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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-179626(P2018-179626A)
(43)【公開日】2018年11月15日
(54)【発明の名称】超音波受信器
(51)【国際特許分類】
   G01H 11/08 20060101AFI20181019BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20181019BHJP
   H04R 17/00 20060101ALI20181019BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20181019BHJP
   H04R 1/26 20060101ALI20181019BHJP
   H02H 5/00 20060101ALI20181019BHJP
【FI】
   G01H11/08 D
   G01M99/00 A
   H04R17/00 332B
   H04R3/00 330
   H04R1/26 330
   H02H5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-76435(P2017-76435)
(22)【出願日】2017年4月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】瀬志本 明
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
(72)【発明者】
【氏名】口地 博行
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
5D019
【Fターム(参考)】
2G024AD33
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA04
2G064AA12
2G064AB01
2G064CC41
2G064DD15
5D019AA08
5D019AA25
5D019BB03
5D019BB19
5D019BB21
5D019FF01
(57)【要約】
【課題】小型、低コストの構成で解析容易な出力データを得ることができ、また機器診断装置においては、機器の故障の前兆を示す異常を検出する。
【解決手段】異なる共振周波数f〜fを有するn個の音響電気変換器10−I〜10−nを設けた音響電気変換部10と、この音響電気変換部10から出力されたそれぞれの信号を増幅する整流増幅器12−I〜12−nを有する増幅部12とを設ける。音響電気変換器10−I〜10−nは、それぞれの共振周波数で鋭い感度ピークを有し、この共振周波数を異常を示す周波数に合わせ、音響電気変換部10及び増幅部12から抽出された周波数信号強度のパターンを解析することで、故障の前兆となる異常を的確に検出する。複数の音響電気変換器は、同一基板上に作製した圧電型微小音響電気変換器アレイとする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる共振周波数を有する複数の音響電気変換器と、
この複数の音響電気変換器に接続された増幅器とを含み、
上記複数の音響電気変換器の出力に基づき、異常を示す周波数における超音波信号強度を抽出することを特徴とする超音波受信器。
【請求項2】
上記複数の音響電気変換器を同一基板上に作製した圧電型微小音響電気変換器アレイとしたことを特徴とする請求項1記載の超音波受信器。
【請求項3】
上記圧電型微小音響電気変換器アレイは、異なる共振周波数に対応して上記複数の音響電気変換器の圧電体の長さを変えたことを特徴とする請求項2記載の超音波受信器。
【請求項4】
入力超音波信号の強度のパターンを解析して機器の異常を検出する機器診断装置の受信器として用い、
機器の異常を示す周波数における超音波信号強度を抽出することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の超音波受信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波受信器、特に故障の前兆を検出する機器診断装置等に使用され、異常を示す周波数の超音波信号を高感度に抽出する超音波受信器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、工場、各種施設等に設置されているモータ等の機器(設備)の故障やその前兆は、異常音により診断することが行われ、古くから、聴音器を耳に当て、「ジャー」や「シャシャ」といった異常音を聴き、軸受けの傷や接触の有無を熟練者が判断するといった方法が一般に採られている。
【0003】
最近では、下記特許文献1に示されるように、人の代わりに診断装置(センサ装置)を用いる方法が提案されており、この診断装置は、例えば図6に示されるように、可聴音を常時測定する音響電気変換器1がセンサとして設けられ、この音響電気変換器1から出力された電気信号は増幅器2で増幅された後、A/D変換器3を介して周波数成分計算部(FFT)4へ入力される。これらA/D変換器3と周波数成分計算部4では、得られた信号の周波数成分が抽出され、次段の周波数成分解析部5では、予め記憶されている異常を示す周波数成分との一致度が解析され、その解析結果を用いて、異常検出部6では故障又は故障の前兆となる異常の有無が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−122853号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、機器(設備)等の故障又はその前兆となる異常は、必ずしも可聴音に現れるものではなく、20kHz以上のいわゆる超音波領域に現れるとの実験データもある。
しかしながら、異常の測定を超音波領域まで広げようとすると、超音波の周波数帯域が広い分、超音波に対応した上記電気音響変換器1、A/D変換器3及び周波数成分計算部(FFT)4での負担が重くなり、コスト増の要因となる。
【0006】
上記のようなセンサ装置にて、機器等の状態を人手によらずに常時監視し、故障の前兆等を示す異常を検出する手法は、今後大きな成長が期待できるIoT(Internet of Things)の一形態である。このIoTは、例えば工場内の全ての機器に音響センサだけでなく、振動、温度や電流等を検出する多種類のセンサを取り付けて、そのビッグデータを解析することにより総合的に故障までの時間的猶予を推定し、生産への影響を最小限にしてメンテナンスを実施し、突発的故障により生産が停止しないようにすることを意図している。そのため、個々のセンサは、出来るだけ小型、低コストなものとし、しかもセンサから出力されるデータについても解析が容易なものであることが望ましい。
【0007】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型、低コストとなる構成で解析容易な出力データを得ることができ、また機器診断装置においては、機器の故障の前兆を示す異常を検出することが可能となる超音波受信器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明に係る超音波受信器は、異なる共振周波数を有する複数の音響電気変換器と、この複数の音響電気変換器に接続された増幅器とを含み、上記複数の音響電気変換器の出力に基づき、異常を示す周波数における超音波信号強度を抽出することを特徴とする。
請求項2の発明は、上記複数の音響電気変換器を同一基板上に作製した圧電型微小音響電気変換器アレイとしたことを特徴とする。
請求項3の発明は、上記圧電型微小音響電気変換器アレイは、異なる共振周波数に対応して上記複数の音響電気変換器の圧電体の長さを変えたことを特徴とする。
請求項4の発明は、入力された超音波信号の強度のパターンを解析して機器の異常を検出する機器診断装置の受信器として用い、機器の異常を示す周波数における超音波信号強度を抽出することを特徴とする。
【0009】
以上の構成によれば、異なる共振周波数を持つ複数の音響電気変換器とこれに接続された増幅器により、異常(故障の前兆や故障状態)を示す周波数の超音波信号強度が高感度・高信号雑音比にて抽出される。例えば、音響電気変換器を構成する共振器のQ値を30とすると、平坦な周波数特性を有する広帯域な音響電気変換器に比べて、約30dB、感度が改善されることと等価であり、音響電気変換器の共振周波数を異常となる周波数に合わせることにより、感度及び信号雑音比の高い異常検出信号が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、異なる共振周波数を有する複数の音響電気変換器と増幅器を設けることにより、異常を示す各共振周波数において、高感度・高信号雑音比で超音波信号強度を抽出することが可能となる。しかも、この場合の増幅器は、狭帯域なものでよく、その分、低雑音となる。更に、各周波数での超音波音響強度は、増幅器の出力の平滑化(ピーク検出)或いは自乗検波することにより簡単に求められ、従来例のような高速のA/D変換器もFFTも不要となり、小型、低コストの構成で解析容易な出力データを得る超音波受信器の実現が可能となる。
【0011】
上記音響電気変換器は、測定する周波数毎に用意する必要があるが、複数の圧電型の音響電気変換器を同一のシリコン基板にアレイ状に作製することにより、小型、低コスト化を更に促進することができる。
また、上記音響電気変換器の共振周波数を機器の異常音の特徴的な周波数に合わせた上で、異常を示す周波数信号強度のパターンを解析する機器診断装置に適用することにより、故障の前兆又は故障状態を示す異常を的確に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る実施例の超音波受信器の構成を示す回路図である。
図2】実施例の超音波受信器における受信感度の周波数特性を示す波形図である。
図3】実施例の音響電気変換器の概略構成を示す平面図である。
図4図3の音響電気変換器のA−A断面図である。
図5】実施例の超音波受信器を機器診断装置に適用したときの構成を示す回路図である。
図6】従来の診断装置の構成を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、実施例の超音波受信器の回路が示されており、この実施例では、図1に示されるように、音響電気変換部(音響電気変換器アレイ)10と増幅部12が備えられ、上記音響電気変換部10は異なる共振周波数f,f,…,fを有するn個の音響電気変換器10−I,10−II…10−nを設けてなる。これら音響電気変換器10−I〜10−nは、それぞれの共振周波数で鋭い感度ピークを有する。一般的に音響電気変換器10−I〜10−nの出力インピーダンスは高く、信号強度は小さい。取扱いやすい電気信号とするため、上記増幅部12では、音響電気変換器10−I〜10−nのそれぞれに対してインピーダンス変換を兼ねた整流増幅器12−I〜12−nが接続される。
【0014】
図2には、音響電気変換部10における各共振周波数の一例が示されており、例えば4個の音響電気変換器10−1〜10−4にて、f=20kHz、f=30kHz、f=40kHz、f=50kHzの4つの共振周波数を選択した場合、図2に示されるような周波数−感度特性となる。これは、各音響電気変換回路の共振器としてのQ値を30として試算したものである。平坦な周波数特性を有する広帯域の音響電気変換回路に比べて、共振周波数においては音響電気変換係数である感度を約Q値倍(上記の場合は30倍で30dBに相当する)増大させることができる。
【0015】
また、上記増幅部12の帯域も音響電気変換部10(各共振器)の帯域程度の狭帯域でよく、そのため雑音を抑制することができるため、高い信号雑音比を持つ。これにより、総合的に各共振周波数(各音響電気変換器)においては、極めて高い感度と信号雑音比を併せ持つ超音波受信器を実現することができる。また、実施例では、増幅部12(12−1〜12−n)の出力を平滑化(ピーク検出)或いは自乗検波することにより、音響電気変換器10−1〜10−nの各共振周波数における超音波の信号強度を簡単に求めることができ、従来例のような高速のA/D変換器も周波数成分計算手段(FFT)も不要であり、回路の大幅な簡略化が実現可能となる。
【0016】
ところで、実施例では、測定したい周波数毎に音響電気変換器10−1〜10−nを用意するが、複数の圧電型の音響電気変換器を同一シリコン基板上でアレイ状に製作することにより、小型で低コストとなる特徴を保つことができる。
一般に、圧電型の音響電気変換器としては、圧電体の一端が支持固定された片持ち梁型、両端が支持固定された両持ち梁型、或いは周縁部全体が支持固定された円形のダイヤフラム型等が知られており、それらのいずれを用いてもよい。
【0017】
図3に、実施例の音響電気変換器の具体的構成の一例が示されており、これは、片持ち梁構造を持つ4つの音響電気変換器10−1〜10−4をシリコン基板上にアレイ状(音響電気変換器アレイ10A)で作製したものであり、図4には、1つの音響電気変換器10−1の断面を示している。
図3に示されるように、各音響電気変換器10−1〜10−4は、長方形の平面形状の圧電膜16b(及び16a)を有する振動板を片持ち梁構造として1対(2箇所)形成したものであり、この振動板は配線13によって接続されている。また、これら音響電気変換器10−1〜10−4の各共振周波数は、上述のように、f=20kHz、f=30kHz、f=40kHz、f=50kHzとして説明する。
【0018】
図4において、符号の14はシリコン基板、15は絶縁膜、16a,16bは圧電膜(圧電体)、17a〜17cは電極膜、18a,18bは電極、20は空孔である。即ち、音響電気変換器10−1〜10−4は、シリコン基板14の上にシリコン酸化膜等の絶縁膜15を挟んで電極膜17a〜17cと圧電膜16a,16bを積層し、裏面からシリコン基板14をエッチングして空孔20を形成することで作製され、圧電膜16a,16b及び電極膜17a〜17cからなる振動板の一端を支持固定端として片持ち梁構造にし、隙間gを空けた状態で振動板を向かい合わせたものである。この振動板は、図3の平面図に示されるように、支持固定端以外の3辺の隙間g(振動板間の隙間gと振動板−基板間の隙間g)によりシリコン基板14から開放された状態となっている。なお、図4は、概念図を示したものであり、厚さ方向の縮尺と横方向の縮尺は異なっている。
【0019】
上記圧電膜16a,16bの代表的な材料としては、窒化アルミニウム(AlN)、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1−xScN)、酸化亜鉛(ZnO)やチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等があるが、例示したもの以外の圧電材料であってもよい。2層の圧電膜16a、16bの圧電特性を示す結晶配向方位は同じ向きである。例えば、下方のシリコン基板14の空孔20から音響圧力(説明のため準直流的圧力を考える)が加わったときには、圧電膜16a,16bを含む振動板(片持ち梁)は上方に変位する。その結果、下層の圧電膜16bには引張応力、上層の圧電膜16aには圧縮応力が発生する。配向特性が同一であるため、発生する電位の方向は逆向きであり、中間の電極膜17bを基準とすると、下部電極膜17aと上部電極膜17cには同一符号の電圧がそれぞれ発生し、これらの電極膜17a〜17cを配線13及び電極18a,18bにて同一振動板(梁)内を並列、向かい合った振動板間を直列に接続することにより、左右の電極18aと18b間に、音響圧力信号を電気信号に変換した電圧として取り出すことができる。なお、各電極(17a〜17c,18a,18b)の材料としては、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)やルテニウム(Ru)、配線材料としてはアルミニウム(Al)、金(Au)や銅(Cu)等を使用する。
【0020】
上記圧電膜16a,16b及び電極膜17a〜17cからなる片持ちの振動板は、支持固定端から対向する部分の隙間gまでの距離(振動板の横方向の長さd〜d)と、圧電膜16a,16b及び電極膜17a〜17cの積層構造の膜厚と、それらのヤング率や密度等の材料物性定数によって決まる固有振動数を有し、固有振動数の音響信号で励振したときに大きな振幅で振動する。
複数の音響電気変換器(10−I〜10−n)を同一基板上に作製することとし、膜の材料と膜厚を固定した場合、共振周波数は振動板(梁)の長さで調整することができる。
【0021】
例えば、図4の2層の圧電膜16a,16bをそれぞれ0.5μm厚の窒化アルミニウムとし、電極膜17a〜17cの膜厚は圧電膜厚に対して十分薄い場合、図4の音響電気変換器10−Iにて20kHzの共振周波数を得るには、振動板の長さdを270μmとすればよい。音響電気変換器10−IIの共振周波数30kHzに対してはd=220μm、音響電気変換器10−III の共振周波数40kHzではd=190μm、音響電気変換器10−IVの共振周波数50kHzに対してはd=170μmとなる。なお、図3の各音響電気変換器10−I〜10−IVでの振動板の長さd〜d以外の各構成は同一である。
【0022】
また、実施例の音響電気変換器10−I〜10−IVのそれぞれは十分小さく、4個を集積化しても、0.5mm×1.5mmのチップサイズに収めることができる。また、振動板の長さ以外は同一であるため、工程数の増加も伴わない。従って、複数の圧電型の音響電気変換器を同一シリコン基板上でアレイ状に製造することにより、小型で低コストとなる超音波受信器を得ることができる。
【0023】
図5に、実施例の超音波受信器を機器診断装置に適用した場合の構成が示されており、この場合は、図1で説明した音響電気変換部10に接続された増幅部12の後段に、異常を示す周波数の超音波信号強度のパターンを解析(又は認識)するパターン解析及び異常検出部22を接続する。
【0024】
このような構成によれば、音響電気変換部10の各音響電気変換器10−1〜10−nで得られたそれぞれの出力が、増幅部12の増幅器12−1〜12−nで増幅され、この増幅器12−1〜12−nの出力信号がパターン解析される。即ち、音響電気変換器10−1〜10−nで抽出する周波数を、予め評価決定した機器の異常音の特徴的な周波数に合わせておき、音響電気変換器10−1〜10−nの出力を増幅した超音波信号について異常音の周波数の強度パターンと比較・解析することにより、機器の故障の前兆となる(或いは故障状態である)異常を検出する。なお、超音波以外の温度や振動等のセンサと併せて総合的に判断することにより、故障の前兆となる異常の検出精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0025】
1,10−1〜10−n…電気音響変換器、
2,12−1〜12−n…増幅器、
3…A/D変換器、 4…周波数成分計算部(FFT)、
10…電気音響変換部、 10A…電気音響変換器アレイ、
12…増幅部、 13…配線、
14…シリコン基板、 16a、16b…圧電膜、
17a〜17c…電極膜、 18a,18b…電極、
20…空孔、 22…パターン解析及び異常検出部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6