【解決手段】光変調素子12を筐体11内に収容した光変調器において、該筐体11には、ワイヤボンディングにより該光変調素子12と電気的に接続される複数のリードピン14が、該筐体11の内側面に片持ち固定で配設される。これら複数のリードピン14は、その少なくとも一部のリードピンの固有振動数が他のリードピンとは異なるよう、リードピンの長さが異なる構成としてある。
前記一部のリードピンは、長さ、太さ、幅、厚さ、断面形状、材質、又は局所的に形状が変化する位置の少なくともいずれかが前記他のリードピンとは異なることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の光変調器。
【背景技術】
【0002】
光通信分野において高速光変調器を搭載した光送信装置が利用されている。近年、光送信装置の大容量化及び小型化要求が高まっている。光送信装置の大容量化に関しては、変調方式を従来の強度変調(On-Off Keying)等から、位相変調を用いたQPSKやDP−QPSK等、多値変調や更に偏波多重を取り入れた伝送フォーマットに変更することで、より伝送容量を高めた光変調器が実現されている。
【0003】
例えば、DP−QPSK変調器の場合、高周波信号(RF信号)を入力する4つのRF入力部と、これら入力信号に応じて変調を行う4つの光変調部を一つの光素子に集積することで、小型大容量の伝送を実現している。光変調素子の基板には、LiNbO
3やInP等の材料の他、最近ではSiを使ったものなどが出てきている。
【0004】
図1に例示するように、光変調器は、RF入力部の他に、光変調素子上に形成された複数の光変調部のバイアス制御のための信号入力部や、バイアス制御するために用いる電気信号を発生させるモニタPD(光検出器)の出力部として、多数のリードピンを備えている。例えば、4つのRF入力部と、4つの光変調器部と、2つのフィードバック用のモニタPDとを集積したDP−QPSK変調器には、グランドピンやNC(Not Connect)ピンを含め、18本のリードピンを備えたものがある。これらリードピンは、主にDC信号の入力又は出力に用いられる。なお、リードピンの必要最小限数が18本と言う意味ではなく、これらはDCバイアス電極やグランドピンの有無等で変わるものである。通常の場合、光変調器を製造又は使用する業界団体を通してピン数や配置などが規格化される。
【0005】
このような多数のリードピンを有する構成として、半導体LD(半導体レーザー)筐体のバタフライピンなどの多数ピン構成が汎用化されている。これらは、電気配線やボンディングパットがパターニングされたセラミックス基板を筐体に形成した穴に埋め込み、ロウ材等で固定して気密封止化される。また、外部には基板接続用のリードピンをロウ材や半田で固定し、内部では光素子とセラミック基板上の配線パターンとワイヤボンディングで電気的接続を行っている。
【0006】
このようなバタフライピン構成は、小型高精度、高密度に多ピン化形成できる利点がある。しかしながら、金属筐体とセラミック材料の熱膨張係数の差から、信頼性の問題上大型化できないこと(温度変化でセラミック基板割れや気密封止リークが発生)、製造コストが増すこと等の欠点がある。このため、比較的大型となる、LiNbO
3等を材料としたDP−QPSK変調器等にはバタフライピンは用いられていない。DP−QPSK変調器等では、バタフライピンに代わるものとして、筐体の側面を貫通する孔に挿通したリードピンをガラス封止材で固定する、比較的低コストで気密封止が可能なリードピン構成が用いられるようになっている。
【0007】
光変調器で使用されるリードピンは、DCからMHz程度の周波数成分を持った電気信号が印加され得るが、高周波RFコネクタに比べて低い周波数の電気信号が印加される。このため、設計の自由度が高く、筐体にピンを貫通させて固定するような簡易に実現できる構成が採られている。このようなリードピン構成は、半導体LD筐体のバタフライピン構成等と異なり、筐体内部でピン自身が片持ち中空状態となっており、これらリードピンに電気接続用のワイヤボンディングを直接施す構成となる。例えば、特許文献1には、筐体内部においてリードピンを片持ち中空状態にした構造の電子装置が開示されている。
【0008】
一般に、リードピンの数や間隔等は、各業界などの規格で決められる。しかしながら、光変調素子側の配線パット部は、様々な設計制約事項から、規格に則った間隔で全て設計及び形成することは極めて難しい。そこで、光変調素子の電極パッド部とリードピンとの間に中継基板を設置し、リードピンと中継基板のパッド部との接続、及び光変調素子の電極パッド部と中継基板のパッド部との接続を容易に行えるように配置するのが通例である。
【0009】
ワイヤボンディングの接続は、短い接続時間の下、接続強度を高めると共に更に接続の安定性再現性を高めるために、熱圧着しながら超音波振動を印加するのが一般的である。これら機能は、多くのワイヤボンディング装置に導入されている。例えば、特許文献2には、キャピラリの加振周波数をワイヤの固有振動数とは異なる周波数に設定するワイヤボンディング装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ワイヤボンディング(多くの場合、金線)の接続強度は、光変調器や光送信装置の組立、輸送、設置、運用に際して生じ得る外的な故障原因に対して十分な接続信頼性を持った強度となるようにする必要がある。そこで、ボンディング接続するリードピンと同一材料・同一設計のボンディング接続条件出し用の冶具等を事前に製作し、ワイヤボンディングの条件(加熱温度、印加パワー、印加時間、印加重量等)を決めておくことが行われる。
また一般的に、ワイヤボンディングの接続強度の向上、接続強度安定化及び再現性の向上などのために、ワイヤの熱圧着の他に、超音波振動の印加が行われる。印加する超音波の周波数は装置種や装置メーカーによって異なるが、およそ30kHz〜200kHz程度である。
【0012】
ワイヤボンディングの条件は、接続強度の分布を加味して、ボンディングされたワイヤの接続強度が最低限必要とされる限界接続強度(g
min)に対して十分な裕度を持った値となるように設定される。例えば、光変調器に求められる限界接続強度g
minを2gとした場合、平均接続強度g
0を2gの3倍で6g、接続強度分布を考慮した設計安全裕度を2gの2倍で4g、となるように条件を設定する。
これら条件は、金線ワイヤの直径、被ボンディング物の材料や表面状態、光変調器が適応される環境(通信基地局内、屋外、航空機内、ロケット内、衛星内)、及び適応信頼性規格等の各種要因によって適宜変わる。
【0013】
十分な裕度を持った条件が定まった後は、ボンディングするリードピンの材料や形状、筐体固定構成、使用機器などが同一であれば、異なる設計の筐体において同じ条件でワイヤボンディングを行っても、十分な接続信頼性を持った接続が可能である。但し、ワイヤボンディング装置がメンテナンスされ、日常点検され、装置故障等の要因が除かれることを前提とする。
【0014】
このような中、既存のDP−QPSK変調器においても更に小型化及び大容量化する要請が強くある。このため、RF入力部を従来のプッシュオン型のコネクタからFPC(Flexible Printed Circuits)等に変える、偏波合成部の小型化を図る、光変調素子自身の小型化を図る、などの様々な工夫を取り入れて、筐体を更に小型化する検討が進んでいる。
【0015】
ところが、このような小型のDP−QPSK変調器等において、従来は十分な接続信頼性が得られ且つ量産実績も多く積んだワイヤボンディングを用いるにあたり、限界接続強度を下回るボンディングが発生する場合があることが分かってきた。このようなボンディング不良は、ボンディングするリードピンの材料や形状、筐体固定構成、使用機器などが同一で、ボンディング条件も同一にしてワイヤボンディングを行ったにも拘わらず、発生する場合がある。
【0016】
限界接続強度を下回るボンディングがあると、リードピンからワイヤが剥がれる事象(ワイヤ剥がれ)を発生させる可能性がある。光通信システムの運用中にワイヤ剥がれが発生すると、その運用が一気に停止する破局故障に繋がる重大故障となるなど、大きな影響が出てしまう。
また今後、複数のDP−QPSK変調素子を一つの筐体に集積化させて伝送容量を増やす試みも進んでいる。これに伴って、光変調器に設けるリードピンの数が更に増えるので、接続信頼性の確保はより重要な課題となる。
【0017】
限界接続強度を下回るボンディングは、ワイヤボンディング装置の故障や、ボンディングするリードピン自身の接続表面状態等の異常が原因で発生しているのではないことが分かっている。また、単独のリードピンに対する接続強度は従来通りの強度が得られることも分かっている。しかしながら、何故このような問題が発生するのかは不明であった。
このような現象は、従来の光変調器には見られず、新たに顕在化してきており、光通信の根幹を成す光変調器の信頼性を低下させかねない重大な問題となっている。
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、筐体の内側面に片持ち固定される多数のリードピンを有する光変調器において、リードピンに対するワイヤボンディングの接続強度の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は、以下のような技術的特徴を有する。
(1) 光変調素子を筐体内に収容した光変調器において、該筐体には、ワイヤボンディングにより該光変調素子と電気的に接続される複数のリードピンが、該筐体の内側面に片持ち固定で配設されており、前記複数のリードピンのうちの少なくとも一部のリードピンの固有振動数が他のリードピンとは異なることを特徴とする。
【0020】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、前記複数のリードピンは、略等間隔に配置されており、少なくとも隣接するリードピン間で固有振動数が異なることを特徴とする。
【0021】
(3) 上記(1)に記載の光変調器において、前記複数のリードピンは、配置が連続する複数本をまとめてユニット化され、各ユニットの間隔は、ユニット内のリードピンの間隔よりも大きく、少なくとも一部のユニット内のリードピンの固有振動数が他のユニット内のリードピンの固有振動数とは異なる、または、各ユニット内の少なくとも一部のリードピンの固有振動数が該ユニット内の他のリードピンの固有振動数とは異なることを特徴とする。
【0022】
(4) 上記(1)〜(3)のいずれかに記載の光変調器において、前記一部のリードピンは、長さ、太さ、幅、厚さ、断面形状、材質、又は局所的に形状が変化する位置の少なくともいずれかが前記他のリードピンとは異なることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、リードピンへのワイヤボンディング中に生じる振動による他のリードピン(特に、ワイヤボンディング済みのリードピン)の共振を低減できるので、リードピンに対するワイヤボンディングの接続強度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る光変調器及び該光変調器を搭載した光送信装置について説明する。なお、以下の実施形態で示す例によって本発明が限定されるものではない。
【0026】
先ず、従来例の概要について図面を用いながら説明する。
図1は、従来のDP−QPSK変調器の構成例を示す上面図である。同図のDP−QPSK光変調器は、光素子基板に光導波路を形成した光変調素子12と、該光変調素子で変調された光波を合成する偏波合成部13とを筐体11内に実装した構造となっている。なお、光変調に用いる電極や偏波合成用の光学部品、筐体内のRF入力信号線などは図示を省略してある。光導波路を形成する光素子基板としては、LiNbO
3を用いた基板の他、LiTaO
3、InP、Si等を用いた基板が用いられる。
【0027】
DP−QPSK変調器の場合、4つのサブマッハツェンダ光導波路が光素子基板に形成されており、これらサブマッハツェンダ光導波路それぞれに変調信号を印加するための4つの高周波信号電極(不図示)が形成される。これに対応して、サブマッハツェンダ光導波路の各々に対するバイアス点調整用DCリードピンやバイアス点検出用のPD信号用リードピン等のように、多数のリードピンが必要であり、筐体側面から各リードピンが導出される構成となる。
【0028】
リードピンの間隔は規格で決められる場合が多く、通常は一定の間隔でリードピンが並べられる。しかしながら、光変調素子側の電極パッドは、様々な設計要因や制約事項からリードピンの間隔と同一間隔で同じ位置に設計することは非常に難しい。そこで、
図1に示すように、光変調素子12の電極パッド部とリードピン14との間を中継する中継基板15を設置することが通常行われている。なお、図示を省略するが、生産の効率が高められるように、中継基板15には、リードピン14に対するパッド部と、光変調素子12の電極パッド部に対するパッド部とが対向近接するよう設計される。これは、信頼性が担保される範囲内で、ワイヤボンディング長をできるだけ短く、且つできるだけ同一形状でボンディングできるようにするためである。
【0029】
図2は、リードピンに対するワイヤボンディングを説明する図である。
筐体11を貫通したリードピン14は、気密封止と電気的絶縁を兼ね備えた固定方法として、ガラス封止材で筐体11に固定されている。この状態のリードピン14は、片端だけを固定した構成(以下「片持ち構成」という)になっており、先端近傍に電気的接続用のワイヤ16のボンディングが行われる。
ワイヤボンディングにはボールボンディングやウェッジボンディング等の種類があるが、いずれも、加熱下の状態で圧力と超音波の印加が行われる。この超音波熱圧着作用で、接続強度を確保すると共に、接続の再現性や接続強度のバラツキを抑えたワイヤボンディングが行われる。
【0030】
片持ち構成のリードピンへのワイヤボンディングを行う際も同様である。一見すると、片持ち構成のリードピンの場合、その先端(筐体に固定されていない側の端部)へのワイヤボンディングは不安定のような印象がある。しかしながら、ボンディングの条件(温度、超音波パワー、圧着圧、時間、ワイヤ材料、ワイヤ径等)を適切に選択することで、基板上に形成された接続パッド等へのワイヤボンディングと同等の良好なボンディングが可能である。
良好なボンディングは、ワイヤボンディングを行っている間、ワイヤボンディング装置の超音波によってリードピンが共振していない状態となる場合、若しくはボンディング部と筐体固定部を両固定端とした共振状態となる場合に主に得られることが分かってきた。
【0031】
図2は、ボンディング部と筐体固定部を両固定端とした共振状態のうち、最も周波数が低い、言い換えれば共振波長が最も長い共振状態を示している。すなわち、リードピン14の筐体内に突出する部分の長さをLとしたときに、共振波長λ=2Lとなる場合であり、ワイヤボンディング装置50のボンディングツールがリードピン14に接触する部分が固定端として作用している。
図2の状態は、リードピンが共振していてもボンディング部の振動が少ない状態であり、従来のワイヤボンディングによる熱圧着と超音波による接続で、十分な接続信頼度を得ることが可能である。
図3は、
図2と同じ固定端による共振状態において、
図2の共振よりも周波数が一段階高い高調波周波数(言い換えれば高調波波長)における共振状態を示している。このように、同じリードピン構成で同じ共振モードであっても、その共振周波数は高調波成分を加味すると多数の共振周波数を持つことが理解できる。
【0032】
共振モードとしては、
図2や
図3のような、筐体底面に対して上下方向の共振モードだけでなく、筐体底面に対して左右方向の共振モードもあり得る。リードピンの断面形状が円形の場合には、上下共振モードと左右共振モードの周波数は略一致する。しかしながら、平ピンのように断面形状が長方形、台形、三角形、楕円形などの場合には、上下共振モードと左右共振モードの基本共振周波数は異なり、それぞれの高調波共振周波数も異なることになる。更に、断面形状が長方形の場合、
図4に示すように、断面方向の共振モードも発生し得るので、結果として多数の共振モードと多数の高調波共振周波数が発生し得ることとなる。
【0033】
図5は、上述した様々な共振等による振動エネルギーが、ワイヤボンディング中のリードピンが固定された筐体の側面を通して他のリードピンに伝搬し、これら他のリードピンを振動させる様子を示す図である。振動伝搬先のリードピンが伝搬された振動エネルギーを得て共振的に振動した場合、そのリードピンの振動幅は最大化され得る。
【0034】
もしも振動伝搬先のリードピンに既にワイヤボンディングが施されていた場合、リードピンの共振によって、そのボンディング部は激しく振動することになり得る。通常は、多少の振動や衝撃が加わったとしても十分な接続強度を維持するように、限界接続強度に対して十分な設計裕度を持った接続強度となる条件でボンディングされている。このため、リードピンに上記のような振動が加わっても、直ちに接続信頼性を損なうとは考えにくい。
【0035】
しかしながら、振動が他の多数のリードピンから断続的に印加される場合、更にその振動エネルギーがあまり減衰せずに伝搬した場合には、本来持っていた接続強度が低下することがあり得る。近年では、筐体小型化の流れから、ピン間隔が近くなり、又はピン形成ユニット間隔が近くなっており、振動エネルギーがあまり減衰せずに他のリードピンに伝搬し易くなっている。
【0036】
図6は、ワイヤの接続強度が振動の伝搬により低下することによって、接続強度のバラツキが大きくなり得ることを表すグラフである。
図6のグラフにおいて、横軸はワイヤの接続強度、縦軸はその出現頻度であり、本来持っていた接続強度の分布を実線曲線で示すと共に、振動の伝搬により低下した接続強度の分布を破線曲線で示している。また、g
0は本来持っていた接続強度の平均値であり、g
1は振動の伝搬により低下した接続強度の平均値であり、g
minはボンディングされたワイヤの接続強度が最低限必要とされる限界接続強度であり、Mは限界接続強度g
minに対する設計裕度である。
図6に示すように、本来持っていた平均接続強度g
0は振動の伝搬により平均接続強度g
1に低下すると共に、接続強度の分布も広がりが大きくなる。したがって、本来は限界接続強度g
minに対して十分な接続強度を持っていたが、統計的な接続強度の分布の中には限界接続強度g
minを下回るものが発生し得る。
【0037】
これが、ワイヤボンディングするリードピンの材料や形状、筐体固定構成、使用機器などが同一であり、ボンディング条件も同一にしてワイヤボンディングを行ったにも拘わらず、限界接続強度を下回るボンディングが発生するメカニズムであると考えられる。
すなわち、上記の各種要件を同じにしたワイヤボンディングであっても、筐体が小型化され、またピン間隔やピン形成ユニット間隔が変わると、既設ボンディングの接続強度が振動の伝搬によって変化し得るということである。
【0038】
図7には、参考として、半導体LD筐体のバタフライピン構成の一例を示してある。同図の半導体LD筐体60も多数のリードピン63を有した小型筐体であるが、ボンディング接続部となる筐体内部のパッド部61はセラミック基板62上にパターニングされており、リードピン63は筐体外部だけにしか存在しない。内部のワイヤボンディングはセラミック基板62上のパッド部61に接続されるので、上記のような共振は発生せず、限界強度を下回るワイヤボンディングとなる問題は発生しない。
なお、
図7のような、筐体内部に設けたセラミック基板上にパッド部(ボンディング接続部)を形成する構成は、熱膨張係数差による信頼性やコスト等の面から、DP−QPSK変調器のような光素子には利用されていない。
【0039】
ここで、リードピンの縦振動に関する固有振動数f(Hz)は、下記(式1)より算出できる。なお、λは境界条件と振動モードより定まる定数であり、Lはリードピンの長さであり、Eはリードピンの材料の縦弾性係数(ヤング率)であり、ρはリードピンの材料の単位体積あたりの質量である。
f=λ/2πL・√(E/ρ) ・・・(式1)
例えば、Fe(E=200×10
9 N/m
2、ρ=7.83×10
6 kg/m
3)を材料とし、正方形(0.35mm幅)の断面形状で、長さ0.8×10
-3 mmのリードピンを用いる場合には、50kHz、150kHz、250kHz等の縦振動が発生する。また、同様な条件で長さ1.7×10
-3 mmのリードピンを用いる場合には、23.5kHz、70.6kHz、117.6kHz等の縦振動が発生する。ワイヤボンディング装置で印加される振動周波数は30kHz〜200kHzであり、リードピンの固有振動数が含まれる。このため、ワイヤボンディング装置による超音波の印加によってリードピンの共振が誘発されて、接続強度が限界接続強度g
minを下回るボンディング不良が発生する可能性があることが分かる。
【0040】
本発明では、上記のような問題を解決すべく、光変調器を以下のように構成した。
すなわち、例えば
図8〜
図14に示すように、光変調素子12を筐体11内に収容した光変調器において、該筐体11には、ワイヤボンディングにより該光変調素子12と電気的に接続される複数のリードピン14が、該筐体11の内側面に片持ち固定で配設される。これら複数のリードピン14は、その少なくとも一部のリードピン14の固有振動数が他のリードピン14とは異なるよう構成される。
以下、本発明に係る光変調器について、実施例を挙げて説明する。
【0041】
(第1実施例)
図8は、本発明の第1実施例に係るリードピン構造を示す図である。ここでは、Fe−Ni−Co合金を材料としたピン幅0.35mmのリードピンを1.27mm間隔で配列してあることとする。
第1実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、筐体内ピン長(リードピン14の筐体内に突出する部分の長さ)を全てのリードピンで異なる長さに設定してある。すなわち、各リードピンの筐体内ピン長に由来する固有振動数が異なるように構成している。このような構成にすると、ワイヤボンディングの実施により発生する共振周波数や振動の状態がピン毎に異なるので、ボンディング済みのリードピンに他のリードピンからの振動エネルギーが伝搬されたとしても、共振が起こり難くなる。本構成によれば、リードピンの種類が増える、筐体製造工数が増える等のデメリットはあるものの、振動伝搬によるワイヤボンディングの接続強度低下に対して非常に高い効果を発揮する。
ここで、
図8のように、各リードピンの筐体内ピン長が、リードピンの並びに沿って所定幅ずつ変化(増加又は減少)していく構造の場合には、これに対応する形状に中継基板15を形成してもよい。すなわち、リードピンの先端部分と中継基板上の対向するパッド部との間隔が各リードピンで一定になるように、例えば台形形状の中継基板を用いてもよい。これにより、各リードピンのボンディング長を一定にすることができる。
【0042】
(第2実施例)
図9は、本発明の第2実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第2実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、隣接するリードピン14間で筐体内ピン長を異ならせてある。この場合、全てのリードピンの筐体内ピン長を変える第1実施例とは異なり、必要となるリードピンの種類は2種類で済む。本構成によれば、振動の影響が最も大きくなる最近接のリードピン間で共振周波数(固有振動数)が異なるので、振動伝搬によるワイヤボンディングの接続強度低下に対して非常に高い効果を発揮する。
なお、第1実施例(
図8)は筐体内ピン長が全て異なる例、第2実施例(
図9)は筐体内ピン長が交互に異なる例であるが、複数あるリードピンのうちの少なくとも一部のリードピンで筐体内ピン長が他と異なれば同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0043】
(第3実施例)
図10は、本発明の第3実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第3実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、各リードピン14の幅又は太さを異ならせてある。リードピンの固有振動数は、リードピンの長さを変えるだけでなく、幅や太さを変えることでも各リードピンで異なる値にすることができる。一般的には、リードピンの長さが一定であれば、リードピンの幅が広く(或いはリードピンが太く)なると固有振動数は高くなり、逆にリードピンの幅が狭く(或いはリードピンが細く)なると固有振動数は低くなる。このため、各リードピンの幅や太さを変えることでも、共振周波数の分散や調整を行うことができる。なお、図示を省略するが、各リードピンの厚さを変えてもよく、これによっても共振周波数の分散や調整を行うことができる。
【0044】
(第4実施例)
図11は、本発明の第4実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第4実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、少なくとも隣接するリードピン14間で材質を異ならせてある。このような構成でも、リードピンの固有振動数の分散や調整を行うことができる。リードピンの材料としては、例えば、真鍮、Fe−Ni−Co合金などの材料が用いられ、それぞれの金属が持つ密度や弾性係数は異なるので、同じ形状設計のリードピンでも固有振動数は異なる。また、同じFe−Ni−Co合金を用いたリードピンでも、合金中のFeやNiなどの配合比率が異なれば、リードピンの固有振動数は変化する。すなわち、同じ複合材料のリードピンであっても、各材料の配合比率を異ならせることで、リードピンの固有振動数を変えることが可能である。
【0045】
(第5実施例)
図12は、本発明の第5実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第5実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、各リードピン14の少なくとも一部を局所的に形状が変化するように加工してある。リードピンに対する加工は、切削やエッチング等の手法によって比較的容易に行うことができる。このような加工によってリードピンの固有振動数は変化し、ボンディング中に発生する振動の影響を低減させることができる。この場合、リードピンに施す加工の位置(局所的に形状が変化する位置)を少なくとも一部のリードピンで異ならせることで、そのリードピンの固有振動数を変えることができるので、より有効である。
なお、第5実施例(
図12)では、全てのリードピンに加工を施した例を示したが、加工したリードピンと未加工のリードピンとを混在させてもよいことは言うまでもない。
【0046】
(第6実施例)
図13は、本発明の第6実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第6実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、一部のリードピン14の先端部を、ボンディング有効エリアが拡大するよう加工してある。先端部を加工したリードピンは、未加工のリードピンと比べてリードピンの慣性モーメントや超音波ボンディングした際の振動伝搬状況が変化するので、リードピンの共振周波数を変化させることができる。このような加工は、加圧変形等で容易に実現することができ、加圧の大きさによってピン先端部の形状を容易に変えることができるので、共振周波数をより有効に分散でき且つ安価な製造コストで実現できる。
なお、第6実施例(
図13)では、先端部を加工したリードピンと未加工のリードピンとを交互に配置した例を示したが、全てのリードピンに加工を施してもよく、その場合には少なくとも隣接するリードピン間で加工の程度を異ならせればよい。
【0047】
(第7実施例)
図14は、本発明の第7実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第7実施例では、筐体11の内側面に複数のリードピン14を片持ち固定する構成において、各リードピン14の先端側に幅や太さを変えた部分を設け、その部分の長さを少なくとも隣接するリードピン14間で異ならせてある。このように、リードピンを加工して固有振動数(共振周波数)を変え、その加工長を更に変えることで固有振動数の変化幅をより広範囲にとることが可能なので、振動伝搬によるワイヤボンディングの接続強度低下に対してより有効である。
【0048】
なお、上述した各実施例では、リードピンの断面形状が円形や長方形のものを例にして説明しているが、これら形状に限定されるものではなく、
図14の破線枠内に他の例を示すように種々の形状(例えば、台形、楕円形、三角形)とすることができる。また、リードピンの断面形状によっても固有振動数は変化するので、それぞれの断面形状が異なるリードピンを用いるようにしてもよい。
【0049】
また、上述した各実施例では、リードピンの長さ、太さ、幅、厚さ、断面形状、材質、又は局所的に形状が変化する位置の少なくともいずれかを調整することで、一部のリードピンと他のリードピンとで固有振動数を異ならせている。なお、これらは例示に過ぎず、他の手法によってリードピンの固有振動数を調整してもよい。
また、全てのリードピンで固有振動数を異ならせることが理想であるが、一部のリードピンと他のリードピンとで固有振動数を異ならせるだけでも、ワイヤボンディングの接続強度低下を抑制する効果がある。但し、全てのリードピンについてワイヤボンディングの接続強度低下の抑制効果を得るという観点では、少なくとも隣接するリードピン間で固有振動数を異ならせることが好ましい。
【0050】
また、上述した各実施例では、各リードピンを等間隔(1.27mm間隔)に配列した構造としているが、各リードピンの配置は略等間隔でも構わない。なお、略等間隔とは、各々の間隔の相違が所定の範囲(例えば、ワイヤボンディングに支障の無い範囲)に収まることを言う。
また、全てのリードピンが略等間隔である必要はなく、一部のリードピン間の間隔が広くてもよい。この場合、離れたリードピン間では振動があまり伝搬しないので、それらリードピンの固有振動数を異ならせるよりも、近接したリードピン間で固有振動数を異ならせる方が好ましい。
また、リードピンの間隔がより狭くなるほど振動の伝搬強度が増大することが推定されるため、より細密にリードピンを配置する構造の光変調器ほど、本発明の適用が有効となる。
【0051】
ここで、上述した各実施例は、個別のリードピンに対して共振対策を施した構成であったが、製造容易性や生産コストと要求信頼性のバランスから、より簡易な構成でワイヤボンディングの接続強度低下を抑制する手法も望まれている。
複数のリードピンを配設する構成としては、各リードピンの全てを略等間隔に配設する構成と、リードピンを複数本ずつまとめてユニット化し、複数のユニットをユニット内のリードピン間隔よりも広い間隔で配設する構成とがある。リードピンのユニットとしては、例えば、複数本のリードピンを配列した状態でガラス封止して一体化した構造が用いられる。
図1の従来例では、後者のユニット化したピン構成を例示した(
図7のバタフライピン構成は前者の例)が、各リードピンの筐体内ピン長は全て同じ長さであった。
以下では、リードピンをユニット化して用いる構成に対する共振対策について、実施例を挙げて説明する。
【0052】
(第8実施例)
図15は、本発明の第8実施例に係るリードピン構造を示す図である。なお、
図15(及び
図16〜
図17)では、筐体とリードピンのみを図示し、他の構成要素は省略してある。
第8実施例では、筐体11の内側面に片持ち固定で取り付けるリードピン14を複数本ずつまとめたユニットを複数並べて配置する構成において、少なくとも一部のユニットの筐体内ピン長を他のユニットとは異なる長さに設定してある。具体的には、左側のユニットの筐体内ピン長をL1、中央のユニットの筐体内ピン長をL2、右側のユニットの筐体内ピン長をL3とした場合に、L1>L3>L2となるように設定してある。
【0053】
このように、配置が連続する複数本のリードピンをユニット化して扱うことで、筐体にリードピンを配設する作業が簡略化され、製造容易性が高められる。また、リードピンの固有振動数(共振周波数)をユニット間で異ならせることができるので、個別のリードピンの共振周波数を変える場合の接続強度低下の抑制効果ほど高くないものの、他のユニットからの振動に対する接続強度低下の抑制効果を持たせることができる。
【0054】
第8実施例の構成は、限界接続強度に対する設計裕度が高い場合で製造容易性も確保したい場合などに有効である。なお、本実施例では、ユニット数を3個とし、各ユニットの筐体内ピン長を全て異なる長さにした例を示したが、ユニット数は3個に限定されるものではなく、また、全てのユニットで筐体内ピン長を変える必要はない。少なくとも1つのユニットの筐体内ピン長を他のユニットと異ならせるだけでも効果が得られるが、少なくとも隣接するユニット間で筐体内ピン長を異ならせることが好ましい。すなわち、例えば、L1=L3>L2となるように構成してもよい。
【0055】
(第9実施例)
図16は、本発明の第9実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第9実施例では、筐体11の内側面に片持ち固定で取り付けるリードピン14を複数本ずつまとめたユニットを複数並べて配置する構成において、ユニット内の少なくとも一部のリードピンの筐体内ピン長を該ユニット内の他のリードピンと異ならせている。具体的には、6本のリードピンで各ユニットを構成し、ユニット内の左側3本のリードピンの筐体内ピン長をL1、右側3本の筐体内ピン長をL2とした場合に、L1>L2となるように設定してある。これにより、ユニット内に固有振動数が異なるリードピンが混在することになる。
【0056】
このような構成では、各ユニットを全て同じ設計で製造し、組み立てることが可能であり、製造容易性やコストの面で有利である。このとき、各ユニット間で隣接するリードピン同士(例えば、左側ユニットの右端リードピンと右側ユニットの左端リードピン)で筐体内ピン長を異なる長さにすると、より効果的である。
【0057】
ここで、第8〜第9実施例では、ユニット間又はユニット内でリードピンの固有振動数を異ならせるために、リードピンの長さを調整する例を示した。なお、これらは一例に過ぎず、第1〜第7実施例で挙げたような他の種々の手法により、ユニット間又はユニット内でリードピンの固有振動数を異ならせることができる。
【0058】
(第10実施例)
図17は、本発明の第10実施例に係るリードピン構造を示す図である。
第10実施例では、筐体11の内側面に片持ち固定で取り付けるリードピン14を複数本ずつまとめたユニットを複数並べて配置する構成において、各リードピンの筐体内ピン長をユニット間の間隔より短くしてある。言い換えれば、ユニット間の間隔を各リードピンの筐体内ピン長よりも大きくしてある。具体的には、3つのユニットを並べて配設する構造で、筐体内ピン長をL4、左側ユニットと中央ユニット間の間隔をL5、中央ユニットと右側ユニットとの間隔をL6とした場合に、L4<L5、L4<L6となるように設定してある。なお、L5=L6でも構わない。
【0059】
ワイヤボンディング中のリードピンで発生した振動は、筐体側面を介して他のリードピンに伝搬して影響を及ぼす。このとき、振動はリードピンの固定端(筐体との接続部)を点波源として略2次元的に広がりながら伝搬する。このため、振動エネルギーの伝搬の影響は、リードピンとの距離の2乗に比例して減衰していくことになる。リードピンの数が少なかったり、リードピンの間隔やユニットの間隔が広い筐体では、限界接続強度が条件だしに比べて下回る現象が顕在しなかったのは、振動エネルギー自身の減衰が大きく寄与していたと推定できる。
【0060】
また、ワイヤボンディング中のリードピンで発生した振動は、リードピンが固定された筐体側面を伝搬する際に、材料の密度や弾性係数の他、構造的な違いから、波長が短く(周波数が高く)なって伝搬していく。これは、細くて長い片持ち固定構造のリードピンは振動し易いのに対し、これに比べて筐体は厚くて大きいので、実効的に無限遠両固定端と見なせるからである。
【0061】
よって、振動波長より長い間隔で各ユニットを設置する、すなわち、ユニット間隔より短い共振波長になるよう筐体内ピン長を設定すれば、振動エネルギーが距離の2乗で減衰する効果を有効に利用することができる。これにより、ワイヤボンディングの接続強度低下を抑制することが可能である。
本構成は、筐体内ピン長を短く設計できる場合や、各ユニット間の間隔を広く設計できる場合などにおいて、各ユニットを同じ設計で製造及び組立を行うことが可能であり、特に有効である。
なお、第10実施例の構成に、第1〜第9実施例で挙げた構成を組み合わせてもよく、これにより、ワイヤボンディングの接続強度低下をより効果的に抑制できる。
【0062】
図18は、本発明に係る光変調器を搭載した光送信装置の構成例を示すブロック図である。光送信装置は、光変調器10の他、光源20と、データ生成部30と、ドライバ40などを備える。光変調器10としては、上記の各実施例で説明したリードピン構造のものが使用される。
データ生成部30は、光送信装置で送信する信号データを生成してドライバ40に入力する。ドライバ40は、入力された信号データを増幅し、信号データに応じた波形の高周波信号を生成する。ドライバ40によって生成された高周波信号は、外部回路基板を経由して光変調器10のRF入力部に入力される。
【0063】
光変調器10は、RF入力部の他、光変調素子上に形成された複数の光変調部のバイアス制御のための信号入力部や、バイアス制御するために用いる電気信号を発生させるモニタPD(光検出器)の出力部として、多数のリードピンを備えている。例えば、4つのRF入力部と、4つの光変調器部と、2つフィードバック用のモニタPDとを集積したDP−QPSK変調器には、グランドピンやNCピンを含め、18本のリードピンを備えたものがある。各々のリードピンは、光送信装置内に設置されたバイアス制御回路等に半田等を用いて固定、接続され、DC電圧や低周波電気信号が印加される。各リードピンは、光送信装置の伝送特性が良好で安定的に運用できるように設定される。
【0064】
以上のように、本発明によれば、比較的低コストで気密封止が可能なリードピン構成の光変調器を用いる場合であっても、小型及び高信頼性の光変調器を提供することができる。また、本発明に係る光変調器を光送信装置に搭載することで、高信頼性の光送信装置を提供することができる。
【0065】
ここで、上記の各実施例では、光変調素子の基板にLNを用いたが、他の材料基板を用いてもよい。また、上記の各実施例では、高周波信号電極が4つの場合を例に説明したが、この数に限定されるものではない。
また、具体的に図示して説明することを省略するが、各実施例で挙げた構成の幾つかを組み合わせた構成としてもよいことは言うまでもない。