【実施例1】
【0013】
図1は、スペクトラム拡散(SS: Spread Spectrum)を用いた受信機11の構成の一例を示すブロック図である。スペクトラム拡散受信機11は、例えば直接拡散(DS: Direct Sequence)によりスペクトラム拡散された送信信号を受信する。
【0014】
スペクトラム拡散受信機11のアンテナANTにより受信された受信信号は低雑音増幅回路(LNA)12に入力される。LNA12は受信信号の増幅を行い、増幅された受信信号S1はミキサ回路(MIX1)13によりRF周波数から中間周波数(IF周波数)に周波数変換が行われる。
【0015】
周波数変換後のIF信号S2はそれぞれ第1のアナログ−デジタル変換器(ADC回路)14によりアナログ−デジタル変換され、デジタル化される。なお、スペクトラム拡散受信機11において、各信号は同相信号(I信号)および直交信号(Q信号)等からなる信号として処理されてもよい。
【0016】
ADC回路14によりデジタル化されたIF信号S3は第2のミキサ回路(MIX2)15に入力され、IF周波数からベースバンド信号S4に変換される。ベースバンド信号S4はそれぞれローパスフィルタ(LPF)回路16に入力され、LPF回路16において所望の周波数チャネルの信号成分のみが抽出される。
【0017】
LPF回路16により帯域制限されて抽出された信号S5は逆拡散回路20に入力される。逆拡散回路20では相関器を用いて拡散系列(PN系列)と帯域制限後の受信信号S5との相関値を生成し、相関値を元に送信されたデータを復元する逆拡散処理を行う。逆拡散処理により生成された受信データS6、受信クロックS7は、同期ワード検出、およびユーザデータの抽出を行うパケット処理回路18に入力される。
【0018】
図2は、実施例1の逆拡散回路20の構成の一例を示すブロック図である。逆拡散回路20は、自動利得制御(AGC:Automatic Gain Control)回路30、相関器22、比較回路23、同期制御回路24、シンボルタイミング再生回路25及びデータ再生回路26を有している。
【0019】
逆拡散回路20に入力された信号S5である受信信号SAは、同相信号(I信号)SAi及び直交信号(Q信号)SAqからなり、自動利得制御(AGC)回路30により利得制御がなされる。AGC回路30によって利得制御された信号は、相関器22に供給される。相関器22は、AGC回路30からの信号と拡散系列(PN系列)との相関値を生成する。
【0020】
比較回路23は、相関器22からの相関値信号CRRと閾値との比較を行い、比較結果を表す比較信号CMPを生成する。比較回路23からの比較信号CMPは同期制御回路24に供給される。
【0021】
同期制御回路24は、相関値信号CRRが示す相関値が閾値以上であった場合、同期状態とみなして同期信号SS(例えば、"L"レベルから"H" レベルに遷移する信号)を生成する。同期信号SSは、シンボルタイミング生成回路25及びAGC回路30に供給される。
【0022】
シンボルタイミング生成回路25は、同期制御回路24からの同期信号SSおよび比較回路23からの比較信号CMPに基づいてシンボルタイミングを示すシンボルタイミング信号STおよび受信クロックCLKを生成する。
【0023】
データ再生回路26は、相関器22からの相関値信号CRR及びシンボルタイミング信号STから受信データDATAを生成する。
【0024】
図3は、相関器22の回路構成の一例を示すブロック図である。シフトレジスタ22Aは入力データ(SAi又はSAq)をチップレート周期でシフトする。なお、拡散系列が64チップ(C1〜C64)からなる場合を例に説明するがこれに限定されない。
【0025】
シフトレジスタ22Aの各段の出力は拡散系列(C1,C2,・・・,C64)のそれぞれと乗算器22Bによって乗算される。加算器22Cは、乗算器22Bからの乗算値を加算し、相関値として出力する。
【0026】
図4は、実施例1のAGC回路30の構成の一例を示すブロック図である。AGC回路30には受信信号SA(SAi,SAq)が入力され、AGC回路30は受信信号SAのビット幅(データのビット数)を変換した信号SB(SBi,SBq)を出力する。
【0027】
より詳細には、AGC回路30は、AGC回路30に入力されたmビット幅の信号SAi,SAqをnビット幅(m>n)の信号SBi,SBqに変換(すなわちビット幅を低減)して出力する。以下においては、信号SAi,SAqが10ビット幅の信号であり(m=10)、信号SBi,SBqが3ビット幅の信号である場合について説明する。しかし、ビット幅はこれに限定されず、m>nを満たすように設定することができる。
【0028】
より詳細には、乗算器32A及び32Bは、それぞれ入力信号SAi,SAqの振幅(それぞれ、I,Q)の自乗値(それぞれ、I
2,Q
2)を算出し、加算器33に供給する。加算器33は、これらの値を加算し、加算信号(I
2+Q
2)を得る。
【0029】
基準レベル算出器34は、受信信号の振幅に基づいてビット幅変換の基準レベル(リファレンスレベル)を算出する。本実施例においては、加算器33からの加算値(I
2+Q
2)に基づいて基準レベルRL0を算出する。基準レベル算出器34は、例えば除算器からなり、加算値(I
2+Q
2)を所定の固定値(例えば2
m-1、本実施例では2
10-1=512)で除算して、基準レベルRL0を算出する。
【0030】
基準レベル算出器34により算出された基準レベルRL0は、基準レベル調整器35に供給される。基準レベル調整器35は、基準レベルRL0を低減する調整(補正)を行う。具体的には、基準レベル調整器35は、例えば減算器からなり、基準レベルRL0からレジスタ36に格納された設定値(調整値)であるレベル低減値RV(固定値)を減算して調整基準レベルRLを生成する。
【0031】
なお、基準レベル調整器35は、例えば除算器又は乗算器から構成され、基準レベルRL0をレジスタ36からの出力値RV(固定値)で除算又は乗算して基準レベル(調整前の基準レベル)RL0を低減した調整基準レベルRLを生成するように構成されていてもよい。
【0032】
また、レジスタ36にはレジスタ値指定信号端子36Aが設けられ、レジスタ値指定信号RIを受信し、レジスタ値指定信号RIに基づいて出力値RVを変更できるように構成されていてもよい。従って、基準レベル調整器35は、レジスタ36からの出力値RVに基づいて、調整基準レベルRLを変更できるように構成されていてもよい。なお、レジスタ36は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)など、基準レベル調整用の値を格納できるメモリであってもよい。
【0033】
基準レベル調整器35によって算出された調整基準レベルRLは、第1のビット幅変換回路37A及び第2のビット幅変換回路37Bに供給される。第1のビット幅変換回路37A及び第2のビット幅変換回路37Bのそれぞれは、基準レベル調整器35によって得られた調整基準レベルRLを基準として、mビット幅の信号SAi,SAqをnビット幅の信号SBi,SBqに変換(ダウンコンバート)して出力する。
【0034】
図5Aは、基準レベル算出器34により算出された基準レベルRL0と、レジスタ36からの出力であるレベル低減値(RV)を基準レベルRL0から減算して得られた調整基準レベルRLとを模式的に示す図である。また、10ビット幅の信号SAi又はSAqのデータ値をドット(黒丸)で示し、信号SAi又はSAqに対応する信号を破線(図では正弦波状信号)で模式的に示している。
【0035】
図5Aに示すように、調整基準レベルRLが基準として用いられ、信号振幅の正負側を調整基準レベルRLの0.5倍、1倍、1.5倍の値(-1.5×RL,-RL,-0.5×RL, 0.5×RL,RL,1.5×RL)を境界として7つの領域に分割し、十進数で−3,−2,−1,0,1,2,3(2進数で、101, 110, 111, 000, 001, 010, 011)の値にビット幅変換がなされる。
【0036】
すなわち、信号SAi及びSAqのデータ値は、それぞれ第1のビット幅変換回路37A及び第2のビット幅変換回路37Bによって、3ビット幅の値(十進数で、-3, -2, -1, 0, 1, 2, 3)に変換される。
【0037】
図5Bは、調整基準レベルRLを基準としてビット幅変換を行った後の信号SBi又はSBqのデータ値を模式的に示している。この構成によれば、高い分解能でビット幅変換がなされることが理解される。
【0038】
ビット幅変換の分解能について、本実施例の比較例を示す
図6A及び
図6Bを参照してより詳細に以下に説明する。
図6Aは、調整前の基準レベルRL0を基準としてビット幅変換を行う場合を模式的に示す図である。基準レベルRL0を基準としている点で
図5A及び
図5Bに示した場合と異なる。この場合、7つの信号振幅の領域(十進数で、-3, -2, -1, 0, 1, 2, 3)の各幅(振幅方向の各間隔)は調整基準レベルRLを基準とした場合よりも広い。
【0039】
図6Bは、調整前の基準レベルRL0を基準としてビット幅変換を行った後の信号SBi又はSBqのデータ値を模式的に示している。
図6Aも参照すると、基準レベル調整器35によって調整(補正)が行われなかった基準レベルRL0を基準とした場合、振幅方向の分解能の低下が生じ、量子化誤差が大きくなることが理解される。
【0040】
ところで、相関器よりも後段の受信回路では3ビットで表現された信号(SBi,SBq)によって受信データ及び受信クロックが復調される。相関器を用いた復調において、振幅方向の分解能が下がる、すなわち量子化誤差が大きくなることにより、受信データとリファレンスデータ(すなわち、相関器にて受信信号と相関を取るデータ)との差が顕著となり、相関値が低下する。受信感度点のように受信レベルが低い場合には、より相関値が下がる傾向となり、相関値が相関閾値を超えず、正しく復調できなくなる。これは受信性能が低下することを意味する。したがって、ビット幅変換後の信号の分解能低下は、相関器以降の受信回路の受信性能の劣化を引き起こす要因となる。
【0041】
本実施例によれば、調整(補正)された基準レベルRLを基準としてビット幅変換を行うことによって、量子化誤差が小さく、高い分解能でビット幅変換を行うことができる。また、AGC回路において高い分解能でビット幅変換がなされた受信データが供給されることで、精度の高い復調が可能な逆拡散回路を提供することができる。
【実施例2】
【0042】
図7は、実施例2のAGC回路40の構成の一例を示すブロック図である。実施例1のAGC回路30とは、第1及び第2のレジスタ36A、36B、セレクタ41が設けられている点において異なっている。他の構成要素については実施例1と同様である。
【0043】
なお、実施例1の場合と同様に、AGC回路40は、AGC回路30に入力されたmビット幅の信号SAi,SAqをnビット幅(m>n)の信号SBi,SBqに変換して出力する。また、信号SAi,SAqが10ビット幅の信号であり(m=10)、信号SBi,SBqが3ビット幅の信号である場合について説明する。しかし、ビット幅は、これに限定されず、m>nを満たすように設定することができる。
【0044】
第1及び第2のレジスタ36A、36Bには、それぞれ第1及び第2の調整値(設定値)RV1及びRV2が格納され、セレクタ41に供給される。セレクタ41には、逆拡散回路20の同期制御回路24で得られた同期信号SS(例えば、同期時に"L"レベルから"H" レベルに遷移する信号)が同期信号受信端42から入力される。
【0045】
図8は、信号未受信(又は熱雑音受信)時から信号受信時に切り替わるときの同期信号SS及びセレクタ41の出力状態を模式的に示している。セレクタ41は、同期信号SSに応じて第1及び第2のレジスタ36A、36Bからの出力値RV1、RV2の切り替え、基準レベル調整器35に出力する。すなわち、セレクタ41は、信号未受信時には値RV1を基準レベル調整器35に出力し、信号受信時には値RV2を基準レベル調整器35に出力する。
【0046】
図9Aは、基準レベル算出器34により算出された基準レベルRL0と、同期信号SSに応じてセレクタ41からの出力値(レベル低減値)RV1、RV2が切り替わり、基準レベルRL0から減算して得られた調整基準レベルがRL1からRL2に切り替わることを上段にプロットして示している。
【0047】
信号未受信時のレベル低減値又は減算値(第1の調整値)RV1は、信号受信時のレベル低減値又は減算値(第2の調整値)RV2よりも小さく設定されている(RV1<RV2)。
図9Aの下段のプロットに示すように、信号未受信時においても、高い分解能で3ビット幅への変換がなされていることが分かる。
【0048】
図9Bは、本実施例の比較例を示しており、レベル低減値(RV0)が信号未受信(又は熱雑音受信)時及び信号受信時において不変(一定)である場合を模式的に示している(図の上段)。
【0049】
信号未受信(又は熱雑音受信)時においても信号受信時と同一の基準レベルの低減値(RV0)を用いると、そのビット幅変換時の基準レベルは非常に小さな値となり、変換後の信号分解能が低下する。
図9Bには、信号未受信時に3ビット変換後のデータの殆どが−3,0,3の3値に変換されることを示している(図の下段)。
【0050】
このような場合、復調処理(相関器の後段の受信回路)において、熱雑音受信時にも関わらず算出された相関値は相関閾値を上回り、熱雑音を所望の信号と誤って処理(信号の誤検出)される場合がある。
【0051】
本実施例においては、同期状態(同期又は非同期)に応じて異なる基準レベル(調整基準レベル)を適用し、ビット幅変換を行うように構成されている。すなわち、信号未受信(又は熱雑音受信)と信号受信時に対し、それぞれ個別の減算値(基準レベル調整値)を適用し、上記した信号の誤検出を防ぎつつ、かつ所望の信号受信時はビット幅変換後の信号分解能を高く保つことができ、受信性能の劣化を防ぐことができる。
【0052】
また、信号未受信時は調整前の基準レベルRL0が小さくなるため、調整後の基準レベルを熱雑音に対して高くすることにより、熱雑音を熱雑音として検出できる振幅分解能を確保することができる。また、信号受信時は調整前の基準レベルRL0が高くなるため、信号に対して調整後の基準レベルを低くすることで、信号処理に最適な分解能を確保することができる。
【0053】
なお、第1及び第2のレジスタ36A、36Bが設けられ、第1及び第2の調整値RV1及びRV2が格納されている場合を例に説明したが、これに限らない。例えば、複数の調整値を格納又は保持するするレジスタ(又はメモリなど)が設けられ、セレクタ41はレジスタから1つの調整値を選択し、基準レベル調整器35はセレクタ41によって選択された調整値に基づいて調整基準レベルを生成するように構成されていてもよい。
【0054】
この場合、受信信号への非同期時には、レジスタに格納された複数の調整値から第1の調整値を選択し、基準レベルから第1の調整値を減算して調整基準レベルを生成する。また、受信信号への同期時には、第1の調整値よりも大なる第2の調整値をレジスタに格納された複数の調整値から選択し、基準レベルから第2の調整値を減算して調整基準レベルを生成する。
【0055】
また、上記したように、減算器を用いて調整基準レベルを生成する場合に限られない。例えば、基準レベル調整器35は、除算器又は乗算器等の演算器から構成されていてもよい。すなわち、例えば乗算器を用いる場合、非同期時には基準レベルRL0に第1の調整値(例えば、1未満の値)を係数として乗算し、同期時には(同期に応答して)基準レベルRL0に第2の調整値(例えば、1未満の値)を係数として乗算して調整基準レベルRL1,RL2を生成するように構成してもよい。この場合、第1の調整値(非同期時)が第2の調整値(同期時)よりも小なる値として適宜設定することによって、非同期時(信号未受信時)においても、量子化誤差が小さく、高い分解能でビット幅変換を行うことができるよう構成される。
【0056】
上記したように本実施例によれば、非同期状態及び同期状態のいずれにおいても、量子化誤差が小さく、高い分解能でビット幅変換を行うことができる。また、AGC回路において高い分解能でビット幅変換がなされた受信データが供給されることで、精度の高い復調が可能な逆拡散回路を提供することができる。また、高い分解能及び精度で受信データを再生することができる再生方法を提供することができる。