上面にパッドを備えた発光素子を準備する工程と、キャピラリに挿通されたワイヤの先端を溶融してイニシャルボールを形成する工程と、イニシャルボールをパッドに当接し、キャピラリでイニシャルボールを押圧して変形させてボール部を形成した後、キャピラリを所定の時間静止させる工程と、キャピラリに超音波を印加する工程と、を備える発光装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明を実施するための形態を、以下に図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す形態は、本発明の技術思想を具体化するための発光装置の製造方法を例示するものであって、本発明は、発光装置の製造方法を以下に限定するものではない。
【0009】
また、本明細書は、特許請求の範囲に示される部材を、実施の形態の部材に特定するものでは決してない。特に、実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限りは、本開示の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。尚、各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため誇張していることがある。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0010】
図1は実施形態に係る発光装置の製造方法によって得られる発光装置10の概略断面図を示す。発光装置10は、発光素子20と、基板11と、ワイヤ30と、を備える。更に、発光素子20及びワイヤ30を被覆する封止部材40と、を備える。
【0011】
発光素子20は、半導体層をふくむ積層構造体22と、積層構造体22の上面のパッド21と、を備える。基板11は、絶縁性の基材12と、発光素子20に給電するための電極として機能する導電部材13と、を備える。
【0012】
ワイヤ30は、発光素子20のパッド21と接続されるボール部32と、基板11の導電部材13と接続される接続部34と、ボール部32と接続部34との間のループ部33と、を備える。
【0013】
上述のような発光装置10は、以下の製造方法によって得ることができる。
図2A〜
図2Dは、実施形態に係る製造方法を説明した概略図である。
【0014】
実施形態に係る発光装置の製造方法は、主として以下の工程を備える。すなわち、上面にパッドを備えた発光素子を準備する工程と、イニシャルボールを形成する工程と、ボール部を形成してキャピラリを静止する工程と、キャピラリに超音波を印加する工程と、を備える。以下、各工程について詳説する。
【0015】
<パッドを備えた発光素子を準備する工程>
図2Aに示すように、上面にパッドを備えた発光素子20を準備する。詳細には、発光素子20は、発光層を含む半導体層を備えた積層構造体22と、その積層構造体22に通電するための電極として機能するパッド21と、を備える。
【0016】
積層構造体は、例えば、半導体層としてIn
XAl
YGa
1−X−YN(0≦X、0≦Y、X+Y≦1)等の窒化物系化合物半導体が好適に用いられる。素子基板としては、例えば、サファイア、GaN等が挙げられる。
【0017】
発光素子20は、
図2Aに示すように、発光素子20の上面(積層構造体22の上面)に、一対の電極として機能するように2つのパッド21を備えることができる。パッド21の数はこれに限らず、1又は3以上備えることができる。パッド21としては、例えば、Au、Pt、Pd、Rh、Ni、W、Mo、Cr、Ti等が挙げられる。パッド21の厚みは、例えば、0.5μm〜10μm程度とすることができる。
【0018】
上述のような発光素子20を準備する工程は、基板11上に載置する工程を備えてもよい。あるいは、発光素子20を準備する工程は、基板11上に載置された発光素子20を準備する工程でもよい。発光素子20と基板11とは、導電性又は絶縁性の接合部材で固定されている。
【0019】
基板11は、電極として機能する導電部材13と、それを保持する絶縁性の基材12とを備える。基板11は、
図1に示すような凹部14を備えることができる。あるいは、基板11は平板状であってもよい。基板11は、当該分野で用いられる基板11を用いることができる。例えば、基材12として成形樹脂を備え、導電部材13としてリードとを備えた樹脂パッケージを用いることができる。また、基材12としてセラミックを備え、導電部材13として配線を備えたセラミックパッケージ等を用いることができる。
【0020】
発光素子20が載置された基板11を、ワイヤボンダの所定の位置に固定する。
【0021】
<イニシャルボールを形成する工程>
発光素子20にワイヤ30を接続するために、まず、
図2Aに示すように、イニシャルボール31を形成する。詳細には、キャピラリ50の貫通孔内に挿通されたワイヤ30Aの先端を電気放電等によって溶融させることで、イニシャルボール31を形成する。イニシャルボール31はワイヤ30Aの先端に設けられた球状部分を指す。電気放電等の条件は、ワイヤ30Aの材料、組成、径、あるいは、目的とするイニシャルボール31の大きさ等に応じて適宜選択することができる。
【0022】
<イニシャルボールをパッドに当接し変形させる工程>
次に、
図2Bに示すように、イニシャルボー31を発光素子20の上面のパッド21に当接し、キャピラリ50で押圧する。これにより、球状のイニシャルボール31が変形して半球状のボール部32となる。そして、ボール部32にキャピラリ50を接触させた状態で、キャピラリ50を所定の時間、静止させる。詳細には、キャピラリ50は、ボール部32が所定の厚みになるまで荷重を加えており、その高さを維持しつつ、更なる変形をしないように荷重をかけた状態で静止させる。
【0023】
キャピラリ50の静止時間は、例えば、0.1m秒〜255m秒とすることができ2m秒〜100m秒が好ましい。静止時間を設けることで、ボール部32の硬度が徐々に高くなる。詳細には、電気放電によって昇温されて溶融し、硬度が低下していたボール部32が、経時により冷却されて硬度が高くなる。尚、冷却方法は、キャピラリ50の動作を停止して静止することのみで自然冷却する方法でもよく、あるいは、静止中に冷媒としてフロンガス等の不活性ガスなどを吹き付けるなどして強制冷却する方法でもよい。
【0024】
<キャピラリに超音波を印加する工程>
上述のように、キャピラリ50を所定時間静止させた後に、
図2Cに示すように、超音波を印加する。超音波は、たとえば、周波数は60kHz〜150kHz程度とすることができ、印加時間は1m秒〜255m秒で設定できるが5m秒〜100m秒程度が好ましい。ボール部32は、上述のように所定時間静止させたため、パッド21に当接させた直後の硬さよりも硬くなっている。そのようなボール部32に超音波を印加して振動させることで、パッドの内部にボール部32の一部をめり込ませ易くすることができる。
【0025】
キャピラリ50の先端にイニシャルボール31を形成した状態で静止するのではなく、イニシャルボール50をパッド21に当接させてボール部32を形成した後に静止させることで、パッド21にイニシャルボール31を当接させる際のダメージを低減することができる。
【0026】
超音波を印加することで、パッド21とボール部32の界面の酸化被膜や汚れ等が超音波振動により取り除かれる。上述のように、イニシャルボール32よりも硬度の高いボール部32とすることで、超音波振動が伝わり易く、接合界面における結晶粒子同士の結合を生成し易くなる。これにより、ボール部32とパッド21との接合を良好にすることができる。
【0027】
上述のように、パッド21にボール部32を接合した後、
図2Dに示すようにキャピラリ50を移動して、ワイヤ30Aを基板11上に当接させ、超音波及び荷重を印加する。その後、ワイヤ30Aを切断することで、
図1に示すような、ワイヤ30の接合部34とすることができる。
【0028】
ワイヤ30としては、金、銀、銅、白金、アルミニウム等の金属及び少なくともそれらの金属を含有する合金を用いた導電性ワイヤが挙げられる。特に、銀含ワイヤは、金ワイヤに比して光の吸収が少なく反射率が高いため、発光装置に用いられるワイヤとして有用である。しかしながら、銀含ワイヤは金ワイヤに比して硬度が高く、接合性が低くなり易い。上述のような接合方法を用いて銀含ワイヤを接合することで、パッド21との接合性を良好とすることができる。銀含ワイヤとしては、銀の含有率が10%〜100%のものを用いることができる。銀含ワイヤは、銀以外に金、パラジウムなどの金属を含むことができる。
【0029】
ワイヤ30の径は、18μm〜30μmが好ましい。ワイヤの線膨張係数は、14.2×10
-6以上19.7×10
-6以下が好ましく、更に、17.6×10
-6以上18.9×10-6以下が好ましい。
【0030】
<その他の工程>
その他の工程として、発光素子20及びワイヤ30を封止する封止部材40を形成する工程を備えてもよい。封止部材の材料としては、発光素子からの光を透過可能な透光性を有し、且つ、耐光性を有するものが好ましい。具体的な材料としては、シリコーン樹脂組成物、変性シリコーン樹脂組成物、エポキシ樹脂組成物、変性エポキシ樹脂組成物、アクリル樹脂組成物等の、発光素子からの光を透過可能な透光性を有する絶縁樹脂組成物を挙げることができる。また、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、フッ素樹脂及びこれらの樹脂を少なくとも1種以上含むハイブリッド樹脂等も用いることができる。さらにまた、これらの有機物に限られず、ガラス、シリカゾル等の無機物も用いることができる。このような材料に加え、所望に応じて着色剤、光拡散剤、光反射材、各種フィラー、波長変換部材(蛍光体)などを含有させることもできる。
【0031】
蛍光体としては、例えば、酸化物系、硫化物系、窒化物系の蛍光体などが挙げられる。例えば、発光素子として青色発光する窒化ガリウム系発光素子を用いる場合、青色光を吸収して黄色〜緑色系発光するYAG系、LAG系、緑色発光するSiAlON系(βサイアロン)、赤色発光するSCASN、CASN系、KSF系蛍光体(K
2SiF
6:Mn)、硫化物系蛍光体、ナノ蛍光体等の少なくとも1種、又は2種以上を用いることができる。これらの蛍光体は、封止部材中に5質量%以上120質量%以下含有させるのが好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本開示に係る一実施例について詳説する。
【0033】
[実施例1]
基板として開口部形状が円形の凹部を備えた樹脂パッケージを準備する。基板は銅を主成分とするリードフレームに、成形樹脂が一体的に成形されており、一枚の基板で複数個の発光装置を形成することができる。凹部の底面に露出されたリードフレーム上に、樹脂を主成分とする接合部材を介して発光素子を載置する。発光素子は、窒化ガリウム系半導体層を備えた積層構造体と、その上面に金を主成分とするパッドを備えている。パッドは、上面視円形であり、p側パッドとn側パッドの2つを備える。パッドの厚みは1.2μmである。
【0034】
上述の基板をワイヤボンダの所定の位置に固定する。基板の上方にはキャピラリが配置されている。キャピラリの貫通孔内にはワイヤが挿通されている。ワイヤは主としてAg80%、Au20%を含む。ワイヤの径は25μmである。キャピラリの先端から延出するワイヤに、30mAの電流をかけて電気放電し、径が49μmのイニシャルボールを形成する。その後、イニシャルボールをパッドに当接させ、キャピラリに30〜45gfの荷重をかけて押圧して、厚みが9μmのボール部を形成する。その状態で約6ミリ秒静止する。次に、周波数60kHzの超音波を10m秒印加する。次に、キャピラリを移動させてワイヤを凹部内のリードフレーム上に接合させる。
【0035】
凹部内に、液状の樹脂部材を注入し、硬化させる。樹脂部材は、主成分としてシリコーン系樹脂と、YAG蛍光体と、を含んでいる。最後に基板を個片化して発光装置とする。
【0036】
上述のようにしてパッドに接合されたワイヤの接合強度を、シェア強度試験によって測定した。キャピラリを静止させる時間を設けずに、ボール部を形成した直後に超音波を印加した方法で接合したワイヤの接合強度と比較した。本実施例の接合方法によって接合したワイヤは、比較例のワイヤに、シェア強度が約20〜30%向上していた。また、シェア後パッド上の金残り量は、14〜15%増加していた。