【解決手段】1分子中にアクリル基を2個以上持つ特定のアクリル変性オルガノポリシロキサン100%、または特定のアクリル変性オルガノポリシロキサン10〜95質量%と特定のアミノ変性オルガノポリシロキサンを5〜90質量%を含む繊維処理剤を含浸付着させ、電子線を照射することで、繊維にシリコーンが強固に固着し、洗濯後においても繊維に良好な風合いを付与する。
前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の合計質量を100質量%とした場合、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の配合量が10〜95質量%であり、前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の配合量が5〜90質量%である請求項2又は3に記載の電子線固着用繊維処理剤。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜10において、硬化触媒としては一般的には有機スズ化合物が用いられる。しかしながら、有機スズ化合物は、その毒性の問題から、用途、分野、国により、使用の制限や規制がなされつつあり、ジブチルスズ化合物からオクチルスズ化合物への代替、更にはオクチルスズ化合物から無機スズ、あるいは他の金属化合物への代替が提案されているが効果的な触媒系がまだ無い現状である。このため、有害な金属触媒などを使用しないで、洗濯後もシリコーン処理剤の効能が維持できる処理剤や処理方法が依然として求められている。
【0007】
本発明は、上記問題を解決するため、電子線照射により繊維にシリコーンが強固に固着し、洗濯後においても繊維に良好な風合いを付与することができる電子線固着用繊維処理剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)を含むことを特徴とする電子線固着用繊維処理剤に関する。
【化1】
(前記一般式(I)中、M=R
1R
2R
3SiO
1/2、
M
A=R
4R
5R
6SiO
1/2、
D=R
7R
8SiO
2/2、
D
A=R
9R
10SiO
2/2、
T=R
11SiO
3/2であり、
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
8、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基であり、R
4およびR
9は、それぞれ独立して、下記一般式(II)で表される1価の炭化水素基であり、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0もしくは正の整数であり、eは0〜3の整数であり、c+dが10〜1000の整数であり、b+dが2以上の整数であり、かつa+bがe+2に等しい整数である。)
【化2】
(前記一般式(II)中、nは1〜3の整数である。)
【0009】
本発明の一実施形態において、前記電子線固着用繊維処理剤は、さらに、下記一般式(III)で表される1分子中にアミノ基を1個以上持つアミノ変性オルガノポリシロキサン(B)を含むことが好ましい。
【化3】
(前記一般式(III)中、R
12は炭素数1〜20の1価炭化水素基であり、R
13は-R
14-(NH-R
15)h-NH
2で表される1価の基であり、XはR
12、R
13又は-OR
16で示される1価の基であり、R
14は炭素数1〜8の2価炭化水素基であり、R
15は炭素数1〜4の2価炭化水素基であり、R
16は水素原子又は炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、fは5〜500の整数を表し、gは0〜100の整数を表し、hは0〜4の整数を表す。但し、g=0の場合、2個のXのうち、少なくとも1個はR
13である。)
【0010】
前記一般式(I)において、(b+d)/(a+b+c+d)×100が0.5〜40であることが好ましい。
【0011】
本発明の一実施形態において、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の合計質量を100質量%とした場合、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の配合量が10〜95質量%であり、前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の配合量が5〜90質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の一実施形態において、電子線固着用繊維処理剤の形態がエマルションであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電子線固着用繊維処理剤によれば、電子線照射により繊維にシリコーンが強固に固着し、洗濯後においても繊維に良好な風合いを付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、シリコーン処理された繊維の洗濯耐久性を向上させることについて検討を重ねた。その結果、後述する一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)を含む繊維処理剤で繊維を処理した後電子線を照射することで、シリコーンを繊維に強固に固着することができ、洗濯後もシリコーンの柔軟な風合いを繊維に付与し得ることを見出し、本発明を完成させた。本明細書において、「電子線固着用繊維処理剤」とは、電子線処理により、繊維に固着する繊維処理剤を意味する。また、本明細書において、「シリコーン」とは、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合による主骨格を持ち、ケイ素に有機基が結合した化合物をいう。
【0015】
前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)は、下記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサンである。
【0017】
前記一般式(I)中、
M=R
1R
2R
3SiO
1/2、
M
A=R
4R
5R
6SiO
1/2、
D=R
7R
8SiO
2/2、
D
A=R
9R
10SiO
2/2、
T=R
11SiO
3/2であり、
R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
8、R
10およびR
11は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又はフェニル基である。炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが挙げられる。前記一般式(I)中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
8、R
10およびR
11は、いずれもメチル基であることがより好ましい。
【0018】
前記一般式(I)中、R
4およびR
9は、それぞれ独立して、下記一般式(II)で表される1価の炭化水素基である。下記一般式(II)で表されるアクリル基は、互いに同一でもよく、異なっていてもよい。前記一般式(I)において、(b+d)/(a+b+c+d)×100は0.5〜40であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜15であることがさらに好ましい。(b+d)/(a+b+c+d)×100が0.5以上であると、電子線照射によるシリコーンの固着性が良好になる。また、(b+d)/(a+b+c+d)×100が40以下であると、繊維に固着したシリコーンが硬くなりすぎず柔軟性に優れる。前記一般式(I)中、R
1、R
2、R
3、R
5、R
6、R
7、R
8、R
10およびR
11は、製造の容易さ及び繊維に対する付与される風合いの点からいずれもメチル基であることが好ましい。
【0020】
前記一般式(II)中、nは1〜3の整数である。シリコーンの繊維への固着性を高めるとともに、柔軟性を高める観点から、前記一般式(II)中、nは3であることが好ましい。
【0021】
前記一般式(I)中、a、b、cおよびdは、それぞれ独立して、0もしくは正の整数であり、eは0〜3の整数であり、c+d=10〜1000の整数である。但し、b+dが2以上の整数であり、a+bがe+2に等しい整数である。前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)は、25℃における粘度が50〜5000mPa・sの範囲であることが好ましい。25℃における粘度が50mPa・s未満であると繊維に付着しづらい傾向があり、5000mPa・sより大きくなると組成物としての粘度が高くなって繊維への処理が難しくなる傾向がある。前記一般式(I)におけるa、b、c、dおよびeを適宜に調整して、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の25℃における粘度を50〜5000mPa・sの範囲にすることが好ましい。前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の25℃における粘度は、100〜1000mPa・sであることがより好ましい。また、eは0又は1であることが好ましい。前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)は、単一のアクリル変性オルガノポリシロキサンであってもよいし、重合度や官能基量の異なる複数のアクリル変性オルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0022】
本発明の一実施形態において、前記電子線固着用繊維処理剤は、柔軟性を高める観点から、さらに、下記一般式(III)で表される1分子中にアミノ基を1個以上持つアミノ変性オルガノポリシロキサン(B)を含むことが好ましい。
【0024】
前記一般式(III)中、R
12は炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基である。炭素数1〜20の置換又は非置換の1価炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基などのアルキル基、ビニル基、アリル基などのアルケニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基などのアリール基、又はこれらの基の炭素原子に結合した水素原子が部分的にハロゲン原子で置換された基を挙げることができ、これらの中では、特にメチル基が、撥水性、平滑性、柔軟性の面から好ましい。前記R
12は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
前記一般式(III)中、R
13は
-R
14-(NH-R
15)h-NH
2で表される1価の基である。R
14は炭素数1〜8の2価炭化水素基であり、具体例としては、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などが挙げられ、中でもトリメチレン基が好ましい。
R
15は炭素数1〜4の2価炭化水素基であり、具体例としては、例えば、メチレン基、ジメチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などが挙げられ、中でもジメチレン基が好ましい。前記R
13において、hは0〜4の整数である。
【0026】
前記一般式(III)中、XはR
12、R
13又は-OR
16で示される1価の基である。R
12及びR
13は前記のとおりである。R
16は水素原子又は炭素数1〜8の1価炭化水素基であり、炭素数1〜8の1価炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、フェニル基などが挙げられる。これらのうち、Xは特にメチル基及び/又はメトキシ基であることが好ましい。
【0027】
前記一般式(III)中、fは5〜500の整数を表し、10〜200の整数であることが好ましい。 fが5より小さいと、平面滑性、撥水性が乏しくなり、500より大きいと、高粘性となり、アミノ基のアクリル基に対する反応性が低下する。前記一般式(III)中、gは0〜100の整数であり、好ましくは0〜50の整数である。gが100を超えるとアミノ基が多すぎて、べたつきが多くなる恐れや、撥水性が失われる恐れがある。但し、g=0の場合、前記一般式(III)において、2個のXのうち、少なくとも1個はR
13となるように調整される。
【0028】
前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)は、25℃における粘度が50〜5000mPa・sの範囲であることが好ましい。25℃における粘度が50mPa・s未満であると繊維に付着しづらい傾向があり、5000mPa・sより大きくなると組成物としての粘度が高くなって繊維への処理が難しくなる傾向がある。アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の25℃における粘度は、100〜1000mPa・sであることがより好ましい。
【0029】
本発明の一実施形態において、特に限定されないが、繊維へのシリコーンの固着性及び風合いを高める観点から、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の合計質量を100質量%とした場合、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の配合量が10〜95質量%であり、前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の配合量が5〜90質量%であることが好ましく、より好ましくは前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の配合量が30〜90質量%であり、前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の配合量が10〜70質量%である。
【0030】
本発明の一実施形態において、シリコーン成分、すなわち、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)、又は前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の混合物は、そのまま電子線固着用繊維処理剤として用いてもよい。
【0031】
本発明の一実施形態において、取扱い性の観点から、シリコーン成分を有機溶剤で希釈して溶液状態にしたものを電子線固着用繊維処理剤として用いてもよい。前記有機溶剤としては、トルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素溶剤、へキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系炭化水素溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサンなどのエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤などが挙げられる。トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶剤、へキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系炭化水素溶剤が特に好ましい。またシリコーン成分の希釈濃度に特に限定はないが、シリコーン成分、すなわち前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の濃度、又は前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の合計濃度が1〜60質量%であれば良く、より好ましくは1〜20質量%であれば良い。
【0032】
本発明の一実施形態において、また、水を分散媒としてシリコーン成分をエマルション状態にしたものを電子線固着用繊維処理剤として用いてもよい。このエマルション化にはノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤などが使用できる。ノニオン性界面活性剤としては特に制限はないが、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタンアルキレート、ポリオキシエチレンソルビタンアルキレートなどが挙げられる。アニオン性界面活性剤としては特に制限はないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸塩などが挙げられる。カチオン性界面活性剤としては特に制限はないが、例えば第4級アンモニウム塩、アルキルアミン塩などが挙げられる。両性界面活性剤としては特に制限はないが、例えば、アルキルベタイン、アルキルイミダゾリンなどが挙げられる。これら界面活性剤は、一種を単独で用いても良く、二種以上を併用してもよい。前記界面活性剤は、特に限定されないが、シリコーンを乳化しやすい観点から、HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance,親水親油バランス)は11〜18であることが好ましく、13〜16であることがより好ましい。
【0033】
前記界面活性剤の使用量は、シリコーン成分、すなわち前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)、又は前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の混合物100質量部に対し、5〜50質量部が好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。また乳化の際の水の使用量は任意の量でよいが、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の濃度、又は前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の合計濃度が1〜60質量%となるような量が一般的であり、好ましくは1〜20質量%となるような量である。前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)、又は前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)を乳化するには、界面活性剤を混合し、これをホモミキサー、ホモジナイザー、コロイドミル、ラインミキサーなどの乳化機で乳化すればよい。
【0034】
本発明の一実施形態において、シリコーン成分として、前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)及び前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)の両方を用いる場合、各成分をあらかじめ混合し、溶液状態やエマルション状態にしても良いし、それぞれの成分をあらかじめ個別に溶液状態やエマルション状態にしたものを混合しても良い。
【0035】
本発明の一実施形態において、前記電子線固着用繊維処理剤には、その特性を阻害しない範囲で、他の繊維用薬剤、例えば防しわ剤、難燃剤、帯電防止剤、耐熱剤などを添加してもよい。
【0036】
繊維に前記電子線固着用繊維処理剤を塗布又は含浸し、その後電子線照射することで、繊維にシリコーンを固着することができる。繊維に付着された前記電子線固着用繊維処理剤を電子線照射することで、繊維と前記電子線固着用繊維処理剤中のアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)がグラフト重合するとともに、シリコーン成分同士の架橋も進行することでシリコーンが硬化し、繊維にシリコーンが強固に固着することになる。
【0037】
前記電子線固着用繊維処理剤で処理する繊維としては特に限定はなく、綿、絹、麻、ウール、アンゴラ、モヘアなどの天然繊維はもとより、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、スパンデックスなどの合成繊維及びこれらを用いた繊維製品などが挙げられる。またその形態、形状にも制限はなく、ステープル、フィラメント、トウ、糸などの様な原材料形状に限らず、織物、編み物、詰め綿、不織布、紙、シート、フィルムなどの多様な加工形態のものも前記電子線固着用繊維処理剤の処理可能な対象となる。
【0038】
前記繊維に前記電子線固着用繊維処理剤を塗布又は含浸するには、ロール塗布、グラビア塗布、ワイヤードクター塗布、エアーナイフ塗布、ディッピング処理などの公知の方法を用いることができる。塗布量又は含浸量としては0.01〜20.0g/m
2とすればよく、より好ましくは0.01〜5g/m
2である。塗布量又は含浸量を上記範囲にすることで、繊維のシリコーンの固着を高めることができる。
【0039】
本発明の一実施形態において、前記電子線固着用繊維処理剤がシリコーンを有機溶剤で希釈した溶液状態又は水に分散させたエマルションの形態の場合、前記電子線固着用繊維処理剤を繊維に塗布又は含浸させた後、有機溶剤やエマルションの分散媒である水を揮発させるために乾燥工程を行っても良い。乾燥は、熱風吹き付け、加熱炉などで行えばよく、乾燥温度や時間は繊維に影響を与えない範囲で任意とすれば良いが、例えば、乾燥温度は100〜150℃、乾燥時間は10秒〜5分の範囲で行えばよい。
【0040】
前記電子線固着用繊維処理剤を塗布または含浸させた繊維に電子線を照射する電子線照射装置は、特に限定されず、カーテン方式、スキャン方式またはダブルスキャン方式のものとすればよい。この電子線照射による電子線の加速電圧は、特に限定されないが、例えば、100〜1000kVの範囲のものとすればよい。加速電圧が100kV未満ではエネルギーの透過量が不足する恐れがあり、1000kVを超えると経済性に劣る。また、電子線の照射量は、特に限定されないが、例えば、5〜100kGyの範囲とすればよい。電子線の照射量が5kGy未満では硬化不良が生じる恐れがあり、100kGy以上では繊維が劣化する恐れがある。前記電子線固着用繊維処理剤がシリコーンを有機溶剤で希釈した溶液状態の場合、電子線照射後に、シリコーンを希釈するのに用いた有機溶剤で繊維を浸漬(洗浄)することで、未反応のシリコーンを除去してもよい。一方、前記電子線固着用繊維処理剤がシリコーンを水に分散させたエマルションの場合、電子線照射後に、水で繊維を洗浄することで、未反応のシリコーンを除去してもよい。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施の形態を実施例に基づいて詳しく説明する。本発明は以下の実施例に限定されるものではない。下記実施例及び比較例中の部は質量部を示したものであり、下記実施例及び比較例中の物性値は下記の試験法による測定値を示したものである。
【0042】
(初期のSi量の測定)
リガク製蛍光X線分析装置ZSX100eを用い、EZスキャン法にて洗濯前の試料に含まれる全元素の質量(WOt)及びSi原子の質量(WOs)を測定し、下記式で初期のSi量を算出した。
初期のSi量(質量%)=(W0s)/(W0t)×100
【0043】
(洗濯後のSi量の測定)
試料をJIS L 0217 103法に準拠して(洗剤はJAFET)で10回又は50回洗濯し、乾燥後リガク製蛍光X線分析装置ZSX100eを用い、EZスキャン法にて洗濯10回又は50回後の試料に含まれる全元素の質量(W10t又はW50t)及びSi原子の質量(W10s又はW50s)を測定し、下記式で10回洗濯後のSi量及び50回洗濯後のSi量を算出した。
10回洗濯後のSi量(質量%)=(W10s)/(W10t)×100
50回洗濯後のSi量(質量%)=(W50s)/(W50t)×100
【0044】
(初期風合い)
試料の柔軟性について、三人のパネラーが手触にて確認し、以下の基準により評価した。
A: 非常に良好である。
B: 良好である。
C: 不良である。
【0045】
(洗濯後の風合い)
試料をJIS L 0217 103法に準拠して(洗剤はJAFET)で10回又は50回洗濯し、洗濯後の試料の柔軟性について、三人のパネラーが手触にて確認し、以下の基準により評価した。
A: 非常に良好である。
B: 良好である。
C: 不良である。
【0046】
(実施例1)
まず、下記平均分子式(IV)で表されるアクリル変性オルガノポリシロキサン(A1)をトルエンで希釈し、該アクリル変性オルガノポリシロキサン(A1)の濃度が10質量%となる繊維処理剤(a)を調製した。次に、繊維処理剤(a)に綿100質量%ブロード布(クラボウ製)を浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。次に、エリアビーム型電子線照射装置EC250/15/180L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧200kVで40kGyの電子線を照射した。次に、電子線処理後の繊維(綿100質量%ブロード布)をトルエンに1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、さらにもう一度、新しいトルエンに1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、シリコーンを固着させた繊維を作製した。
【0047】
【化7】
(前記平均分子式(IV)中、
M=(CH
3)
3SiO
1/2、
D=(CH
3)
2SiO
2/2、
D
A=CH
3R
9SiO
2/2、
T=CH
3SiO
3/2、
R
9は、下記式(V)で表される1価の炭化水素基である。
【化8】
【0048】
(実施例2)
下記平均分子式(VI)で表されるアクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)をトルエンで希釈し、該アクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)濃度が10質量%となる繊維処理剤(b)を調製した。得られた線維処理剤(b)に綿100質量%ブロード布(クラボウ製)を浸漬し、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、エリアビーム型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧200kVで40kGyの電子線を照射した。次に、電子線処理後の繊維(綿100質量%ブロード布)をトルエンに1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、さらにもう一度、新しいトルエンに1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、シリコーンを固着させた繊維を作製した。
【0049】
【化9】
(前記平均分子式(VI)中、
M=(CH
3)
3SiO
1/2、
D=(CH
3)
2SiO
2/2、
D
A=CH
3R
9SiO
2/2、
T=CH
3SiO
3/2、
R
9は、下記式(V)で表される1価の炭化水素基である。
【化10】
【0050】
(実施例3)
実施例2で使用したアクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)を300gと、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(花王社製、製品名「エマルゲン104P」、ノニオン性界面活性剤、HLB値9.6)7.8g及びポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(花王社製、製品名「エマルゲン123P」、ノニオン性界面活性剤、HLB値16.9)22.2gとを、2リットルのポリジョッキに仕込み、ホモミキサーを用いて高速で充分に混合して、転相水(イオン交換水)18gを添加して練り込んだ後、イオン交換水280gを加えてホモミキサーで2,500rpmで20分間混合し、アクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)の濃度が50質量%の水中油型エマルション(I)を得た。得られた水中油型エマルション(I)を、さらにイオン交換水で希釈し、アクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)の濃度が10質量%となる繊維処理剤(c)を調製した。得られた繊維処理剤(c)に綿100質量%ブロード布(クラボウ製)を浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。次に、エリアビーム型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧200kVで40kGyの電子線を照射した。次に、電子線照射後の繊維(綿100質量%ブロード布)を水で洗浄した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、シリコーンを固着させた繊維を作製した。
【0051】
(実施例4)
下記平均分子式(VII)で表されるアミノ変性オルガノポリシロキサン(B1)を300gと、ポリオキシエチレン(4)ラウリルエーテル(花王社製、製品名「エマルゲン104P」、ノニオン性界面活性剤、HLB値9.6)1.8g及びポリオキシエチレン(23)ラウリルエーテル(花王社製、製品名「エマルゲン123P」、ノニオン性界面活性剤、HLB値16.9)4.2gとを、2リットルのポリジョッキに仕込み、ホモミキサーを用いて高速で充分に混合して、転相水(イオン交換水)18g添加して練り込んだ後、イオン交換水280gを加えてホモミキサーで2,500rpmで20分間混合し、アミノ変性オルガノポリシロキサン(B1)の濃度が50質量%の水中油型エマルション(II)を得た。得られた水中油型エマルション(II)と実施例3と同様にして調製した水中油型エマルション(I)を水中油型エマルション(I)/水中油型エマルション(II)=50質量部/50質量部で混合し水中油型エマルション(III)を調製した。得られた水中油型エマルション(III)を、イオン交換水で希釈し、オルガノポリシロキサンの濃度(アクリル変性オルガノポリシロキサン(A2)及びアミノ変性オルガノポリシロキサン(B1)の合計濃度)が10質量%となる繊維処理剤(d)を調製した。得られた繊維処理剤(d)に綿100%ブロード布(クラボウ製)を浸漬し、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、エリアビーム型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧200kVで40kGyの電子線を照射した。次に、電子線照射後の繊維(綿100質量%ブロード布)を水で洗浄した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、シリコーンを固着させた繊維を作製した。
【0052】
【化11】
【0053】
(比較例1)
メチル基以外に有機基を持たない、粘度が1000mm
2/sであるジメチルポリシロキサンをトルエンで希釈し、ジメチルポリシロキサンの濃度が10質量%となる繊維処理剤(Z)を調製した。繊維処理剤(Z)に綿100%ブロード布(クラボウ製)を浸漬し、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥し、エリアビーム型電子線照射装置EC250/30/90L(岩崎電気社製)を用い、窒素雰囲気下で、加速電圧200kVで40kGyの電子線を照射した。次に、電子線照射した繊維(綿100%ブロード布)をトルエン溶液に1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、さらにもう一度、新しいトルエン溶液に1分間浸漬した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。
【0054】
(比較例2)
実施例3と同様にして繊維処理剤(c)を調製した。得られた繊維処理剤(c)に綿100%ブロード布(クラボウ製)を浸漬し、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。次に、繊維処理剤(c)で処理した繊維(綿100%ブロード布)を水で洗浄した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。
【0055】
(比較例3)
実施例4と同様にしてアミノ変性オルガノポリシロキサン(B1)の濃度が50質量% の水中油型エマルション(II)を調製した。該水中油型エマルション(II)をイオン交換水で希釈し、アミノ変性オルガノポリシロキサン(B1)の濃度が10質量%となる繊維処理剤(Y)を調製した。得られた繊維処理剤(Y)に綿100%ブロード布(クラボウ製)を浸漬し、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。次に、繊維処理剤(Y)で処理した繊維(綿100%ブロード布)を水で洗浄した後、絞り率60%の条件でマングルロールを用いて絞り、110℃で90秒乾燥した。
【0056】
実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた繊維(綿100%ブロード布)における初期のSi量(洗濯前のSi量)、10回洗濯後のSi量、50回洗濯後のSi量、初期風合い及び洗濯後の風合いを上述したとおりに測定し、その結果を下記表1に記載した。
【0057】
【表1】
【0058】
前記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)を有機溶剤で希釈した繊維処理剤に繊維を浸漬した後、電子線照射した実施例1及び2では、柔軟性が良好であり、洗濯後でも、アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)が繊維に付着していた。具体的には、10回洗濯後でも、かなりの量のアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)が繊維に付着しており、特に実施例2では、50回洗濯後でも、かなりの量のアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)が繊維に付着していた。実施例2で用いたアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)が、実施例1で用いたアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)と対比してアクリル基の量が多いことから、繊維への固着性がより高かった。
【0059】
前記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)をエマルション化した繊維処理剤を用いた実施例3でも、柔軟性が良好であった。また、実施例3及び4の対比から、上記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)と上記一般式(III)で表される1分子中にアミノ基を1個以上持つアミノ変性オルガノポリシロキサン(B)を併用した場合、初期のシリコーン付着量が増え、柔軟性が非常に良好で、10回洗濯後も50回洗濯後もオルガノポリシロキサンが十分付着していることが分かった。
【0060】
一方、アクリル基を持たないジメチルポリシロキサンを使用した比較例1では、初期からジメチルポリシロキサンの付着量が少なく、10回又は50回洗濯後ではジメチルポリシロキサンがほとんど残っていないことが分かった。上記一般式(I)で表される1分子中にアクリル基を2個以上持つアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)をエマルション化した繊維処理剤を用いているが、電子線照射を行っていない比較例2では、繊維における前記アクリル変性オルガノポリシロキサン(A)の付着量が少なく、柔軟性に欠けていた。また、上記一般式(III)で表される1分子中にアミノ基を1個以上持つアミノ変性オルガノポリシロキサン(B)をエマルション化した繊維処理剤を用いた比較例3では、初期(洗濯)にはかなりの量の前記アミノ変性オルガノポリシロキサン(B)が繊維に付着していたが、洗濯後には格段に減少しており、柔軟性も悪くなった。
【0061】
実施例では、繊維とアクリル変性オルガノポリシロキサン(A)がグラフト重合するとともに、シリコーン成分同士の架橋も進行することで、シリコーンが繊維に強固に固着しており、それゆえ、洗濯後にも繊維の柔軟性が良好であるのに対し、比較例では、シリコーンが繊維に固着していないことが分かった。