【課題】 常温下において十分な強度を発現し、水和活性が優れて良好な急硬性能を示すと同時に所定の流動性を十分に確保することができ、自己収縮による初期収縮ひび割れの発生を抑制することができる、セメントモルタル・コンクリート組成物及びその製造方法を提供する。
系鉱物を36〜55質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)を0.3〜1.7質量%、炭酸リチウム(リチウム換算)を0.01〜1.3質量%、カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)を1〜14質量%含有し、石膏(無水石膏換算)/C
系鉱物相の結晶子径が150〜500nmで格子定数が11.940〜11.975Åであるセメント用混和組成物、(2)セメント、(3)グルコン酸塩及び(4)酒石酸又は酒石酸塩を含み、前記セメント用混和組成物及びセメントの総質量に対して、グルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%及び前記酒石酸又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含む。
請求項3記載のセメントモルタル・コンクリート組成物の製造方法において、セメント用急硬性添加材は、原料を粉末化および混合して成形し、1250〜1400℃で焼成して冷却速度40℃/分以下で冷却することにより、X線回折で測定したC12A7系鉱物相の結晶子径が150〜500nmでC12A7系鉱物相の格子定数が11.940〜11.975Åとして製造されることを特徴とする、モルタル・コンクリート組成物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの施工初期に発生するひび割れを初期ひび割れと称するが、初期ひび割れにもいくつかの種類のものがある。
例えば、沈下ひび割れは、コンクリートにブリーディングが生じ、その影響でコンクリート表面が沈下し、その沈下量の差より発生するひび割れである。沈下ひび割れは、ブリーディングを抑制すれば低減させることが可能である。
【0003】
初期ひび割れの中では、特に、収縮を拘束することにより生じる収縮ひび割れが問題となっている。
収縮ひび割れの発生原因としては、コンクリート自体の自己収縮、乾燥収縮、水和熱がコンクリート構造物内部に蓄積されその後放熱して生じる温度収縮があり、これらが収縮ひび割れを発生させる原因である。
かかる収縮ひび割れは、例えば、強度を強くすると自己収縮が大きくなってしまい、ひび割れの抑制が困難となってしまう問題がある。
【0004】
乾燥収縮は、温度や風等の養生条件が関係するが、施工後、構造物表面に養生剤(水等)を撒く等の対策により防止することが可能である。
温度収縮は、セメントの水和熱によって上昇した構造物内部の温度が下降するときに発生する収縮であり、鉄筋等の拘束により引っ張り応力が発生してひび割れが発生する。
自己収縮は、セメントの水和反応によって生じる相体積変化である化学収縮と毛細管空隙を合わせた収縮であり、セメントが反応して固まるときに必ず発生する。特に、急硬材のように急激にセメントが水和して固まる材料の自己収縮は特に大きく、ひび割れが発生しやすい。
【0005】
従来、急硬性を有するセメントとして、ジェットセメント等の急硬性セメントがある。これらのセメントに使用されるクリンカとして、ジェットセメントクリンカ、C
4A
3SO
3を主成分とするアーウィン系クリンカ、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカ等が用いられている。
また、急硬性成分であるC
12A
7を主成分としたクリンカを溶融し、その後これを急冷することによって、非晶質C
12A
7を得る方法もある。
【0006】
特に、従来のジェットセメントクリンカは、カルシウムシリケート相を主成分とし速硬性成分としてC
11A
7・CaF
2を約20〜30質量%含有するクリンカであり、C
11A
7CaF
2やC
4AF等の融液相を生成させてなるものである。従って、急硬性成分であるC
12A
7の含有量を、上記範囲以上とすると、融液相が多くなりすぎ、クリンカが溶融してしまい、例えば実機設備での製造が非常に困難となる。
【0007】
アーウィン系クリンカは、急硬性を有するアーウィン(C
4A
3SO
3)を70質量%以上含有することから急硬性セメント用クリンカとして利用されているが、その急硬性成分の特性により、急硬性に劣るという問題がある。
更に、CAを主成分とするアルミナセメントクリンカは、C
12A
7を主成分としたクリンカに比べると、急硬性が劣る。
【0008】
一方、セメント組成物としては、ポルトランドセメントに、急硬性を付与するためにカルシウムアルミネートと石膏とを配合することが、従来より行われてきた。
しかし、カルシウムアルミネートと石膏の急硬性成分を含有するセメント組成物は、十分な急硬性を得るとともに、十分な流動性を有して可使時間を確保することが難しかった。
【0009】
そこで、特開2014−201462号公報(特許文献1)には、CaO35〜50質量%、Al
2O
335〜50質量%及びSiO
27〜18質量%の化学組成で非晶質度が70%以上の超速硬性クリンカを粉砕してなる、ブレーン比表面積4000〜9000cm
2/g、30μm超の粒子の含有率が5質量%以下で、さらに、1.0μm未満の粒子の含有率が5質量%以下の超速硬性クリンカ粉砕物100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有するセメント組成物が、特開2014−196245号公報(特許文献2)には、セメント、水、亜硝酸カルシウム、ポリカルボン酸系減水剤及びメラミン系減水剤を含み、セメント100重量部に対して、亜硝酸カルシウム2〜5重量部、ポリカルボン酸系減水剤0.1〜2.5重量部、メラミン系減水剤0.1〜2.5重量部を含む、セメント組成物が開示されている。
【0010】
しかし、水和反応を促進して、所望する急硬性、例えば3時間強度を十分に得ることができ、セメントの流動性を十分に確保することは難しく、これは必要な適量の融液相を生成させる条件と、急硬性成分の固溶状態、すなわち水和活性を最大とする条件とが必ずしも一致しないからであり、急硬性成分の水和活性を最大とする設計は困難であった。
更に、水和反応を促進するとともに、自己収縮による初期収縮ひび割れの発生を有効に抑制するとともに、流動性を確保して施工性を良好にすることは困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を次の形態により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物は、(1)C
12A
7系鉱物相を含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、カルシウム塩と炭酸リチウムとを含み、C
12A
7系鉱物を36〜55質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)を0.3〜1.7質量%、炭酸リチウム(リチウム換算)を0.01〜1.3質量%、カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)を1〜14質量%含有し、石膏(無水石膏換算)/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.5〜1.2であり、X線回折で測定したC
12A
7系鉱物相の結晶子径が150〜500nmで格子定数が11.940〜11.975Åであるセメント用混和組成物、(2)セメント、(3)グルコン酸塩、及び(4)酒石酸及び/又は酒石酸塩を含み、前記セメント用混和組成物及びセメントの総質量に対して、グルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%及び前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含む、セメントモルタル・コンクリート組成物である。
【0025】
好適には、上記本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物において、前記C
12A
7系鉱物相はC
11A
7CaX
2(ハロゲン)及びC
12A
7の混合相であることが望ましい。
【0026】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物は、上記構成を有することにより、常温において、初期強度発現性に優れるとともに、初期収縮ひび割れの発生を抑制でき、流動性を確保して施工性を良好にすることもできるものとなる。
【0027】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含まれるセメント用混和組成物中のカルシウムアルミネート相であるC
12A
7系鉱物相は、上記したように、36〜55質量%、好ましくは40〜52質量%で含有される。
かかるC
12A
7系鉱物相は、セメント用混和組成物を調製する際に添加配合する、セメント用急硬性添加材由来のものである。
C
12A
7系鉱物相を含有することにより、好ましくは上記含有量で含むことで、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物が、常温においても十分な急硬性や優れた初期強度が得られるとともに、所望する十分な可使時間を有する、本発明の上記効果を得ることが可能となる。
なお、本発明に用いるセメント用混和組成物にはアーウィンは含まれない。
また、得られたセメント用混和組成物中におけるカルシウムアルミネート相であるC
12A
7系鉱物相の含有量は、例えば、下記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0028】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に用いられるセメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物は、X線回折により測定したC
12A
7系鉱物相の結晶子径が150〜500nm、好ましくは150〜300nmである。
C
12A
7系鉱物相の結晶子径がかかる範囲であると、優れた初期強度発現性及び可使時間を確保でき、良好な流動性等を得ることができる。
前記結晶子径は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:ブルカー社製D4 Endeavor、解析ソフト:Topas)を用いて測定した数値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0029】
更に前記セメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物は、X線回折により測定したC
12A
7系鉱物相の格子定数が11.940〜11.975Åのものである。
格子定数をかかる範囲とすることで、所定の流動性を確保するとともに優れた急硬性を有し、上記本発明の効果を奏することができる。
前記格子定数は、粉末X線回折にて測定した値であり、X線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、測定した値である。
管電圧:45kV 管電流:40mA
【0030】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含有されるセメント用混和組成物中の石膏(硫酸カルシウム)としては、無水石膏、半水石膏、二水石膏、またはこれらの混合物が例示できる。
かかる石膏は、セメント用混和組成物中、石膏/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.5〜1.2、好ましくは0.7〜1.1となるような含有量で含まれる。但し、前記石膏含有量は、すべてCaSO
4(無水石膏)に換算した合量として算出される量である。
また、セメント用混和組成物中における石膏の含有量は、例えば、上記X線回折/リートベルト法にて測定することができる。
【0031】
また、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含有されるセメント用混和組成物中の硫酸アルカリ化合物としては、例えば、芒硝(硫酸ナトリウム)、硫酸カリウムなどのアルカリ金属硫酸塩を例示することができる。
かかる硫酸アルカリ化合物の含有量は、JCAS I−04に準じて、Na量やK量を測定して、すべてNa
2SO
4換算に換算した合量とし、セメント用混和組成物中、0.3〜1.7質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%で含有されることが望ましい。
【0032】
さらに本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含まれるセメント用混和組成物中のカルシウム塩としては、例えば、消石灰、生石灰等の水に難溶性ではない塩を用いることができるが、水酸化カルシウムが望ましく、カルシウム塩は全て水酸化カルシウムに換算して、1〜14質量%含有され、好ましくは2〜12質量%含有されることが望ましい。
さらに、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含まれるセメント用混和組成物には炭酸リチウムがリチウム換算で0.01〜1.3質量%含有され、好ましくは0.01〜1.0質量%含有されることが望ましい。
また、得られたセメント用混和組成物中におけるカルシウム塩(水酸化カルシウム換算)の含有量は、例えば、上記記X線回折/リートベルト法にて測定することができ、炭酸リチウム(リチウム換算)の含有量は、例えば、ICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0033】
石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩及び炭酸リチウムを、上記範囲内で含有するセメント用混和組成物を配合することにより、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物が上記効果を、有効に発現することが可能となる。
【0034】
好ましくは、上記セメント用混和組成物中にフッ素(F)が含まれる場合があり、これは、含有されるセメント用急硬性添加材由来のものであり、その含有量は、フッ素/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.6〜4.0質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%となるような含有量で含まれることが望ましい。
含有されるF量がかかる範囲であることで、より優れた初期強度発現性を有し、可使時間を十分に確保することが可能となり、上記本発明の効果を更に有効に奏することができる。
【0035】
また、上記セメント用混和組成物は、好適には、下記式を満足する関係とすることにより、3時間強度発現性に更に優れることとすることができるため、望ましい。
X=−0.93(F/Q)−Qa+11.98≧0
上記式中、Fはセメント用混和組成物中のフッ素の含有量(質量%)、Qaはセメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相の格子定数(Å)、Qはセメント用混和組成物中のC
12A
7鉱物相の含有量(質量%)を表す。
【0036】
また、上記セメント用混和組成物中には、好適には、C
3Aは実質的に含まれないことが望ましく、C
3A/C
12A
7系鉱物≦7(質量%)であることが望ましい。
これは、C
3Aが増えると、C
12A
7系鉱物相の含有量が減少するため、十分な初期強度が得られない場合があるからである。
【0037】
更に、上記セメント用混和組成物中には、Ti、Fe、C
2SやC
2ASは実質的に含まれないことが望ましく、多くとも、TiO
2/C
12A
7≦1.4(質量%)で、Fe
2O
3/C
12A
7≦2.0(質量%)であることが望ましい。これにより、初期強度発現性(施工後3時間後等)に更に優れることとなる。かかるセメント用混和組成物中のTiO
2やFe
2O
3は、含有されるセメント用急硬性添加材由来のものである。
【0038】
セメント用混和組成物を上記構成とすることで、市場で入手しうる任意のセメント、グルコン酸塩、及び、酒石酸又は酒石酸塩と混合した、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物は、常温においても、初期強度発現性に優れ、初期収縮ひび割れの発生を抑制することができ、流動性を確保することもできるものとなる。
【0039】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物は、上記セメント用混和組成物と、任意のセメントと、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とを含有し、セメント用混和組成物及びセメントの総質量に対して外割で、グルコン酸塩(グルコン酸換算)を0.05〜0.6質量%及び前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)を0.05〜0.6質量%含む。
【0040】
セメントとしては、市販されている任意のセメントを適用することができ、例えば、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、シリカセメント等から選ばれる少なくとも1種類を例示することができる。
【0041】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に含まれるグルコン酸塩としては、例えばグルコン酸、グルコン酸ナトリウム等が例示される。
また、酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム等が例示される。
【0042】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物のカルシウムアルミネート相であるC
12A
7系鉱物は、上記セメント用混和組成物由来、即ち、上記セメント用混和組成物中に含まれるセメント用急硬性添加材由来のものであり、X線回折で測定したC
12A
7系鉱物相の結晶子径が150〜500nmで格子定数は11.940〜11.975Åである。
【0043】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物は、かかる上記構成を有することで、初期強度発現性に優れ、初期収縮ひび割れの発生を抑制することができ、流動性を確保することもできるものとなる。
【0044】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物には、上記効果を害さない範囲であれば、必要に応じて、例えば、減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)や、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を含有することができる。
【0045】
本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物の製造方法は、(1)C
12A
7系鉱物相を含有するセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、炭酸リチウムと、カルシウム塩とを、C
12A
7系鉱物が36〜55質量%、硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.3〜1.7質量%、炭酸リチウム(リチウム換算)が0.01〜1.3質量%、カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)が1〜14質量%含有され、石膏(無水石膏換算)/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.5〜1.2であるセメント用混和組成物、(2)セメント、(3)グルコン酸塩及び(4)酒石酸及び/又は酒石酸塩を、前記セメント用混和組成物及びセメントの総質量に対して、グルコン酸塩(グルコン酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%と前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)を外割で0.05〜0.6質量%含むように配合することを特徴とする、セメントモルタル・コンクリート組成物の製造方法である。
【0046】
また、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物に用いるセメント用混和組成物を製造する方法は、セメント用急硬性添加材、石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩及び炭酸リチウムを混合して、上記セメント用混和組成物の上記特定の構成を有するように調製する。
その製法は特に限定されないが、具体的には、特定のセメント用急硬性添加材と、石膏と、硫酸アルカリ化合物と、カルシウム塩と炭酸リチウムとを、C
12A
7系鉱物が36〜55質量%で硫酸アルカリ化合物(硫酸ナトリウム換算)が0.3〜1.7質量%、炭酸リチウム(リチウム換算)が0.01〜1.3質量%、カルシウム塩(水酸化カルシウム換算)が1〜14質量%、石膏(無水石膏換算)/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.5〜1.2となるように配合し、均一に混合して、上記セメント用混和組成物を調製する。
【0047】
具体的には、セメント用混和組成物に配合されるセメント用急硬性添加材は、生石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、蛍石等のフッ素原料、必要に応じて配合されるドロマイト等のマグネシウム原料等を混合して粉砕し、または粉砕して混合し、この粉末配合物を成形して成形体を得て、これを電気炉等の加熱炉を用いて焼成し、冷却して、セメント用急硬性添加材を調製する。
なお、得られるセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeの原料となるもの(例えば、ベンガラ等)は積極的に配合しない。配合するセメント用急硬性添加材中に含まれるTiやFeは、上記配合原料中に不純物として含有されることにより、結果として含まれる場合もあるもので、積極的に含有されるものではない。
【0048】
また、上記セメント用混和組成物の製造に配合されるセメント用急硬性添加材は、X線回折で測定したC
12A
7系鉱物相の結晶子径が150〜500nm、好ましくは150〜300nmで、格子定数が11.940〜11.975Åである、急硬性添加材である。
C
12A
7系鉱物相の結晶子径、格子定数をかかる範囲とするセメント用急硬性添加材をセメント用混和組成物に含み、更にセメントモルタル・コンクリート組成物に含むことにより、水和活性を促進する一方で、水和活性による収縮を低減でき、優れた初期強度発現性及び可使時間を確保できる良好な流動性等を得ることができる。
前記結晶子径及び格子定数は、上記と同様の測定方法で測定した値である。
【0049】
特に、好ましくは、セメント用急硬性添加材は、C
12A
7系鉱物相を70質量%以上含み、C
3AとTiとFeとを実質的に含まず、原料の不純物として含んだとしてもC
3Aを5.0質量%以下、TiをTiO
2換算で1.0質量%以下、FeをFe
2O
3換算で1.5質量%以下であり、また、Fを0.5〜3.0質量%含むものである急硬性添加材であることが望ましい。
C
3Aが5.0質量%を超えると、C
12A
7系鉱物相の含有量が減少するため、現場での添加による十分な急硬性が得られず、初期強度が低下してしまう場合がある。
【0050】
かかるC
12A
7系鉱物相を主成分とし、C
3Aの含有量が一定以下のセメント用急硬性添加材には、更に、C
2SやC
2ASは実質的に含まれないことが望ましい。
実質的に含まれないとは、これらの鉱物相が、原料中に含まれる不純物であるSiO
2により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に生成して含有させるものではない。C
2SとC
2ASの合計含有量は多くとも10質量%、それ以下であることが望ましい。
これは、カルシウムアルミネート相であるC
12A
7系鉱物相の含有量を上記範囲から減少させないためである。
【0051】
なお、かかるセメント用急硬性添加材は、下記するように、1250〜1400℃、好ましくは1300〜1360℃で焼成されて調製されることにより、C
3Sはほとんど生成されることはなく、実質的には含まれない。また、C
4AFは、セメント用急硬性添加材中のFe
2O
3が1.5質量%以下であるので、ほとんど生成されず実質的に含まれない。
【0052】
また、セメント用急硬性添加材は、Tiを積極的に含むものではなく、実質的には含まれないことが望ましい。
実質的に含まないとは、Tiが、原料中に含まれる不純物により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に含有させるものではない。
例えば、Tiの含有量をTiO
2酸化物換算で1.0質量%以下、好ましくは0.5質量%以下とするものである。
すなわち、セメント用急硬性添加材は、一定量の融液相の生成を必要としないため、融液相の生成に関係があるTiを積極的に含む必要がないからである。
TiO
2を実質的に含まず、多くとも上記含有量以下とすることにより、急硬性である初期強度発現性(施工後3時間後等)に優れることとなる。
TiO
2換算でTiを1.0質量%を超えて含むと、C
3Aが5.0質量%を超えて生成してしまい、本発明の効果が得られない。
【0053】
また、セメント用急硬性添加材は、Feを積極的に含むものではなく、実質的には含まれないことが望ましい。
実質的に含まないとは、Feが、原料中に含まれる不純物により生成される場合を妨げないという意味であり、積極的に含有させるものではない。
例えば、Feの含有量をFe
2O
3酸化物換算で1.5質量%以下、好ましくは1.0質量%以下とするものである。
すなわち、セメント用急硬性添加材は、一定量の融液相の生成を必要としないため、融液相の生成に関係があるFeを積極的に含む必要がないからである。
Fe
2O
3を上記含有量を超えて含むと、C
12A
7系鉱物相の格子定数が大きくなり、急硬性である初期強度発現性(施工後3時間後等)が劣ることとなり、少ないほど好ましい。
【0054】
また、上記セメント用急硬性添加材には、更にFを0.5〜3.0質量%、好ましくは1.0〜2.5質量%含むものであることが望ましい。
セメント用急硬性添加材中に含まれるFの含有量を上記範囲とすることで、C
12A
7系鉱物相が安定に生成し、更にC
12A
7系鉱物相の格子定数が適正範囲となり水和活性を高めることができ、当該セメント用急硬性添加材をセメントモルタル・コンクリート組成物に含むことにより、本発明の上記効果をより有効に発現することが可能となる。
【0055】
セメント用急硬性添加材は、配合原料を粉末化して混合し、混合粉末を成形して得られた成形体を、例えば1250〜1400℃、好ましくは1300〜1360℃の温度で十分に、例えば0.5〜3時間焼成し、次いで40℃/分以下、好ましくは5〜40℃/分の冷却速度により冷却することで製造することができる。なお、上記含有割合となるように原料を配合する。
このようにして得られたセメント用急硬性添加材は、一定量の融液相の生成を必要とすることがないため、C
12A
7系固溶体の水和活性が十分に発現することができるように、Ti、Fe等が実質的に含まれず、多くともこれらの含有量が上記含有量以下となるように調整されて、セメントに後添加して、急硬性である初期強度に優れるものとなる。
【0056】
このように、原料混合粉末を成形した成形体を焼成して40℃/分以下、好ましくは5〜40℃/分の冷却速度で冷却することで、X線回折により測定したC
12A
7系鉱物相の結晶子径が150〜500nm、好ましくは150〜300nm、C
12A
7系鉱物相の格子定数が11.940〜11.975Åである、セメント用急硬性添加材を製造することができる。
【0057】
結晶子径が異なることで、水和活性、すなわち急硬性の程度が異なるものとなるため、可使時間を確保し、急硬性を得るためには、上記焼成温度等で焼成し、更に上記冷却速度とすることで、150〜500nmの範囲の結晶子径のセメント用急硬性添加材を得ることができる。また150〜300nmの好適範囲とすることで、より急硬性が優れることとなる。
C
12A
7系鉱物相の結晶子径がかかる範囲であると、かかる急硬性添加材等を配合したセメント用混和組成物をセメント等に添加し、得られるセメントモルタル・コンクリートが、適正な流動性を保ち、良好な初期強度発現性を得ることができる。
【0058】
特に、セメント用急硬性添加材は、ブレーン比表面積が4500cm
2/g以上に粉砕して用いることが好ましく、これは、4500cm
2/g未満では、良好な急硬性が得られない場合があるからである。
また、ブレーン比表面積は、大きくしすぎると流動性に悪影響を及ぼし、粉砕時間を要して生産性が低下しコスト高になるので、5000〜7000cm
2/gが望ましい。
また、粉砕する際に、粉砕助剤(ジエチレングリコール、トリエタノールアミン等)を添加してもよい。
【0059】
上記セメント用混和組成物は、上記セメント用急硬性添加材を粉末状にし、更に石膏と、硫酸アルカリ化合物と、カルシウム塩と炭酸リチウムとを、C
12A
7系鉱物が36〜55質量%で硫酸アルカリ化合物が0.3〜1.7質量%、炭酸リチウムを0.01〜1.3質量%、カルシウム塩を1〜14質量%、石膏/C
12A
7系鉱物相の含有量の質量比が0.5〜1.2となるように均一に配合することができれば、特にその混合方法は限定されず、任意の混合方法を用いることが可能である。
【0060】
前記石膏含有量は、すべてCaSO
4(無水石膏)に換算した合量として算出される量であり、また、硫酸アルカリ化合物の含有量は、JCAS I−04に準じて、Na量やK量を測定して、すべてNa
2SO
4換算に換算した合量であり、カルシウム塩はすべて水酸化カルシウムに換算した合量であり、炭酸リチウムはすべてリチウムに換算した量である。
【0061】
具体的には、石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩及び炭酸リチウムを予め混合して得られた混合物にセメント用急硬性添加材を添加混合しても、石膏、硫酸アルカリ化合物、カルシウム塩、炭酸リチウム及びセメント用急硬性添加材を同時に混合しても、均一に混合できればいずれの方法も用いることができる。
【0062】
このようにして得られたセメント用混和組成物と、セメントと、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とを配合して、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物を製造することができ、セメント用混和組成物とセメントとの総量に対して、外割で、前記グルコン酸塩(グルコン酸換算)が0.05〜0.6質量%、前記酒石酸及び/又は酒石酸塩(酒石酸換算)が0.05〜0.6質量%含まれるように配合する。
【0063】
更に、必要に応じて、例えば、減水剤(アルキルアリルスルホン酸系、ナフタレンスルホン酸系、メラミンスルホン酸系、ポリカルボン酸系、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤も含む)や、液状または粉末状の混和剤や、細骨材(川砂、海砂、山砂、砕砂およびこれらの混合物)や、粗骨材(川砂利、海砂利、砕石およびこれらの混合物)等を配合することができる。
【0064】
また、本発明のセメントモルタル・コンクリート組成物を用いて、セメントペースト、モルタル、コンクリート等を調製する際の水との混合方法は、特に限定されるものではなく、所定の割合に配合したのち、慣用の混合装置を用いて混合すればよい。
【0065】
具体的には、セメント用混和組成物と、任意のセメントと、グルコン酸塩と、酒石酸及び/又は酒石酸塩とを、水とともに配合して、セメントモルタル・コンクリートを調製しても、またはセメント用混和組成物と、セメントと、予めグルコン酸塩と酒石酸及び/又は酒石酸塩と水とを配合したものとを配合して、セメントモルタル・コンクリートを調製しても均一に混合できればいずれの方法であってもかまわない。
特に、グルコン酸塩と、酒石酸又は酒石酸塩とは、セメントモルタル・コンクリートを調製する際に配合する水に予め溶解しておくことが望ましい。
また、必要に応じて添加される上記混和剤や骨材等は、均一に混合できればセメント等と同時に添加しても、順次添加しても、またモルタル等を調製する際の水と混練する際に添加しても、いずれの添加方法による添加であっても特に限定されない。
【0066】
このようにして得られた本発明のセメントモルタル・コンクリートは、常温においても、初期強度発現性に優れ、初期収縮ひび割れの発生を抑制することができ、流動性を確保して施工性を確保することもできるものとなる。
【実施例】
【0067】
本発明を次の実施例、比較例及び試験例に基づき説明する。
1)セメント用急硬性添加材の調製
セメント用急硬性添加材の目標化学組成が表1となるよう、CaCO
3、SiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、MgO、TiO
2、CaF
2の各試薬を配合して混合粉砕することにより、各セメント用急硬性添加材原料を調製した。
【0068】
なお、ここで、SiO
2、Fe
2O
3、TiO
2は、実際に実機でセメント用急硬性添加材を製造する際に、生石灰、消石灰、石灰石等のカルシウム原料、水酸化アルミニウム、アルミナ、ボーキサイトやバンド頁岩等のアルミニウム原料、蛍石等のフッ素原料、必要に応じて配合されるドロマイト等のマグネシウム原料を用いると、不純物としてSiO
2、Fe
2O
3、TiO
2が結果として含まれる場合もあるため(積極的に含有させるものではない)、かかる場合を想定して用いたものである。
【0069】
【表1】
【0070】
上記各セメント用急硬性添加材原料を加圧成形し、各成形体を電気炉にて、1300℃で30分間焼成し、次いで表2に示す各冷却速度で冷却して、表2に示す各セメント用急硬性添加材を得た。
【0071】
2)TiO
2、Fe
2O
3、F成分等の含有量の測定
得られた各セメント用急硬性添加材を、蛍光X線分析装置(パナリティカル社製;Axios)を用いて、JIS R 5204に準じて分析して、含有されるTiO
2、Fe
2O
3、F成分等の含有割合を測定した。
これらの結果を、表2に示す。
【0072】
3)セメント用急硬性添加材の鉱物の分析(C
12A
7系及びC
3A)
得られた各セメント用急硬性添加材をX線回折/リートベルト法(装置:パナリティカル社製X’Pert MPD、解析ソフト:HighScorePlus)を用いて、C
12A
7系及びC
3A鉱物の含有割合及びC
12A
7系鉱物相の結晶の格子定数を測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果を表2に示す。ここで、C
12A
7系鉱物相の結晶の格子定数はC
11A
7CaF
2の結晶構造を用いて測定した。
【0073】
また、C
12A
7系鉱物相の結晶の結晶子径は、C
11A
7CaF
2結晶構造を用いて、X線回折/リートベルト法(装置:ブルカー社製D4 Endeavor、解析ソフト:Topas)により測定した。
管電圧:45kV 管電流:40mA
その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
4)セメント用混和組成物の調製
次いで、上記各セメント用急硬性添加材をブレーン比表面積が5200±200cm
2/g程度に粉砕して、各セメント用急硬性添加材粉末を得た。
得られた各セメント用急硬性添加材粉末、無水石膏(商品名;ノンクレーブ、住友大阪セメント(株)製)、Na
2SO
4(芒硝:試薬)、消石灰(水酸化カルシウム:試薬)及び炭酸リチウム(試薬)を、下記表3〜5に示す配合割合で配合して、各セメント用混和組成物組成物を調製した。
なお、表3〜5中、炭酸リチウムはリチウム換算の数値を示す。
【0076】
5)セメント用混和組成物中の鉱物含有量(C
12A
7系)及び当該C
12A
7系鉱物相の結晶の格子定数及び結晶子径の測定
上記3)に記載の方法と同様の方法で、各セメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相(Q)の含有量、C
12A
7系鉱物相の結晶の格子定数及び結晶子径を測定した。
これらの結果を表3〜5に示す。
なお、セメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相は、上記セメント用急硬性添加材由来のものである。
【0077】
6)セメント用混和組成物中の無水石膏/C
12A
7系鉱物相(含有量の質量比)
上記5)で測定された各セメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相含有量と、表3〜5中に示す各セメント用混和組成物中の無水石膏の配合量より、各セメント用混和組成物中の無水石膏/C
12A
7系鉱物相(質量比)を算出した。
その結果を表3〜5に示す。
【0078】
7)セメント用混和組成物中のC
3A/C
12A
7鉱物相(質量%)、TiO
2/C
12A
7鉱物相(質量%)、Fe
2O
3/C
12A
7鉱物相(質量%)
表2中のC
3A、TiO
2、Fe
2O
3量及び表3〜5中のセメント用混和組成物中のセメント用急硬性添加材の配合量と表3〜5中のセメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相の含有量(質量%)より、C
3A/C
12A
7鉱物相(質量%)、TiO
2/C
12A
7鉱物相(質量%)、Fe
2O
3/C
12A
7鉱物相(質量%)を算出した。すべて、C
3A/C
12A
7鉱物相≦7(質量%)で、TiO
2/C
12A
7鉱物相≦1.4(質量%)で、Fe
2O
3/C
12A
7鉱物相≦2.0(質量%)を満足するものであった。なお、セメント用混和組成物中のC
12A
7系鉱物相、C
3A鉱物相、TiO
2、Fe
2O
3は、上記セメント用急硬性添加材由来のものである。
【0079】
8)セメントモルタル組成物の調製
早強ポルトランドセメント(PC:住友大阪セメント株式会社製)に、得られた各セメント用混和組成物と、グルコン酸ナトリウムと酒石酸を、表3〜5に記載の配合割合で配合して各セメントモルタル組成物を調製した。
なお、表3〜5には、各セメント用混和組成物と早強ポルトランドセメントとの合計質量100質量部に対して、外割で、グルコン酸ナトリウム(グルコン酸換算)及び酒石酸を下記表3〜5に示す割合で配合したものを各セメントモルタル組成物とした。
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
9)モルタルの調製
各セメントモルタル組成物(実施例1〜14、比較例1〜15)と細骨材(珪砂)、水および混和剤(マイティ150:花王(株)製)を下記表6のとおり配合して均一に混練し、各モルタルを得た。
なお、セメントモルタル組成物中のグルコン酸ナトリウムと酒石酸は、予め水に溶解して用いた。
【0084】
【表6】
【0085】
10)強度測定及びフロー値測定
実施例1〜14及び比較例1〜15の各モルタルについて、20℃での3時間強度及び20℃でのフロー値を、JIS R 5201に準じて測定した。
その結果も、上記表3〜5に示す。
【0086】
11)ひび割れ試験
実施例1〜14及び比較例1〜15の各モルタルについて、以下のようにして、20℃でのひび割れ試験を実施した。
JSCE−F506(モルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験用円柱供試体の作り方)に準じてモルタル供試体を作製した。ただし、型枠は
図1に示すように、円柱供試体用型枠(φ5×10cm)の上部に穴を空け、ボルトを差し込んで固定したものを使用した。
ひび割れの評価は、混練3時間後の供試体上部表面(ボルト上面)に発生したひび割れの長さを5mm単位(切り上げ)で測定し、5mm以下の状態を合格とした。
これらの結果を表3〜5に示す。