【実施例】
【0044】
<基本操作>
−ハイブリダイゼーション−
あらかじめリン酸化したプローブと、標的RNAを含む試料とを混合した後、95℃で2分間インキュベーションした後、30℃まで徐々に温度を下げ、30℃で10分間インキュベーションした。混合液の最終量は10μLとした。混合液は、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate及び0.5mMのEDTAを含むバッファとした。
【0045】
−ハイブリダイゼーション産物の環状化−
10μLのハイブリダイゼーション産物に、所定濃度のATP及びDNAリガーゼを含む環状化反応液10μLを混合した。環状化反応液は、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate、20mMのMg-acetate及び20mMのDTTを含むバッファとした。環状化反応液と混合した後、37℃で1時間インキュベーションし環状化を行った。その後、65℃で10分間加熱することで酵素を失活させた。次に、Exonucleaseを用いて未反応のオリゴヌクレオチドを除去し、80℃で15分間加熱することにより酵素を失活させた。Exonucleaseは20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate及び10mMのMg-acetateを含むバッファ中で作用させた。
【0046】
−CircLigaseを用いたプローブの環状化−
指標となる環状化DNAは、以下のようにして形成した。最終量が20μLとなるように1×CircLigase reaction buffer(Epicentre社)と100pmolのプローブ、0.05mMのATP、2.5mMのMnCl
2、100UのCircLigase ssDNA ligaseを混合した。その後、60℃で1時間インキュベーションし、80℃で20分間加熱することで酵素を失活させた。
【0047】
未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、ハイブリダイゼーション産物の環状化と同様にして行った。
【0048】
−ニック形成及び増幅−
プローブを環状化した試料に、所定量のRNaseH及び鎖置換型DNA合成酵素を含む反応液を混合した。反応液は、30mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate、30mMの酢酸マグネシウム、80mMの硫酸アンモニウム、20mMのdNTP及び10mのMDTTを含むバッファとした。その後、30℃で所定時間インキュベーションし、65℃で10分間加熱することで酵素を失活させた。
【0049】
−GFP mRNAのインビトロ転写−
緑色蛍光タンパク質(GFP)mRNAのインビトロ転写は、Hiscrib T7 High Yield RNA Synthesis KitT7 Kit(New England Biolabs社)を用いて行った。1μgのpET-AcGFPをNotIで消化して得られた直鎖状の鋳型DNAを転写反応液に添加し、37℃で2時間インキュベートした。DNase処理により鋳型DNAを除去した後、転写したmRNAをNucleoSpin RNA Clean-nup XS(タカラバイオ)を用いて精製し、濃度測定はQuant-iT RNA BR Assay Kit(Invitrogen)とQubit fluorometer(Invitrogen)を用いて行った。転写したGFPmRNAは用時まで−80℃で保存した。
【0050】
<環状化条件の検討>
プローブの環状化条件を以下のようにして検討した。標的RNAには、配列表配列番号1に示される合成オリゴRNA1を用いた。RNA1の配列は以下の通りである。
RNA1:5’-rGrCrGrArUrCrArCrArUrGrArUrCrUrArCrurUrCrGrGrCrUrUrCrGrUrGrA-3’,30 mer
パドロックプローブには、配列表配列番号2に示されるプローブDNA1を用いた。DNA1の配列は以下の通りである。DNA1:5’Pho-AGATCATGTGATCGCgaattcgccagggttttcccagtcacgactTCACGAAGCCGAAGT-3’,60 mer。
なお、大文字部分がRNA1と相同性を持つ。
【0051】
まず、RNA1とDNA1とのハイブリダイゼーションを先に述べた方法により行った。ハイブリダイゼーション反応溶液中におけるRNA1の濃度は25pmolとし、DNA1の濃度は100pmolとした。
【0052】
次に、先に述べた方法により、プローブDNA1の環状化を行った。所定濃度のATP及び種々のDNAリガーゼを含む反応溶液10μLを混合した。ATP濃度は、1mM、400μM、又は10μMとした。DNAリガーゼは、200UのT4DNA ligase、又は12.5UのSplintR ligase(New England Biolabs社)とした。また、5UのT4RNA ligase2についても検討した。
【0053】
未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、10UのExonuclease I(New England Biolabs社)、50UのExonuclease III(New England Biolabs社)を用いた。環状化後にExonucleaseを含む反応液10μLを混合し、30℃で15分間インキュベーションした。その後、80°Cで15分間加熱することにより酵素を失活させた。
【0054】
環状化されたプローブの精製は、フェノールクロロホルム抽出後に、High Pure PCR Cleanup Micro Kit(ロシュ・ライフサイエンス社)を用いて行った。精製には産物30μLを使用し、20μLで溶出した。
【0055】
精製産物は変性のためにホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、10%(w/v)の変性ポリアクリルアミド電気泳動(変性PAGE、29:1[w/w]、acrylamide/bisacrylamide; 7 M urea, 1×TBE buffer)を行い、ミリQ水により1000倍希釈したUltra Power DNA/RNAセーフダイ(Gellex社)を用いて後染めを行い、ブルーライトを照射することにより産物を分析した。
【0056】
T4DNA ligaseを用いた場合、DNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブは、ATP濃度にかかわらず環状化される。しかし、
図2に示すように、今回RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブは、ATP濃度が10μMの場合のみ環状化した。また、環状化効率は、DNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブの場合と比べて低かった。SplintR ligaseを用いた場合、RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブも、ATP濃度にかかわらず環状化した。RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブの環状化効率は、T4DNA ligaseを用いた場合の効率と比べて明らかに高かった。一方、T4RNA ligase2を用いた場合は、いずれの条件においても、パドロック型プローブの環状化を確認できなかった。
【0057】
<環状化効率の検討>
次に、SplintR ligaseを用いた場合の、パドロック型プローブの環状化効率を検討した。標的RNAとしてインビトロ転写したGFPmRNAを用いた。パドロック型のDNAプローブとして表1に示すプローブP1〜P5(それぞれ配列表配列番号3〜7に示す。)を用いた。プローブP1〜P5は、1mMのATPを添加した1×T4 Polynucleotide Kinase Buffer(タカラバイオ株式会社)と10UのT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ株式会社)を使用してあらかじめリン酸化した。
【0058】
【表1】
【0059】
なお、大文字部分が、GFPmRNAと相同性を有する部分である。また、左腕及び右腕のTmは、プローブ濃度が5μM、Naイオン濃度が50mM、ターゲットがRNAであるとしてOligoanalyzer 3.1により計算した値である。
【0060】
まず、GFPmRNAとプローブとのハイブリダイゼーションを先に述べたようにして行った。GFPmRNAの濃度は25pmol、プローブの濃度は100pmolとした。
【0061】
次に、先に述べたようにしてプローブの環状化を行った。SplintR ligaseの濃度は12.5Uとした。未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、50UのExonuclease I(New England Biolabs社)、50UのExonuclease III(New England Biolabs社)、10μgのリボヌクレアーゼA溶液(ナカライテスク社)を用いて行った。
【0062】
環状化されたプローブの精製は、フェノールクロロホルム抽出後に、High Pure PCR Cleanup Micro Kit(ロシュ・ライフサイエンス社)を用いて行った。精製には産物30μLを使用し、20μLで溶出した。
【0063】
精製産物は変性のためにホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、10%(w/v)の変性PAGE(29:1[w/w]、acrylamide/bisacrylamide; 7 M urea, 1×TBE buffer)を行い、ミリQ水により1000倍希釈したUltra Power DNA/RNAセーフダイ(Gellex社)を用いて後染めを行い、ブルーライトを照射することにより産物を分析した。
【0064】
図3に示すように、P1〜P5のすべてのプローブにおいてCircLigase ssDNA ligase(Epicentre社)により環状化した場合と同様の位置にバンドが認められ、SplintR ligaseによりすべてのプローブが環状化されていることが確認できた。プローブによってバンドの濃さにわずかに違いがあるため、プローブがハイブリする位置によって環状化効率に多少の差があると考えられるが、末端塩基の影響は小さいことが示された。
【0065】
以上のことから、配列の一部しか判明していない標的RNAにおいても、パドロック型のDNAプローブを作成し、ハイブリダイズした状態で環状化できることが明らかとなった。
【0066】
<ニック形成及び増幅条件の検討>
DNAプローブを環状化した後のニック形成及び増幅の条件を検討した。試料として、10fmolのインビトロ転写GFPmRNAを用い、プローブの濃度は250fmolとした。先に述べたようにして、GFPmRNAとリン酸化したプローブとをハイブリダイズし、プローブの環状化を行った。DNA結合酵素には、12.5UのSplintR ligaseを用いた。
【0067】
次に、ニック形成及び一本鎖DNAの増幅を行った。RNaseHの濃度は、0、0.0003U、0.0006U、0.003U、0.006U、0.03U、0.06U、0.3U及び50Uとした。鎖置換型DNA合成酵素は、100ngのphi29DNApolymeraseとした。20μLのライゲーション産物を用い、反応液の量は20μLとした。
【0068】
得られた産物にUltraPowerDNA/RNAセーフダイを添加し、1%アガロースゲル電気泳動(1×TAE buffer)を行い、ブルーライトを照射することによりバンドを確認した。すべての反応と電気泳動は再現性を確認するために3回以上行った。
【0069】
標的RNAにニックが形成されると、Phi29DNApolymeraseによりDNAが伸長し、長鎖の一本鎖DNAが形成される。形成された一本鎖DNAは、電気泳動においてゲルのウェルの中にたまり、Ultra Power DNA/RNAセーフダイによる染色によりウェルの中が光って見えるようになる。
図4には、プローブをP3とした場合の結果を示している。
図4に示すように、RNaseHを添加していない場合には、非常に薄いバンドが認められた。これは、転写が完全ではないRNA産物か、RNAが分解されたことによる結果と考えられる。RNaseHの濃度が高くなるに従い、バンドの蛍光強度が増大した。これは、ニック形成が行われ、一本鎖DNAの増幅が進むことを示している。しかし、RNaseHの濃度を0.03U以上としてもほぼ一定となった。さらにRNaseHを高くし、50Uとした場合(図示せず)には、バンドが確認できなかった。これは、高濃度のRNaseHにより、標的RNAが分解されたことによる。
【0070】
図5には、各プローブにおける、RNaseHの濃度を0.006Uとした場合の結果を示している。
図5に示すように、いずれのプローブを用いた場合においても、DNAの増幅が行われた。従って、ターゲットに対してプローブがハイブリダイズする位置に依存することなく、RNAの検出を行うことができる。
【0071】
<リアルタイム検出の検討>
蛍光標識を用いたリアルタイム検出を行った。ニック形成及び増幅を、終濃度1×になるようにSYBR GreenII(インビトロジェン社)を反応液に加えた条件で、96穴プレート中において行った。標的RNAは、インビトロ転写したGFPmRNAとし、濃度を1fmol、5fmol、10fmol、50fmol、100fmolとした。リアルタイム検出のために、ThermalCyclerDice(登録商標)RealTimeSystemII(タカラバイオ株式会社)を用い、励起波長482nm、蛍光波長536nmで10分ごとに測定しながら30℃で2時間インキュベーションを行った。その他の条件は、先に述べた方法と同様にした。再現性確認のために、1回のリアルタイム検出において、各反応を複製数3で行った。
【0072】
図6には、プローブをP4とした場合の蛍光強度の時間依存性を、標的RNAの濃度ごとに示している。1molを6.0×10
23コピーとすると、この場合の検出感度は5fmol(3.0×10
9コピー)〜1fmol(6.0×10
8コピー)であった。同様に、P1の場合は10fmol(6.0×10
9コピー)〜5fmol(3.0×10
9コピー)、P2の場合は5fmol(3.0×10
9コピー)〜1fmol(6.0×10
8コピー)、P3の場合は5fmol(3.0×10
9コピー)〜1fmol(6.0×10
8コピー)、P5の場合は10fmol(6.0×10
9コピー)〜5fmol(3.0×10
9コピー)であった。
【0073】
<全RNA抽出試料による測定>
GFPmRNAの発現を誘導した大腸菌及び誘導していない大腸菌から全RNA抽出を行って作成した試料について、GFPmRNAの検出を行った。
【0074】
GFPmRNAの発現は以下のようにして誘導した。まず、pET-AcGFPを用いて大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを添加したLB寒天培地(1%tryptone、0.5%yeastextract、1.0%NaCl、1.5%agar)により37℃で16時間培養した。その後、寒天培地上のシングルコロニーを50μg/mLのアンピシリンを含む3mLのLB培地に植菌し28℃、120rpmで8時間培養した。GFPmRNAの誘導は、50μg/mのLampicillinを含む30mLの転写誘導培地(0.05%のグルコース及び2%のラクトースを含むLB培地)に、前培養液を1000倍希釈となるように植菌し、28℃、120rpmで13時間培養して行った。培養液は、LB培地にてOD660=1に希釈し、遠心分離(1500g、15min、4℃)により集菌した。培養液の濁度の測定は比色計(ANA−18A+型、東京光電社製)により測定した。
【0075】
なお、GFPmRNAの発現を誘導していない大腸菌は、転写誘導培地を、転写非誘導培地(2%のグルコースを含むLB培地)とすることにより得た。
【0076】
全RNAの抽出は、CicaGeneus(登録商標)RNAPrepKit(ForTissue、関東化学)を用いてDNase処理を含んだ推奨プロトコルに従って抽出した。RNAの濃度測定はQuant-iTRNABRAssayKitとQubitfluorometerを用いて行った。抽出試料中にゲノムDNAが混入しているかどうかの確認は、以下のようにして行った。抽出試料にホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、1.5%アガロースゲル電気泳動(1×TAEbuffer)を行い、UltraPowerDNA/RNAセーフダイを用いて染色後、ブルーライトを照射して蛍光の有無を確認した。全RNA抽出試料は使用するまで−80℃にて保存した。
【0077】
全RNA抽出試料について、プローブとのハイブリダイゼーション、プローブの環状化、ニック形成及び増幅を行った。全RNA量が2ng、10ng、20ng、40ng及び80ngとなるように試料を用いた。ニック形成におけるRNaseHの濃度は0.006Uとし、増幅の反応時間は4時間とした。最終産物の確認は、1%アガロースゲル電気泳動(1×TAE buffer)を行い、プル-ライトを照射することにより行った。すべての反応と電気泳動は再現性を確認するために3回以上行った。
【0078】
図7に示すように、ネガティブコントロール及びGFP誘導を行っていない大腸菌から抽出した試料については、いずれのプローブを用いた場合にも増幅は認められず、優れた特異性を示した。一方、GFP誘導を行った大腸菌から抽出した試料については、いずれのプローブを用いた場合にも、全RNA濃度が80ngの場合には、増幅が確認された。また、プローブとしてP1〜P4を用いた場合には、全RNA濃度が40ng以下の場合にも、増幅が確認された。
【0079】
図8には、全RNA抽出物について、リアルタイム検出を行った場合の結果を示している。GFP誘導を行った大腸菌からの全RNA抽出物を試料とした以外は、先に述べたリアルタイム検出と同様の条件で測定をした。試料中の全RNA量が10ng以上の場合には、増幅が認めら、全RNA量が20ng以上の場合には明確な増幅が認められた。