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特開2018-188345セメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-188345(P2018-188345A)
(43)【公開日】2018年11月29日
(54)【発明の名称】セメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20181102BHJP
   C04B 18/10 20060101ALI20181102BHJP
【FI】
   C04B28/04
   C04B18/10 Z
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-142304(P2017-142304)
(22)【出願日】2017年7月21日
(11)【特許番号】特許第6288355号(P6288355)
(45)【特許公報発行日】2018年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2017-90378(P2017-90378)
(32)【優先日】2017年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】金井 謙介
(72)【発明者】
【氏名】松田 英明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
(57)【要約】
【課題】流動性の向上、強度発現性の寄与などの混和材料として特性を維持し、分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てを混和材料として使用することができ、長期の強度発現性の寄与も可能なセメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法を提供する。
【解決手段】セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすことを特徴とする、セメント組成物である。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすことを特徴とする、セメント組成物。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項2】
前記フライアッシュ含有量が12質量%以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項5】
前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
前記フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項7】
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載にセメント組成物。
【請求項8】
前記フライアッシュ中の未燃カーボンに対する前記フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率が35%以下である、請求項1から7のいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項9】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合する、セメント組成物用フライアッシュの製造方法。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項10】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して30質量%以下となるように配合する、セメント組成物の製造方法。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項11】
前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して12質量%以上となるように配合する、請求項10に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項12】
前記混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上である、請求項10又は11に記載のセメント組成物の製造方法。
【請求項13】
前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下である、請求項10から12のいずれか1項に記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライアッシュを用いたセメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フライアッシュは、石炭火力発電所のボイラーで微粉炭を燃焼させた際に発生する燃え殻のうち、高温気流中に浮遊した微粉粒子を電気集塵機で回収した微粒子である。フライアッシュに含まれている二酸化ケイ素(SiO)と酸化アルミニウム(Al)とを主な成分とするポゾランが、セメントに含まれている水酸化カルシウム(Ca(OH))と反応して水和物を生成し、硬化物の長期強度の発現性に寄与する。このような反応は、ポゾラン反応と呼ばれる。ポゾラン反応は緩やかに進行するため、水和熱を抑制することができ、フライアッシュは、コンクリート又はモルタルの混和材料として用いられる(例えば、特許文献1)。また、真球状の粒子を多く含むフライアッシュは、ワーカビリティを向上するために、コンクリート又はモルタルの混和材料として用いられている(例えば、特許文献2)。
【0003】
フライアッシュには、微粉炭がボイラー内で燃焼し、ボイラー炉内で浮遊している燃え殻が高温に晒されて溶融し、冷却される過程で表面張力によって球状化した球形粒子と、比較的粗大でポーラスな形状の未燃カーボンが含まれる。フライアッシュ中の球形粒子は、粒子表面が溶けてガラス化している。フライアッシュ中に含まれる比較的粗大でポーラスな未燃カーボンは、粒径が大きいため、燃え殻の燃焼が進まず、球状粒子にならないと考えられる。フライアッシュ中の粗大でポーラスな未燃カーボンは、球形粒子のボールベアリング効果を阻害し、流動性を低下させ、強度の低下を引き起こす。
また、フライアッシュ中の粗大でポーラスな未燃カーボンの量が多いと、このフライアッシュを混和材料として用いた場合に、空気量を調整するために添加されたAE剤が未燃カーボンに吸着されてしまい、AE剤の添加量が増加し、製造コストの増大につながる場合もある。
【0004】
コンクリート又はモルタルの混和材料として用いるフライアッシュは、JIS A6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に、その品質が規定されている。JIS A6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に規定された粉末度を満たすように、粗大でポーラスな未燃カーボンが分級によって除かれたフライアッシュが、コンクリート又はモルタルの混和材料として用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2004−292307号公報
【特許文献2】特開平2011−132111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
規格化されたフライアッシュの製造時に発生した分級された未燃カーボンを含む粗粉は、産業廃棄物として埋め立て処分や、セメント製造原料の粘土代替材料として用いられる。
石炭火力発電所における発電量の増加に伴い、石炭火力発電所から生成されるフライアッシュの量も増大する。生成量が増大したフライアッシュは、一部を取り除くことなく、石炭火力発電所から生成されたフライアッシュの全てを有効に利用することが求められている。
【0007】
そこで、本発明は、流動性の向上、強度発現性の寄与などの混和材料として特性を維持し、分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てを混和材料として使用することができ、長期の強度発現性の寄与も可能なセメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、フライアッシュが、フライアッシュに含まれる粒子の体積基準の粒度分布において、下記式(I)を満たす場合には、流動性及び強度発現性などの混和材料としての特性を損なうことなく、石炭火力発電所などから得られる原料フライアッシュの全てを混和材料として使用することができ、長期の強度発現性の寄与も可能なことを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0009】
〔1〕セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすことを特徴とする、セメント組成物。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
〔2〕前記フライアッシュ含有量が12質量%以上である、前記〔1〕に記載のセメント組成物。
〔3〕前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上である、前記〔1〕又は〔2〕に記載のセメント組成物。
なお、本明細書においてフライアッシュ中の非晶質相量(質量%)は、後述するリートベルト解析により求めた非晶質相量(質量%)から未燃カーボンの量(質量%)を差し引いた値をいう。
〔4〕前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下である、前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載のセメント組成物。
〔5〕前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下である、前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載のセメント組成物。
〔6〕前記フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下である、前記〔1〕から〔5〕のいずれかに記載のセメント組成物。
〔7〕セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下である、前記〔1〕から〔6〕のいずれかに記載にセメント組成物。
〔8〕前記フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率が35%以下である、前記〔1〕から〔7〕のいずれかに記載のセメント組成物。
〔9〕原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)の粒径比を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合する、セメント組成物用フライアッシュの製造方法。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
〔10〕原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して30質量%以下となるように配合する、セメント組成物の製造方法。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
〔11〕前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して12質量%以上となるように配合する、前記〔10〕に記載のセメント組成物の製造方法。
〔12〕前記混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上である、前記〔10〕又は〔11〕に記載のセメント組成物の製造方法。
〔13〕前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下である、前記〔10〕から〔12〕のいずれかに記載のセメント組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性の向上、強度発現性の寄与などの混和材料として特性を損なうことなく、分級によって粗粉を除去することなく、石炭火力発電所などから得られる原料のフライアッシュの全てを混和材料として使用することができ、長期の強度発現性の寄与も可能なセメント組成物、その製造方法、及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
本発明の一実施形態は、セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすことを特徴とする、セメント組成物である。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【0012】
フライアッシュ
石炭火力発電所などから生成されたフライアッシュは、燃え殻が溶融し、冷却される過程で表面張力によって球形化した球形粒子と、比較的粗大でポーラスな形状の未燃カーボンが含まれる。
【0013】
体積基準の粒度分布における(D50−D10)/(D90−D50)の比
セメント組成物に含まれるフライアッシュは、体積基準の粒度分布において、前記式(I)を満たすものである。前記式(I)は、フライアッシュの体積基準の粒度分布において、小径側から累積頻度90%に相当する粒径D90から累積頻度50%に相当する粒径D50(メディアン径)を引いた数値に対する、前記D50から小径側から累積頻度10%に相当する粒径D10を引いた数値の割合を示す。
式(I)に表されるように、フライアッシュの体積基準の粒度分布における(D50−D10)/(D90−D50)で表される比が、0.24を超えて0.5以下であることによって、フライアッシュの体積基準の粒度分布は、粒径D50(メディアン径)を中心として左右対称な正規分布に近い分布を示し、より具体的には若干右側(粒径D50よりも大きな粒子側)がブロードな形状の分布を示す。また、フライアッシュの体積基準の粒度分布における(D50−D10)/(D90−D50)で表される比が0.24を超えて0.5以下であることによって、体積基準の粒度分布がシャープな形状の分布を示す。セメント組成物に含まれるフライアッシュが、体積基準の粒度分布において、前記式(I)で表される比を有することによって、フライアッシュ中の粗粉の量が少なくなり、粗大でポーラスな未燃カーボンを多く含むことによって生じる流動性の低下や強度発現性の低下を抑制し、フライアッシュを混合したセメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。
本明細書において、フライアッシュの体積基準の粒度分布は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラックMT2000、日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0014】
セメント組成物に含まれるフライアッシュが、体積基準の粒度分布において、前記式(I)の(D50−D10)/(D90−D50)で表される比が0.5を超える場合には、小さい粒子が含まれる割合が多くなり、セメント組成物の凝結時間が短くなり、施工性が低下する場合がある。また、セメント組成物に含まれるフライアッシュが、体積基準の粒度分布において、前記式(I)の(D50−D10)/(D90−D50)で表される比が0.24以下となる場合には、粗大な粒子が含まれる割合が多くなり、流動性が低下し、強度発現性が低下する場合がある。
【0015】
粒径D90から粒径D50を引いた数値に対する、粒径D50から粒径D10を引いた数値の比〔(D50−D10)/(D90−D50)〕は、好ましくは0.25以上0.49以下であり、より好ましくは0.26以上0.48以下であり、さらに好ましくは0.27以上0.47以下である。
【0016】
粒径D50は、好ましくは17〜26μmであり、より好ましくは18〜25μmである。粒径D50が17〜26μmの範囲であり、体積基準の粒度分布において、粒径D50、粒径D10及び粒径D90の関係が前記式(I)を満たすフライアッシュは、フライアッシュ中の粗粉の量が少なくなり、粗大でポーラスな未燃カーボンを多く含むことによって生じる流動性の低下や強度発現性の低下を抑制し、フライアッシュを混合したセメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。
【0017】
粒径D10は、好ましくは4〜12μmであり、より好ましくは5〜10μmである。また、粒径D90は、好ましくは50〜69μmであり、より好ましくは52〜68μmである。体積基準の粒度分布において、粒径D10及び粒径D90が、粒径D50に対して、前記式(I)を満たすフライアッシュは、粗大でポーラスな未燃カーボンを多く含むことによって生じる流動性の低下や強度発現性の低下を抑制し、フライアッシュを混合したセメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。
【0018】
セメント組成物中のフライアッシュ含有量
セメント組成物中のフライアッシュ含有量は、30質量%以下であり、好ましくは29質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上であり、さらに好ましくは12質量%以上である。
セメント組成物中のフライアッシュ含有量が30質量%を超えると、セメント組成物中のフライアッシュ含有量が多くなり、相対的にセメント組成物中のセメント含有量が少なくなる。セメント組成物中のセメント含有量が少ないと、フライアッシュのポゾラン反応による強度発現性の効果よりも、セメントの含有量が少なくなることによる強度の低下が大きくなり、硬化体の強度が低下する場合がある。セメント組成物中のフライアッシュ含有量が5質量%以上であれば、前記式(I)を満たすフライアッシュをセメント組成物に添加することによって、セメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。また、セメント組成物中のフライアッシュ含有量が12質量%以上であれば、凝結時間も長くすることができ、施工時の作業性をよくすることができる。
【0019】
フライアッシュ中の非晶質相量
セメント組成物に含まれるフライアッシュは、フライアッシュ中の非晶質相量が、フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上であることが好ましい。フライアッシュ中の非晶質相は、ポゾラン反応を生じるポゾラン成分(SiO、Al)が多く含まれ、ポゾラン反応によって28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性をより向上することができる。フライアッシュに含まれるケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)は、これらの元素を含む非晶質相と、結晶性の石英(SiO)、クリストバライト(SiO)、ムライト(3Al・2SiO、本明細書において、ムライト(3:2)と称する場合がある。)、ヘマタイト(Fe)、マグネタイト(Fe)を構成する。フライアッシュ中の結晶相はポゾラン反応せず、長期の強度発現性に寄与しない。セメント組成物に含まれるフライアッシュ中の非晶質相量が、フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上であると、フライアッシュ中の非晶質相に存在するポゾラン成分(SiO、Al)が、セメント粒子の水和によって生成される水酸化カルシウム(Ca(OH))と反応することによって、十分にカルシウムシリケート水和物(C−S−H)を生成し、長期の強度発現性をより向上することができる。フライアッシュ中の非晶質相量は、フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して、より好ましくは58質量%以上、さらに好ましくは59質量%以上である。非晶質相量が100質量%であるフライアッシュは殆ど存在せず、フライアッシュ中の非晶質相量は、フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。
【0020】
フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相量の測定は、粉末X線回折装置により、リートベルト(Rietvelt)解析を用いて測定することができる。粉末X線回折装置としては、例えばD8 Advance(Bruker AXS(ブルカー・エイエックス)社製)を使用することができる。基本的な測定条件として、後述する実施例において記載した測定条件を適用することができる。
また、リートベルト解析には、リートベルト解析ソフトとして、TOPAS Ver.4.2(Bruker AXS(ブルカー・エイエックス)社製)を用いることができ、リートベルト解析条件として、後述する実施例において記載した条件を適用することができる。解析対象鉱物としては、石英、ムライト(3:2)、無水石膏、石灰石、マグネタイト、ヘマタイト、二酸化チタン(内部標準物質として添加した試料のみ)が挙げられる。
フライアッシュのリートベルト解析による結晶相及び非晶質相量は、具体的には、実施例の方法によって測定することができる。
本明細書において、フライアッシュ中の非晶質相量(質量%)は、下記式(1)により、リートベルト解析による非晶質相量(質量%)からフライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)を差し引いた値をいう。
フライアッシュ中の非晶質相量(質量%)=リートベルト解析による非晶質相量(質量%)−未燃カーボン量(質量%) (1)
未燃カーボン量は、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した強熱減量をフライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)とした。
【0021】
フライアッシュの非晶質相中のFe量
セメント組成物に含まれるフライアッシュは、フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。フライアッシュの非晶質相中のFe量は、非晶質相の28日材齢以降の水和活性と関係し、フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であると、28日材齢以降の水和反応が長期にわたり徐々に進行しやすくなることからポゾラン反応により生成したカルシウムシリケート水和物(C−S−H)がより緻密化しやすくなるため、長期の強度発現性がよりさらに向上しやすい。フライアッシュの非晶質相中のFe量は多いほど好ましいが、通常、フライアッシュの非晶質相中のFe量が10質量%を超えることは少ない。セメント組成物に含まれるフライアッシュは、フライアッシュの非晶質相中のFe量が、より好ましくは3.6質量%以上であり、さらに好ましくは3.7質量%以上である。
【0022】
フライアッシュの化学組成のうち、主成分はSiO(約60〜80質量%)とAl(20質量%前後)であり、石炭火力発電所における燃焼時に加熱、溶融、冷却の過程で、フライアッシュ中には、SiO−Al系の非晶質相(ガラス質相)と結晶相(ムライト(3:2)、石英等)が生成される。冷却過程において、より急冷されるとフライアッシュ中の結晶相の原子秩序がより歪み、非晶質相(ガラス質相)の水和活性はより活発になる推測される。冷却過程において、徐冷されると、ムライト(3:2)となる液相中に不純物であるFe等が存在した場合、ムライトの組成と同様の組成を有するSiO−Al系の非晶質相(ガラス質相)中にランダムにFeが存在することになり、非晶質相(ガラス質相)の歪みが大きくなる。非晶質相(ガラス質相)の活性が高くなると一般に比較的短期に強度発現性が増大するが、Feの存在によって非晶質相(ガラス質相)の歪みが増大した場合には、長期にわたって徐々に水和活性を持続するようになるため、より長期強度の強度増進に寄与すると推測される。
【0023】
フライアッシュの非晶質相中のFe量は、蛍光X線分析方法、リートベルト解析により、下記式(2)により算出することができる。前述のとおり、フライアッシュの非晶質相量(質量%)は、前記式(1)により、フライアッシュのリートベルト解析による非晶質相量(質量%)からフライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)を差し引いた値である。
フライアッシュの非晶質相中のFe量(質量%)=[{(a)フライアッシュ中のFe総量(蛍光X線分析値)−((b)リートベルト解析から求めたヘマタイト及びマグネタイト中のFeの合計量)}/((c)リートベルト解析から求めた非晶質量(質量%)−(d)未燃カーボン量(質量%))]×100 (2)
前記式(2)において、(a)フライアッシュ中のFe総量は、JIS R5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した酸化物換算のFe量(酸化鉄(III):Fe)の測定値1から下記式(3)によりFe量を換算して算出することができる。
(a)フライアッシュ中のFe総量(質量%)=測定値1×2Fe/Fe(111.6/159.7) (3)
前記式(2)において、(b)リートベルト解析から求めたヘマタイト及びマグネタイト中のFe量は、後述する実施例の方法によりリートベルト解析によって測定されたヘマタイトの測定値2、マグネタイトの測定値3から下記式(4)、(5)によって算出することができ、ヘマタイト中のFe量及びマグネタイト中のFe量の合計量である。
(c−1)ヘマタイト中のFe量(質量%)=測定値2×2Fe/Fe(111.6/159.7) (4)
(c−2)マグネタイト中のFe量(質量%)=測定値3×3Fe/Fe(167.4/231.5) (5)
【0024】
フライアッシュ中の未燃カーボン量
フライアッシュ中の未燃カーボン量は、好ましくは3質量%以上15質量%以下、より好ましくは3質量%以上14.8質量%以下、さらに好ましくは3質量%以上14.5質量%以下である。
フライアッシュ中の未燃カーボン量が、15質量%以下であれば、フライアッシュが、体積基準の粒度分布において前記式(I)を満たすことによって、セメント組成物の良好な流動性及び強度発現性を維持することができる。フライアッシュ中の未燃カーボン量が多すぎると、フライアッシュ中の粗大な未燃カーボンが含まれている割合が少ない場合であっても、ポーラスな形状の未燃カーボンによって、強度発現性が低下する場合がある。フライアッシュ中の未燃カーボン量は少ないほうが好ましいが、石炭火力発電所から得られるフライアッシュには、分級などにより一部の未燃カーボンの除去を行わない限り、通常3質量%以上の未燃カーボンが含まれる。前述のとおり、本明細書において、フライアッシュ中の未燃カーボン量は、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した強熱減量を、(d)フライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)とした。
【0025】
フライアッシュのブレーン比表面積
フライアッシュのブレーン比表面積は、好ましくは3000cm/g以上4500cm/g以下であり、より好ましくは3100cm/g以上4400cm/g以下であり、さらに好ましくは3200cm/g以上4300cm/g以下である。
フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下の範囲であれば、フライアッシュの特性であるボールベアリング効果を維持し、さらに前記式(I)を満たす粒度分布を有するフライアッシュの効果によって、良好な流動性を維持し、良好な強度発現性を維持することができる。
【0026】
フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μm超える未燃カーボンの質量比率
フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン)は35%以下であることが好ましい。フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率は、より好ましくは34%以下、さらに好ましくは33%以下、よりさらに好ましくは32%以下である。
フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率が35%以下であれば、フライアッシュをセメント組成物に用いた際に、セメント組成物に含まれる粗大でポーラスな形状の未燃カーボンの質量比率が少なく、流動性の低下や強度発現性の低下を抑制することができる。フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン)は、少ないほど好ましいが、体積基準の粒度分布において、前記式(I)を満たすフライアッシュの場合、フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン)は、通常5%以上である。
【0027】
フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)は、JIS Z8801-1「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に準拠して、目開き212μmフルイ上残分のフライアッシュの強熱減量を、フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)として求めることができる。
【0028】
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下であることが好ましい。セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量は、より好ましくは1.4質量%以下、さらに好ましくは1.3質量%以下、よりさらに好ましくは1.2質量%以下である。
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下であれば、セメント組成物中の粗大でポーラスな形状の未燃カーボンが少なく、流動性の低下や強度発現性の低下を抑制することができる。セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量は少ないほど好ましいが、体積基準の粒度分布において、前記式(I)を満たすフライアッシュの場合、セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量は、通常0.05質量%以上である。
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量は、後述する式(7)により、セメント組成物中のフライアッシュ含有量(質量%)に、フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)を乗じて100で割った値を、セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)として算出することができる。
【0029】
セメント組成物用フライアッシュの製造方法
本発明の一実施形態におけるセメント組成物用フライアッシュの製造方法は、原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合する。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【0030】
原料フライアッシュは、JIS A6201:2015「コンクリート用フライアッシュ」に記載されているI種、II種、又はIV種のフライアッシュの強熱減量の数値を満たすものであってもよい。
【0031】
原料フライアッシュから粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを分級する方法としては、例えば篩や風力分級機等を用いることができる。分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュは、例えばジェットミル、ボールミル、ビーズミルなどの粉砕機を用いて解砕することができる。粒径45μm以上のフライアッシュを解砕した場合には、主に粗大でポーラスな未燃カーボンが解砕される。粒径45μm以上のフライアッシュ中に含まれる粗大でポーラスな未燃カーボンを解砕することができれば、解砕フライアッシュと原料フライアッシュを混合し、混合したフライアッシュをセメント組成物に用いた場合であっても、粗大でポーラスな未燃カーボンが含有されることによって生じる流動性の低下や強度発現性の低下を抑制することができる。
【0032】
セメント
セメント組成物に用いられるセメントの種類は特に限定されず、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等を用いることができる。
【0033】
セメント組成物の製造方法
本発明の一実施態様におけるセメント組成物の製造方法は、原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して30質量%以下となるように配合する、セメント組成物の製造方法である。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【0034】
セメント組成物の製造方法において、原料フライアッシュから粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを分級する方法としては、セメント組成物用フライアッシュの製造方法と同様に、例えば篩や風力分級機等を用いることができる。分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュの解砕は、セメント組成物用フライアッシュの製造方法と同様に、例えばジェットミル、ボールミル、ビーズミルなどの粉砕機を用いて解砕することができる。解砕したフライアッシュは、体積基準の粒度分布において、前記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと混合し、この混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して、30質量%以下となるように配合して、セメント組成物を製造することができる。
【0035】
原料フライアッシュと解砕したフライアッシュとを混合したフライアッシュは、セメント組成物の全量に対して、好ましくは29質量%以下、より好ましくは25質量%以下となるように配合し、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは12質量%以上となるように配合する。セメント組成物中のフライアッシュ含有量が12質量%以上であれば、凝結時間も長く、施工時の作業性のよいセメント組成物を得ることができる。
【0036】
原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合したフライアッシュ中の非晶質相量は、混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上であることが好ましい。混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上であれば、非晶質相に含まれるポゾラン成分(SiO、Al)の量が多く、ポゾラン反応によって周囲のセメント粒子の水和によって生成される水酸化カルシウム(Ca(OH))と反応して、カルシウムシリケート水和物(C−S−H)を生成しやすく、長期の強度発現性をより向上しやすいセメント組成物を得ることができる。混合したフライアッシュ中の非晶質相量は、フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して、より好ましくは58質量%以上、さらに好ましくは59質量%以上であり、好ましくは98質量%以下、より好ましくは95質量%以下である。混合したフライアッシュ中の非晶質相量の測定は、具体的には、実施例において用いた方法により測定をすることができる。
【0037】
原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量は、3.5質量%以上10質量%以下であることが好ましい。フライアッシュの非晶質相中のFe量は、非晶質相の28日材齢以降の水和活性と関係し、フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であると、28日材齢以降の水和反応が長期にわたり徐々に進行しやすくなることからポゾラン反応により生成したカルシウムシリケート水和物(C−S−H)がより緻密化しやすくなるため、長期の強度発現性がよりさらに向上しやすい。セメント組成物に含まれるフライアッシュは、フライアッシュの非晶質相中のFe量が、より好ましくは3.6質量%以上であり、さらに好ましくは3.7質量%以上である。
【0038】
セメント組成物には、フライアッシュ以外の混和材を含んでいてもよい。混和材としては、例えば、高炉スラグ粉末、石灰石粉末、石英粉末、石膏等が挙げられる。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例により、詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0040】
フライアッシュの作製
以下のように製造例1〜7、参考製造例1、比較製造例2〜6のフライアッシュを製造した。
【0041】
(参考製造例1)
石炭火力発電所から得られたフライアッシュを原料フライアッシュとして用いた。
原料フライアッシュ中、原料フライアッシュの全量に対して約30体積%を目開き45μmの網ふるい法によって分級して除去し、JIS A6201のコンクリート用フライアッシュII種に規定される条件を満たすフライアッシュを作製した。表2において、原料フライアッシュに対して使用したフライアッシュの割合を、「原料に対するフライアッシュの使用比率」として表わした。
【0042】
(製造例1〜7)
原料フライアッシュをターボクラシファイア分級機(TC−15N、日清エンジニアリング株式会社製)を用いて45μm以上の粗粉を分級した。分級された粗粉フライアッシュを、ピン型粉砕機(自由粉砕機、M−2型、株式会社奈良機械製作所製)を用いて解砕して、解砕フライアッシュを得た。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT2000、日機装株式会社製)を用いて、測定した体積基準の粒度分布において、下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合して、製造例1〜7の混合フライアッシュを得た。
0.24<(D50−D10)/(D90−D50)≦0.5 (I)
式(I)中、D10、D50及びD90は、それぞれフライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。
表1に、製造例1〜7のフライアッシュのD10、D50、D90、及び後述する方法によって測定した強熱減量を示す。強熱減量は、フライアッシュ中の未燃カーボン量とした。また、式(I)の(D50−D10)/(D90−D50)で表される比を表2に示す。表2において、製造例1〜7のフライアッシュは、原料フライアッシュに対して、除去したフライアッシュはなく、原料のフライアッシュの全てを使用しているため、「原料に対するフライアッシュの使用割合(%)」は100%として表わした。
【0043】
(比較製造例2〜6)
原料フライアッシュをターボクラシファイア分級機(TC−15N、日清エンジニアリング株式会社製)を用いて45μm以上の粗粉を分級した。分級された粗粉フライアッシュを、ピン型粉砕機(自由粉砕機、M−2型、株式会社奈良機械製作所製)を用いて解砕して、解砕フライアッシュを得た。レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックMT2000、日機装株式会社製)を用いて、測定した体積基準の粒度分布において、式(I)の(D50−D10)/(D90−D50)で表される比が表2に示す値となるように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合して、比較製造例2〜6のフライアッシュを得た。
表1に、比較製造例2〜6のフライアッシュのD10、D50、D90及び後述する方法によって測定した強熱減量を示す。また、比較製造例2〜6のフライアッシュの(D50−D10)/(D90−D50)で表される比を表2に示す。表2において、比較製造例2〜6のフライアッシュは、原料フライアッシュに対して、除去したフライアッシュはなく、原料フライアッシュの全てを使用したため、「原料に対するフライアッシュの使用比率」は100(%)と表わした。
【0044】
【表1】
【0045】
フライアッシュの分析
製造例1〜7、参考例製造例1、比較製造例2〜6のフライアッシュについて、以下の測定を行った。結果を表2に示す。
【0046】
(ブレーン比表面積の測定)
JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」のブレーン方法(比表面積)の測定方法に準拠して、得られたフライアッシュのブレーン比表面積を測定した。
【0047】
(フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相量(質量%)の測定)
フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相量(質量%)の測定は、粉末X線回折装置により、内部標準物質を用いて、リートベルト解析法により測定した。粉末X線回折装置としては、D8 Advance(Bruker AXS(ブルカー・エイエックス)社製)を用いた。測定条件、内部標準物質、リートベルト解析条件を以下に記載した。
測定条件
X線管球:Cu
管電圧:40kV
管電流:40mA
回折角2θの測定範囲: 開始角5°,終了角70°/75°
※内部標準物質としてルチル型二酸化チタンを添加した場合、終了角を70°とすると70°付近の二酸化チタンのピーク形状が正しく取得できない。このため二酸化チタンを添加した試料については終了角を75°とした。
ステップ幅:0.025°/step
計数時間:60sec./step
内部標準物質:ルチル型二酸化チタン
【0048】
リートベルト解析条件
リートベルト解析ソフト:TOPAS Ver.4.2(Bruker AXS(ブルカー・エイエックス)社製)
ゼロ点補正:無し
試料面の高さの補正:有り
解析対象鉱物:石英、ムライト(3:2)、無水石膏、石灰石、マグネタイト、ヘマタイト、二酸化チタン(内部標準物質として添加した試料のみ)
ヘマタイト相の選択配向関数:ヘマタイト相の選択配向は回折角2θ=35.5°付近の(110)面の回折線に生じるものとし、March Dollase関数を用いて、係数の初期値を1として精密化を行なった。マグネタイト相に関しては、選択配向が生じないものとした。
【0049】
フライアッシュ中のマグネタイト、ヘマタイトなどの結晶相及び非晶質の測定手順を以下に記載した。
(i)内部標準物として、ルチル型二酸化チタンを20質量%添加したフライアッシュ(試料1)と、内部標準物質を添加しないフライアッシュ(試料2)を作製した。
(ii)内部標準物質を添加しないフライアッシュ(試料2)を、粉末X線回折装置を用いて測定し、得られたフライアッシュ(試料2)の粉末X線回折パターンと、解析対象鉱物の石英、ムライト(3:2)、無水石膏、石灰石、マグネタイト、ヘマタイトのそれぞれの理論プロファイルのフィッティングを行ない、フライアッシュ中に含まれる各解析対象鉱物の定量分析を行い、解析ソフトによって、各解析対象鉱物の量(質量%)を算出した。マグネタイト、ヘマタイトについては、内部標準物質を添加しないフライアッシュ(試料2)のみから、石炭灰中のマグネタイト、ヘマタイトの量(質量%))を算出した。
マグネタイトとヘマタイトの定量分析に内部標準物質を添加しない試料2を用いるのは、マグネタイト、ヘマタイトの回折角2θ=35.5°〜35.6°付近のピークと、ルチル型二酸化チタンの回折角2θ=36.1°付近のピークとが近接するためである。特に内部標準物質として粒子径が小さく、結晶子サイズが小さいルチル型二酸化チタンを用いた場合、ピークのブロードニングが起こり、ルチル型二酸化チタンの回折角2θ=36.1°付近のピークのボトム付近が、マグネタイト、ヘマタイトのピークと重なり(オーバーラップ)、特にマグネタイトやヘマタイトの含有量が少ない場合に、定量した値に大きく影響を及ぼすからである。
(iii)内部標準物質であるルチル型二酸化チタンを添加したフライアッシュ(試料1)を、粉末X線回折装置を用いて測定し、得られたフライアッシュ(試料1)の粉末X線回折パターンと、解析対象鉱物の石英、ムライト(3:2)、無水石膏、石灰石、ヘマタイト、マグネタイト、二酸化チタンのそれぞれの理論プロファイルのフィッティングを行ない、内部標準物質を添加したフライアッシュ(試料1)に含まれる各解析対象鉱物の定量分析を行い、解析ソフトによって、各解析対象鉱物の量(質量%)を算出した。
(iv)試料1のルチル型二酸化チタンの定量値から、以下の(A)式により、未燃カーボンを含む総非晶質相量Gtotal(質量%)を算出した。
総非晶質相量Gtotal=100×(Y−X)/{Y×(100−X)/100} (A)
ただし、式(A)中、Xは内部標準物質の添加量(20質量%)、Yはルチル型二酸化のリートベルト解析値(質量%)である。
(v)試料1の解析対象鉱物の結晶相の含有量(質量%)から総非晶質相を定量した後、試料2の解析対象鉱物の含有量(質量%)から、以下の(B)式により、総非晶質相を考慮に入れた結晶相の含有量を算出した
結晶相(総非晶質相量Gtotal考慮)=結晶相(試料2解析値)×(100−Gtotal)/100 (B)
ただし、式(B)中、Gtotalは試料1の解析値と(A)式より得られた総非晶質定量値(%)である。
(vi)具体的には、下記式(1)により、(A)式より算出した総非晶質相量Gtotal(質量%)からフライアッシュ中の未燃カーボン含有量(質量%)を差し引いた値をフライアッシュ中の非晶質相量GFA(質量%)とした。未燃カーボン量は、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した強熱減量をフライアッシュ中の未燃カーボン含有量(質量%)とした。
フライアッシュ中の非晶質相量GFA(質量%)=リートベルト解析による総非晶質相量Gtotal(質量%)−未燃カーボン含有量(質量%) (1)
【0050】
(フライアッシュの非晶質相中のFe量(質量%)の測定)
フライアッシュの非晶質相中のFe量は、蛍光X線分析方法、リートベルト解析により、下記式(2)により算出した。
フライアッシュの非晶質相中のFe量(質量%)=[{(a)フライアッシュ中のFe総量(蛍光X線分析値)−((b)リートベルト解析から求めたヘマタイト及びマグネタイト中のFeの合計量)}/((c)リートベルト解析から求めた非晶質量(質量%)−(d)未燃カーボン量(質量%))]×100 (2)
前記式(2)において、(a)フライアッシュ中のFe総量は、JIS R5204「セメントの蛍光X線分析方法」に準拠して測定した酸化物換算のFe量(酸化鉄(III):Fe)の測定値1から下記式(3)によりFe量を換算して算出することができる。
(a)フライアッシュ中のFe総量(質量%)=測定値1×2Fe/Fe(111.6/159.69) (3)
前記式(2)において、(b)リートベルト解析から求めたヘマタイト、マグネタイト中のFe量は、後述する実施例の方法によりリートベルト解析によって測定されたヘマタイトの測定値2、マグネタイトの測定値3から下記式(4)、(5)によって算出することができ、ヘマタイト中のFe量及びマグネタイト中のFe量の合計量である。
(c−1)ヘマタイト中のFe量(質量%)=測定値2×2Fe/Fe(111.6/159.69) (4)
(c−2)マグネタイト中のFe量(質量%)=測定値3×3Fe/Fe(167.4/231.5) (5)
【0051】
(フライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%))
フライアッシュ中の未燃カーボン量は、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に準拠して測定した強熱減量を、(d)フライアッシュ中の未燃カーボン量(質量%)とした。
【0052】
(粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%))
フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボンの量(質量%)は、JIS Z8801-1「試験用ふるい-第1部:金属製網ふるい」に準拠して、目開き212μmフルイ上残分のフライアッシュの強熱減量を、フライアッシュ中の粒径212μmを越える未燃カーボン量(質量%)として求めることができる。
【0053】
(フライアッシュ中の未燃カーボンに対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(%))
フライアッシュ中の未燃カーボン量に対するフライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン)は、下記式(6)により算出した。
粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン(%)=フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボン(質量%)÷フライアッシュ中の未燃カーボン(質量%)×100 (6)
【0054】
セメント組成物
(実施例1〜10)
製造例1〜7で製造したフライアッシュを、表2に示す配合割合で普通ポルトランドセメントと混合して、実施例1〜10のセメント組成物を製造した。
【0055】
(比較例1〜6)
参考例製造例1、及び比較製造例2〜6で製造したフライアッシュを、表2に示す配合割合で普通ポルトランドセメントと混合して、比較例1〜6のセメント組成物を製造した。
【0056】
得られたセメント組成物について、セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(%)、流動性、モルタル圧縮強さ、凝結時間の測定を行った。以下に測定方法を記載する。また、測定結果を表2に示す。
【0057】
(セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%))
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)は、下記式(7)により算出した。
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)=セメント組成物中のフライアッシュの含有量(質量%)×フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボン量(質量%)÷100 (7)
【0058】
(流動性:モルタルの流動性の評価)
各実施例及び比較例のフライアッシュを混合したセメント組成物を用いて、JIS R5201「セメントの物理試験」に準拠して、混和剤を用いることなく、環境温度20℃、環境温度30℃のそれぞれの温度で、フロー試験を行い、モルタルのフロー値を測定した。環境温度20℃の場合は、フロー値が180mm以上のモルタルは流動性が良好と評価し、フロー値が180mm未満のモルタルは流動性が低いと評価した。環境温度が30℃の場合は、フロー値が165mm以上のモルタルは流動性が良好と評価し、フロー値が165mm未満のモルタルは流動性が低いと評価した。
【0059】
(凝結試験)
各実施例及び比較例のフライアッシュを混合したセメント組成物を用いて、測定用の試料の作製及び試験を行う試験室の温度を30±2℃としたこと以外は、JIS R5201「セメントの物理試験方法」の「付属書A(規定)凝結試験」に準拠して、凝結試験を行った。始発が110分以上であり、凝結が160分以上のモルタルを凝結時間が長いと評価した。始発が110分未満であり、凝結が160分未満のモルタルを凝結時間が短いと評価した。
【0060】
(3日材齢、28日材齢及び91日材齢のモルタル圧縮強さ)
各実施例及び比較例のフライアッシュを混合したセメント組成物を用いて、JIS R5201「セメントの物理試験方法」の「11.強さ試験」に準拠して、3日材齢、28日材齢及び91日材齢のモルタル圧縮強さを測定した。3日材齢のモルタル圧縮強さが22N/mm以上のモルタルを初期の圧縮強さが高いと評価し、3日材齢のモルタル圧縮強さが22N/mm未満のモルタルを初期の圧縮強さが低いと評価した。また、28日材料のモルタル圧縮強さが50N/mm以上のモルタルを圧縮強さが高いと評価し、28日材齢のモルタル圧縮強さが50N/mm未満のモルタルを圧縮強さが低いと評価した。91日材齢のモルタル圧縮強さが75N/mm以上のモルタルを長期の圧縮強さが高いと評価した。91日材齢のモルタル圧縮強さが75N/mm未満のモルタルを長期の圧縮強さが低いと評価した。
【0061】
【表2】
【0062】
表2に示すように、(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.3を超えて0.5以下である製造例1〜5のフライアッシュを用いた実施例1〜8のセメント組成物は、20℃におけるフロー値が180mm以上、30℃におけるフロー値が165mm以上と良好であり、3日材齢の初期のモルタル圧縮強さ及び28日材齢のモルタル圧縮強さがともに高い数値を示していた。また、実施例1〜7のセメント組成物は、91日材齢の長期のモルタル圧縮強さも76.3N/mm以上と高く、長期の強度発現性がより向上していた。
【0063】
実施例7のセメント組成物は、セメント組成物中の製造例4のフライアッシュ含有量が11質量%と少ないため、流動性及び圧縮強さは良好であるものの、凝結時間が短くなった。
【0064】
実施例8のセメント組成物は、製造例5のフライアッシュを用いており、製造例5のフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.3質量%と小さいため、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【0065】
実施例9のセメント組成物は、製造例6のフライアッシュを用いており、製造例6のフライアッシュはブレーン比表面積が2800cm/gであり、粗粉を比較的多く含み、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【0066】
実施例10のセメント組成物は、製造例7のフライアッシュを用いており、製造例7のフライアッシュはフライアッシュ中の非晶質相量が51.5質量%と少ないため、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【0067】
表2に示すように、JIS A6201「コンクリート用フライアッシュ」に規定されるフライアッシュII種と同様の参考製造例1のフライアッシュは、JISの規格を満たすために、原料フライアッシュの約30体積%のフライアッシュを除去しなければならず、原料に対するフライアッシュの使用比率が70%であり、原料フライアッシュの全てを有効に利用していない。
【0068】
表2に示すように、比較例1は、セメント組成物に用いた参考製造例1のフライアッシュの(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.17と低く、3日材齢の初期のモルタル圧縮強さ、28日材齢のモルタル圧縮強さ、及び91日材齢の長期のモルタル圧縮強さは、ともに比較的高い数値であるものの、20℃におけるフロー値及び30℃おけるフロー値ともに評価の基準値(20℃:180mm以上、30℃:165mm以上)を満たしておらず、流動性が低下した。
【0069】
表2に示すように、比較例2は、セメント組成物に用いた比較製造例2のフライアッシュの(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.18と小さく、フライアッシュ中の未燃カーボン量に対する粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率(粒径212μmを超える未燃カーボン/未燃カーボン)が35%を超えて大きく、粗大でポーラスな形状の未燃カーボンが多く、流動性が低下し、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【0070】
表2に示すように、比較例3に用いた比較製造例3のフライアッシュは、製造例4に用いたフライアッシュと、ブレーン比表面積及び(D50−D10)/(D90−D50)の比は同じであるが、セメント組成物中のフライアッシュ含有量が30質量%を超えており、流動性は良好であるものの、3日材齢の初期の圧縮強さが低くなり、28日材齢のモルタル圧縮強さも低くなった。
【0071】
表2に示すように、比較例4は、セメント組成物に用いた比較製造例4のフライアッシュの(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.19と小さく、粗大でポーラスな未燃カーボンが比較的多く含まれているため、20℃における流動性及び30℃における流動性が低下し、28日材齢のモルタル圧縮強さも低く、91日材齢のモルタル圧縮強さも低くなった。
【0072】
表2に示すように、比較例5は、セメント組成物に用いた比較製造例5のフライアッシュ(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.14と小さく、セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量も1.6質量%と大きいため、粗大でポーラスな未燃カーボンが多く含まれており、20℃における流動性及び30℃における流動性も低下し、28日材齢のモルタル圧縮強さも低くなった。
【0073】
表2に示すように、比較例6は、セメント組成物に用いた比較製造例6のフライアッシュ(D50−D10)/(D90−D50)の比が0.51と0.5を超えて大きく、ブレーン比表面積も4650cm/gと大きく、フライアッシュ中に比較的小さな粒子が多く含まれ、20℃における流動性及び30℃における流動性が低下した。さらに、30℃における凝結時間も短くなった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、石炭火力発電所における発電量の増加にともない、発生量が増加しているフライアッシュの一部を除去することなく、流動性の向上、強度発現性の寄与などの混和材料として特性を維持したフライアッシュを用いて、長期の強度発現性にも寄与できるセメント組成物、その製造方法及びセメント組成物用フライアッシュの製造方法を提供することができる。
【手続補正書】
【提出日】2017年11月15日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、フライアッシュとを含み、該フライアッシュ含有量が30質量%以下であり、該フライアッシュが体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たし、前記フライアッシュ中の非晶質相量が、前記フライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記フライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記フライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下であることを特徴とする、セメント組成物。
0.25≦(D50−D10)/(D90−D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項2】
前記フライアッシュ含有量が12質量%以上である、請求項1に記載のセメント組成物。
【請求項3】
前記フライアッシュ中の未燃カーボン量が3質量%以上15質量%以下である、請求項1又は2に記載のセメント組成物。
【請求項4】
セメント組成物中の粒径212μmを超える未燃カーボン量が1.5質量%以下である、請求項1からのいずれか1項に記載セメント組成物。
【請求項5】
前記フライアッシュ中の未燃カーボンに対する前記フライアッシュ中の粒径212μmを超える未燃カーボンの質量比率が35%以下である、請求項1からのいずれか1項に記載のセメント組成物。
【請求項6】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記混合したフライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下である、セメント組成物用フライアッシュの製造方法。
0.25≦(D50−D10)/(D90−D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項7】
原料フライアッシュを分級し、分級された粒径45μm以上の粗粉フライアッシュを解砕し、体積基準の粒度分布において下記式(I)を満たすように、原料フライアッシュと解砕フライアッシュとを混合し、混合したフライアッシュ中の非晶質相量が、前記混合したフライアッシュ中の結晶相及び非晶質相の合計量に対して55質量%以上75.1質量%以下であり、前記混合したフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.5質量%以上10質量%以下であり、前記混合したフライアッシュのブレーン比表面積が3000cm/g以上4500cm/g以下であり、前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して30質量%以下となるように配合する、セメント組成物の製造方法。
0.25≦(D50−D10)/(D90−D50)≦0.47 (I)
(式中、D10、D50、D90は、それぞれ、フライアッシュの小径側からの累積頻度10%、累積頻度50%及び累積頻度90%に相当する粒径を示す。)
【請求項8】
前記混合したフライアッシュをセメント組成物の全量に対して12質量%以上となるように配合する、請求項に記載のセメント組成物の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0054
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0054】
セメント組成物
(実施例1〜7、参考例8〜10)
製造例1〜7で製造したフライアッシュを、表2に示す配合割合で普通ポルトランドセメントと混合して、実施例1〜7、参考例8〜10のセメント組成物を製造した。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0061
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0061】
【表2】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0064
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0064】
参考例8のセメント組成物は、製造例5のフライアッシュを用いており、製造例5のフライアッシュの非晶質相中のFe量が3.3質量%と小さいため、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0065
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0065】
参考例9のセメント組成物は、製造例6のフライアッシュを用いており、製造例6のフライアッシュはブレーン比表面積が2800cm/gであり、粗粉を比較的多く含み、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0066
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0066】
参考例10のセメント組成物は、製造例7のフライアッシュを用いており、製造例7のフライアッシュはフライアッシュ中の非晶質相量が51.5質量%と少ないため、28日材齢又は91日材齢の長期の強度発現性が低下した。