(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-125712(P2018-125712A)
(43)【公開日】2018年8月9日
(54)【発明の名称】送信機及び信号生成方法
(51)【国際特許分類】
H04B 1/04 20060101AFI20180713BHJP
H03D 7/00 20060101ALI20180713BHJP
【FI】
H04B1/04 R
H04B1/04 F
H03D7/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-16588(P2017-16588)
(22)【出願日】2017年2月1日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、「テラヘルツ波デバイス基盤技術の研究開発−300GHz帯シリコン半導体CMOSトランシーバ技術−」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100109449
【弁理士】
【氏名又は名称】毛受 隆典
(72)【発明者】
【氏名】高野 恭弥
【テーマコード(参考)】
5K060
【Fターム(参考)】
5K060BB05
5K060CC04
5K060HH09
5K060HH15
5K060HH22
5K060KK03
(57)【要約】
【課題】低損失で不要信号を除去することができる送信機及び信号生成方法を提供する。
【解決手段】送信機は、所定の周波数帯域を有するIF信号と局部発振信号であるLO信号とを加算する第1加算部21と、第1加算部21の出力信号を逓倍する第1逓倍部25と、IF信号の逆位相の信号とLO信号とを加算する第2加算部22と、第2加算部22の出力信号を逓倍する第2逓倍部26と、第1逓倍部25で逓倍された信号から、第2逓倍部26で逓倍された信号を減算する減算部27と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数帯域を有する入力信号と局部発振信号とを加算して出力する第1加算部と、
前記第1加算部の出力信号を逓倍する第1逓倍部と、
前記入力信号の逆位相の信号と前記局部発振信号とを加算して出力する第2加算部と、
前記第2加算部の出力信号を逓倍する第2逓倍部と、
前記第1逓倍部で逓倍された信号から、前記第2逓倍部で逓倍された信号を減算する減算部と、
を備える送信機。
【請求項2】
前記第1逓倍部及び前記第2逓倍部は、
前記入力信号を2逓倍する2逓倍器を備える、
請求項1に記載の送信機。
【請求項3】
前記入力信号は、
ベースバンド信号と前記局部発振信号とを混合して得られる中間周波数信号である、
請求項1又は2に記載の送信機。
【請求項4】
前記第1加算部の後段に接続され、前記第1加算部の出力信号を増幅させて前記第1逓倍部に入力する第1増幅部と、
前記第2加算部の後段に接続され、前記第2加算部の出力信号を増幅させて前記第2逓倍部に入力する第2増幅部と、を備え、
前記第1増幅部の増幅率は、前記第2増幅部の増幅率に等しい、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の送信機。
【請求項5】
所定の周波数帯域を有する入力信号に局部発振信号を加算する第1加算ステップと、
前記第1加算ステップで加算された信号を逓倍する第1逓倍ステップと、
前記入力信号の逆位相の信号に前記局部発振信号を加算する第2加算ステップと、
前記第2加算ステップで加算された信号を逓倍する第2逓倍ステップと、
前記第1逓倍ステップで逓倍された信号から、前記第2逓倍ステップで逓倍された信号を減算する減算ステップと、
を含む信号生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信機及び信号生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、変調信号と搬送信号である局部発振信号とを混合して得られた中間周波数信号を、高調波周波数混合器、周波数逓倍器等によって変換し、高周波の送信信号を生成する送信機が開発されている。このような送信機では、高周波の送信信号を生成する際に、送信信号以外の不要信号が生じる。不要信号の除去は、一般的に、帯域通過瀘波器を用いて行われる(例えば、非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】K.Katayama, et al. , “A 300 GHz CMOS Transmitter With 32-QAM 17.5 Gb/s/ch Capability Over Six Channels”, IEEE Journal of Solid-State Circuits , vol.51 , no.12 , p. 3037-3048 , Dec. 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1のように帯域通過瀘波器を用いる場合、帯域通過濾波器には、信号雑音比の高い高品質な信号を得るために、急峻な遮断周波数特性を有することが求められる。しかしながら、高い周波数帯域では、急峻な遮断周波数特性を持つ帯域通過瀘波器を低損失で実現することは困難である。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、低損失で不要信号を除去することができる送信機及び信号生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る送信機は、
所定の周波数帯域を有する入力信号と局部発振信号とを加算して出力する第1加算部と、
前記第1加算部の出力信号を逓倍する第1逓倍部と、
前記入力信号の逆位相の信号と前記局部発振信号とを加算して出力する第2加算部と、
前記第2加算部の出力信号を逓倍する第2逓倍部と、
前記第1逓倍部で逓倍された信号から、前記第2逓倍部で逓倍された信号を減算する減算部と、
を備える。
【0007】
また、前記第1逓倍部及び前記第2逓倍部は、
前記入力信号を2逓倍する2逓倍器を備える、
こととしてもよい。
【0008】
また、前記入力信号は、
ベースバンド信号と前記局部発振信号とを混合して得られる中間周波数信号である、
こととしてもよい。
【0009】
また、前記第1加算部の後段に接続され、前記第1加算部の出力信号を増幅させて前記第1逓倍部に入力する第1増幅部と、
前記第2加算部の後段に接続され、前記第2加算部の出力信号を増幅させて前記第2逓倍部に入力する第2増幅部と、を備え、
前記第1増幅部の増幅率は、前記第2増幅部の増幅率に等しい、
こととしてもよい。
【0010】
また、本発明の第2の観点に係る信号生成方法は、
所定の周波数帯域を有する入力信号に局部発振信号を加算する第1加算ステップと、
前記第1加算ステップで加算された信号を逓倍する第1逓倍ステップと、
前記入力信号の逆位相の信号に前記局部発振信号を加算する第2加算ステップと、
前記第2加算ステップで加算された信号を逓倍する第2逓倍ステップと、
前記第1逓倍ステップで逓倍された信号から、前記第2逓倍ステップで逓倍された信号を減算する減算ステップと、
を含む。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、入力信号と局部発振信号との混合信号の高調波信号から、帯域通過瀘波器を用いることなく、不要波を除去できるので、低損失の高調波信号を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態に係る送信機のブロック図である。
【
図2】周波数混合部の構成を示すブロック図である。
【
図4】IF信号のアップコンバートに係る信号の出力電力スペクトルを示す概念図である。
【
図5】送信機の出力電力スペクトルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を参照しつつ、本発明の実施の形態に係る送信機について説明する。
【0014】
本実施の形態に係る送信機1は、
図1のブロック図に示すように、ベースバンド部11と、局部発振器12と、変調部13と、周波数混合部20と、パワーアンプ14と、アンテナ15とを備える無線送信機である。
【0015】
ベースバンド部11は、送信機1から送信する情報を、ベースバンド信号として変調部13に出力する。
【0016】
局部発振器12は、搬送波として用いられる局部発振信号(以下、LO信号という)を生成する。局部発振器12は、LO信号を変調部13及び周波数混合部20に出力する。
【0017】
変調部13は、ベースバンド部11の出力信号であるベースバンド信号と、局部発振器12の出力信号であるLO信号とを混合して、中間周波数信号(以下、IF信号という)を生成する混合器を備える。変調部13は、IF信号を周波数混合部20に出力する。
【0018】
周波数混合部20は、変調部13で生成されたIF信号を入力し、IF信号をアップコンバートして送信信号(以下、RF信号という)を生成する。周波数混合部20の詳細な構成については、後述する。
【0019】
パワーアンプ14は、周波数混合部20から入力するRF信号を増幅する電力増幅器である。
【0020】
アンテナ15は、パワーアンプ14の出力信号を電波として送信する。
【0021】
続いて、本実施の形態に係る周波数混合部20について説明する。周波数混合部20は、
図2に示すように、第1加算部21と、第2加算部22と、第1増幅部23と、第2増幅部24と、第1逓倍部25と、第2逓倍部26と、減算部27とを備える。
【0022】
第1加算部21は、変調部13で生成されたIF信号と、局部発振器12で生成されたLO信号とを入力し、IF信号とLO信号とを加算した信号を出力する。
【0023】
第2加算部22は、変調部13で生成されたIF信号を、図示しない位相反転回路で位相反転させた逆位相の信号(以下、−IF信号という)と、局部発振器12で生成されたLO信号とを加算した信号を出力する。
【0024】
第1増幅部23は、第1加算部21の出力信号を増幅する電力増幅器である。これにより、RF信号の出力電力を高めることができる。
【0025】
第2増幅部24は、第2加算部22の出力信号を増幅する電力増幅器である。これにより、RF信号の出力電力を高めることができる。第2増幅部24で増幅される信号の増幅率は、第1増幅部23で増幅される信号の増幅率に等しい。
【0026】
第1逓倍部25は、IF信号をアップコンバートして高周波の送信信号を生成する。具体的には、IF信号を含む第1加算部21の出力信号を逓倍して出力する。本実施の形態では、第1逓倍部25は、乗算器であるスクエアミキサを用いて入力信号を2逓倍する2逓倍器を備え、第1加算部21から入力された信号を2逓倍して出力する。
【0027】
第2逓倍部26は、第1逓倍部25と同様に、入力信号をアップコンバートして高周波の送信信号を生成する。具体的には、−IF信号を含む第2加算部22の出力信号を逓倍して出力する。本実施の形態では、第2逓倍部26は、乗算器であるスクエアミキサを用いて入力信号を2逓倍する2逓倍器を備え、第2加算部22から入力された信号を2逓倍して出力する。
【0028】
減算部27は、第1逓倍部25の出力信号から、第2逓倍部26の出力信号を減算する減算器を備え、減算された信号をRF信号として出力する。本実施の形態に係る減算部27では、バラン(平衡不平衡変換器)を用いてRF信号を生成する。具体的には、バランに、第1逓倍部25の出力信号と第2逓倍部26の出力信号とを入力する。これにより、減算部27は、第2逓倍部26の出力信号のうち、−IF信号に起因して第1逓倍部25の出力信号と逆位相を持つ信号成分を打ち消して、1つの信号として出力することができる。
【0029】
続いて、
図3の概念図を参照して、周波数混合部20の動作について説明する。
【0030】
まず、第1加算部21は、IF信号とLO信号とを加算した信号(LO+IF)を第1逓倍部25に入力する。第1逓倍部25は、LO+IFを逓倍する。LO+IFの逓倍は、周波数混合器、すなわち乗算器によって行われる。より具体的には、LO+IFをn逓倍(nは自然数)した信号(LO+IF)
nは、下記の式(1)によって表される。
【0032】
上式について、IF信号をアップコンバートした信号、すなわちRF信号として使用される信号は、右辺第2項のLO
n−1・IFの信号である。その他の項の信号成分は、不要信号となる。本実施の形態の第1逓倍部25は、第1加算部21の出力信号を2逓倍するので、実質的に下記の式(2)で表される演算が行われる。
【0034】
図4は、式(2)の各項の信号の出力電力スペクトルを表した概念図である。
図4中のf
LOはLO信号の周波数であり、2f
LOはLO信号を自乗したLO
2の周波数である。上述の通り、右辺第2項のLO・IFの項がIF信号をアップコンバートした所望信号であり、右辺第1項のLO
2の項と右辺第3項のIF
2の項は不要信号である。
【0035】
第2加算部22は、−IF信号とLO信号とを加算した信号(LO−IF)を第2逓倍部26に入力する。第2逓倍部26は、上述の第1逓倍部25と同様にLO−IFを2逓倍して、下記の式(3)に表される信号を出力する。
【0037】
減算部27は、第1逓倍部25の出力信号から、第2逓倍部26の出力信号を減算する。上述の式(2)、(3)及び
図3のブロック図に概念的に示される出力電力スペクトルのように、第1逓倍部25の出力信号のLO
2の項及びIF
2の項は、第2逓倍部26の出力信号のLO
2の項及びIF
2の項に、等しい。したがって、第1逓倍部25の出力信号から第2逓倍部26の出力信号を減算した減算部27の出力信号は、LO・IFの項が残る一方、不要波であるLO
2、IF
2の項が除去された信号となる。
【0038】
周波数混合部20は、上述のように構成され、IF信号とLO信号から不要信号を除去した高周波信号LO・IFを生成することができる。
【0039】
図5は、本実施の形態に係る送信機1をCMOS回路として構成し、300GHzを中心周波数とする送信信号を生成した場合の出力電力スペクトルの例を示す図である。
図5では、不要波であるLO
2の周波数成分が、ノイズフロアよりも小さいレベルまで抑圧されている。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態に係る送信機1では、入力信号であるIF信号、IF信号の逆位相の−IF信号、及び局部発振器で生成される局部発振信号であるLO信号を用いて不要波を除去した高周波の出力信号(RF信号)を生成することができる。したがって、帯域通過瀘波器によって不要波を除去することなく、低損失で不要信号が除去された出力信号を生成することが可能である。
【0041】
上記実施の形態に係る送信機1では、
図1のように、変調部13と周波数混合部20に、局部発振器12から出力された同じLO信号を入力することとしたが、これに限られない。例えば、変調部13に入力するLO信号の周波数は、周波数混合部20に入力するLO信号の周波数と異なるものであってもよい。これにより、変調部13の出力であるIF信号の周波数と、周波数混合部20の出力であるRF信号の周波数を、それぞれの回路構成に適した周波数となるように、個別に調整することができる。
【0042】
また、実施の形態に係る送信機1では、帯域通過濾波器を用いない構成としたが、これに限られない。例えば、パワーアンプ14とアンテナ15との間に帯域通過濾波器を配置してもよい。これにより、より雑音を抑圧した信号を送信することができる。
【0043】
また、上記実施の形態に係る送信機1では、RF信号を、パワーアンプ14で増幅した後に、アンテナ15で送信することとしたが、これに限られない。例えば、パワーアンプ14を用いることなく、周波数混合部20の出力信号をアンテナ15から送信することとしてもよい。本発明に係る送信機1は、上述のように、低損失で不要信号が除去された出力信号を生成できる。したがって、パワーアンプ14を適用することが困難な高い周波数帯においても、高品質な送信信号を生成できる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、中間周波数信号を逓倍して高周波の送信信号を生成する無線送信機に好適である。また、本発明は、送信機の最終段を並列構成にして、複数の出力を電力合成する高周波の無線送信機に応用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 送信機、11 ベースバンド部、12 局部発振器、13 変調部、14 パワーアンプ、15 アンテナ、20 周波数混合部、21 第1加算部、22 第2加算部、23 第1増幅部、24 第2増幅部、25 第1逓倍部、26 第2逓倍部、27 減算部