(54)【発明の名称】分子性金属酸化物クラスター、分子性金属酸化物クラスター結晶、分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体、分子メモリ、結晶メモリ及び分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法
【解決手段】分子性金属酸化物クラスターは、連通孔及び連通孔内の一方の開放端側と他方の開放端側とにそれぞれ設けられ、金属イオン及び水分子を包接可能な包接部とを有するクラスター骨格と、包接部の一方に包接された金属イオンと、包接部の他方に包接された水分子とを備え、金属イオンの偏りにより分子分極を有する。
連通孔及び前記連通孔内の一方の開放端側と他方の開放端側とにそれぞれ設けられ、金属イオン及び水分子を包接可能な包接部とを有するクラスター骨格と、前記包接部の一方に包接された金属イオンと、前記包接部の他方に包接された水分子を備え、前記金属イオンの偏りにより分子分極を有することを特徴とする分子性金属酸化物クラスター。
前記クラスター骨格が下記化学式(1)で表され、化学式(1)においてM1がアルカリ金属、ランタノイドの群から選択されるいずれかの金属イオンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分子性金属酸化物クラスター。
M1,H2O−P5W30O110・・・(1)
前記水分子として、カウンターカチオンに配位した配位結晶水と、カウンターカチオンに配位しない非配位結晶水とを有することを特徴とする請求項6に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶。
前記斜方晶結晶構造の格子間に、配位結晶水で配位されたカウンターカチオンと、非配位結晶水とを有することを特徴とする請求項8に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶。
請求項6〜10のいずれか1項に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶を備え、外部電場0における一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向を記録単位とすることを特徴とする結晶メモリ。
請求項1〜6のいずれか1項に記載の分子性金属酸化物クラスターを真空加熱して、分子性金属酸化物クラスターから包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する工程と、
前記水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターに電場を印加して、分極を形成する工程と、を有することを特徴とする分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
前記電場を印加する際、強誘電発現温度Tc付近まで昇温することを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
【背景技術】
【0002】
近年、強磁性体や強誘電体などを用いた情報記録媒体において記録密度の更なる向上が求められている。しかし、近い将来、現状の情報記録媒体では記録密度の限界を迎えると示唆されている。
【0003】
強磁性体や強誘電体は磁気テープや強誘電体メモリー(FeRAM)等の記録媒体に使われている。これらの記録媒体では、一つの記録情報を保持するために少なくとも数十以上の結晶構造のユニットセルが必要である。このため、微細化による物理的な記録密度限界が存在し、これ以下のサイズで記録を保持することができないためである。また、記録ユニットを精密かつ再現性高く複数規則性高く配列形成することが、経済的、技術的観点から困難となってきているためである。
【0004】
強誘電体(Ferroelectrics)とは、外部電場がなくても電気双極子が整列しており、かつ、その方向を外部電場印加により任意の方向・大きさに制御できる物質である。強誘電体は高速での分極反転が可能であるため、強磁性体よりも広範なデバイス応用が期待されている。しかし、微小化技術が強磁性体に比べて遅れている。
【0005】
強誘電体の一つとして、単分子誘電体がある。単分子誘電体とは、一つの分子内に誘電発現機構を有し、これにより強誘電的な性質・挙動を示す材料である。ここで、強誘電的な性質・挙動とは誘電ヒステリシス、及び自発分極の発現を指す。単分子誘電体として、一つのテルビウムイオンを包接したポリオキソメタレート(polyoxometalate:以下、POMと略記する場合がある。)分子を挙げることができる。
【0006】
POMは、リング状構造を有する、分子性の金属酸化物クラスターである。その一つであるPreyssler型POMは、[M
n+:P
5W
30O
110]
(15-n)-で表される。ここで、M
n+はP
5W
30O
110分子に包接されている金属イオンである。
【0007】
Preyssler型POM分子は、内部に二か所のイオンの安定サイトが存在する。分子内に取り込まれたイオンは、Preyssler型POM分子内のいずれかのサイトに安定に保持される。
【0008】
低い温度領域では、包接されたイオンのもつ熱エネルギーGが分子内のイオン安定サイト間に形成されたポテンシャル障壁Uより小さいために、イオンはいずれか一方のサイトからもう一方のサイトに移動することができない。これにより、分極が形成され、強誘電体的な性質・挙動を示す。
【0009】
一方、強誘電発現温度T
C以上の温度にすると、包接されたイオンのもつ熱エネルギーGがポテンシャル障壁Uよりも大きくなるために、イオンはいずれか一方のサイトからもう一方のサイトに移動することができる。これにより、分極は消滅し、常誘電体となる。ここで、強誘電発現温度とは、温度上昇過程において誘電ヒステリシス及び自発分極が消失する温度を指す。
【0010】
本研究者は、長年にわたり、POMの様々な異性体を作成し、それらの物性を研究してきた。その結果、POM分子内のイオンの揺らぎに伴う特殊な物性を見出してきている。
【0011】
例えば、非特許文献1は、「Dielectric properties of Polyoxometalate with ion fluctuation」に関する。Preyssler型POM(Polyoxometalate)である[M
n+P
5W
30O
110]
(15-n)-の一例であるTbP
5W
30O
110について誘電率の温度依存性を調べ、室温において、Tbイオンが2つのサイトの間で揺らいでいることが開示されている。
【0012】
非特許文献2は、Evaluation of a structural ion fluctuation in Preyssler-type polyoxometalate saltに関する。非特許文献1と同様の内容である。
【0013】
非特許文献3は、The effect of irradiation on a Preyssler-type Polyoxometalateに関する。[{Nd(H
2O)
x}
4TbP
5W
30O
110}]に対してX線照射による色変化について開示されている。
【0014】
非特許文献4は、「Preyssler型Polyoxometalateにおける局所的イオン移動の観測」に関する。非特許文献1と同様の内容である。
【0015】
非特許文献5は、「イオン移動機構を有するポリオキソメタレートK
12[Tb(P
5W
30O
110)]の開発」に関する。非特許文献1と同様の内容である。
【0016】
非特許文献6は、「ランタノイドイオンを内包したPreyssler型POM、K
12[GdP
5W
30O
110]の構造と磁気物性」に関する。Preyssler型POMにおいてGdを用いた系の構造と磁気物性の結果である。
【0017】
非特許文献7は、「ランタノイドイオンを内包したPreyssler型POM、K
12[TbP
5W
30O
110]の構造と物性評価」に関する。Preyssler型POMにおいてTbを用いた系の構造と磁気物性の結果である。
【0018】
非特許文献8は、「Preyssler型ポリオキソメタレート、K
12[Tb(P
5W
30O
110)]の誘電評価」に関する。非特許文献1と同様の内容である。
【0019】
非特許文献10は、「Preyssler型ポリオキソメタレート分子内でのイオン移動の観測と物性調査」に関する。非特許文献1と同様の内容である。
【0020】
非特許文献11は、Tb(III)Ion Motion in Preyssler-type Polyoxometalateに関する。非特許文献1と同様の内容である。X線構造解析とIR測定から、2つのサイトの間でイオン移動しているが、急冷するといずれか一方のサイトにイオンが局在化することを確認した。非特許文献1と同様の内容である。
【0021】
非特許文献12は、Crystal structure and magnetic properties of a doughnut-shaped POM including Gadolinium(III)に関する。POMにおいてGdを用いた系の結晶構造と磁気物性の結果である。[GdP
5W
30O
110]
12-の結晶構造が同定された。
【0022】
非特許文献13は、Structures and Physical Properties of Novel Preyssler-Lanthanide Complexesに関する。M.Popeらの方法により、包接イオンをTbイオンに置換したK
12[TbP
5W
30O
110]を水熱合成し、X線単結晶構造とFT−IR測定から、生成物を同定した。
【0023】
非特許文献14は、「ランタノイドイオンを内包したPreyssler型Polyoxometalateの構造と物性」に関する。M.Popeらの方法により、包接イオンをGd、Tb、Smのいずれかのイオンで置換した系、K
12[MP
5W
30O
110](M=Gd、Tb、Sm)を水熱合成し、X線単結晶構造分析から、生成物を同定したことが開示されている。
【0024】
非特許文献15は、「イオン移動機構を有するプレイスラー型polyoxometalateの物性」に関する。TbP
5W
30O
110について、IRスペクトルの温度依存性を調べ、吸収ピークシフトが得られた。また、誘電特性の温度依存性を調べた。これらの結果から、室温において、Tbイオンが2つのサイトの間で揺らいでいることを見出したことが開示されている。
【0025】
また、関連する他の研究者の報告には、以下のものがある。例えば、非特許文献16は、Polyoxometalates with Internal Cavities: Redox Activity, Basicity, and Cation Encapsulation in [X
n+P
5W
30O
110]
(15-n)- Preyssler Complexes, with X = Na
+, Ca
2+, Y
3+, La
3+, Ce
3+, and Th
4+に関する。POM内の2か所の安定サイトが結晶学的に等価であることが記載されている。
【0026】
非特許文献17は、「Slow Proton Exchange in Aqueous Solution. Consequences ofProtonation and Hydration within the Central Cavity of Preyssler Anion Derivatives, [M(H
2O)P
5W
30O
110]
n-」に関する。ナトリウムイオンを内包したPreyssler型POMにおいて、POM分子内の一方のサイトにナトリウムイオンが、他方のサイトに水分子が存在していることについて記載されている。
【0027】
非特許文献18は、「Rigid Nonlabile Polyoxometalate Cryptates[ZP
5W
30O
110]
(15-n)- That Exhibit Unprecedented Selectivity for Certain Lanthanide and Other Multivalent Cations」に関する。ランタノイドイオンを内包したPreyssler型POMの合成方法について記載されている。
【0028】
非特許文献19は、Mononuclear Lanthanide Single-Molecule Magnets Based on Polyoxometalatesに関する。POMクラスターが一つの分子で強磁性体の様な磁気ヒステリシスを示す(単一分子磁石、SMM、Single molecule magnet)ことについて記載されている。
【0029】
さらに、特許文献1は、「色素会合体の構造変換を用いた情報記録再生方法」等に関する。会合体を形成するかしないかの単位で情報記録を行う方法、単一分子を用いた情報記録再生方法が開示されている。
【0030】
特許文献2は、「微小構造装置」に関する。ポリオキソメタレートを微小構造サイトに配列し、その酸化還元により、メモリ応用する構成が開示されている。
【0031】
特許文献3は、「ナノ構造のデバイス」等に関する。ナノ構造を被覆するためにリガンドコーティングとしてポリオキソメタレートを用いた構成が開示されている。
【0032】
しかし、POM分子が単一で誘電ヒステリシスを示す結果は得られていない。さらに、情報記録、保持、読み出しをどのように行うかの知見は得られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
本発明は、分子分極が安定保持され、構造的にも安定な分子性金属酸化物クラスター、その結晶及びその凝集体を提供すること、前記分子性金属酸化物クラスターに分子分極を形成する方法、前記分子性金属酸化物クラスターを利用した分子メモリ、結晶メモリを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0036】
以上の事情を鑑みて、本発明者は試行錯誤することにより、(1)Tbを包接するPOMが大きな誘電ヒステリシスを示す単分子誘電体材料であること、(2)Na、H
2Oを有するPOMは非誘電体材料であるが、H
2Oを取り除くことにより、単分子誘電体材料にできること、(3)H
2Oを取り除き、Naのみを有するPOMが、誘電ヒステリシスを示す単分子誘電体材料であること、(4)H
2Oを取り除き、Naのみを有するPOMに対して、外部電場を印加することにより、分子分極を形成できることを発見して、本発明を完成した。本発明は、以下の構成を有する。
【0037】
(1) 連通孔及び前記連通孔内の一方の開放端側と他方の開放端側とにそれぞれ設けられ、金属イオン及び水分子を包接可能な包接部とを有するクラスター骨格と、前記包接部の一方に包接された金属イオンと、前記包接部の他方に包接された水分子とを備え、前記金属イオンの偏りにより分子分極を有することを特徴とする分子性金属酸化物クラスター。
【0038】
(2) 前記クラスター骨格が略扁平回転楕円体状であり、前記連通孔が回転軸に沿って設けられていることを特徴とする(1)に記載の分子性金属酸化物クラスター。
【0039】
(3) 前記クラスター骨格が化学式P
5W
30O
110で表されるポリオキソメタレートであることを特徴とする(2)に記載の分子性金属酸化物クラスター。
【0040】
(4) 前記クラスター骨格が下記化学式(1)で表され、化学式(1)においてM1がアルカリ金属、ランタノイドの群から選択されるいずれかの金属イオンであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスター。
M1,H
2O−P
5W
30O
110・・・(1)
【0041】
(5) M1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであることを特徴とする(4)に記載の分子性金属酸化物クラスター。
【0042】
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスターと、カウンターカチオンと、水分子を有することを特徴とする分子性金属酸化物クラスター結晶。
【0043】
(7) 前記水分子として、カウンターカチオンに配位した配位結晶水と、カウンターカチオンに配位しない非配位結晶水とを有することを特徴とする(6)に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶。
【0044】
(8) 前記分子性金属酸化物クラスターが斜方晶結晶構造を形成していることを特徴とする(6)又は(7)に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶。
【0045】
(9) 前記斜方晶結晶構造の格子間に、配位結晶水で配位されたカウンターカチオンと、非配位結晶水とを有することを特徴とする(8)に記載の分子性金属酸化物クラスター錯体結晶。
【0046】
(10) 下記化学式(2)で表され、化学式(2)においてM1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであり、M2がNa
+、K
+、Ca
2+、Ce
4+又はNH
4+の群から選択される一又は二種以上のカチオンであり、nが1以上10以下の自然数であり、mが1以上40以下の数であることを特徴とする(6)〜(9)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスター結晶。
M2,(H
2O)
n[M1,H
2O−P
5W
30O
110]・mH
2O・・・(2)
【0047】
(11) (6)〜(10)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスター結晶が凝集されていることを特徴とする分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体。
【0048】
(12) ペレットであることを特徴とする(11)に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体。
【0049】
(13) (1)〜(5)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスターを備え、外部電場0における分子分極の大きさと方向を記録単位とすることを特徴とする分子メモリ。
【0050】
(14) (6)〜(10)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスター結晶を備え、外部電場0における一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向を記録単位とすることを特徴とする結晶メモリ。
【0051】
(15) (1)〜(5)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスターを真空加熱して、分子性金属酸化物クラスターから包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する工程と、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターに電場を印加して、分極を形成する工程とを有することを特徴とする分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
【0052】
(16) 真空加熱は、80℃以上140℃以下に加熱することを特徴とする(15)に記載の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
【0053】
(17) 真空加熱は、120℃以上に加熱することを特徴とする(16)に記載の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
【0054】
(18) 電場を印加する際、強誘電発現温度T
C付近まで昇温することを特徴とする(15)〜(17)のいずれかに記載の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法。
【発明の効果】
【0055】
本発明の分子性金属酸化物クラスターによれば、連通孔の他方の包接部に水分子が包接され、一方の包接部に電荷の偏りを生じさせる金属イオンを他方に動かすことを妨げているので、分子分極を安定保持できる。この分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことにより、外部電場を印加することにより、誘電ヒステリシスを発現することができる。分極させたのち、水蒸気ガスに曝すことにより、水分子をPOMに導入して、前記分極状態を安定保持できる。又は、降温することにより、前記分極状態を安定保持できる。これらにより、分子メモリとして利用できる。
【0056】
本発明の分子性金属酸化物クラスター結晶によれば、カウンターカチオン及び水分子を有するので、構造的に安定な分子性金属酸化物クラスターからなる結晶を提供できる。これらにより、結晶メモリとして利用できる。
【0057】
本発明の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体によれば、構造的に安定な分子性金属酸化物クラスターからなる結晶を構成しているので、構造的に安定な凝集体を提供できる。
【0058】
本発明の分子メモリによれば、分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができる。外部電場を印加することにより、外部電場0における分子分極を安定保持できる分子メモリを提供できる。
【0059】
本発明の結晶メモリによれば、結晶の分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができる。外部電場を印加することにより、分子ごとの外部電場0における分子分極を安定保持できるので、結晶メモリを提供できる。
【0060】
本発明の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法によれば、非誘電体材料である、金属イオン、H
2Oを有する分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができる。外部電場を印加することにより、分子性金属酸化物クラスターに分子分極を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0062】
(実施形態)
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター、分子性金属酸化物クラスター結晶、分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体、分子メモリ、結晶メモリ及び分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法について説明する。
【0063】
<分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体>
図1は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体の一例を示す図であって、平面図(a)及びA−A’線における断面図(b)である。
図1に示すように、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体10は略円盤状ペレットに成型されている。しかしにこれに限られるものではなく、板状、立方体状ペレット等でもよい。
【0064】
図2は、
図1(b)のB部拡大図(a)及び
図2(a)の分子性金属酸化物クラスター結晶11の拡大図(b)である。
図2(a)に示すように、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体は分子性金属酸化物クラスター結晶が凝集されてなる。例えば、分子性金属酸化物クラスター結晶11が押し固められて、ペレット状に成型されてなる。
【0065】
<分子性金属酸化物クラスター結晶>
図3は、
図2(b)のC部拡大図であり、分子性金属酸化物クラスター結晶の結晶構造である。分子性金属酸化物クラスター結晶11は、分子性金属酸化物クラスター31と、カウンターカチオンと、水分子を有する単結晶である。前記水分子として、カウンターカチオンに配位した配位結晶水と、カウンターカチオンに配位しない非配位結晶水とを有する。
【0066】
分子性金属酸化物クラスター結晶11は、斜方晶結晶構造(Pnma)を形成する。前記斜方晶結晶構造の格子間に、配位結晶水で配位されたカウンターカチオンと、非配位結晶水とを有する。C部は、分子性金属酸化物クラスター結晶のc軸投影面とされている。
【0067】
図4は、
図3の分子性金属酸化物クラスター結晶のb軸投影面の図である。分子性金属酸化物クラスター31の連通孔31cはb軸方向に揃って積層している。
【0068】
前記カウンターカチオンがNa
+、K
+、Ca
2+、Ce
4+又はNH
4+の群から選択され一又は二種以上のカチオンであることが好ましい。これらのカウンターカチオンにより配位結晶水を安定に保持でき、分子性金属酸化物クラスター結晶11を生成後、水から取り出しても、ひび割れさせて粉々にさせることなく、大きな結晶をそのままの形状で安定保持できる。
【0069】
分子性金属酸化物クラスター結晶は、先に記載の化学式(2)で表され、化学式(2)においてM1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであり、M2がNa
+、K
+、Ca
2+、Ce
4+又はNH
4+の群から選択される一又は二種以上のカチオンであり、nが1以上10以下の自然数であり、mが1以上40以下の自然数である。
【0070】
<分子性金属酸化物クラスター>
図5は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスターの一例を示す図であって、平面図(a)及び側面図(b)である。分子性金属酸化物クラスター31は、クラスター骨格と、金属イオンM1と、水分子とを有する。
【0071】
クラスター骨格は、連通孔31cを有し、連通孔31c内の一の開放端側と他の開放端側にそれぞれ金属イオン及び水分子を包接可能な包接部31c1、31c2が設けられているリン‐タングステン酸化物分子である。
【0072】
分子性金属酸化物クラスター31は、連通孔31c内の包接部の一方31c1に金属イオンM1が包接され、他方31c2に水分子が包接されている。
【0073】
クラスター骨格は略扁平回転楕円体状であり、連通孔31cが回転軸に沿って設けられている。これにより、斜方晶結晶構造(Pnma)を形成する結晶で、分子分極方向の選択性を高めることができる。つまり、ランダムな方向を選択することを減らし、一方向化とその逆の方向化の選択性を高めることができる。
【0074】
クラスター骨格として、ポリオキソメタレート骨格を有し、化学式P
5W
30O
110で表されるポリオキソメタレート分子を挙げることができる。Preyssler型POMである。
【0075】
クラスター骨格が先に記載の化学式(1)で表され、化学式(1)においてM1がアルカリ金属、ランタノイドの群から選択されるいずれかの金属イオンであることが好ましい。これにより、水分子を取り出すことにより、単分子誘電体となる分子性金属酸化物クラスターを形成でき、分子分極を形成できる。
【0076】
M1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであることがより好ましい。金属イオンM1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであることにより、水分子を取り出すことにより、単分子誘電体となる分子性金属酸化物クラスターを形成でき、分子分極を形成できるとともに、分子性金属酸化物クラスターの安定性を高めることができる。
【0077】
Na
+の分子性金属酸化物クラスターは、水分子を取り出すことにより、誘電ヒステリシスを示した。Tb
3+の水分子を含まない分子性金属酸化物クラスターは、大きな誘電ヒステリシスを示した。Nd
3+、Dy
3+も又水から取り出しても容易に崩壊せず、安定な構造を維持し、イオン半径、電子特性等の点でTb
3+と共通するので、同様の誘電ヒステリシスを示すと推定できるためである。
【0078】
<分子メモリ>
図6は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスターに形成された分子分極の一例を説明する図である。分子性金属酸化物クラスターは、2つの金属イオンの安定サイトを有する。この2つの安定サイト間にはエネルギー障壁Uが存在しているため、単一分子で二つの分極方向を示す状態を取り得る。いずれか一方のサイトに金属イオンが包接されると、分子性金属酸化物クラスター内の金属イオンM1の偏りにより分子分極が形成される。
【0079】
包接部の他方31c2に水分子が包接されているため、分子分極は安定保持される。このままの状態では金属イオンM1は他方のサイトに移動できないので、結晶の分極の大きさと方向を外部電場によって制御することができない。しかし、以下の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法により、所望の分子分極を形成でき、分子分極の合計の大きさと方向を外部電場によって制御することによって、分子メモリを形成できる。
【0080】
本発明の実施形態の分子メモリは、分子性金属酸化物クラスターからなる分子メモリであって、外部電場0における分子分極の大きさと方向を記録単位とする。
【0081】
<分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法>
図7は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法の一例を説明する工程図である。本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法は、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する工程S1と、外部電場を印加する工程S2と、を有して概略構成される。
【0082】
<水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する工程S1>
この工程では、分子性金属酸化物クラスターを真空加熱して、分子性金属酸化物クラスターから包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する。水分子を取り出すことにより、金属イオンを一方の包接部から他方の包接部に移動させることを可能とする。つまり、金属イオン移動可能化工程である。
【0083】
真空加熱で、80℃以上140℃以下に加熱することが好ましい。80℃以上に加熱することにより、分子性金属酸化物クラスターから少なくとも一部の包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成できる。140℃超に加熱すると、分子性金属酸化物クラスターが崩壊するおそれがある。
【0084】
真空加熱で、120℃以上に加熱することがより好ましい。これにより、80℃の場合よりも多くの分子性金属酸化物クラスターから包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成できる。
【0085】
<電場を印加する工程S2>
この工程は、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターに外部電場を印加して、分子分極を形成する分子分極形成工程である。
【0086】
図8は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスターのエネルギー構造の一例を説明する図であって、低温T<T
C(a)と、高温T>T
C(b)のエネルギー構造説明図である。水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターでは、内部に二ヶ所あるイオン安定サイトが結晶学的に等価である。
図8(a)に示すように、一方のサイトと他方のサイトの間にエネルギー障壁Uがあるために、低温(T<T
C)では、外部電場Eを印加しても金属イオンM1は容易にはサイト間を移動しない。それぞれのサイトに金属イオンがトラップされることにより、それぞれの状態で、一方向の分極Pと逆方向の分極Pが形成され、安定保持される。
【0087】
これにより、低温でも、大きい外部電場を印加すれば、所望の分子分極を形成できる。
しかし、
図8(b)に示すように、サイト間に存在するエネルギー障壁Uを容易に越えられる温度(T>T
C)に昇温すると、金属イオンのサイト間揺らぎが活発となる。この状態であれば、印加する外部電場が小さくても、所望の分子分極を容易に形成できる。
【0088】
外部電場は、POM分子の還元を防ぐため小さいほうが好ましい。高電圧をかけすぎると(1600V/cm以上)、POMの骨格で酸化還元反応が起きるためである。例えば、室温で所望の分子分極を形成するための外部電場は600V/cmとする。
【0089】
<水分子を包接させる工程S3>
図9は、分子性金属酸化物クラスターへの分子分極固定方法の一例を説明する工程図である。
図9(a)に示すように、分子分極形成後、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを水蒸気ガスに曝露して、水分子を包接させる工程を有していてもよい。水分子を包接させることにより、金属イオンの移動を不可として、分子分極を安定保持できる。
【0090】
図9(b)に示すように、分子分極形成後、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを降温させる工程と、を有していてもよい。降温させることにより、金属イオンの熱エネルギーで、エネルギー障壁Uを超えることが不可となり、分子分極を安定保持できる。
【0091】
<分子性金属酸化物クラスターからの分子分極の読出し方法>
分子性金属酸化物クラスターからの分子分極の読出し方法は、分子性金属酸化物クラスターが発する電場又は磁場のいずれか又は双方を感受するものを近づけることで、分子性金属酸化物クラスターの分子分極の大きさと方向を読出す。電場又は磁場のいずれか又は双方を感受するものとして、強誘電体、強磁性体、マルチフェロイックス、電磁コイルなどが挙げられ、これらを金属酸化物クラスターに近づけることで生じる力学的、あるいは電磁気学的な作用によって読出しを可能とする。
【0092】
<結晶メモリ>
図10は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスター結晶に形成された結晶分極の一例を説明する図である。金属イオンM1の偏りにより形成された分子分極(Molecular Dipole moment)からなる分子性金属酸化物クラスターが形成する斜方晶結晶構造(Pnma)を形成する結晶11は、各分子性金属酸化物クラスターにより、一方向かその逆方向かのいずれかの方向の分子分極を有する。一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向により、結晶の分極が形成される。結晶の分極の合計の大きさと方向を外部電場によって制御することによって、結晶メモリを形成できる。
【0093】
本発明の実施形態の結晶メモリは、分子性金属酸化物クラスター結晶からなる結晶メモリであって、外部電場0における一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向を記録単位とする。
【0094】
図11は、本発明の実施形態の分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体に形成された凝集体の分極の一例を説明する図である。一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向により、凝集体の分極が形成される。
【0095】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスターは、連通孔31cを有し、連通孔31c内の一方の開放端側と他方の開放端側にそれぞれ金属イオンM1及び水分子を包接可能な包接部31c1、31c2が設けられた分子性金属酸化物クラスターと、金属イオンM1と、水分子とからなる分子性金属酸化物クラスター31であって、連通孔31c内の包接部の一方31c1に金属イオンM1が包接され、他方31c2に水分子が包接されており、分子性金属酸化物クラスター31内の金属イオンM1の偏りにより分子分極を有する構成なので、連通孔の他方の包接部に水分子が包接され、一方の包接部に電荷の偏りを生じさせる金属イオンを他方に動かすことを妨げているので、分子分極を安定保持できる。この分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことにより、単分子誘電体にすることができる。分極させたのち、水蒸気ガスに曝すことにより、水分子をPOMに導入して、前記分極状態を安定保持できる。又は、降温することにより、前記分極状態を安定保持できる。これらにより、分子メモリとして利用できる。
【0096】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31は、前記分子性金属酸化物クラスターが略扁平回転楕円体状であり、連通孔31cが回転軸に沿って設けられている構成なので、結晶を形成したときに、分極の均一性を向上させることができる。
【0097】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31は、前記分子性金属酸化物クラスターが化学式P
5W
30O
110で表されるポリオキソメタレートである構成なので、単結晶を形成したときに、分極の均一性を向上させることができる。
【0098】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスターは、分子性金属酸化物クラスター31が化学式(1)で表され、化学式(1)においてM1がアルカリ金属、ランタノイドの群から選択されるいずれかの金属イオンである構成なので、水分子を取り出すことにより、単分子誘電体となる分子性金属酸化物クラスターを形成でき、分子分極を形成できる。
【0099】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31は、M1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンである構成なので、水分子を取り出すことにより、単分子誘電体となる分子性金属酸化物クラスターを形成でき、分子分極を形成できるとともに、分子性金属酸化物クラスターの安定性を高めることができる。
【0100】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶11は、分子性金属酸化物クラスター31と、カウンターカチオンと、水分子を有する構成なので、構造的に安定な分子性金属酸化物クラスターからなる結晶を提供できる。これらにより、結晶メモリとして利用できる。
【0101】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶11は、前記水分子として、カウンターカチオンに配位した配位結晶水と、カウンターカチオンに配位しない非配位結晶水とを有する構成なので、安定な結晶を形成できる。
【0102】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶11は、分子性金属酸化物クラスター31が斜方晶結晶構造を形成している構成なので、各分子の分子分極の方向をそろえることができる。
【0103】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶11は、前記斜方晶結晶構造の格子間に、配位結晶水で配位されたカウンターカチオンと、非配位結晶水とを有する構成なので、水分子を容易には脱離させることなく、安定な構造を形成できる。
【0104】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶11は、分子性金属酸化物クラスター結晶11が化学式(2)で表され、化学式(2)においてM1がNa
+、Nd
3+、Dy
3+又はTb
3+の群から選択されるいずれかの金属イオンであり、M2がNa
+、K
+、Ca
2+、Ce
4+又はNH
4+の群から選択される一又は二種以上のカチオンであり、nが1以上10以下の自然数であり、mが1以上40以下の自然数である構成なので、安定な構造を形成できるとともに、大きな分極を形成できる。
【0105】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体10は、先に記載の分子性金属酸化物クラスター結晶11が凝集されている構成なので、構造的に安定な分子性金属酸化物クラスターからなる結晶からなる構成なので、構造的に安定な凝集体を提供できる。
【0106】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体10は、ペレットである構成なので、取り扱いが容易で、構造的に安定な凝集体を提供できる。
【0107】
本発明の実施形態である分子メモリは、分子性金属酸化物クラスター31からなる分子メモリであって、外部電場0における分極の大きさと方向を記録単位とする構成なので、分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができ、外部電場を印加することにより、外部電場0における分子分極を安定保持できる分子メモリを提供できる。
【0108】
本発明の実施形態である結晶メモリは、分子性金属酸化物クラスター結晶11からなる結晶メモリであって、外部電場0における一定の質量当たりの分極の合計の大きさと方向を記録単位とする構成なので、結晶の分子性金属酸化物クラスターからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができ、外部電場を印加することにより、分子ごとの外部電場0における分子分極を安定保持できるので、結晶メモリを提供できる。
【0109】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31への分子分極形成方法は、分子性金属酸化物クラスター31を真空加熱して、分子性金属酸化物クラスター31から包接水分子を外部に取り出して、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターを形成する工程S1と、水分子を包接しない分子性金属酸化物クラスターに電場を印加して、分極を形成する工程S2と、を有する構成なので、非誘電体材料である、金属イオン、H
2Oを有するPOMからH
2Oを取り除くことで、単分子誘電体にすることができ、外部電場を印加することにより、分子性金属酸化物クラスターに分子分極を形成できる。
【0110】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31への分子分極形成方法は、真空加熱で、80℃以上140以下に加熱する構成なので、分子性金属酸化物クラスターを崩壊させることなく、金属イオン、H
2Oを有するPOMから少なくとも一部のH
2Oを取り除くことができる。
【0111】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター31への分子分極形成方法は、真空加熱で、120℃以上に加熱する構成なので、H
2Oを有するPOMから大部分のH
2Oを取り除くことができる。
【0112】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法は、電場を印加する際、強誘電発現温度T
C付近まで昇温する構成なので、小さな外部電場でも容易に分極を形成できる。効率よく分子分極を形成できる。昇温は理論的には強誘電発現温度Tcと一致する温度でよいが、強誘電発現温度Tcを10℃程度越える温度まで昇温してもよく、10℃程度低い温度であっても十分な効果が得られる。
【0113】
本発明の実施形態である分子性金属酸化物クラスター、分子性金属酸化物クラスター結晶、分子性金属酸化物クラスター結晶凝集体、分子メモリ、結晶メモリ及び分子性金属酸化物クラスターへの分子分極形成方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で、種々変更して実施することができる。本実施形態の具体例を以下の実施例で示す。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではい。
【実施例】
【0114】
(実施例1)
<単結晶作製>
まず、すでに報告されている方法でナトリウムイオンを内包したPreyssler型POMである[K
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]・15H
2O]を合成した。次に、61.0mg(0.140mmol)のCe(NO
3)
3・6H
2Oに、H
2Oを3ml加えて、第1の溶液を調製した。 次に、1.00g(0.121mmol)のK
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]・15H
2Oに、H
2Oを12ml加えて、溶液Bを調製し、第2の溶液を60℃に加熱した。 次に、第2の溶液を第1の溶液に滴下し、第1の混合溶液を調製した。 次に、第1の混合溶液を160℃で24時間保持した。以上により、結晶粉末を得た。
【0115】
図12は、得られた結晶の写真である。最長径2mmの薄黄色の透明な結晶が得られた。
【0116】
<X線構造解析>
X線構造解析装置(装置名:Bruker社製SMART APEX II ULTRA diffractometer)により、構造解析を行った。この装置はTXS rotating anodeを有し、TXS rotating anodeは、Mo Kα radiation,λ=0.71073Åであり、multilayer opticsを備えたものである。データ採取は、Japan Thermal Engineering DX-CS190LD N
2-gas-flow cryostatを用いて、液体窒素フロー下の173Kで行った。
【0117】
構造は、direct methods(SHELXL-97)とrefined by full-matrix least-squares on F2 using SHELXL-97により解析した(参考:J.Am.Chem.Soc.2015,137,4477-4486)。
【0118】
すべてのH原子は、riding modelsで改良された。乱れのない結晶構造のために、すべての非H原子は異方性について改良された。乱れのある結晶構造のために、改良の詳細がthe Supporting Information as CIFs embedding the SHELXL-97 res filesに付けられた。
【0119】
単結晶X線構造解析により、得られた結晶はK
5[{Ce(H
2O)
7}
3[Na(H
2O)−P
5W
30O
110]・31H
2O(Ce−NaPOMと表記する。)の単結晶と判明した。この単結晶は対称心がある空間群Pnmaに属しており、a=28Å、b=21Å、c=20Åであることが分かった。
【0120】
図13〜15は、結晶構造図である。
図13の結晶のb軸投影図(a)及びc軸投影図(b)である。
図14は、b軸投影図の拡大図である。
図15は、c軸投影図の拡大図である。水分子を一部省略している。
【0121】
POM分子内にはナトリウムイオンと水分子が内部の安定サイトに占有率1でそれぞれ存在していた。そのため、イオン揺らぎが起きないと推定した。この化合物ではセリウムイオンがカウンターカチオンとして存在しており、一つのセリウムイオンには7個の結晶水が配位していた。POM分子の方向は一方向に揃っており、さらにセリウムイオンはPOM分子の末端酸素とも配位結合を形成して、POM分子間を架橋していた。同一の結晶の作製を繰り返した。これにより、nが1以上10以下の自然数であり、mが1以上40以下の自然数の結晶が、安定であることが判明した。
【0122】
<真空加熱処理>
真空加熱処理は、得られた結晶を80℃、2時間真空加熱又は120℃、4時間真空加熱とした。これにより、分子内の一つのイオンサイトを占めている水分子の一部又は全部を除去した。なお、本明細書において、真空状態は10
-6Torr以下に真空した状態を意味する。
【0123】
得られた結晶を真空状態(10
-6Torr)で80℃、2時間保持した処理をしたものをCe−NaPOM(真空80℃2h処理)と表記する。また、得られた結晶を真空状態(10
-6Torr)で120℃、4時間保持した処理をしたものをCe−NaPOM(真空120℃4h処理)と表記する。
【0124】
<IR(IRスペクトルの温度依存測定)>
次に、IRスペクトルの温度依存測定を行った。なお、測定サンプルは、得られた結晶そのまま(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)と表記)と、得られた結晶を真空状態(10
-6Torr)で80℃、2時間保持した処理をしたもの(Ce−NaPOM(真空80℃、2h処理)と表記)を用いた。
【0125】
図16は、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルと、Ce−NaPOM(真空80℃、2h処理)サンプルのIRスペクトル測定結果である。ほとんど同一であった。
【0126】
図17は、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルのIRスペクトルの温度依存性を示すグラフである。室温(RT:300K)で測定してから、温度を低下させて、250K、200K、250K、200K、50K、10Kの各温度で測定を行った。各温度で、1160、1070、1020cm
-1の3本の吸収ピーク位置はいずれもシフトしなかった。これらのピークはPOM分子のキャビティー内部に位置するP−Oに帰属される。つまり、室温から温度低下させても、P−O伸縮に影響せず、高温域でも、Naが安定サイト間を揺らぐことがないことが分かった。
【0127】
なお、Tbの場合、これらのピークシフトが生じ、また、新しいピークが出現した。これは、高温域で安定サイト間を揺らいでいたテルビウムイオンが、低温域で安定サイトにゆっくりと停止したと推測できた。
【0128】
<誘電率測定>
(実施例1−1−1)
図18は、誘電率測定の装置構成図である。まず、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末からペレット(厚さ75μm、面積0.84mm
2)を作製した。次に、ペレットの両面に金ペーストを塗布して、電極を形成した。次に、電極に配線して、Agilent社製LCRメータ(E4980A)に接続した。次に、電圧−電流を印加して、4端子法で、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルの誘電率を測定した。測定周波数は3kHz〜2MHzとし、印加電圧を2Vとした。
【0129】
図19は、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルの誘電率測定から得られた誘電損失の温度依存性を示すグラフである。150K〜300Kの温度範囲で、3kHzから2MHzの周波数において、周波数に依存する誘電損失のピークは観測されなかった。
【0130】
(実施例1−1−2)
次に、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末の代わりにCe−NaPOM(真空80℃2h処理)サンプルの粉末を用いた他は試験例1−1と同様にして、ペレットを作製し、誘電率測定を行った。
【0131】
図20は、Ce−NaPOM(真空80℃2h処理)サンプルの誘電率測定から得られた誘電損失の温度依存性を示すグラフである。150K〜300Kの温度範囲で、333Hzから2MHzの周波数において、周波数に依存する誘電損失のピークが270K〜295Kの範囲で観測された。これは、ナトリウムイオンの揺らぎに伴う誘電損失のピークであると考察した。
【0132】
<分極測定、PT測定、PE測定>
(実施例1−2−1)
分極測定を行った。焦電電流は非常に小さく、焦電電流ピークは観測されなかった。
【0133】
図21は、PE測定の装置構成図である。まず、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末からペレット(厚さ312μm、面積133mm
2)を作製した。次に、ペレットの両面を円板状の電極で挟み込んだ。次に、電極に配線して、PrecisionLC(Radiant Technologies社製)に接続した。次に、ソーヤータワー回路により、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルのPE(分極の電場依存性)を測定した。
【0134】
(実施例1−2−2)
次に、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末の代わりにCe−NaPOM(真空80℃2h処理)サンプルの粉末を用いた他は試験例2−1と同様にして、ペレットを作製し、PT測定、PE測定を行った。
【0135】
(実施例1−2−3)
次に、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末の代わりにCe−NaPOM(真空120℃4h処理)サンプルの粉末を用いた他は試験例2−1と同様にして、ペレットを作製し、PE測定を行った。
【0136】
図22は、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル及びCe−NaPOM(真空80℃2h処理)サンプルのPT(焦電電流の積分値と温度との関係)を示すグラフである。真空加熱処理により、分極Pの値を高めることができた。
【0137】
図23は、Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプルのPEを示すグラフである。誘電ヒステリシスはほとんど得られなかった。
【0138】
図24は、Ce−NaPOM(真空80℃、2h処理)サンプルのPEを示すグラフである。ある程度の大きさの誘電ヒステリシスが得られた。また、低温250Kから室温RT(300K)まで昇温するに従い、誘電ヒステリシスは大きくなった。
【0139】
図25は、Ce−NaPOM(真空120℃4h処理)サンプルのPEを示すグラフである。大きな誘電ヒステリシスが得られた。また、低温260Kから室温RT(300K)まで昇温するに従い、誘電ヒステリシスは大きくなった。また、誘電ヒステリシスのデータのばらつきもCe−NaPOM(真空80℃2h処理)サンプルに比較して小さくなった。
【0140】
(試験例1)
<単結晶作製>
まず、すでに報告されている方法でナトリウムイオンを内包したPreyssler型POMである[K
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]・15H
2O]を合成した。次に、36.6mg(0.1mmol)のTb(NO
3)
3・6H
2Oに、H
2Oを3ml加えて、第1の溶液を調製した。次に、1.00g(0.121mmol)のK
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]・15H
2Oに、H
2Oを12ml加えて、溶液Bを調製し、第2の溶液を60℃に加熱した。次に、第2の溶液を第1の溶液に滴下し、第1の混合溶液を調製した。
【0141】
次に、第1の混合溶液を145℃で24時間保持した。次に、加熱後室温まで冷やした溶液にKClを4.00g(53mmol)を加えた。以上により、結晶粉末を得た。
【0142】
図26は、得られた結晶の写真である。最長径1mmの無色の透明な結晶が得られた。なお、水分子を包接した分子錯体は作成できなかった。
【0143】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、K
6Na
6(H
2O)
n[Tb
3+−P
5W
30O
110]・mH
2O(K、Na−TbPOMと略記する。)であることが判明した。この結晶のn、mは特定できなかった。
【0144】
K、Na−TbPOMサンプルは多くの結晶水を含んでいた。そのため、常圧室温で脱水による結晶の劣化が起こった。
【0145】
<誘電率測定>
次に、得られた結晶(Ce−NaPOM(真空加熱処理なし)サンプル)の粉末の代わりにK、Na−TbPOMサンプルの粉末を用いた他は実施例1−1−1と同様にして、ペレットを作製し、誘電率測定を行った。
【0146】
図27(a)は、K、Na−TbPOMサンプルの誘電率測定から得られた誘電損失の温度依存性を示すグラフである。150K〜300Kの温度範囲で、333Hzから2MHzの周波数で誘電率を測定した。333Hzから333kHzの周波数領域では、周波数に依存する誘電損失のピークが225から280Kの範囲で観測された。この誘電損失のピークはテルビウムイオンの揺らぎによるものと考えた。
【0147】
図27(b)は、K、Na−TbPOMサンプルの誘電損失の温度依存性から得られたアレニウス・プロットである。算出には、各周波数とピークトップ温度を用いた。グラフは縦軸に各周波数の自然対数を、横軸にピークトップ温度の逆数を用いて示した。エネルギー障壁Uは0.487eVとなった。
【0148】
<PT測定>
エレクトロメータ(Keithley 6517A)を用いて、K、Na−TbPOMサンプルのPT測定を行った。まず、K、Na−TbPOMサンプルを冷却し、±540V/cmの電場を印加してポーリング処理を行った。次に、ゼロ電場下で0.5K/minのレートで温めながら焦電電流を測定した。その結果、250Kに明確な焦電電流ピークを得た。
【0149】
図28は、K、Na−TbPOMサンプルの焦電電流の積分値を100Kでの焦電電流の積分値で規格化した値の温度依存性を示すグラフ(PTグラフ)である。230Kから分極の絶対値が減少し始め、320Kで0となった。この温度を、強誘電発現温度とした。
【0150】
<PE測定>
Radient社製Precision LCを用いて、K、Na−TbPOMサンプルのPE測定を行った。
図29は、K、Na−TbPOMサンプルの誘電ヒステリシスループである。220K、250K、280Kと昇温するに従い、誘電ヒステリシスは大きくなり、280Kで最大印加電圧350V/cmとしたとき、強誘電的なヒステリシスループが観測された。この温度はPT測定で観測された焦電電流ピークの温度と一致した。これから、自発分極の起源はPOM分子内のテルビウムイオンの偏りによるものと考察した。
【0151】
以上により、水分子を含むK、Na−TbPOMサンプルが作成できれば、水分子を取り除くことにより、大きな誘電ヒステリシスを示す材料として使用できることを明らかにした。
【0152】
(比較例1)
<単結晶作製>
まず、K
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]を乾燥させて白色粉末にした。次に、100mg(1.25×10
-5mol)のK
12.5Na
1.5[NaP
5W
30O
110]に、H
2Oを1ml加えて、第4の溶液を調製した。次に、2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oに、H
2Oを数滴加えて、第5の溶液を調製した。次に、第4の溶液と第5の溶液を混ぜて、第6の混合溶液を調製した。次に、第6の混合溶液を加熱して液量を約半量にした後、放置して、結晶を析出させた。以上により、結晶粉末が得られた。
【0153】
図30は、得られた結晶の写真である。最長径3mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0154】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、NiCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((NiCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0155】
(比較例2)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、CrCl
3・6H
2Oを3.3mg(1.2×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0156】
図31は、得られた結晶の写真である。最長径2mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0157】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、CrCl
3(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((CrCl
3−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0158】
(比較例3)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、CoCl
2を2.0mg(1.5×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0159】
図32は、得られた結晶の写真である。最長径2mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0160】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、CoCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((CoCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0161】
(比較例4)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、CuCl
2・2H
2Oを2.1mg(1.2×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0162】
図33は、得られた結晶の写真である。最長径2mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0163】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、1CuCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((1CuCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0164】
(比較例5)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、CuCl
2・2H
2Oを11.1mg(6.5×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0165】
図34は、得られた結晶の写真である。最長径1mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0166】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、5CuCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((5CuCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0167】
(比較例6)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、MnCl
2・4H
2Oを2.46mg(1.24×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0168】
図35は、得られた結晶の写真である。最長径3mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0169】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、MnCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((MnCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0170】
(比較例7)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、CrCl
3を2.00mg(1.27×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0171】
図36は、得られた結晶の写真である。最長径1mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0172】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、VCl
3(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((VCl
3−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0173】
(比較例8)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、FeCl
2・4H
2Oを2.35mg(1.18×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0174】
図37は、得られた結晶の写真である。最長径3mmの薄黄色の結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0175】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、FeCl
2(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((FeCl
2−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0176】
(比較例9)
<単結晶作製>
2.9mg(1.2×10
-5mol)のNiCl
2・6H
2Oの代わりに、FeCl
3・6H
2Oを2.66mg(1.28×10
-5mol)用いた他は比較例1と同様にして、結晶粉末を得た。
【0177】
図38は、得られた結晶の写真である。最長径1mmの透明な結晶が得られた。水から取り出すと大きな結晶はすぐにひび割れた。
【0178】
<X線構造解析>
X線構造解析により、得られた結晶は、FeCl
3(H
2O)
n−[Na(H
2O)P
5W
30O
110]・mH
2O((FeCl
3−NaPOMと略記する。)であることが判明した。
【0179】
比較例1〜9の結晶のn、mは特定できなかった。表1に、得られた結晶の組成及び特性をまとめた。
【0180】
【表1】