【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 平成28年11月30日 10▲TH▼ INTERNATIONAL CONFERENCE ON STRENGTH TRAINING 要旨集発行 平成28年12月2日 10▲TH▼ INTERNATIONAL CONFERENCE ON STRENGTH TRAINING ポスター発表
【解決手段】卵白ペプチドを有効成分とする、血中クレアチンキナーゼ濃度上昇抑制用組成物。卵白蛋白質を常法により分解して得られる卵白ペプチドであり、市販されているものでも良い、平均分子量が200〜2000が好ましく、250〜1500がより好ましい、卵白ペプチドを有する組成物。卵白ペプチドの分解度が5〜40であり、好ましくは7〜20、より好ましくは9〜15であるペプチドを有する組成物。
【背景技術】
【0002】
アスリートにとって自己のコンディション調整は非常に重要である。
アスリートは、言うまでもなく日々の厳しいトレーニングに励んでいるが、一方で、過度にトレーニングを繰り返すと、ケガや故障につながってしまうことも知られている。
通常、筋肉を使うと筋繊維のレベルで細かい損傷が生じ、生じた損傷を修復する、というサイクルで、筋力が増強されるが、厳しいトレーニングを継続しすぎると、生じた損傷を修復することができず、かえって筋力の低下や痛み、関節可動域の減少などを惹起するからである。
【0003】
すなわち、コンディション調整を適切に行い、ケガや故障を防ぐためには、骨格筋組織を修復させるための休息期間が必要不可欠である。これは、トレーニング量を制限する大きな要因となっており、多くのアスリートがもどかしく感じでいる部分である。
このような背景から、必要な休息期間を短縮してトレーニング時間をより長く確保するために、トレーニング中の骨格筋組織損傷を抑制したり、休息時の骨格筋組織損傷回復を早めたりする方法が求められている。
【0004】
これまで、骨格筋組織の損傷を抑制するための成分として亜鉛、カテキンなどが知られている(特許文献1,2)が、それ自身が栄養素となるものではなかった。したがって、素材自身が栄養源なり、休息時の骨格筋組織回復を早めることもできる、新素材の開発が望まれている。
【0005】
ところで、卵白ペプチドは、原料である卵白のアミノ酸バランスを保持しており、栄養価の高い良質なタンパク質源である。血流機能改善効果や心肺機能の向上効果など、様々な機能を有することが報告されている素材でもある、運動負荷による骨格筋組織の損傷抑制効果については、知られていない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本発明において「%」は「質量%」、「部」は「質量部」を意味する。
【0012】
<本発明の特徴>
本発明は、卵白ペプチドを有効成分とし、良質な蛋白源にもなる、血中クレアチンキナーゼ濃度上昇抑制用組成物であることに特徴を有する。
本発明の血中クレアチンキナーゼ濃度上昇抑制用組成物は、トレーニング中の骨格筋組織損傷を抑制するとともに、良質な蛋白源となるために、休息時の骨格筋組織損傷回復を早めることも期待できる。
【0013】
<骨格筋組織損傷>
本発明において、「骨格筋組織損傷」とは、トレーニングなどの運動負荷により生じる直接的な筋肉の損傷をさし、より詳細には、筋繊維を構成する筋原線維や結合組織の破壊といった軽度なものから、筋膜を含む骨格筋組織の断裂といった重度のものを含むが、本発明の骨格筋組織損傷抑制用組成物は、軽度な症状でより効果が顕著である。
【0014】
<クレアチンキナーゼ>
クレアチンキナーゼは、クレアチンホスホキナーゼとも呼ばれ、エネルギー代謝に関わる酵素である。
心筋、骨格筋などに特異的に存在し、それらが損傷を受けることで血中に流出する。そのため、急性心筋梗塞といった深刻な病気の診断に指標として用いられるが、一方で、激しい運動が原因でも血中のクレアチンキナーゼ濃度は上昇してしまうので正確な測定の妨げとなる。
【0015】
<卵白ペプチド>
卵白ペプチドはその原料である卵白タンパク質と同様にアミノ酸スコアが高くタンパク質源として効率よく体内で利用される。本発明は、卵白ペプチドが、骨格筋組織の損傷を抑制することを見出し、栄養価値が高くかつ骨格筋組織の損傷も抑制する組成物を得ることができたものである。
なお、本発明に用いる卵白ペプチドは、常法により卵白タンパク質を分解することによって得ることもできるし、市販されているものを用いても良い。
【0016】
<卵白ペプチドの分子量>
当該卵白ペプチドの平均分子量は200〜2000が好ましく、250〜1500がより好ましい。分子量が前記範囲内であることにより、骨格筋組織の損傷を抑制し、血中クレアチンキナーゼ濃度の上昇を抑制する効果が得られやすい。
【0017】
本発明において、卵白ペプチドの平均分子量は、以下のTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)法により測定された値である。
【0018】
すなわち、亜硝酸ナトリウム126mgを精密に量り、製清水に溶かしたあと、精密に量った2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム二水和物100mgを加え、正確に200mLとし、TNBS試薬とする。0.4gの卵白ペプチド(本品)を精密に量り、精製水に溶かし、正確に100mLとし、この溶液2mLを正確に量り、精製水を加えて正確に100mLとした溶液を試料溶液とする。あらかじめ105℃で3時間乾燥させたL−ロイシン0.656gを精密に量り、製清水に溶かし、正確に500mLとし、この溶液1mL、2mL、3mLならびに4mLを正確に量り、それぞれに精製水を加えて正確に100mLとした溶液を標準溶液とする。
【0019】
次に、試験管に製清水(対照)、前記試料溶液および標準溶液を0.5mLずつ量りとり、0.1mol/Lホウ酸緩衝液を2mLそれぞれに加える。さらに前記TNBS試薬をそれぞれに加えて撹拌混合し、37℃の恒温水槽中で2時間静置する。
その後、分光光度計で波長420nmにおける吸光度を測定し、得られた吸光度から、精製水を用いて同様に操作した対照の吸光度を差し引いた値を試料溶液の吸光度とする。同様に標準溶液の吸光度から対照の吸光度を差し引き、吸光度を縦軸に、L−ロイシンの換算した乾燥物に対する濃度(μmol L−ロイシン当量/mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線(検量線)と試料溶液の吸収度との交点から試料溶液のアミノ態窒素濃度(μmol L−ロイシン当量/mL)を求める。
ここで求められたアミノ態窒素濃度を以下の式に代入し、試料中のアミノ態窒素含量(mmol L−ロイシン当量/100g)を算出する。
【0020】
アミノ態窒素含量 =試料溶液のアミノ態窒素濃度×{(100×100)/(試料採取量g×2)}×10
−3×100
【0021】
さらに、本発明の卵白ペプチドの原料として使用する卵白の総タンパク含量(%)を求め(通常約11%)、以下の式に代入し、卵白ペプチドの平均分子量を算出する。
【0022】
平均分子量=総タンパク含量/アミノ態窒素含量×1000
【0023】
<卵白タンパク質の分解度>
本発明に用いる卵白ペプチドは、分解度が5〜40であるとよく、好ましくは7〜20、より好ましくは9〜15である。
分解度が前記範囲内であることにより、骨格筋組織の損傷を抑制し、血中クレアチンキナーゼ濃度の上昇を抑制する効果が得られやすい。
【0024】
本発明において、卵白ペプチドの分解度は、ホルモル滴定法にて測定された値である。
すなわち、まず、卵白ペプチドをセミミクロケルダール法にて分析し、卵白ペプチド中の全窒素含量を求める。さらに、卵白ペプチドをホルモル滴定にて分析し、卵白ペプチド中のアミノ態窒素含量(%)を求める。これらの値から、アミノ態窒素含量を全窒素含量で除することにより、分解度(%)を算出する。
【0025】
<アミノ酸組成>
本発明の卵白ペプチドは、含硫アミノ酸であるメチオニンとシスチンを合計で2.5g/100g以上含有するとよく、好ましくは3.0g/100g以上、より好ましくは3.5g/100g以上含有するとよい。上限は特に制限されないが、7g/100g以下とすることができ、さらに5g/100g以下とすることができる。
含硫アミノ酸が前記範囲内であることにより、骨格筋組織の損傷を抑制し、血中クレアチンキナーゼ濃度の上昇を抑制する効果が得られやすい。
なお、含硫アミノ酸の含有量は、以下の方法にしたがってシスチンとメチオニンの含有量をそれぞれ測定し、両者を合計した値とする。
【0026】
<シスチンの測定方法>
卵白ペプチド0.3gに過ギ酸溶液25mLを加え、冷蔵庫にて16時間保存後、減圧濃縮乾固させた。そこに20%塩酸を50mL加え、130〜140℃で20時間加水分解処理を行った。得られたサンプルを100mLに定容し、そのうち2.5mLを減圧濃縮乾固させ、pH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液10mLに溶解したものを、アミノ酸自動分析計により分析をおこなった。
なお、アミノ酸自動分析計の操作条件は以下のとおりである。
機種:JLC−500/V、日本電子株式会社
カラム:LCR−6
移動層:クエン酸リチウム緩衝液(P−21)、日本電子株式会社
反応液:日本電子用ニンヒドリン発色溶液キット−2、和光純薬工業株式会社
流量:移動相 0.45mL/分、反応液 0.30mL/分
測定波長:570nm
【0027】
<メチオニンの測定方法>
卵白ペプチド0.2gに0.1% 2−メルカプトエタノール含有20%塩酸50mL加え、130〜140℃で20時間、窒素を吹き込みながら加水分解処理を行った。得られたサンプルを100mLに定容し、そのうち5mLを分取した。ここへ、3mol/L水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを2.2に調整したうえで、pH2.2のクエン酸ナトリウム緩衝液により50mLに再度定容した。得られた試験液について、アミノ酸自動分析計により分析をおこなった。
なお、アミノ酸自動分析計の操作条件は、流量を0.42mL/分、反応液 0.22mL/分に変更した以外は、シスチンと同様の設定でおこなった。
【0028】
<卵白ペプチドの製造方法>
本発明の卵白ペプチドの製造方法は特に限定されないが、中性プロテアーゼにより加水分解することで上述した性質を有する卵白ペプチドが得られやすい。
例えば、卵白を中性プロテアーゼで加水分解する場合を例に挙げると、卵白希釈液のpHを6〜8に調整し、この卵白に中性プロテアーゼを添加し、ゆっくりと撹拌しながら、35〜60℃、好ましくは40〜55℃にて5分〜24時間保持する。次に、この液を加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、本発明の卵白加水分解物を得ることができる。また、得られた卵白加水分解物をろ過処理し不溶物を除去することで可溶性卵白加水分解物が得られる。
なお、加水分解処理する前に、液卵白1部に対し0.4〜3部の水で希釈した卵白希釈液を、pH9〜12、55〜90℃の条件下で加熱処理して卵白を変性させる前処理工程を含むことにより、卵白加水分解物の硫黄臭を低減することができる。
また、加水分解処理後にろ過工程をへることにより、上述した好ましい平均分子量に調整しやすく、より本発明の効果が得られやすい。
【0029】
<中性プロテアーゼ>
使用する中性プロテアーゼとしては、バチルス属菌起源の中性プロテアーゼ、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを用いればよい。バチルス属菌起源の中性プロテアーゼの市販品としては、例えば、商品名:プロテアーゼS「アマノ」(起源:Bacillus stearothermophilus、天野エンザイム社製)、商品名:プロテアーゼN「アマノ」G(起源:Bacillus subtilis、天野エンザイム社製)などが挙げられ、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼの市販品としては、例えば、商品名:プロテアーゼA「アマノ」G(起源:Aspergillus oryzae、天野エンザイム社製)、商品名:スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae、新日本化学工業社製)、商品名:デナチームAP(起源:Aspergillus oryzae、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0030】
<その他の原料>
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、
水、デキストリンなどの賦形剤、クエン酸などのpH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、湿潤剤、粘稠剤、緩衝剤、吸着剤、溶剤、乳化剤、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料、アルコール類等をさらに含有しても良い。
【0031】
<有効量、含有量>
本発明に用いる卵白ペプチドの、1日の摂取量は5〜15gが好ましく、7〜10gがより好ましい。摂取回数は特に限定されず、一度に摂取してもよいし、複数回に分けて摂取してもいいが、一度で摂取できるのが好ましい。
したがって、本発明の組成物に含まれる卵白ペプチドの含有量は、5〜15gが好ましく、7〜10gがより好ましい。
【0032】
<組成物の形態>
本発明の卵白ペプチドを有効成分とする組成物は、例えば、ゼリー状、液状、粉末状組成物、錠剤、カプセル剤等が挙げられる。
また、組成物を含む飲食品を調製することができる。この場合、本発明の卵白ペプチドを有効量含有しているとよく、飲食品の例としては、スポーツドリンク、アルコール飲料、ノンアルコール飲料、ジュース類、コーヒーなどの飲料類、クッキー、チョコレート、ゼリーなどのお菓子類があげられるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例、比較例及び試験例に基づき、さらに説明する。
なお、本発明はこれに限定するものではない。
【0034】
(卵白ペプチドの調製)
生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整した後、70℃で30分間加熱し前処理を行った。前処理した卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、本発明の卵白加水分解物を得た。また、得られた卵白加水分解物をろ過処理することで不溶物を除去して本発明の可溶性卵白加水分解物を得た。
前処理後の卵白希釈液における卵白の平均分子量は4.5万であり、前処理によって卵白は加水分解されていないことが理解できる。また、得られた可溶性卵白加水分解物の分解度は10.4、平均分子量は840、卵白ペプチド中の含硫アミノ酸(メチオニン、シスチン)の量は3.9g/100gであった。
【0035】
(組成物の調製)
上記方法にて調製した卵白ペプチドを用い、下記表1の配合にしたがって、実施例1および比較例1のゼリー状組成物を調製した。
なお、ゼリー組成物は原料を混合後、加熱撹拌し、スパウト付きパウチに入れて冷却することで調製した。
【0036】
[表1]
【0037】
(骨格筋組織損傷抑制効果の検証)
9日間の陸上合宿前後で二重盲検試験を行い、血中クレアチンキナーゼ濃度の変化を確認することで、骨格筋組織の損傷抑制効果を検証した。
被験者は、平均年齢19歳の男性17名であり、年齢、体重、身長、5,000m走のベストタイムが等しくなるよう、卵白ペプチド摂取群9名と対照群8名の2群に分けた。それぞれ、卵白ペプチド摂取群には実施例1、対照群には比較例1のゼリー組成物を9日間の合宿中毎日1回摂取させた。なお、摂取のタイミングは自由とした。
合宿中は、高地トレーニングを中心に全員がほぼ同じ内容のトレーニングを実施し、血中クレアチンキナーゼ濃度の測定は、合宿の前日と最終日に実施した。
【0038】
(結果)
下記表2に、血中クレアチンキナーゼ濃度の測定結果を示した。なお、単位はすべてU/Lである。
表2から、卵白ペプチドを含有しない比較例1を摂取した対照群では、血中クレアチンキナーゼ濃度が大きく上昇していた。一方、実施例1を摂取した卵白ペプチド摂取群では変化量が有意に抑制された。
すなわち、本発明の卵白ペプチドは、運動により生じるクレアチンキナーゼの増加を抑制する効果を有しており、すなわち、骨格筋組織損傷が抑制されたことが理解できる。
【0039】
[表2]