(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-120784(P2018-120784A)
(43)【公開日】2018年8月2日
(54)【発明の名称】リチウム空気電池用電解液
(51)【国際特許分類】
H01M 12/06 20060101AFI20180706BHJP
【FI】
H01M12/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-12003(P2017-12003)
(22)【出願日】2017年1月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】錦織 英孝
(72)【発明者】
【氏名】松田 翔一
(72)【発明者】
【氏名】中西 周次
【テーマコード(参考)】
5H032
【Fターム(参考)】
5H032AA02
5H032AS02
5H032CC17
5H032EE11
5H032EE20
(57)【要約】
【課題】リチウム空気電池の放電容量を向上することができる非水電解液を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム空気電池用の非水電解液は、添加剤としてアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(NH
4TFSI)を含有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム空気電池用の非水電解液であって、
前記非水電解液は、添加剤としてアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(NH4TFSI)を含有するリチウム空気電池用の非水電解液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム空気電池用電解液に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム空気電池とは、金属リチウムを負極活物質とし、空気中の酸素を正極活物質とする電池である。リチウム空気電池では、リチウムと酸素からリチウム酸化物が生じる反応に伴い放電を行う。酸素は空気から得られるため、正極活物質を電池に貯蔵する必要がなく理論的な放電容量が極めて高いという特徴がある。
【0003】
特許文献1には、酸素の酸化還元触媒を有する正極と、Na、K、Rb、Cs、Frのうちのいずれか1以上を含有する被膜が形成されたリチウム系材料を負極活物質として有する負極と、前記正極と前記負極との間に介在し、リチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えた非水系空気電池が記載されている。特許文献1には、負極活物質であるリチウムの表面がアルカリ金属含有被膜で覆われていることにより、放電時に、不可逆容量が大きくなる原因となる水酸化リチウムの生成を抑制することができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−156114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、リチウム空気電池では、放電反応の中間体として生じるLiO
2が正極に析出・蓄積して正極と空気の接触を遮断し、負極活物質である金属リチウムを消費しきる前に放電反応が停止してしまう等の理由から、放電容量が理論値より低下するという問題が生じる場合があった。
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、リチウム空気電池の放電容量を向上することができる電解液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のリチウム空気電池用の非水電解液は、添加剤としてアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(NH
4TFSI)を含有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リチウム空気電池の放電容量を向上することができる非水電解液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電解液へのNH
4TFSIの添加量とリチウム空気電池の放電容量の関係を示すグラフである。
【
図2】電解液中におけるLiO
2の状態を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の電解液は、リチウム空気電池用の非水電解液である。
本開示のリチウム空気電池用電解液(以下、単に本開示の電解液と称することがある。)で使用する電解質は、リチウム空気電池用の非水電解液の使用できるものであれば、特に制限はなく、例えば、イミド酸化合物のリチウム塩、無機リチウム塩などが挙げられる。イミド酸化合物のリチウム塩を用いる場合には、例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI;CAS No.171611−11−3)、リチウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(LiTFSI;CAS No.90076−65−6)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiTfO;CAS No.33454−82−9)、及び、トリフルオロ酢酸リチウム(LiFSA;CAS No.2923−17−3)などが挙げられる。
【0010】
本開示の電解液で使用する溶媒は、リチウム空気電池用の非水電解液の使用できる非水系の溶媒であれば、特に制限はなく、例えば、有機系溶媒やイオン液体などが挙げられる。イオン液体を用いる場合には、ジエチル−メチル−(2‐メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(DEME−TFSI;CAS No.464927−84−2)を使用することが好ましい。
【0011】
本開示の電解液は、添加剤としてアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(NH
4TFSI;CAS No.165324−08−3)を含有する。
本開示の電解液は、添加剤としてNH
4TFSIを含有することで、放電反応の中間体として生じるLiO
2が、正極等に析出・蓄積することを阻害することができる。
【0012】
本開示の電解液が、添加物としてNH
4TFSIを含有することで、リチウム酸化物の正極への析出・蓄積を阻害できる理由は定かではないが、非水電解液中におけるLiO
2の存在状態が変化したためであると推定される。
すなわち、添加剤としてNH
4TFSIを含有しない電解液では、下記式(1)に示す電気化学反応により生じた放電反応の中間体であるLiO
2は、電解液中で溶解することができず、析出する場合がある。
式(1) O
2+Li
++e
−→LiO
2
これに対し、添加剤としてアンモニウム塩であるNH
4TFSIを含有する本開示の電解液では、
図2に示すように、アンモニウムイオン(NH
4+)が配位子となってリチウムイオンを中心とする溶媒和錯体を形成するため、LiO
2が溶解しやすい状態となり、電極表面へのLiO
2の析出を抑制することができると考えられる。
【0013】
溶解状態の中間体であるLiO
2からは、下記式(2)に示す反応により、放電反応の最終生成物であるLi
2O
2が生成される。
式(2) 2LiO
2→Li
2O
2+O
2
そのため、本開示の電解液を使用したリチウム空気電池では、正極の放電反応において、中間体であるLiO
2の溶解が促進されることで、最終生成物であるLi
2O
2による電極表面の被覆が抑制されるため、放電容量を向上することができると考えられる。
【0014】
本開示の電解液が、添加剤として含有するNH
4TFSIの濃度にも特に制限はないが、10〜300mMであることが好ましく、100〜300mMであると更に好ましい。
【0015】
本開示の水電解液を用いることができるリチウム空気電池にも特に制限はなく、一次電池であっても、二次電池であってもよい。
【0016】
本開示の電解液の製造方法にも特に制限はなく、上記非水系の溶媒に、NH
4TFSIを溶解してから上記電解質してもよいし、上記電解質を溶解してからNH
4TFSIしてもよいし、NH
4TFSIと上記電解質を同時に溶解してもよい。
【実施例】
【0017】
[実施例1]
1.リチウム空気電池用非水電解液の調製
LiTFSIの濃度(LiTFSI/電解液)が0.5mol/LとなるようにLiFSI(キシダ化学株式会社製)をDEME−TFSI(関東化学株式会社製)に混合した。前記混合液に、添加剤としてNH
4TFSI(三菱マテリアル株式会社製)を10mmol/Lとなるように添加した。
【0018】
2.放電容量測定用リチウム空気電池の作製
集電体として厚さ200μmのカーボンペーパー(東レ株式会社製)、集電助剤として1mg/cm
3の密度で含有するケッチェンブラック(KB、Lion Specialty Chemicals Co., Ltd.製)、及び、結着剤として10質量%含有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE、シグマ アルドリッチ ジャパン合同会社製)を用いた正極、厚さ400μmの金属リチウム(本城金属株式会社)を用いた負極、並びに、1.で準備した電解液を含浸したグラスフィルター(製品名:ガラス繊維ろ紙、ワットマンジャパン株式会社製)であるセパレータを用いて、放電容量測定用のリチウム空気電池を作製した。
【0019】
3.リチウム空気電池の放電容量の測定
2.で準備した放電容量測定用のリチウム空気電池を用いて、電流密度50μA/cm
2の条件で放電を開始し、放電電圧が2.3Vに低下する時点までの容量を放電容量とした。
【0020】
[実施例2]
添加剤であるNH
4TFSIの濃度を100mmol/Lとなるように添加した以外は、実施例1と同様に実施例2の電解液を作製し、放電容量を測定した。
[実施例3]
添加剤であるNH
4TFSIの濃度を300mmol/Lとなるように添加した以外は、実施例1と同様に実施例3の電解液を作製し、放電容量を測定した。
[比較例1]
添加剤であるNH
4TFSIを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に比較例1の電解液を作製し、放電容量を測定した。
【0021】
(結果と考察)
放電容量の測定結果を
図1に示す。
図1に示すように、NH
4TFSIを添加しなかった比較例1の電解液を使用した空気電池では、放電容量が1.7mAhと少なかった。
これに対し、NH
4TFSIを添加した実施例1から3の電解液を使用した空気電池では、放電容量が比較例1の空気電池と比較して、大幅に向上した。各放電容量は、実施例1(10mmol/L)で2.4mAh、実施例2(100mmol/L)で2.9mAh、実施例3(300mmol/L)で3.1mAhであり、NH
4TFSIの添加量が100mmol/L付近で、放電容量の向上効果が飽和する傾向が認められた。
添加剤としてアンモニウム塩であるNH
4TFSIを含有する実施例1〜3の電解液を用いたリチウム空気電池では、アンモニウムイオンが配位子となってリチウムイオンを中心とする溶媒和錯体を形成して溶解しやすい状態となり、放電反応の中間体として生成したLiO
2の電解液への溶解を促進することができたため放電容量が向上したと考えられる。
【0022】
以上の結果より、添加剤としてアンモニウムビス(トリフルオロスルホニル)イミド(NH
4TFSI)を含有する本開示の非水電解液を用いたリチウム空気電池では放電容量が向上することが証明された。