(5)で表される構造単位のどちらか一方を80モル%以上の割合で有する場合には、透明性と剥離性が優れる他、熱膨張性が低く寸法安定性に優れることからより好ましい。すなわち、下記一般式(4)又は(5)で表される構造単位を有するポリイミドであれば、440nmから780nmの波長領域での透過率が70%以上、好適には80%以上を示すことから、表示装置等のように透明性が要求される積層部材におけるポリイミド層を形成するものとしてより有利である。また、300℃以上のガラス転移温度(Tg)を有するようになると共に、熱膨張係数は25ppm/K以下、好適には10ppm/K以下にすることができる。そのため、このようなポリイミドをポリイミド層と支持材との両方で使用することで、プロセス中に温度変化を受けても両者の熱膨係数が近いため、反ったり皺が寄ったりすることを防止できる。
【化7】
【0026】
ここで、ポリイミドを一般式(4)又は(5)の構造に係るポリイミドとした場合、そのポリイミド以外に最大20モル%未満の割合で添加されてもよいその他のポリイミドについては、特に制限されるものではなく、一般的な酸無水物とジアミンを使用することができる。なかでも好ましく使用される酸無水物としては、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物等が挙げられる。一方の、ジアミンとしては、4,4'−ジアミノジフェニルサルフォン、トランス−1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4'−ジアミノシクロヘキシルメタン、2,2'−ビス(4−アミノシクロヘキシル)−ヘキサフルオロプロパン、2,2'−ビス(トリフルオロメチル)−4,4'−ジアミノビシクロヘキサン等が挙げられる。
【0027】
上記第1及び第2の例を含めて、各種ポリイミドは、ポリアミド酸をイミド化して得ることができる。ここで、ポリアミド酸の樹脂溶液は、原料であるジアミンと酸二無水物とを実質的に等モル使用し、有機溶媒中で反応させることによって得るのがよい。より具体的には、窒素気流下にN,N−ジメチルアセトアミドなどの有機極性溶媒にジアミンを溶解させた後、テトラカルボン酸二無水物を加えて、室温で5時間程度反応させることにより得ることができる。塗工時の膜厚均一化と得られるポリイミドフィルムの機械強度の観点から、得られたポリアミド酸の重量平均分子量は1万から30万が好ましい。なお、得られるポリイミド層の好ましい分子量範囲もこのポリアミド酸と同じ分子量範囲である。また、ポリイミド層は、単層で形成されていてもよく、複数層から形成されてもよい。複数層から形成される場合には、少なくとも支持材との界面を形成する層については、上記第1及び第2の例として挙げたようなポリイミドを用いるようにすればよい。
【0028】
そして、支持材上にポリイミド層を有した基材フィルムを得るには、支持材にポリアミド酸溶液を塗布した後、例えば、150〜160℃程度で加熱処理して樹脂溶液中に含まれる溶剤を除去し、更に高温で加熱処理してポリアミド酸をイミド化させる。イミド化に際して行う加熱処理は、例えば、160℃程度の温度から350℃程度の温度まで連続的又は段階的に昇温を行うようにすればよい。この際、長尺の支持材を用意しておき、これをロール・ツー・ロール方式で搬送しながら、ポリイミド層を形成するポリアミド酸の樹脂溶液を塗布するキャスト法を採用するのが好適である。
【0029】
本発明における基材フィルムを形成する支持材については、フレキシブル性を有すると共に、少なくともポリアミド酸溶液を塗布してイミド化させてポリイミド層を形成する際の熱処理に耐え得る耐熱性を備えたものであればよい。具体的には、銅箔やSUS箔などの金属箔、銅張積層体(CCL)などの金属箔−樹脂積層体、ポリイミド等の樹脂フィルム等が挙げられる。このうち、上述したように、支持材の表面が第1及び第2の例で挙げたようなポリイミドからなる耐熱性ポリイミド面を有するようにするには、これらのポリイミドを備えた金属箔−ポリイミド積層体のような支持材とするか、或いは、これらのポリイミドからなるポリイミドフィルムを単独で支持材として用いるようにしてもよい。また、ポリイミド層と支持材との界面での分離を最も容易にするには、ポリイミド層と支持材との界面がいずれも第1及び第2の例で挙げたポリイミドによって形成されるのがよい。
【0030】
また、本発明における支持材については、ポリイミド層と支持材との界面での分離を容易にできる観点から、好ましくは、ポリイミド層と支持材との界面における支持材の表面は、表面粗さRaが100nm以下であるのがよい。更には、支持材が電気導電性を有するか、又は、ポリイミド層とは反対側の背面に電気導電層を有すると、ロール・ツー・ロール方式のようにフィルムを繰り出し、それを巻き取る際に発生する静電気による帯電を防止できる利点がある。
【0031】
本発明においては、上記で例示したポリイミドを用いるなどすることにより、好適には、ポリイミド層と支持材との界面における接着強度が1N/m以上500N/m以下、より好適には5N/m以上300N/m以下、更に好適には10N/m以上200N/m以下にすることができて、例えば人の手で容易に剥離することができるようになる。
【0032】
本発明においては、前述したように、支持材の存在によって基材フィルムの厚みが確保されるため、ポリイミド層の厚みを薄くしても機能層を形成する際の機械的強度は維持される。ロール・ツー・ロール方式のようにフィルムを繰り出し、それを巻き取るような場合には、送出機構や巻取機構のロール、更には巻取り側のロール巻機構等でフィルムに対して引張応力が掛かるため、一般には100μm程度のフィルム厚みが必要になるが、本発明では支持材と合せて少なくともその厚みに達していればよい。そのため、ポリイミド層の厚みは100μm以下にすることができ、好適には50μm以下、より好適には30μm以下まで薄くすることができる。なお、機能層を備えた積層部材とする上で、絶縁性を担保することなどを考慮すれば、ポリイミド層の厚みの下限は2μm、好ましくは5μmにするのが望ましい。
【0033】
一方、支持材の厚みについては、ポリイミド層を含めて基材フィルムとして必要な厚さを保つことができればよく、任意に設定することができる。すなわち、支持材としての役割や巻取り性等を考慮すれば、例えば10〜200μmの厚みを例示することができるが、特に制限はない。但し、ポリイミド層の方が支持材よりも薄くなるようにするのが望ましい。
【0034】
本発明における積層部材は、液晶表示装置や有機EL表示装置をはじめ、電子ペーパー、タッチパネル等の表示装置又はその構成部品として用いることができるほか、有機EL照明装置で用いたり、ITO等が積層された導電性フィルム、水分や酸素等の浸透を防止するガスバリアフィルム、フレキシブル回路基板の構成部品などの各種機能を有した機能性材料として用いられるものである。すなわち、本発明で言う機能層とは、これら表示装置、照明装置、又はその構成部品をはじめ、各種機能性材料を構成するものであって、具体的には、電極層、発光層、ガスバリア層、接着層、薄膜トランジスタ、配線層、透明導電層等の1種又は2種以上を組み合わせたようなものを総称するものである。
【0035】
そして、これらの機能層は、金属等を成膜した後、必要に応じて所定の形状にパターニングしたり、熱処理するなど、公知の方法を用いて得ることができる。すなわち、これら機能層を形成するための手段については特に制限されず、例えば、スパッタリング、蒸着、CVD、印刷、露光、浸漬など、適宜選択されたものであり、必要な場合には真空チャンバー内などでこれらのプロセス処理を行うようにしてもよい。そして、支持材を分離して取り除くのは、各種プロセス処理を経て機能層を形成した直後であってもよく、ある程度の期間で支持材と一体にしておき、例えば表示装置や機能性材料として利用する直前に分離して取り除くようにしてもよい。