【実施例】
【0018】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0019】
1.結果
1−1.mGluR3の平均拡散係数・リガンド親和性・Gタンパク質活性化能の連関
本実施例ではまず、代謝型グルタミン酸受容体(mGluR3)をモデルとして、生細胞膜上のGPCRの拡散係数と活性の連関を検証した。mGluRはClass C GPCRの一員であり、N末端に大きな細胞外リガンド結合領域(ECD)を持ち、常に2量体を形成して機能する(
図1a)。C末端にHaloTagを融合したmGluR3をHEK293細胞に発現させ、全反射蛍光顕微鏡を用いて生細胞膜上での蛍光標識mGluR3分子の輝点の運動を計測した(
図1b)。本実験条件下では、約95%のHaloTag融合mGluR3がtetramethylrhodamine(TMR)標識されていると推定された(
図2)。なお、mGluR3に対するHaloTag融合が二量体化・リガンド結合能・Gタンパク質活性化能に影響を与えないことは生化学的に確認済であった(
図3)。
【0020】
様々なリガンド条件下で20細胞ずつ同様の1分子イメージングを行い、各受容体分子の輝点を追跡した。さらに、各受容体分子の軌跡から「平均二乗変位-時間間隔プロット(MSD-Δtプロット)」を作成し、リガンド濃度依存的な受容体の拡散範囲の平均値の変化を解析した(
図1c−e)。その結果、インバースアゴニストLY341495濃度依存的にmGluR3のMSDが上昇したのに対し(
図1c)、アゴニストLY379268濃度依存的にMSDの低下が認められた。さらに、ネガティヴアロステリックリガンドMNI137
4存在下ではLY379268依存的なMSDの低下が抑制された(
図1e)。
【0021】
上記のMSD-Δt plotからmGluR3分子の拡散係数の平均値D
Avを計算し、各リガンド濃度に対してプロットした(
図4a, b)。他のリガンドがない時、D
AvはLY341495濃度依存的に上昇し、LY379268濃度依存的に低下した(
図4a)。また、100 nM LY341495存在下においては、LY379268濃度依存的なD
Avの低下はより著明に認められた。一方で、さらに1 μM MNIを添加した条件下ではLY379268濃度依存的なD
Avの低下は抑制され、有意な変化は認められなかった(
図4b)。続いて、D
Avの変化の濃度依存性とリガンド親和性の関係を検証するために、mGluR3を発現したHEK293膜画分を用いて同様のリガンド条件下で[
3H]-LY341495結合実験を行った。LY341495依存的なD
Avの変化のEC
50 (28.2 ± 0.9 nM in
図4a, mean ± SEM, n = 20 cells)は[
3H]-LY341495の結合親和性 (47.4 ± 1.7 nM in
図4c, n = 3)と近い値を示した。また、LY379268依存的なD
Avの変化のIC
50は100 nM LY341495の有無にかかわらず同程度の値を示したが(1.19 ± 0.02 and 1.03 ± 0.08 μM in
図4a and
図4b, respectively, n = 20 cells)、これらの値はLY379268と100 nM [
3H]-LY341495の競合結合実験から推定されるLY379258のmGluR3への親和性(0.55 ± 0.08 μM in
図4c, n = 3)と2倍も違わない値であった。従って、mGluR3のD
Avのリガンド濃度依存性はリガンド結合親和性によく対応していた。また、1 μM MNI137はLY379268の結合親和性に影響を及ぼさなかった(
図4d)。
【0022】
続いて、mGluR3を発現したHEK293膜画分と精製したG
oタンパク質を用いて [
35S]-GTPγS結合実験を行い、mGluR3のGタンパク質活性化能のリガンド濃度依存性を解析した(
図4e, f)。その結果、mGluR3はリガンドがない条件下でも非常に高いGタンパク質活性化能を示し、この構成的活性はLY341495濃度依存的に抑制されることがわかった(
図4e)。この結果は、mGluR3のECDに塩化物イオンが結合することが高い構成的活性の要因となっているという過去の知見と一致した
5,6。従って、
図4aで見られたリガンド依存的なD
Avの変化は、生細胞膜上におけるmGluR3分子の不活性状態と活性状態の割合のリガンド依存的な変化を反映したものであると考えられた。さらに、1 μM MNI137はLY379268依存的なGタンパク質活性化能上昇を抑制することが確認されており(
図4f)、これは1 μM MNI137添加によるD
Avの変化抑制(
図4b)とよく対応した。
【0023】
一方、LY341495依存的なmGluR3のGタンパク質活性化能の抑制のIC
50 (2.11 ± 0.18 nM in
図4e, n = 3)は、上記のD
Avの変化の濃度依存性やリガンド親和性と比べて1桁低い値を示した。また、他のリガンドがない条件下では、LY379268依存的なmGluR3のGタンパク質活性化能の上昇のEC
50 (0.025 ± 0.0029 μM in
図4e, n = 3)は、上記のD
Avの変化の濃度依存性やリガンド親和性と比べて2桁低い値を示した。一般に、受容体の下流の変化を計測する従来の手法のリガンド濃度依存性(EC
50/IC
50)はリガンド親和性と比べて低い値を示す場合が多い
7。これはシグナル伝達の各過程で増幅が生じるため、ごくわずかの受容体にリガンドが結合しただけで、細胞応答が飽和してしまうことに由来する。従って、従来の手法では細胞応答からリガンドの占有率を推定することは困難であった。一方、1分子動態解析では受容体分子自体の拡散係数の変化を定量するため増幅がなく、不活性状態・活性状態の割合の変化を捉えることができるため、そのEC
50/IC
50はリガンド親和性と近い値を示したと考えられた。
【0024】
1−2.リガンド依存的なmGluR3の拡散状態分布の変化
1分子計測の大きな利点は、上述の拡散係数の平均値の比較だけではなく、個々の受容体分子の運動や輝度を定量し、その分布を比較できるところにある。そこで、本発明者は変分ベイズ法-隠れマルコフモデル(VB-HMM)に基づき、mGluR3分子の各軌跡の拡散状態のクラスタリング解析を行った
8,9。その結果、生細胞膜中のmGluR3分子の運動は異なる4つの拡散状態(immobile, slow, medium, fast)に分類されることが示唆された(
図5及び6)。さらに、各拡散状態において輝度分布ヒストグラムを作成、混合ガウス関数で外挿することで見かけ上の多量体サイズを推定した。TMR1分子あたりの蛍光強度は、単量体で存在することが知られる膜タンパク質CD86
10を同様にHEK293細胞に発現させ、TMR標識した細胞の計測結果から推定した(
図6g)。その結果、mGluR3の輝度分布ヒストグラムの最大値を与える輝度は、CD86の約2倍と見積もられ、mGluRの多くは二量体で存在することが確認された(
図6h)。さらに、mGluR3のimmobile状態の輝度分布ヒストグラムは他の拡散状態と比べて右にシフトしており、高次多量体が拡散係数の減少と連関して生じることが推測された(
図6h)。
【0025】
リガンド依存的な拡散状態の割合の変化を解析したところ、LY341495濃度依存的にfast状態の割合が増加し、immobile・slow状態の割合が減少することが示された(
図5c)。一方で、LY379268濃度依存的には、immobile・slow状態の増加とfast状態の減少が有意に認められた。各拡散状態間の遷移の時定数をVB-HMM解析の遷移行列から推定したところ、より遅い拡散状態からより速い拡散状態への遷移においてリガンド依存的な変化が認められた(
図5e,
図7)。これは活性化したmGluR3が何らかの膜ドメインに捕捉されることにより、より遅い拡散状態に留まりやすくなっている可能性を示唆する結果であった。また、各拡散状態において平均拡散係数のリガンド濃度依存性を解析したところ、medium・slow状態において活性化依存的な平均拡散係数の低下が認められた(
図5e,
図8)。以上を総合すると、
図4a, bに示したリガンド依存的なD
Avの変化は、fast状態とslow・immobile状態の割合の逆方向の変化とmedium・slow状態の平均拡散係数の変化に由来していると考えられた。
【0026】
1−3.mGluR3の拡散動態への百日咳毒素の影響
Gタンパク質と相互作用しているmGluR3の拡散状態が上記の4状態のいずれと連関するのかを検証するために、百日咳毒素(PTX)を用いたG
i/oタンパク質阻害実験を行った(
図9a)。PTX処理によりG
i/oタンパク質を阻害した時、100 nM LY341495または100 μM LY379268存在下のいずれにおいてもmGluR3の拡散範囲の平均値は有意に低下した(
図9b, c)。また、VB-HMM解析の結果、この平均値の変化はfast状態の減少とimmobile状態の増加に起因することが推定された(
図9f, g)。このPTX処理の影響がG
i/oタンパク質とmGluR3の相互作用の阻害に起因することを確認するため、ネガティヴコントロールとしてPTXのBオリゴマーの影響を解析した。PTXはAプロトマー(S1サブユニット)とBオリゴマー(S2-S5サブユニット)から構成される(
図9a)。Bオリゴマーは細胞膜上のガングリオシドの糖鎖に結合してAプロトマーを細胞内に取り込ませる役割を担うが、Bオリゴマー自体もGタンパク質非依存的なシグナル伝達経路を活性化することが知られている
11。一方、細胞内に取り込まれたAプロトマーはG
i/o αサブユニットをADPリボシル化して、受容体とG
i/oタンパク質の結合を阻害する
11。上記のPTX処理で認められたmGluR3の拡散範囲・拡散状態の割合の変化はBオリゴマーのみの処理では生じなかった(
図9d−g)。従って、AプロトマーによるG
i/oのADPリボシル化がmGluR3の拡散を遅くする要因であることが推定された。以上の結果は、G
i/oと相互作用しているmGluR3分子はfast状態に多く存在し、PTX処理によってその画分が減少することで上記の拡散範囲の低下が生じていることを示唆するものであった。PTX依存的なmGluR3の拡散変化がアゴニスト存在下だけではなく、インバースアゴニスト存在下でも検出されたため、不活性状態においてもmGluR3はG
i/oと相互作用していると推測された。不活性状態のGPCRとGタンパク質のプレカップリングは過去にもいくつかの受容体で報告されており、リガンド刺激後の素早い細胞応答に重要な役割を果たすと考えられている
12-14。mGluR3の活性化は、不活性状態においてプレカップルしているG
i/oの乖離を促進するが、これはG
i/oと結合するmGluR3の割合が減少するという点で、PTX処理によるmGluR3とG
i/oの結合阻害の影響と類似している(
図9a)。従って、活性化依存的なmGluR3のD
Av低下の要因のひとつにG
i/oと相互作用しているmGluR3の割合が減少するとのことが推定された。
【0027】
1−4.2色同時1分子イメージングによるクラスリンとmGluR3の相互作用解析
つづいて、mGluR3が活性化した際に増えるimmobile状態がどのような生理機能と対応しているのかを検証した。mGluR3を長時間1分子計測したところ、拡散が遅い明るい輝点が形成された後、速い方向性のある運動を伴って一度に消える様子が観察された。これはmGluR3がクラスターを形成後、エンドサイトーシスにより細胞内へと輸送される際に全反射照明の範囲からはずれたため輝点が見えなくなったことに由来するのではないかと推測された。GPCRの一般的なエンドサイトーシスの機構として、クラスリン被覆小胞(CCV)依存的な経路が知られているため(
図10a)、クラスリン軽鎖(CLC)をGFPで、mGluR3をTMRでそれぞれ標識し、2色同時1分子イメージングにより共局在を観察した。その結果、mGluR3がCLCと共局在した後、TMRの蛍光強度が急速に上昇し、数秒間共局在した後にTMRとGFPの蛍光強度が同時に大きく減少する様子が確認された(
図10b, c)。これはmGluR3のクラスターがクラスリン被覆ピット(CCP)に集積した後、CCVとなってエンドサイトーシス様子を捉えていると考えられた。同様のエンドサイトーシスは同じ領域で繰り返し起こることが観察されており、CCPが生じやすい特定の膜ドメインが存在する可能性が示唆された。
【0028】
次に、本発明者はCLCと共局在しているmGluR3分子(mGluR3/CLC)の拡散状態の割合を解析し、全mGluR3分子(mGluR3/total)の拡散状態の割合と比較した(
図10d)。その結果、mGluR3/CLCはmGluR3/totalと比べて有意にimmobile状態の割合が高いことが示された。従って、クラスリン結合に伴いmGluR3分子の拡散は遅くなることが分かった。また、不活性状態(100 nM LY341495刺激時)と活性状態(100 μM LY379268刺激時)の比較を行ったところ、活性状態では不活性状態に比べてmGluR3/CLCのimmobile状態の割合が上昇することが分かった(
図10d)。さらに、mGluR3とCLCの共局在確率と共局在時定数が活性化に伴い有意に上昇することが明らかになった(
図10e−g)。mGluR3とCLCの共局在時間の累積度数分布をdouble exponential関数で外挿し、ShortとLongの2つの時定数とその割合を推定した(
図10f, g)。Shortの時定数は活性化依存的な変化が認められたかったため、mGluR3がCLCの近傍に偶然に位置した画分を含んでいると推測された。一方、Longの時定数は活性化に伴い約2倍上昇した(
図10g)。活性化依存的にShortとLongの比率は変化しなかったため(
図10g, inset)、
図10eに示した約1.6倍の共局在確率の上昇は主に共局在時間の上昇に由来すると考えられた。以上の結果を総合すると、活性化に伴うmGluR3のimmobile状態の増加は、クラスリンと相互作用するmGluR3分子が増えたことが一因となっていると明らかになった。
【0029】
1−5.他のGPCRにおけるアゴニスト依存的な拡散動態変化の一般性
GPCRの活性化と拡散動態変化の関係の一般性を検証するために、他のファミリーに属する8種のGPCRについてもC末端側を蛍光標識して1分子イメージングを行った。各GPCRのアゴニスト存在・非存在下で20細胞ずつ1分子イメージングを行い、各受容体分子の輝点を追跡、MSD-Δt plotを比較した(
図11)。さらに、MSD-Δt plotからD
Avを計算し、下記の表1に一覧を作成した。その結果、検証した全てのGPCRでアゴニスト依存的な拡散係数の低下が有意に認められた(
図11, 表1)。従って、1分子拡散動態に基づくGPCRの活性推定は、受容体の分子系統的位置やリガンドの化学的性質、共役するGタンパク質のサブタイプ特異性によらず一般に適用可能であると考えられた。リガンド非存在下において、mGluR3のD
Av (0.047μm
2/s)は他のGPCRのD
Av (0.06-0.09 μm
2/s)と比べて低く、後者の値は1 μM LY341495存在下におけるmGluR3のD
Av (0.064μm
2/s)に近かった。従って、リガンド非存在下でのmGluR3の拡散が遅い主な理由は、
図4eに示した高い構成的活性にあると考えられた。アゴニスト存在下では、GPCRのD
Avは0.04-0.07μm
2/sの範囲であった。各GPCRのD
Avのアゴニスト依存的な低下率は13〜44%であるが、Welch’s t-test (n = 20 cells, two-tailed)により8.7 × 10
-11 < p < 9.1 × 10
-3 のp値で検出可能であり、同手法を用いることで様々なGPCRに対する薬剤の効果を高精度に検出できると期待された。(従って、リガンド条件間で20細胞ずつ計測した場合、13%程度の違いがあれば、Welch’s t-test (two-tailed) に基づきp<0.01の有意水準で変化を検出可能であると考えられた。) D
Avの絶対値はGPCRの種類によって様々であるが、mGluR3のD
Avは不活性・活性状態共に他のGPCRと比べて低いため、二量体化もGPCRの拡散を遅くする一要因になっているかもしれない。
【0030】
【表1】
【0031】
2.考察
本実施例では、GPCRの生細胞膜上における1分子拡散動態を定量することで薬効を評価する新規手法を開発した。先ず、本発明者はClass C GPCRのmGluR3をモデルとして、1分子イメージング解析に基づく薬効評価のコンセプトを実証した。その結果、mGluR3の構成的活性・アゴニスト依存的活性化・インバースアゴニスト依存的不活性化・ネガティヴアロステリックリガンド依存的な活性化抑制の全てについてD
Avを指標として定量できることが明らかになった(
図4)。これらのD
Avのリガンド依存的変化はmGluR3の4つの拡散状態の割合及び各状態における拡散係数の変化に起因することがVB-HMM解析から示唆された(
図5e)。PTX処理によるGタンパク質阻害実験から、fast状態にmGluR3とGタンパク質が結合した状態が含まれること示唆された(
図9)。さらに、クラスリンとmGluR3の共局在解析から、immobile状態にmGluR3とクラスリンと結合した状態が多く含まれることが示された(
図10)。以上の結果は、活性化依存的なGタンパク質とのプレカップリングの解消やクラスリンとの結合といったmGluR3の機能状態の変化が、拡散状態の変化と連関して生じることを示唆するものであった。膜タンパク質の拡散範囲を規定する要因として、アクチンに裏打ちされた膜骨格の存在が過去の1分子イメージング解析から示されている
15。過去にM1-ムスカリン受容体
16、β-アドレナリン受容体
10、GABA
B受容体
10の1分子イメージング解析において、MSD-Δt plotはいずれも平均としては直線的であり、自由拡散を支持している。一方、本実施例では、mGluR3の軌跡のMSD-Δt plotは上に凸の形状を示し、受容体分子の拡散が部分的には膜骨格によって制限を受けていることを示唆する結果であった(
図1c−e)。さらにVB-HMM解析の結果、immobile・slow状態においてはMSD-Δt plotは明確に上に凸の形状をしており、一部のmGluR3分子はCCPをはじめとする膜ドメインに拡散が制限されていることが明らかになった。
【0032】
上述の通り、PTX処理の実験によりmGluR3のfast状態がGタンパク質の結合と関連していることが示唆されたが、本結果は実験前に予期していた結果と異なるものであった。もし、mGluR3が活性状態の時にだけGタンパク質と結合する場合、PTX処理の影響はインバースアゴニスト存在下では認められず、アゴニスト存在下でのみ変化が生じると考えていたからである。しかしながら、実際にはむしろインバースアゴニスト存在下において、PTX処理に伴うmGluR3のfast状態の減少がより顕著に観察された(
図9)。この結果は、不活性状態のmGluR3がGタンパク質とプレカップルしていることを示唆しており、1分子拡散動態からも過去の知見が裏付けられたと言える。GPCRとGタンパク質のプレカップルはアドレナリン受容体やムスカリン性アセチルコリン受容体といったClass Aの受容体で過去に報告されている。リガンド非存在下でGPCRとGタンパク質の結合を仮定すれば、アゴニストに対して高親和性を持つ受容体の存在を説明できるとしてternary complex model
17が20年以上前に提案されて以来、モデルは拡張を重ねられ、現在では幅広いGPCRで受け入れられている。しかしながら、GPCRの構成的活性化に伴うGタンパク質との相互作用と不活性状態でのプレカップルを明確に区別することは生化学的手法では困難であった。その後、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用したGPCRとGタンパク質の結合の細胞生物学的な解析が行われ、インバースアゴニストが飽和濃度存在する不活性な条件下でも、両者の結合が有意に生じることが示されプレカップルが確認された
12,13。本実施例の結果は、プレカップル状態の方がむしろ活性状態におけるternary complexよりも安定であることを示唆した過去のモデルと一致していた。なぜGタンパク質との結合がmGluR3の拡散を速めるのかは現時点では不明である。過去に、アストロサイトにおいてはmGluR5のC末端部位における細胞質側のタンパク質との相互作用が、細胞体と樹状突起を隔てる拡散障壁を乗り越えるのに重要な役割を担っていることが示されている。GPCRとGタンパク質のプレカップルにおいても受容体のC末端部位が重要な役割を担うことが示されており
14、上記のmGluR5の例と似た理由で膜ドメインを裏打ちする拡散障壁を乗り越える確率を高めていることが推測された。
【0033】
また、CCPに対するGPCRの集積は、GPCRのファミリーを超えて共通に認められるエンドサイトーシスの過程である。2色同時1分子イメージングによるクラスリンとmGluR3の共局在解析では、mGluR3のimmobile状態がクラスリンの結合に応じて上昇することが示された。GPCRが不活性化される過程で、受容体のC末端部位はGRKによってリン酸化を受け、リン酸化部位へのアレスチンの結合が生じる
18。さらに、GPCR-アレスチン複合体はアレスチンとクラスリン・AP2との相互作用によってCCPへと集積される
18。過去に、アドレナリン受容体やオピオイド受容体といったClass AのGPCRで全反射蛍光顕微鏡を用いたクラスリン依存的なエンドサイトーシスの解析が報告されている。これらの報告では、受容体・クラスリンが高発現した細胞を用いているため受容体1分子の輝点を分解できていない点で本実施例とは異なるが、レーザー出力を下げた計測が可能なため、より長い時間領域が観察されている。CCP1粒子の形成からエンドサイトーシスされるまでの時定数の解析から、CCPに取り込まれるGPCRがCCPの細胞膜滞在時間を制御していることが明らかにされた
19,20。これらの知見は、アゴニスト刺激によってmGluR3とCLCの共局在時定数が長くなるという本実施例の結果と一致していた(
図10f, g)。1分子イメージングの動画からは既存のCCPにおいてmGluR3がクラスターを形成する様子が観察されている。mGluRの膜貫通領域間の直接的な相互作用がこのクラスター形成の原動力のひとつとなっている可能性が推測された。過去の生化学的な解析から、mGluR2が活性化すると二量体・多量体のインターフェースが変化し、高次多量体が増えることが示されている。GPCRを既存のCCPに集めてからエンドサイトーシスするのは、活性化した個々の受容体の周辺にCCPを作って逐次エンドサイトーシスさせるのに比べて細胞にとってエネルギーコストが低く、望ましいと考えられる。
【0034】
GPCRはファミリーを超えたアミノ酸配列の相同性はほとんど持たないにも関わらず、全てのGPCRは3つの細胞質ループ領域とC末端領域を持つ7回膜貫通領域という構造モチーフを共有し、共通のGタンパク質・GRK・アレスチンと相互作用する。本実施例で見出された受容体の拡散に影響を与える生理的現象はClass C GPCRに特異的に生じるものではない。もし、任意のGPCRに対する薬効をGPCRが共有する拡散動態の変化から推定できれば、下流が異なるGPCRやオーファン受容体に対しても共通の指標で薬効評価が可能になる。そこで、本実施例ではさらに、様々なファミリーのGPCRに対して同様の計測を行い、アゴニスト依存的な拡散動態変化の一般性を検証した。その結果、GPCRの下流のシグナル伝達経路に関わらず解析した8種GPCRに共通して活性化依存的な拡散係数の低下が確認された(表1,
図11)。全反射蛍光顕微鏡を用いてGPCRの1分子拡散動態を計測・定量することは細胞膜に局在しさえすれば任意の受容体で可能であるため、本実施例で開発した手法は、約100種のオーファン受容体を含む他の多くのGPCRにとっても薬効評価に利用可能であると考えられた。
【0035】
3.方法
3−1.試薬
[
3H]-LY341495 (1.28 TBq/mmol), LY341495, LY379268, NMI137, NECA, serotoninはTocris Cooksonから購入した。IsoproterenolはSanta Cruz Biotechnologyから購入した。DHAはSigma-Aldrichから購入した。CXCL12はThermo Fisher Scientificから購入した。TRAP-6はBachemから購入した。GlucagonはCedarlaneから購入した。[
35S]-GTPγS (37 TBq /mmol)はPerkinElmer Life Sciencesから購入した。Histamine, PTX, B oligomerはWako Chemicalsから購入した。Human CD86 cDNAはOriGeneから購入した。
【0036】
3−2.cDNA作製
HaloTag7 (Promega)をコードするDNA配列をPCRで増幅し、マウスmGluR3のC末端配列にIn-Fusion HD Cloning Kit (Clontech)を用いて融合した。ウェスタンブロッティング法でHaloTag融合mGluR3の発現量を定量するために、ウシロドプシンのC末端を認識するモノクローナル抗体Rho 1D4のエピトープ配列をHaloTag配列の直後に付加した。mGluR3のcDNAsはpCAG-GS vector
21に挿入した。他のGPCRs (ADRB2, HTR2A, HRH1, ADORA2A, FFAR4, CXCR4, F2R, GCGR)のcDNAはPromegaから購入した。各GPCRをコードするDNA配列はpFC14K HaloTag CMV Flexi Vectorに挿入した。CD86 (M1-R277)をコードするDNA配列はPCRで増幅し、pEGFP-N1 mammalian expression vector (Clontech)に挿入した。また、同ベクターのEGFPのDNA配列をHaloTag7に置換したものを作成した。GFP融合CLCのcDNAは過去に報告したものを用いた
22。
【0037】
3−3.1分子イメージング
HEK293細胞は37 ℃, 5% CO
2環境下で15 mM HEPES (pH 7.3), 29 mM NaHCO
3, 10% FBSを添加したDMEM/F12 (Gibco)培地中で培養した。観察の前日に、カバーガラス(Matsunami)を載せた60 mm dish (IWAKI)上のHEK293細胞にHaloTag融合mGluR3のプラスミドDNA(pDNA)をLipofectamine 3000 (Invitrogen)を用いてトランスフェクションした。トランスフェクション試薬とpDNA(pDNA (0.1 μg), P3000 reagent (0.2 μL), Lipofectamine 3000 reagent (2.5 μL), Opti-MEM (120 μL, Gibco))を混合した後、15分間室温で静置し、DMEM/F12 (3 mL)を入れた60 mm dish上のHEK293細胞に添加した。2色同時1分子計測の際は、GFP融合CLCのpDNA 0.02 μgをHaloTag融合mGluR3と同時にトランスフェクションした。37 ℃, 5% CO
2環境下で3時間培養後、培地をフェノールレッド不含、10% FBS含有のDMEM (3 mL, Sigma)に置換した。一晩培養後、培地を300 nM HaloTag TMR ligand (Promega)を含み、フェノールレッド・FBS不含のDMEM培地3mlと置換し、37 ℃, 5% CO
2環境下で30分静置することでHEK293細胞にしたHaloTag融合mGluR3を特異的に染色した。他のGPCRの染色には、TMR ligandの代わりに30 nM STELLA Fluo 650 HaloTag ligand (Goryo Chemical)を用いた。STELLA Fluor 650は輝度・安定性がより高い膜透過性の色素であり、1分子イメージングの画質が向上した。阻害剤実験を行う際は、終濃度5 nM PTX, 5 nM B oligomer又はvehicleをDMEM培地に添加し、6時間37 ℃, 5% CO
2環境下で培養後、顕微鏡観察を行った。1分子イメージングの際は、カバーガラスを金属のチャンバー(Invitrogen)に入れ、Hanks’ balanced salt solution (HBSS (Sigma); 15 mM HPEPS (pH 7.1)含有, NaHCO
3不含) 400 μLで5回繰り返し洗浄し、室温(25℃)で観察した。倒立蛍光顕微鏡(TE2000, Nikon)上で全反射照明を用いてHEK293細胞の細胞膜上のTMR標識したmGluR3を励起し、1分子イメージングを行った。TMRの励起光源として559 nm, 100 mW laser (WS-0559-050, NTT Electronic)を、GFPの励起光源として488 nm, 200 mW laser (Sapphire 488-200, Coherent)を、STELLA Fluo 650の励起光源として637 nm, 140 mW laser (OBIS 637, Coherent)を用いた。また、対物レンズはPlanApo 60×, NA 1.49 (Nikon)を用い、TMR/GFPの観察にはダイクロイックミラーFF493/574 (Semrock)を、STELLA Fluo 650の観察にはET Cy5 filter set (Chroma)をそれぞれ用いた。TMRとGFPの蛍光は2光路分岐システム(M202J, Nikon)においてダイクロイックミラー59004b (Chroma)よって波長依存的に分離し、バンドパスフィルター(GFP: ET525/50m, TMR: ET605/70m, Chroma)を通した後、2つのEM-CCDカメラ(ImagEM, Hamamatsu)によって同時に撮影した。4倍のリレーレンズを2光路分岐システムに入れることで画像を拡大し、ピクセルサイズが67 nm/pixel (512×512 pixels)になるよう調整した。蛍光画像はイメージングソフトImagEM HRD (Hamamatsu)により、パラメータ設定(露光時間: 30.5 ms, EMゲイン: 200, スポットノイズリデュース: on)で撮影した。TMR標識したmGluR3とGFP標識したCLCの1分子計測における位置精度を評価するために細胞を固定して計測する際は、過去に報告される方法を用いた
23。カバーガラス上のHEK293細胞に4% PFA/0.2% glutaraldehyde/PBSを添加し、30分室温で処理した後、5回 HBSSで繰り返し洗浄し、顕微鏡観察を行った。
【0038】
3−4.1分子イメージング画像の解析
上記の1分子イメージングにより撮影した画像はmultiple TIFF files (16 bit)で保存され、ImageJを用いて以下の通り画像処理を行った。Rolling ball radiusを25 pixelsに設定してバックグラウンド除去を行った後、Running_ZProjector plugin (Vale Lab homepage, http://valelab.ucsf.edu/〜nstuurman/ijplugins/)を用いて2フレーム移動平均処理を行った。2カメラ同時撮影の画像については、GridAligner plugin (Vale Lab homepage)を用いて2チャンネル間の位置の誤差を補正した。60 nm金粒子をカバーガラス上に撒いた試料の散乱像を1分子計測と同日に撮影し、2チャンネル間の位置合わせ用の基準点として用いた。蛍光色素1分子あたりの輝度を画像間で一定に保つため、明るさとコントラストの設定を一定値(minimum: 0, maximum: 1800)に設定した後、スタック画像を非圧縮でavi (8 bit)に変換した。1分子追跡(SMT)解析は2次元ガウスフィッティング法に基づいて作成されたG-count software (G-angstrom)を用いて行った。VB-HMM解析は過去に報告されたアルゴリズム
8,9,24に従ってLabView上で作成したプログラムを用いて行った。
【0039】
SMT・VB-HMM解析の結果から各種パラメータの抽出、カーブフィッティング、図の作成はIgor Pro 6 (WaveMetrix)を用いて下記の通り行った。時間間隔nΔtにおける各軌跡のMSDは以下の式により計算した
25。
【0040】
【数1】
【0041】
ここで、nはフレーム長, Δtはフレームレート(30.5 ms), Nは軌跡の全フレーム長である。また、D
Avは2次元拡散方程式に基づき下記の式で計算した。
【0042】
【数2】
【0043】
ここで、MSD
jはj番目の軌跡のMSDを指し、Mは全軌跡数を指す。本実施例において、D
Avは刺激依存的な変化を高精度に検出可能なn = 6 (nΔt = 183 ms)の値から算出した。リガンド濃度依存的なD
Avの変化のEC
50及びIC
50は式3, 4でそれぞれフィッティングして算出した。
【0044】
【数3】
【0045】
また、MSD-Δt ploは式5でフィッティングした
26。
【0046】
【数4】
【0047】
Lは拡散制限距離、DはΔtを0に漸近させた際に算出される拡散係数である。
【0048】
Δt (30.5 ms)における変位:
【数5】
のヒストグラムは、拡散状態毎に式6でフィッティングした
27。
【0049】
【数6】
【0050】
輝度分布のヒストグラムはN個のガウス関数の和に基づく式7によりフィッティングした。
【0051】
【数7】
【0052】
ここで、nは多量体サイズ、I及びσは蛍光色素1分子の輝度分布の平均と標準偏差(SD)をそれぞれ示す。Nは赤池情報量基準を用いて決定した。TMR標識したCD86分子の計測から、TMR分子のI及びσはそれぞれ530と210と推定された。
【0053】
TMR標識したmGluR3とGFP標識したCLCの共局在は同フレームにおいて、それぞれの輝点が100 nm以内に入った軌跡として定義した。TMR標識したmGluR3とGFP標識したCLCの輝点追跡の位置精度は固定試料の計測から、それぞれ28 nm, 31 nmと推定された。これら値は、固定された分子を追跡した際の変位の1 SDに相当する。画像処理後、同一金粒子の位置の2チャンネル間の誤差は18 nmと推定された。従って、100 nmは全誤差を考慮した位置精度の約2 SDに相当する。共局在の時定数は累積度数分布(
図9f)を式8によりフィッティングして算出した。
【0054】
【数8】
【0055】
各成分の割合は、A
1とA
2の割合から算出した。
【0056】
3−5.In vitroの生化学的解析用の膜試料の調製
In vitroの生化学的解析用にmGluR3が発現した膜試料を下記の方法で調製した
28。100 mm dishに約40%コンフルエントに培養したHEK293細胞に対して、mGluR3のpDNA及びmockとして空のpCAG vectorをそれぞれ10 μg/dishでリン酸カルシウム法によりトランスフェクションした。トランスフェクション後、48時間10% FBS含有DMEM/F12培地で培養した後、細胞を回収し、遠心後の沈殿を1 mL PBS(pH 7.4)で洗浄した。さらに遠心分離後、沈殿を1.5 mLチューブに移し、50% スクロースを溶解したバッファーA (50 mM HEPES (pH 6.5), 140 mM NaCl)中においてペレットミキサーでホモゲナイズし、遠心により上清と沈殿に分離した。形質膜画分を多く含む上清を2倍量のバッファーAで希釈し、再度遠心分離した。形質膜画分を含む沈殿をバッファーAで洗浄し、-80℃に保存した。
【0057】
3−6.ウェスタンブロット法
mGluR3を含む膜画分をSDSサンプルバッファー(62.5 mM Tris-HCl (pH 6.8), 4% SDS, 10% glycerol, 0 or 2.5% β-mercaptoethanol)で可溶化し、5.5% SDS-PAGEを行った。電気泳動後のゲルからPVDF膜にタンパク質を転写し、Rho1D4抗体(1次抗体)とHRP結合抗マウスIgG(2次抗体, Cell Signaling #7076)で標識をした。抗体で標識されたタンパク質を発光試薬Amersham ECL prime Western blotting detection reagent (GE)で処理し、ImageQuant LAS 500 (GE)で発光を検出した。
【0058】
3−7.mGluR3の[
3H]-リガンド結合実験
mGluR3を含む細胞膜画分を1分子計測で用いたものと同組成のHBSS (15 mM HEPES (pH 7.1)含有, NaHCO
3 不含(Sigma))で再懸濁し、[
3H]-LY341495の膜への結合を室温で測定した。一定量の膜画分(100 mm dishにコンフルエントなHEK293細胞から調製した膜の1/32量)を終濃度0-1 μM [
3H]-LY341495になるようHBSSで希釈した溶液と混合し(混合液量: 20 μL)、30分間室温で静置した。その後、試料をドットブロット装置(FLE396AA, ADVANTEC)で[
3H]-LY341495をニトロセルロース膜(0.45 μm HATF, Millipore)に通し、膜画分と溶液を分離した。膜画分が結合したニトロセルロース膜はHBSS (200 μL)で2回繰り返し洗浄し、1時間乾燥させた。ニトロセルロース膜の各ドット部分を切り出して、液体シンチレーションカウンター用のカクテル(Ultima Gold, PerkinElmer)に入れ、[
3H]-LY341495の結合量をLS6500 (Beckman Coulter)で定量した。非特異的な[
3H]-LY341495結合量はmockトランスフェクションし、同様に調製したHEK293膜画分への結合から推定した。K
dは上記の式3のEC
50をKdに置換した式によるフィッティング結果から算出した。また、LY379268による[
3H]-LY341495結合の競合阻害も、同様の方法で計測した。膜画分を終濃度100 nM [
3H]-LY341495, 0-100 μM LY341495及び0-1 μM MNI137となるようにHBSS中で混合し、30分室温で静置、上記と同様の方法で[
3H]-LY341495の結合量を定量した。IC
50は式4に基づき算出した。
【0059】
3−8.[
35S]-GTPγS結合実験
mGluR3のGタンパク質活性化能は過去の文献に記載された方法を改変して定量した
29。mGluR3を含む膜画分(終濃度11 nM)を0.02% n-dodecyl-β-D-maltopyranoside (DM; Dojindo)を含むバッファーB (50 mM HEPES (pH 6.5), 140 mM NaCl, and 3 mM MgCl
2)で可溶化し、様々な濃度のリガンドとブタ脳から精製したGoタンパク質と混合後、20℃で30分静置した。GDP/GTPγS交換反応を[
35S]-GTPγS添加により開始させた。最終混合液(20 μL)のリガンド以外の組成は、50 mM HEPES (pH 6.5), 140 mM NaCl, 5 mM MgCl
2, 0.01% DM, 0.03% sodium cholate, 5 nM [
35S]-GTPγS, 500 nM GTPγS (cold), 500 nM GDPであった。[
35S]-GTPγS添加後30秒で反応停止液 (200 μL, 20 mM Tris/Cl (pH 7.4), 100 mM NaCl, 25 mM MgCl
2, 500 nM GTPγS (cold), and 500 nM GDP)を加えて、Gタンパク質への[
35S]-GTPγS取り込みを止め、すぐに上記のドットブロッターを用いてニトロセルロース膜に反応液全量を通過させ、Gタンパク質に結合した[
35S]-GTPγSを分離した。その後、ニトロセルロース膜をバッファーC(200 μL, 20 mM Tris/Cl (pH 7.4), 100 mM NaCl, and 25 mM MgCl
2)で3回繰り返し洗浄し、1時間乾燥させた。ニトロセルロース膜の各ドット部分を切り出して、液体シンチレーションカウンター用のカクテル(Ultima Gold, PerkinElmer)に入れ、[
35S]-GTPγSの結合量をLS6500(Beckman Coulter)で定量した。非特異的な結合量はmockトランスフェクションし、同様に調製したHEK293膜画分を用いて推定した。EC
50及びIC
50は式3,4をそれぞれ用いて算出した。
【0060】
3−9.HaloTag TMR ligandの飽和結合実験
上記のリポフェクション法によりHaloTag融合/非融合mGluR3のpDNA(1 μg/60 mm dish)を、約70%コンフルエントに増殖したHEK293細胞にそれぞれトランスフェクションした。一晩培養後、培地を0-2 μM HaloTag TMR ligandを含むDMEM(フェノールレッド・FBS不含)に置換し、37 ℃, 5% CO
2環境下で30分静置した。TMR染色後、60 mm dishを3 mL HBSSで3回繰り返し洗浄し、バッファーC (500 μL, 10 mM HEPES (pH 7.5) and 140 mM NaCl, 4 mM KOH, 1 mM MgCl
2, and 1.5 mM CaCl
2)で細胞を懸濁し、1.5 mLチューブに回収した。遠心分離後、細胞沈殿を1% TritonXを含むバッファーC 200 μLで可溶化した。再度遠心分離後、上清を回収、蛍光分光高度計(RF-5300PC, Shimadzu)を用いて可溶化された受容体に結合したTMRの濃度を定量した。試料は540 nmで励起し、O57カットオフフィルターを用いて励起光の散乱光を除去した後、蛍光スペクトルを計測した。標準試料として既知濃度のTMR ligandを用いた(
図2a, b)。非特異的な結合はHaloTag融合をしていないmGluR3を発現させた膜画分を用いて推定した(
図2c)。HaloTag融合mGluR3への特異的結合は、HaloTag融合mGluR3発現細胞への全結合量から非特異的結合を差し引いて算出した。特異的結合・非特異的結合は下記のHillの式(n: Hill係数)を用いてフィッティングした。
【0061】
【数9】
【0062】
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