【課題】正極活物質と電極集電体の接触抵抗を充分に低減し正極合剤層を強く加圧しても密度を低くし電極の空隙率を高くでき充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による電極の耐久性の劣化を抑えるリチウムイオン二次電池用正極材料の提供。
で表わされる中心粒子とそれを被覆する炭素質被膜を含む正極活物質粒子で造粒された二次粒子からなり粒度分布が微粒側と粗粒側の相対粒子量の極大値を有し粒度分布の微粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が0.70μm〜2.00μmの範囲A粒度分布の粗粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が7.00μm〜15.00μmの範囲B粒子径が範囲Aの二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量と範囲Bの二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量との差が2.00%〜6.00%。
粒子径が前記範囲A内にある前記二次粒子の相対粒子量(%)と、粒子径が前記範囲B内にある前記二次粒子の相対粒子量(%)との差が3.50%以上かつ5.50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のリチウムイオン二次電池用正極材料、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0023】
[リチウムイオン二次電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式Li
xFe
yM
zPO
4(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む正極活物質粒子で造粒された顆粒状の二次粒子からなり、二次粒子の粒度分布は微粒側における相対粒子量の極大値と粗粒側における相対粒子量の極大値を有し、粒度分布における微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以上の範囲A内にあり、粒度分布における粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にあり、粒子径が範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.00%以上かつ6.00%以下である。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、一般式Li
xFe
yM
zPO
4で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む正極活物質粒子(一次粒子)で造粒された顆粒状の二次粒子からなる。
【0025】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料をなす二次粒子の細孔径は、80nm以上かつ1000nm以下であることが好ましく、100nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
二次粒子の細孔径が80nm以上であると、二次粒子の内部まで電解液が浸透し易くなり、リチウムイオンの移動が容易となるため好ましい。一方、二次粒子の細孔径が1000nm以下であると、一次粒子同士の接触頻度が高く、二次粒子の強度が高くなるため、電極ペーストの混練時や電極(正極合剤層)を加圧した際に二次粒子が崩れ難くなり、電極密度が必要以上に高くなり難いため好ましい。
【0026】
二次粒子の細孔径は、水銀ポロシメーター(水銀圧入法、装置名:POREMASTER、カンタクローム・インスツルメンツ・ジャパン合同会社製)により測定することができる。
【0027】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、その二次粒子の粒度分布が、微粒側における相対粒子量の極大値と粗粒側における相対粒子量の極大値を有する、いわゆる二峰性である。
【0028】
二次粒子の粒度分布における微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径は、0.70μm以上かつ2.00μm以下(範囲A)内にあり、0.80μm以上かつ1.60μm以下内にあることが好ましい。
二次粒子の粒度分布における微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が0.70μm以上であるため、リチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極合剤層を強く加圧した際に、正極合剤層中の粗粒間の間隙に微粒が詰まり難くなり、電極(正極合剤層)の空隙率が高くなる。その結果、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による電極の耐久性の劣化を抑えることができる。一方、二次粒子の粒度分布における微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が2.00μm以下であるため、正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0029】
二次粒子の粒度分布における前記粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径は、7.00μm以上かつ15.00μm以下(範囲B)内にあり、8.00μm以上かつ12.00μm以下内にあることが好ましい。
二次粒子の粒度分布における前記粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が7.00μm以上であるため、リチウムイオン二次電池用正極材料と、導電助剤と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際に、導電助剤およびバインダー樹脂の配合量を抑えることができる。その結果、正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、二次粒子の粒度分布における前記粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が15.00μm以下であるため、電極表面の凸凹を小さく抑えることができ、電極面内方向の電流分布の偏りを防ぐことができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0030】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、粒子径が上記の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が上記の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.00%以上かつ6.00%以下であり、3.50%以上かつ5.50%以下であることが好ましい。
粒子径が上記の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が上記の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.00%以上であるため、リチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極合剤層を強く加圧した際にも電極の空隙率が低くなり難い。その結果、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による電極の耐久性の劣化を抑えることができる。一方、粒子径が上記の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が上記の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が6.00%以下であるため、リチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極合剤層を強く加圧した際に、正極合剤層中の正極活物質粒子間や、正極活物質粒子と導電助剤との接触点が少なくなり過ぎないため、電極の耐久性の劣化を抑えることができる。
【0031】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料における正極活物質粒子の平均一次粒子径は、10nm以上かつ700nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
正極活物質粒子の平均一次粒子径が10nm以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量の増加を抑制し、リチウムイオン二次電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、正極活物質粒子の平均一次粒子径が700nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が長くなることを抑制できる。これにより、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が増加して出力特性が悪化することを抑制できる。
【0032】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料に含まれる炭素量、すなわち、炭素質被膜を形成する炭素量は、中心粒子100質量部に対して、0.1質量部以上かつ10質量部以下であることが好ましく、0.6質量部以上かつ3質量部以下であることがより好ましい。
炭素量が0.1質量部以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素量が10質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0033】
リチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の比表面積に対する炭素担持量(「[炭素担持量]/[中心粒子の一次粒子の比表面積]」;以下「炭素担持量割合」と言う。)は、0.01g/m
2以上かつ0.5g/m
2以下であることが好ましく、0.03g/m
2以上かつ0.3g/m
2以下であることがより好ましい。
炭素担持量割合が0.01g/m
2以上であると、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素担持量割合が0.5g/m
2以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0034】
リチウムイオン二次電池用正極材料のBET比表面積は、5m
2/g以上かつ20m
2/g以下であることが好ましい。
BET比表面積が5m
2/g以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムイオンの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオン二次電池の電池特性を改善することができる。一方、BET比表面積が20m
2/g以下であると、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極内の電極の空隙率が高くなり過ぎるのを防ぐことができるため、高エネルギー密度を有するリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【0035】
リチウムイオン二次電池用正極材料の平均二次粒子径は、3.00μm以上かつ16.00μm以下であることが好ましく、5.00μm以上かつ14.00μm以下であることがより好ましい。
平均二次粒子径が3.00μm以上であると、リチウムイオン二次電池用正極材料と、導電助剤と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、リチウムイオン二次電池用正極材料ペーストを調製する際に、導電助剤および結着剤の配合量を抑えることができる。その結果、正極合剤層の単位質量当たりのリチウムイオン二次電池の電池容量を大きくすることができる。一方、平均二次粒子径が16.00μm以下であると、正極合剤層中の導電助剤や結着剤の分散性、均一性を高めることができる。その結果、リチウムイオン二次電池用正極材料を用いたリチウムイオン二次電池は、高速充放電における放電容量を大きくすることができる。
【0036】
ここで、平均二次粒子径とは、体積平均粒子径のことである。リチウムイオン二次電池用正極材料の二次粒子の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)で観察した二次粒子を任意に複数個選択し、その二次粒子の平均粒子径を算出してもよい。
【0037】
(中心粒子)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子は、一般式Li
xFe
yM
zPO
4(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表される正極活物質からなる。
なお、希土類元素とは、ランタン系列であるLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの15元素のことである。
【0038】
一般式Li
xFe
yM
zPO
4で表わされる化合物としては、例えば、LiFePO
4、LiFe
0.95Mg
0.05PO
4、Li
0.95Fe
0.95Al
0.05等が挙げられる。これらの中でも、電気化学的活性を示さない金属が含まれておらず、理論上のエネルギー密度が最も高くなる点から、LiFePO
4が好ましい。
【0039】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の形状は特に限定されないが、球状、特に真球状の凝集体からなる正極活物質を生成し易いことから、中心粒子の一次粒子の形状は球状であることが好ましい。
中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、リチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂(結着剤)と、溶剤とを混合して、正極材料ペーストを調製する際の溶剤量を低減することができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であることで、正極材料ペーストの電極集電体への塗工が容易となる。さらに、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、中心粒子の一次粒子の表面積が最小となり、正極材料ペーストにおけるバインダー樹脂(結着剤)の配合量を最小限にすることができる。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いた正極の内部抵抗を小さくすることができる。また、中心粒子の一次粒子の形状が球状であれば、正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
【0040】
(炭素質被膜)
炭素質被膜は、中心粒子の表面を被覆する。
中心粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウムイオン二次電池用正極材料の電子伝導性を向上させることができる。
【0041】
炭素質被膜の厚みは、0.2nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上かつ4nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚みが0.2nm以上であると、炭素質被膜の厚みが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成できなくなることを抑制できる。そして、リチウムイオン二次電池用正極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚みが10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
また、炭素質被膜の厚みが0.2nm以上かつ10nm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極の単位体積当たりのリチウムイオン二次電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオン二次電池が得られる。
中心粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上かつ95%以下であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
【0042】
(炭素質被膜の密度)
炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は0.3g/cm
3以上かつ1.5g/cm
3以下であることが好ましく、0.4g/cm
3以上かつ1.0g/cm
3以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度が0.3g/cm
3以上であれば、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示すからである。一方、炭素質被膜の密度が1.5g/cm
3以下であれば、炭素質被膜中に含まれる層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオン二次電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0043】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料によれば、二次粒子の粒度分布が微粒側における相対粒子量の極大値と粗粒側における相対粒子量の極大値を有し、二次粒子の粒度分布における微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以下の範囲A内にあり、二次粒子の粒度分布における粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にあり、粒子径が範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.00%以上かつ6.00%以下であるため、正極活物質と電極集電体との接触抵抗を充分に低減することができるとともに、正極合剤層を強く加圧した場合であっても、正極合剤層の密度を低くすることで、電極の空隙率を高くすることができ、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による電極の耐久性の劣化を抑えることができるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供できる。
【0044】
[リチウムイオン二次電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料は、後述する製造方法によって得られた正極活物質粒子を造粒することにより製造することができる。
【0045】
「正極活物質粒子の製造方法」
本実施形態における正極活物質粒子の製造方法は、例えば、中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程と、中心粒子および中心粒子の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の中心粒子原料、炭素質被膜前駆体である有機化合物および水を混合し、スラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程と、を有する。
【0046】
(中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程)
一般式Li
xFe
yM
zPO
4(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表される化合物(中心粒子)の製造方法としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法が用いられる。このような方法で得られたLi
xFe
yM
zPO
4としては、例えば、粒子状のもの(以下、「Li
xFe
yM
zPO
4粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
【0047】
Li
xFe
yM
zPO
4粒子は、例えば、Li源と、Fe源と、P源と、水と、必要に応じてM源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、Li
xFe
yM
zPO
4は、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、Li
xFe
yM
zPO
4の前駆体であってもよい。この場合、Li
xFe
yM
zPO
4の前駆体を焼成することで、目的のLi
xFe
yM
zPO
4粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0048】
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCH
3COO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩および水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらの中でも、Li源としては、酢酸リチウム、塩化リチウムおよび水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0049】
Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl
2)、酢酸鉄(II)(Fe(CH
3COO)
2)、硫酸鉄(II)(FeSO
4)等の2価の鉄塩が挙げられる。これらの中でも、Fe源としては、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)および硫酸鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0050】
P源としては、リン酸(H
3PO
4)、リン酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、リン酸水素二アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0051】
M源としては、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0052】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程により、中心粒子間に、炭素質被膜の前駆体である有機化合物が介在し、それらが均一に混合するため、中心粒子の表面を有機化合物でムラなく被覆することができる。
さらに、焼成工程により、中心粒子の表面を被覆する有機化合物が炭化することにより、炭素質被膜が均一に被覆された中心粒子を含む正極活物質粒子が得られる。
【0053】
本実施形態における正極活物質粒子の製造方法で用いられる有機化合物としては、中心粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されない。このような有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、エチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール等が挙げられる。
【0054】
スラリー調製工程では、中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させて、均一なスラリーを調製する。
これらの原料を水に溶解または分散させる際には、分散剤を加えることもできる。
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させる方法としては、水に中心粒子原料を分散させ、水に有機化合物を溶解または分散させる方法であれば、特に限定されない。このような方法としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカーおよびアトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
【0055】
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させる際には、水に中心粒子原料を一次粒子として分散させ、その後、水に有機化合物を添加して溶解または分散させるように攪拌することが好ましい。このようにすれば、中心粒子原料の一次粒子の表面が有機化合物で被覆され易い。これにより、中心粒子原料の一次粒子の表面に有機化合物が均一に配され、その結果として、中心粒子の一次粒子の表面が、有機化合物由来の炭素質被膜によって被覆される。
【0056】
(焼成工程)
次いで、スラリー調製工程で調製したスラリーを、高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
次いで、得られた乾燥物を、非酸化性雰囲気下、好ましくは600℃以上かつ1000℃以下、より好ましくは680℃以上かつ780℃以下の温度にて、0.1時間以上かつ40時間以下焼成する。
【0057】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N
2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる雰囲気が好ましい。乾燥物の酸化をより抑えたい場合には、水素(H
2)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去することを目的として、非酸化性雰囲気中に酸素(O
2)等の支燃性ガスまたは可燃性ガスを導入してもよい。
【0058】
ここで、焼成温度を600℃以上とすることにより、乾燥物に含まれる有機化合物の分解および反応が充分に進行し易く、有機化合物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた凝集体中に高抵抗の有機化合物の分解物が生成することを防止し易い。また、焼成温度を680℃以上とすることで、焼成物を正極活物質粒子として使用した電極をプレスする際に、電極の空隙率が高くなり過ぎないため、正極合剤層中の電子移動抵抗が小さくなり、エネルギー密度が向上する。一方、焼成温度を1000℃以下とすることにより、中心粒子原料中のリチウム(Li)が蒸発し難く、また、中心粒子が目的の大きさ以上に粒成長することが抑制される。その結果、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極を備えたリチウムイオン二次電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止でき、充分な充放電レート性能を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。また、焼成温度を780℃以下とすることで、焼成物を正極活物質として用いた電極を加圧する際に、電極の空隙率が低くなり過ぎない。そのため、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による耐久性の劣化を抑えることが可能となる。
【0059】
乾燥物にかかる熱はできるだけ均一であることが好ましい。熱が乾燥物に対して均一にかかることで、焼成温度で変化しやすいような粉体物性が乾燥物中で均一となり、電極内の電流分布の偏りを抑制し、反応均一性が向上する。
【0060】
乾燥物に対して均一に熱を与えることのできる熱処理用容器としては、例えば、
図1に示すような容器がある。
熱処理用容器10は、容器本体11と、容器本体11の内底面11aに突設され、円柱状をなす中実体からなる伝熱体12とを備えている。
【0061】
伝熱体12は、容器本体11の内底面11aに対して垂直に設けられ、容器本体11の高さ方向(容器本体11内部の深さ方向)に沿って配置されている。
伝熱体12の配置は特に限定されないが、例えば、容器本体11内に収容した上記の乾燥物(造粒体)30に対して、伝熱体12を介して均一に熱を伝えることができるように、伝熱体12が配置されている。
【0062】
伝熱体12は、乾燥物30よりも熱伝導率の高い素材からなる。また、容器本体11と伝熱体12は、同一の素材からなることが好ましい。加工の容易さ、価格の安さ、熱伝導率の高さの点から、容器本体11と伝熱体12は、炭素系材料を用いることが好ましい。
【0063】
また、容器本体11の内部において、乾燥物30に接する容器本体11および伝熱体12の見かけ面積の総和をA、乾燥物30の見かけ体積をVとした場合、その総和Aと体積Vとの比(V/A)が2.5以下であることが好ましい。
前記の総和Aと体積Vとの比(V/A)が2.5を超えると、容器本体11内に収容した乾燥物30全体に対して、伝熱体12を介して均一に熱を伝えることができなくなる。
【0064】
以上により、乾燥物中の有機化合物が熱分解して生成した炭素(炭素質被膜)により中心粒子の一次粒子の表面が被覆された正極活物質粒子の凝集体(造粒体)からなるリチウムイオン二次電池用正極材料が得られる。
【0065】
[リチウムイオン二次電池用正極]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、一般式Li
xFe
yM
zPO
4(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされる中心粒子と、その中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを有する正極活物質粒子を含む。
【0066】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、金属箔からなる電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含有することが好ましい。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものであることが好ましい。
【0067】
(電極空隙率)
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極における電極の空隙率は、33.0%以上かつ37.0%以下であることが好ましい。
電極の空隙率が33.0%以上であると、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化による耐久性の劣化を抑えることができる。一方、電極の空隙率が37.0%以下であると、正極合剤層中の正極活物質粒子間や、正極活物質粒子と導電助剤との接触点が少なくなり過ぎないため、正極合剤層中の電子移動抵抗が小さく、耐久性の劣化を防ぐことができる。
【0068】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を用いたリチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度であり、耐久性に優れる。
【0069】
[リチウムイオン二次電池用正極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、バインダー樹脂からなる結着剤と、溶媒とを混合して、正極材料ペーストを調製する。この際、本実施形態における正極材料ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック等の導電助剤を添加してもよい。
【0070】
「結着剤」
結着剤、すなわち、バインダー樹脂として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0071】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられる結着剤の配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオン二次電池用正極材料100質量部に対して、1質量部以上かつ30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上かつ20質量部以下であることがより好ましい。
結着剤の配合量が1質量部以上であると、正極合剤層と電極集電体との間の結着性を充分に高くすることができる。これにより、正極合剤層の圧延形成時等において正極合剤層の割れや脱落が生じることを抑制することができる。また、リチウムイオン二次電池の充放電過程において、正極合剤層が電極集電体から剥離し、電池容量および充放電レートが低下することを抑制できる。一方、結着剤の配合量が30質量部以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料の内部抵抗が低下し、高速充放電レートにおける電池容量が低下することを抑制できる。
【0072】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラック等の粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0073】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、結着剤の性質に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノールおよびジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテートおよびγ−ブチロラクトン等のエステル類;ジエチルエーテル、エチレングルコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングルコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングルコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノエチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトンおよびシクロヘキサノン等のケトン類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミドおよびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等のアミド類;並びに、エチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0074】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と結着剤と溶媒の合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0075】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極材料と、結着剤と、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカーおよびホモジナイザー等の混練機を用いた混合方法が挙げられる。
【0076】
正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤との混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。
その後、塗膜を加圧圧着し、乾燥して、電極集電体の一主面に正極合剤層を有する正極を得る。
【0077】
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、非水電解質と、を備え、正極が、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極である。具体的には、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極としての本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極と、負極と、セパレータと、非水電解質と、を備えてなる。
本実施形態のリチウムイオン二次電池では、負極、非水電解質およびセパレータは特に限定されない。
【0078】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLi
4Ti
5O
12、Si(Li
4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0079】
「非水電解質」
非水電解質としては、例えば、炭酸エチレン(エチレンカーボネート;EC)と、炭酸エチルメチル(エチルメチルカーボネート;EMC)とを、体積比で1:1となるように混合し、得られた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を、例えば、濃度1モル/dm
3となるように溶解したものが挙げられる。
【0080】
「セパレータ」
セパレータとして、例えば、多孔質プロピレンを用いることができる。
また、非水電解質とセパレータの代わりに、固体電解質を用いてもよい。
【0081】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、正極として、本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極を備えているため、高エネルギー密度であり、耐久性に優れる。
【実施例】
【0082】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
「リチウムイオン二次電池用正極材料の合成」
1000molのリン酸リチウム(Li
3PO
4)と、1000molの硫酸鉄(II)(FeSO
4)とに水を加え、全体量が1000Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量2000Lの耐圧密閉容器に収容し、200℃にて12時間、水熱合成し、沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質の前駆体を得た。
次いで、この正極活物質の前駆体10kg(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール0.6kgと、純水と、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールとを用いて、ビーズミルにて1時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。この際、スラリー質量を分母とし、正極活物質の前駆体の質量を分子とした時の割合が0.4になるように純水量を調整した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、有機物で被覆された正極材料の前駆体の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体5kgを
図1に示す熱処理容器に容れて、窒素雰囲気下、昇温速度300℃/時間で680℃(焼成温度)まで昇温した後、2時間保持した。その後、自然冷却して、炭素質被膜で被覆された正極材料1を得た。
【0084】
「リチウムイオン二次電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料1と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料1:AB:PVdF=94:1:5となるように加えて、これらを混合し、混練機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて、公転2000rpmの条件で10分混練し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。アルミニウム箔の表面は特に化学処理等で粗面化はされておらず、プレーンな表面を有するものを用いた。正極材料ペーストの量は、リン酸鉄リチウムの容量を170mAh/gとして計算した場合に、得られる正極合剤層の容量密度が1.8mAh/cm
2となるように調整した。
その後、正極合剤層を、荷重管理機能付きロールプレス装置にてギャップを60μm、線圧を8t/250mm、送り速度を0.5m/minにて加圧し、実施例1の正極1を作製した。
この正極1に対し、負極としてリチウム金属を配置し、これら正極1と負極との間に多孔質ポリプロピレンからなるセパレータを配置し、電池用部材1とした。
一方、炭酸エチレンと炭酸ジエチルとを1:1(質量比)にて混合し、さらに11mol/LのLiPF
6溶液を加えて、リチウムイオン伝導性を有する電解質溶液1を調製した。
次いで、電池用部材1を電解質溶液1に浸漬し、実施例1のリチウムイオン二次電池1を作製した。
【0085】
[実施例2]
焼成温度を700℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料2を得た。
正極材料2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオン二次電池2を作製した。
【0086】
[実施例3]
焼成温度を720℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料3を得た。
正極材料3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオン二次電池3を作製した。
【0087】
[実施例4]
焼成温度を740℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料4を得た。
正極材料4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオン二次電池4を作製した。
【0088】
[実施例5]
焼成温度を760℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の正極材料5を得た。
正極材料5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオン二次電池5を作製した。
【0089】
[実施例6]
焼成温度を780℃としたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極材料6を得た。
正極材料6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオン二次電池6を作製した。
【0090】
「比較例1」
焼成温度を640℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料10を得た。
正極材料10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオン二次電池10を作製した。
【0091】
「比較例2」
焼成温度を660℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料11を得た。
正極材料11を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオン二次電池11を作製した。
【0092】
「比較例3」
焼成温度を790℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の正極材料12を得た。
正極材料12を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオン二次電池12を作製した。
【0093】
「比較例4」
焼成温度を800℃としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4の正極材料13を得た。
正極材料13を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオン二次電池13を作製した。
【0094】
[リチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価]
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例4のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池について、以下の通り、評価を行った。
【0095】
(1)粒度分布
リチウムイオン二次電池用正極材料における粒度分布は、以下の方法で測定した。
測定装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いて測定した。
まず、分散液としての純水40gおよびポリビニルピロリドン(PVP)0.12g、試料粉末としてのリチウムイオン二次電池用正極材料0.04gを70mLマヨネーズ瓶に秤量した。このマヨネーズ瓶を手動で10回程振り混ぜて、試料粉末と分散液を馴染ませた。
次いで、この試料粉末と分散液の混合溶液を超音波ホモジナイザー(商品名:SONIFIER450、BRANSON社製)にて、Output5、パルス50%条件で2分間超音波処理をし、得られた分散溶液を用いて粒度分布を測定した。
データ取り込み回数を半導体レーザー(LD)5000回、発光ダイオード(LED)1000回として測定し、データの演算条件は下記の通りとした。
<演算条件>
(サンプル屈折率)
LD実部:1.60
LD虚部:0.24
LED実部:1.60
LED虚部:0.24
(分散媒屈折率)
LD実部:1.33
LD虚部:0.00
LED実部:1.33
LED虚部:0.00
(反復回数):15回
(粒子径基準):体積
(演算アルゴリズム):Ver.4XX互換
(シフト):1
(スムージン):17
(特殊演算):赤色LEDのみ
粒度分布を測定した結果、
図2に示すように、粒度分布は、微粒側の相対粒子量(%)の極大値と粗粒側の相対粒子量(%)の極大値を有していた。ここで、粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以下の範囲内にある相対粒子量(%)の極大値を微粒側の相対粒子量(%)の極大値とし、粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲内にある相対粒子量(%)の極大値を粗粒側の相対粒子量(%)の極大値とした。
【0096】
(2)電極の空隙率
リチウムイオン二次電池用正極における電極(正極合剤層)の空隙率は、加圧後の正極におけるアルミニウム電極集電体を除いた正極合剤層の体積を分母とし、正極材料と導電助剤と結着剤の体積を合わせた値を分子とした際の比に100を乗じて算出した。なお、正極材料、導電助剤および結着剤からなる正極合剤層の体積を、次のように算出した。正極材料の質量と、正極材料ペースト調製時における、正極材料、導電助剤および結着剤の質量比率からそれぞれの材料の質量を算出し、それぞれの材料の真密度と質量を乗じることにより、それぞれの材料の体積を算出した。
【0097】
(3)500サイクル後容量維持率
リチウムイオン二次電池の500サイクル後容量維持率は、45℃環境下で、電流値2.0Cにて電池電圧が3.7Vになるまで定電流充電した後、電流値2.0Cにて電池電圧が2.5Vになるまで放電したところまでを1サイクルとし、これを500サイクル繰り返した際、1サイクル目の放電容量を分母に、500サイクル目の放電容量を分子としたときの割合を容量維持率として評価した。電極の空隙率が小さすぎる場合、容量維持率が低下する。
また、500サイクル後容量維持率が90%以上の場合、電子伝導性を○、90%未満の場合、電子伝導性を×と評価した。なお、500サイクル後容量維持率が90%以上であるリチウムイオン二次電池は、耐久性に優れるものと判断する。
【0098】
「評価結果」
実施例1〜実施例6および比較例1〜比較例4のリチウムイオン二次電池用正極材料およびリチウムイオン二次電池の評価結果を表1に示す。また、実施例3、実施例5および比較例4の粒度分布図を
図2に示す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1の結果から、実施例1〜6と、比較例1〜4とを比較すると、粒度分布における微粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以上の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒度分布における粗粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が6.0%を超える比較例1および比較例2は、500サイクル後の容量維持率が90%未満であり、耐久性に乏しいことが分かった。これは、正極合剤層を加圧した際に、正極活物質が詰まり難いため、電極(正極合剤層)の空隙率が37%以上と高くなり、正極合剤層中の電子移動抵抗が低くなったためと考えられる。
【0101】
また、粒度分布における微粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以上の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒度分布における粗粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.0%未満である比較例3および比較例4も、500サイクル後の容量維持率が90%未満であり、耐久性に乏しいことが分かった。これは、正極合剤層を加圧した際に正極活物質が詰まり易いため、電極(正極合剤層)の空隙率が33.4%以下と小さくなり、充放電サイクル時の正極活物質の膨張収縮に伴う電極構造の変化が大きくなり、電極内リチウムイオン伝導パスの減少や、電極内導電パスの断裂を多く引き起こしてしまったため、耐久性が劣化したと考えられる。
【0102】
一方、実施例1〜実施例6は、粒度分布における微粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以上の範囲A内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒度分布における粗粒側の相対粒子量が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にある二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.09%以上かつ5.99%以下であるため、強く電極(正極合剤層)を加圧した場合においても、電極の空隙率を大きくしても、エネルギー密度、入出力特性、および耐久性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
粒子径が前記範囲A内にある前記二次粒子の相対粒子量(%)と、粒子径が前記範囲B内にある前記二次粒子の相対粒子量(%)との差が3.50%以上かつ5.50%以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極材料。
(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされる中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む正極活物質粒子で造粒された顆粒状の二次粒子からなり、前記二次粒子の粒度分布は微粒側における相対粒子量の極大値と粗粒側における相対粒子量の極大値を有し、前記粒度分布における前記微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以下の範囲A内にあり、前記粒度分布における前記粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にあり、
粒子径が前記範囲A内にある前記二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が前記範囲B内にある前記二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差を2.00%以上かつ6.00%以下とすることにより、正極活物質と電極集電体との接触抵抗を充分に低減することができるとともに、正極合剤層を強く加圧した際にも電極の空隙率が小さくなり過ぎず、充放電サイクル時のリン酸鉄リチウムの膨張収縮に伴う電極構造の変化を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。これにより、電極内におけるリチウムイオン伝導パスの減少や電極内における導電パスの断裂が生じ難くなり、耐久性の劣化を防ぐことができるリチウムイオン二次電池用正極材料を提供することができる。
(但し、Mは、Mg、Ca、Co、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Geおよび希土類元素からなる群から選択される少なくとも1種、0.95≦x≦1.10、0.80≦y≦1.10、0.00≦z≦0.20)で表わされる中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む正極活物質粒子で造粒された顆粒状の二次粒子からなり、前記二次粒子の粒度分布は微粒側における相対粒子量の極大値と粗粒側における相対粒子量の極大値を有し、前記粒度分布における前記微粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が0.70μm以上かつ2.00μm以下の範囲A内にあり、前記粒度分布における前記粗粒側の相対粒子量(%)が極大となる粒子径が7.00μm以上かつ15.00μm以下の範囲B内にあり、
粒子径が前記範囲A内にある前記二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)と、粒子径が前記範囲B内にある前記二次粒子の相対粒子量が極大となる粒子径における相対粒子量(%)との差が2.00%以上かつ6.00%以下であることを特徴とする。