特開2018-143318(P2018-143318A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-143318(P2018-143318A)
(43)【公開日】2018年9月20日
(54)【発明の名称】環境共有レベル判定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/18 20060101AFI20180824BHJP
【FI】
   A61B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-38961(P2017-38961)
(22)【出願日】2017年3月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム『精神的価値が成長する感性イノベーション拠点』委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080768
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100106644
【弁理士】
【氏名又は名称】戸塚 清貴
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 俊太郎
(72)【発明者】
【氏名】定藤 規弘
(72)【発明者】
【氏名】道田 奈々江
(72)【発明者】
【氏名】原 祐子
(72)【発明者】
【氏名】梶川 浩子
(72)【発明者】
【氏名】岸 篤秀
(72)【発明者】
【氏名】西川 一男
(72)【発明者】
【氏名】農沢 隆秀
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038PP03
4C038PQ04
4C038PS07
(57)【要約】
【課題】 環境共有空間において、環境共有レベルの大きさ及び内容を定量的に判定し得る環境共有レベル判定装置を提供する。
【解決手段】 環境共有レベル判定装置10は、運動情報検出手段11と、環境共有レベル算出手段13と、影響要因分析手段14とを備える。環境共有レベル算出手段13は、運動情報検出手段11により検出された各環境共有者の運動情報の時系列データの相関が高いほど、環境共有レベルが高くなるように、環境共有レベルの大きさを算出する。影響要因分析手段14は、自己回帰モデル作成手段22と、外部情報入力と環境共有者間の相互作用を変数とした状態空間モデルを作成する状態空間モデル作成手段22と、自己回帰移動平均モデル変換手段23と、因果解析によって外部情報入力影響度と環境共有者間相互作用影響度を算出する因果解析手段24とを備える。
【選択図】 図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境を共有する複数の環境共有者の運動情報を検出する運動情報検出手段と、
前記運動情報検出手段により検出された各環境共有者の運動情報に基づいて、前記複数の環境共有者間の環境共有レベルを算出する環境共有レベル算出手段とを備え、
前記環境共有レベル算出手段は、各環境共有者の運動情報間の相関を算出し、前記相関が高いほど、環境共有レベルを高く算出する環境共有レベル判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の環境共有レベル判定装置において、
前記環境共有レベルを形成する影響因子について、影響因子毎の影響度を算出する影響要因分析手段を備えた環境共有レベル判定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の環境共有レベル判定装置において、
前記影響因子は、前記複数の環境共有者に対する外部情報入力と、前記環境共有者間の相互作用である環境共有レベル判定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の環境共有レベル判定装置において、
前記影響要因分析手段は、
前記運動情報に関する最適な自己回帰モデルを作成する自己回帰モデル作成手段と、
自己回帰モデル作成手段により算出されたAR係数と前記運動情報とを用い、前記外部情報入力と前記環境共有者間の相互作用を変数とした状態空間モデルを作成する状態空間モデル作成手段と、
前記状態空間モデルを自己回帰移動平均モデルに変換する自己回帰移動平均モデル変換手段と、
前記自己回帰移動平均モデルにおけるパラメータ間の因果解析を実施して、前記環境共有レベルの形成に対する前記外部情報入力と前記環境共有者間の相互作用の各々の影響度を算出する因果解析手段とを備えている環境共有レベル判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の人が環境を共有している空間(環境共有空間)における環境共有レベルの大きさ及び内容を定量的に判定するための環境共有レベル判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば乗り物の車室空間等、複数の人が環境を共有する環境共有空間においては、環境共有者の間で共感(気持ちのつながり)が生じる。このような環境共有と関連した従来技術として、例えば特許文献1(特開2015−192704)には、コミュニケーションにおける相手への同調能力を、当事者それぞれに生じる運動情報に応じて定量評価する発明が提案されている。また、特許文献2(特開2016−137204)には、車両用乗員感情対応制御装置において、ユーザ端末の生体センサにより取得した各乗員の生体情報に基づいて乗員の感情を推定し、感情改善手段によって乗員間の一体感を高めるようにした発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−192704
【特許文献2】特開2016−137204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術においては、環境共有状態を定量的に評価・判定する手法(環境共有状態を可視化する手法)は存在していなかった。詳しく説明すると、まず第1に、環境共有のレベル(環境共有者間のつながりの強さ)を定量的に算出し得る手法は存在していなかった。また、第2に、その環境共有レベルが、どのような影響因子のどの程度の影響度(寄与度)によって形成されているのかを定量的に判定し得る手法は存在していなかった。
【0005】
本発明は、以上のような事情を勘案してなされたもので、その目的は、複数の人が環境を共有する環境共有空間において、環境共有レベルの大きさ及び内容を定量的に判定し得る環境共有レベル判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明にあっては、次のような解決方法を採択している。すなわち、請求項1に記載のように、環境を共有する複数の環境共有者の運動情報を検出する運動情報検出手段と、前記運動情報検出手段により検出された各環境共有者の運動情報に基づいて、前記複数の環境共有者間の環境共有レベルを算出する環境共有レベル算出手段とを備え、前記環境共有レベル算出手段は、各環境共有者の運動情報間の相関を算出し、前記相関が高いほど、環境共有レベルを高く算出するようにしている。
【0007】
上記解決手法によれば、環境共有空間(複数の環境共有者が環境を共有する空間)における環境共有レベル(環境共有者間の気持ちのつながりの強さ)を、環境共有者についての観測値(運動情報)に基づいて、定量的に算出することができる。
【0008】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載の通りである。すなわち、前記環境共有レベルを形成する影響因子について、影響因子毎の影響度を算出する影響要因分析手段を備えている(請求項2対応)。この場合、どのような影響因子のどの程度の寄与によって環境共有レベルが形成されているかを知ることができるので、環境共有レベルの改善に役立てることができる。
【0009】
前記影響因子は、前記複数の環境共有者に対する外部情報入力と、前記環境共有者間の相互作用である(請求項3対応)。この場合、環境共有レベルに影響を与えると考えられる外部情報入力と環境共有者間の相互作用を適切に考慮することができる。
【0010】
前記影響要因分析手段は、前記運動情報に関する最適な自己回帰モデルを作成する自己回帰モデル作成手段と、自己回帰モデル作成手段により算出されたAR係数と前記運動情報とを用い、前記外部情報入力と前記環境共有者間の相互作用を変数とした状態空間モデルを作成する状態空間モデル作成手段と、前記状態空間モデルを自己回帰移動平均モデルに変換する自己回帰移動平均モデル変換手段と、前記自己回帰移動平均モデルにおけるパラメータ間の因果解析を実施して、前記環境共有レベルの形成に対する前記外部情報入力と前記環境共有者間の相互作用の各々の影響度を算出する因果解析手段とを備えている(請求項4対応)。この場合、環境共有レベルの形成に対する外部情報入力の影響度と環境共有者間の相互作用の影響度を分離して定量的に把握することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境共有空間における環境共有レベルについて、環境共有レベルの大きさと、環境共有レベルを形成する影響因子毎の影響度(寄与度)を定量的に的確に把握することができ、環境共有レベルを可視化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】環境共有者の興味の共有と環境共有レベルの関係に関する実験結果を示すグラフ。
図2】視覚情報の共有と環境共有レベルとの関係に関する実験装置の概略を示す図。
図3】視覚情報の共有と環境共有レベルとの関係に関する実験結果を示すグラフ。
図4】環境共有者の意図の共有と環境共有レベルとの関係に関する実験結果を示すグラフであり、車の動きを意図した2人の被験者の体動の時系列データを示すグラフ。
図5図4に示す2人の被験者の体動の時系列データの相関を示すグラフ。
図6】環境共有者の意図の共有と環境共有レベルとの関係に関する実験結果を示すグラフであり、車の動きを意図していない2人の被験者の体動の時系列データを示すグラフ
図7図6に示す人の被験者の体動の時系列データの相関を示すグラフ。
図8】本発明の環境共有レベル判定装置を示すブロック構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明するが、まず、図1から図7に基づいて本発明の基礎となる実験について説明する。環境共有空間において、環境共有レベル(環境共有者間のつながりの強さ)を高める影響因子としては、(1)環境共有者による外部情報の共有(例えば、同一の視覚情報(景色等)を見ていること、同一の聴覚情報(音楽等)を聞いていること)、(2)環境共有者同士の相互作用(例えば、会話をしていること、アイコンタクトをしていること、その他の何らかのコミュニケーションを取っていること)が考えられる。ここで、外部情報とは、各環境共有者の視覚、聴覚等の五感に対して与えられる刺激であり、例えば、乗り物においては前方の景色等である。以下に説明する各実験は、これらの影響因子と環境共有レベル及び環境共有者の運動状態の関係に関するものである。
【0014】
図1には、環境共有者間の相互作用(興味の共有)と環境共有レベルの関係についての実験結果を示す。この実験は、環境共有空間(乗り物の車室)に置かれた2人の被験者(運転席及び助手席の乗員)が互いに会話しているときに、両被験者の体動(シートセンサにより計測される身体の動き)がどのように生じるかについて検証したものである。図1のグラフにおいて、横軸には、被験者の体動の時間のずれ(タイムラグ)を、縦軸には、2人の被験者の体動の相関(同期)の大きさを示している。また、グラフにおける実線は、被験者が互いに興味のある話題について5分間にわたって会話した場合を、破線は、被験者が互いに興味のない話題について5分間にわたって会話した場合を示している。
【0015】
グラフに示されるように、被験者が会話しているとき、2人の被験者の体動はシンクロする(同期する)が、互いに興味がある話題について会話している場合(実線)には、興味がない話題について会話している場合(破線)よりも、体動のシンクロの程度が、より大きくなる。すなわち、環境共有者の興味の共有の程度が高まると、環境共有者同士のつながり(環境共有レベル)が強まり、体動の相関の程度が高まると考えられる。
【0016】
図2及び図3には、環境共有者の視覚情報(視覚に対する外部情報)の共有と環境共有レベルについての実験装置及び実験結果を示す。図2に示されるように、本実験の実験装置は、2人の被験者1A、1Bに対して、ビデオカメラ2A、2B及び視覚刺激入力装置3A、3Bからの視覚情報を表示するプロンプター4A、4Bを備えている。2人の被験者1A、1Bに対しては、同一内容の視覚情報が表示されるが、各被験者1A、1Bに対する表示のタイミングは制御装置で制御され、異なるタイミングでの表示(同一のタイミングでの表示、−3秒のタイミングでの表示、+3秒のタイミングでの表示)がなされるようになっている。また、被験者1A、1Bの体動(身体の揺れ)は、被験者1A、1Bの下方のセンサ5A、5Bで検出されるようになっている。
【0017】
図3は、本実験の実験結果を示すグラフであり、横軸には、時間のずれ(タイムラグ)を、縦軸には、被験者の体動の相関(同期)の大きさを示している。グラフに示されるように、表示がタイミングをずらして与えられた場合、そのずれたタイミングで被験者の体動にシンクロが生じる。具体的に、被験者1Bに対して被験者1Aと同じタイミングで表示がなされた場合、グラフに実線で示すように、被験者1Aの体動に対して時間遅れ無し(タイムラグ0)で被験者1Bの体動がシンクロする。また、被験者1Bに対して被験者1Aよりも3秒早く(−3秒のタイミングで)表示がなされた場合、破線で示すように、被験者1Aの体動に対して3秒前のタイミングで被験者1Bの体動がシンクロする。また、被験者1Bに対して被験者1Aに対して3秒遅れ(+3秒のタイミング)で表示がなされた場合、破線で示すように、被験者1Aの体動に対して3秒遅れのタイミングで被験者1Bの体動がシンクロする。
【0018】
この実験から分かるように、被験者1A、1Bが同じタイミングの映像を見ているときに、被験者1A、1Bの体動のシンクロの程度が高まる。すなわち、環境共有者の間で視覚情報の共有の程度が高まると、環境共有者の間のつながりの程度(環境共有レベル)が高まり、体動の相関も高まると考えられる。
【0019】
図4から図7には、環境共有者における意図、注意、イメージ共有と環境共有レベルとの関係についての実験結果を示す。本実験においては、運転席及び助手席に着座した2人の被験者に走行映像を鑑賞させ、映像鑑賞中の2人の被験者の体動を被験者胸部に装着した加速度センサで計測している。実験は、2人の被験者に対して、2人とも車の動きを意図して(2人とも車を運転するつもりで)映像を見るように教示された場合と、ただ走行方向を見るだけのつもりで映像を見るように教示された場合について行っている。
【0020】
図4には、車の動きを意図して(2人とも車を運転するつもりで)映像を見た場合における運転席と助手席の被験者の体動の時系列データを、それぞれ上段と下段のグラフに示している。さらに、図5には、図4の場合における被験者の体動の相関(シンクロの程度)を示している。また、図6には、ただ走行方向を見るだけのつもりで映像を見た場合の運転席と助手席の被験者の体動の時系列データを、図7には、図5における被験者の体動の相関(シンクロの程度)を示している。
【0021】
図5図7のグラフの比較から分かるように、2人の被験者が共に車の動きを意図して(2人とも車を運転するつもりで)映像を見た場合(図5)は、そうでない場合(図7)と比較して、体動のシンクロの程度が高まっている。すなわち、環境共有者が外部情報について意図、注意、イメージを共有した場合には、さらに環境共有レベルが高まり、環境共有者の体動の相関が高まると考えられる。
【0022】
なお、上記の3つの実験では、環境共有レベルの高まりに対応するものとして、環境共有者の体動の相関(シンクロ)を用いているが、環境共有レベルに対応して相関が高まるのは、環境共有者の体動(主として胴体の動き)に限られず、環境共有者の身体に生じる様々な動きが、環境共有レベルの高まりに応じて相関を増すと考えられる。例えば、環境共有者の頭の動きや視線(眼球)の動きも、環境共有レベルの高まりに応じて相関を増す。したがって、以下の説明では、体動、頭の動き、視線の動き等を含む、計測手段によって計測し得る任意の環境共有者の身体の動きを運動情報と称し、環境共有者の運動情報の相関の程度に基づいて環境共有レベルの高さを図るようにしている。
【0023】
上記3つの実験結果から分かるように、環境共有レベル(環境共有者の気持ちのつながりの程度)は、環境共有者による外部情報(更には外部情報を捉える意図)の共有と、環境共有者間の相互作用を影響因子として、これらの影響因子の程度が高まるほど高くなる。また、この環境共有レベルの高まりは、環境共有者の運動情報の相関の高さ(一致度)として現れる。以下に説明する本発明の実施形態は、以上のような知見を基礎とするものである。
【0024】
図8には、本発明の環境共有状態判定装置10をブロック構成図で示す。図示されるように、環境共有状態判定装置10は、環境共有者の運動情報を検出する運動情報検出手段1と、運動情報検出手段11により検出された運動情報の時系列データを分析する運動情報分析手段12とを備えている。
【0025】
運動情報検出手段11は、環境共有者(例えば各種乗り物における複数の乗員)の各々について、運動情報(例えば、体動、頭の動き、視線(眼球)の動き)を検出するための装置であり、検出すべき運動情報の種類に応じて、座席に配置したシートセンサ、乗員の様子を撮影可能な車内カメラ等から構成される。
【0026】
運動情報分析手段12は、例えばマイクロコンピュータから構成されるもので、環境共有レベル(環境共有者間の気持ちのつながりの程度)を算出する環境共有レベル算出手段13と、環境共有レベルがどのような影響因子からの影響によって形成されているかを算出する影響要因分析手段14とを備えている。
【0027】
環境共有レベル算出手段13は、運動情報検出手段11からの各環境共有者の運動情報の時系列データについて、相関の程度(シンクロの大きさ)を算出して、運動情報間の相関の程度に基づいて環境共有レベルを算出する。すなわち、上記の実験結果から得られた知見の通り、環境共有者の運動情報間の相関が高いほど、環境共有レベルが高くなるように、環境共有レベルを定量的に算出するようになっている。
【0028】
影響要因分析手段14は、運動情報検出手段11からの各環境共有者の運動情報の時系列データを分析して、各影響因子(すなわち環境共有者による外部情報の共有と環境共有者の相互作用)の寄与度の大きさを定量的に算出するもので、自己回帰モデル設定手段21と、状態空間モデル作成手段22と、自己回帰移動平均モデル変換手段23と、因果解析手段24とを備えている。
【0029】
自己回帰モデル設定手段21は、環境共有者の運動情報(観測値)を変数とした自己回帰モデルを作成し、作成した自己回帰モデルを最適化する(AIC最小、次数(過去の観測データ範囲)Nのモデルを採用)。
【0030】
具体な計算例として、乗り物の乗員A、乗員Bの運動情報を変数y1、y2とした場合、多変量自己回帰モデルは、
【0031】
【数1】
【0032】
となり、Yの予測値である
【0033】
【数2】
【0034】
に加えて、後方予測値である
【0035】
【数3】
【0036】
を用いて、A及びノイズの分散値(Pf、Pb)を推定する。
【0037】
状態空間モデル作成手段22は、自己回帰モデル設定手段21において算出されたAR係数と運動情報(観測値)とを用いて、環境共有レベルに影響を及ぼす「環境共有者間の相互作用」と「外部情報入力」を変数として組み込んだ最適な状態空間モデル(状態方程式及び観測方程式)を作成する。
【0038】
状態方程式は、外部情報入力に対応する隠れ変数Lを含む式とし、例えば、変数X1、X2、Lの状態方程式と、変数Y1、Y2の観測方程式が定式化される。ここで、X1、X2の次数はこれまでの処理で算出されたNとし、Lの次数は任意に設定する。y1、y2にはAR係数を利用する。
【0039】
更に、状態空間モデル作成手段22は、状態空間モデルのパラメータ(以下に述べる具体例では、B、Q、R及びZ内のc)を最尤推定の発展形(EMアルゴリズム)で最適値に設定する。
【0040】
具体的な計算例として、状態空間モデルは、以下の状態方程式(xの式)と観測方程式(yの式)からなる。
【0041】
【数4】
【0042】
ただし、ω(t)は平均がO、分散がQのホワイトノイズ、ν(t)は平均がO、分散がRのホワイトノイズとする。例えば、xのAR次数=3、隠れ変数lのAR次数が1のとき、パラメータの詳細は以下の通りとなる。
【0043】
【数5】
【0044】
自己回帰移動平均モデル変換手段23は、後述する因果解析手段24による因果解析のために、状態空間モデル作成手段22により作成された状態空間モデルを自己回帰移動平均(ARMA)モデルに変換する。
【0045】
因果解析手段24は、自己回帰移動平均モデル変換手段23により作成された自己回帰移動平均モデルに基づいて因果解析(例えば赤池法による因果解析)を実施することにより、外部情報影響度と環境共有者間相互作用影響度を算出する。ここで、外部情報影響度は、環境共有レベルの形成における外部情報の共有の影響の大きさを示すものであり、隠れ変数Lと各環境共有者の運動情報の間のノイズ寄与率の積算値として算出される。また、環境共有者間相互作用影響度は、環境共有レベルの形成における各環境共有者間の相互作用の大きさを示すものであり、各環境共有者の運動情報間のノイズ寄与率の積算値として算出される。外部情報影響度の値が大きくなるほど、環境共有レベルの形成に対して外部情報の共有の影響が大きく、また環境共有者間相互作用影響度が大きくなるほど、環境共有レベルの形成に対して環境共有者間の相互作用の影響が大きいことになる。
【0046】
自己回帰移動平均モデルへの変換及び赤池法による因果解析の具体的な計算例は、以下の通りである。自己回帰移動平均モデルは、以下の式となる。
【0047】
【数6】
【0048】
Fの固有値φjは、以下の式で計算される。
【0049】
【数7】
【0050】
Σは、パワースペクトルP(f)を用いて、
【0051】
【数8】
【0052】
と表され、P(f)は、Σ及び自己回帰移動平均モデルの周波数応答関数A(f)を用いて、以下のように算出される。
【0053】
【数9】
【0054】
ここで、
【0055】
【数10】
【0056】
である。
【0057】
行列Py1及びPy2は、それぞれy1(t)及びy2(t)のパワースペクトルである。
【0058】
【数11】
【0059】
ノイズ寄与率は、以下の式で算出される。
【0060】
【数12】
【0061】
上記の式(1)及び(2)が環境共有者間相互作用影響度を表す式であり、また式(3)及び(4)が外部情報影響度を表す式である。
【0062】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲において適宜の変更が可能である。例えば、環境共有者の人数は2人に限られず、本発明は、3人以上の環境共有者についても適用可能なものである。また、環境共有空間は、乗り物に限られるものではなく、本発明は、例えば会議室や映画館等、複数の人が環境を共有している各種環境共有空間に広く適用できる。また、上記実施形態で示した具体的な計算例は一例であって、本発明は、上記計算例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、乗り物(例えば自動車)の車室空間等の環境共有空間において環境共有レベルの大きさと内容を適切に把握するために利用できる。
【符号の説明】
【0064】
1A、1B 被験者
2A、2B ビデオカメラ
3A、3B 視覚刺激入力装置
4A、4B プロンプター
5A、5B センサ
10 環境共有レベル判定装置
11 運動情報検出手段
12 運動情報分析手段
13 環境共有レベル算出手段
14 影響要因分析手段
21 自己回帰モデル作成手段
22 状態空間モデル作成手段
23 自己回帰移動平均モデル変換手段
24 因果解析手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8