【課題】低分子量の添加剤を用いることなく製造でき、高い屈折率を有する環状オレフィン樹脂組成物と、当該環状オレフィン樹脂組成物の製造方法と、当該環状オレフィン樹脂組成物からなる成形品との提供。
−T・・・(B1)(式(B1)中、aは1〜10の整数であり、bは1以上の整数であり、Tは、1以上のベンゼン環を含み、炭素原子数7以上であるb価の炭化水素基である。)で表される芳香族モノマー(B)とを共重合して環状オレフィン樹脂組成物を製造する。
前記Tが、フルオレン、2,3−ベンゾフルオレン、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレン、又は3,6−ジ−tert−ブチルフルオレンからb個の水素原子を除いた基である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の環状オレフィン樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0024】
≪環状オレフィン樹脂組成物≫
環状オレフィン樹脂組成物は、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位と、芳香族モノマー(B)に由来する構造単位とを含む共重合体からなる。芳香族モノマー(B)は、後述する特定の構造を有する。
環状オレフィン樹脂組成物は、芳香族モノマー(B)に由来する構造単位を有するため、高屈折率である。また、芳香族モノマー(B)は、構造単位として環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体に取り込まれるため、環状オレフィン樹脂組成物を高温で加工しても、屈折率が低下しにくい。
以下、環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体に含まれる、必須又は任意の構造単位を与える単量体等について説明する。
【0025】
[環状オレフィンモノマー(A)]
環状オレフィンモノマー(A)は、ノルボルネンから誘導されるモノマーである。環状オレフィンモノマー(A)としては、例えば、ノルボルネン及び置換ノルボルネンが挙げられ、ノルボルネンが好ましい。上記環状オレフィンモノマー(A)は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記置換ノルボルネンは特に限定されず、この置換ノルボルネンが有する置換基としては、例えば、ハロゲン原子、1価又は2価の炭化水素基が挙げられる。置換ノルボルネンの具体例としては、下記一般式(I)で示されるものが挙げられる。
【0027】
【化2】
(式中、R
1〜R
12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものであり、
R
9とR
10、R
11とR
12は、一体化して2価の炭化水素基を形成してもよく、
R
9又はR
10と、R
11又はR
12とは、互いに環を形成していてもよい。
また、nは、0又は正の整数を示し、
nが2以上の場合には、R
5〜R
8は、それぞれの繰り返し単位の中で、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
ただし、n=0の場合、R
1〜R
4及びR
9〜R
12の少なくとも1個は、水素原子ではない。)
【0028】
一般式(I)で示される置換ノルボルネンについて説明する。一般式(I)におけるR
1〜R
12は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、及び、炭化水素基からなる群より選ばれるものである。
【0029】
R
1〜R
8の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素数1以上20以下のアルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0030】
また、R
9〜R
12の具体例としては、例えば、水素原子;フッ素、塩素、臭素等のハロゲン原子;炭素数1以上20以下のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ナフチル基、アントリル基等の置換又は無置換の芳香族炭化水素基;ベンジル基、フェネチル基、その他アルキル基にアリール基が置換したアラルキル基等を挙げることができ、これらはそれぞれ異なっていてもよく、部分的に異なっていてもよく、また、全部が同一であってもよい。
【0031】
R
9とR
10、又はR
11とR
12とが一体化して2価の炭化水素基を形成する場合の具体例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基等のアルキリデン基等を挙げることができる。
【0032】
R
9又はR
10と、R
11又はR
12とが、互いに環を形成する場合には、形成される環は単環でも多環であってもよく、架橋を有する多環であってもよく、二重結合を有する環であってもよく、またこれらの環の組み合わせからなる環であってもよい。また、これらの環はメチル基等の置換基を有していてもよい。
【0033】
一般式(I)で示される置換ノルボルネンの具体例としては、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン等の2環の環状オレフィン;
トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.1
2,5]デカ−3−エン;トリシクロ[4.4.0.1
2,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.1
2,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.1
2,5]ウンデカ−3−エン;5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;
テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン(単にテトラシクロドデセンともいう)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]ドデカ−3−エン;テトラシクロ[7.4.1
3,6.0
1,9.0
2,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンともいう)、テトラシクロ[8.4.1
4,7.0
1,10.0
3,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセンともいう);ペンタシクロ[6.6.1.1
3,6.0
2,7.0
9,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.1
3,6.0
2,7.0
9,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.0
2,7.1
3,6.1
10,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.1
2,9.1
4,7.1
11,17.0
3,8.0
12,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.1
2,9.0
3,8.1
4,7.0
12,17.1
13,l6]−14−エイコセン;シクロペンタジエンの4量体等の多環の環状オレフィンを挙げることができる。
【0034】
中でも、アルキル置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキル基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)、アルキリデン置換ノルボルネン(例えば、1個以上のアルキリデン基で置換されたビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン)が好ましく、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−エチリデン−2−ノルボルネン、又は、単にエチリデンノルボルネン)が特に好ましい。
【0035】
環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体における、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位の含有量は、全構造単位に対して1〜99モル%が好ましく、10〜90モル%がより好ましく、20〜85モル%が特に好ましい。
環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位の含有量をかかる範囲内とすることで、ガラス転移点が十分に高く耐熱性に優れる一方で、加工性に優れる環状オレフィン樹脂組成物を得やすい。
【0036】
[芳香族モノマー(B)]
芳香族モノマー(B)は、下記式(B1):
(CH
2=CH−(CH
2)
a−)
b−T・・・(B1)
(式(B1)中、aは1〜10の整数であり、bは1以上の整数であり、Tは、1以上のベンゼン環を含み、炭素原子数7以上であるb価の炭化水素基である。)
で表される化合物である。
【0037】
上記式(B1)で表される化合物を芳香族モノマー(B)として共重合することにより、嵩高い芳香族炭化水素基であるTが、共重合体の分子鎖の側鎖又は主鎖に導入される。これにより、環状オレフィン樹脂組成物の分極率を上げることで共重合体の屈折率が高められる。なお、分極率と屈折率の関係は、Lorentz−Lorentz式(下記式)に示されるような関係にある。
(n
2−1)/(n
2+2)=4πNα/3
式中、nは屈折率、Nは単位体積中の分子数、αは分極率である。式からわかるように、単位体積当たりの分極率αが高まるような化学構造を共重合体の分子鎖に導入すると、屈折率nが増加する。従って、共重合体の分子鎖に分子屈折の高い剛直な芳香環が導入されることにより、高いガラス転移点を有する環状オレフィン樹脂組成物を得やすい。
なお、屈折率の高い材料は、一般に、小さいアッベ数、すなわち大きな分散度を示す。
【0038】
上記式(B1)で表される化合物は、単官能モノマーであっても、多官能モノマーであってもよい。式(B1)で表される化合物は、bが1である場合に単官能モノマーであり、bが2以上の整数である場合に多官能モノマーである。
式(B1)中の、bは、1〜3の整数であるのが好ましく、1又は2であるのがより好ましく、1であるのが特に好ましい。
【0039】
式(B1)中のaの値は、芳香族モノマー(B)の重合反応性が良好であることから、2〜8が好ましく、2〜6がより好ましく、2〜4が特に好ましい。
【0040】
Tとしての炭化水素基は、1以上のベンゼン環を含む一方で、その炭素原子数は7以上である。このため、Aは、フェニル基、フェニレン基、ベンゼントリイル基等ではない。
Tとしての炭化水素基の炭素原子数の上限は特に限定されないが、50以下が好ましく、40以下がより好ましい。
【0041】
Tとしての炭化水素基の好適な例としては、C1−C10アルキルベンゼン(例えば、トルエン、エチルベンゼン)、又はC1−C10ジアルキルベンゼン(例えば、キシレン)からb個の水素原子を除いた基が挙げられる。
【0042】
また、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、アセナフテン、フルオレン、2,3−ベンゾフルオレン、フルオランテン、ピレン、テトラリン、ビフェニル、ターフェニル、ジフェニルメタン、及びトリフェニルメタン等の多環式の炭化水素化合物からb個の水素原子を除いた基も、Tとして好ましい。多環式の炭化水素化合物は、1又は複数のC1−C10アルキル基や、フェニル基で置換されていてもよい。
C1−C10アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、及びn−デシル基が挙げられ、嵩高く高屈折率化の効果が良好であることから、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、及びn−デシル基が好ましく、tert−ブチル基がより好ましい。
【0043】
Tとしては、高い屈折率と、高いガラス転移温度とを有する環状オレフィン樹脂組成物を得やすいことから、フルオレン、2,3−ベンゾフルオレン、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレン、3,6−ジ−tert−ブチルフルオレン、9,9−ジメチルフルオレン、9,9−ジエチルフルオレン、9,9−ジ−n−プロピルフルオレン、9,9−n−ヘキシルフルオレン、9,9−n−オクチルフルオレン、9,9−ジフェニルフルオレン、アントラセン、フェナントレン、又はピレンからb個の水素原子を除いた基が特に好ましい。
これらの基の中では、フルオレン、2,3−ベンゾフルオレン、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレン、又は3,6−ジ−tert−ブチルフルオレンから1又は2個の水素原子を除いた基が好ましく、1個の水素原子を除いた基がより好ましい。
これらの基の中では、フルオレン−9−イル基、2,3−ベンゾフルオレン−9−イル基、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレン−9−イル基、及び3,6−ジ−tert−ブチルフルオレン−9−イル基が好ましい。
【0044】
以上説明した式(B1)で表される化合物の好適な具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【化3】
【化4】
【0045】
式(B1)で表される化合物の製造方法は特に限定されないが、炭化水素基Tを与える炭化水素化合物を、周知の方法に従ってアルケニル化すればよい。
【0046】
環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体における、芳香族モノマー(B)に由来する構造単位の含有量は、全構造単位に対して1〜99モル%が好ましく、10〜90モル%がより好ましく、15〜80モル%が特に好ましい。
芳香族モノマー(B)に由来する構造単位の含有量をかかる範囲内とすることで、ガラス転移点が十分に高く耐熱性に優れ、かつ屈折率が十分に高い環状オレフィン樹脂組成物を得やすい。
【0047】
[α−オレフィンモノマー(C)]
環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体は、前述の環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位、及び芳香族モノマー(B)に由来する構造単位に加えて、α−オレフィンモノマー(C)に由来する構造単位を含むのが好ましい。
【0048】
α−オレフィンモノマー(C)としては、前述の環状オレフィンモノマー(A)及び芳香族モノマー(B)と共重合可能なα−オレフィンであれば特に限定されない。
α−オレフィンモノマーとしては、典型的には、C2〜C12のα−オレフィンや、ハロゲン原子等の少なくとも1種の置換基を有するC2〜C12のα−オレフィンが挙げられ、C4〜C12のα−オレフィンが好ましく、C6〜C10のα−オレフィンがより好ましい。
【0049】
C2〜C12のα−オレフィンは特に限定されないが、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン等が挙げられる。中でも、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセンが好ましい。
【0050】
環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体における、α−オレフィンモノマー(C)に由来する構造単位の含有量は、全構造単位に対して0〜70モル%が好ましく、5〜60モル%がより好ましく、5〜50モル%が特に好ましい。
α−オレフィンモノマー(C)に由来する構造単位の含有量をかかる範囲内とすることで、共重合体のTgを調整しやすく、さらには柔軟なα―オレフィンに由来して機械特性に優れた環状オレフィン樹脂組成物を得やすい。
【0051】
以上、環状オレフィンモノマー(A)、芳香族モノマー(B)、及びα−オレフィンモノマー(C)について説明したが、環状オレフィン樹脂組成物を構成する共重合体は、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位、芳香族モノマー(B)に由来する構造単位、及びα−オレフィンモノマー(C)に由来する構造単位以外のその他の構造単位を含んでいてもよい。その他の構造単位としては、重合反応を阻害しない範囲で、例えばハロゲン、硫黄原子、金属原子を含むモノマーを適用することができる。
【0052】
共重合体における、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位、芳香族モノマー(B)に由来する構造単位、及びα−オレフィンモノマー(C)に由来する構造単位の総量は、全構造単位のモル数に対して、70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましく、100モル%が最も好ましい。
【0053】
以上説明した構造単位を含む共重合体からなる環状オレフィン樹脂組成物は、高い屈折率を有する。環状オレフィン樹脂組成物の屈折率は、好ましくは1.54超であり、より好ましくは、1.56以上である。屈折率の上限は特に限定されないが、典型的には、1.85である。
【0054】
環状オレフィン樹脂組成物のガラス転移点は、耐熱性の観点から、135℃以上が好ましく、138℃以上がより好ましい。他方、成形加工性の観点から、環状オレフィン樹脂組成物のガラス転移点は、300℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましい。
【0055】
以上説明した環状オレフィン樹脂組成物は、射出成形や押出成形等の周知の加工方法によって、種々の成形品に加工される。成形品としては、環状オレフィン樹脂組成物が高い屈折率を有することから、高屈折率が要求される光学部品が好ましく挙げられる。かかる光学部品としては、レンズが好ましい。高い屈折率を有する環状オレフィン樹脂組成物を用いることにより、レンズの薄型化を図れる。
【0056】
≪環状オレフィン樹脂の製造方法≫
環状オレフィン樹脂は、環状オレフィンモノマー(A)と、芳香族モノマー(B)とを必須に含み、α−オレフィンモノマー(C)を任意に含むモノマー組成物を共重合させる方法により製造される。
以下、環状オレフィン樹脂の製造方法について説明する。
【0057】
[触媒]
触媒の種類は、前述のモノマーの共重合が良好に進行する限り特に限定されないが、典型的には、下記式(a1)で表される金属錯体が好ましく使用される。
【化5】
【0058】
式(a1)中、R
1a、R
2a、R
3a、及びR
4aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
R
1a及びR
2aは、それぞれC−Si結合、O−Si結合、Si−Si結合、又はN−Si結合によりケイ素原子に結合する。
R
3aはC−N結合、O−N結合、Si−N結合、又はN−N結合により窒素原子に結合する。
R
4aはC−M結合により金属原子Mに結合する。
R
5a及びR
6aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の有機置換基、又は無機置換基であり、p及びqは、それぞれ独立に0〜4の整数である。
R
5a及びR
6aがそれぞれ複数である場合、複数のR
5a及びR
6aは異なる基であってもよい。
複数のR
5aのうちの2つの基、又は複数のR
6aのうちの2つの基が芳香環上の隣接する位置に結合する場合、当該2つの基が相互に結合して環を形成してもよい。
Mは、Ti、Zr、又はHfである。
【0059】
なお、式(a1)中の金属原子Mは、ハプト数1〜5の範囲において、フルオレン骨格を有する配位子と、任意の配位形式をとることができる。
【0060】
R
1a、R
2a、R
3a、及びR
4aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基である。
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ヘテロ原子の具体例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0061】
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は特に限定されない。
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、炭素原子数と、ヘテロ原子数との合計は30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
【0062】
炭化水素基が含んでいてもよいヘテロ原子を含む結合としては、例えば、−O−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−C(=O)−O−C(=O)−、−O−C(=O)−O−、−C(=O)−N<、>N−C(=O)−N<、−S−、−S(=O)−、−S(=O)
2−、−S−S−、−C(=O)−S−、−C(=S)−O−、−C(=S)−S−、−C(=S)−N<、−N=、−N<、−N=N−、=N−O−、=N−S−、=N−N<、=N−Se−、−S(=O)
2−N<、−C=N−O−、−P<、−P(=O)<
、−Se−、−Se(=O)−、>Si<、及びシロキサン結合が挙げられる。
炭化水素基は、これらのヘテロ原子を含む結合を単独で含んでいてもよく、2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
【0063】
R
1a及びR
2aは、それぞれC−Si結合、O−Si結合、Si−Si結合、又はN−Si結合によりケイ素原子に結合する。
O−Si結合によりケイ素原子に結合するR
1a及びR
2aの好適な例としては、−OR、及び−O−C(=O)−Rで表される基が挙げられる。
Si−Si結合によりケイ素原子に結合するR
1a及びR
2aの好適な例としては、−SiR
3、−Si(OR)R
2、−Si(OR)
2R、及び−Si(OR)
3で表される基が挙げられる。
N−Si結合によりケイ素原子に結合するR
1a及びR
2aの好適な例としては、−NHR、及び−NR
2で表される基が挙げられる。
ここで、上記のRはいずれも炭化水素基である。
【0064】
R
3aは、C−N結合、O−N結合、Si−N結合、又はN−N結合により窒素原子に結合する。
O−N結合により窒素原子に結合するR
3aの好適な例としては、−OR、及び−O−C(=O)−Rで表される基が挙げられる。
Si−N結合により窒素原子に結合するR
3aの好適な例としては、−SiR
3、−Si(OR)R
2、−Si(OR)
2R、及び−Si(OR)
3で表される基が挙げられる。
N−N結合により窒素原子に結合するR
3aの好適な例としては、−NHR、及び−NR
2で表される基が挙げられる。
ここで、上記のRはいずれも炭化水素基である。
【0065】
配位子として使用する化合物の調製や入手が容易であることから、R
1aとR
2aとは同一の基であるのが好ましい。
【0066】
R
1a、R
2a、R
3a、及びR
4aとしては、化学的な安定性に優れることから、ヘテロ原子を含まない炭化水素基が好ましい。
かかる炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、二重結合及び/又は三重結合を有してもよい直鎖状又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基、シクロアルキル基、シクロアルキルアルキル基、芳香族炭化水素基、及びアラルキル基が好ましい。
【0067】
直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、及びn−イコシル基が挙げられる。
【0068】
二重結合及び/又は三重結合を有してもよい直鎖状又は分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基の好ましい例としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基の具体例として挙げた基において、1以上の単結合を二重結合及び/又は三重結合に置き換えた基が挙げられる。
より好ましくは、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、1−ブテニル基、エテニル基、及びプロパルギル基が挙げられる。
【0069】
シクロアルキル基の具体例としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノナデシル基、及びシクロイコシル基が挙げられる。
【0070】
シクロアルキルアルキル基の具体例としては、シクロプロピルメチル基、シクロブチルメチル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘプチルメチル基、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、シクロデシルメチル基、シクロウンデシルメチル基、シクロドデシルメチル基、シクロトリデシルメチル基、シクロテトラデシルメチル基、シクロペンタデシルメチル基、シクロヘキサデシルメチル基、シクロヘプタデシルメチル基、シクロオクタデシルメチル基、シクロノナデシルメチル基、2−シクロプロピルエチル基、2−シクロブチルエチル基、2−シクロペンチルエチル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロヘプチルエチル基、2−シクロオクチルエチル基、2−シクロノニルエチル基、2−シクロデシルエチル基、2−シクロウンデシルエチル基、2−シクロドデシルエチル基、2−シクロトリデシルエチル基、2−シクロテトラデシルエチル基、2−シクロペンタデシルエチル基、2−シクロヘキサデシルエチル基、2−シクロヘプタデシルエチル基、2−シクロオクタデシルエチル基、3−シクロプロピルプロピル基、3−シクロブチルプロピル基、3−シクロペンチルプロピル基、3−シクロヘキシルプロピル基、3−シクロヘプチルプロピル基、3−シクロオクチルプロピル基、3−シクロノニルプロピル基、3−シクロデシルプロピル基、3−シクロウンデシルプロピル基、3−シクロドデシルプロピル基、3−シクロトリデシルプロピル基、3−シクロテトラデシルプロピル基、3−シクロペンタデシルプロピル基、3−シクロヘキサデシルプロピル基、3−シクロヘプタデシルプロピル基、4−シクロプロピルブチル基、4−シクロブチルブチル基、4−シクロペンチルブチル基、4−シクロヘキシルブチル基、4−シクロヘプチルブチル基、4−シクロオクチルブチル基、4−シクロノニルブチル基、4−シクロデシルブチル基、4−シクロドデシルブチル基、4−シクロトリデシルブチル基、4−シクロテトラデシルブチル基、4−シクロペンタデシルブチル基、及び4−シクロヘキサデシルブチル基が挙げられる。
【0071】
芳香族炭化水素基の具体例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、2,3−ジメチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,3,4−トリメチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、2,4,5−トリメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、o−エチルフェニル基、m−エチルフェニル基、p−エチルフェニル基、o−イソプロピルフェニル基、m−イソプロピルフェニル基、p−イソプロピルフェニル基、o−tert−ブチルフェニル基、2,3−ジイソプロピルフェニル基、2,4−ジイソプロピルフェニル基、2,5−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジイソプロピルフェニル基、3,4−ジイソプロピルフェニル基、3,5−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、ビフェニル−4−イル基、ビフェニル−3−イル基、ビフェニル−2−イル基、アントラセン−1−イル基、アントラセン−2−イル基、アントラセン−9−イル基、フェナントレン−1−イル基、フェナントレン−2−イル基、フェナントレン−3−イル基、フェナントレン−4−イル基、フェナントレン−9−イル基、ピレン−1−イル基、ピレン−2−イル基、ピレン−3−イル基、及びピレン−4−イル基が挙げられる。
【0072】
アラルキル基の具体例としては、ベンジル基、フェネチル基、1−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、2−フェニルプロピル基、1−フェニルプロピル基、2−フェニル−1−メチルエチル基、1−フェニル−1−メチルエチル基(クミル基)、4−フェニルブチル基、3−フェニルブチル基、2−フェニルブチル基、1−フェニルブチル基、3−フェニル−2−メチルプロピル基、3−フェニル−1−メチルプロピル基、2−フェニル−1−メチルプロピル基、2−メチル−1−フェニルプロピル基、2−フェニル−1,1−ジメチルエチル基、2−フェニル−2,2,−ジメチルエチル基、α−ナフチルメチル基、β−ナフチルメチル基、2−α−ナフチルエチル基、2−β−ナフチルエチル基、1−α−ナフチルエチル基、及び1−β−ナフチルエチル基が挙げられる。
【0073】
以上説明した基の中でも、R
1a、及びR
2aとしては、炭素原子数1〜20のアルキル基及び炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基が好ましく、炭素原子数1〜10のアルキル基及び炭素原子数6〜10の芳香族炭化水素基がより好ましく、炭素原子数1〜6のアルキル基及びフェニル基がさらに好ましく、炭素原子数1〜4のアルキル基が特に好ましい。
【0074】
R
3aとしては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基、及び炭素原子数7〜20のアラルキル基が好ましい。
【0075】
R
4aとしては、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数2〜20のアルケニル基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基、及び炭素原子数7〜20のアラルキル基が好ましい。
【0076】
式(a1)中、R
5a及びR
6aは、それぞれ独立に、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の有機置換基、又は無機置換基であり、m及びnは、それぞれ独立に0〜4の整数である。
R
5a及びR
6aがそれぞれ複数である場合、複数のR
5a及びR
6aは異なる基であってもよい。
【0077】
有機置換基としては、従来芳香環上に置換し得ることが知られている有機基であって、上記式(a1)で表される触媒の生成反応を阻害しない基であれば特に限定されない。
かかる有機基としては、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基であって、上記式(a1)で表される触媒の生成反応を阻害しない基が挙げられる。
【0078】
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ヘテロ原子の具体例としては、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0079】
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は特に限定されない。
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、炭素原子数と、ヘテロ原子数との合計は30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が特に好ましい。
炭化水素基がヘテロ原子を含む場合、ヘテロ原子の数は10以下が好ましく、5以下がより好ましく、3以下が特に好ましい。
炭化水素基が含んでいてもよいヘテロ原子を含む結合としては、R
1a〜R
4aについて説明した結合が挙げられる。
【0080】
有機置換基としては、例えば、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜20のアルコキシ基、炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、炭素原子数2〜20の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、α−ナフチルカルボニル基、β−ナフチルカルボニル基、炭素原子数6〜20の芳香族炭化水素基、及び炭素原子数7〜20のアラルキル基が挙げられる。
これらの有機置換基の中では、炭素原子数1〜6のアルキル基、炭素原子数1〜6のアルコキシ基、炭素原子数3〜8のシクロアルキル基、炭素原子数2〜6の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基が好ましい。
有機置換基の中では、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、アセチル基、プロピオニル基、ブタノイル基、及びフェニル基がより好ましい。
【0081】
無機置換基としては、従来芳香環上に置換し得ることが知られている無機基であって、上記式(a1)で表される触媒の生成反応を阻害しない基であれば特に限定されない。
無機基の具体例としては、ハロゲン原子、ニトロ基、及びシアノ基等が挙げられる。
【0082】
複数のR
5aのうちの2つの基、又は複数のR
6aのうちの2つの基が芳香環上の隣接する位置に結合する場合、当該2つの基が相互に結合して環を形成してもよい。かかる環は、式(a1)中のフルオレン骨格に含まれる芳香環と縮合する、縮合環である。縮合環は、芳香環でもよく、脂肪族環でもよく、脂肪族環が好ましい。縮合環は、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子等のヘテロ原子を環中に有していてもよい。
【0083】
2つのR
5a及び/又は2つのR
6aにより形成された縮合環を備えるフルオレン骨格の具体例は、下式の骨格が挙げられる。
【化6】
【0084】
式(a1)中、Mは、Ti、Zr、又はHfであり、Tiが好ましい。
【0085】
以上説明した式(a1)で表される触媒の好適な例としては、以下の構造の触媒が挙げられる。
【化7】
【0086】
上記の好適な例の中では、下記式のチタニウム錯体((t−BuNSiMe
2Flu)TiMe
2)が特に触媒として好ましく用いられる。下記式のチタニウム錯体は、例えば、「Macromolecules、第31巻、3184頁、1998年」の記載に基づき、容易に合成することができる。
【化8】
【0087】
[助触媒]
環状オレフィン樹脂組成物の製造に際して共重合を行う場合、助触媒を用いるのが好ましい。助触媒としては、アルキルアルミノキサンが好ましい。上記助触媒は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
アルミノキサンとしては、アルキルアルミノキサンが好ましく用いられる。アルキルアルミノキサンとしては、例えば、下記式(b1−1)又は(b1−2)で表される化合物が挙げられる。下記式(b1−1)又は(b1−2)で表されるアルキルアルミノキサンは、トリアルキルアルミニウムと水との反応により得られる生成物である。
【0088】
【化9】
(式(b1−1)及び式(b1−2)中、R
bは炭素原子数1〜4のアルキル基、rは0〜40、好ましくは2〜30の整数を示す。)
【0089】
アルキルアルミノキサンとしては、メチルアルミノキサン及びメチルアルミノキサンのメチル基の一部を他のアルキル基で置換した修飾メチルアルミノキサンが挙げられる。修飾メチルアルミノキサンとしては、例えば、置換後のアルキル基として、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等の炭素数2〜4のアルキル基を有する修飾メチルアルミノキサンが好ましく、特に、メチル基の一部をイソブチル基で置換した修飾メチルアルミノキサンがより好ましい。アルキルアルミノキサンの具体例としては、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、プロピルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、イソブチルアルミノキサン、メチルエチルアルミノキサン、メチルブチルアルミノキサン、メチルイソブチルアルミノキサン等が挙げられ、中でも、メチルアルミノキサン及びメチルイソブチルアルミノキサンが好ましい。
【0090】
アルキルアルミノキサンは、公知の方法で調製することができる。また、アルキルアルミノキサンとしては、市販品を用いてもよい。アルキルアルミノキサンの市販品としては、例えば、MMAO−3A、TMAO−200シリーズ、TMAO−340シリーズ(いずれも東ソー・ファインケム(株)製)やメチルアルミノキサン溶液(アルベマール社製)等が挙げられる。
【0091】
共重合においてアルキルアルミノキサンを用いる場合、アルキルアルミノキサンとともに2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)を用いるのが好ましい。そうすることで、リビング重合が良好に進行しやすい。共重合がリビング重合により進行することにより分子量分布の小さな、均質な共重合体組成を有する環状オレフィン樹脂組成物を得やすい。BHT以外にも、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、4−sec−ブチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、が好適に使用される。
【0092】
[連鎖移動剤]
環状オレフィン樹脂組成物の製造に際して共重合を行う場合、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤は、連鎖移動能を有する化合物である。連鎖移動剤は、1種単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0093】
連鎖移動剤としては、特に限定されず、連鎖移動能を有する公知の化合物を用いることができ、例えば、アルキルアルミニウムが挙げられる。アルキルアルミニウムとしては、例えば、下記一般式(c1)で示される化合物が挙げられる。
(R
c1)
zAlX
3−z (c1)
(式中、R
c1は炭素原子数が1〜15、好ましくは1〜8のアルキル基であり、Xはハロゲン原子又は水素原子であり、zは1〜3の整数である。)
【0094】
炭素原子数が1〜15のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0095】
アルキルアルミニウムの具体例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリn−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリsec−ブチルアルミニウム、トリn−オクチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジメチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド;ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;ジメチルアルミニウムメトキシド等のジアルキルアルミニウムアルコキシドが挙げられる。
【0096】
その他の連鎖移動剤として、メタロセン触媒での重合で知られているChain Shuttling剤も用いることができる。Chain Shuttling剤の例として、上述したアルキルアルミニウムやアルキル亜鉛が挙げられる。アルキル亜鉛としては、例えば、下記一般式(c2)で示される化合物が挙げられる。
(R
c2)
yZnX
2−y (c2)
(式中、R
c2は炭素数が1〜15、好ましくは1〜8のアルキル基であり、Xはハロゲン原子又は水素原子であり、yは0〜2の整数である。)
【0097】
炭素原子数が1〜15のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−オクチル基等が挙げられる。
【0098】
アルキル亜鉛の具体例としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジn−ブチル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジsec−ブチル亜鉛アルミニウム、ジn−オクチル亜鉛等のジアルキル亜鉛;メチル亜鉛クロリド、イソブチル亜鉛クロリド等のアルキル亜鉛ハライド;イソブチル亜鉛ハイドライド等のアルキル亜鉛ハイドライド;メチル亜鉛メトキシド等のアルキル亜鉛アルコキシド;塩化亜鉛等のハロゲン化亜鉛等が挙げられる。
【0099】
アルキルアルミニウム又はアルキル亜鉛は、重合系内に直接投入しても、またアルキルアルミノキサン中に含有させた状態で投入してもよい。また、アルキルアルミノキサンを製造する際に用いられ、製造後に残存する原料のアルキルアルミニウムでもよい。また、アルキルアルミニウムとアルキル亜鉛は組み合わせて使用してもよい。
【0100】
[イオン化合物]
環状オレフィン樹脂組成物の製造に際して共重合を行う場合、イオン化合物を用いてもよい。イオン化合物は、触媒との反応によりカチオン性遷移金属化合物を生成する化合物である。
かかるイオン性化合物としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートのアニオン、(CH
3)
2N(C
6H
5)H
+のような活性プロトンを有するアミンカチオン、(C
6H
5)
3C
+のような三置換カルボニウムカチオン、カルボランカチオン、メタルカルボランカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等のイオン化合物を用いることができる。
【0101】
[共重合条件]
共重合条件は、所望の共重合体が得られる限り、特に限定されず、公知の条件を用いることができ、重合温度、重合圧力、重合時間等は適宜調整される。
【0102】
重合温度は、所望する速度で重合反応が進行する限り特に限定されない。重合温度は、典型的には、−20〜120℃であり、−10〜100℃が好ましく、0〜90℃がより好ましい。
重合時間は特に限定されず、所望する収率に達するか、重合体の分子量が所望する程度に上昇するまで重合が行われる。
重合時間は、温度や、触媒組成物の組成や、単量体組成によっても異なるが、典型的には0.01〜120時間であり、0.01〜80時間が好ましく、0.01〜20時間がより好ましい。
【0103】
触媒の使用量は、環状オレフィンモノマー(A)1モルに対し、0.0001モル以上0.2モル以下であることが好ましく、0.001モル以上0.1モル以下であることがより好ましい。
助触媒であるアルキルアルミノキサンの使用量は、環状オレフィンモノマー(A)1モルに対し、Al基準で0.001モル以上400モル以下であることが好ましく、0.01モル以上40モル以下であることがより好ましい。
連鎖移動剤の使用量は、環状オレフィンモノマー(A)1モルに対し、0.0005モル以上200モル以下であることが好ましく、0.005モル以上20モル以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0105】
[合成例1]
以下の方法に従って、9−(4−ペンテン−1−イル)−フルオレンを芳香族モノマーとして合成した。
まず、反応容器中で、フルオレン(0.5g、3.01mm)をジエチルエーテル12.5mL中に溶解させた。得られた溶液を0℃に冷却した後、溶液にn−ブチルリチウム(濃度2.67M、ヘキサン溶液、1.24mL、3.31mmol)を滴下した。滴下後、室温で4時間撹拌して反応を行った。
反応後、溶媒を減圧留去した後、残渣をヘキサン12.5mLで3回洗浄した。洗浄後の残渣を、ジエチルエーテル12.5mL中に溶解させた。
得られた溶液を−78℃に冷却させた後、溶液に5−ブロモ−1−ペンテン(0.36mL、3.01mmol)を滴下した。滴下後、溶液を一晩室温で撹拌して反応を行った。
反応後、溶液にイオン交換水4.2mLを加えて、有機層の洗浄を行った。洗浄後、有機層と、水層とに分液し、回収された有機層を硫酸ナトリウムを用いて乾燥させた。
乾燥後の有機層から溶媒を減圧留去して、9−(4−ペンテン−1−イル)−フルオレン(収量0.35g、収率50%)を得た。
得られた9−(4−ペンテン−1−イル)−フルオレンの
1H−NMRスペクトルを、
図1に示す。
【0106】
[合成例2]
フルオレンを2,3−ベンゾフルオレンに変えることの他は、合成例1と同様の方法により9−(4−ペンテン−1−イル)−2,3−ジベンゾフルオレンを得た。収率55%。
【0107】
[合成例3]
フルオレンを2,7−ジ−tert−ブチルフルオレンに変えることの他は、合成例1と同様の方法により9−(4−ペンテン−1−イル)−2,7−ジ−tert−ブチルフルオレンを得た。収率34%。
【0108】
[合成例4]
フルオレンを3,6−ジ−tert−ブチルフルオレンに変えることの他は、合成例1と同様の方法により9−(4−ペンテン−1−イル)−3,6−ジ−tert−ブチルフルオレンを得た。収率39%。
【0109】
[実施例1]
環状オレフィン樹脂組成物を製造するに際し、下記の触媒と、下記の助触媒とを用いた。
触媒:(t−BuNSiMe
2Flu)TiMe
2
助触媒:6.5質量%(Al原子の含有量として)MMAO−3Aトルエン溶液([(CH
3)
0.7(iso−C
4H
9)
0.3AlO]
nで表されるメチルイソブチルアルミノキサンの溶液、東ソー・ファインケム(株)製、なお全Alに対して約6mol%のトリメチルアルミニウム、約5.5mol%のトリイソブチルアルミニウムを含有する)
【0110】
まず、反応容器中で、助触媒(1.92mL、4mmol)と、トルエン1.3mLと、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)(濃度0.5M、トルエン溶液、0.6mL、0.3mmol)とを混合した。得られた混合液を、室温で30分間撹拌した。
次いで、混合液に、9−(4−ペンテン−1−イル)−フルオレン(234mg、1mmol)と、ノルボルネン(濃度5.8M、トルエン溶液、0.18mL、1mmol)と、触媒(濃度0.02M、トルエン溶液、1mL、20μmol)とを加えた。その後、反応溶液の内容物を5分間撹拌して共重合反応を行った。
反応溶液中にイソプロピルアルコールを加えて反応を停止させた後、塩酸を加えて、反応溶液をさらに室温で1時間撹拌した。反応溶液に、5mLのイオン交換水を加えて室温にてさらに1時間撹拌した。得られた溶液を分液漏斗に移し、有機層を5mLのイオン交換水で3回洗浄を行った後、5mLのアセトン中にゆっくり滴下することでポリマーを析出させた。析出物をろ過により回収し、アセトンにより洗浄した後、100℃で12時間真空乾燥を行い、9−(4−ペンテン−1−イル)−フルオレンと、ノルボルネンとの共重合体201mg(モノマー転化率61%)を得た。なお、モノマー転化率は、重合により得られた共重合体重量を、重合反応に仕込んだ全モノマーのモル量から算出した重量で除した百分率である。
【0111】
得られた共重合体について、以下の方法に従って、共重合体のモノマー組成、ガラス転移点(Tg)、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、屈折率(D線、n
D)、及びアッベ数(V
D)を測定した。また、測定されたMnの値と、Mwの値とから分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
ガラス転移点、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、屈折率(D線、n
D)、及びアッベ数(V
D)の測定結果を表2に記す。
【0112】
<共重合体のモノマー組成>
NMR装置:BrukerAVANCE600
測定溶媒:1、1、2、2−テトラクロロエタン−d
2
測定核種:
13C
測定温度:381K
サンプル濃度:70mg/mL
サンプルチューブ径:10mm
測定方法:power gate法
デカップリング:完全デカップリング
積算回数:18000回
ケミカルシフトのリファレンス:1、1、2、2−テトラクロロエタン−d
2に含まれる、重水素化されていない1、1、2、2−テトラクロロエタンのピークを74.47ppmとし、共重合体のモノマー組成を求めた。
【0113】
<ガラス転移点>
DSC法(JIS K7121記載の方法)によって、共重合体のTgを測定した。
DSC装置:示差走査熱量計(TA Instrument社製 DSC−Q1000)
測定雰囲気:窒素
測定モード:Modurated
昇温条件:2℃/分
【0114】
<分子量>
共重合体の数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)を以下の測定条件に従って、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。
装置:Malvern社製 Viscotek TDA302検出器+Pump autosampler装置
検出器:RI
溶媒:トルエン
カラム:東ソー社製 TSKgel GMHHR−M(300mm×7.8mmφ)
流速:1mL/分
温度:75℃
試料濃度:2.5mg/mL
注入量:100μL
標準試料:単分散ポリスチレン
【0115】
<屈折率(D線、n
D)とアッベ数(V
D)>
共重合体の屈折率とアッベ数を、以下の測定条件に従って測定した。
装置:プリズムカプラ model 2010/M(Metricon社製)
測定サンプル:厚さ100μmのアルミニウム板を型枠として使用し、圧力:10MPa、温度:共重合体のTg+50℃、時間:10分の条件で熱真空プレス機により、共重合体の粉末を真空プレスさせた。得られたフィルムを熱真空プレス機から取出し、氷水中に投入して急冷させ、厚さ100μmの試験片を得た。
測定波長:407.0nm、632.8nm、826.0nm、1309nmに対する屈折率を測定した。
屈折率測定方法:上記4波長に対する屈折率から、589.3nmに対する屈折率を近似式より算出し、共重合体のn
Dを求めた。
アッベ数測定方法:上記4波長に対する屈折率から、589.3nmに対する屈折率(n
D)、488.0nmに対する屈折率(n
F)、656.3nmに対する屈折率(n
C)を近似式より算出し、以下の式に従い共重合体のアッベ数を求めた。
V
D=(n
D−1)/(n
F−n
C)
【0116】
[実施例2〜8、比較例1〜2]
実施例2〜8では、芳香族モノマー(B)の種類と、モノマーの組成とを、表1に記載されるように変更することの他は、実施例1と同様にして共重合体を得た。
比較例1の環状オレフィン樹脂組成物としては、公知の方法で製造されたノルボルネン−エチレン共重合体を用いた。
比較例2の環状オレフィン樹脂組成物としては、公知の方法で製造されたノルボルネン−1−オクテン共重合体を用いた。
得られた共重合体のガラス転移点、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、屈折率(D線、n
D)、及びアッベ数(V
D)の測定結果を表2に記す。
【0117】
【表1】
【0118】
【表2】
【0119】
表1及び表2によれば、環状オレフィン樹脂組成物が、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位と、所定の構造を有する芳香族モノマー(B)に由来する構造単位とを有する共重合体からなる場合、環状オレフィン樹脂組成物が1.54を超える高い屈折率と、135℃を超える高いガラス転移点(Tg)とを有することが分かる。
他方、環状オレフィン樹脂組成物が、環状オレフィンモノマー(A)に由来する構造単位を含む一方で、所定の構造を有する芳香族モノマー(B)に由来する構造単位を含まない場合、1.54を超える高い屈折率を有する環状オレフィン樹脂組成物を得にくいことが分かる。