特開2018-148863(P2018-148863A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-148863(P2018-148863A)
(43)【公開日】2018年9月27日
(54)【発明の名称】腎関連疾患の遺伝的リスク検出法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20180831BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20180831BHJP
【FI】
   C12Q1/68 Z
   C12N15/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-49143(P2017-49143)
(22)【出願日】2017年3月14日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業「エクソン全領域関連解析による心筋梗塞発症に関連する機能的遺伝子多型の同定」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304026696
【氏名又は名称】国立大学法人三重大学
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳司
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 淳
(72)【発明者】
【氏名】竹内 一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅嗣
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ43
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】腎関連疾患の遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法の提供。
【解決手段】日本人集団において、腎関連疾患との関連が明らかとなった遺伝子多型(SNP)のうち、(1)eGFRに関するEWASで特定されたもの、(2)血中クレアチニン濃度に関するEWASで特定されたもの、(3)血中尿酸値に関するEWASで特定されたもの、から選ばれる少なくとも1個のSNPを決定することを特徴とする日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)GGCTのrs115910467、COL6A5のrs200982668、MOB3Cのrs139537100、CXCL8のrs188378669、PLCB2のrs200787930、1-Marのrs61734696、VPS33Bのrs199921354、TMOD4のrs115287176、TNCのrs138406927、ZNF77のrs146879198、COL6A3のrs146092501、ADGRL3のrs192210727、C21orf59のrs76974938、KRR1のrs17115182、PTCH2のrs147284320、MUC17のrs78010183、SCN10Aのrs77804526、RFTN1のrs180950245、IGSF9Bのrs201459911、IQSEC3のrs12822449、CCDC186のrs79637542、PRAMEF12のrs199576535、PRAMEF12のrs1873059、PTCHD3のrs77473776、L1TD1のrs2886644、
(2)CATのrs139421991、EIF2AK4のrs35602605、SP7のrs188929035、CSMD2のrs148658404、SASH1のrs199980930、RNF123のrs35620248、ALG12のrs3922872、
(3)SLC22A12のrs121907892、ATG2Aのrs188780113、SLC22A12のrs505802、CDC42BPGのrs55975541、SLC2A9のrs3775948、SLC2A9のrs3733591のうちの少なくとも1個の遺伝子多型(SNP)を決定することを特徴とする日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法。
【請求項2】
SNPが前記(1)に記載のものの少なくとも1個である請求項1に記載の日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法。
【請求項3】
SNPが前記(2)に記載のものの少なくとも1個である請求項1に記載の日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法。
【請求項4】
SNPが前記(3)に記載のものの少なくとも1個である請求項1に記載の日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎関連疾患の遺伝的リスク検出法に関する。
【背景技術】
【0002】
腎関連疾患のうち、慢性腎臓病(chronic kidney disease: 以下、「CKD」という)は、世界的に重要な疾患であり、末期腎不全(end-stage renal disease (ESRD))、心血管疾患、及び死亡に影響を与えることが知られている。予防によってCKD及びESRDの負担を軽減することは重要であり、そのためにも疾患のリスクを評価するためのマーカーを特定することは、リスク予測及び将来の心血管疾患を減少させるために有効である。CKDについては、従来より指摘されている糖尿病や高血圧といった危険因子に加えて、近年の研究によって、遺伝因子や、多数の遺伝子と環境因子の相互作用との関連性があることが分かってきたている。白人集団、黒人集団においては、近年のゲノム全領域関連解析(GWASs)によって、腎機能に関連する遺伝子や、CKD及びESRDの感受性遺伝子がいくつか明らかとなっており、東アジア人種についても腎臓機能関連遺伝子が見つかっている。
また、日本人集団については、本発明者による報告がある(特許文献1,2:先行技術文献については、末尾にまとめて示した。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、日本人集団におけるCKD等に関連するSNPは、十分に検索されているとは言えず、更なる開発の余地が残されていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、腎関連疾患の遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記目的を達成するための発明に係る日本人における腎関連疾患の遺伝的リスクの検出方法は、(1)GGCTのrs115910467、COL6A5のrs200982668、MOB3Cのrs139537100、CXCL8のrs188378669、PLCB2のrs200787930、1-Marのrs61734696、VPS33Bのrs199921354、TMOD4のrs115287176、TNCのrs138406927、ZNF77のrs146879198、COL6A3のrs146092501、ADGRL3のrs192210727、C21orf59のrs76974938、KRR1のrs17115182、PTCH2のrs147284320、MUC17のrs78010183、SCN10Aのrs77804526、RFTN1のrs180950245、IGSF9Bのrs201459911、IQSEC3のrs12822449、CCDC186のrs79637542、PRAMEF12のrs199576535、PRAMEF12のrs1873059、PTCHD3のrs77473776、L1TD1のrs2886644、(2)CATのrs139421991、EIF2AK4のrs35602605、SP7のrs188929035、CSMD2のrs148658404、SASH1のrs199980930、RNF123のrs35620248、ALG12のrs3922872、(3)SLC22A12のrs121907892、ATG2Aのrs188780113、SLC22A12のrs505802、CDC42BPGのrs55975541、SLC2A9のrs3775948、SLC2A9のrs3733591のうちの少なくとも1個の遺伝子多型(SNP)を決定することを特徴とする。
【0005】
上記(1)に記載のSNPは、eGFRに関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、腎関連疾患との関連が明らかとなった。このため、上記(1)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、更にeGRFに関する遺伝子検出方法となる。
また、上記(2)に記載のSNPは、血中クレアチニン濃度に関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、腎関連疾患との関連が明らかとなった。このため、上記(2)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、更に血中クレアチニン濃度に関する遺伝子検出方法となる。
また、上記(3)に記載のSNPは、血中尿酸値に関するEWASで特定されたものであり、日本人集団において、腎関連疾患との関連が明らかとなった。このため、上記(3)に記載のものの少なくとも1個のSNPを決定することにより、更に血中尿酸値に関する遺伝子検出方法となる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、腎関連疾患の遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法を提供できる。この発明を用いることにより、腎関連疾患に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命の延長、生活の質の向上、寝たきりの防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate: eGFR)(A)、血中クレアチニン濃度(B)、血中尿酸値(C)のEWASにおける遺伝子型のP値を示すマンハッタンプロットである。P値(y軸)を-log10(P)とし、対応するSNP(x軸)の物理的な染色体位置に対してプロットし、関連するSNPまたは遺伝子を図中に示した。
図2】CKD(A)、高尿酸血漿(C)のEWASにおけるアレル頻度のP値を示すマンハッタンプロットである。P値(y軸)を-log10(P)とし、対応するSNP(x軸)の物理的な染色体位置に対してプロットした。本研究で特定されたSNPまたは遺伝子を図中に示した。
図3】eGFR(A)、血中クレアチニン濃度(B)、血中尿酸値(C)のEWASにおける遺伝子型のP値のQ-Qプロットである。測定されたP値(y軸)と、帰無仮説の下で予測されたP値(x軸)とを比較し、値は-log10(P)としてプロットした。
図4】CKD(A)、高尿酸血漿(B)のEWASにおけるアレル頻度のP値のQ-Qプロットである。測定されたP値(y軸)と、帰無仮説の下で予測されたP値(x軸)とを比較し、値は-log10(P)としてプロットした。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明する。本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく、様々な形態で実施できる。
<試験方法>
1.被験者集団
12565人の日本人集団について、推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate: eGFR)または血中クレアチニン濃度のエキソン・ワイド関連解析(EWAS)を実施した。このEWASにおいて、尿酸低下薬を服用していない9934人の被験者について血中尿酸濃度を調べた。慢性腎臓病のEWASにおいては、3270人のCKD患者と1891人の対照者を含む5161人の被験者集団を、高尿酸血漿(hyperuricemia)のEWASにおいては、2045人の高尿酸血漿者と9641人の対照者を含む11686人の被験者集団について、それぞれ評価した。これらの被験者集団は、(i)岐阜県立多治見病院、岐阜県総合医療センター、名古屋第一赤十字病院、いなべ総合病院及び弘前脳卒中・リハビリテーションセンターの5ヶ所の病院に2002年〜2014年の間に種々の症状を訴えて来院し、本試験の参加に同意したか、健康診断に訪れ、本試験の参加に同意した者、(ii)2010年〜2014年の間にいなべ市において、2011年〜2015年の間に東京若しくは草津において、集団ベース・コホート研究に参加した者、または(iii)1995年〜2012年の間に、東京都老人病院において部検を実施された者であった。
eGFR)は、日本腎臓学会が提唱した下記の改訂版MDRD(the Modification of Diet in Renal Disease)式により血清クレアチニン値より推算した。
eGFR(mL min-1 1.73 m-2) = 194×[年齢]-0.287×[血清クレアチニン値 (mg/dL)]-1.094×[0.739 女性の場合]。
【0009】
K/DOQI診療ガイドライン・慢性腎臓病によれば、eGFR値が60 mL min-1 1.73 m-2未満のときには、CKDと診断する。eGFR値が60 mL min-1 1.73 m-2未満になると、有害事象(死亡、心臓疾患、入院など)のリスクが急速に増大することが認められており、45 mL min-1 1.73 m-2未満になると、更にリスクが増大する。そこで、本実施形態では、eGFR値が60 mL min-1 1.73 m-2未満の者(実測値では、2.5〜59.9 mL min-1 1.73 m-2の者)のCKD患者を対象とした。対照群は、(1) eGFRが90 mL min-1 1.73 m-2 以上(具体的には、90〜584.9 mL min-11.73 m-2)の者で、腎臓に機能障害や腎臓病の既往歴がない者とした。対照群の中には、高血圧、糖尿病、高コレステロール血症を伴う者が存在したが、いずれも軽症であり、上記基準は満たしていた。
高尿酸血症は、血中尿酸濃度が416μmol/Lよりも高い(実測値では、422〜1172μmol/L)または尿酸低下薬を服用している者とした。二次的に高尿酸血漿を起こす薬を服用している者は除外した。対照者は、血中尿酸濃度が416μmol/L以下(実測値では、36〜416μmol/L)であり、高尿酸血漿の既往歴がなく、尿酸低下薬を服用したことがない者とした。CKD及び高尿酸血漿のEWASについて、部検サンプルは対照者群から除外した。
研究計画は、ヘルシンキ宣言を遵守し、三重大学医学研究科、弘前大学大学院医学研究科、東京都老人医学研究所および参加病院の人間倫理委員会の承認を得た。死亡した被験者のすべての被験者または家族から、インフォームド・コンセントを得た。
【0010】
2.EWAS
50mmol/Lのエチレンジアミン四酢酸(2ナトリウム塩)を含有するチューブに静脈血(5mlまたは7mL)を採取し、末梢血白血球を単離した後、ゲノムDNAをDNA抽出キット(ゲノミックス(タレント社、イタリア)、SMITEST EX-R&D(医学生物学研究社))または標準的なフェノール・クロロホルム抽出法とスピンカラムを用いて、精製した。部検サンプルの場合には、腎臓からゲノムDNAを抽出した。EWASは、ヒト・エクソーム12 v1.2 若しくはv1.2 DNA解析ビーズチップ、またはインフィニウム・エクソーム24 v1.0ビーズチップ(イルミナ社、アメリカ)を用いて行った。これらのエクソーム・アレイは、個々のエクソームと全ゲノム配列から選択された12000を超える推定上の機能的エクソン変異体を含んでいる。エキソンの内容には、欧州人種、アフリカ人種、中国人及びヒスパニック人種を含む広範囲な集団を代表する約244000個のSNPが含まれる。一種類のみのエクソーム・アレイに含まれるSNP(全SNPの3.6%程度)は、解析から除いた。
【0011】
解析のクオリティ・コントロールとして、次の方法を用いた:(i)97%未満のコール率を示した遺伝子型のデータは廃棄した。残りのデータの平均コール率は99.9%であった。(ii)各サンプルについて、性別の特性を確認し、臨床記録の性表現と遺伝子型が矛盾するものデータは廃棄した。(iii)重複したサンプル及び潜在的な関連性については、IBD(identity by descent)による計算で確認した。IBD数が0.1875よりも大きいDNAサンプルの全対について検査を行い、各対から一つのサンプルを除いた。(iv)全サンプルについて、SNPのヘテロ接合性の頻度を計算し、ヘテロ接合性が非常に低いものまたは非常に高いもの(平均から3よりも大きな標準偏差を示すもの)については廃棄した。(v)性染色体またはミトコンドリアDNAのSNP、非多核性SNP及びマイナーアレル頻度(MAF)が0.1%未満のSNPについては、解析から除いた。(vi)対照群と比較して、遺伝子型分布がハーディ・ワインバーグ平衡から有意に(P<0.001)外れたSNPは除外した。(vii)各EWASの遺伝子型データを主成分分析を用いて階層化し、異常値を示す集団は解析から除いた。
上記クオリティコントロールを評価し、eGFR・血中クレアチニン濃度・CKDに関しては41352個のSNPについて、血中尿酸値・高尿酸血漿に関しては41372個のSNPについて、それぞれ解析を行った。
【0012】
3.統計解析
eGFR、血中クレアチニン濃度、血中尿酸値とSNPの遺伝子型の関係を線形回帰分析によって評価した。CKDまたは高尿酸血漿患者と対照者との間で、定量的なデータは対応のないスチューデントt検定によって、カテゴリーデータはフィッシャーの正確確率検定(Fisher's exact test)によって比較した。対立遺伝子頻度は、遺伝子計数法により推定し、フィッシャーの正確確率検定により、ハーディー・ワインバーグ平衡からのずれを同定した。CKDまたは高尿酸血漿患者と、各SNPの遺伝子型との関係をフィッシャーの正確確率検定によって解析した。
eGFR、血中クレアチニン濃度または血中尿酸値について複数の遺伝子型の比較を行うために、ボンフェローニ補正を加えて、関連性の統計的有意性を調べた。同じ補正は、CKDまたは高尿酸血漿のアレル頻度について、複数の遺伝子型の比較を行う際にも適用した。
【0013】
各EWASについて、41352個または41372個のSNPを分析し、有意水準をP<1.21×10-6(0.05/41352または0.05/41372)とした。eGFR、血中クレアチニン濃度または血中尿酸値のEWASにおける遺伝子型のP値に関するQ-Qプロット(quantile-quantileプロット)を図3に示した。また、CKDまたは高尿酸血漿患者のEWASにおけるアレル頻度に関するQ-Qプロットを図4に示した。インフレーション・ファクター(λ)は、eGFRでは1.05、血中クレアチニン濃度では1.06、血中尿酸値では1.05、CKDでは1.17、高尿酸血漿では1.32であった。
年齢、性別(女性が0、男性が1)、高血圧の有無・糖尿病の有無(既往歴なしが0、有りが1)及び各SNPの遺伝子型を独立変数とし、CKDの有無を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。高尿酸血漿については、年齢、性別及び各SNPの遺伝子型を独立変数として、同様の解析を行った。各SNPの遺伝子型は、Aをメジャーアレル、Bをマイナーアレルとし、優性(0、AA;1、AB + BB)、劣性(0、AA + AB; 1、BB)、相加的遺伝子モデル、P値、オッズ比および95%信頼区間について計算した。相加的モデルは、相加1(0、AA; 1、AB; 0、BB)と相加2(0、AA; 0、AB; 1 BB)とを含み、両者は単一の統計モデルで同時に分析した。特定されたSNPの遺伝子型と、eGFR・血中クレアチニン濃度または血中尿酸値との関連を一元配置分散分析(ANOVA)によって調べた。上述のように、他の解析については、ボンフェローニ補正を行った。統計解析には、JMPゲノミックス・バージョン6.0ソフトウエア(SAS Institute, Cary, NC, USA)を用いた。
【0014】
<試験結果>
1.eGFR・血中クレアチニン濃度・血中尿酸値に関するEWAS
eGFR及び血中クレアチニン濃度に関するEWASのマンハッタンプロットを図1に示した。ボンフェローニの補正後に、eGFRについては25個のSNPが、血中クレアチニン濃度については7個のSNPが、それぞれ有意に関連した(表1、表2)。いずれのSNPもeGFR及び血中クレアチニン濃度の両方とは関連しなかった。
【0015】
【表1】
【0016】
【表2】
【0017】
次に、クオリティコントロールをクリアした41372個のSNPの遺伝子型と、尿酸値低下薬を服用していない9934人の血中尿酸値との関係を線形回帰モデルを用いて解析した。EWASのマンハッタンプロットを図1に示した。ボンフェローニの補正後に、6個のSNPが有意に血中尿酸値と関連した(表3)。
【0018】
【表3】
【0019】
2.CKD及び高尿酸血漿に関するEWAS
3270人のCKD患者群及び1891人の対照者群を含む対象について、EWASを実施した(表4)。
年齢、男性の割合、BMI、高血圧の罹患率、糖尿病の罹患率、異脂肪血症、高尿酸血漿、収縮期血圧、空腹時血糖値、血中中性脂肪及び血中尿酸値は、対照者群に比べ、CKD患者群の方が高く、血中HDLコレステロール値は対照者群の方が低かった。
【0020】
【表4】
【0021】
41352個のSNPのアレル頻度とCKDとの関係をフィッシャーの正確確率検定によって調べた。CKDに関するEWASのマンハッタンプロットを図2に示した。ボンフェローニの補正後に、49個のSNPがCKDと有意に関連した(P<1.21×10-6(0.05/41,352))。結果を表5,6に示した。これらのSNPの遺伝子型分布は、CKD患者群及び対照群において、ハーディワインバーグ平衡(P>0.001)にあった(表7〜表10)。
【0022】
【表5】
【0023】
【表6】
【0024】
【表7】
【0025】
【表8】
【0026】
【表9】
【0027】
【表10】
【0028】
次に、上記49個のSNPとCKDとの関係を多重ロジスティック回帰分析によって調べた。このとき、年齢、性別、高血圧の割合及び糖尿病の割合について調整をした(表11,12)。その結果、4個のSNP(すなわち、VARSのrs707926、C21orf59のrs76974938、HDAC10のrs112311672、ACAD11のrs41272317)がCKDと有意性(少なくとも一つの遺伝子モデルについて、P<0.05)を示した。しかしながら、いずれのSNPについても、有意性(P<2.55×10-4(0.05/196))を示さなかった(表13)。これらのSNPのマイナーアレルは、CKDの危険因子であった。C21orf59のrs76974938(C/T(D67N))は、eGFR及びCKDのいずれにも関連した。
【0029】
【表11】
【0030】
【表12】
【0031】
【表13】
【0032】
次に、11686人の対象者(2045人の高尿酸血漿者群、9641人の対照群)の高尿酸血漿に関し、EWASを実施した。表14には、対象者の特徴を示した。年齢、男性の割合、BMI、喫煙者率、高血圧の割合、糖尿病の割合、異脂質血症の割合及びCKDの割合は、対象者に比べ、高尿酸血漿者群の方が高かった。
【表14】
【0033】
41372個のSNPのアレル頻度と高尿酸血漿のEWASとの関係について、フィッシャーの正確確率検定を実施した。EWASのマンハッタンプロットを図2に示した。ボンフェローニの補正後に、35個のSNPが有意に(P<1.21×10-6(0.05/41372))高尿酸血漿と関連した(表15)。これらのSNPの遺伝子型分布は、高尿酸血漿者群及び対照群において、ハーディワインバーグ平衡(P>0.001)にあった(表16〜表18)。
【0034】
【表15】
【0035】
【表16】
【0036】
【表17】
【0037】
【表18】
【0038】
次に、上記35個のSNPと高尿酸血漿との関係を多重ロジスティック回帰分析によって調べた。このとき、年齢、性別について調整をした(表19,20)。その結果、3個のSNP(ACOT11のrs115445569、TRIM7のrs116911833、NOTCH2のrs60854092)が高尿酸血症と有意性(いずれか一つの遺伝型モデルについて、P<0.05)を示した。しかし、いずれのSNPも有意に(P<3.57×10-4(0.05/140)関連しなかった(表21)。rs115445569のマイナーTアレルとrs116911833のマイナーAアレルは、いずれも高尿酸血漿の危険因子であり、rs60854092のマイナーAアレルは保護因子であった。
【0039】
【表19】
【0040】
【表20】
【0041】
【表21】
【0042】
3.eGFR、血中クレアチニン濃度または血中尿酸値とSNPとの関係
EWASによって特定されたSNPの遺伝子型と、eGFR・血中クレアチニン濃度・血中尿酸値との関係を一元配置分散分析(ANOVA)によって調べた。eGFRに関するEWASで特定された25個のSNPは、全てeGFRと有意に(P<0.0018(0.05/28))関連した(表22,23)。CKDの解析によって特定された4個のSNPについては、rs76974938のみが有意にeGFRと関連した。血中クレアチニン濃度に関するEWASで特定された7個のSNPについては、全てが有意に(P<0.0045(0.05/11))血中クレアチニン濃度と関連した(表24)。CKDの解析によって特定された4個のSNPについては、rs76974938のみが、血中クレアチニン濃度と有意に関連した。血中尿酸値に関するEWASで特定された6個のSNPについては、全てが有意に(P<0.0056(0.05/9))血中尿酸値と関連したが、高尿酸血漿の解析で特定された3個のSNPについては、いずれも有意性を示さなかった(表25)。
【0043】
【表22】
【0044】
【表23】
【0045】
【表24】
【0046】
【表25】
【0047】
4.従来のGWASによって調べられた表現型と、今回の研究で特定されたSNPとの関係
次に、今回の研究によって特定された遺伝子、染色体座位及びSNPと、従来のGWASによって特定され、公開されている表現型(GWAS Catalog (http://www.ebi.ac.uk/gwas)及びGWASセントラル(http://www.gwascentral.org/browser))との関係を調べた。遺伝子領域11p11.2及びSASHIは、従来のGWASによって、CKD(非特許文献1)または糖尿病性神経症(非特許文献2)に関連するとの報告があった。MARCH1及びRFTN1は、尿中ウロモジュリン(非特許文献3)または血中尿酸値(非特許文献4)との関連が指摘されていた。
今回の研究でeGFR、血中クレアチニン濃度、CKDとの関連を指摘された残りの31個のSNPについては、既報が認められなかった(表26〜表29)。
また、SLC22A12(非特許文献5)、CDC42BPG(非特許文献6)及びSLC2A9(非特許文献7)は、血中尿酸値または痛風との関連を指摘されていたが、残りの4個のSNPについては、既報が認められなかった(表30)。
【0048】
【表26】
【0049】
【表27】
【0050】
【表28】
【0051】
【表29】
【0052】
【表30】
【0053】
このように本実施形態によれば、腎関連疾患について、遺伝的リスクを予測するための検出法を提供することができた。この実施形態を用いることにより、腎関連疾患の予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・生活の質の向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【特許文献1】特開2010−142187号公報
【特許文献2】特開2014−176335号公報
【非特許文献】
【0055】
【非特許文献1】Pattaro C, Teumer A, Gorski M, Chu AY, Li M, Mijatovic V, Garnaas M, Tin A, Sorice R, Li Y, Taliun D, Olden M, Foster M, et al. Genetic associations at 53 loci highlight cell types and biological pathways relevant for kidney function. Nat Commun. 2016; 7: 10023.
【非特許文献2】McDonough CW, Palmer ND, Hicks PJ, Roh BH, An SS, Cooke JN, Hester JM, Wing MR, Bostrom MA, Rudock ME, Lewis JP, Talbert ME, Blevins RA, et al. A genome-wide association study for diabetic nephropathy genes in African Americans. Kidney Int. 2011; 79: 563-572.
【非特許文献3】Olden M, Corre T, Hayward C, Toniolo D, Ulivi S, Gasparini P, Pistis G, Hwang SJ, Bergmann S, Campbell H, Cocca M, Gandin I, Girotto G, et al. Common variants in UMOD associate with urinary uromodulin levels: a meta-analysis. J Am Soc Nephrol. 2014; 25: 1869-1882.
【非特許文献4】Huffman JE, Albrecht E, Teumer A, Mangino M, Kapur K, Johnson T, Kutalik Z, Pirastu N, Pistis G, Lopez LM, Haller T, Salo P, Goel A, et al. Modulation of genetic associations with serum urate levels by body-mass-index in humans. PLoS One. 2015; 10: e0119752.
【非特許文献5】Kolz M, Johnson T, Sanna S, Teumer A, Vitart V, Perola M, Mangino M, Albrecht E, Wallace C, Farrall M, Johansson A, Nyholt DR, Aulchenko Y, et al. Meta-analysis of 28,141 individuals identifies common variants within five new loci that influence uric acid concentrations. PLoS Genet. 2009; 5: e1000504.
【非特許文献6】Tin A, Woodward OM, Kao WH, Liu CT, Lu X, Nalls MA, Shriner D, Semmo M, Akylbekova EL, Wyatt SB, Hwang SJ, Yang Q, Zonderman AB, et al. Genome-wide association study for serum urate concentrations and gout among African Americans identifies genomic risk loci and a novel URAT1 loss-of-function allele. Hum Mol Genet. 2011; 20: 4056-4068.
【非特許文献7】Matsuo H, Yamamoto K, Nakaoka H, Nakayama A, Sakiyama M, Chiba T, Takahashi A, Nakamura T, Nakashima H, Takada Y, Danjoh I, Shimizu S, Abe J, et al. Genome-wide association study of clinically defined gout identifies multiple risk loci and its association with clinical subtypes. Ann Rheum Dis. 2016; 75: 652-659.
図1
図2
図3
図4