【課題】耐熱性、相溶性、誘電特性、湿熱信頼性、耐熱酸化劣化性が改善された硬化物又は成形体を与えることができる硬化性樹脂組成物、この樹脂組成物から生じるフィルム、硬化性複合材料、積層体、及び樹脂付き銅箔を提供する。
【解決手段】(A)主鎖の末端に存在するヒドロキシル基が(メタ)アクリル酸系化合物で変性されたポリフェニレンエーテルと、(B)ジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(a)と、モノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(b)を含有する共重合体であって、下記式(a1)で表される不飽和炭化水素基を(a)及び(b)の総和に対し、2〜80モル%含有し、Mnが300〜100,000であり、トルエン等の有機溶媒に可溶である可溶性多官能ビニル芳香族共重合体とを含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。
(D)硬化性反応型樹脂が、1分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、又は分子中に1個以上の不飽和炭化水素基を有するビニル化合物である請求項3に記載の硬化性樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の硬化性樹脂組成物は、(A)主鎖の末端に存在するヒドロキシル基が(メタ)アクリル酸系化合物で変性された変性ポリフェニレンエーテルと、(B)ジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(a)とモノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(b)を含有する可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を必須成分として含む。
上記変性ポリフェニレンエーテルを(A)成分と、上記可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を(B)成分ともいう。
まず、(A)成分について説明する。
【0016】
(A)成分の主鎖の末端に存在するヒドロキシル基が(メタ)アクリル酸系化合物で変性された変性ポリフェニレンエーテルは、特に限定されず、例えば下記の式(2)、又は式(5)で示されるポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。
【化2】
式(2)中、R
2〜R
4、及びQ
1〜Q
4は、水素原子、又は1価の置換基である。置換基としては、炭素数が1〜8個の直鎖または分岐アルキル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルケニル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルキニル基、又は炭素数が6〜10個のアリール基のいずれかである。xとyは、その合計が2〜200であることを条件に、それぞれ独立に0〜200の整数である。
好ましくは、R
2〜R
4、及びQ
1〜Q
4は、水素原子、メチル基、エチル基、又は、置換基を有していてもよいフェニル基である。
【0017】
Lは、下記式(3)の構造を有する連結基である。
【化3】
式(3)中、*は連結部位である。Q
5〜Q
8は、水素原子、又は1価の置換基である。置換基としては、炭素数が1〜8個の直鎖または分岐アルキル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルケニル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルキニル基、又は炭素数が6〜10個のアリール基のいずれかである。mは0または1であり、X
1は-O-、-N(R
5)-、-CO-、-CS-、-SO-、-SO
2-又は-C(R
6R
7)-である。ここで、R
5〜R
7は、水素原子、又は炭素数が1〜8個の直鎖または分岐アルキル基である。
【0018】
【化4】
式(5)中、R
2〜R
4、及びQ
1〜Q
4は、式(2)中のR
2〜R
4、及びQ
1〜Q
4はと同様な意味を有する。好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、又は置換基を有していてもよいフェニル基である。Q
1〜Q
4が、水素原子、又はメチル基であることがより好ましい。pは、1〜200の整数である。
【0019】
(A)成分の変性ポリフェニレンエーテルは、好ましくはその末端の-OH基がアクリレート基、又はメタアクリレート基で変性されて、-OCO-R(ここで、Rはビニル基又は置換ビニル基)となったものである。
【0020】
変性ポリフェニレンエーテル1分子が有する(メタ)アクリレート基の平均個数(末端官能基数)は、特に限定されない。好ましくは、硬化物の耐熱性並びに硬化性樹脂組成物の保存安定性及び流動性のバランスの観点から、1〜5個であり、1〜3個であることがより好ましく、1.5〜3個であることがさらに好ましい。
【0021】
上記変性ポリフェニレンエーテルの数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、500〜10,000であることが好ましく、800〜7,000であることがより好ましい。1,000〜4,000であることが最も好ましい。なお、ここで、Mnは具体的にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定される。
【0022】
変性ポリフェニレンエーテルのMnがこのような範囲内であると、得られた硬化性樹脂組成物の硬化物の靱性と成形性のバランスがより高いものとなる。これは、変性ポリフェニレンエーテルが比較的低分子量のものであるので、靱性を維持しながら、流動性が改良されることによる。通常のポリフェニレンエーテルでは、このような低い分子量のものを使用した場合、硬化物の耐熱性と靱性が低下する傾向がある。しかし、上記変性ポリフェニレンエーテルは、末端に重合性の(メタ)アクリレート基を有するので、本発明で(B)成分として使用される共重合体のようなビニル系の硬化性樹脂とともに共重合又は硬化させることによって、両者の架橋が好適に進行し、耐熱性と靱性が充分に高い硬化物が得られる。
【0023】
次に、(B)成分である可溶性多官能ビニル芳香族共重合体について説明する。可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を、共重合体ともいう。
【0024】
この可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、ジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(a)と、モノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(b)を含有し、更にジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(a)の一部として上記式(a1)で表される繰り返し単位(a1)を含有する。式(a1)中、R
1は炭素数6〜30の芳香族炭化水素基を表す。
繰り返し単位(a)と繰り返し単位(b)の合計を100モル%としたとき、繰り返し単位(a)を2モル%以上、95モル%未満含有し、繰り返し単位(b)を5モル%以上、98モル%未満含有する。そして、繰り返し単位(a)及び(b)の合計を100モル%としたとき、繰り返し単位(a1)を2〜80モル%含有する。
【0025】
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、数平均分子量Mnが300〜100,000であり、重量平均分子量Mwと数平均分子量の比で表される分子量分布が100.0以下であり、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶である。
【0026】
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体としては、限定されるものではないが、例えば下記式(6)で示されるジビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(a)とモノビニル芳香族化合物に由来する繰り返し単位(b)に由来する構造単位を含有する共重合体などが挙げられる。これらの構造単位は規則的に配列してもよく、ランダムに配列してもよい。
【化5】
(式中、R
9はモノビニル芳香族化合物に由来する炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、R
1はジビニル芳香族化合物に由来する炭素数6〜30の芳香族炭化水素基であり、h〜kは、その合計が2〜20,000であることを条件に、それぞれ独立に0〜200の整数である。)
【0027】
好適な(B)成分としては、上記式(6)に於いてR
1、及びR
9が、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいビフェニル基、置換基を有していてもよいナフタレン基、及び置換基を有していてもよいターフェニル基からなる群から選ばれる芳香族炭化水素基である繰り返し単位からなる共重合体が挙げられる。
【0028】
(B)成分である可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、溶媒可溶性であることを特徴とする。また、本明細書でいう繰り返し単位は、単量体に由来するものであって、共重合体の主鎖中に存在し、繰り返して現れる単位と、末端又は側鎖に存在する単位又は末端基を含む。繰り返し単位を構造単位ともいう。また、本明細書でいう末端基は、上記の単量体に由来するものの他に、後述の連鎖移動剤に由来する末端基も含む。
【0029】
ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)は、ジビニル芳香族化合物、及びモノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)の総和に対し、2モル%以上95モル%未満含有する。ジビニル芳香族化合物に由来する構造単位(a)は、二つのビニル基が、1つだけが反応したもの、2つが反応したものなど複数の構造になり得るが、このうち上記式(a1)で表されるビニル基が1つだけ反応した繰り返し単位を上記総和に対し、2〜80モル%含むことが好ましく、より好ましくは5〜70モル%であり、さらに好ましくは10〜60%であり、特に好ましくは15〜50%である。2〜80モル%とすることで、誘電正接が低く、靱性が高く、耐熱性に優れ、他の樹脂との相溶性に優れる。また、樹脂組成物とした際に、耐湿熱性、耐熱酸化劣化性、成形加工性に優れる。2モル%未満では、耐熱性が低下する傾向にあり、80モル%超では、積層体としたときの層間ピール強度が低下する傾向にある。
【0030】
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)を、上記総和に対し、5モル%以上98モル%未満含有する。好ましくは10モル%以上90モル%未満含有する。さらに好ましくは15モル%以上85モル%未満である。5モル%に満たないと成形加工性が不足し、98モル%を超えると硬化物の耐熱性が不十分である。
【0031】
上記式(a1)に存在するビニル基は、架橋成分として作用し、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱性を発現させるのに寄与する。一方、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)は、通常はビニル基の1,2付加反応により重合が進行すると考えられるので、ビニル基を有さない。つまり、モノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b)は、架橋成分として作用しない一方、成形性を発現させるのに寄与する。
【0032】
モノビニル芳香族化合物としては、スチレンが好ましく挙げられる。また、スチレンと共にスチレン以外のモノビニル芳香族化合物を使用することもできる。
この場合、スチレンに由来する構造単位(b1)及びスチレン以外のモノビニル芳香族化合物に由来する構造単位(b2)の含有量の総和を100モル%としたときに、スチレンに由来する構造単位(b1)の含有量は、99〜20モル%であることがよい。より好ましくは98〜30モル%である。(b1)の含有量が上記範囲であれば、耐熱酸化劣化性と成形性を兼ね備えるため好ましい。構造単位(b1)が99モル%より大きい場合、耐熱性が低下する傾向にあり、構造単位(b2)が80モル%より多い場合、成形性が低下する傾向にある。
【0033】
可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の数平均分子量(GPCを用いて測定される標準ポリスチレン換算の数平均分子量)は、好ましくは300〜100,000、より好ましくは400〜50,000、更に好ましくは500〜10,000である。Mnが300未満であると可溶性多官能ビニル芳香族共重合体中に含まれる単官能の共重合体成分の量が増えるため、硬化物の耐熱性が低下する傾向にあり、また、Mnが100,000を超えると、ゲルが生成しやすくなり、また、粘度が高くなるため、成形加工性が低下する傾向にある。
また、重量平均分子量(GPCを用いて測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量)とMnの比で表される分子量分布(Mw/Mn)の値は、100.0以下であり、好ましくは50.0以下、より好ましくは1.5〜30.0、最も好ましくは2.0〜20.0である。Mw/Mnが100.0を超えると、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の加工特性が悪化する傾向にあり、ゲルが発生する傾向にある。
【0034】
また、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、溶剤としてのトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタン又はクロロホルムに可溶であるが、好ましくは上記溶剤のいずれにも可溶である。溶剤に可溶で多官能な共重合体であるためには、ジビニルベンゼンのビニル基の一部は架橋せずに残存し適度な架橋度であることが必要である。ここで、溶剤に可溶とは、上記溶剤100gに対し、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体が5g以上溶解するものであることをいい、より好ましくは30g以上溶解、特に好ましくは50g以上溶解することである。
【0035】
ジビニル芳香族化合物は、分岐構造を形成し多官能とする役割を果たすと共に、得られた可溶性多官能ビニル芳香族共重合体を熱硬化する際に、耐熱性を発現させるための架橋成分としての役割を果たす。
ジビニル芳香族化合物の例としては、ビニル基を二つ有する芳香族であれば限定されないが、ジビニルベンゼン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、ジビニルナフタレン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、ジビニルビフェニル(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)が好ましく使用される。また、これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。成形加工性の観点から、より好ましくはジビニルベンゼン(m−体、p−体又はこれらの位置異性体混合物)である。
【0036】
モノビニル芳香族化合物の例としては、スチレン及びスチレン以外のモノビニル芳香族化合物がある。しかし、スチレンを必須とし、スチレン以外のモノビニル芳香族化合物を併用することが望ましい。
【0037】
スチレンは、モノマー成分として、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体に低誘電特性及び耐熱酸化劣化性を付与する役割を果たすとともに、連鎖移動剤として、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の分子量を制御する役割を果たす。
また、スチレン以外のモノビニル芳香族化合物は、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の溶剤可溶性及び加工性を向上させる。
【0038】
スチレン以外のモノビニル芳香族化合物の例としては、ビニル基を一つ有するスチレン以外の芳香族であれば限定されないが、ビニルナフタレン、ビニルビフェニルなどのビニル芳香族化合物;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o,p−ジメチルスチレン、o−エチルビニルベンゼン、m−エチルビニルベンゼン、p−エチルビニルベンゼンなどの核アルキル置換ビニル芳香族化合物;などが挙げられる。好ましくは、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体のゲル化を防ぎ、溶剤可溶性、加工性の向上効果が高く、コストが低く、入手が容易であることから、エチルビニルベンゼン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、エチルビニルビフェニル(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)、又はエチルビニルナフタレン(各位置異性体又はこれらの混合物を含む)である。より好ましくは、誘電特性とコストの観点から、エチルビニルベンゼン(m−体、p−体又はこれらの位置異性体混合物)である。
【0039】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、ジビニル芳香族化合物、及びモノビニル芳香族化合物の他に、トリビニル芳香族化合物、トリビニル脂肪族化合物、ジビニル脂肪族化合物、モノビニル脂肪族化合物等の他のモノマー成分を1種又は2種以上使用し、これらに由来する構造単位(c)を可溶性多官能ビニル芳香族共重合体中に導入することができる。
【0040】
上記他のモノマー成分としては、例えば、1,3,5−トリビニルベンゼン、1,3,5−トリビニルナフタレン、1,2,4−トリビニルシクロへキサン、エチレングリコールジアクリレート、ブタジエン、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0041】
他のモノマー成分は、全モノマー成分の総和に対するモル分率が30モル%未満であることが好ましい。つまり、他のモノマー成分に由来する繰り返し単位(c)は、共重合体を構成する全モノマー成分に由来する構造単位(a)、(b)、及び(c)の総和に対するモル分率が30モル%未満であることが好ましい。
【0042】
(B)成分として使用される可溶性多官能ビニル芳香族共重合体は、ジビニル芳香族化合物とモノビニル芳香族化合物を含むモノマーを、ルイス酸触媒の存在下に重合することにより得られる。
重合の際、使用されるルイス酸触媒としては、金属イオン(酸)と配位子(塩基)からなる化合物であって、電子対を受け取ることのできるものであれば特に制限なく使用できる。ルイス酸触媒の中でも、得られる共重合体の耐熱分解性の観点から、金属フッ化物又はその錯体が好ましく、特にB、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Ti、W、Zn、Fe及びV等の2〜6価の金属フッ化物又はその錯体が好ましい。これらの触媒は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。得られる共重合体の分子量及び分子量分布の制御及び重合活性の観点から、三フッ化ホウ素のエーテル錯体が最も好ましく使用される。ここで、エーテル錯体のエーテルとしては、ジエチルエーテル、ジメチルエーテル等がある。さらに、重合時に、分子量をコントロールする目的で、公知の連鎖移動剤(CTR)を添加することもできる。この際、連鎖移動剤は、反応により共重合体の末端に下記式(7)に例示するように、成長ポリマー鎖の末端をキャッピングすることによって、共重合体の成長を止めて、分子量の増大を抑えることで、分子量制御を可能にする。
【化6】
(式中、Rは、水素原子、又は1価の置換基である。置換基としては、炭素数が1〜8個の直鎖または分岐アルキル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルケニル基、炭素数が2〜8個の直鎖または分岐アルキニル基、及び/又は炭素数が6〜10個のアリール基である。)
【0043】
また、連鎖移動剤は共重合体の末端を化学変性することになるので、靱性、低誘電性、密着性等の機能付与を可能にする末端基を導入する役割を果たす化合物にもなる。このような、連鎖移動剤としての機能を有する化合物としては、アルコール化合物、メルカプタン化合物、カルボン酸化合物、カルボン酸無水物化合物、エーテル化合物、チオエーテル化合物、エステル化合物、及びチオエステル化合物などを挙げることができる。
また、上記の化合物の他に、単独重合性の低いモノマーを分子量調節剤として使用することもできる。このような単独重合性の低いモノマーとしては、シクロオレフィン化合物を挙げることができる。シクロオレフィン化合物の具体例を挙げると、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテンなどの単環の環状オレフィンの他、ノルボルネン、ジシクロペンタジエンなどのノルボルネン環構造を有する化合物(以下、ノルボルネン化合物と言う。)、インデン、アセナフチレンなどの芳香族環が縮合したシクロオレフィン化合物などを挙げることができるが、これらの化合物に限定されない。
これらの連鎖移動剤、分子量調節剤は、モノマー成分として計算され、これから生じる構造単位は、共重合体の構造単位として計算される。そして、これらは上記他のモノマー成分として計算される。
【0044】
本発明の硬化性樹脂組成物では、前記(A)成分及び(B)成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分を99〜1質量%含有する。好ましくは、95〜5質量%含有する。より好ましくは、(A)成分を90〜10質量%、更に好ましくは、80〜15質量%含有する。
(A)成分と(B)成分の配合量が、上記の範囲内にあると、湿熱履歴後の誘電正接特性と耐熱酸化劣化性が特異的に優れ、接着性と耐熱性のバランスに優れた硬化性樹脂組成物が得られる。
【0045】
本発明の硬化性樹脂組成物には、(C)成分としてラジカル重合開始剤(ラジカル重合触媒ともいう。)を含有することができる。ラジカル重合開始剤としては、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物は後述するように加熱等の手段により架橋反応を起こして硬化するが、その際の反応温度を下げたり、不飽和基の架橋反応を促進したりする目的でラジカル重合開始剤を含有させる。
【0046】
ラジカル重合開始剤としては、公知の物質が用いられる。代表的な例を挙げると、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)オクタン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジ(トリメチルシリル)パーオキサイド、トリメチルシリルトリフェニルシリルパーオキサイド等の過酸化物があるがこれらに限定されない。また過酸化物ではないが、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタンも、ラジカル重合開始剤として使用できる。しかし、これらの例に限定されない。これらの中でも、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンが好ましく用いられる。α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンは、反応開始温度が比較的に高い。そのため、プリプレグ乾燥時等の硬化する必要がない時点での硬化反応の促進を抑制することができ、本発明の硬化性樹脂組成物の保存性の低下を抑制することができる。さらに、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼンは、揮発性が低いため、プリプレグ乾燥時や保存時に揮発せず、安定性が良好である。また、ラジカル重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
ラジカル重合開始剤の配合量は、前記(A)成分と(B)成分の合計100重量部に対し、好ましくは0.01〜10重量部の範囲、より好ましくは0.1〜8重量部の範囲である。この範囲であれば、硬化反応を阻害することなく良好に反応が進行する。
【0048】
また、本発明の硬化性樹脂組成物には、(D)成分としての硬化性反応型樹脂、又は(E)成分としての熱可塑性樹脂、又は両者を配合することができる。
【0049】
(D)成分の硬化性反応型樹脂としては、公知の熱硬化性樹脂の他、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体と共重合して硬化樹脂を与える樹脂又は化合物がある。例えば、ビニルエステル樹脂、ポリビニルベンジル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、硬化型ビニル樹脂、マレイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリシアナート樹脂、フェノール樹脂、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類等を挙げることができる。
【0050】
好ましくは、ポリビニルベンジル樹脂、エポキシ樹脂、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類が挙げられる。特に好ましくは、ポリビニルベンジル樹脂、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物が挙げられる。
【0051】
(D)成分の硬化性反応型樹脂がエポキシ樹脂である場合、1分子中に2以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂から選ばれる1種以上のエポキシ樹脂であることが好ましい。かかるエポキシ樹脂としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、ビフェニルエポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂及びビスフェノールF型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、本発明の硬化性樹脂組成物には、ハロゲン化エポキシ樹脂を含有しないことが好ましいが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、必要に応じて配合してもよい。
このようなエポキシ樹脂を用いることによって、本発明の硬化性樹脂組成物の有する、優れた誘電特性と流動性への影響を最小限に留め、硬化物の耐熱性と密着性を充分に高められると考えられる。
【0052】
(D)成分の硬化性反応型樹脂として、分子中に1個以上の重合性不飽和炭化水素基を有する1種以上のビニル化合物類(以下、ビニル化合物類ともいう。)である場合、その種類は特に限定されない。すなわち、ビニル化合物類は、本発明の多官能ビニル芳香族共重合体と反応させることによって、架橋を形成させて、硬化させることができるものであればよい。重合性不飽和炭化水素基が炭素−炭素不飽和二重結合であるものがより好ましく、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に2個以上有する化合物が、より好ましい。なお、このビニル化合物類からは、(B)成分は除かれる。
【0053】
上記ビニル化合物類は、重量平均分子量(Mw)が100〜5,000であることが好ましく、100〜4,000であることがより好ましく、100〜3,000であることがさらに好ましい。Mwが100未満であると、硬化性樹脂組成物の配合成分系から揮発しやすくなるおそれがある。また、Mwが5,000を超えると、硬化性樹脂組成物のワニスの粘度や、加熱成形時の溶融粘度が高くなりすぎるおそれがある。よって、上記Mwがこのような範囲内であると、硬化物の耐熱性に優れた硬化性樹脂組成物が得られる。このことは、可溶性多官能ビニル芳香族共重合体と上記ビニル化合物類との反応により、架橋を好適に形成することができるためと考えられる。ここで、Mwは、GPCを用いて測定した値である。
【0054】
硬化性反応型樹脂としてのビニル化合物類の1分子当たりの炭素−炭素不飽和二重結合の平均個数(ビニル基(置換ビニル基を含む)の数。末端二重結合数ともいう。)は、ビニル化合物類のMwによって異なるが、例えば、1〜20個であることが好ましく、2〜18個であることがより好ましい。この末端二重結合数が少なすぎると、硬化物の耐熱性としては充分なものが得られにくい傾向がある。また、末端二重結合数が多すぎると、反応性が高くなりすぎ、例えば、硬化性樹脂組成物の保存安定性が低下したり、硬化性樹脂組成物の流動性が低下したりする等の不具合が発生するおそれがある。
【0055】
上記ビニル化合物類としては、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)等のトリアルケニルイソシアヌレート化合物、分子中にメタクリル基を2個以上有する多官能メタクリレート化合物、分子中にアクリル基を2個以上有する多官能アクリレート化合物、ポリブタジエン等のように分子中にビニル基を2個以上有するビニル化合物(多官能ビニル化合物)、及び分子中にビニルベンジル基を有するスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンジル化合物等が挙げられる。この中でも、炭素−炭素二重結合を分子中に2個以上有するものが好ましい。具体的には、トリアルケニルイソシアヌレート化合物、多官能アクリレート化合物、多官能メタクリレート化合物、多官能ビニル化合物、及びジビニルベンゼン化合物等が挙げられる。これらを用いると、硬化反応により架橋がより好適に形成されると考えられ、硬化性樹脂組成物の硬化物の耐熱性をより高めることができる。また、これらを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物を併用してもよい。炭素−炭素不飽和二重結合を分子中に1個有する化合物としては、分子中にビニル基を1個有する化合物(モノビニル化合物)等が挙げられる。
【0056】
(E)成分の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、PPS樹脂、ポリシクロペンタジエン樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂等や、既知の熱可塑性エラストマー、例えば、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン‐イソプレン共重合体、水添スチレン−ブタジエン共重合体、水添スチレン−イソプレン共重合体等や、あるいはゴム類、例えばポリブタジエン、ポリイソプレンを挙げることができる。好ましくは、ポリフェニレンエーテル樹脂(未変性)、水添スチレン−ブタジエン共重合体を挙げることができる。
【0057】
上記(D)成分及び(E)成分の合計の配合量は、(A)成分、(B)成分、(D)成分及び(E)成分の合計100質量部に対して、1〜90質量部であることが好ましく、2〜80質量部であることがより好ましい。5〜65質量部であることが特に好ましい。
【0058】
本発明の硬化性樹脂組成物には、(F)成分として難燃剤を配合することができる。難燃剤によって、硬化性樹脂組成物の硬化物の難燃性をさらに高めることができる。難燃剤は特に限定されないが公知の難燃剤を使用することができる。
具体的には、臭素系難燃剤等のハロゲン系難燃剤を使用する分野では、例えば、融点が300℃以上のエチレンジペンタブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモイミド、デカブロモジフェニルオキサイド、及びテトラデカブロモジフェノキシベンゼンが好ましい。ハロゲン系難燃剤を使用することにより、高温時におけるハロゲンの脱離が抑制でき、耐熱性の低下を抑制できると考えられる。また、ハロゲンフリーが要求される分野では、リン酸エステル系難燃剤、ホスファゼン系難燃剤、及びホスフィン酸塩系難燃剤等のリン系の難燃剤が挙げられる。リン酸エステル系難燃剤の具体例としては、ジキシレニルホスフェートの縮合リン酸エステルが挙げられる。ホスファゼン系難燃剤の具体例としては、フェノキシホスファゼンが挙げられる。ホスフィン酸塩系難燃剤の具体例としては、例えば、ジアルキルホスフィン酸アルミニウム塩のホスフィン酸金属塩が挙げられる。例示した各難燃剤を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
難燃剤の配合量は、リン原子の含有量が、前記(A)成分〜(E)成分と、難燃剤との合計100質量部に対して、1.0〜7.0質量部となることが好ましく、1.5〜5.5質量部であることがより好ましく、1.8〜4.8質量部であることがさらに好ましい。リン系以外の難燃剤の場合は、5〜50質量部であることが好ましい。このような含有量であれば、本発明の硬化性樹脂組成物の有する優れた誘電特性を維持したまま、硬化物の耐熱性及び難燃性により優れた硬化性樹脂組成物になる。このことは、難燃剤を含有することによる、誘電特性や硬化物の耐熱性等の低下を充分に抑制しつつ、難燃性を充分に高めることができることによると考えられる。
【0059】
本発明の硬化性樹脂組成物には、(G)成分として充填剤を配合することができる。充填剤としては、硬化性樹脂組成物の硬化物の、耐熱性や難燃性を高めるために添加するもの等が挙げられ、公知の充填剤を使用することができるが、特に限定されない。また、充填剤を含有させることによって、耐熱性、寸法安定性や難燃性等をさらに高めることができる。具体的には、球状シリカ等のシリカ、アルミナ、酸化チタン、及びマイカ等の金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、タルク、ホウ酸アルミニウム、硫酸バリウム、及び炭酸カルシウム等が挙げられる。この中でも、シリカ、マイカ、及びタルクが好ましく、球状シリカがより好ましい。また、これらの1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
充填剤は、そのまま用いてもよいが、エポキシシランタイプ、又はアミノシランタイプ等のシランカップリング剤で表面処理したものを用いてもよい。このシランカップリング剤としては、ラジカル重合開始剤との反応性との観点から、ビニルシランタイプ、メタクリロキシシランタイプ、アクリロキシシランタイプ、及びスチリルシランタイプのシランカップリング剤が好ましい。これにより、金属箔との接着強度や樹脂同士の層間接着強度が高まる。また、充填剤に予め表面処理する方法でなく、上記シランカップリング剤をインテグラルブレンド法で添加して用いてもよい。
【0060】
充填剤の含有量は、充填剤を除く固形分(モノマー等の有機成分と難燃剤を含み、溶剤を除く。)の合計100質量部に対して、10〜200質量部であることが好ましく、30〜150質量部であることが好ましい。
【0061】
本発明の硬化性樹脂組成物には、上記以外の添加剤をさらに含有してもよい。添加剤としては、例えば、シリコーン系消泡剤及びアクリル酸エステル系消泡剤等の消泡剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、染料や顔料、滑剤、湿潤分散剤等の分散剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の硬化性樹脂組成物は、プリプレグを製造する際には、プリプレグを形成するための基材(繊維質基材)に含浸する目的、あるいは回路基板を形成する回路基板材料とする目的でワニス状に調製して、樹脂ワニスとすることができる。
上記樹脂ワニスは、上記(A)成分と(B)成分を必須の成分として含み、所望により(C)〜(G)成分とその他の添加剤を含む樹脂組成物を溶剤に溶解又は分散させて得られる。この樹脂ワニスは、回路基板用に適し、回路基板材料用ワニスとして使用できる。なお、ここでいう回路基板材料の用途は、具体的には、プリント配線基板、プリント回路板、フレキシブルプリント配線板、ビルドアップ配線板等が挙げられる。
【0063】
上記の樹脂ワニスは、例えば、以下のようにして調製される。
まず、(A)成分、(B)成分や、硬化性反応型樹脂等の有機溶媒に溶解できる各成分を、有機溶媒に投入して溶解させる。この際、必要に応じて、加熱してもよい。その後、必要に応じて、無機充填材等の有機溶媒に溶解しない成分を添加して、ボールミル、ビーズミル、プラネタリーミキサー、ロールミル等を用いて、分散させることにより、ワニス状の硬化性樹脂組成物が調製される。ここで用いられる有機溶媒としては、(A)成分、(B)成分等を溶解させ、硬化反応を阻害しないものであれば、特に限定されない。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド等の極性溶剤類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤類等が挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して使用することも可能である。誘電特性の観点から、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類が好ましい。
【0064】
樹脂ワニスを作成する際に、使用する有機溶剤の量は、本発明の硬化性樹脂組成物100重量%に対して、好ましくは5〜900重量%、より好ましくは10〜700重量%、特に好ましくは20〜500重量%である。なお、本発明の硬化性樹脂組成物が樹脂ワニス等の有機溶剤溶液である場合、その有機溶剤の量は組成物の計算には含めない。
【0065】
本発明の硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、成型物、積層物、注型物、接着剤、塗膜、フィルムとして使用できる。例えば、半導体封止材料の硬化物は注型物又は成型物であり、かかる用途の硬化物を得る方法としては、硬化性樹脂組成物を注型、或いはトランスファ−成形機、射出成形機などを用いて成形し、さらに80〜230℃で0.5〜10時間に加熱することにより硬化物を得ることができる。また、回路基板用ワニスの硬化物は積層物であり、この硬化物を得る方法としては、回路基板用ワニスをガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙などの基材に含浸させ加熱乾燥してプリプレグを得て、それを単独同士で、あるいは銅箔等の金属箔と積層し熱プレス成形して得ることができる。
【0066】
チタン酸バリウム等の無機の高誘電体粉末、あるいはフェライト等の無機磁性体を硬化性樹脂組成物又は樹脂ワニス中に配合することにより、電子部品用材料、特に高周波電子部品材料としてより優れたものとなる。
【0067】
本発明の硬化性樹脂組成物は、後述する硬化複合材料と同様、金属箔(金属板を含む意味である。以下同じ。)と張り合わせて用いることができる。
【0068】
次に、本発明の硬化性樹脂組成物の硬化性複合材料とその硬化体について説明する。本発明の硬化性樹脂組成物による硬化性複合材料には、機械的強度を高め、寸法安定性を増大させるために基材を加える。
【0069】
このような基材としては、公知の材料が用いられるが、例えば、ロービングクロス、クロス、チョップドマット、サーフェシングマットなどの各種ガラス布、アスベスト布、金属繊維布及びその他合成若しくは天然の無機繊維布、全芳香族ポリアミド繊維、全芳香族ポリエステル繊維、ポリベンゾザール繊維等の液晶繊維から得られる織布又は不織布、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維などの合成繊維から得られる織布又は不織布、綿布、麻布、フェルトなどの天然繊維布、カーボン繊維布、クラフト紙、コットン紙、紙−ガラス混繊紙などの天然セルロース系布などの布類、紙類等がそれぞれ単独で、あるいは2種以上併せて用いられる。
【0070】
基材の占める割合は、硬化性複合材料中において、好ましくは5〜90wt%、より好ましくは10〜80wt%、更に好ましくは20〜70wt%である。基材が5wt%より少なくなると複合材料の硬化後の寸法安定性や強度が不十分であり、基材が90wt%より多くなると複合材料の誘電特性が劣り好ましくない。
本発明の硬化性複合材料には、必要に応じて樹脂と基材の界面における接着性を改善する目的でカップリング剤を用いることができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、ジルコアルミネートカップリング剤など一般のものが使用できる。
【0071】
本発明の硬化性複合材料を製造する方法としては、例えば、本発明の硬化性樹脂組成物と必要に応じて他の成分を前述の芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、基材に含浸させた後、乾燥する方法が挙げられる。含浸は浸漬(ディッピング)、塗布等によって行われる。含浸は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて含浸を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0072】
本発明の硬化性複合材料を加熱等の方法により硬化することによって、硬化複合材料が得られる。その製造方法は特に限定されるものではなく、例えば硬化性複合材料を複数枚重ね合わせ、加熱加圧下に各層間を接着せしめると同時に熱硬化を行い、所望の厚みの硬化複合材料を得ることができる。また、一度接着硬化させた硬化複合材料と硬化性複合材料を組み合わせて新たな層構成の硬化複合材料を得ることも可能である。積層成形と硬化は、通常熱プレス等を用い同時に行われるが、両者をそれぞれ単独で行ってもよい。すなわち、あらかじめ積層成形して得た未硬化あるいは半硬化の複合材料を、熱処理又は別の方法で処理することによって硬化させることができる。
【0073】
本発明の硬化性樹脂組成物又は硬化性複合材料の硬化、又は成形及び硬化は、好ましくは温度80〜300℃、圧力0.1〜1000kg/cm
2、時間1分〜10時間の範囲、より好ましくは温度150〜250℃、圧力1〜500kg/cm
2、時間1分〜5時間の範囲で行うことができる。
【0074】
本発明の積層体は、本発明の硬化複合材料の層と金属箔の層より構成されるものである。ここで用いられる金属箔としては、例えば銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。その厚みは特に限定されないが、3〜200μm、より好ましくは3〜105μmの範囲である。
【0075】
本発明の積層体を製造する方法としては、例えば上で説明した本発明の硬化性樹脂組成物と基材から得た硬化性複合材料と、金属箔を目的に応じた層構成で積層し、加熱加圧下に各層間を接着せしめると同時に熱硬化させる方法を挙げることができる。本発明の硬化性樹脂組成物の積層体においては、硬化複合材料と金属箔が任意の層構成で積層される。金属箔は表層としても中間層としても用いることができる。上記の他、積層と硬化を複数回繰り返して多層化することも可能である。
【0076】
金属箔との接着には接着剤を用いることもできる。接着剤としては、エポキシ系、アクリル系、フェノール系、シアノアクリレート系等が挙げられるが、特にこれらに限定されない。上記の積層成形と硬化は、本発明の硬化複合材料の製造と同様の条件で行うことができる。
【0077】
本発明の硬化性樹脂組成物をフィルム状に成形することにより、本発明の硬化性樹脂組成物の一形態であるフィルムとすることができる。その厚みは特に限定されないが、好ましくは3〜200μm、より好ましくは5〜105μmの範囲である。
本発明のフィルムを製造する方法としては、特に限定されることはなく、例えば硬化性樹脂組成物を芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、PETフィルムなどの樹脂フィルムに塗布した後乾燥する方法などが挙げられる。塗布は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0078】
本発明の樹脂付き金属箔は、本発明の硬化性樹脂組成物と金属箔より構成されるものである。ここで用いられる金属箔としては、例えば銅箔、アルミニウム箔等が挙げられる。その厚みは特に限定されないが、好ましくは3〜200μm、より好ましくは5〜105μmの範囲である。
【0079】
本発明の樹脂付き金属箔を製造する方法としては、特に限定されることはなく、例えば硬化性樹脂組成物を芳香族系、ケトン系等の溶媒若しくはその混合溶媒中に均一に溶解又は分散させ、金属箔に塗布した後乾燥する方法が挙げられる。塗布は必要に応じて複数回繰り返すことも可能であり、またこの際、組成や濃度の異なる複数の溶液を用いて塗布を繰り返し、最終的に希望とする樹脂組成及び樹脂量に調整することも可能である。
【0080】
本発明の多官能ビニル芳香族共重合体は、成形材、シート又はフィルムに加工することができ、電気産業、宇宙・航空機産業、自動車等の分野において低誘電率、低吸水率、高耐熱性等の特性を満足できる低誘電材料、絶縁材料、耐熱材料、構造材料等に用いることができる。特に片面、両面、多層プリント基板、フレキシブルプリント基板、ビルドアップ基板等として用いることができる。さらに、半導体関連材料又は光学用材料、更には、塗料、感光性材料、接着剤、汚水処理剤、重金属捕集剤、イオン交換樹脂、帯電防止剤、酸化防止剤、防曇剤、防錆剤、防染剤、殺菌剤、防虫剤、医用材料、凝集剤、界面活性剤、潤滑剤、固体燃料用バインダー、導電処理剤、樹脂改質材、アスファルト改質材可塑剤、焼結バインダー等への適用が可能である。
【0081】
本発明の硬化性樹脂組成物は、厳しい熱履歴後も高度の誘電特性(低誘電率・低誘電正接)を有し、かつ、厳しい環境下に於いても、高い密着信頼性を有する硬化物を与え、かつ、樹脂流動性に優れ、低線膨張で、配線埋め込み平坦性に優れている。そのため、電気・電子産業、宇宙・航空機産業等の分野において、誘電材料、絶縁材料、耐熱材料、構造材料等として、近年、強く求められている小型・薄型化に対応して反り等の成形不良現象のない硬化成形品を提供することができる。更に、配線埋め込み平坦性と異種材料との密着性に優れることに由来して、信頼性に優れる硬化性樹脂組成物、硬化物又はこれを含む材料を実現できる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。各例中の部はいずれも重量部である。
なお、多官能ビニル芳香族共重合体の合成例中の物性測定は、以下に示す方法により行った。
【0083】
1)ポリマーの分子量及び分子量分布
多官能ビニル芳香族共重合体の分子量及び分子量分布測定はGPC(東ソー製、HLC−8120GPC)を使用し、溶媒にテトラヒドロフラン、流量1.0ml/min、カラム温度38℃、単分散ポリスチレンによる検量線を用いて行った。
【0084】
2)ポリマーの構造
ポリマーの構造は、日本電子製JNM−LA600型核磁気共鳴分光装置を用い、
13C−NMR及び
1H−NMR分析により測定した。溶媒としてクロロホルム−d
1を使用し、テトラメチルシランの共鳴線を内部標準として使用した。さらに、
13C−NMR及び
1H−NMR測定結果に加えて、GC分析より得られる共重合体中に導入された各構造単位の総量に関するデータより、特定の構造単位の導入量を算出し、この末端に導入された特定の構造単位の導入量と上記のGPC測定より得られる数平均分子量とから、多官能ビニル芳香族共重合体中に含まれるペンダントビニル基単位の量を算出した。
【0085】
3)硬化物のガラス転移温度(Tg)
ガラス転移温度(Tg)測定に使用する試験片は、以下の方法に従って作成した。即ち、真空プレス成形機の下の金型上に多官能ビニル芳香族共重合体100重量部、ラジカル重合開始剤0.5重量部、トルエン100重量部のワニスを乗せ、加熱真空下、溶剤を脱揮させた。その後、上型を乗せ、真空下、加熱プレスを行い、200℃で2時間保持することによって、厚さ:200μmの平板を成形した。成形して得られた平板より、幅:3.0mm、厚さ:200μm、長さ、25mmの試験片を作成した。得られた試験片をTMA(熱機械分析装置)にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に220℃で20分間加熱処理することにより残存する成形歪を除去した。試験片を室温まで放冷した後、TMA測定装置のチャックに固定し、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から320℃までスキャン測定を行い、接線法でTgを求めた。
【0086】
4)耐熱性評価
多官能ビニル芳香族共重合体の耐熱性評価は、前項で作成した硬化後の試験片から採取したサンプルをTGA(熱天秤)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から400℃までスキャンさせることにより、測定を行い、350℃における重量減少量の大きさを耐熱性の指標とした。また、変色の程度を評価し、これを耐熱性の指標とした。評価は、○:無色〜淡黄色、△:淡黄色〜薄茶色、×:薄茶色〜褐色とした。
【0087】
5)相溶性の測定
多官能ビニル芳香族共重合体のエポキシ樹脂との相溶性の測定は、試料5.0gをエポキシ樹脂(液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂:ジャパンエポキシレジン社製、エピコート828)3.0g、及びフェノール樹脂(メラミン骨格系フェノール樹脂:群栄化学工業社製、PS−6492)2.0gをメチルエチルケトン(MEK)10gに溶解させ、溶解後の試料の透明性を目視にて確認し、○:透明、△:半透明、×:不透明もしくは溶解せず、に分類することにより相溶性の評価を行った。
【0088】
6)溶剤溶解性の測定
多官能ビニル芳香族共重合体100gを、トルエン、キシレン、THF、ジクロロエタン、ジクロロメタン又はクロロホルム100gに溶解させ、いずれの溶媒に対しても全量が溶解し、ゲルの生成は認められない場合を、〇とした。
【0089】
合成例1
ジビニルベンゼン 2.25モル(292.9g)、エチルビニルベンゼン 1.32モル(172.0g)、スチレン 11.43モル(1190.3g)、酢酸n−プロピル 15.0モル(1532.0g)を5.0Lの反応器内に投入し、70℃で600ミリモルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、4時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、60℃で減圧脱揮し、共重合体を回収した。得られた共重合体を秤量して、共重合体A 860.8gが得られたことを確認した。
【0090】
得られた共重合体AのMnは2060、Mwは30700、Mw/Mnは14.9であった。
13C‐NMR及び
1H‐NMR分析を行うことにより、共重合体Aには、各単量体単位に由来する共鳴線が観察された。NMR測定結果、及び、GC分析結果に基づき、共重合体Aの構成単位は以下のように算出された。
ジビニルベンゼン由来の構造単位(a):20.9モル%(24.3wt%)
エチルビニルベンゼン由来の構造単位(b2):9.1モル%(10.7wt%)
スチレンに由来する構造単位(b1):70.0モル%(65.0wt%)
ジビニルベンゼン由来の残存ビニル基をもつ構造単位(a1):16.7モル%(18.5wt%)
【0091】
硬化物の明確なTgは観察されなかった、軟化温度は300℃以上であった。350℃における重量減少は2.11wt%、耐熱変色性は○であった。一方、エポキシ樹脂との相溶性は○であった。共重合体Aの溶剤溶解性は、○であった。
【0092】
合成例2
ジビニルベンゼン 3.0モル(390.6g)、エチルビニルベンゼン 1.8モル(229.4g)、スチレン 10.2モル(1066.3g)、酢酸n−プロピル 15.0モル(1532.0g)を5.0Lの反応器内に投入し、70℃で600ミリモルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、4時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、60℃で減圧脱揮し、共重合体を回収した。得られた共重合体を秤量して、共重合体B 896.7gが得られたことを確認した。
【0093】
得られた共重合体BのMnは2980、Mwは41300、Mw/Mnは13.9であった。共重合体Bの構成単位は以下のように算出された。
構造単位(a):30.4モル%(33.1wt%)
構造単位(b2):12.2モル%(14.2wt%)
構造単位(b1):57.4モル%(52.7wt%)
構造単位(a1):23.9モル%(25.9wt%)
硬化物の明確なTgは観察されなかった、軟化温度は300℃以上であった。350℃における重量減少は1.83wt%、耐熱変色性は○であった。一方、エポキシ樹脂との相溶性は○であった。共重合体Bの溶剤溶解性は、○であった。
【0094】
合成例3
ジビニルベンゼン 1.5モル(195.3g)、エチルビニルベンゼン 0.88モル(114.7g)、スチレン 12.6モル(1314.3g)、酢酸n−プロピル 15.0モル(1532.0g)を5.0Lの反応器内に投入し、70℃で600ミリモルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、4時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、60℃で減圧脱揮し、共重合体を回収した。得られた共重合体を秤量して、共重合体C 820.8gが得られたことを確認した。
【0095】
得られた共重合体CのMnは1490、Mwは12600、Mw/Mnは8.44であった。共重合体Cの構成単位は以下のように算出された。
構造単位(a):11.3モル%(13.5wt%)
構造単位(b2):5.79モル%(7.04wt%)
構造単位(b1):82.9モル%(79.4wt%)
構造単位(a1):10.1モル%(10.8wt%)
硬化物の明確なTgは観察されなかった、軟化温度は300℃以上であった。350℃における重量減少は2.01wt%、耐熱変色性は○であった。一方、エポキシ樹脂との相溶性は○であった。共重合体Cの溶剤溶解性は、○であった。
【0096】
合成例4
5Lの三つ口丸底フラスコに入れたトルエンの3Lに、ポリフェニレンエーテル(SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA120、固有粘度(IV)0.125dl/g、一分子当たりの末端水酸基数1個、Mw2400) 1500g、無水メタクリル酸153g(1.0モル)及びジメチルアミノピリジン121g(1.0モル)を加えた。溶液を加熱して、一晩還流した。メタノール内で所望の生成物を沈澱させて、濾過によって単離した。得られた生成物を真空内で、80℃で一晩乾燥させた。生成物の収量は1354gであった。
1H−NMR測定データは、ポリフェニレンエーテルの片末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテルに一致し、末端官能基数は1個であった。GPC測定の結果、Mn:2300であった。
【0097】
合成例5
ジビニルベンゼン 0.63モル(89.7mL)、エチルビニルベンゼン 0.37モル(52.7mL)、ノルボルネン 1.00モル(94.2g)、酢酸ブチル 0.40モル(52.8mL)、トルエン 150mLを1.0Lの反応器内に投入し、70℃で30ミリモルの三フッ化ホウ素のジエチルエーテル錯体を添加し、6時間反応させた。重合溶液を炭酸水素ナトリウム水溶液で停止させた後、純水で3回油層を洗浄し、60℃で減圧脱揮し、共重合体を回収した。得られた共重合体を秤量して、共重合体D 117.8gが得られたことを確認した。
【0098】
得られた共重合体DのMnは2500、Mwは24200、Mw/Mnは9.69であった。共重合体Dはノルボルネンの末端に由来する共鳴線が観察された。可溶性多官能ビニル芳香族共重合体の末端へのノルボルネン由来の末端基(c1)の導入量は2.6(個/分子)であった。また、ジビニルベンゼン由来の構造単位を54.1wt%、エチルビニルベンゼン由来の構造単位を合計22.4wt%、及びノルボルネンに由来する構造単位を23.5wt%含有していた(末端構造単位を含む)。共重合体D中に含まれる残存ビニル基を持つジビニルベンゼン由来の構造単位の含有量は、30.8wt%であった(末端構造単位を含む)。
また、硬化物の明確なTgは観察されなかった、軟化温度は300℃以上であった。TGA測定の結果、350℃における重量減少は2.20wt%、耐熱変色性は○であった。一方、エポキシ樹脂との相溶性は○であった。共重合体Dの溶剤溶解性は、○であった。
【0099】
合成例1〜3で得られた共重合体A〜Cを使用して、これらの共重合体を用いた硬化性樹脂組成物のワニス、及び硬化物の特性評価を、下記の試験方法に従って行った。
【0100】
7)溶液粘度
硬化性樹脂組成物のワニス溶液粘度は、E型粘度計を使用して、測定温度:25℃で測定を行った。
【0101】
8)曲げ強度及び曲げ破断伸び
曲げ試験に使用する試験片は、真空プレス成形機の下の金型上に硬化性樹脂組成物のワニスを乗せ、加熱真空下、溶剤を脱揮させた。その後、上型を乗せ、真空下、加熱プレスを行い、200℃で1時間保持することによって、厚さ:1.0mmの平板を成形した。成形して得られた平板より、幅:5.0mm、厚さ:1.0mm、長さ、120mmの試験片を作成し、曲げ試験を行った。作成した曲げ試験片の曲げ強度及び曲げ破断伸びは万能試験装置を用いて測定を行った。そして、曲げ強度及び曲げ破断伸びは、基準となる配合の測定値に対して±10%未満の値となるものを○、10%以上の値となるものを◎−10〜−20%の範囲の値となるものを△、−20%以下の値となるものを×として評価を行った。
【0102】
9)線膨張係数及びガラス転移温度
線膨張係数及びガラス転移温度の試験に使用する試験片は、真空プレス成形機の下の平板形状の金型上に硬化性樹脂組成物のワニスを乗せ、加熱真空下、溶剤を脱揮させた。その後、0.2mmのスペーサーを挟んで、上型を乗せ、真空下、加熱プレスを行い、200℃で1時間保持することによって、厚さ:0.2mmの平板を成形した。成形して得られた平板より、幅:3.0mm、厚さ:0.2mm、長さ、40mmの試験片を作成し、TMA(熱機械分析装置)の上方のチャックのみにセットし、窒素気流下、昇温速度10℃/分で220℃まで昇温し、更に220℃で20分間加熱処理することにより残存する溶媒を除去するとともに、試験片中の成形歪みの除去を行った。TMAを室温まで放冷した後、TMA測定装置中の試験片の下側についても、分析用プローブにセットさせ、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から360℃までスキャン測定を行い、0〜40℃に於ける寸法変化より、線膨張係数を算出した。
また、ガラス転移温度Tgについては、上記の試験片を、DMA(動的粘弾性装置)測定装置にセットし、窒素気流下、昇温速度3℃/分で30℃から320℃までスキャンさせることにより測定を行い、tanδ曲線のピークトップによりTgを求めた。
【0103】
10)誘電率及び誘電正接
JIS C2565規格に準拠し、株式会社エーイーティー製、空洞共振器法誘電率測定装置により、絶乾後23℃、湿度50%の室内に24時間保管した後の硬化物平板試験片を使用して、18GHzでの誘電率及び誘電正接を測定した。
また、硬化物平板試験片を85℃、相対湿度85%で2週間放置した後、誘電率及び誘電正接の測定を行い、耐湿熱試験後の誘電率85及び誘電正接85を測定した。
さらに、材料の高温耐熱酸化劣化性を確認する為、硬化物平板試験片を145℃、空気雰囲気下で168時間放置した後、誘電率145及び誘電正接145の測定を行い、高温耐熱酸化劣化性試験後の誘電率及び誘電正接を測定した。
【0104】
11)銅箔引き剥し強さ
熱硬化性樹脂組成物のワニスにガラスクロス(Eガラス、目付71g/m
2)を浸漬して含浸を行い、80℃のエアーオーブン中で10分間乾燥させた。その際、得られるプリプレグのレジンコンテンツ(R.C)が50wt%となるように調整した。
このプリプレグを使用して、成形後の厚みが約0.6mm〜1.0mmになるように、上記の硬化性複合材料を必要に応じて複数枚重ね合わせ、その両面に厚さ35μmの銅箔(商品名:HS1−M2−VSP、銅箔、Rz:1.2μm)を置いて真空プレス成形機により成形硬化させて評価用積層体を得た。硬化条件は、3℃/分で昇温し、圧力3MPaで、200℃で120分間保持し、評価用銅張積層板としての積層体硬化物を得た。
【0105】
このようにして得られた積層体硬化物から幅20mm、長さ100mmの試験片を切り出し、銅箔面に幅10mmの平行な切り込みを入れた後、面に対して90°の方向に50mm/分の速さで連続的に銅箔を引き剥し、その時の応力を引張り試験機にて測定し、その応力の最低値を銅箔引き剥し強さとして記録した。(JIS C 6481に準拠)。
耐湿熱性試験後の銅箔引き剥がし強さの試験は、上記の試験片を85℃、相対湿度85%で2週間放置した後、上記と同様にして測定した。
【0106】
12)成形性
前項で成形を行った評価用銅張積層板を用いて、格子状に線幅(L)が0.5mm、線間隔(S)が0.5mm(L/S=0.5/0.5mm)にパターニングしたコア材を作成した。このコア材を黒化処理し、次いで、その上に、さらにプリプレグを積層し、2次成形することで、内層が格子状パターンの評価用積層基板を作成した。その作成した評価用積層基板について、例えば、樹脂ワニスの流動性不足によるボイド等の欠陥が生じていないかを確認した。その後、この評価用積層基板を沸騰水に4時間浸漬した後、290℃のはんだ槽に浸漬させた。その際、ボイドの存在が確認できず、はんだ槽に浸漬した後も膨れ、層間剥離、ミーズリング(白斑)などの不良現象の発生が見られないものを:○、前記不良現象の発生は見られないが、反りが発生したものを:△、前記不良現象が発生したものを:×と評価した。
【0107】
実施例1
合成例1で得られた共重合体−A 10g、変性PPE−A 10gと、重合開始剤としてパーブチルP 0.1g、硬化促進剤として、酸化防止剤としてAO−60 0.04gをトルエン8.6gに溶解し硬化性樹脂組成物(ワニスA)を得た。
【0108】
調製したワニスAを下金型の上に滴下し、135℃で溶媒を減圧下、脱揮した後、金型を組上げ、200℃、3MPaの条件で2時間真空加圧プレスを行い、熱硬化させた。得られた厚さ:0.2mmの硬化物平板試験片について、18GHzの誘電率と誘電正接を始めとする諸特性を測定した。また、硬化物平板試験片を85℃、相対湿度85%で2週間放置した後、誘電率及び誘電正接の測定を行い、耐湿熱試験後の誘電率及び誘電正接を測定した。これら測定により得られた結果を表1に示した。さらに、このワニスを使用して、プリプレグ、試験用銅張積層板、及び試験用めっき付き積層板を作成し、銅箔引き剥し強さ、銅めっき引き剥し強さ、及び成形性の評価を行った。試験結果を表1に示した。表1において、銅箔引剥がし強さ85は、85℃×85RH×2週間放置後の測定値である。
【0109】
実施例2〜3、比較例1
表1に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表1に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0110】
【表1】
【0111】
実施例4〜6、比較例2
表2に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表2に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0112】
【表2】
【0113】
実施例7〜10
表3に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表3に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0114】
【表3】
【0115】
実施例11〜14
表4に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表4に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0116】
【表4】
【0117】
実施例15〜18
表5に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表5に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0118】
【表5】
【0119】
実施例19〜20、比較例3
表6に示した配合処方としたこと以外は、実施例1と同様な方法で硬化性樹脂組成物(ワニス)を得た。そして、実施例1と同様にして、試験・評価を行った。これらの試験により得られた結果を表6に示した。なお、ワニス濃度(固形分濃度)は50wt%とした。
【0120】
【表6】
【0121】
表1〜表6において、使用した成分は、以下のとおり。
変性PPE−A:SABICイノベーティブプラスチックス社製のSA9000(ポリフェニレンエーテルの両末端水酸基をメタクリル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル)、Mn:1700、末端官能基数2個
変性PPE−B:三菱ガス化学社製のOPE−2St 1200、両末端に芳香族ビニル基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー(ポリフェニレンエーテルの両末端水酸基をビニルベンジル基で変性した変性ポリフェニレンエーテル)、数平均分子量:1187、ビニル基当量:590g/eq.、
変性PPE−C:合成例4で得た変性ポリフェニレンエーテル、Mn:2300、末端官能基数1個
変性PPE−D:三菱ガス化学社製のOPE−2EA 1200、両末端にエポキシアクリレート基を有するポリフェニレンエーテルオリゴマー(ポリフェニレンエーテルの両末端水酸基をエポキシアクリレート基で変性した変性ポリフェニレンエーテル)、数平均分子量:1283、ビニル基当量:612g/eq.、
水添SBR−A:水添スチレンブタジエンブロック共重合体(Kraton Polymers LLC製、商品名:KRATON A1535)
水添SBR−B:水添スチレンブタジエンブロック共重合体(Kraton Polymers LLC製、商品名:KRATON A1536)
水添SBR−C:水添スチレンブタジエンブロック共重合体(Kraton Polymers LLC製、商品名:KRATON MD1537)
TAC:トリアリルシアヌレート(東京化成工業株式会社製)
TAIC:トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製)
A−DCP:トリシクロデカンジメタノールジアクリレート (新中村化学工業社製)
B1000:ポリブタジエンオリゴマー(日本曹達社製、重量平均分子量Mw1100、末端二重結合数15個)
ナフトール型エポキシ樹脂:ESN−475V、エポキシ当量:340(新日鉄住金化学社製)
臭素系難燃剤−A:エチレンビス(ペンタブロモフェニル)(アルベマール日本社製「SAYTEX8010」)
ホスフィン酸塩−A:トリスジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアントジャパン社製のエクソリットOP−935:リン濃度23質量%)
ホスファゼン化合物−A:ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(大塚化学社製、「SPB100」、リン濃度13%)
球状シリカ:アドマテックス社製、SE2050 SPE、平均粒子径0.5μm(フェニルシランカップリング剤により処理)
重合開始剤−A:1,3−ビス(ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(日油社製、パーブチルP)
重合開始剤−B:2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン(日油社製、ノフマーBC−90)
安定剤−A:テトラキス[メチレン-3-(3',5'-ジ゛-t- ブチル-4- ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(ADEKA社製、アデカスタブAO−60)
硬化促進剤−A:2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業社製、2E4MZ)。