【課題】積層、成形、注型、接着等の用途において、硬化性に優れ、高耐熱性、機械強度、高熱伝導性及び熱分解安定性等にも優れた硬化物を与える電気・電子部品類の封止材料、高放熱シート等の回路基板材料に有用なエポキシ樹脂組成物、及びそれに使用されるエポキシ樹脂を提供する。
【解決手段】4,4’−ジヒドロキシビフェニルをビスクロロメチルビフェニルのような芳香族縮合剤を反応させて得られるビフェノールアラルキル樹脂を、エピクロロヒドリンでエポキシ化して生じるエポキシ樹脂であって、GPCで測定したMwがn=0成分を除いた値で1,000〜5,000であって、n=0成分が面積%で全体の15%以下であるエポキシ樹脂、及びこのエポキシ樹脂と硬化剤、無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物。
ビフェノールと芳香族縮合剤を、ビフェノール1モルに対して、芳香族縮合剤0.1〜0.55モルを反応させることにより、一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂を得て、これとエピクロロヒドリンを反応させてエポキシ樹脂とした後、n=0成分を除去する工程を行なって、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した面積%でn=0成分が8%以下とすることを特徴とする請求項1に記載のエポキシ樹脂の製造方法。
エポキシ樹脂、硬化剤及び無機充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物において、無機充填材の一部又は全部として、熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材を使用することを特徴とする請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のエポキシ樹脂は、一般式(1)で表される。式中、nは0〜20の数を示す。nの平均値(数平均)としては、GPCで測定した重量平均分子量(Mw)がn=0成分を除いた値で1,000〜5,000であって、n=0成分がGPCの面積%で全体の15%以下であることを満足する範囲であるが、好ましくは全体として1〜6の範囲である。そして、n=0成分の含有量は2〜8%がより好ましく、上記Mwは1500〜4500が好ましい。
【0014】
上記エポキシ樹脂は、上記一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂とエピクロロヒドリンとを反応させることにより製造することができる。しかし、この反応方法に限らない。そして、この多価ヒドロキシ樹脂は、有利にはビフェノール類と芳香族縮合剤とを反応させることにより製造することができる。具体的には、ビフェノール化合物と芳香族縮合剤とをビフェノール化合物1モルに対して、芳香族縮合剤0.1〜0.55モルを反応させることにより、上記一般式(a)で表される多価ヒドロキシ樹脂を得て、これとエピクロロヒドリンとを反応させる方法である。なお、一般式(a)において、nは一般式(1)と同意である。
【0015】
多価ヒドロキシ樹脂の合成原料のビフェノール類は、4,4'−ジヒドロキシビフェニルである。
【0016】
芳香族縮合剤としては、4,4’−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、4,4’-ビスメトキシメチルビフェニル、4,4'-ビスエトキシメチルビフェニルが挙げられる。反応性の観点からは、4,4'−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4'−ビスクロロメチルビフェニルが好ましく、イオン性不純分低減の観点からは、4,4'−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4'-ビスメトキシメチルビフェニルが好ましい。
【0017】
ビフェノール類と芳香族縮合剤との反応には、芳香族縮合剤に対して過剰量の二官能フェノール性化合物を使用する。芳香族縮合剤の使用量は、ビフェノール類1モルに対し0.2〜0.55モルであり、好ましくは0.3〜0.5モルである。芳香族縮合剤の使用量が0.55モルより多いとn=0成分の生成は少なくなるが分子量自体が高くなり、樹脂の軟化点、溶融粘度が高くなるため成形作業性に支障をきたし、0.1モルより少ないと反応終了後、過剰のビフェノール類を除く量が多くなり、工業的に好ましくない。このモル比(芳香族縮合剤/ビフェノール類)を上記範囲内で大きくするとnの平均値は大きくなり、n=0成分含有量は低下するので、このモル比を調整することにより、nの平均値又はMwを制御することができる。更に、本発明では、後工程によりn=0成分を取り除くことによって、n=0成分含有量を大きく制御することができる。
【0018】
通常、この反応は、公知の無機酸、有機酸等の酸触媒の存在下に行う。このような酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸や、ギ酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸等の有機酸や、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化鉄、三フッ化ホウ素等のルイス酸や、活性白土、シリカ−アルミナ、ゼオライト等の固体酸などが挙げられる。
【0019】
通常、この反応は10〜250℃で1〜20時間行う。さらに、反応の際に溶剤として、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム等のアルコール類や、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物などを使用することがよく、これらの中でエチルセロソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライムなどが特に好ましい。反応終了後、得られた多価ヒドロキシ樹脂は、減圧留去、水洗又は貧溶剤中での再沈殿等の方法により溶剤を除去してもよいが、溶剤を残したままエポキシ化反応の原料として用いてもよい。
【0020】
また本発明では、反応終了後、得られた多価ヒドロキシ樹脂は、n=0成分を除去する工程に付すことが好ましい。この工程では、例えば、n=0成分を溶解せず、n=1以上の高分子量成分を溶解する貧溶剤を使用し、ろ過等の方法によりn=0成分を除去することが好ましい。貧溶剤としてはn=0成分をほとんど溶解しないものであれば特に限定されないが、例えばエチレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリグライム等のアルコール類や、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族化合物の良溶剤にアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類を混合したものが好ましく使用できる。この工程では、n=0成分含有量を大きく低減することが可能であるが、n=0成分含有量は10%以下が好ましく、より好ましくは8%以下とすることが、有利である。
【0021】
n=0成分の除去工程は、エポキシ化後においても行うことができる。エポキシ化後に行う除去工程は、上記工程と同様にして、貧溶剤を使用し、ろ過等の方法によりn=0成分を除去することが好ましい。この場合の好ましい貧溶剤は、エポキシ樹脂は多価ヒドロキシ樹脂に比べて溶解性が上るので、より溶解性の劣るものが望ましいといえる。貧溶剤としてはn=0成分をほとんど溶解しないものであれば特に限定されないが、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類が好ましい。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂は、上記多価ヒドロキシ樹脂とエピクロルヒドリンとを反応させることにより製造することができる。この反応は、通常のエポキシ化反応と同様に行うことができる。例えば、多価ヒドロキシ樹脂を過剰のエピクロルヒドリンに溶解した後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の存在下に50〜150℃、好ましくは60〜120℃で1〜10時間反応させる方法が挙げられる。この際、アルカリ金属水酸化物の使用量は、多価ヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対し、0.8〜1.2モル、好ましくは0.9〜1.0モルである。また、エピクロルヒドリンは多価ヒドロキシ樹脂中の水酸基に対して過剰に用いられるが、通常多価ヒドロキシ化合物中の水酸基1モルに対し、1.5〜15モル、好ましくは2〜8モルである。反応終了後、過剰のエピクロルヒドリンを留去し、残留物をトルエン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解し、濾過し、水洗して無機塩を除去し、次いで溶剤を留去することにより、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂を得ることができる。なお、エポキシ化する際に、生成したエポキシ化合物のエポキシ基が開環、縮合してオリゴマー化したエポキシ化合物が少量副生する場合が、かかるエポキシ化合物が存在しても差し支えない。
【0023】
また、このエポキシ樹脂の軟化点又は融点は、エポキシ樹脂原料である多価ヒドロキシ樹脂を合成する際のビフェノール類と架橋剤(芳香族縮合剤)のモル比を変えることにより容易に調整可能であるが、エポキシ樹脂組成物の混合処理する際の高融点成分の溶け残りによる物性低下を抑制する観点より、その軟化点又は融点は130℃以下が好ましく、さらに好ましくは120℃以下である。これより軟化点又は融点が高い場合、硬化性や耐熱性等の物性低下を生じる傾向にある。また、軟化点又は融点を低くするためには、融点の高いn=0成分を少なくする必要があるが、通常n=0成分を少なくするようにビフェノール類と架橋剤のモル比を変更すると、分子量が増加するため、軟化点又は融点の低下に限度がある。対して、本発明のエポキシ樹脂は、n=0成分が少なく、しかもMwが低いため、これを使用したエポキシ樹脂組成物から得られる硬化物の特性が向上する。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記の本発明のエポキシ樹脂と、硬化剤を必須成分とする。有利には、これらと無機充填材を必須成分とする。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組成物に配合する硬化剤としては、半導体封止材等の高い電気絶縁性が要求される分野においては、多価フェノール類を硬化剤として用いることが好ましい。以下に、硬化剤の具体例を示す。
【0026】
多価フェノール類としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ビフェノール類、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類、更にはトリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック、ナフトールノボラック、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂等に代表される3価以上のフェノール類、更にはフェノール類、ナフトール類又は、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4' −ビフェノール、2,2'−ビフェノール、ハイドロキノン、レゾルシン、カテコール、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−キシリレングリコール、p−キシリレングリコールジメチルエーテル、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジメトキシメチルビフェニル類、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル類等の架橋剤との反応により合成される多価フェノール性化合物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から得られるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類等が挙げられる。
【0027】
また、他の硬化剤成分も使用でき、例えば、ジシアンジアミド、酸無水物類、芳香族及び脂肪族アミン類等が使用できる。本発明のエポキシ樹脂組成物には、これら硬化剤の1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0028】
硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂中のエポキシ基と硬化剤の官能基(多価フェノール類の場合は水酸基)との当量バランスを考慮して配合する。エポキシ樹脂及び硬化剤の当量比は、通常、0.2から5.0の範囲であり、好ましくは0.5から2.0の範囲であり、さらに好ましくは0.8〜1.5の範囲である。これより大きくても小さくても、エポキシ樹脂組成物の硬化性が低下するとともに、硬化物の耐熱性、力学強度等が低下する。
【0029】
また、このエポキシ樹脂組成物中には、エポキシ樹脂成分として、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂以外に別種のエポキシ樹脂を配合してもよい。この場合の別種のエポキシ樹脂としては、分子中にエポキシ基を2個以上有する通常のエポキシ樹脂はすべて使用できる。例を挙げれば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フルオレンビスフェノール、4,4' −ビフェノール、3,3',5,5'−テトラメチル−4,4'−ジヒドロキシビフェニル、レゾルシン、ナフタレンジオール類等の2価のフェノール類のエポキシ化物、トリス−(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1,2,2−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、フェノールノボラック、o−クレゾールノボラック等の3価以上のフェノール類のエポキシ化物、ジシクロペンタジエンとフェノール類から得られる共縮合樹脂のエポキシ化物、クレゾール類とホルムアルデヒドとアルコキシ基置換ナフタレン類から得られる共縮合樹脂のエポキシ化物、フェノール類とパラキシリレンジクロライド等から得られるフェノールアラルキル樹脂のエポキシ化物、フェノール類とビスクロロメチルビフェニル等から得られるビフェニルアラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ナフトール類とパラキシリレンジクロライド等から合成されるナフトールアラルキル樹脂類のエポキシ化物等がある。これらのエポキシ樹脂は、1種又は2種以上を混合して用いることができる。そして、エポキシ樹脂全体中の本発明のエポキシ樹脂の配合量は、5〜100wt%、好ましくは60〜100wt%の範囲であることがよく、別種のエポキシ樹脂の配合量は、0〜40wt%の範囲であることが好ましい。
【0030】
更には、硬化物の応力を低減させる目的で、エポキシ樹脂組成物中に架橋弾性体を含有することもできる。架橋弾性体を配合すると、硬化物の熱衝撃テストにおけるパッケージクラックの発生を著しく少なくすることが可能である。
【0031】
架橋弾性体の含有量は、エポキシ樹脂100重量部に対し、3〜30重量部の範囲がよいが、好ましくは5〜20重量部であり、より好ましくは5〜15重量部である。これより小さいと低弾性が十分に発揮されない。また反対にこれより大きくなると、硬化物のTgが低くなるとともに、流動性が低くなり成形加工性に劣る傾向にある。
【0032】
架橋弾性体としては、公知のものを用いることができるが、エポキシ樹脂との相溶性向上の観点から、スチレン系ゴム、アクリル系ゴムを用いることが好ましい。
【0033】
無機充填材を必須成分として配合する場合、無機充填材としては、例えば、球状あるいは、破砕状の溶融シリカ、結晶シリカ等のシリカ粉末、アルミナ粉末、ガラス粉末、又はマイカ、タルク、炭酸カルシウム、アルミナ、水和アルミナ等が挙げられ、半導体封止材に用いる場合の好ましい配合量は70重量%以上であり、更に好ましくは80重量%以上である。無機充填材の形状には制限はないが、球状、破砕状、扁平状、繊維状等が使用でき、その粒径又は長径は1〜1000μmの範囲が好ましい。プリプレグとする場合の繊維状基材の繊維長は、10mm以上であることが好ましく、これに配合される無機充填材の量は、10〜70重量%の範囲であることが好ましい。
【0034】
無機充填材は、より高い熱伝導率を付与する目的で、熱伝導率が高いものほど好ましい。好ましくは20W/m・K以上、より好ましくは30W/m・K以上、さらに好ましくは50W/m・K以上である。そして、無機充填材の少なくとも一部、好ましくは50wt%以上が20W/m・K以上の熱伝導率を有する。そして、無機充填材全体としての平均の熱伝導率が、20W/m・K以上、30W/m・K以上、及び50W/m・K以上の順に好ましさが向上する。
【0035】
この様な熱伝導率を有する無機充填材の例としては、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材等が挙げられる。
【0036】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、上記必須成分の他に、他の添加剤を加えることができる。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂組成物中には、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテル、ポリウレタン、石油樹脂、インデン樹脂、インデン・クマロン樹脂、フェノキシ樹脂等のオリゴマー又は高分子化合物を他の改質剤等として適宜配合してもよい。添加量は、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、2〜30重量部の範囲である。
【0038】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物には、顔料、難然剤、揺変性付与剤、カップリング剤、流動性向上剤等の添加剤を配合できる。
【0039】
顔料としては、有機系又は、無機系の体質顔料、鱗片状顔料等がある。揺変性付与剤としては、シリコン系、ヒマシ油系、脂肪族アマイドワックス、酸化ポリエチレンワックス、有機ベントナイト系等を挙げることができる。
【0040】
更に、本発明のエポキシ樹脂組成物には必要に応じて硬化促進剤を用いることができる。例を挙げれば、アミン類、イミダゾール類、有機ホスフィン類、ルイス酸等があり、具体的には、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの三級アミン、2−メチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−へプタデシルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリブチルホスフィン、メチルジフェニルホスフイン、トリフェニルホスフィン、ジフェニルホスフィン、フェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウム・エチルトリフェニルボレート、テトラブチルホスホニウム・テトラブチルボレートなどのテトラ置換ホスホニウム・テトラ置換ボレート、2−エチル−4−メチルイミダゾール・テトラフェニルボレート、N−メチルモルホリン・テトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などがある。添加量としては、通常、エポキシ樹脂100重量部に対して、0.2〜5重量部の範囲である。
【0041】
更に必要に応じて、本発明の樹脂組成物には、カルナバワックス、OPワックス等の離型剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のカップリング剤、カーボンブラック等の着色剤、三酸化アンチモン等の難燃剤、ステアリン酸カルシウム等の滑剤等を使用できる。
【0042】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有機溶剤に一部又は全部を溶解させたワニス状態(ワニスという。)として有利に使用することができる。無機充填材等の溶剤不溶分を含む場合は、それを溶解させる必要はないが、懸濁状態にして、可級的に均一の溶液とすることが望ましい。樹脂組成物中の、エポキシ樹脂は全部を溶解させることが望ましいが、本発明のエポキシ樹脂は、溶解性が優れ、保存状態において、固形分が析出しにくいという特徴を有する。ワニス中のエポキシ樹脂の一部が固形物となって分離すると、これの硬化物の特性が劣るものとなる。
【0043】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、有利には樹脂分を溶剤に溶解させた状態の組成物(ワニス)とした後に、ガラスクロス、アラミド不織布、液晶ポリマー系のポリエステル不織布等の繊維状の基材に含浸させた後に溶剤除去を行うことにより、エポキシ樹脂組成物と繊維状の基材を複合化したプリプレグとすることができる。また、場合により銅箔、ステンレス箔、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム等のシート状物上に上記ワニスを塗布することにより積層物とすることができる。また、上記プリプレグを複数積層することにより、プリプレグと上記シート状物を積層することによっても、積層物とすることができる。
【0044】
本発明のエポキシ樹脂組成物を加熱硬化させれば、エポキシ樹脂硬化物とすることができ、この硬化物は低吸湿性、高耐熱性、密着性、難燃性等の点で優れたものとなる。この硬化物は、エポキシ樹脂組成物を注型、圧縮成形、トランスファー成形等の方法により、成形加工して得ることができる。この際の温度は通常、120〜220℃の範囲である。
【実施例】
【0045】
以下、合成例、実施例及び比較例に基づき、本発明を具体的に説明する。合成例中の溶剤はジエチレングリコールジメチルエーテルである。
【0046】
実施例1
2000mlの4口フラスコに、4,4’−ジヒドロキシビフェニル246.2g、ジエチレングリコールジメチルエーテル574.5g、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル166.1gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら170℃まで昇温して2時間反応させた。反応後、減圧下にてジエチレングリコールジメチルエーテルを一部留去し、トルエン546g、メチルイソブチルケトン182gを仕込み撹拌し、室温まで冷却した後、濾過により析出したn=0体を除き、溶剤を留去し、樹脂240gを得た。得られた樹脂70gにエピクロルヒドリン207.5g、ジエチレングリコールジメチルエーテル31.1gに溶解させた。続いて、減圧下75℃にて49%水酸化ナトリウム水溶液31.8gを3時間かけて滴下した。この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離し、エピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂23gを得た(エポキシ樹脂A)。得られた樹脂のエポキシ当量は225g/eq.、GPC測定におけるn=0体は6%であり、n=0成分を除いた分子量はMw:2,042, Mn:1,138, Mw/Mn:1.795であった。得られた樹脂の結晶性は低くDSCで明確な融点は認められなかった。150℃における溶融粘度は3.04Pa・sであった。なお、GPC測定は、実施例に記載の条件とする。
【0047】
合成例1
1000mlの4口フラスコに、4,4’−ジヒドロキシビフェニル77.5g、ジエチレングリコールジメチルエーテル180.8g、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル52.3gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら170℃まで昇温して2時間反応させた。反応後、減圧下にてジエチレングリコールジメチルエーテルを一部留去し、エピクロルヒドリン385.4gを仕込み、減圧下62℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液69.4gを4時間かけて滴下した。この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離し、エピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂129gを得た(エポキシ樹脂B)。エポキシ当量は196g/eq.、GPC測定におけるn=0体は24%であり、n=0成分を除いた分子量はMw:3,341, Mn:1,599, Mw/Mn:2.089であった。DSC測定結果におけるピーク温度は126℃であり、150℃における溶融粘度は0.68Pa・sであった。
【0048】
合成例2
1000mlの4口フラスコに、4,4’−ジヒドロキシビフェニル77.5g、ジエチレングリコールジメチルエーテル180.8g、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル31.4gを仕込み、窒素気流下、攪拌しながら170℃まで昇温して2時間反応させた。反応後、減圧下にてジエチレングリコールジメチルエーテルを一部留去し、エピクロルヒドリン385.4gを仕込み、減圧下62℃にて48%水酸化ナトリウム水溶液70.5gを4時間かけて滴下した。この滴下中に還流留出した水とエピクロルヒドリンを分離槽で分離し、エピクロルヒドリンは反応容器に戻し、水は系外に除いて反応した。反応終了後、濾過により生成した塩を除き、更に水洗したのちエピクロルヒドリンを留去し、エポキシ樹脂102gを得た(エポキシ樹脂C)。エポキシ当量は184g/eq.、GPC測定におけるn=0体は39%であり、n=0成分を除いた分子量はMw:2,383, Mn:1,337, Mw/Mn:1.782であった。DSC測定結果におけるピーク温度は138℃であり、150℃における溶融粘度は0.15Pa・sであった。
【0049】
実施例2,3、比較例1〜6
実施例1及び合成例1,2で得られたエポキシ樹脂A〜C、硬化剤、及びトリフェニルホスフィン(硬化促進剤)を表1に示す配合量で混練して樹脂組成物を得、溶剤溶解性を確認した。また、さらに無機充填材とその他の添加剤を表3に示す配合割合で混練してエポキシ樹脂組成物を調製した。表中の数値は配合における重量部を示す。
【0050】
その他の成分を次に示す。なお、PNは硬化剤、球状アルミナは無機充填材、カルナバワックスは離型剤、カーボンブラックは着色剤として使用した。
【0051】
エポキシ樹脂D:o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量200、軟化点65℃、新日鐵化学製)
PN;フェノールノボラック(PSM−4261(群栄化学製)、OH当量103、軟化点 82℃)
球状アルミナ:製品名;DAW−100、電気化学工業株式会社製、熱伝導率38W/m・K
トリフェニルホスフィン:製品名;ホクコー TPP、北興化学工業株式会社製
カルナバワックス:製品名;精製カルナバワックスNo.1、株式会社セラリカNODA製
カーボンブラック:製品名;MA−100、三菱化学株式会社製
【0052】
このエポキシ樹脂組成物を用いて175℃で成形し、更に175℃にて12時間ポストキュアを行い、硬化物試験片を得た後、各種物性測定に供した。結果を表3に示す。
【0053】
エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物及び硬化物の試験条件を次に示す。
1)エポキシ当量の測定
電位差滴定装置を用い、溶剤としてメチルエチルケトンを使用し、臭素化テトラエチルアンモニウム酢酸溶液を加え、電位差滴定装置にて0.1mol/L過塩素酸−酢酸溶液を用いて測定した。
【0054】
2)分子量分布測定
GPC測定装置(東ソー製、HLC−8220 GPC)を用い、カラムにTSK Guardclumn一本(東ソー製)、TSKgel 2000H XL(東ソー製)1本、TSKgel 3000H XL(東ソー製)1本、TSKgel 4000H XL(東ソー製)1本、を使用し、検出器をRIとし、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度40℃として測定した。
【0055】
3)融点
示差走査熱量分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000 DSC/6200)により、昇温速度5℃/分の条件で、DSCピーク温度を求めた。すなわち、このDSCピーク温度をエポキシ樹脂の融点とした。
【0056】
4)溶融粘度
BROOKFIELD製、CAP2000H型回転粘度計を用いて、150℃にて測定した。
【0057】
5)ゲルタイム(秒)
JISK6910に従い、175℃にて測定した。
6)ガラス転移点(Tg)
熱機械測定装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 EXSTAR6000TMA/6100)により、昇温速度10℃/分の条件でTgを求めた。
7)重量保持率(wt%)
回転枠つき恒温器を用いて、250℃における1000時間後の試験片重量と加熱前の試験片重量との差から重量保持率(wt%)を求めた。
8)曲げ強度
JISK 6911に従い、3点曲げ試験法で常温にて測定した。
【0058】
9)熱伝導率
熱伝導率は、NETZSCH製LFA447型熱伝導率計を用いて非定常熱線法により測定した。
【0059】
10)溶剤溶解性
溶剤溶解性は、溶剤にシクロペンタノンを用い、表1に示すエポキシ樹脂組成物を作成し、固形分濃度50wt%となるようにエポキシ樹脂組成物を溶解させた樹脂溶液を室温で放置し、析出物が確認されるまでの日数(時間)により評価した。結果を表2に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】