(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2018-197697(P2018-197697A)
(43)【公開日】2018年12月13日
(54)【発明の名称】電波式センサ
(51)【国際特許分類】
G01S 13/34 20060101AFI20181116BHJP
G01S 13/536 20060101ALI20181116BHJP
【FI】
G01S13/34
G01S13/536
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-102319(P2017-102319)
(22)【出願日】2017年5月24日
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】笹原 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 優
(72)【発明者】
【氏名】及川 和夫
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB17
5J070AC02
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK40
(57)【要約】
【課題】高速のCPUや大きなメモリも必要とすることなく、短い演算時間で効率よく、変化のある物体等の存在及びその距離を良好に検知する。
【解決手段】1回目の周波数掃引で得られたビート信号(ミキサ出力波形)をメモリに保管し、例えば2回目の掃引で得られたビート信号から1回目の掃引によるビート信号を減算することにより、差分ビート信号を求める。この差分ビート信号は、1回目の掃引と2回目の掃引で変化のあった周波数、振幅成分だけが強調されたものであり、この差分ビート信号の波形をFFT演算し、周波数スペクトラムへ変換することにより、各ビート信号のそれぞれでFFT演算を行うことなく、移動体の存在とその距離が計測される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の変調幅及び期間で掃引され、発振周波数が連続的に上昇又は下降を繰り返す変調波を送信すると共に、この送信波が前方に存在する物体で反射することにより発生する反射波を受信し、送信波と受信波をミキシングすることにより両波の差の周波数を持つビート信号を出力する送受信回路を備える電波式センサにおいて、
1回目の掃引によって得られた上記送信波と受信波のビート信号を記憶し、このビート信号と2回目の掃引によって得られた上記送信波と受信波のビート信号との間の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することによって得られた周波数スペクトラム情報を用いて物体の変化を検知することを特徴とする電波式センサ。
【請求項2】
上記周波数スペクトラム情報から変化のあった物体までの距離を求めることを特徴とする請求項1記載の電波式センサ。
【請求項3】
同じ周波数勾配を持つ1回目の掃引と2回目の掃引によって得られたビート信号同士の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することにより周波数スペクトラム情報を得ることを特徴とする請求項1又は2記載の電波式センサ。
【請求項4】
周波数が上昇又は下降する勾配を持つ掃引で得られた第1ビート信号とこの第1ビート信号と逆向きの周波数勾配を持つ掃引で得られた第2ビート信号を出力し、この第1ビート信号又は第2ビート信号の一方を時間的に反転させた後に両ビート信号同士の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することにより周波数スペクトラム情報を得ることを特徴とする請求項1又は2記載の電波式センサ。
【請求項5】
上記周波数スペクトラム情報で得られた距離情報に対し発報する距離範囲又は発報しない距離範囲を設定し、発報する距離範囲以外又は発報しない距離範囲内にある物体を検知しないことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の電波式センサ。
【請求項6】
1回目の掃引と2回目の掃引に基づく上記差分ビート信号から得られる周波数スペクトラムの移動体の距離情報と、1回目の掃引のみで得られたビート信号の周波数スペクトラムの物体の距離情報を比較し、静止体のみの距離を検出することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の電波式センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電波式センサ、特にマイクロ波帯・ミリ波帯の変調波を送信し、この送信波と物体から反射された受信波を比較して物体の存在、距離等を検知する電波式センサの信号処理に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波等を用いた電波式センサとしては、例えばドップラー周波数を検出するドップラーセンサ、送信周波数の異なる2つのドップラーセンサを用いた2周波ドップラー方式のセンサ、送信周波数を一定の時間で直線的に変化させ、送信波と受信波の差の周波数から静止体までの距離を計測するFMCW方式のセンサ等が知られている。この電波式センサでは、10.5GHz、24GHz等の周波数帯が免許不要のセンサとしての使用を許可されている。
【0003】
上記ドップラーセンサは、例えば周波数一定の連続波を送信し、その送信波と物体からの反射波との差を示すドップラー周波数を検出し、このドップラー周波数信号を用いて対象となる移動体を検知したり、その速度を計測したりすることができる。このドップラーセンサでは、移動体のみを検知できるため、室内等、多くの静止体がある場所でも動きがあったものだけを検知できるという利点を持つが、距離の測定はできない。
【0004】
また、上記2周波ドップラー方式センサは、送信周波数の異なる2つドップラーセンサを用い、2つのドップラー周波数出力の位相差から移動体の距離を計測するもので、移動体の距離を計測できる利点があるが、ドップラー周波数出力を得るためには少なくとも物体が送信波の波長よりも長い距離を移動する必要があり、微小な動きを測定することが困難である。また、ゆっくりした動きの場合はドップラー周波数が低くなるため長い測定時間が必要となり、不正確な測定結果となる可能性が高い。更に、間欠動作等による消費電流の低減も困難な場合が多い。
【0005】
更に、上記FMCW方式のセンサ(FMCWセンサ)は、掃引により送信周波数を所定の変調幅で連続的に上昇又は下降させ、その送信波が前方の障害物で反射された反射波を受信し、この受信波と送信波をミキシングすることで得られる送信周波数と受信周波数の差の周波数から静止体までの距離が測定できるが、室内等、静止体の多い環境ではアンテナ指向性範囲内の静止体が全て観測されてしまうため、検知したい物体の距離が識別できない。また、距離の分離分解能は掃引周波数幅に制限されるため、電波式センサで使用が許可されている10.5GHz帯或いは24GHz帯の場合、送信帯域幅が50MHz或いは最大200MHzしか使用できないため、壁の前に立った人等は、壁からの反射波にマスクされ検知できないという欠点を有する。
【0006】
物体検知においては、監視等の目的で壁や電信柱等の多数の障害物がある環境で人や車等の移動体を検知し、その距離を把握したいという要求があるが、上述した従来のセンサではこの要求に対応することが難しかった。
一方、上記の問題点に対する解決策の一つとして、下記特許文献1,2に示されるように、FMCWセンサを用い、1回の掃引で得られたミキサ出力信号に対しFFT演算を行うことで周波数スペクトラム(周波数−振幅情報)を求め、1回目の掃引で得られた周波数スペクトラムと2回目の掃引で得られた周波数スペクトラムを比較し、移動体と静止体を見分ける提案がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3575334号公報
【特許文献2】特許第4613711号公報
【特許文献3】特開2009−145282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来提案されている上記FMCWセンサでは、1回目及び2回目の掃引の出力波形のそれぞれに対して、周波数スペクトラム(周波数−振幅情報)を得るためのFFT演算を行うというように、1回の結果を得るために2回のFFT演算を行っているため、演算処理に時間がかかると共に、多くのメモリが必要となり、高速のCPUやメモリ容量の大きな装置を用意しなければならないという不都合がある。
【0009】
また、FFT演算によって得られる周波数スペクトラムは、FFT演算の次数により周波数分解能が制限されるため、微小な動きを捉えるためにはFFTの次数を大きくする必要があり、更にCPUの高速化、メモリの大型化が要求され、センサが高価なものとなるという問題があった。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、高速のCPUや大きなメモリも必要とすることなく、短い演算時間で効率よく、変化のある物体等の存在及びその距離を良好に検知することができる電波式センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、所定の変調幅及び期間で掃引され、発振周波数が連続的に上昇又は下降を繰り返す変調波を送信すると共に、この送信波が前方に存在する物体で反射することにより発生する反射波を受信し、送信波と受信波をミキシングすることにより両波の差の周波数を持つビート信号(ミキサ出力波形)を出力する送受信回路を備える電波式センサにおいて、1回目の掃引によって得られた上記送信波と受信波のビート信号を記憶し、このビート信号と2回目の掃引によって得られた上記送信波と受信波のビート信号との間の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することによって得られた周波数スペクトラム情報を用いて物体の変化を検知することを特徴とする。
請求項2の発明は、上記周波数スペクトラム情報から変化のあった物体までの距離を求めることを特徴とする。
請求項3の発明は、同じ周波数勾配を持つ1回目の掃引と2回目の掃引によって得られたビート信号同士の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することにより周波数スペクトラム情報を得ることを特徴とする。
【0012】
請求項4の発明は、周波数が上昇又は下降する勾配を持つ掃引で得られた第1ビート信号とこの第1ビート信号と逆向きの周波数勾配を持つ掃引で得られた第2ビート信号を出力し、この第1ビート信号又は第2ビート信号の一方を時間的に反転させた後に両ビート信号同士の減算により差分ビート信号を求め、この差分ビート信号をFFT演算することにより周波数スペクトラム情報を得ることを特徴とする。
請求項5の発明は、上記周波数スペクトラム情報で得られた距離情報に対し発報する距離範囲又は発報しない距離範囲を設定し、発報する距離範囲以外又は発報しない距離範囲内にある物体を検知しないことを特徴とする。
請求項6の発明は、1回目の掃引と2回目の掃引に基づく上記差分ビート信号から得られる周波数スペクトラムの移動体の距離情報と、1回目の掃引のみで得られたビート信号の周波数スペクトラムの物体の距離情報を比較し、静止体のみの距離を検出することを特徴とする。
【0013】
以上の構成によれば、送信回路から周波数掃引により所定の変調幅及び期間で連続的に周波数を上昇又は下降する変調波が順次送信され、1回目の掃引で得られたビート信号(ミキサ出力アナログ波形)がメモリに保存され、2回目の掃引に基づいてビート信号が得られると、この2回目の掃引によるビート信号と1回目の掃引によるビート信号同士(掃引開始から同時刻の振幅同士)の減算(引き算)が行われ、差分ビート信号が得られる。そして、この差分ビート信号の波形をFFT(高速フーリエ変換)演算により周波数スペクトラムへ変換することにより、物体、特に移動体の存在とその距離が計測される。
【0014】
即ち、減算処理では、1回目の掃引で得られたビート信号に含まれる周波数、振幅成分と同じ周波数、振幅成分が、2回目の掃引で得られたビート信号に含まれている場合は減衰され、1回目の掃引と2回目の掃引で変化のあった周波数、振幅成分だけが強調される。そして、差分ビート信号をFFT演算すると、周波数スペクトラム(周波数−振幅情報)において、振幅がピークを示す周波数は、変化のあった物体(移動体)までの距離に比例する情報となり、これにより移動体の存在と距離が抽出される。
複数の物体が動いた場合でも、距離が異なっていれば、周波数スペクトラムのピークが複数得られるため、分離して複数の移動体の距離を求めることが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、FFT演算の回数が少なくてよいので、高速のCPUや大きなメモリも必要とすることなく、短い演算時間で効率よく、距離の計測が可能となり、室内等の反射体の多い空間でも、変化のある物体までの距離を良好に計測することができるという利点がある。
【0016】
更に、1回の掃引によるビート信号の周波数スペクトラムで得られた物体(静止体等)の波形から、2回(1回目と2回目)の掃引による差分ビート信号の周波数スペクトラムで得られた移動体の波形を取り除くことにより、静止体のみの情報を正確に得ることができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る実施例の電波式センサの回路構成を示すブロック図である。
【
図2】実施例における周波数掃引及び送受信で形成される信号を示す波形図である。
【
図3】実施例の周波数掃引[図(a)]と掃引により得られるビート信号波形[図(b)]を示す図である。
【
図4】実施例の電波式センサでの処理の1例(同じ周波数勾配の掃引)を示すフローチャート図である。
【
図5】実施例の電波式センサでの処理の他の例(逆向き周波数勾配の掃引)を示すフローチャート図である。
【
図6】実施例で用いられるアップ掃引とダウン掃引を示す波形図である。
【
図7】実施例の同じ周波数勾配の掃引で得られる移動体がない場合のビート信号及び周波数スペクトラムを説明するための波形図である。
【
図8】実施例の逆向き周波数勾配の掃引で得られる移動体がない場合のビート信号及び周波数スペクトラムを説明するための波形図である。
【
図9】実施例において移動体がある場合の周波数スペクトラムを示す波形図である。
【
図10】実施例の1回の掃引で得られたビート信号の周波数スペクトラムを示す波形図[図(a)]と、2回の掃引で得られた差分ビート信号の周波数スペクトラムを示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1に、実施例の電波式センサの回路構成が示されており、この電波式センサはマイクロ波を用いたFMCWセンサである。
図1に示されるように、実施例のFMCWセンサでは、周波数掃引により発振周波数が連続的に上昇又は下降を繰り返す変調波を送信する送信部(回路)1、物体(対象物)からの反射波を受信する受信部2、送信波と受信波をミキシングし、ビート信号(ミキサ出力波形)を出力するミキサ3、このミキサ3の出力を記憶するメモリ4、ビート信号間の差分を算出する減算部5、この減算部5の出力である差分ビート信号の波形から周波数スペクトラム(周波数−振幅情報)を算出するFFT演算部6、周波数スペクトラムから静止体及び移動体の存在及び距離を測定する計測部7が含まれる。
【0019】
まず、上記送信部1から周波数掃引に基づき変調されたマイクロ波が送信されると、受信部2では物体からの反射波が受信され、ミキサ3にて両波をミキシングすることで、差の周波数であるビート信号が得られる。
図2に、周波数掃引及び送信波等の各信号の波形が示され、
図3には、各掃引により得られるビート信号が示されており、
図2(a)のように、送信部1の周波数掃引では、周波数f
1〜f
2の周波数帯域で所定の期間(時間)t
1の掃引が行われる(図は下降するダウン掃引)。そして、送信部1から、
図2(b)に示されるように、掃引によって形成された変調波の送信波が送信されることになり、受信部2では送信波が物体から反射して得られ、
図2(c)の受信波(エコー波)が受信される。この受信波は、物体までの距離に応じて若干の時間だけ遅れて到達し、送信波に対して、t=2R/c(R:物体までの距離、c:光速)の時間の遅れがある。
【0020】
更に、ミキサ3にて、
図2(c)の受信波と
図2(b)の送信波がミキシングされることにより、
図2(d)に示されるビート信号が出力される。即ち、上述のように、送信波に比べて受信波が遅れるため、両波の差の周波数を持つビート信号(ミキサ出力波形)が得られる。
【0021】
上記送信波は、
図3(a)に示されるように、所定間隔の掃引(例えばアップ掃引)で連続して送信されることで、
図3(b)のように、ビート信号がミキサ3から順次出力される。このビート信号の周波数は、掃引時間、掃引周波数帯域(占有帯域幅)、そして対象物までの距離により変わるため、この周波数を分析することで、距離を求めることができる。
【0022】
図4に、実施例において同じ周波数勾配の掃引をした場合の処理が示されており、
図4に示されるように、実施例では、まず1回目(前回)の掃引によりビート信号(波形)を取得し(ステップ101)、このビート信号の波形をメモリ4に保管する(ステップ102)。次に、2回目(今回)の掃引によりビート信号(波形)を取得し(ステップ103)、この後に、例えば2回目の掃引に基づくビート信号から1回目の掃引に基づくビート信号を減算部5で差し引いて(又は1回目の掃引によるビート信号から2回目の掃引によるビート信号を差し引いて)、差分ビート信号を求める(ステップ104)。この差分ビート信号(波形)は、1回目(又は前回)と2回目(又は今回)の2回の掃引により得られたビート信号間の差の信号(波形)であり、2回の掃引が1つの測定結果を得るための単位として順次行われる。
次いで、減算部5から出力された差分ビート信号をFFT演算(FFT演算部6)することにより周波数スペクトラムに変換し(ステップ105)、そのピーク周波数から物体までの距離を計測することになる(ステップ106)。
【0023】
図5に、実施例において逆向きの周波数勾配の掃引をした場合の処理が示され、
図6には、この場合に用いられるアップ掃引とダウン掃引が示されている。
連続して行う掃引としては、上述のような周波数が下降するダウン掃引のみ、又は周波数が上昇するアップ掃引のみというように、同じ周波数勾配を使う場合だけでなく、
図6に示されるように、アップ掃引とダウン掃引の両方を形成して用いることもできる。同じ周波数勾配同士の掃引を用いる場合は、単純に差分を求めるだけでよいが、アップ掃引とダウン掃引の両方を用いる場合には、勾配が反転しているため、いずれか一方の電圧波形を時間的に反転させてから差分を求める必要がある。
【0024】
図5の例では、例えばステップ201の1回目でアップ掃引を行う場合、ステップ203の2回目では、逆向き周波数勾配であるダウン掃引(1回目がダウン掃引の場合はアップ掃引)を用い、これにより得られたビート信号の波形を取得する。また、ステップ204では、メモリ4に記憶された1回目の掃引に基づくビート信号波形を時間反転し、ステップ205では、減算部5にて例えば時間反転された1回目の掃引によるビート信号(波形)を2回目の掃引によるビート信号(波形)から減算し、この減算部5から出力された差分ビート信号から周波数スペクトラムを算出することになる。
【0025】
図7に、同じ周波数勾配の掃引で得られる移動体がない場合の処理波形が示されており、実施例では、
図7(a)のように、アップ掃引1とアップ掃引2によるそれぞれのビート信号の波形が得られる。ここで、掃引1と掃引2のそれぞれのビート信号による周波数スペクトラムは、
図7(b)のようになるが、実施例では、
図7(c)のような差分ビート信号の波形が出力(減算部5出力)され、FFT演算を行うことにより、
図7(d)の周波数スペクトラムが得られる。
図7(d)に示されるように、移動体がない場合は、各周波数での信号強度はほぼ0となる。
【0026】
図8に、逆向きの周波数勾配の掃引で得られる移動体がない場合の処理波形が示されており、この場合は、
図8(a)のように、アップ掃引1によるビート信号の波形に対しダウン掃引1によるビート信号の波形が時間反転した関係で得られる。そして、
図8(b)のような差分ビート信号の波形が出力(減算部5出力)され、FFT演算を行うことにより、
図8(c)の周波数スペクトラムが得られる。この場合も、
図8(c)に示されるように、移動体がない場合は、各周波数での信号強度はほぼ0となる。
【0027】
図9に、移動体がある場合の周波数スペクトラムが示されており、
図9(a)はアップ掃引1のビート信号とアップ掃引2のビート信号で得られた各々の周波数スペクトラムを実線と鎖線で示したものであるが、実施例において、アップ掃引1とアップ掃引2に基づいて得られた差分ビート信号による周波数スペクトラムは、
図9(b)のようになり、移動体が信号強度のピークとして現れる(周波数が距離に対応する)。
【0028】
図10に、実施例の効果を示すための周波数スペクトラム(周波数−振幅)の一例が示されており、
図10(a)は1回の掃引で得られたビート信号の周波数スペクトラム(静止体観測用)で、
図10(b)は、差分ビート信号の周波数スペクトラム(移動体観測用)である。
図10(a)に示されるように、複数の反射体がある場合はそれに応じて物体を示す複数のピーク、例えば1〜4が観測され、このピーク値を示す周波数から各距離が計測される。このような状況で、ピーク1と2のように、2つの物体の距離が近接する場合、反射レベルの小さいピーク2は、大きなピーク1にマスクされてしまい、例えば室内等において壁の前に立つ人等は、分離できず検知できない場合があった。また設定された閾値よりも小さいピーク(物体)4等も観測することはできず、しかもこの場合に検知されるのは静止体のみとなる。
【0029】
これに対し、本発明では、1回目の掃引で得られたビート信号を電圧波形のまま記憶し、2回目の掃引のビート信号の電圧波形との差である差分ビート信号波形を求め、この差分ビート信号波形をFFT演算によって周波数スペクトラムに変換することで、移動体の距離が検知される。
例えば、
図10(b)に示されるように、実施例で得られる周波数スペクトラム(周波数−振幅情報)によれば、移動体がピーク4として明確な値で検出されることになり、このピーク4の周波数から移動体の距離が計測される。
【0030】
従来のFMCWセンサにおいては、上述のように、1回の結果を得るまでに少なくとも2回のFFT演算が行われており、高速のCPUの能力と十分なメモリが必要となるが、本発明では、2回の掃引による差分ビート信号を用いるためFFT演算は1回のみでよく、処理が軽く、高速に結果を得ることができ、CPUの演算能力やメモリの容量も少なくて済むという利点がある。
【0031】
また、実施例では、
図10(b)のような、1回目の掃引と2回目の掃引に基づく差分ビート信号から得られる周波数スペクトラムの移動体の距離情報と、
図10(a)のような、1回の掃引のみで得られたビート信号の周波数スペクトラムの物体の距離情報を比較し、静止体のみの距離を検出することも行われ、これによって、移動体と静止体を明確に区別して検出することが可能となる。
例えば、
図10(a)で検出されたピーク2の物体が
図10(b)の鎖線のように検知されて移動体であることが分かれば、静止体はピーク1と3であることが確実に判別できることになる。
【0032】
更に、実施例では、移動体の検知に応じて発報(警報等)を行うことも可能であり、この場合は、周波数スペクトラム情報で得られた距離情報に対し発報する距離範囲(又は発報しない距離範囲)を設定し、この発報する距離範囲以外(又は発報しない距離範囲)にある物体を検知しないようにすることで、計測の効率化・簡略化を図るようにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…送信部、 2…受信部、
3…ミキサ、 4…メモリ、
5…減算部、 6…FFT演算部、
7…計測部。