特開2018-164460(P2018-164460A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-164460(P2018-164460A)
(43)【公開日】2018年10月25日
(54)【発明の名称】褐変抑制乳性食品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/152 20060101AFI20180928BHJP
   A23C 3/08 20060101ALI20180928BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20180928BHJP
【FI】
   A23C9/152
   A23C3/08
   A23D7/005
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-145369(P2018-145369)
(22)【出願日】2018年8月1日
(62)【分割の表示】特願2016-180721(P2016-180721)の分割
【原出願日】2011年12月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-268929(P2010-268929)
(32)【優先日】2010年12月2日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(74)【代理人】
【識別番号】100195419
【弁理士】
【氏名又は名称】矢後 知美
(72)【発明者】
【氏名】奈良原 由春
(72)【発明者】
【氏名】山本 昌志
【テーマコード(参考)】
4B001
4B026
【Fターム(参考)】
4B001AC01
4B001AC05
4B001AC06
4B001AC07
4B001AC15
4B001AC40
4B001BC03
4B001EC99
4B026DC03
4B026DG01
4B026DK01
4B026DK10
4B026DL03
4B026DL04
4B026DX04
(57)【要約】
【課題】常温保存タイプの乳性食品であって、常温、長期保存後であっても褐色変化が生じない乳性食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】乳タンパク質、糖質、乳化剤を含む水中油型乳化物となる乳性組成物を均質化処理し、均質化処理後の該水中油型乳化物の50%粒子径が0.2〜1.0μmであることを特徴とする、褐変抑制乳性食品である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質、糖質、および乳化剤を含む水中油型乳化物である乳性食品であって、該水中油型乳化物の50%粒子径が0.2〜1.0μmである、乳性食品。
【請求項2】
50%粒子径が0.4〜0.8μmである、請求項1に記載の乳性食品。
【請求項3】
乳化剤が、有機酸モノグリセリドを含む、請求項1または2に記載の乳性食品。
【請求項4】
有機酸モノグリセリドが酒石酸モノグリセリドである、請求項3に記載の乳性食品。
【請求項5】
乳化剤が、カゼインナトリウムを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の乳性食品。
【請求項6】
乳タンパク質が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳からなる群から選択される少なくとも1つに由来する乳タンパク質である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の乳性食品。
【請求項7】
さらに植物油脂を含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の乳性食品。
【請求項8】
乳タンパク質、糖類、および乳化剤を含む乳性組成物を混合しベース溶液を作製し、
当該ベース溶液を均質化して50%粒子径が0.2〜1.0μmである水中油型乳化物を作製し、
所定容器に充填する、
工程を含む、長期常温保存可能な乳性食品の製造方法。
【請求項9】
50%粒子径が、0.4〜0.8μmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
乳化剤が、有機酸モノグリセリドを含む、請求項8または9に記載の製造方法。
【請求項11】
有機酸モノグリセリドが、酒石酸モノグリセリドである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
乳化剤が、カゼインナトリウムを含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
乳タンパク質が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳からなる群から選択される少なくとも1つに由来する乳タンパク質である、請求項8〜12のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は乳性食品及びその製造方法に関し、更に詳しくは常温保存タイプの乳性食品であって、常温、長期保存後であっても褐色変化が生じない乳性食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンなどの乳性食品は嚥下困難者に対しても食べやすい物性であることから、高齢者用デザートなどの高タンパク、高エネルギー、易咀嚼性を有する機能性食品としての開発が行われている。通常のプリンなどの乳性食品は製造後、流通時や販売時の保管のためには冷蔵保存が必須であり、また、賞味期限についてもかなりの制限があった。したがって流通の簡便化、また商品販売管理の点から、これらプリンなどの乳性食品を常温保存食品として製造開発することに注目が集められている。しかし、この種の乳性食品を常温、長期保存した場合には、通常の冷蔵プリンにおいては生じなかった褐変が生じやすく、商品価値を損なってしまう問題があった。特にこの種のデザート向けなどの乳性食品においては、色調は重要な商品価値要素であり、色調が見た目のおいしさに関して重要である。
【0003】
これまでも様々な食品分野において褐変の問題は生じており、これに対応して対策が講じられている。
例えば、特許文献1には、水、油脂、蛋白質を含有し、乳化剤を使用することなく、脂肪球のメジアン径が3μm以下となるように乳化させることにより高温加熱耐性を付与してなる水中油型乳化脂組成物が記載されているが、乳化剤を使用した水中油型乳化脂組成物の褐変防止を実現するものではない。
【0004】
特許文献2には、保温式自動販売機で販売する場合の加温保存による褐変の無い品質安定性を備えた、トレハロースおよび水溶性多糖類を含有しペクチンを含有しない加温販売用酸性乳飲料が開示されている。特許文献3には加圧加熱処理による褐変の抑制された、ペクチンゲル又はアルギン酸ゲルを含有することを特徴とする加圧加熱ソーセージが開示されている。さらに特許文献4には酸性環境中のペプチドの褐変を防止するために、ペプチドを含む酸性環境に高エステルペクチン(HEペクチン)を添加する工程を備えた製造方法を開示している。
また特許文献5には、レトルト加熱処理等の高温殺菌を行っても褐変等が生じることのないホワイトソース等の食品を作製することができる水中油型乳化脂が開示されている。ここでは、乳糖、カリウム及びナトリウムの含量とNa/K比とを特定することでその目的を達成している。またこの技術ではκカラギーナンを含有しない場合が好ましいことが記載されている。
【0005】
また、水中油形乳化物において、乳化安定化等の対策として、油滴の粒子経を小さくする試みもされており、例えば、特許文献6および7には、タンパク質を含有する水相に、1μm以下の粒子径を有する油滴を乳化分散させた、マヨネーズ様食品が記載されているが、これは糖類を含有する水中油形乳化物ではなく、褐変について何ら検討するものでもはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−024017号公報
【特許文献2】特開平9−94060号公報
【特許文献3】特開2000−279132号公報
【特許文献4】特開2005−192557号公報
【特許文献5】特開2002−223698号公報
【特許文献6】特開平6−54662号公報
【特許文献7】特開平6−319477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし上記の技術においては、酸性乳飲料や、ソーセージ、ホワイトソースなどのようなそれぞれの特殊な食品に対する個別の対策であり、それぞれの食品に対しては効果があるとしても、実際に乳性食品に適用しうるか、またそれが有効であるかどうかは不明であった。
タンパク質濃度が高い場合には長期常温保存で褐変が生じやすいこと、そしてこの褐変は、アミノ化合物とカルボニル化合物との間で生じる化学反応であり、その因子として、当該アミノ化合物・カルボニル化合物量、保存温度(10℃の上昇で褐変は3倍に)、保存時pH(pH3前後で最も遅く、pHが高いほど褐変反応は早くなる)、及び含有金属イオン等があることは先行文献に記載されており、それぞれの要因に対して最適化を行ったが未だ不十分であった。
このように、乳性食品における褐変を十分に抑制する方法はいまだ開発されていない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来の問題点に鑑み鋭意研究を進めたところ、乳性食品の系においてはその乳化物の粒子径が小さいほど褐変が抑制されることを発見し、さらに研究を進めた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の乳性食品およびその製造方法に関する。
[1]
乳タンパク質、糖質、および乳化剤を含む水中油型乳化物である乳性食品であって、該水中油型乳化物の50%粒子径が0.2〜1.0μmである、乳性食品。
[2]
50%粒子径が0.4〜0.8μmである、[1]に記載の乳性食品。
[3]
乳化剤が、有機酸モノグリセリドを含む、[1]または[2]に記載の乳性食品。
[4]
有機酸モノグリセリドが酒石酸モノグリセリドである、[3]に記載の乳性食品。
[5]
乳化剤が、カゼインナトリウムを含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の乳性食品。
【0010】
[6]
乳タンパク質が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳からなる群から選択される少なくとも1つに由来する乳タンパク質である、[1]〜[5]のいずれかに記載の乳性食品。
[7]
さらに植物油脂を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の乳性食品。
[8]
乳タンパク質、糖類、および乳化剤を含む乳性組成物を混合しベース溶液を作製し、
当該ベース溶液を均質化して50%粒子径が0.2〜1.0μmである水中油型乳化物を作製し、
所定容器に充填する、
工程を含む、長期常温保存可能な乳性食品の製造方法。
【0011】
[9]
50%粒子径が、0.4〜0.8μmである、[8]に記載の製造方法。
[10]
乳化剤が、有機酸モノグリセリドを含む、[8]または[9]に記載の製造方法。
[11]
有機酸モノグリセリドが、酒石酸モノグリセリドである、[10]に記載の製造方法。
[12]
乳化剤が、カゼインナトリウムを含む、[8]〜[11]のいずれかに記載の製造方法。
[13]
乳タンパク質が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳からなる群から選択される少なくとも1つに由来する乳タンパク質である、[8]〜[12]のいずれかに記載の製造方法。
【0012】
また、本発明の一態様において、本発明は、乳製品、砂糖、植物油脂、カゼインナトリウム、乳化剤を含む水中油型乳化物であるミルクゼリーベースを0.2〜1.0μmの50%粒子径になるまで均質化処理することで、常温にて長期間保存しても褐変化することなく、食欲をそそるミルク由来の好ましい色調を維持することが可能となった褐変抑制乳性食品及びその製造方法に関するものである。
【0013】
本発明の一態様は、乳製品、砂糖、植物油脂、カゼインナトリウム、乳化剤を含む水中油型乳化物となる乳性組成物を均質化処理し、均質化処理後の該水中油型乳化物の50%粒子径が0.2〜1.0μmであることを特徴とする、褐変抑制乳性食品である。
【0014】
上記構成の褐変抑制乳性食品においては、前記50%粒子径が0.4〜0.8μmであることが好ましい。
【0015】
また上記構成の褐変抑制乳性食品においては、前記乳化剤が、有機酸モノグリセリドであることが好ましく、さらに有機酸モノグリセリドとして酒石酸モノグリセリドを用いることが好ましい。
【0016】
また上記構成の褐変抑制乳性食品においては、前記乳製品が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳の内の少なくともいずれかであることが好ましい。
【0017】
本発明の別の態様は、長期常温保存可能な乳性食品の製造方法である。当該方法は、乳製品、砂糖、植物油脂、カゼインナトリウム、乳化剤を含む乳性組成物を混合しベース溶液を作製し、当該ベース溶液を均質化して50%粒子径が0.2〜1.0μmである水中油型乳化物を作製し、所定容器に充填することを特徴とする製造方法である。
【0018】
上記構成の長期常温保存可能な乳性食品の製造方法においては、前記50%粒子径が0.4〜0.8μmであることが好ましい。
【0019】
また上記構成の長期常温保存可能な乳性食品の製造方法においては、前記乳化剤が、有機酸モノグリセリドであることが好ましく、さらに有機酸モノグリセリドとして酒石酸モノグリセリドを用いることが好ましい。
【0020】
また上記構成の長期常温保存可能な乳性食品の製造方法においては、前記乳製品が、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳の内の少なくともいずれかであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の乳性食品は、乳タンパク質、糖質、および乳化剤を含む水中油型乳化物の50%粒子経を0.2〜1.0μmとすることによって得られ、より具体的な例としては、乳製品、砂糖、植物油脂、カゼインナトリウム、乳化剤を含む水中油型乳化物であるミルクゼリーベースを0.2〜1.0μmの50%粒子径になるまで均質化処理することで、褐変抑制乳性食品を容易に得られる。これにより、本発明は、常温にて長期間保存しても褐変化することなく、食欲をそそるミルク由来の好ましい色調を維持することが可能である。また、本発明は、乳化剤を含む乳性食品における、褐変を抑制することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下に述べる個々の形態には限定されない。
【0023】
本発明による乳性食品は、乳製品由来の乳タンパク質を含む原料を使用して製造される食品である。すなわち、乳タンパク質を含む乳製品、または乳製品から分離した乳タンパク質を、原料として用い、加工することにより製造される食品を意味し、具体例としては、プリン、ゼリーなどのデザートおよび乳飲料などが挙げられる。本発明は、褐変の問題が生じやすい、糖質を含む原料を使用して製造される乳性食品に特に有用である。本発明の一態様において、乳性食品は好ましくは、冷蔵時に適度な硬さと弾力を有するゲル強度を呈するゼリー状の食品である。好ましくは、高齢者向け高タンパク、高エネルギー、易咀嚼性を有する乳性食品である。また、本発明の一態様において、乳性食品は、常温保存タイプの乳性食品であり、より好ましくは、長期常温保存可能な乳性食品である。
本発明において、「常温保存」とは、冷蔵・冷凍することなく、常温、例えば5〜35℃での保存を意味する。また、「長期常温保存」とは、常温における1ヶ月以上、好ましくは6ヶ月以上の保存をいう。
【0024】
本発明による乳性食品の組成としては、これに限定されないが、乳製品(タンパク質成分)、糖質、油脂、乳化剤、安定剤(ゲル化剤、増粘剤等を含む)、酸味料、pH調整剤、香料、着色料、その他食品成分を含有することができる。
【0025】
本発明の乳性食品に用いることができる乳タンパク質としては、これらに限定されないが、牛乳、脱脂乳、バター、バターオイル、クリーム、クリームパウダー、バターミルク、脱脂粉乳、全脂粉乳、れん乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、濃縮ホエイ、乳タンパク濃縮物、ホエイタンパク濃縮物、乳糖等の乳製品に含まれる乳タンパク質が挙げられる。乳タンパク質源として用いられる乳製品は、単独あるいは2種以上を組み合わせて含んでも良い。風味や栄養価の観点から、最終製品の乳脂肪分が、0wt%〜20wt%、好ましくは0wt%〜10wt%となるように乳製品の含量を調整することが好ましい。この中でも、汎用性の観点から、脱脂粉乳、脱脂乳、脱脂濃縮乳が好ましく用いられるが、それ以外の原料でも対応可能であることは言うまでもない。また、最終製品の乳タンパク質の含量は、脱脂粉乳換算で1wt%〜20wt%、好ましくは、2wt%〜15wt%、更に好ましくは5wt%〜10wt%である。乳製品の乳タンパク質として脱脂粉乳以外の原料を使用する場合には、その原料の乳タンパク質量に合わせてその含量を適宜決定することができる。
【0026】
本発明による乳性食品はデザートなどの目的で食されることが多いことから、糖質を含ませることで好ましい甘みを付与する。例えば、本発明の乳性食品には、これらに限定されないが、砂糖、ぶどう糖、麦芽糖、果糖、三温糖、和三盆糖、黒糖、メープルシロップ、蜂蜜、異性化液糖、果糖ぶどう糖液糖、還元水飴(糖アルコール)、トレハロース、ステビオサイド、カンゾウ抽出物、アスパルテーム等の甘味料や、糖分を多く含む食品(果実、サツマイモなど)等の糖質を添加することができる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて含んでも良い。これらの糖質の含量は、糖質の種類、他原料の含量等によって適宜調整することができるが、典型的には、2wt%〜30wt%、好ましくは5wt%〜15wt%となるように、調製を行う。この中でも砂糖を使用することが、褐変防止の観点から好ましい。
【0027】
本発明による乳性食品に用いられる油脂としては、例えば、ラード、魚油等、およびこれらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の動物性油脂;パーム油、サフラワー油、コーン油、ナタネ油、ヤシ油、およびこれらの分別油、水素添加油、エステル交換油等の植物性油脂などが挙げられる。本発明の好ましい態様において、乳性食品は高齢者向けの食品であることから、好ましくは植物性油脂を用いる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて含んでも良い。これら油脂成分の添加量は、乳性食品におけるその含量が、2wt%〜20wt%、好ましくは5wt%〜10wt%となるように調整することが好ましく、これにより風味、食感、栄養分等の調整を行うことができる。
【0028】
本発明による乳性食品においては、乳化及びその食感調整の目的で乳化剤を用いる。乳化剤としては、本発明はこれらに限定されないが、グリセリン脂肪酸エステル(例えば、ペンタグリセリンモノラウレート、ヘキサグリセリンモノラウレート、デカグリセリンモノラウレート、テトラグリセリンモノステアレート、デカグリセリンモノステアレート、デカグリセリンジステアレート、ジグリセリンモノオレート、デカグリセリンモノオレート、デカグリセリンエルカ酸エステル等)、有機酸(酢酸、乳酸、クエン酸、コハク酸、ジアセチル酒石酸等)モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル(例えば、ショ糖エルカ酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル等)、(植物、卵黄、分別、乳等)レシチン、酵素分解レシチン(例えば、酵素分解大豆レシチン、リゾレシチン等)等を挙げることができる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて含んでも良い。乳化剤の添加量は、乳化剤の種類、他原料の含量等によって適宜調整することができるが、典型的には、0.05wt%〜1.0wt%、好ましくは0.1wt%〜0.5wt%となるように調整する。この中でも、常温長期保存品とするための高温高圧処理への耐性の観点から、有機酸モノグリセリドが好ましく、さらには酒石酸モノグリセリドがより好ましく、具体的にはジアセチル酒石酸モノステアリン酸グリセリンが挙げられる。また、乳化剤として、カゼインナトリウムを用いることができる。本発明の乳性食品においては、有機酸モノグリセリドとカゼインナトリウムとを併用することが特に好ましく、その合計の含量は、0.05wt%〜1.0wt%、好ましくは0.1wt%〜0.5wt%とすることが好ましい。
【0029】
本発明による乳性食品においては、食品に適度な硬度と弾力を与えるためにゲル化剤、増粘剤などの安定剤を用いることができる。例えば本発明に用いることができる安定剤としては、本発明はこれらに限定されないが、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、ジェランガム、κ−カラギーナン、ι−カラギーナン、λ−カラギーナン、カラギーナン、ローメトキシルペクチン、ハイメトキシルペクチン、タラガム、澱粉、寒天、ゼラチン、等を挙げることができる。これらは、単独あるいは2種以上を組み合わせて含んでも良い。特に常温以下でのプリン様の固体形状を維持するために、ゼラチン、カラギーナン、寒天などのゲル化剤を用いることが好ましい。安定剤の添加量は安定化剤の種類、他原料の含量等によって適宜調整することができるが、例として0.1wt%〜5.0wt%、好ましくは0.2wt%〜2.0wt%を挙げることができる。
【0030】
本発明による乳性食品においては、その風味、食感、保存性、色調などを調整するために、その他各種食品添加物を用いることができる。
例えば、酸味やpH調整の為に酸味料、pH調整剤として、クエン酸、乳酸、酒石酸、リン酸、フィチン酸、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、リンゴ酸、グルコン酸(グルコノデルタラクトン)等を単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの酸は金属イオンの封止剤として用いることもできる。
その他本発明による乳性食品においては、香料、着色料、その他食品成分(果汁、果肉、シロップ、これらの加工品、酒類、鶏卵等)などを適宜、その風味、食感、色調などの調整のために用いることができる。
【0031】
本発明の乳性食品は、例えば以下のような工程を経て製造することができる。
原料の混合・溶解・分散工程:65〜80℃の温水にて原材料を混合し、溶解し、分散する。
濾過工程:40メッシュ程度のフィルターを通過させて不溶成分、粗大成分などを取り除く。
均質化工程:ホモジナイザーを用いて、適宜圧力(例えば10〜15MPa)をかけ、乳化する。なお均質化工程は単一工程でもよく、複数回分かれた工程であってもよい。
脱気工程:乳化状態を安定化させるために適宜真空度(例えば10〜20mmHg)にて脱気を行う。
殺菌工程:殺菌温度(例えば130〜140℃)で所定時間(例えば2〜60秒)、製品を処理することで殺菌を行うが、これと同等の殺菌効果が得られれば温度や保持時間の条件は必要に応じて調整できる。
冷却工程:殺菌温度まで高温となった製品を冷却する。
充填工程:所定の容器に製品を充填、封止することで、最終製品とする。
なお、本発明はこれらの工程には限定されず、一般的なこの種の食品製造に適用可能な各種工程を含むことができる。
【0032】
本発明の乳性食品は、上記均質化工程を経た後の原料液(水中油型乳化物)に存在する脂肪分の50%粒子径が0.2μm〜1.0μmであり、好ましくは0.4μm〜0.8μmである。この範囲の粒子径とすることで、本発明の組成で製造された乳性食品は、常温での長期保存を行ってもその色調に変化が抑制され、褐変が発生しない。
なお、この50%粒子径は、レーザー光を用いた回折式の粒度分布計(例えば、島津製作所(株)製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100)を用いて測定されるものであって、粒子累積個数が50%となる粒子径を指す。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
[試験例1]
【0034】
以下の組成(wt%)を有する乳性食品Aを製造した。
【0035】
【表1】
【0036】
<実施例1>
乳性食品Aは以下の方法により製造した。上記組成の原料液を調整した。この時、40℃で油脂類を添加し、70℃で香料を添加した。その後、均質化工程(5MPa×1回、25MPa×2回)を経て、一晩冷蔵にて放置した。次いで、95℃5分の条件で殺菌を行い、これをサンプルA(実施例1)とした。
<比較例1>
均質化工程を5MPa×1回のみとした以外は実施例1と同様にして、乳性製品AのサンプルA’(比較例1)を製造した。
【0037】
<実施例2>
また、上記組成におけるカラギーナンを寒天に代えた以外は実施例1と同様にして、乳性食品BのサンプルB(実施例2)を製造した。
<比較例2>
均質化工程を5MPa×1回のみとした以外は実施例2と同様にして、乳性製品BのサンプルB’(比較例2)を製造した。
【0038】
各サンプルの充填前の粒子径(μm)(島津製作所(株)製レーザー回折式粒度分布測定装置SALD−2100にて測定)を表2に示す。
【0039】
【表2】
【0040】
得られた各試料について、長期保存のシミュレーションとして132℃6分の熱処理を行った。得られた各試料について、その色調をカートリッジ式分光色差計カラーアナライザーTC−1800J(東京電色(株)製)で測定し、褐色の指標となる加熱後のB値を比較した。得られた結果を表3に示す。
【0041】
【表3】
【0042】
表3からも明らかなように、本発明による実施例1及び2の試料は比較例1及び2の試料と比較してB値が低かった。これより、本発明による実施例1及び2の試料は比較例1及び2の試料と比較して褐変が抑制される傾向が見られた。すなわち、粒子径が大きい比較例1及び2の試料と比較して粒子径の小さい本発明による実施例1及び2の試料は、表3の加熱試験の結果より、長期保存中の褐変も抑制しうると推測できる。また、本発明による実施例1及び2については安定化剤としてカラギーナン、寒天の相違であるが、B値に差は見られなかった。
【0043】
[試験例2]
試験例1の実施例1と比較例1と同様の組成及び方法で調整した実施例3と比較例3について長期保存のシミュレーションとして132℃6分の熱処理を行った。得られた各試料について、その色調をカートリッジ式分光色差計カラーアナライザーTC−1800J(東京電色(株)製)で測定した。この時、比較例の試料の50%粒子径は1.742μmであり、本発明による試料の50%粒子径は0.499μmであった。加熱前及び加熱後の色調を前記装置により測定し、その色差(√(ΔL2+Δa2+Δb2))値を加熱前後で比較した。得られた結果を表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
表4の結果より、B値のみならずΔE(色調全体の変化)も、50%粒子径の大きな比較例3の方が、50%粒子径の小さい実施例3に比べて大きい結果となった。即ち、比較例3は長期保存のシミュレーションとしての加熱処理により初期色調から大きくずれてしまい(変色が大きい)、一方、本発明の実施例3の方が長期保存による色調全体の変化も抑制することを予想できる。
【0046】
[試験例3]
試験例1の実施例1と比較例1と同様の方法で調整した試料である実施例4及び比較例4を10℃及び40℃で30日間保持した。この時、比較例4の試料の50%粒子径は1.3μmであり、本発明による実施例4の試料の50%粒子径は0.7μmであった。保存前及び保存後の色調を前記装置により測定し、その色差を計算した。得られた結果を表5に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
表5からも明らかなように、本発明による実施例4の試料は、常温における長期保存後も熱安定性が高く、色調の変化は少なかった。一方、粒子径が大きい比較例4の試料においては、常温における長期保存後で褐変が生じてしまい、熱安定性が低いことが判った。
【0049】
[試験例4]
試験例1で調製した実施例1を25℃で最大8ヶ月間保存した。保存中および保存後にB値を測定したところ、新鮮物で10.7、保存6カ月後で14.0、保存8カ月後で14.1であり、表3の加熱による促進試験と同様の傾向が本試験例のB値において見られた。すなわち、本発明にしたがって所定の乳性組成物を所定の50%粒子径を有するように均質化処理すれば、常温での長期保存時においても褐変を抑制できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明による褐変抑制乳性食品は、乳タンパク質、糖質および乳化剤を含む水中油型乳化物、特に、乳製品、砂糖、植物油脂、カゼインナトリウム、乳化剤を含む水中油型乳化物であるミルクゼリーベースを0.2〜1.0μmの50%粒子径になるまで均質化処理すること容易に得られ、また、常温にて長期間保存しても褐変化することなく、食欲をそそるミルク由来の好ましい色調を維持することが可能な乳性食品及びその製造方法を提供することが可能であり、産業上の利用可能性は非常に高い。
【手続補正書】
【提出日】2018年8月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳タンパク質、糖質、および乳化剤を含む水中油型乳化物である乳性食品であって、該水中油型乳化物の50%粒子径が0.2〜1.0μmである、乳性食品。