【課題】経時安定性に優れる酸化物半導体粒子を含むペースト、ならびに該ペーストを用いて形成されることにより品質安定性に優れた酸化物半導体膜および色素増感型太陽電池を提供する。
【解決手段】本発明に係るペーストは、酸化物半導体粒子と、前記酸化物半導体粒子に付着した、分子中に1個以上の水酸基および1個以上の炭素不飽和結合を有する脂肪酸と、分散媒と、バインダと、を含む。これにより、酸化物半導体粒子を含むペーストの経時安定性を優れたものとすることができる。
前記バインダが、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂およびブチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のペースト。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は本発明の趣旨をより良く理解させるための一例としての態様であり、本発明は、これに限定されない。
【0013】
<1. ペースト>
まず、本実施形態に係るペーストについて説明する。本実施形態に係るペーストは、酸化物半導体粒子を含み、例えば後述する酸化物半導体膜や、色素増感型太陽電池の製造に用いられる。この場合、本実施形態に係るペーストは、酸化物半導体膜用ペーストまたは色素増感型太陽電池用ペーストである。以下、本実施形態に係るペーストが、酸化物半導体膜や、色素増感型太陽電池の製造に用いられるものとして説明するが、本発明のペーストの用途はこれに限定されるものではない。
【0014】
また、本実施形態に係るペーストは、酸化物半導体粒子と、該酸化物半導体粒子に付着した分子中に1個以上の水酸基および1個以上の炭素不飽和結合を有する脂肪酸(以下「水酸基含有不飽和脂肪酸」ともいう。)と、分散媒と、バインダと、を含む。以下、上記ペーストの成分等の構成について詳細に説明する。
【0015】
(1.1 酸化物半導体粒子)
上述したように、本実施形態に係るペーストは、酸化物半導体粒子を含む。酸化物半導体粒子は、製造される色素増感型太陽電池の電極においては、色素を担持する半導体(酸化物半導体膜)を構成する。
【0016】
酸化物半導体粒子としては、上述した半導体としての機能を発揮するものであれば、特に限定されないが、例えば、単金属酸化物またはペロブスカイト構造を有する化合物を使用することができる。単金属酸化物として、好ましくはチタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、およびタンタル等の酸化物が挙げられる。ペロブスカイト構造を有する化合物として、好ましくはチタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バリウム、およびニオブ酸カリウム等が挙げられる。なお、酸化物半導体粒子として、上記に列挙された1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
酸化物半導体粒子は、上述の中でも、後に吸着させる色素との電子授受を容易に行うことができ、光電変換素子として構成した場合の発電効率を向上させるという観点から、好ましくは酸化チタンおよび/または酸化亜鉛であり、より好ましくは酸化チタンである。特に好ましくは、電子の還元力が高く、電子の移動度が高いために、光電変換効率に優れるアナターゼ型の酸化チタンを用いる。アナターゼ型の酸化チタン粒子は、例えば、後述する製法や、国際公開第2016/052561号や特開2007−176753号公報に記載された製法により作製されたものを用いることができる。
【0018】
酸化物半導体粒子のBET比表面積は、特に限定されないが、色素を吸着し、ペースト中での分散を維持する観点から、好ましくは40m
2/g以上150m
2/g以下、より好ましくは50m
2/g以上100m
2/g以下、さらに好ましくは55m
2/g以上75m
2/g以下である。
【0019】
酸化物半導体粒子の平均粒子径は、特に限定されないが、色素を吸着し、ペースト中での分散を維持する観点から、例えば5nm以上30nm以下、好ましくは10nm以上25nm以下である。
酸化物半導体粒子の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて測定することができる。例えば、酸化物半導体粒子を所定数、例えば、200個、あるいは100個を選び出す。そして、これら酸化物半導体粒子各々の最長の直線部分(最大長径)を測定し、これらの測定値を加重平均して求める。
【0020】
ここで、酸化物半導体粒子同士が凝集している場合には、この凝集体の凝集粒子径を測定するのではない。この凝集体を構成している酸化物半導体粒子の粒子(一次粒子)を所定数測定し、平均粒子径とする。
【0021】
酸化物半導体粒子は、本実施形態のペースト中に、好ましくは19質量%以上29質量%以下、より好ましくは20質量%以上28質量%以下含有される。
【0022】
(1.2 水酸基含有不飽和脂肪酸)
また、本実施形態に係るペーストは、水酸基含有不飽和脂肪酸を含む。水酸基含有不飽和脂肪酸は、ペースト内において、少なくともその一部が酸化物半導体粒子の表面に付着して、酸化物半導体粒子の凝集を防止する。
【0023】
ここで、水酸基含有不飽和脂肪酸が酸化物半導体粒子に「付着する」とは、水酸基含有不飽和脂肪酸が酸化物半導体粒子に対し、これらの間の相互作用により接触または結合することをいう。接触としては、例えば物理吸着が挙げられる。また、結合としては、イオン結合、水素結合、共有結合等が挙げられる。このうち、共有結合としては、例えば、水酸基含有不飽和脂肪酸のカルボン酸基と酸化物半導体粒子の表面に露出した水酸基との間のエステル結合が挙げられる。なお、上記で例示した接触または結合の複数の原理のうち2以上の組み合わせによって、水酸基含有不飽和脂肪酸が酸化物半導体粒子に付着していてもよい。
【0024】
このような水酸基含有不飽和脂肪酸としては、分子中に1個以上の水酸基および1個以上の炭素不飽和結合を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは、分散媒および後述するバインダとの相溶性を考慮して適宜選択、使用される。
【0025】
水酸基含有不飽和脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、有機溶媒への相溶性を向上させる観点から、好ましくは8以上25以下、より好ましくは12以上23以下、さらに好ましくは15以上20以下である。
【0026】
また、水酸基含有不飽和脂肪酸における炭素間の不飽和結合(炭素‐炭素不飽和結合)数は、特に限定されないが、有機溶媒への相溶性を向上させる観点から、好ましくは1個以上6個以下、より好ましくは1個以上3個以下、さらに好ましくは1個である。
【0027】
また、水酸基含有不飽和脂肪酸における水酸基の数は、特に限定されないが、酸化物半導体粒子との相互作用および有機溶媒への相溶性を考慮すると、好ましくは1個以上3個以下、より好ましくは1個以上2個以下、さらに好ましくは1個である。
【0028】
また、水酸基含有不飽和脂肪酸を構成する炭化水素鎖は、直鎖状、分岐状および環状のいずれであってもよいが、酸化物半導体粒子との相互作用および有機溶媒への相溶性を考慮すると、好ましくは、直鎖状である。
【0029】
このような水酸基含有不飽和脂肪酸としては例えば、リシノール酸、リシノステアロイル酸等を用いることができる。好ましくは、水酸基含有不飽和脂肪酸は、リシノール酸を含む。
なお、水酸基含有不飽和脂肪酸は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0030】
水酸基含有不飽和脂肪酸は、ペースト中、酸化物半導体粒子100質量部に対して、好ましくは10質量部以上50質量部以下、より好ましくは15質量部以上40質量部以下、さらに好ましくは20質量部以上30質量部以下含まれる。
【0031】
(1.3 分散媒)
本実施形態に係るペーストは、上述したように分散媒を含む。分散媒は、ペースト中において、酸化物半導体粒子の分散媒として機能するとともに、後述するバインダや他の成分の溶媒としても機能する。
【0032】
分散媒としては、特に限定されず、例えば、液状の有機化合物、いわゆる「有機溶媒」を単独または2種以上組み合わせて用いることができる。好ましくは、上述した水酸基含有不飽和脂肪酸が付着した酸化物半導体粒子と混合することができ、スクリーン印刷に適した粘度に調整できる有機溶媒を選択する。
【0033】
このような有機溶媒としては、例えば、ターピネオール、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、アセテート、トルエン、メタノールやエタノール等の各種アルコールおよびキシレンからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
本実施形態に係るペーストは、分散媒として、好ましくはターピネオールを含み、より好ましくはターピネオールに加えブチルカルビトールをさらに含む。
【0034】
分散媒は、本実施形態のペースト中に、好ましくは60質量%以上75質量%以下、より好ましくは62質量%以上74質量%以下、さらに好ましくは65質量%以上72質量%以下含有される。なお、複数種類の分散媒を含有させる場合、上記範囲は、合計の含有量の範囲を示す。
【0035】
特に、ターピネオールは、ペースト中に、好ましくは45質量%以上70質量%、より好ましくは46質量%以上68質量%以下、さらに好ましくは48質量%以上67質量%以下含有される。
【0036】
(1.3 バインダ)
本実施形態に係るペーストは、バインダを含む。バインダは、ペーストのレオロジー特性を調整するために添加され、例えばスクリーン印刷における印刷性を向上させる。また、バインダは、焼成において除去されることにより、酸化物半導体膜における細孔の形成に寄与する。
【0037】
このようなバインダとしては、水酸基含有不飽和脂肪酸が付着した酸化物半導体粒子と混合することができ、スクリーン印刷に適した粘度に調整できるバインダであれば、特に限定されない。
ペーストは、このようなバインダとして、例えば、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂およびブチルメタクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を含むことができる。
【0038】
バインダは、本実施形態に係るペースト中に、好ましくは1質量%以上7質量%以下、より好ましくは2質量%以上6質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上5質量%以下含有される。なお、複数種類のバインダを含有させる場合、上記範囲は、合計の含有量の範囲を示す。
【0039】
(1.4 その他の成分)
本実施形態に係るペーストは、上述した成分に加え、pH調整剤、分散剤、活性剤、可塑剤等の一般的に使用される添加剤をさらに含んでもよい。
【0040】
例えば、pH調整剤は、ペーストのpHを調整することにより、ペースト中の各成分の化学的、物理的安定性を向上させることができる。このようなpH調整剤としては、一般的な酸および/または塩基を用いることができる。
具体的には、酸としては、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸等を用いることができる。なお、後述する方法により酸化物半導体粒子を調製した場合、必然的にペースト中に酸が残存し、含まれることとなる。
【0041】
以上説明した本実施形態に係るペーストの粘度は、特に限定されず用途に応じて適宜設定できるが、スクリーン印刷に用いる場合、製造直後において25℃で測定する値が、例えば10Pa・s以上300Pa・s以下、好ましくは30Pa・s以上200Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s以上150Pa・s以下である。なお、粘度は、例えばJIS Z 8803:2011に記載される方法を用いて測定することができる。
【0042】
本実施形態に係るペーストは、水酸基含有不飽和脂肪酸が付着した酸化物半導体粒子と、分散媒と、バインダと、を含むため、ペーストの経時安定性に優れる。
本実施形態に係るペーストの経時安定性が優れる理由の詳細は不明だが、以下のように推察される。
【0043】
酸化物半導体粒子は、その表面に水酸基や吸着水が存在するため、一般的に親水性である。一方で、バインダ等の他の成分を溶解することのできる有機溶媒としての分散媒は通常疎水性であるため、均一なペーストを作製することはできても、時間の経過につれて、酸化物半導体粒子同士が凝集することを抑制することは困難である。
【0044】
しかし本実施形態では、酸化物半導体粒子の表面に水酸基含有不飽和脂肪酸を付着させることにより、酸化物半導体粒子の表面を疎水化し、酸化物半導体粒子の分散媒との親和性を高めることにより、酸化物半導体粒子同士の凝集を抑制できると推察される。
【0045】
<2.ペーストの製造方法>
次に、本実施形態に係るペーストの製造方法について説明する。本実施形態に係るペーストは、例えば、水酸基含有不飽和脂肪酸が付着した酸化物半導体粒子、溶媒、およびバインダを、公知の方法により混合することにより得ることができる。
【0046】
以下、水酸基含有不飽和脂肪酸を酸化物半導体粒子に付着させる方法について、酸化物半導体粒子としてアナターゼ型の酸化チタン粒子を用いる場合を例に詳述する。
【0047】
水酸基含有不飽和脂肪酸を酸化チタン粒子に付着させる製造方法は、アナターゼ型の酸化チタン粒子を含むpHが9以上13以下の水分散液を作製する工程(水分散液作製工程)と、この水分散液に水酸基含有不飽和脂肪酸を溶解させる工程(溶解工程)と、酸を添加して、水酸基含有不飽和脂肪酸を酸化チタン粒子の表面に付着させる工程(付着工程)を有する。
【0048】
(2.1 水分散液作製工程)
まず、アナターゼ型の酸化チタン粒子を含むpHが9以上13以下の水分散液を作製する方法としては、チタンアルコキシドまたはチタン金属塩の加水分解生成物と、有機アルカリ類とを混合して反応溶液を作製し、この反応溶液を高温高圧の熱水の存在下で反応(水熱合成)させる方法が挙げられる。
【0049】
チタンアルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタンまたはテトラノルマルブトキシチタン等が挙げられる。入手が容易であり、かつ加水分解速度が制御しやすいことから、チタンアルコキシドは、好ましくはテトライソプロポキシチタンおよびテトラノルマルブトキシチタンであり、より好ましくはテトライソプロポキシチタンである。
【0050】
チタン金属塩としては、例えば、四塩化チタンまたは硫酸チタン等が挙げられる。
【0051】
高純度のアナターゼ型の酸化チタン粒子を得るためには、好ましくは高純度のチタンアルコキシドまたは高純度のチタン金属塩を用いる。
【0052】
加水分解生成物は、上述のチタンアルコキシドまたはチタン金属塩を加水分解することにより得られる。得られる加水分解生成物は、例えば、ケーキ状固体であり、メタチタン酸やオルトチタン酸と呼ばれる含水酸化チタンである。
【0053】
チタンアルコキシドまたはチタン金属塩を加水分解することにより得られた加水分解生成物には、副生成物であるアルコール類、塩酸および硫酸が含まれる。これらは、酸化チタン粒子の結晶成長を阻害するため、好ましくは純水で洗浄する。加水分解生成物の洗浄方法としては、例えば、デカンテーション、ヌッチェ法、限外濾過法が好ましい。
【0054】
次いで、加水分解生成物を有機アルカリ類と混合して反応溶液を作製する。本実施形態において、有機アルカリ類は、反応溶液のpH調整剤としての機能と、後述する水熱合成の触媒としての機能とを有する。この有機アルカリ類としては、例えば、アミン類、高分子アミンおよび高分子アミンの塩、アンモニアまたは窒素を含む五員環を有する化合物等が挙げられる。
【0055】
上述のアミン類としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。
【0056】
上述の高分子アミンおよび高分子アミンの塩としては、上述のアミン類からなる高分子アミンおよび高分子アミンの塩が挙げられる。
【0057】
上述の窒素を含む五員環を有する化合物としては、例えば、ピロール、イミダゾール、インドール、プリン、ピロリジン、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、イソチアゾール、イソオキサゾール、フラザン、カルバゾールまたは1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネン等が挙げられる。
【0058】
上述した窒素を含む五員環を有する化合物において、窒素原子を一つ含む五員環を有する化合物は、結晶性の優れたアナターゼ型の酸化チタン粒子を製造できるため好ましい。例えば、ピロール、インドール、ピロリジン、イソチアゾール、イソオキサゾール、フラザン、カルバゾールおよび1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネンが挙げられる。
【0059】
さらに、上述した窒素原子を一つ含む五員環を有する化合物において、五員環が飽和複素環構造を有する化合物は、上述の化合物よりもさらに粒度分布が狭く、結晶性の優れた酸化チタン粒子を製造できるため、好ましい。例えば、ピロリジンおよび1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネンが挙げられる。
【0060】
本実施形態において、窒素を含む五員環を有する化合物の配合量は、加水分解生成物中のチタン原子1molに対して好ましくは0.01mol以上1.0mol以下、より好ましくは0.05mol以上0.7mol以下、さらに好ましくは0.1mol以上0.5mol以下である。
【0061】
チタンアルコキシドまたはチタン金属塩の加水分解生成物と、有機アルカリ類との混合方法は、これらを均一に分散できるのであれば、特に限定されない。混合方法としては、例えば、加水分解生成物および有機アルカリ類を、撹拌機、ビーズミル、ボールミル、アトライターおよびディゾルバー等を使用して混合する方法が挙げられる。
【0062】
また、本実施形態においては、反応溶液に水を添加し、反応溶液の濃度調整を行ってもよい。反応溶液に添加される水としては、例えば、脱イオン水、蒸留水または純水等が挙げられる。
【0063】
水熱合成後の溶液のpHは、好ましくは9以上13以下、より好ましくは11以上13以下である。本実施形態においては、有機アルカリ類の配合量を制御することによって、水熱合成後の溶液のpHを上述の範囲内に制御することが可能である。
【0064】
また、水熱合成後の溶液のpHが上記範囲であることにより、酸化チタン粒子の比表面積を40m
2/g以上150m
2/g以下に制御することができる。さらに、後から添加する水酸基含有不飽和脂肪酸を、水分散液中に溶解することができる。
【0065】
反応溶液中のチタン原子濃度は、酸化チタン粒子の所望の比表面積に応じて適宜設定することができる。反応溶液中のチタン原子濃度は、好ましくは0.05mol/L以上3.0mol/L以下、より好ましくは0.5mol/L以上2.5mol/L以下である。本実施形態においては、チタンアルコキシドまたはチタン金属塩の加水分解生成物の含有量を制御することによって、反応溶液中のチタン原子濃度を上述の範囲内に制御することができる。
【0066】
また、反応溶液中におけるチタン原子濃度が上記範囲であることにより、酸化チタン粒子の比表面積を40m
2/g以上150m
2/g以下に制御することができる。
【0067】
次に、上述の反応溶液を高温高圧の熱水の存在下で反応させることにより、アナターゼ型の酸化チタン粒子を製造することができる。このように高温高圧の熱水の存在下で反応させる合成を水熱合成という。本実施形態の水熱合成では、密閉可能な高温高圧容器(オートクレーブ)が好ましく使用される。
【0068】
水熱合成における加熱温度は、好ましくは150℃以上350℃以下、より好ましくは150℃以上210℃以下である。本実施形態において、室温から上述の温度範囲までの加熱速度は、特に限定されない。また、本実施形態の水熱合成における圧力は、密閉容器において反応溶液を上述の温度範囲に加熱したときの圧力に設定される。
【0069】
水熱合成における加熱温度が上述の範囲内であると、チタンアルコキシドまたはチタン金属塩の加水分解生成物の水への溶解性が向上し、反応溶液中で溶解させることができる。さらに、水熱合成における加熱温度が上述の範囲内であると、酸化チタン粒子の核を生成でき、その核を成長させることができる。
【0070】
本実施形態の水熱合成における加熱時間は、酸化チタン粒子が所望の比表面積になるように適宜調整して実施すればよいが、好ましくは3時間以上、より好ましくは4時間以上である。加熱時間が3時間よりも短いと、その反応溶液の組成によっては、原料(チタンアルコキシドまたはチタン金属塩の加水分解生成物)が消費されず、収率が低下することがある。加熱時間は、原料の種類や濃度に影響されるため、適宜予備実験をして、酸化チタン粒子が所望の比表面積になるような加熱時間で実施すればよい。例えば、加熱時間は9時間であってもよく、12時間であってもよく、24時間であってもよく、48時間であってもよく、72時間であってもよい。ただし、生産効率の観点から、酸化チタン粒子が所望の比表面積に達した時点で加熱をやめてもよい。
以上により、所望のアナターゼ型の酸化チタン粒子を含むpHが9以上13以下の水分散液を製造することができる。
【0071】
(2.2 溶解工程)
次に、溶解工程では、アナターゼ型の酸化チタン粒子を含むpHが9以上13以下の水分散液に水酸基含有不飽和脂肪酸を溶解させる。具体的には、本工程では、上記で得られた水分散液に水酸基含有不飽和脂肪酸を添加して、公知の方法で混合すればよい。なお、水分散液は比較的高いpHを有することから、添加された水酸基含有不飽和脂肪酸のカルボキシル基は水分散液中において中和されることにより水素イオンを放出する。この結果水酸基含有不飽和脂肪酸の水分散液への溶解が容易となる。
【0072】
水酸基含有不飽和脂肪酸の添加量は、使用する有機溶媒の疎水性と同程度になるように適宜調整すればよいが、例えば、酸化チタン粒子1質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.15質量部以上0.4質量部以下添加する。
【0073】
水酸基含有不飽和脂肪酸は上記で説明したものと全く同様であるため、説明を省略する。
【0074】
(2.3 付着工程)
次に、付着工程では、酸を添加して、水酸基含有不飽和脂肪酸を酸化チタン粒子の表面に付着させる。具体的には、水酸基含有不飽和脂肪酸が溶解した上記水分散液に、アナターゼ型の酸化チタン粒子が凝集するまで酸を滴下すればよい。
【0075】
この際に、水分散液中において、水酸基含有不飽和脂肪酸のカルボキシル基は、水分散液のpHの低下に伴い水素イオンと再度結合し、この結果水分散液中における水酸基含有不飽和脂肪酸の溶解度が低下する。一方で、酸化チタンも、表面に存在する陰イオン基(−O
−)に対し水素イオンが結合し、水酸基となる。そして、溶解度が低下した水酸基含有不飽和脂肪酸は、酸化チタン粒子表面の水酸基と水素結合し、この結果水酸基含有不飽和脂肪酸が酸化チタン粒子表面に付着する。酸化チタン粒子表面に付着した水酸基含有不飽和脂肪酸は溶解度が低下しているから、酸化チタン粒子の親水性が低下し、酸化チタン粒子が凝集する。
【0076】
酸の滴下量は、水酸基含有不飽和脂肪酸の溶解度が十分に低下し、かつ酸化チタン粒子表面の電位の絶対値が極小値を持つ、pHが5〜9となるように適宜調整すればよい。
【0077】
酸は、水素イオンを供給できるものであれば特に限定されないが、硝酸、硫酸、塩酸、酢酸等を用いることが好ましい。
【0078】
得られた凝集物を固液分離で回収し、乾燥させることで、水酸基含有不飽和脂肪酸が結合したアナターゼ型の酸化チタン粒子を得ることができる。
【0079】
(2.4 ペーストの製造)
最後に、得られた水酸基含有不飽和脂肪酸が結合したアナターゼ型の酸化チタン粒子と、分散媒と、バインダとを混合し、3本ロールミルで混練することで、本実施形態に係るペーストを得ることができる。
【0080】
本実施形態に係るペーストによれば、水酸基含有不飽和脂肪酸が結合した酸化物半導体粒子を用いているため、ペーストの経時安定性に優れる。
【0081】
<3. 酸化物半導体膜>
次に、本実施形態に係る酸化物半導体膜について説明する。本実施形態にかかる酸化物半導体膜は、上述したペーストの焼成物からなる膜である。本実施形態の酸化物半導体膜は、例えば色素増感型太陽電池の酸化物半導体電極に好適に用いることができる。
酸化物半導体膜のBET比表面積は、色素を多く吸着する観点から、好ましくは50m
2/g以上200m
2/g以下、より好ましくは60m
2/g以上150m
2/g以下、さらに好ましくは60m
2/g以上130m
2/g以下である。
【0082】
酸化物半導体膜の膜厚は所望の特性に応じて適宜調整すればよいが、例えば、好ましくは1μm以上100μm以下の範囲、より好ましくは3μm以上50μm以下、さらに好ましくは5μm以上30μm以下の範囲である。
酸化物半導体膜は単層であってもよく、複数層形成して上記膜厚となるように調整してもよい。
【0083】
<4. 酸化物半導体膜の製造方法>
次に、上述した酸化物半導体膜の製造方法について説明する。本実施形態に係る酸化物半導体膜は、例えば本実施形態に係るペーストを基材に塗布して塗膜を形成し、焼成することにより得られる。
ペーストを基材に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレー法、ブレードコート法、スリットダイコート法、グラビアコート法、リバースコート法、スクリーン印刷法、印刷転写法およびインクジェット法などが挙げられる。均一な膜厚が得られやすいため、スクリーン印刷法が好ましい。
【0084】
ペーストを基材に塗布した後、焼成する前に、余分な溶媒を除去するために塗膜を乾燥させてもよい。
【0085】
塗膜の焼成温度は、好ましくは50℃以上800℃以下であり、より好ましくは250℃以上600℃以下であり、さらに好ましくは400℃以上550℃以下である。上記温度範囲で10秒以上4時間以下焼成することにより、良好な粒子間結合が得られ、作製した酸化物半導体膜が低抵抗な膜となる。また、焼成温度が上記の範囲であれば、近傍の粒子との粒成長が抑制され、比表面積が増加して好適な酸化物半導体電極にすることができる。
【0086】
本実施形態の酸化物半導体膜は、本実施形態のペーストの焼成物からなるため、作製直後のペーストで形成した膜であっても、一定時間保管したペーストで形成した膜であっても、膜としての性質が、製品間および同一製品内で同等である。そのため、品質安定性に優れる。
【0087】
<5. 色素増感型太陽電池>
本実施形態に係る色素増感型太陽電池は、本実施形態に係る酸化物半導体膜を備えている。
本実施形態に係る色素増感型太陽電池は、導電性基板上に形成された本実施形態の酸化物半導体膜に色素を吸着した酸化物半導体電極、電解質および対向電極から構成されることが好ましい。Nature(第353巻、737〜740頁、1991年)および米国特許4927721号等には、色素によって増感された酸化物半導体粒子を用いた光電変換素子および太陽電池、ならびにこれを作製するための材料および製造技術が開示されている。
【0088】
導電性基板、色素、電解質、対向電極は、一般的に色素増感型太陽電池に用いられるものであれば、特に限定されない。また、色素増感型太陽電池の製造は、公知の方法で実施すればよい。
【0089】
本実施形態に係る色素増感型太陽電池によれば、本実施形態に係るペーストの焼成物からなる酸化物半導体膜を備えており、膜による性能のばらつきが抑制されているため、品質安定性に優れる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。なお、実施例は、本発明を限定するものではない。
【0091】
<実施例1>
(酸化チタン粒子の作製(水分散液作成工程))
容量2Lのビーカーに純水1Lを投入し、攪拌しながらテトライソプロポキシチタン(日本曹達(株)製、品名:A−1)280gを滴下し、白色懸濁液を得た。この白色懸濁液をろ過してチタンアルコキシドの加水分解生成物を得た。次いで、このチタンアルコキシドの加水分解生成物と、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液(東京化成工業(株)製、25%水溶液)60gをオートクレーブ(植田技研社製、型番:SR−200)に投入し、さらに純水を加えて全量が1kgとなるように調整した。そして、オートクレーブ中で、混合溶液を210℃で4時間30分間加熱して、酸化チタン粒子分散液を得た。
【0092】
(酸化チタン粒子の評価)
X線回折装置(スペクトリス社製、型番:X’Pert PRO)で得られた酸化チタン粒子の結晶相を同定したところ、アナターゼ型であることが確認された。
【0093】
得られた酸化チタン粒子のBET比表面積を、比表面積計(日本ベル(株)製、型番:BELSORP−mini)を使用して測定した。その結果、得られた酸化チタン粒子の比表面積は65m
2/gであった。
【0094】
(リシノール酸処理)
得られた酸化チタン粒子分散液に、酸化チタンの質量に対して0.25質量倍となるようにリシノール酸(関東化学(株)製)を添加し、リシノール酸を分散液中に溶解させた(溶解工程)。次いで、酸化チタン粒子が凝集するまで、1mol/Lの硝酸を滴下した(付着工程)。この酸化チタン粒子の凝集物を固液分離により回収した。次いで、回収した酸化チタン粒子の凝集物を60℃で24時間乾燥させて、リシノール酸が付着した酸化チタン粒子を得た。
【0095】
(ペーストの作製)
得られたリシノール酸が結合した酸化チタン粒子25質量部(酸化チタン20質量部、リシノール酸5質量部)と、エチルセルロース3質量部と、ターピネオール36質量部と、ブチルカルビトール36質量部を混合し、3本ロールミルで混錬することで、実施例1の酸化チタンペーストを得た。
【0096】
(ペーストの経時安定性の評価)
酸化チタンペーストの、せん断速度1s
−1における動的粘度(初期粘度)を、粘度・粘弾性測定装置(HAAKE社製、型番:RS6000)を用いて、25℃にて測定した。
次いで、実施例1の酸化チタンペーストを密封した容器を、60℃のウォーターバス中に1時間静置した後、上記同様、せん断速度1s
−1における動的粘度(経時粘度)を25℃にて測定することで、ペーストの経時安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0097】
<比較例1>
実施例1の作製過程で得られた酸化チタン粒子分散液中の純水を、エタノールに置換し、酸化チタン粒子エタノール分散液を得た。酸化チタン粒子が8質量部となるように酸化チタン粒子エタノール分散液と、エチルセルロース8質量部と、ターピネオール36質量部と、ブチルカルビトール36質量部を混合した。エバポレーターを用いて得られた混合液からエタノールを除去した。除去した後の混合物を3本ロールミルで混錬し、比較例1のリシノール酸が結合していない酸化チタンペーストを得た。
【0098】
実施例1と全く同様にして、比較例1の酸化チタンペーストの経時安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
<比較例2>
リシノール酸の替わりに、オレイン酸を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例2のオレイン酸が結合した酸化チタンペーストを得ようとした。しかし、ペーストを作製している途中で酸化チタン粒子が凝集し、均一なペーストを得ることができなかった。
【0100】
<比較例3>
リシノール酸の替わりに、12−ヒドロキシステアリン酸を用いた以外は実施例1と全く同様にして、比較例3の12−ヒドロキシステアリン酸が結合した酸化チタンペーストを得ようとした。しかし、ペーストを作製している途中で酸化チタン粒子が凝集し、均一なペーストを得ることができなかった。
【0101】
【表1】
【0102】
実施例1に係るペーストの粘度変化と比較例1に係るペーストの粘度変化とを比較することにより、リシノール酸、すなわち水酸基含有不飽和脂肪酸が付着した酸化チタン粒子は、ペーストの経時安定性に優れることが確認された。
また、実施例1に係るペーストの粘度変化と比較例2、3に係るペーストの粘度変化を比較することにより、リシノール酸、すなわち水酸基含有不飽和脂肪酸が、ペースト中における酸化チタン粒子の分散安定性を維持できる脂肪酸であることが確認された。
【0103】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。