【解決手段】アンカー材は、棒状のアンカー筋1aと交差する方向に延びる板状のフランジ部1bとを備え、アンカー筋1aは、穿孔内配置部1eと突出部とを備え、フランジ部1bは、環状に形成され、アンカー筋1aの軸線Lとフランジ部1bの外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとを結ぶ直線S1を仮定した際に、フランジ部1bの外周端部と軸線Lとの間の直線距離は、アンカー筋1aの外周端部と軸線Lとの間の直線距離に対して2.5倍以上であり、フランジ部1bの厚みは、3mm以上15mm以下で、アンカー材配置工程と、無機系充填材充填工程とを備え、フランジ部1bの全体が穿孔内で無機系充填材に埋没するようにする。
アンカー材配置工程及び充填工程後の状態において、前記構造物の表面から穿孔の深さ方向に5mm以上40mm以下の位置にフランジ部の外周端部が位置するように構成される請求項1乃至4の何れか一項に記載のあと施工アンカー工法。
前記穿孔における深さ方向に交差する断面の直径は、アンカー筋における軸線に交差する断面の直径に対して3倍以上5.5倍以下である請求項1乃至5の何れか一項に記載のあと施工アンカー工法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のようなあと施工アンカー工法を用いてアンカー筋が取り付けられた既存のコンクリート構造物と新たなコンクリート構造物とが一体化された状態において、既存のコンクリート構造物と新たなコンクリート構造物との界面にせん断方向の力が生じることがある。このようなせん断方向の力が生じると、既存のコンクリート構造物と新たなコンクリート構造物との界面に沿った方向にアンカー筋が付勢されることになる。これにより、アンカー筋が付勢される方向において、既存のコンクリート構造物に形成した穿孔の開口端部におけるアンカー筋と重なる領域にアンカー筋からの圧力が加わることになる。そして、このような圧力が穿孔の開孔端部やその近傍に加わると、該開孔端部又はその近傍が破損し、既存のコンクリート構造物と新たなコンクリート構造物とのせん断方向の結合が弱いものとなる。
【0006】
そこで、既存の構造物に形成された穿孔の開孔端部やその近傍がアンカー筋からの圧力によって破損してしまうのを抑制することができるあと施工アンカー工法を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るあと施工アンカー工法は、構造物にアンカー材を取り付けるためのあと施工アンカー工法であって、前記アンカー材は、棒状のアンカー筋と、該アンカー筋に対して交差する方向に延びる板状のフランジ部とを備えており、前記アンカー筋は、前記構造物に形成された穿孔内に配置される穿孔内配置部と、前記構造物から突出する突出部とを備えており、前記フランジ部は、アンカー筋の穿孔内配置部の外周に環状に形成されており、アンカー筋とフランジ部とが重なりあう位置においてアンカー筋の軸線とフランジ部の外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して2.5倍以上であり、フランジ部の外周端部の厚みは、3mm以上15mm以下であり、前記アンカー筋の穿孔内配置部及び前記フランジ部の全体を前記穿孔内に配置するアンカー材配置工程と、前記穿孔内に無機系充填材を充填する充填工程とを備えており、アンカー材配置工程及び充填工程の後の状態において、アンカー筋の穿孔内配置部と穿孔の内面との間に無機系充填材が充填されると共に、前記フランジ部の全体が前記穿孔内で無機系充填材に埋没するように構成される。
【0008】
また、本発明に係るあと施工アンカー工法は、構造物にアンカー材を取り付けるためのあと施工アンカー工法であって、前記アンカー材は、棒状のアンカー筋と、該アンカー筋に対して交差する方向に延びる板状のフランジ部とを備えており、前記アンカー筋は、前記構造物に形成された穿孔内に配置される穿孔内配置部と、前記構造物から突出する突出部とを備えており、前記フランジ部は、アンカー筋の穿孔内配置部の外周に環状に形成されると共に、外周形状がアンカー筋の軸線を中心とする円形状に形成されており、アンカー筋とフランジ部とが重なりあう位置においてアンカー筋の軸線とフランジ部の外周端部とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して2.5倍以上であり、フランジ部の外周端部の厚みは、3mm以上15mm以下であり、前記アンカー筋の穿孔内配置部及び前記フランジ部の全体を前記穿孔内に配置するアンカー材配置工程と、前記穿孔内に無機系充填材を充填する充填工程とを備えており、アンカー材配置工程及び充填工程の後の状態において、アンカー筋の穿孔内配置部と穿孔の内面との間に無機系充填材が充填されると共に、前記フランジ部の全体が前記穿孔内で無機系充填材に埋没するように構成される。
【0009】
上記の各あと施工アンカー工法に係る構成によれば、アンカー材配置工程及び充填工程を行うことで、アンカー筋の穿孔内配置部が構造物(以下、第一構造物とも記す)に固定されると共に、アンカー筋の突出部が第一構造物から突出した状態で、アンカー材が第一構造物に取り付けられる。これにより、アンカー筋の突出部が埋設されるように、アンカー筋の突出部が突出した側の第一構造物の面に新たな構造物(以下、第二構造物とも記す)を形成することで、アンカー筋を介して第一構造物と第二構造物とを強固に一体化させることができる。
【0010】
また、上記のようなフランジ部を有することで、第一構造物と第二構造物との界面にせん断方向の力が生じて、該界面に沿ってアンカー筋が付勢された際にも、アンカー筋からの圧力によって穿孔の開孔端部やその近傍が破損するのを抑制することができる。
【0011】
具体的には、従来技術のように、フランジ部を有さないアンカー材(即ち、アンカー筋のみ)が第一構造物に取り付けられている場合、上記のようなせん断方向の力によってアンカー筋が付勢された状態になると、アンカー筋が付勢される方向においてアンカー筋と重なる穿孔の開口端部の狭い領域にアンカー筋からの圧力が集中して加わることになる。
【0012】
しかしながら、本発明のあと施工アンカー工法は、アンカー材がアンカー筋の外周に環状に形成されてアンカー筋に対して交差する方向に延びる板状のフランジ部を有するものである。また、アンカー筋とフランジ部とが重なりあう位置においてアンカー筋の軸線とフランジ部の外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して2.5倍以上に構成される。また、フランジ部の外周形状がアンカー筋の軸線を中心とする円形状に形成されている場合には、アンカー筋とフランジ部とが重なりあう位置においてアンカー筋の軸線とフランジ部の外周端部とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するフランジ部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して2.5倍以上に構成される。また、フランジ部の外周端部の厚みが3mm以上15mm以下に構成される。そして、斯かるフランジ部がアンカー筋の穿孔内配置部と共に穿孔内に配置されて、無機系充填材に埋没することで、上記のようにせん断方向の力によってアンカー筋が付勢されても、付勢される方向においてフランジ部と重なる穿孔の開口端部の広い領域にアンカー筋からの圧力が分散して加わり、アンカー材に働くモーメントをフランジ部が抑制することになる。このため、穿孔の開孔端部やその近傍に加わる負荷が軽減されて該開孔端部やその近傍が破損するのを抑制することができる。
【0013】
更に、アンカー材配置工程では、アンカー筋の穿孔内配置部及びフランジ部が穿孔内に配置される。つまり、一つの穿孔の内側にアンカー筋の穿孔内配置部及びフランジ部が配置されるため、斯かる穿孔以外の孔や溝を第一構造物に形成する必要がない。このため、アンカー材の取り付けを簡易に行うことができる。
【0014】
前記アンカー材は、フランジ部よりもアンカー筋の突出部側の位置でアンカー筋と螺合するナット部を更に備えており、アンカー筋とナット部とが重なりあう位置においてアンカー筋の軸線とナット部の外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するナット部の外周端部とアンカー筋の軸線とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するナット部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して1.6倍以上であり、アンカー材配置工程及び充填工程の後の状態において、ナット部の一端部が穿孔内で無機系充填材に埋没するように構成されてもよい。
【0015】
前記アンカー材は、フランジ部よりもアンカー筋の突出部側の位置でアンカー筋と螺合するナット部を更に備えており、該ナット部は、軸線に対して直交する断面の外周形状がアンカー筋の軸線を中心とする円形状に形成されており、アンカー筋とナット部とが重なりあう位置においてナット部の外周端部とアンカー筋の軸線とを結ぶ直線を仮定した際に、該直線上に位置するナット部の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離は、前記直線上に位置するアンカー筋の外周端部とアンカー筋の軸線との間の直線距離に対して1.6倍以上であり、アンカー材配置工程及び充填工程の後の状態において、ナット部の一端部が穿孔内で無機系充填材に埋没するように構成されてもよい。
【0016】
上記の各構成によれば、ナット部は、フランジ部よりもアンカー筋の突出部側の位置でアンカー筋と螺合するため、フランジ部がアンカー筋の突出部側へ移動するのをナット部によって規制することができる。このため、フランジ部がアンカー筋の突出部側へ意図せずに移動してしまうのを防止することができる。
【0017】
また、斯かる構成を備えることで、第一構造物と第二構造物との界面にせん断方向の力が生じて、該界面に沿ってアンカー筋が付勢された際にも、アンカー筋からの圧力によって穿孔の開孔端部やその近傍が破損するのをより効果的に抑制することができる。
【0018】
具体的には、ナット部を備えることで、上記のように、せん断方向の力によってアンカー筋が付勢される方向においてナット部と重なる穿孔の開口端部の領域にもアンカー筋からの圧力が分散して加わることになる。つまり、アンカー筋が付勢される方向において、フランジ部及びナット部と重なる穿孔の開孔端部やその近傍の広い領域にアンカー筋からの圧力が分散して加わることになるため、穿孔の開孔端部やその近傍に加わる負荷がより軽減されて該開孔端部やその近傍が破損するのをより効果的に抑制することができる。
【0019】
アンカー材配置工程及び充填工程後の状態において、前記構造物の表面から穿孔の深さ方向に5mm以上40mm以下の位置にフランジ部の外周端部が位置するように構成されてもよい。
【0020】
前記穿孔における深さ方向に交差する断面の直径は、アンカー筋における軸線に交差する断面の直径に対して3倍以上5.5倍以下であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明によれば、既存の構造物に形成された穿孔の開孔端部やその近傍がアンカー筋からの圧力によって破損してしまうのを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態に係るあと施工アンカー工法は、既存の構造物(例えば、コンクリート構造物等)にアンカー材を取り付けるためのものである。
【0025】
アンカー材としては、
図1に示すアンカー材1のように、棒状のアンカー筋1aと、該アンカー筋1aの軸線Lを中心に環状に形成されてアンカー筋1aに対して交差する方向に延びる板状のフランジ部1bと、アンカー筋1aと螺合するナット部1cとを備える。本実施形態では、フランジ部1bとナット部1cとが一体的に形成され、フランジ部1bとナット部1cとの一体物がアンカー筋1aとは別体として形成される。
【0026】
前記アンカー筋1aは、
図2に示すように、一端側から他端側に向かって太さが略変化しない棒状(具体的には、円柱状)のアンカー筋本体1dを備える。また、アンカー筋1a(アンカー筋本体1d)は、前記構造物に形成された穿孔内に配置される穿孔内配置部1eと、前記構造物から突出する突出部1fとを備える。また、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)は、フランジ部1b及びナット部1cに挿通されて該ナット部1cと螺合可能に構成される。具体的には、アンカー筋本体1dは、突出部1f側の端部から穿孔内配置部1e側の端部に向かう領域の外周面にネジ溝が形成されており、斯かる領域がナット部1cと螺合するように構成されている。また、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の長さとしては、特に限定されるものではなく、例えば、アンカー筋径(da)に対して14da以上60da以下であってもよい。
【0027】
また、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)における軸線Lに対して交差(直交)する断面(以下、アンカー筋断面とも記す)の外周径(アンカー筋断面の直径)D1としては、特に限定されるものではなく、例えば、8mm以上24mm以下であってもよく、18mm以上30mm以下であってもよい。
【0028】
フランジ部1bは、
図3に示すように、厚み方向にアンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)を挿通可能な挿通孔1gを備える。具体的には、フランジ部1bは、円盤状に形成され、略中心部に前記挿通孔1gを備える。また、円盤状のフランジ部1bの外周径D2は、アンカー筋断面の外周径D1に対して(即ち、外径比が)2.5倍以上であってもよく、2.5倍以上5倍以下であってもよい。また、フランジ部1bは、外周端部の厚みL1が3mm以上15mm以下であり、5mm以上12mm以下であってもよい。
【0029】
ナット部1cは、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の挿通方向が長手となる柱状(本実施形態では、六角柱状)に形成される。また、ナット部1cは、長手方向に沿ってアンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)を挿通させる挿通孔1hを備える。そして、ナット部1cは、挿通孔1hの内周面がアンカー筋本体1dのネジ溝と螺合するように構成される。また、ナット部1cの長手方向の一端部からフランジ部1bが環状に延出するように構成される。
【0030】
また、ナット部1cの長手方向の両端部間の長さL2としては、特に限定されるものではなく、例えば、15mm以上60mm以下であってもよく、30mm以上80mm以下であってもよい。また、ナット部1cは、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)と螺合させる際の軸線Lに対して交差(直交)する断面(以下、ナット部断面とも記す)の形状がアンカー筋断面の形状よりも大きく、フランジ部の外周形状よりも小さくなるように構成される。また、ナット部断面の外周径(例えば、六角柱状のナット部1cの断面における外周の内接円の直径)D3としては、特に限定されるものではなく、例えば、13mm以上46mm以下であってもよく、19mm以上36mm以下であってもよい。
【0031】
そして、
図4に示すように、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)がナット部1cの長手方向の他端部からナット部1c及びフランジ部1bに挿通され、ナット部1cがアンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)と螺合される。これにより、アンカー材1が形成される。該アンカー材1では、ナット部1cは、フランジ部1bよりもアンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の突出部1f側に配置される。また、ナット部1cの他端部からアンカー筋1aの突出部1fが突出し、フランジ部1bからアンカー筋1aの穿孔内配置部1eが突出し、フランジ部1bがアンカー筋1a(穿孔内配置部1e)から軸線Lに対して交差する方向に延びるように配置される。
【0032】
また、
図5に示すように、フランジ部1bは、アンカー筋1aの穿孔内配置部1eの外周に環状に形成される。また、フランジ部1bは、外周形状がアンカー筋1aの軸線Lを中心とする円形状に形成される。また、アンカー筋1aとフランジ部1bとが重なりあう位置においてアンカー筋1aの軸線Lとフランジ部1bの外周端部とを結ぶ直線S1を仮定した際に、該直線S1上に位置するフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D4は、前記直線S1上に位置するアンカー筋1aの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D5に対して2.5倍以上であり、2.5倍以上5倍以下であってもよい。
【0033】
また、
図6に示すように、アンカー筋1aとナット部1cとが重なりあう位置においてアンカー筋1aの軸線Lとナット部1cの外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するナット部1cの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとを結ぶ直線S2を仮定した際に、該直線S2上に位置するナット部1cの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D6は、前記直線S2上に位置するアンカー筋1aの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D7に対して1.6倍以上であってもよく、2倍以上3.5倍以下であってもよい。
【0034】
次に、上記のように構成されるアンカー材1を構造物に取り付けるあと施工アンカー工法について説明する。
【0035】
斯かるあと施工アンカー工法は、
図7に示すように、構造物Xに形成した穿孔X1内にアンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の穿孔内配置部1e及びフランジ部1bの全体を配置するアンカー材配置工程を備える。穿孔X1内にフランジ部1bを配置する際の深さ(埋め込み深さ)H2としては、特に限定されるものではなく、例えば、5mm以上40mm以下であってもよく、10mm以上40mm以下であってもよく、15mm以上30mm以下であってもよい。また、アンカー材配置工程では、ナット部1cにおけるフランジ部1b側の一端部も穿孔X1内に配置される。そして、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の突出部1f、及び、ナット部1cの他端部が穿孔X1の外側へ構造物Xから突出した状態となる。
【0036】
なお、穿孔X1の深さH1としては、特に限定されるものではなく、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の長さに対して、アンカー筋径(da)に対して7da以上30da以下であってもよい。穿孔X1における深さ方向に交差する断面の直径(内径)D8としては、特に限定されるものではなく、例えば、アンカー筋断面の直径に対して3倍以上5.5倍以下であってもよい。
【0037】
また、あと施工アンカー工法では、穿孔X1内に無機系充填材Yを充填する充填工程を備える。該充填工程は、アンカー材配置工程の前に行われてもよく、アンカー材配置工程の後に行われてもよい。充填工程を行うことで、アンカー筋1a(具体的には、アンカー筋本体1d)の穿孔内配置部1eと穿孔X1の内周面との間に無機系充填材Yが充填された状態が形成される。また、充填工程を行うことで、フランジ部1bの全体が穿孔X1内で無機系充填材Yに埋没した(具体的には、無機系充填の表面近傍で埋没した)状態になると共に、ナット部1cの一端部も穿孔X1内で無機系充填材Yに埋没した状態になる。また、穿孔X1内のフランジ部1bは、無機系充填材Yの表面から穿孔X1の深さ方向の所定位置に外周端部が位置するように構成される。具体的には、無機系充填材Yの表面からフランジ部1bまでの深さ(以下、かぶり厚とも記す)H3としては、特に限定されるものではなく、例えば、3mm以上30mm以下であってもよく、5mm以上20mm以下であってもよい。そして、無機系充填材Yが硬化することで、構造物Xにアンカー材1が固定される。
【0038】
構造物Xにアンカー材1が取り付けられた状態で、アンカー筋1aは、穿孔内配置部1eが穿孔X1内に配置され、突出部1fが穿孔X1の外側へ構造物Xから突出した状態となる。そして、構造物Xにおけるアンカー筋1aが突出した側の面に新たな構造物Zを形成する。例えば、構造物Xにおけるアンカー筋1aが突出した側の面上に、新たなコンクリートを打設することで、アンカー筋1aの突出部1fが埋設された新たなコンクリート構造物Zが形成される。これにより、構造物Xと構造物Zとがアンカー筋1aを介して強固に連結される。
【0039】
無機系充填材Yとしては、特に限定されるものではなく、従来のあと施工アンカー工法において使用されている無機系充填材を用いることができる。具体的には、無機系充填材Yとしては、水硬性材料と水との混練物を用いることができる。
【0040】
水硬性材料としては、水と接触して硬化するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ポルトランドセメント、珪酸カルシウム、カルシウムアルミネート、カルシウムフルオロアルミネート、カルシウムサルフォアルミネート、カルシウムアルミノフェライト、リン酸カルシウム、半水又は無水石膏及び自硬性を有する生石灰の粉体からなる群より選ばれた少なくとも一種類の粉体を用いることができる。
【0041】
また、無機系充填材Yには、水硬性材料以外に、種々の成分が含有されてもよい。例えば、水酸化カルシウム粉末、二水石膏粉末、炭酸カルシウム粉末、スラグ粉末、フライアッシュ粉末、珪石粉末、珪砂粉末、粘土粉末及びシリカフューム粉末からなる群より選ばれた少なくとも一種類の粉体が含有されてもよい。また、膨張材、増粘剤、減水剤、凝結遅延剤、反応促進剤等が含有されてもよい。また、水硬性材料と混練される水には、必要に応じて、ポリマーや、凝結遅延剤等が含有されてもよい。
【0042】
以上のように、本発明に係るあと施工アンカー工法によれば、既存の構造物に形成された穿孔の開孔端部やその近傍がアンカー筋からの圧力によって破損してしまうのを抑制することができる。
【0043】
即ち、アンカー材配置工程及び充填工程を行うことで、アンカー筋1aの穿孔内配置部1eが構造物(以下、第一構造物とも記す)Xに固定されると共に、アンカー筋1aの突出部1fが第一構造物Xから突出した状態で、アンカー材1が第一構造物Xに取り付けられる。これにより、アンカー筋1aの突出部1fが埋設されるように、アンカー筋1aの突出部1fが突出した側の第一構造物Xの面に新たな構造物(以下、第二構造物とも記す)Zを形成することで、アンカー筋1aを介して第一構造物Xと第二構造物Zとを強固に一体化させることができる。
【0044】
また、上記のようなフランジ部1bを有することで、第一構造物Xと第二構造物Zとの界面にせん断方向の力が生じて、該界面に沿ってアンカー筋1aが付勢された際にも、アンカー筋1aからの圧力によって穿孔X1の開孔端部やその近傍が破損するのを抑制することができる。
【0045】
具体的には、従来技術のように、フランジ部1bを有さないアンカー材1(即ち、アンカー筋1aのみ)が第一構造物Xに取り付けられている場合、上記のようなせん断方向の力によってアンカー筋1aが付勢された状態になると、アンカー筋1aが付勢される方向においてアンカー筋1aと重なる穿孔X1の開口端部の狭い領域にアンカー筋1aからの圧力が集中して加わることになる。
【0046】
しかしながら、本発明のあと施工アンカー工法では、アンカー材1がアンカー筋1aの外周に環状に形成されてアンカー筋1aに対して交差する方向に延びる板状のフランジ部1bを有するものである。また、アンカー筋1aとフランジ部1bとが重なりあう位置においてフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとを結ぶ直線S1を仮定した際に、該直線S1上に位置するフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D4は、前記直線S1上に位置するアンカー筋1aの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D5に対して2.5倍以上に構成される。また、フランジ部1bの外周端部の厚みが3mm以上15mm以下に構成される。そして、斯かるフランジ部1bがアンカー筋1aの穿孔内配置部1eと共に穿孔X1内に配置されて、無機系充填材Yに埋没することで、上記のようにせん断方向の力によってアンカー筋1aが付勢されても、付勢される方向においてフランジ部1bと重なる穿孔X1の開口端部の広い領域にアンカー筋1aからの圧力が分散して加わり、アンカー材に働くモーメントをフランジ部が抑制することになる。このため、穿孔X1の開孔端部やその近傍に加わる負荷が軽減されて該開孔端部やその近傍が破損するのを抑制することができる。
【0047】
更に、アンカー材配置工程では、アンカー筋1aの穿孔内配置部1e及びフランジ部1bが穿孔X1内に配置される。つまり、一つの穿孔X1の内側にアンカー筋1aの穿孔内配置部1e及びフランジ部1bが配置されるため、斯かる穿孔X1以外の孔や溝を第一構造物Xに形成する必要がない。このため、アンカー材1の取り付けを簡易に行うことができる。
【0048】
ナット部1cは、フランジ部1bよりもアンカー筋1aの突出部1f側の位置でアンカー筋1aと螺合するため、フランジ部1bがアンカー筋1aの突出部1f側へ移動するのをナット部1cによって規制することができる。このため、フランジ部1bがアンカー筋1aの突出部1f側へ意図せずに移動してしまうのを防止することができる。
【0049】
また、上記のような構成のナット部1cを備えることで、第一構造物Xと第二構造物Zとの界面にせん断方向の力が生じて、該界面に沿ってアンカー筋1aが付勢された際にも、アンカー筋1aからの圧力によって穿孔X1の開孔端部やその近傍が破損するのをより効果的に抑制することができる。
【0050】
具体的には、ナット部1cを備えることで、上記のように、せん断方向の力によってアンカー筋1aが付勢される方向においてナット部1cと重なる穿孔X1の開口端部の領域にもアンカー筋1aからの圧力が分散して加わることになる。つまり、アンカー筋1aが付勢される方向において、フランジ部1b及びナット部1cと重なる穿孔X1の開孔端部やその近傍の広い領域にアンカー筋1aからの圧力が分散して加わることになるため、穿孔X1の開孔端部やその近傍に加わる負荷がより軽減されて該開孔端部やその近傍が破損するのをより効果的に抑制することができる。
【0051】
なお、本発明に係るあと施工アンカー工法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0052】
例えば、上記実施形態では、フランジ部1bとナット部1cとが一体的に形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、フランジ部1bとナット部1cとが別体として形成されてもよい。また、上記実施形態では、アンカー筋1aは、フランジ部1b及びナット部1cと別体として形成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、アンカー筋1a、フランジ部1b、及び、ナット部1cが一体的に形成されてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、アンカー材1は、ナット部1cを備えているが、これに限定されるものではなく、例えば、アンカー筋1aとフランジ部1bとから構成されるアンカー材であってもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、ナット部1cがアンカー筋1aと螺合するように構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、フランジ部1bがアンカー筋1aと螺合するように構成されてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、フランジ部1bは、外周形状が円形状に形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、六角形状等の多角形状に形成されてもよい。斯かる場合には、アンカー筋1aとフランジ部1bとが重なりあう位置においてアンカー筋1aの軸線Lとフランジ部1bの外周端部との間の直線距離が最短になる場所に位置するフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとを結ぶ直線S10を仮定した際に、該直線S10上に位置するフランジ部1bの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D40は、前記直線S10上に位置するアンカー筋1aの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D50に対して2.5倍以上であり、2.5倍以上5倍以下であってもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、ナット部1cは、外周形状が多角形状(具体的には、六角形状)に形成されているが、これに限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、断面の外周形状が円形状に形成されてもよい。斯かる場合には、アンカー筋1aとナット部1cとが重なりあう位置においてナット部1cの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとを結ぶ直線S20を仮定した際に、該直線S20上に位置するナット部1cの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D60は、前記直線S20上に位置するアンカー筋1aの外周端部とアンカー筋1aの軸線Lとの間の直線距離D70に対して1.6倍以上であってもよく、2倍以上3.5倍以下であってもよい。
【実施例】
【0057】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0058】
<実施例1,2>
1.アンカー材
上記の実施形態に示すアンカー材1を用いた。アンカー筋1a、フランジ部1b、及び、ナット部1cのサイズについては、下記表2に示す。
【0059】
2.無機系充填材
無機系充填材として、セメフォースアンカー(住友大阪セメント社製)を用い,専用水により混練したものを用いた。
【0060】
3.コンクリート構造物
・セメント(住友大阪セメント社製 品名:普通ポルトランドセメント)、細骨材(千葉県君津産:山砂)、粗骨材(栃木県栃木産:砕石、最大寸法20mm)、及び、水を混練して円柱状(φ100mm、高さ100mm)のコンクリート構造物を作製した。コンクリート構造物の配合、及び、物性については、下記表1に示す。
・得られたコンクリート構造物(混練後28日のもの)の中央部に、高さ方向に沿って穿孔X1を形成した。穿孔X1の深さと内径については、下記表2に示す。
【0061】
4.試験体の作製(アンカー材の取り付け)
穿孔X1内に無機系充填材を注入した直後に、下記表1の条件となるように、アンカー筋1aの穿孔内配置部1e、及び、フランジ部1bを穿孔X1内に配置した。この際、フランジ部1bの全体、及び、ナット部1cの一端部が無機系充填材に埋没した状態になるようにした。そして、アンカー筋1aを穿孔X1内に挿入して28日間養生し、無機系充填材を硬化させることで、アンカー材1がコンクリート構造物Xに取り付けられてなる試験体を作製した。
【0062】
5.せん断方向の耐力(応力)の測定
得られた試験体を用いて、最大耐力、最大耐力時の変位量、2mm変位時の耐力を測定した。測定方法としては、あと施工アンカー試験方法(日本建築あと施工アンカー協会)のせん断試験に準拠した。各測定結果については、下記表3に示す。
【0063】
6.引っ張り最大耐力の測定
得られた試験体(以下、第一構造物とも記す)において、アンカー筋1aの突出部1fが突出する側の面(以下、アンカー筋突出面とも記す)に、円柱状(φ100mm、高さ100mm)の新たなコンクリート構造物を作製した。具体的には、セメント(住友大阪セメント社製 品名:普通ポルトランドセメント)、細骨材(千葉県君津産:山砂)、粗骨材(栃木県栃木産:砕石)、及び、水を混練した混練物を、第一構造物におけるアンカー筋突出面に打設し、28日間養生して混練物を硬化させることで、アンカー筋1aの突出部1f、及び、ナット部1cの他端部が埋設された新たなコンクリート構造物(以下、第二構造物とも記す)を作製した。第二構造物には,グラウト材を使用した。グラウト材として、品名:フィルコンR(住友大阪セメント社製)を用い,水道水により混練したものを用いた。グラウト材を打込んだ後,28日間養生し,引張試験を実施した。第一構造物と第二構造物とを高さ方向に沿って引き離す方向に引っ張ることによって生じる最大耐力(最大応力)を万能試験機(オートグラフAG−X:島津社製)を用いて測定した。各測定結果については、下記表3に示す。
【0064】
<比較例1>
アンカー筋1aのみからなるアンカー材を用いたこと以外は、実施例1と同一条件で、最大耐力、最大耐力時の変位量、2mm変位時の耐力を測定し、引っ張り最大耐力を測定した。各測定結果については、下記表3に示す。
【0065】
<比較例2,3>
フランジ部1bを備えないアンカー材を用いたこと以外は、実施例1と同一条件で、最大耐力、最大耐力時の変位量、2mm変位時の耐力を測定し、引っ張り最大耐力を測定した。各測定結果については、下記表3に示す。
【0066】
<比較例4,5>
フランジ部1bの外周径と外周端部の厚みが実施例1とは異なるアンカー材を用いたこと以外は、実施例1と同一条件で、最大耐力、最大耐力時の変位量、2mm変位時の耐力を測定し、引っ張り最大耐力を測定した。各測定結果については、下記表3に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
<まとめ>
実施例1,2と、比較例1,2,4とを比較すると、各実施例の方が「2mm変位時の耐力」が大きくなることが認められる。また、実施例1,2と、比較例2,4,5とを比較すると、各実施例の方が「最大耐力」が大きくなることが認められる。更に、実施例1,2と、比較例3とを比較すると、各実施例の方が「引っ張り最大耐力」が大きくなることが認められる。また、比較例1,2を比較すると、「2mm変位時の耐力」、及び、「引っ張り最大耐力」に大きな差がないことが認められる。
つまり、本願発明のように、アンカー筋1aを備えると共に、所定のフランジ部1bを備えるアンカー材1を用い、アンカー筋1aと共にフランジ部1bが穿孔X1内に配置されて無機系充填材が充填されることで、せん断方向(アンカー筋1aの延びる方向に対して交差する方向)の力がアンカー筋1aに対して加わった際に、穿孔X1の開孔端部やその近傍に加わる圧力が軽減されて該開孔端部やその近傍が破損してしまうのを抑制することが可能となると共に、良好な引っ張り最大耐力を得ることが可能となる。